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2010年4月30日 (金)

企業集団における内部統制(近鉄グループの場合)

いよいよGWが始まりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。この時期、神戸メリケンパークあたりは全国から観光客が訪れて「モザイク」を中心にたいへんな人手でありますが、そのメリケンパークの中心にあるFM局が経営権争いの末、民事再生法の申請がなされたということでたいへん紛糾しております。議決権行使禁止の仮処分決定が債務者の審尋なしで発令されたり(おそらく電話くらいはあったのかもしれませんが)、社長が流会を宣言した株主総会の決議無効確認訴訟なども提起されて、法律家としてはたいへん興味深い事件ではありますが、ちょっとローカル色の強すぎる話題ですので、こちらのブログでは触れずじまいでした。

ところで法務省法制審議会会社法制部会が4月28日に開催された、とのことであります。MBOを含めた企業買収の手続きも話題となる予定とのことでありますが、グループ企業の法規制のあり方なども議論の対象になるのかもしれませんね。

そういった法制審の議論とダイレクトに結びつくのかどうかはわかりませんが、4月23日の朝日新聞経済面の記事(大阪版だけかも?)に、近鉄さんが連結子会社の常勤監査役を大幅に増員することを決めたそうであります。ご承知のとおり、今年2月に近鉄社の連結子会社であるメディアート社の不正経理が発覚し、社外調査委員会が設置され、過年度の決算修正を余儀なくされたことは記憶に新しいところ。また、他の子会社でも不正経理問題が発生しておりました。そこで、近鉄社としては不正防止を目的として連結子会社49社のうち24社に常勤監査役を置くことを決めたそうでして、これまで常勤さんが置かれていたのは12の子会社だけ、ということですので、一気に12社増える、ということであります。

親会社の幹部職員が「非常勤監査役」として就任される例はよくありますが、親会社の業務執行担当者が子会社の「常勤監査役」として就任する(しかも一気に12社)というケースはそれほど多くはないと思われます。たしかに「独立性」については若干の疑問もありますが、貴重な人材を子会社のモニタリングに配置するわけですから、かなり思い切った体制改編であり、今回の事件に関する親会社の真摯な対応のひとつではないかと考えます。

ちなみに、記事では(連結子会社に)常勤監査役を設置すべき基準も紹介されており、この基準によるとメディアート社にも常勤監査役が設置されるとのこと。(ちなみに売上高、資産、従業員数が一応の基準とされておりますし、この基準を満たすレベルの上場会社はたくさんありますから、とくに不自然ではないと思われます)こういった企業集団全体からみたリスク・アプローチにより、子会社の監査体制を整備する必要性は、これまでも提唱されていたところでありますが、今回の近鉄社の手法についてはひとつの具体的な試みであり、他社でも採用される可能性があるのではないでしょうか。(とりいそぎ備忘録程度にて失礼いたします。なおGW期間中もブログの更新を予定しておりますが、法務ネタとは全く違うことを書くかもしれませんので、お忙しい方はスルーしてください・・・・笑)

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2010年4月28日 (水)

裁判員制度は最高裁判事の事実認定手法まで変えるのか?

おそらく本日の刑事裁判の話題は専ら「検察審査会による起訴相当議決」に関するものだとは思いますが、私は断然、こちらの最高裁判決を話題として取り上げたいと思います。本日第一審へ破棄差戻しとされた「大阪母子殺害死刑判決」に対する上告審判決であります。(読売新聞ニュースはこちら)なんと第三小法廷5名の裁判官全員が個別意見を出す、という異例の判決内容であります。

殺人,現住建造物等放火の公訴事実につき間接事実を総合して被告人を有罪と認定した第1審判決及びその事実認定を是認した原判決について,認定された間接事実に被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとは認められないなどとして,間接事実に関する審理不尽の違法,事実誤認の疑いを理由に各判決をいずれも破棄し,事件を第1審に差し戻した事例(最高裁HPより全文閲覧可能です)

これからプロの法律家を目指す方には是非、読んでいただきたい判決ですし、とりわけ裁判員制度の下における裁判官の事実認定のあり方について、先日退官された藤田宙靖裁判長と堀籠幸男裁判官とのバトルが胸を打ちます。おそらくロースクール生の方々にとって、(事件自体は重いものでありますが)刑事事件の事実認定のあり方を学ぶための貴重な判決であると考えます。またロースクール生だけでなく、刑事法学者の方や我々法曹の間でも、今後議論の対象となるに違いありません。

