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2010年3月17日 (水)

紛争コスト低減のための社内弁護士・社内会計士の活用

01   大阪弁護士会の業務改革委員会第3部会というところがございまして、ここは組織内弁護士の方々がたくさん所属しておられます。(組織内弁護士というのは、企業内弁護士と自治体所属弁護士を含む概念です)この部会は私が担当副委員長ということで、日頃から関西のいろいろな企業に在籍していらっしゃる弁護士の方と意見交換をさせていただいております。この組織内弁護士の方々が中心になって、企業や弁護士、会計士、そして司法修習生、ロースクール生等に「組織内弁護士とは何か」を知っていただく一環としまして、「組織内弁護士キャラバン」が大阪にて開催される運びとなりました。(日弁連主催、関経連、大阪商工会議所後援)ちなみに、元ドイツ銀行の企業内弁護士で、東京の大手法律事務所でご活躍の「とも先生」もこちらの中心メンバーでいらっしゃいます。(そういえば、今日ひさしぶりにブログを更新していらっしゃいましたね(^^; )←コメントによりますと「総合司会」をされるそうです。

基調講演はスズキとバイエル薬品の社内弁護士の方々、その後はチラシをご覧いただければおわかりのとおり、関西で活躍中の若手社内弁護士の方々によるシンポジウムという構成です。(司会はあのNHKの梅田さんですね)今年2月時点では、全国で430名あまり、大阪では26名ほどの企業内弁護士の方がいらっしゃいますが、その存在意義は、企業側にとっても、また我々弁護士や司法修習生にもよく知られていないと思います。4月26日という、GW直前の時期ではございますが、大阪弁護士会2階の大ホールで開催いたしますので、社内弁護士の採用を考えていらっしゃる企業関係者の方にはぜひ、多数ご参集いただきますよう、よろしくお願いいたします。

ここ2年ほどですが、企業内弁護士の方々と同じ部会で活動をしておりますが、私なりに企業内弁護士の有用性を申し上げるならば、「紛争コストの低減」であります。ご承知のとおり弁護士は急増しており、これまた当然のことながら、お金のある相手をターゲットにしなければ食べていけません。「過払い金返還訴訟の次は労務コンプライアンス、つまり未払い賃金請求」というのも自然な流れかと思われます。これに対抗するための弁護士費用も急増します。今後ますます「紛争コスト」が企業の管理費用として増えることは間違いないところであります。

「ということで『企業内弁護士』が必要です」・・・・・といった単純なことを申し上げるつもりはございません。法律の知識や法解釈に長けている専門家が必要、ということでしたら、なにも弁護士でなくても、司法研修所を卒業して、弁護士会に登録しない、いわゆる「法曹資格者」として採用すれば足りると思います。私が申し上げたいのは単なる「法律屋」ではない「法務プロフェッション」を採用することが「紛争コストを低減」することにつながる、ということであります。「法律屋」には二通りあると思います。ひとつは社の決定を絶対のものとして、その決定に法律的なお墨付きを考える人であり、もうひとつはいわゆる「法律オタク」と呼ばれる人たち、つまり営業や総務がちょっとムズカシイことを持ち込むと「ダメなものはダメ」とつっ返し、取り付く島もない人であります。おそらく前者では紛争コストは減りませんし、後者であればビジネスチャンスを失う結果となってしまいます。要は独立公正な立場で物事を判断しつつも、社の経営判断に最大限配慮できるようなバランス感覚をもった人こそ「法務プロフェッション」であり、そこには社内弁護士であっても高い法曹倫理と問題発見能力、問題解決能力を持った方が必要、ということであります。

ただ、残念ながら、弁護士になったからといって、すぐにそういったバランス感覚を体得できるというものではありません。おそらく社内弁護士の方であれば、法律以外のいろんな体験を社内で積んで、やっとビジネスリスクを体得できるようになるのでありましょうし、また法曹としての高度な倫理感覚は、おそらく弁護士の義務である公益活動や委員会活動によってしか養うことは無理だと思われます。ご自身で磨かねばならないのは

「ちょっと待てよ。これって・・・」

といった、「迷い」の部分だけでよいのです。この「迷い」が生じれば、あとは弁護士会の人脈や同期弁護士に相談をして、「社外の感覚」から最終的な結論を導くことで、相当のリスクを低減できます。しかし、この「迷い」が生じなければ、以前当ブログでご紹介した企業内弁護士の方のように、残念な事件に巻き込まれ、行政処分の対象になってしまう・・・という事態に陥ってしまいます。また、企業側の勝ち負けに関わらず、労働審判や訴訟を通じて、「そもそも訴訟を提起されるリスク自体をどう減らすか」という点では、おそらく社内事情に精通した社内弁護士だけがノウハウを持ち得るはずであり、どんなに有能な顧問弁護士でも太刀打ちできない世界があると思われます。

最近、公認会計士試験の改正議論が盛り上がっており、企業内会計士を増やすインセンティブなども検討されておりますが、ここでも「会計屋」ではなく「会計プロフェッション」が増えるからこそ意味があると思います。「会計がわかる人」ではなく、「会計監査人と同じ認識をもった人」がいるからこそ、社内に会計専門家が存在する強みがあるものと思います。(この人が作成してるんだから、粉飾はないよね・・・という感覚を会計監査人が持つことは、リスク・アプローチの面からみて、ずいぶんとコストの面でも違うのではないでしょうか?)

