所詮コンプライアンスとはこんなもの?(温泉偽装事件)
トヨタ社のリコール問題やプリンスホテル社の消費期限切れケーキ販売など、コンプライアンスを考える材料には事欠かない今日この頃であります。「消費者を裏切る対応ではないか?」とマスコミが大きく採り上げ、経営トップが謝罪する様子がテレビで毎日のように流されています。コンプライアンスとは「法令遵守」だけでなく、社会からどのように信用ある企業として受け止められるのか、これを日々考えることこそ重要である、と言われております。
そのようなことを真剣に考えていた週末、私の家から車で30分ほどの「いよやかの郷」という温泉施設の不祥事が産経、朝日で報じられました。とくに27日土曜日の産経新聞社会面では大きく「温泉偽装事件」として採り上げられておりました。(ちなみに朝日ニュースはこちら)岸和田市の指定管理者である施設運営会社は、この温泉に近くの「川の水」を混ぜて使用していたとのこと。その川の水は、普段温泉施設のトイレ用に使用していた、とのことであります。また一時は成分調整のために塩を混ぜていたこともあるといったことも報道されておりました。私もお気に入りの温泉レジャー施設(宿泊も可)でありまして、毎年1回は必ず家族で利用しておりますが、何時行ってもたいへん人気の施設であります。3月1日より大阪府の立ち入り調査が入る、とのことですので、私の経験からすれば、この立ち入り調査で新たな不祥事が発見された場合には大きな事件に発展することになりますし、温泉法違反事実以外になにも出てこなければ、ほとんど人々からは忘れ去られる不祥事、ということで大きな問題には発展しないものと推測いたします。なぜかよくわからないのですが、行政調査の内容はマスコミに筒抜けになるので、ここでまた別の不祥事が発見されるリスクが生じるわけであります。(いわゆる「やぶへびコンプライアンス」)
それはさておき、実はこの「いよやかの郷」の不祥事、テレビニュースでも報じられておりましたが、これが実に興味深いニュースであります。わずか1分ほどのニュースでありますが、朝日放送の女性キャスターが、この「いよやかの郷」の不祥事を、きわめて重大な事件のように紹介します。
「たいへんです!岸和田市の温泉施設が、温泉に『川の水』を混入していました!井戸水のポンプが故障した期間、近所の川の水を引いて温泉に混入させていたそうです!」
(ここで、現場の利用客のインタビューとなる。さぞや利用客が怒り心頭でインタビューに答えるかと思いきや・・・)
(夫婦で来られた方のご主人曰く)「え~!?ホンマですか?そんなん聞いたら、わて、ガックリ!笑(最後のフレーズは吉本新喜劇のギャグ風に・・・)」
(また別の夫婦の奥様曰く)「そんなん、あんまり気にならへん!笑」
(ご主人曰く)「そやそや、たいしたことあらへん。そんなん、どこでもやっとるで」
うーーん、すごい!さすがわが町、南大阪の利用客の皆様は太っ腹であります。この朝日放送のキャスターやレポーターの方々が、「とんでもないことが起こった!」と盛り上げていらっしゃるのに、ステークホルダーである地元利用客のこのリアクション。おまけに温泉に入っている利用客はクルーに手を上げて温泉の気持ちよさをアピールする始末(^^;すごいギャップであります。朝日放送のクルーの方々も、「これはひどい!即刻営業停止だ!」とか「我々利用客を裏切る行為だ。許せない!」といった利用客の声をひろえるかと思って期待したにもかかわらず、放映されるのがこのような発言なので、おそらく他も推して知るべし・・・でありまして、放送局の方々も落胆しながら帰路についていたことが推察されます。
ちなみにこのニュースはこちらの動画でご覧になれます。(ご休憩時間にでもどうぞ)
よくクライシス・マネジメントのコンサルタントの方々が、「マスコミに謝罪するときは、その後ろに1000万人の生活者がいることを忘れてはいけない」とおっしゃられます。しかし、その中には、わが町南大阪の人々も含まれているのでしょうか??いや~、コンプライアンスって奥が深いですね(^^;;