Jijitu001 多数意見(5名とも個別意見がありますので、何が多数なのかは、ちょっとわかりませんが)および各裁判官の個別意見(意見1名、補足意見3名、反対意見1名)を読ませていただいた限りでの私の感想は左図のとおりです。(注-なお、この図はあくまでも私の感想を述べたまでのものですのでご注意ください。JFKさん、NABさんなど有益なコメントが付いておりますので、そちらもご参照ください。)当ブログで何度か申し上げておりますが、私はいつも近藤裁判官の意見が「好み」でありまして、今回もやはり近藤裁判官の思考過程および結論がもっともスーっと頭に入りました。

タバコの吸い殻がいつ捨てられたのか?・・・・・この一点が最も重要な事実でありますが、仮にこの点が被告人に不利な方向で認定されたとしても、それ以外の間接事実をもって公訴事実が証明できるのかどうか・・・、この判決文を読まれた方は、この5名の裁判官の誰の意見を支持されるでしょうか?「一般国民の良識に従えば堀籠裁判官の意見」と簡単に結論付けることはできるでしょうか?(もし堀籠裁判長だったら、民主党幹事長はピンチでしょうか?)ただしひとつ言えることは、いずれの裁判官も、死刑判決を目の前にして、被害者や遺族の感情と「無罪推定原則」(人権保障)との間において、極限まで思い悩む姿であります。死刑判決が出された(原審)からこそ、他の裁判官に遠慮することなく、自身の見解を各裁判官がストレートに述べられたのかもしれません。(しかし、こういった裁判官合議となると、調査官はどうされているのでしょうか)この事件に関する今後の判例評釈等、非常に関心を抱くところであります。

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2010年4月27日 (火)

「独立役員」とコーポレート・ガバナンスの関係(再考)

本日(4月26日)の日経新聞「法務インサイド」の記事には少し驚きました。証券取引所の規則により、全ての上場会社が「独立役員」の選任を義務付けられ、3月31日までに選任状況を取引所に届出ることが必要となりましたが、約15%の企業が「未確保」「条件付き選任」として届出がなされた状況にある、と報じられております(なお、選任が義務付けられる、といいましても、義務違反へのペナルティは2011年の定時株主総会終了時までは猶予されております)。多くてもせいぜい5%程度かと思っておりましたので、15%とは予想外でした。

各企業の届出状況は、たとえば東証の場合、WEB上で公表されておりますので、どこの企業がどのような方を独立役員として選任したのか、条件付きか否か、また選任された方の「独立性」が客観的、合理的に理解しうる理由をもって説明されているのか、といったあたりを閲覧することができます。たしかにメインバンクや大株主出身の方を独立役員として条件付きで選任している企業が多いことが判明いたします。記事では、独立性を示す客観的な根拠がないとして、取引所から「突っ返された」ケースもあるとか。独立性に疑いがある場合に求められる理由付け、というものも、けっこう証券取引所から厳しくチェックされるのですね。取引所が厳格な対応をとることは「最新-東証の上場制度整備の解説」のなかでも示されておりますので(同書54~55頁)、ある程度は予想されていたのでありますが、上記記事で著名な弁護士の方が述べておられるように「会社法でも上場ルールでも、今後は役員の独立性への要求水準は厳しくなる一方だろう」と思われます。

Dokurituyakuin001 ところで、ここまで厳格に要求される社外役員の「独立性」要件でありますが、以前から「独立役員」に選任された社外役員の善管注意義務などに影響はないのだろうか、といった疑問を呈しておりました。当ブログにお越しの常連の皆様のご意見としては、会社法上の社外役員(社外取締役、社外監査役)に求められる法的義務への影響はない、というのが大勢のご意見だったように記憶しております(また、証券取引所による解説、たとえば平成22年3月31日付け「独立役員に期待される役割」(東証上場制度整備懇談会)でも、とくに独立役員に就任したからといって、会社法上の法的責任が重くなるわけではない、と解説されております)。

結局のところ、上図のように独立役員制度をどのようにガバナンス上で位置づけるべきか?を考えるにあたり、「期待される役割を果たす」ことへのインセンティブとしては、右側の開示規制的な発想で考えるべきなんでしょうね。独立役員の存在およびその独立性の根拠を示すことで、株主の投資行動や共益権行使の実効性を高め、(その結果として)一般株主の利益に配慮した独立役員の行動を担保する、ということだと思われます。