先の第3部会には、大幸薬品の社内弁護士の方も出席されております。彼が委員会にやってくると、本当に正露丸のニオイがします。(誇張ではなく、本当の話です。○○先生、ゴメン、ブログネタにして・・・m(__)m)おそらく彼は、弁護士といえども、デスクワークはそこそこに、工場のすみずみまで歩きまわっていろんなことに従事しているものと思います。守秘義務に反しない範囲で、疑問に思ったことは、我々一般の弁護士や、他の社内弁護士に相談を持ちかけます。おそらくこうやって、「一流の法務プロフェッションとしての社内弁護士」へ成長していかれるのでしょうね。

上記キャラバンの詳細、お申し込みはこちらの日弁連HPより、よろしくお願いいたします。

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コメント

TOSHI先生

ブログ更新、みつかっちゃいましたね。3ヶ月休んでしまいましたが、このブログは時々見させておりました。

組織内弁護士に関する日弁連キャラバン、最終回の大阪をご紹介いただいてありがとうございます。名古屋から始まり、福岡、広島、札幌、仙台、高松と2年かけてやってきたことがこれでいよいよ最後かと思うと感慨深いものがあります。企業内弁護士の問題を弁護士会で私が扱うようになってから5年たちました。この間、企業内弁護士は急増したことがうれしいとともに、課題もたくさんでてきました。

最後の大阪キャラバンですので、私が当日の総合司会を行います。青山座長が「池永さん、司会やったら雰囲気重くなるかもしれんから、女性のほうがええのんとちがうか」と言われましたが、そこは副座長として「軽くにこにこしてやりますから、こらえてください」とお願いし、座長も「ま~、ええか」と了承していただいた次第(笑)。当日は宜しくお願いします。

投稿: tomo | 2010年3月17日 (水) 17時24分

先生の
「法務プロフェッション」の考え方に全く同感です。
こういう人が社内にいればコンプライアンスの問題や労働紛争も
減るような気がします。

ちなみに私自身が現在会社と賃金問題で係争中ですが、
「法務プロフェッション」がいたなら回避できたかもしれません。
上場会社といえど、労働組合のない当社においては、就業規則の
不利益変更に何の疑問も持たない経営陣がおり、
適当に選んだ社員代表と部毎に署名の回覧をまわせば
どんなことも可能と考えているようです。
中高年の一方的な賃金削減や出張手当の廃止、転勤者への寮・社宅廃止、
単身赴任手当廃止など矢継ぎ早に出てきています。

といって業績は結構業界ではトップクラスなのです。
こういう経営陣をガツンとやるいい方法はないものでしょうか?
プライベートな話ですみません。

投稿: 元システム監査人 | 2010年3月19日 (金) 09時15分

よくいわれることですが、企業は“弁護士”を必要としているわけではありません。
雇う以上、第三者的で居られては困りますし、数年で退職するつもりで居られても困るのです。

企業内弁護士として勤めあげられた方は何人いるのでしょうか?
短期数年で退職するパターンが多いんじゃないでしょうか?
普及段階だからデータがないとすれば、現職の方々の意識はどうなのでしょうか?

組織に入る以上、経営及び事業にコミットし、組織ピラミッドの一員として団体的統制に服する者でなければ意味がありません。あくまで弁護士として振る舞うのであれば委任契約で足り、“社員”である必要は全くありません。つまり、必要なのは法律のできる銀行マン、法律のできるSE、法律のできる商社マンなのです。
顧問弁護士事務所との関係のありかたについて、これまでと少し発想を変えれば、企業内弁護士と同様の目的は実現できます。たとえば、feeの体系を柔軟にしたうえで、日常的に相談できる密接な関係をもてるようにする。企業内に常駐ブースを設けて週2・3回そこで執務してもらう(特定人でなくとも、若手弁護士数名が交替でといった感じでもよい)など。これまでも、大手では企業・事務所間の人事交流が行われていますが、そういうのとはちがうもっとライトな日常的交流です。このようなことができない事情(ルール)があるのですか?
組織のピースに徹し、弁護士資格を持った○○マンとして行動できるならば雇う意味はあるでしょう。そうでないならば、業務執行レベルにおいては法務部員+顧問弁護士、ガバナンス・企業風土等においては社外役員(弁護士)やコンプライアンス専用外部弁護士で充分です。
無論、一般の社員とて、おかしなことに意見を言うのが当たり前です。意見が言えるかどうかは当人の市場価値次第。就職に困るような弁護士なら会社に入っても意見は言えないでしょう。意見も言えず、弁護士倫理との板挟みになり、結局、数年我慢してビジネスの世界をひと通り見てから辞めよう…というのがおちです。

