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2010年3月15日 (月)

東証・大証「独立役員」制度に挑戦する上場企業の対応

(3月15日午前;追記あり)

このところ、監査役の方々や、取締役の方そして証券市場に近い弁護士の方など、けっこう多くの方より情報をいただいているのが「うちの会社の独立役員の選任は取引所の独立役員制度の趣旨に反しているように思えるのだが、本当に大丈夫か?」といったお話であります。私自身も、先日独立役員に選任されましたので、この問題にはたいへん関心を持っております。どうも著名な法律実務家の方が「証券取引所のルールを厳格に考える必要はないし、自社の判断で株主と利益相反にはないことを説明できればOK」とおっしゃっておられるようですので、大手の上場会社でも、メインバンク(当該会社の主要取引先)から来られている社外取締役の方を独立役員として届け出る(事前相談のうえ)ことを決めておられるところもあるようです。選任状況の届出をしないことについては(来年からですが)上場契約違約金など、実効性を確保する制度が施行されることになりますが、この制度の実効性担保は、結局のところ「独立役員」の開示(説明責任の履行)によって、株主(選任の議決権行使)や、投資家からのガバナンスに関する判断に依拠するところであります。したがいまして、外観的な独立性の高い役員が社内で選任されることを期待している取引所の立場とは裏腹に、株主や投資家から了解を得られれば、外観的な独立性には若干問題があっても、上場会社の経営陣と一般株主との間に利益相反状況が生じうる局面でも自信を持って公正独立の立場で行動できる、というにふさわしい方に、「独立役員」として就任していただく、という上場会社の対応も出てくるわけであります。

開示実務として、今後どのように定着していくのかは私にもわかりませんが、「独立役員」に選任された方々が、今後企業の重要な局面における「身の処し方」によって、独立役員であるがゆえに生じるリスクの有無については、こういったブログなどを通じて検討しておくことも有益かもしれません。わかりやすいのは、「投資家や株主からみて、選解任のコントロールや株式売却などの開示制度に伴うガバナンス」による実効性担保の問題と、独立役員であるがゆえに、その法的責任が発生する事後規制による実効性担保の問題に分けて検討するべきではないかと思います。たしかに後者につきましては、取引所の説明によりますと、たとえ独立役員に就任したとしても、基本的には社外取締役や社外監査役と、その法的な地位や責任の範囲に変わるところはなく、その職務内容や権限、選任方法、任期等については、会社法の範囲で上場会社の任意で定めることができる、とされております。このように説明しなければ、誰も独立役員なんかに就任する人がいなくなりますので(笑)、基本的には取引所(たとえば東証)の説明のとおりだと思います。しかし取引所ルールが説明できるのは、あくまでも会社法上での一般的な職責に関わるところであり、独立役員たる地位が任務懈怠の問題とどのように関係するのかは、最終的には裁判所が決定することであって、具体的な事情をみないと何とも言えないところがあるのではないでしょうか。たとえば、同じ社外監査役といっても、弁護士や会計士の社外監査役だけが任務懈怠を問われることは十分ありうる話ですし、(一般的な注意義務は同じでも、ある局面においてだけは高度な注意義務が課される、ということ)、有名な大和銀行株主代表訴訟では、ニューヨークに往査に出かけた社外監査役だけが(会計監査人の監査の相当性を確認できる立場にあったとして)任務懈怠に問われております。したがいまして、ある局面、たとえば高度に経営陣と一般株主との利益が相反するような場面において、独立役員であるがゆえに、他の社外役員とは異なる行為規範が求められたり、異なる注意義務が認定されることは考えられるのではないでしょうか。