なお、会社法で求められる法的義務以上の権利・義務は「独立役員」には求められない、とする説明ですが、(最終的には裁判所の判断が出てみなければわかりませんが)これもいろいろと考えてみるのですが、どうもよく理解できません。たとえば社外監査役たる独立役員の場合、監査役の「任務懈怠」を判断するにあたり、まず法が求める監査役の行動については会社法および政省令の解釈によって規範的な評価をもって定立されるものであります。しかしながら、監査役は大きな会社でも3名から5名、専任スタッフは1名ないしゼロ、常勤監査役は1名ないし2名というのが通常であり、海外子会社を含め、わずか数名の監査役によって法の求める監査を遂行することは困難であります。実際に「できないことまで法は作為を要求しない」のでありますから、「できる範囲」を検討することになります。ここで作為義務(監視義務)を論じるにあたり、独立役員たる社外監査役と、そうでない社外監査役とを比較して、「社内の業務執行部門との連携体制の不備」といった事実が当該監査役の「任務懈怠」という評価に及ぼす影響度は同じなのでしょうか?

また、たとえば蛇の目ミシン株主代表訴訟では、取締役の善管注意義務違反を検討するにあたり「期待可能性」なる概念が問題となりました。会社もしくは取締役個人に対して不当な脅迫がなされた時点で、脅迫者に経済的利益を付与した行動は「脅迫を受けた取締役らにとって、適法な行動に出ることの期待可能性がなかった」とか、「それでもなお警察に届け出るなど、適法な行動に出ることは可能であった」といった法的評価が、高裁や最高裁でなされました。ここにいうところの「期待可能性」でありますが、たとえば独立役員には一般株主の利益保護のための行動が期待されているのですから、他の社外役員と比較して、独立役員たる社外役員には、適法な行動に出るべき「期待可能性」が高い、という法的判断はなされないのでしょうか?もちろん、抽象的なものではなく、具体的な事情を十分に斟酌したうえでの「期待可能性」の認定が必要ではありますが。もし期待可能性が高い、といった判断がありうるのであれば、やはり独立役員だけが特に重い法的責任を負担する余地は十分にあるように思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

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2010年4月26日 (月)

「命燃やして-山一監査責任を巡る10年の軌跡-」を読んで

Inochimoyashite01 「5月7日第一刷発行」とありますので、まだ発売されたばかりでありますが、あまりのおもしろさに日曜日に全部読んでしまいました(210頁ほど)。 「命燃やして~山一監査責任を巡る10年の軌跡~」(伊藤醇 著 東洋出版 1500円税込)

著者の伊藤醇氏は約35年間、山一証券の監査人として従事してこられ、山一が経営破たんした直後から10年にわたり、会計監査人としての法的責任追及訴訟の被告として、中央青山監査法人(当時の中央監査法人)とともに、計6つの民事訴訟で「法廷闘争」を経験してこられた公認会計士の方であります。ご承知のとおり、山一証券の監査人に対しては、いわゆる監査見逃し責任追及は管財人、一般株主(集団訴訟として)、株主オンブズマンによって訴訟が提起されたのでありますが、管財人訴訟については和解による解決が図られたものの、それ以外ではすべて会計監査人側が勝訴(つまり監査人には過失は認められず、原告の請求が棄却)されております。しかし、著者は単に勝訴するに至った経緯を淡々と述べるのではなく、なぜ山一の2648億円にも及ぶ損失を監査手続きのなかで把握できなかったのか、その理由や実態はどうであったのかを明らかにすることこそ、山一監査を担当した監査人の義務として、本書のなかで詳細に解説をされておられます。そこでは、山一の含み損隠しに協力する信託銀行(2行)、大口顧客、そして海外のアカウンティング・ファームの存在が極めて大きかったことを掲げ、社外の第三者が関与する会計不正の把握が極めて難しい状況が示されております。著者はすでに(失礼ながら)70歳となられ、会計監査の第一線からは退かれたようでありますが、だからこそ、山一監査に関わった事情を包み隠すことなく表現されておられ、現役会計士としての守秘義務に触れない範囲で、実態を説明されておられます。こういったお話は、守秘義務に厳しい会計士の方からは、普段あまりお聞きできないところであり、たいへん貴重なものであります。