投稿: JFK | 2010年3月20日 (土) 11時47分

こちらでは初めて投稿いたします。何度か弊社コンプライアンス研修では山口先生にお世話になりました某社の弁護士です。先生が先日企画されておられた現職社内弁護士の意識調査にも回答させていただきました。頭が下がります。(ぜひ会務にも反映させていただきたいと思います)

社内の法務系にも3つほど特色が分かれますので、それぞれ会社でも違うとは思いますが、基本的にはJFKさんが指摘されているとおりかと思います。法務プロフェッションとなることを夢見つつ、現実には法律屋としての仕事に忙殺されているのが現状です。先日、一気に6名の社内弁護士を採用し、わずか2カ月で半数が辞めてしまった会社のことが話題になっていますが、おそらく法務プロフェッションを夢見つつ、現実はどうも違ったことに原因があるのです。やはり組織の論理に抗うことは困難です。

ただ社内弁護士は顧問弁護士には代替できないところがあります。顧問弁護士事務所は多数ありますけど、問題があればすぐに別の事務所の弁護士に切り替えます。このときに、窓口になるのが社内弁護士ですから、個人的なツテをたどって新しい弁護士を探してきたり、ほかの顧問事務所に相談するのも社内弁護士特有の仕事です。ですから委員会活動や研修などで一般の弁護士と交流することを普段から弊社は奨励しています。ただ、それは山口先生がおっしゃるような「自分を磨く」ことではなく、やはり「わが社の利益のため」という色が強いですね。いつまでたっても「法律屋」のままかもしれません。そもそも社内では、私が弁護士資格を持っていることを知らない人が多いですから(笑)
ダラダラと長文となり失礼いたしました。

投稿: しがない法律屋 | 2010年3月20日 (土) 18時11分

こんにちは。しばらく前からブログをちょくちょく覗いている大学生です。僕は先生のブログを毎回興味深く拝読して企業法務に関する関心が強くなっています。今回のエントリーは先の日弁連会長選で最大の争点になったといわれる法曹人口問題にも関係するものですよね。先生は一部の関係者(ロー生やロー教授)を刺激(?)するのを避けるためか、多くの弁護士ブロガーとは違っておそらく意図的にこの問題をスルーしているのだと思われますが、もちろんこの問題に全く無関心ということはないだろうと推察します。

先生は企業内弁護士の有用性を主張されてますが、企業法務に関心のある学生や法曹志望者にとっては、たとえば、そもそも毎年2千人あるいは3千人もの司法試験合格者を出すほど企業内弁護士の需要があるのかとか(まさか、訴訟弁護士だけで毎年2千人あるいは3千人の需要があるとは思えないし、だからこそ「就職難」が生じているんですよね?)企業法務系の弁護士は今回の日弁連会長選の結果をどのように受け止めているのかとか(宇都宮先生は弁護士の広告規制など消費者寄りの主張をされているそうなのでがっかりしているのではないかとか)、弁護士の数が増えたら企業が弁護士に払う報酬は安くなるのかとか、企業法務系の法律事務所は若い弁護士を安い給料でこき使えるようになるので実は本音では弁護士の増員に大賛成なのではないかとか、その場合優秀な人は待遇の悪い業界には来なくなるのではないかとか、企業法務系の弁護士は報酬にならない公益活動をやる余裕があるのかとか(弁護士会の活動を熱心にやっても売り上げには繋がりませんよね?あれはちゃんと日当が出てるのでしょうか?自治権があるのだから行政はお金出してくれませんよね?)、業界の内部事情や法曹界の将来などについても支障の生じない範囲で取り上げていただければ法曹志望者にとっても参考になると思うのでたまには取り上げてくだされば幸いです。(他の方のコメントと比べて次元の低い話ばかりですいません。でもお金の話も重要ですよね?いくら弁護士でもボランティアだけで生活できるほど余裕がある人ばかりではないですよね?)

投稿: 企業法務に関心のある学生 | 2010年3月22日 (月) 23時01分

顧問弁護士を監視監督する意味での役割が大きいのではないでしょうか?
顧問弁護士にお任せにしておくと、トラブルが大きくなっているケースも多々あります。顧問弁護士は部外者であり、本当の意味での企業利益に配慮できない人たちがいるからです。顧問弁護士は裁判沙汰になりそうだと、逆に裁判に移行させるよう動くインセンティブも働きます。

社内弁護士に弁護士資格まで必要無いようにも思いますが、一定の公正中立な立場を担保するためには弁護士である必要があるのでしょうね。社内弁護士であれば、会社から給料を貰うわけで食うには困りませんし、ガツガツしていない分まともな判断が出来るかもしれません。最終的には各人のモラルに大きく依存するところではありますが。。。

投稿: ターナー | 2010年4月 6日 (火) 08時02分

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