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コメント
おもろいニュースですね。利用者の声を良くつかんでいる。さすが、朝日放送と思いました。
この件、自分が施設の責任者だったら、どう対応したのかなと想像すると、多分川水で営業を続行したように思います。もし、「当面当施設の温泉は、休業します。」なんて、張り紙して、発表したら、多くの人から「なんで、川の水を使かえへんねん。風呂の水は、誰も飲まんから、大丈夫や。」と大クレームが来ることを恐れます。
井戸水ポンプの修理に1月も要したのは、まずかったと思います。停止して困る機械品は、修理体制、スペアパーツ、予備機等を検討せねばと思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2010年3月 1日 (月) 14時42分
はじめまして。「生まれる前からトラキチ」と申します。
ある人のご紹介で時折拝見させていただいています。
先生は南大阪にお住まいだったんですね。
最近行けていなかったのですが、私も大和川より南に住んでおり、「いよやかの郷」にも時々行っていましたので、びっくりしました。
しかし、確かに面白い(興味深い)ニュースですね。大阪の南には建前やきれいごとではないぶっちゃけた話を好む人が多いように思いますので、「ホンマのとこ、どこでも似たようなことしてるやろ~」というのは、泉州の人間ならではというところでしょうか。
淀川より北に住んでいた知人が、堺市に引っ越して来た時に、言葉が違う、文化が違うと驚いていました。地域性というのは確かにあるようですね。
投稿: 生まれる前からトラキチ | 2010年3月 1日 (月) 23時26分
はじめまして。ふだんは読んで勉強するだけの某メーカーの総務担当者ですが、今回はたいへんおもしろかったので、コメントしました。
私も熊取に住んでいますので時々いよやかの郷には妻と一緒に遊びに行きます。たしか東京の運営会社が指定管理者ですね。清潔感もあって私はけっこう気に入っています。
このニュースにあるように、おそらく常連の方々はあまり気にしてないと思います。あくまでも「温泉気分」を味わうだけで、ほんとに温泉に行きたいなら白浜行きますし(笑)
温泉法とか公衆衛生法違反が問題になるらしいのですが、大阪府から改善を求められるのは岸和田市ですね。市議会からの指摘だったそうですから、今後は市と指定管理者の問題のほうがいろいろと出てくるのではないでしょうか。
ときどき、こういったオモシロネタもあったらうれしいです。
投稿: かっちゃん | 2010年3月 2日 (火) 00時09分
大阪生まれの大阪育ちの私ですが、このコメントにはオドロキでした。
大陸的な寛容さが大阪(特に南部)はあるようですね。独特の文化を醸成してきただけあるなぁと思います。
ステークホルダーの利益って地域によって違いがありそうで一筋縄ではいかない難しさを感じますね。
有事対応やステークホルダーの利益のローカライズも必要かもしれません(苦笑)
投稿: ママ監査役 | 2010年3月 2日 (火) 13時26分
久々のコメントです。人事異動などで、内部統制の人員不足…実質私一人が実働人員状態なもので、最近は拝見していなかったのですが…っていうか、ウチの会社自体のコンプライアンスが疑われますが、今日の内容は、
あまりに面白かったのでコメント残します。
街頭インタビューとかって、誘導尋問のように欲しいコメントを言わせて、それを使うのが常識なのに誰も誘導に乗らなかったってこと…
ディレクターのインタビューが下手なのもあるだろうけど、一つも欲しいコメント無いって、大阪恐るべしですね(笑)
別の話ですが、京都大学の山中先生のips細胞の現状はどうなってるか聞いておりませんでしょうか?英とカナダの研究チームがウィルスを使わずに作成成功で更に進んでいるようですが…脳での被験者なら立候補するんですけどね。まぁ、最初は安全な臓器からでしょうけど。
投稿: takepon | 2010年3月 3日 (水) 10時39分
皆様、喜んでいただいて良かったです。
