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2010年3月29日 (月)

第一生命「不払い隠し」問題と消費者目線による内部告発の取扱い

4月1日にIPOを果たす第一生命さんは、6月下旬の第1回株主総会を幕張メッセで開催されるそうであります。2万人の株主が出席するといわれる株主総会が華々しく開催される予定・・・というこの時期に、あまりにもタイミング悪く(良く?)朝日新聞の日曜日朝刊1面に「第一生命 不払い隠し 2万件超 金融庁に内部告発」との記事が掲載されました。(朝日の記事に追随して、ブルームバーグも掲載されているようです)

「大量の保険金不払いを幹部が隠している」との複数の職員による内部告発が第一生命社内および金融庁になされている、とのこと。内部告発者には保険法に詳しい弁護士の方も代理人として就任されておられるようです。2万件以上、金額ベースでは数十億円分ということで、金融庁も現在調査中と報じられております。金融庁からの調査依頼に基づいて調査を行った際に「隠していた」とのことですから、告発事実が本当であるならばかなり問題かもしれません。

ところで、第一生命さんの件をどうこう申し上げるつもりはございませんが、こういった内部告発が新聞で報じられることは、これまで以上に事業者にとりましてはリーガルリスクのレベルが相当に上がるものと認識しております。ご承知のとおり、昨年9月1日に消費者関連3法が施行され、公益通報者保護法は消費者庁に移管されました。また、たとえば保険商品の説明義務が論じられる金融商品販売法も、金融庁と消費者庁の共管となりました。つまりこれまでは内部告発がなされたとしても、それは金融庁と生命保険会社の間における監督関係のなかで論じられるものでありまして、おそらく金融庁に集約された情報と調査結果によって処分を行えば、その金融庁の処分に不満があっても文句はいえなかったのではないかと思われます。

しかし、消費者安全法上の「消費者事故」(たとえば生命、身体の安全に関わる商品以外で、財産取引に関わるもののうち、「正当な理由なき債務の履行拒否、遅延」が問題となる商品であれば、消費者安全法施行令第3条による第三類型に該当する消費者事故に該当します)に該当する商品の事故が発生した場合には、おそらく消費者庁が商品事故情報を一元的に集約し、かつ分析することになります。したがいまして、こういった保険商品の説明義務違反が問題となるような事例につきましても、金融庁だけでなく消費者庁への情報提供も可能になってくるのではないでしょうか。たとえばトヨタの大規模リコール問題につきましても、本来は国交省の主管ではありますが、早々と消費者庁は国交省と連携して情報集約にあたることを公表しております。

平成20年1月末のマクドナルド事件東京地裁判決が報道されて以来、全国の企業で「名ばかり管理職」に関する内部告発が相次ぎました。新聞報道が内部告発を誘因する典型例でありましたが、たとえばこのたびの第一生命さんのように、大きな会社であれば、全国の職員の方々がこういった内部告発の事実を知るところとなり、しかも監督官庁以外の官庁が情報を集約、分析する可能性があるわけです。これからも消費者庁サイドに全国から告発が集まる・・・という事態になりますと、結構たいへんな状況になってしまうのではないかと。そもそも縦割り行政の弊害を除去するために消費者庁による情報集約機能があるわけですから、金融庁の対応もずいぶんとこれまでとは変わってくるのではないでしょうか。本件が単発の報道で収束に向かうのか、それとも株主総会で話題になるような事態になってしまうのかは、今回の報道に追随する内部告発の有無によって左右されるのではないかと推測いたします。

内部告発といえば、企業の法令遵守と労働者の保護が中心課題であります。しかしながら、今後は消費者行政のための重要情報源のひとつ、という位置づけが確立し、その自由な情報伝達が有為的に阻害されるようなことには、おそらく社会的には大きな批難が集中することになろうかと思われます。いよいよ公益通報者保護法の見直しも1年後に迫ってきましたが、内部告発への対応について、今後真剣に企業が向き合うべき時期が到来しているものと認識しております。

3月 29, 2010 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

第一生命研修一期生です。
生保の勉強をしているころ(研修室)は保険の必要性とか様々なことを想い、やる気満々でした。
でも、籍を置く支部に週何度か言って「担当地区への挨拶状」を配るのですが諸先輩たちの会話を聞いていると、このような事件は有りなのかなと感じています。
お客様第一主義なんて謳っていますが、目先の契約だけに捉われ、新人今日聞く育成に力を入れず、毎日「契約!契約!」の朝礼を聞き、正直うんざりしています。

お客様の個人情報は例え社内でも言ったらいけない規則がありますが、悪口を混ぜた言い合いです。

第一生命に限らず、どこの生保もそうなのでしょうか?