また、前者の「株主や投資家から独立役員の行動がどう評価されるのか」という問題を検討することも重要かと思われます。たとえば、このたび、富士通社の前社長さんが辞任を撤回した、ということが報道されましたが、辞任に関する交渉は、取締役会ではなく、直前の密室での交渉だったと言われております。この交渉には、いまでも実権を有しておられる会長さんと、別にもうひとり社外取締役の方も同伴されておられた、とのことであります。そこでのお話が「不適切な企業と前社長との関係」だったようですので、取締役会では堂々と審議できなかったこともやむをえないところかもしれません。しかし、たとえば同伴されていた方が、もし「独立役員」たる立場であれば、密室で実質的な審議を行うことの当否はどうだったのでしょうか。(ここでは裁判所による事後規制は問題としませんので、あくまでも株主や投資家の立場からみて、適切な行動だったのか、ということであります)取締役会で重大な事項を審議しなかったことの評価と、情報開示として、「病気療養」としてそれ以上のことを示さなかったことについての評価をどう考えるべきなのでしょうか。「独立役員」としての心構えを持った方がとった行動として、それがふさわしいものなのかどうか。これはいろいろなご意見があっていいと思うのでありますが、少なくとも株主や投資家の方々が、開示情報を通じてその当否を自由に判断できる程度の問題の整理は必要であります。今後、独立役員制度の見直しが行われ、さらに詳細な行動に関するガイドラインが示されることも予定されているようでありますが、その行動が株主や投資家にとってどのように評価されるべきなのか、そのモノサシの当て方にも慣れていかなければならないように思います。

(3月15日午前;追記)本件「独立役員」に関する届出制度は、日本の取引所すべてにおいて重要な課題となっているだけに、「東証ルール」というのはいかがなものか・・・というメールを頂戴いたしました。たしかに、最近のルール改訂は、東証だけでなく大証はじめ、すべての国内市場に上場している会社にも重要な問題であり、誤解を招くおそれがありました。(失礼いたしました)御詫びとともに、関係の記述を訂正いたしました。

また、さっそく本エントリーにつきましてはJFKさんより参考意見をいただいております。そちらもご参考ください。

3月 15, 2010 ディスクロージャー |

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ちょうど一月前に、独立役員の選任に関して取り上げた。こちら そして今日いつも拝見させていただいている「ビジネス法務の部屋」の山口先生が上場企業の対応状況にコメントがなされている。 一月前には私の意見として、 社外取締役には、親会社や主要株主、大口取引先の業務執行役員が就任しているケースが多いと思われるが、銀行などの大口債権者の場合も含めて、「一般株主と利益相反が生じるおそれが高くない」とはいえても、「一般株主と利益相反が生じるおそれがない」と言い切るには躊躇されるであろう  から、弁護士、会計士等が... [続きを読む]

受信: 2010年3月15日 (月) 13時29分

コメント

ごくわずかですが、コーポレートガバナンス報告書を更新しているところがございますね。
独立役員は社外取締役・社外監査役のいずれでもよいという点がこの制度の不徹底(そうせざるを得ないが)なところですね。私が見た限りでは、社外取締役を独立役員に指定している会社さんは今のところ見当たりません。
私は、「独立役員指定理由」に注目しています。指定理由を言えといわれても、本音としましては、御所が決めた独立役員の要件を満たしているから・・・としか言いようがないわけですが、そういうわけにもいかないので、おのずと各社の個性が出るところかと思います。
独立役員の要件からの消去法で、メインバンク等の金融機関出身者を指定するケースが多くなると思われます。ただしかし、メインバンクの現職者についてはどう考えても理由が苦しくなるでしょうね。

現時点の運用からすると、独立役員に指定されたからといって特段法的責任に影響しないのではないかと考えます。株主との利害相反の危険が類型的に小さいと見込まれる者の要件を取引所が定め、「当社でこれに該当する者はこの人です」と指定されるだけですから、何か特殊な任務を負って就任するわけではなく、どの役員にも求められる責務を当然に履行するのみでしょう。また、いずれにしても社外役員なのでしょうから、客観的視点からの監督義務も、元々求められていたレベルと変わらないと思います。もっとも、指定されることにより、規範意識の引き締め効果はあると思いますので、裁判所の判断に全く影響が出ないとはいえないでしょうね。しかし、指定されなかったからといって責任が軽くなることはあり得ないので、役員間で相対的に責任の差が生じるということはないように思います。

投稿: JFK | 2010年3月15日 (月) 03時03分

JFKさん、コメントをいただいた時間がずいぶんと早かったんですね。

法的責任論については「考えられるのではないか」ということで、あくまでも問題提起です。たとえばJFKさんが関心を持っておられる指定理由なども参考にしながら、特定の局面においては独立役員のみ、高度な注意義務違反とか説明義務違反を論じることはできないだろうか、といった問題意識です。独立役員なるポストが少なくともガバナンス報告書に登場する以上、そういったことで役員責任根拠を構成をされる弁護士の方々(もしくは一般個人株主の方々)も登場することは間違いないところだと思います。

投稿: toshi | 2010年3月16日 (火) 01時03分

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