最近、3月末締め切りの書籍原稿の執筆に追われ、せめてブログくらいは軽めのネタでいこう・・・と。
このまま大事に至らずに指定管理者の解除もなく、無事不祥事をやりすごすことができるのか・・・、まだまだ真剣に見守りたいと思っています。
投稿: toshi | 2010年3月 4日 (木) 03時12分
この事件で気になるのが、何故水道水を使わなかったのかです。
施設運営会社としては、水道水を使うと、運営コストが増加するから、それを避けるために、こっそりと川水を使用したのか?そもそも、ポンプについての施設運営会社の責任が、岸和田市からの運営委託契約で、通常のメンテナンスとなっていると考えれば、施設運営会社の責任は限定されてくる。普通に考えれば、事故発生の緊急対応は別にして、やはり施設運営会社は岸和田市と対策について相談したと推測される。
推測の域でしかないが、岸和田市の関係者は、どこまで知っていたか?岸和田市の担当者が施設運営会社の人に「聞かなかったことにしてくれ。そちらで、何とか処理をしてくれ。」と言った可能性も、絶対ないとは言えない気がしまして。
運営委託とは、委託者が責任を逃れる隠れ蓑ではなく、受託者がコンプラを遵守して業務を実施しているか管理する義務があると考えます。
投稿: ある経営コンサルタント | 2010年3月 4日 (木) 13時38分
経営コンサルタントさん、ご意見ありがとうございます。
ひょっとすると「指定管理者制度」の一番の短所が出てきているのかもしれませんね。私も推測なので、単なる憶測にすぎませんが。
実際に昨年、指定管理者選定の際には競争入札はあったんですよね。この会社ともう1社です。そのときに、岸和田市は不祥事について知っていながら、選定したとなると、どうなんでしょう。かなり根の深い問題を抱えているのかもしれません。
投稿: toshi | 2010年3月 4日 (木) 13時47分
ご無沙汰しています。これは面白いですね。南大阪の地域性は詳しくないのですが、利用者としては、そんなに大騒ぎしなくても・・・と思う方が多いのではないでしょうか。地域性も多分にあるのだと思いますが、私は、このようなニュースこそ、テレビメディアがいかに世間とずれているかを象徴する事例ではないかと思います。
国民の知る権利を振りかざし、聖人君子的な視点で作為的に編集・報道するが、自社の不祥事には極めて甘いという一部テレビメディアではよく見られることかと思います。まあ、ごく一部を除いて、テレビ局も民間企業。視聴率が何ぼかが重要ですので、こういう盛り上がり方も面白いのかも知れませんが。
ちなみに、
>>>クライシス・マネジメントのコンサルタントの方々が、「マスコミに謝罪するときは、その後ろに1000万人の生活者がいることを忘れてはいけない」とおっしゃられます。
確かに多いですね。でも間違いではないですが、こういうことを言う方は殆どが広報やPR会社出身の方々です。マスコミ対策=クライシスマネジメントなんですかね(その一部であることは間違いありませんが、利害関係が大きい利用者より、利害関係が薄い視聴者重視何ですかね)。私はマスコミ偏重の姿勢は大いに疑問ですが。
ところで、多くの日本の名湯は自然の川から温泉が出ていたり、地獄谷のように温泉そのもが川になっていたりしませんか。温泉法に定める細かい定義は分かりませんが、川の水がいけないなら、かなりの温泉がなくなるんでしょうか・・・。
投稿: コンプロ | 2010年3月 5日 (金) 01時58分
コンプロさん、おひさしぶりです。お元気ですか?
何回みても、やっぱりこのニュースはおもしろいですよね。このギャップが全てを物語っているように思えます。
朝日放送側からすれば、「そんなん聞いたら、わてガックリ」ですね(笑)
川の水については、不正な表示や雑菌の調査との関係で問題になるようですね。きちんと表示していたり、調査をしていれば問題なかったのかもしれませんし、そもそも水道水を使用していればよかったのではないかと思います。
投稿: toshi | 2010年3月 5日 (金) 14時22分