良い商品、絶対必要な商品なのに目先だけの契約や契約の死亡保険金額だけを見ていては「お客様第一主義」ではなく「金儲け第一主義」と私の目に映っています。

このような事実は全くないから営業は胸を張ってやるようにと言われましたが、中のことを少し知ってしまい、この告発も本当のことだろうと感じました。

投稿: こみち | 2010年3月29日 (月) 23時26分

こみちさん、こんばんは。

実は私のところへは、他の生保や損保の方々のいろんなメールも頂戴することがありますので、大方の実態は理解しているつもりです。(たぶん、ほかのところも実情は・・・というところです)
ホント、いままでは身内(金融庁、自社の業務監査等)での処理をクリアすれば、あまり内部告発は怖くなかったのではないかと思います。でも、かなり大きな予算が消費者庁にはついていますから、結果が求められるわけで、消費者庁もやる気満々です。また公益通報者保護法に関する衆参両議院での附帯決議に対する回答を来年までに用意しなければなりませんので、こういった事件が格好の題材になります。
ということで、本件にかぎらず、告発モノは今後要注意ではないかと思っております。

投稿: toshi | 2010年3月30日 (火) 01時29分

不動産業界がそうであったように、保険の世界も消費者主義に順応していくべしという自然な流れなのではないでしょうか。
保険といえば約款ですよね。メーカーが儲かる製品の開発にいそしむのと同様に、約款は商材そのものですから、職人技で一生懸命作りこんできた結果いまや巨大なコンピュータの如く保守点検・バージョンアップされながら動いている。私はある種の憧れをもちます。
わけあって新保険法のフォローにいとまがないのですが、やはり方向性は借地借家法・消費者契約法ですね。同じ約款条項の解釈も時代の流れに従って消費者寄りになってきている気もします。
こうした変化が漸次的に進んだものですから、支払基準と解釈基準とを完全同期させるのは難しく、結果的に隠す形になってしまった面も一部あるのでは?

投稿: JFK | 2010年3月30日 (火) 03時19分

JFKさん、こんばんは。

日経夕刊の1面に不払い事案をなくすように努力していたら支払い率が高くなってしまったので保険料を一斉値上げ、という記事が出ていましたね。こういうのを読むと、たしかに「合法的な不払い」をあれこれと考えたくなるのもわかるような気もしてきます。(しかしこんなに早く保険料にはねかえってくるんですね。)

投稿: toshi | 2010年3月31日 (水) 01時51分

不動産業界と少し違うのは、悪意の消費者、すなわち保険原則に反して契約に入ったり、故意に給付要件を惹起する者が少なからず居るということだと思います。保険原則を維持し、かつ保険料を上げないためにも、給付すべきでない事案は給付しないということは重要です。こうした払わなくてもよい事案に対し払い過ぎていたら、それこそ逆に不祥事ですから、切り分け作業が必要だと思います。
他方、上で出てきたように、「契約、契約!」というスローガンのもと、質問を怠り本来契約してはいけないお客様から契約をとったり、説明を怠ったり、保険会社側にも問題点はあったはずです。このような事案における不払いの多くは、支払われるべき不払いかもしれません。
切り分けが難しそうなのは、給付要件を満たすか否か直ちに割り切れない事案です。
基本的に、約款は給付要件の立証責任を契約者側が負うように作り込まれていますから、給付請求があっただけでは支払う必要が無い、という処理がまかり通っていたのでないか。約款の文言解釈を貫く方向に傾斜しますと、支払われるべき不払いの発生は不可避だと思います(要件に該当しないと言われれば諦める消費者が多いから)。さらに、裁判所の解釈が消費者寄りになってきますと、直近~現在までの処理だけでなく、事後的に過去の事案まで問題化する可能性がある(或いは既にそうなっている)のではないかと想像します。
詳細が明らかになることを期待しています。

投稿: JFK | 2010年3月31日 (水) 02時39分

前の勤務先では・・・

傷害保険契約の契約規定において、疾病死亡に伴う契約失効においては、月払保険料の未経過分を日割りで返金すると規定しているにも関わらず、団体の事務負荷を考慮して、契約規定の改定を行うずに返金しないという処理を長年行っておりました。

本来、契約規定の改定は、社内稟議を取り、役員会の承認が下りなければできない事なのですが、このような手続きを取らずに、担当部門の合意だけでこのような処理を行うこと自体が、内部統制の観点からも問題だと思うのですが、前の勤務先では問題なしとのことでした。

この取り扱いが正しいのかどうか、甚だ疑問ですが、前の勤務先は決して否を認めることはないでしょう。
契約規定通りの処理が行われることを祈るばかりです。

投稿: mee | 2010年11月15日 (月) 15時24分

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