「人生を台無しにされた」と述懐される「法廷闘争」。管財人から訴訟を提起された平成9年ころ、あれだけマスコミから叩かれたにもかかわらず、完全勝訴判決が出た同19年ころにはマスコミからほとんど記事にもされず、たとえ記事になったとしても、事実だけを「ベタ記事」で取り扱われ、「裁判に勝つとはこんなもの」と冷静に振り返っておられます。ただ、現役の公認会計士の方による司法制度へのスルドイご意見については、キャッツの監査人でいらっしゃった細野祐二氏による一連の著書や浜田康夫氏による「会計不正」などがございますが(当ブログでも何度かご紹介しております)、この伊藤氏の解説は(訴訟代理人との信頼関係が終始良好だったせいかもしれませんが)非常にレベルが高く、できれば監査に関心のある法律家の方々にご一読いただきたい一冊であります。とりわけ監査手続当時は「念のため」に行われた確認作業が、その十数年後の裁判では決定的な証拠として扱われたことなど、裁判当事者でなければ出てこないような印象的な出来事なども綴られております。また本書のなかで批判の対象となっております「月刊監査役」の論稿(2本)や、「商事法務」の論稿について、これを法律家の立場からどのように受け止めるべきか、真摯に考えることも必要ではないか、と思っております。私自身も、アイ・エックス・アイ社の3名の監査役さんの「監査見逃し責任」追及訴訟(再生債務者管財人が原告)の被告ら代理人を務めさせていただいた経験からみて、架空循環取引への疑惑に目を向けることの困難さを痛感しており、伊藤氏のご指摘にはとても共感いたします。世論の流れのなかで、裁判官から「後だしジャンケン」的な発想で結果責任を問われないだろうかと、常に不安を抱いております。伊藤氏は、会計監査人だけでなく、監査役の方々にも、「どのようにすれば監査見逃し責任を問われる裁判で『無過失』を立証できるか」を考えるにあたって本書を参考にしてほしい、と述べておられますが、私もまったく同感であります。旧来の監査実施準則の時代から、リスク・アプローチ手法の時代へと移り、またナナボシ判決や東北文化学園事件判決、ライブドア事件判決など、会計監査人に厳しい判決が出る時代へと移ってもなお、この山一事件判決の枠組みは参考になるところが大きいものと思われます。

後半部分では日本公認会計士協会に対して不信感を抱かざるをえなかったエピソードも記述されており、山一事件の根の深さも表現されております。私は現在、この著書でも紹介されている山一事件訴訟(大阪地裁)の主任代理人の弁護士の方と、本事件を検証しているところでありますが、会計監査人の責任を追及する側からみても、(耳の痛いご意見として)非常に参考になるところであります。私は素直に著者の方のご意見に納得するところが多かったですし、このご意見を真摯に受け入れたうえで、原告側としてはどこに甘さがあったのか、監査実務への認識不足があったのかを反省、検証し、そのうえで、「裁判官を説得するための監査責任追及の方法はどこに力点を置くべきなのか」さらに多くの法律家の知識を集約していく必要があると考えております。本書はリーガルリスクに直面した会計士・監査役さんだけでなく、会計監査の法的責任を追及する側においても、非常に価値のある一冊ではないかと思います。とくに伊藤氏も「今後の施策」として指摘されておられる「リスク・アプローチ手法の周知」「会社法における内部統制システム構築」「金商法における内部統制報告制度」「監査役と会計監査人との連携・協調」などが、会計監査における「期待ギャップ」を埋めるためにどのように有効に機能するのか、今後とも注視していきたいと思う次第であります。(なお、最後になりますが、著者の伊藤氏は「本書は特定の団体や個人を誹謗中傷する意図で書いたものではない」とおっしゃっておられることを念のため付記しておきます。)

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2010年4月22日 (木)

グループ企業内部通報制度の考え方(整備編)

「とおりすがり」さんのご指摘で、「4月号の記事どうなんやろか」と思っておりましたが、案の定、中央経済社「ビジネス法務」誌でも・・・・・・・・・・ガックリorz(って、もう常連の皆様ならおわかりかと。。。 商事法務さんだけ書いて、中央経済社さんは書かないのは、やはり中立公正ではないと思いましたのであえてご挨拶代りに一言。 上場会社さんですし・・・・)

(話はガラっと変わりますが)

一昨日ご紹介した「上場会社の不正調査に関する公表事例の分析」(日本公認会計士協会)120頁の記述によりますと、分析対象会社30社のうち、会計監査人等からの指摘が8社、社内監査等での発見が6社、日常取引での不正発見、不正関与者の自主申告がそれらに続き4社であります。ここにも記載されているとおり、会計監査人や社内監査等での発見のうち、多くが社内での通報や告発に基づくものが含まれていると思われますし、また不正関与者の自主申告は、内部統制が厳格となり、逃げ場を失って自主申告に至ったケースも見られます。したがって、純粋に「怪しい」と睨んで発見に至ったのは「日常取引での不正発見」というパターンだけではないかと思われます。(この日常取引での不正発見というのはフォレジックの手法などによって端緒をつかんだ部類なのかもしれませんね)

