本日の話題はおそらく一般の方々にはあまりご関心がないテーマかと思いますので、アクセスはガクっと落ち込みますが、ビジネスローで生計を立てている弁護士としましては、避けて通れない話題であります。しかもこれだけ著名な先生方が委員会報告書を公表されているのに、誰も何も言わない・・・というのも不気味ですし、あえて「にくまれ役」になることを承知のうえで(笑)、この話題にそろっと触れてみたいと思います。こういったお話はブログという媒体がちょうどいいかもしれませんね。
商事法務さん(株式会社商事法務と社団法人商事法務研究会)といえば、真言宗派の私にとりましては総本山高野山のようなものでして、おいそれとその編集権に批判をすることなどできない存在であります。(今日も、思わず新刊「会計不祥事対応の実務」を衝動買いしてしまいましたし・・・・・私自身も7月ころに共著ですが改訂版でお世話になりますし・・・・・)ましてや旬刊商事法務やNBLなど、いわば経典のごとくありがたい教本として日夜参考にさせていただいておりますが、そのNBLの編集に問題があり、第三者委員会が立ちあげられ、一昨日(3月31日)その委員会報告書が公表されました。(なにが問題だったのか、という点は商事法務さんのWEBサイトをご覧ください)
第三者委員の方々は、「今回はあえてコンプライアンスという言葉は使わなかった。なぜならこれは編集倫理の問題であり、またジャーナリズムの価値や原則の問題、ひいては編集の自由、出版の自由に関わる問題だからである」とされております。また第三者委員の方々による提言のなかでも、「記事の内容が中立であるか否かにかかわらず、紛争の一方当事者の関係者作成にかかる判例解説記事を編集部名義で紙面に掲載することは問題だと考える」「判例解説記事の執筆者が紛争の一方当事者の関係者であることを秘して掲載することは、読者をあざむいたことになる」「係属中の事件当事者(関係者)が、論文掲載をしてはならないというものではないが、堂々と立場を明らかにして顕名で著して世に問題を問うべきである」と記されており、これはまさに正しいご指摘かと思います。
なぜほぼ同じ内容の判例解説記事が判例雑誌である「金融・商事判例」と「NBL」にほぼ時を同じくして掲載されたのか、著作権侵害に関する問題はなぜ表面化しないのか、というあたりの疑問が解消されなかったことにつきましては、報告書でも記されているとおり、調査の限界があるのでやむをえないものと思います(本当はそのあたりが一番知りたいところでありましたが・・・)。
ただ、どうも腑に落ちない点が若干ございます。一読して、すぐに疑問に思ったのでありますが、この報告書のどこにも「原稿料」のことが記載されておりません。商事法務さんは、この執筆者の方に原稿料をお支払いになったのでしょうか?それとも無報酬で12000字余りのたいへんレベルの高い論稿が掲載されたのでしょうか?これは当然に調査の範囲内のことですから、情報は関係者間で共有されているはずでありますが、なぜ報告書には記載がないのでしょうか。執筆者に原稿料が払われたのかそうでないのかによりまして、この問題がコンプライアンスなのか、編集倫理の問題なのかという点が変わってくるように思われます。
それともう一点は、「企画は編集権の範囲外なのか」という問題であります。執筆者にあてられたNBL編集長からのメールでは、二日にわたり「この件については旬刊商事法務を窓口にしてください」との要望が書かれております。おそらく最終的には「判例のダイジェスト版は旬刊商事法務、判例解説はNBLでいきましょう」という社内での合議で大枠の企画が決まったものだと思われます。そうであるならば、話題の大裁判(東証VSみずほ証券)の判決文紹介と判例解説はひとつの企画であり、その役割分担を社内合議で決めたのではないかと素直に読めました。そうしますと、そもそも編集権を論じるのであれば商事法務全体の問題として論じる必要はないのでしょうか?ちなみに、NBL編集長の編集が不適切であったことが、歴代のNBL編集長ヒアリングから読み取れますが、現在の旬刊商事法務の編集長の方のヒアリング結果は掲載されていないのであります(そこが知りたかったのですが・・・)。それとも、これは私の独断的思考であって、企画と編集は別、とみるのが正しいのでしょうか?このあたりも、本件がコンプライアンスなのか、編集倫理上の問題とみるのか、見解が分かれるのではないかと考えます。
これは私の推論にしかすぎませんが、おそらく東京高裁の裁判官も、NBL編集部作成にかかる判例解説記事には目を通すものと思われます。先日の「個別株主通知は価格決定申立事件の申立要件か否か」という争点で、東京高裁は判断が分かれているのをみても、前例のない裁判では裁判官も心証形成のための拠り所を求めたがるのではないでしょうか。そこに地裁判断は大いに疑問、と「編集部名」で書かれてあれば、いくら聡明な裁判官の方々でも、格式の高い法律雑誌であるがゆえに参考にされるところもあろうかと思います。(ただ、私がこの記事を読んだかぎりにおきましては、だいたい2頁目あたりで「これは当事者が書いた」とすぐにわかりそうにも思いますが・・・笑)
これは調査委員会報告書とは関係ありませんが、「金商判例」と「NBL」双方の記事を比較してみますと、どう考えても第三者から苦情が出ることは明白であります。明白であるにもかかわらず、どうして執筆者は双方の出版社に原稿を提出されたのでしょうか?おそらくこれは法律事務所のご判断ではなく、その方もしくはそのチームのご判断ではないかと思います。このあたりも、実際はどうであったのか、知りたいところです。
実際のところ、出版社はどこも経営がむずかしい時期に来ており、社員数などもギリギリのところで賄っておられるものとお聞きしております。そういったなかで、編集担当者がどこまで目を通すことができるのか、というところも気になるところであります。執筆者と編集担当者との個人的な信頼関係が「無形資産」ではないか、という点も長所と短所があるのかもしれません。率直に申し上げて、こういった問題が発生したからといって「不買運動が始まる」ものでもなく、とくに経営面に影響が出るものでもないでしょうが、だからこそ「あるある」で民放連を除名され、最近ようやく復帰された関西の某テレビ局と同様、外部有識者による編集オンブズマン制度を発揮され、自浄能力のあるところを見せつけていただきたいと真に願うところであります。以上、旬刊商事法務をこよなく愛するひとりのファンの檄文としてお読みいただければ幸いです。