同報告書でも「不正発見の環境を整えること」が課題とされており、「日本ではまだ利用度が高くないとされる社内・社外からの通報制度や、あるいは関与者による自主申告制度などの充実を図る必要がある」とされております。しかし、どうやって充実させればよいのか?という各論部分での議論というのは実際にはまだなされていないのが現実であります。

たとえば本日、TDNETにて開示されておりましたエムスリー社の「当社子会社メビックス株式会社の過去決算に係る調査結果について」でありますが、エムスリー社のTOBによって昨年8月にマザーズを廃止となりましたメビックス社の会計不正事件(経営陣が関与した売上前倒し計上事案)につきましては、連結後にメビックス社の社員が親会社であるエムスリー社に対して内部通報を行い、これが発端となって不正が発覚したそうであります。(社外調査委員会報告書、ご参照)経営陣が関与していた会計不正事件なので、自社内における通報制度がまったく機能しないパターンであり、親会社への通報が機能した典型的な事例であるといえます。

Naibutuhou002_2 最近よくみられる「子会社経営者による会計不正事例」に関する発見的機能を有するのがグループ企業内部通報制度であります。グループ企業内部通報モデルはいくつか種類がございますが、公益通報者保護法による社員の保護を重視した場合、外部窓口もしくは親会社の社内窓口へ子会社社員が直接通報できるパターンが比較的多いと思われます。

このモデルは一見素晴らしいように思えますが、実際に窓口業務を経験してみると、3つの欠点がございます。ひとつは子会社といえども独立した法人であり、子会社の秘密情報をダイレクトに親会社が取得してよいのか、という法的な問題、ふたつめは子会社社員のことを親会社はよく知らないために、スクリーニングがうまくいかず、いわゆる「デタラメや悪意に満ちた告発」に親会社が振り回される危険、そして三つめは公益通報者保護法によって社員が保護されるのは子会社との関係ですから、子会社としては「親会社に迷惑をかけたとんでもない社員」として出向や配置転換、ときには解雇処分など、事実上の不利益な取扱いが子会社から社員に対してなされる危険性が高い、というものであります。(すでに新聞報道もなされているような事件もあります)

しかし最近の会計不正事例をみますと、M&A後に子会社の不正が発覚するケースが多く、しかも子会社代表者の関与した事例がほとんどであります。こういった不正を防止することはできませんが、せめて早期に発見するためには、こういった短所はあるものの、グループ企業の親会社が一括して子会社の社員から通報を受理するような制度を運用せざるをえないのではないか、と最近は考え直しております(実は、以前は上記のような問題が多いことから、私自身は消極的でありました)。スクリーニングに関しては、子会社の監査役や共通の会計監査人等を通じて客観的な事実調査を行うことに工夫が必要であり、また子会社による事実上の不利益な取扱い禁止については、親子会社間においてあらかじめガイドライン等で明確に合意しておく必要があろうかと思われます。

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2010年4月20日 (火)

これはおススメ!会計士協会「不正調査事例分析」

トヨタ社が「欠陥隠し」を否定しながら15億円の制裁金を払うことの意味がよくわかりません。「故意」ではなく「過失」による不具合の連絡ミスに、過去最大の制裁金が課せられるのでしょうか?ということは、今後、日本の企業は「ふっかければ制裁金を出す」という前例を作ってしまうのでしょうか?ゴールドマン・サックスがSECと徹底抗戦に出る方針であることと比較して、このトヨタ社の方針は果たして妥当なものなのか、有識者の方々のご意見をうかがってみたいものであります。(早速、アメリカ政府はトヨタ社が15億円を払うことを奇貨として、さらに問題がみつかれば制裁金の追加を検討している、と報じられておりますが・・・・・)

さて、ある会計士さんから「先生が好きそうな報告書がありますよ」と教えていただいたのが、本日(4月19日)日本公認会計士協会のHPで公表されております「上場会社の不正調査に関する公表事例の分析」(経営研究調査会研究報告第40号-リンクは控えますので、ご興味のある方は、会計士協会のHPで閲覧してみてください)。

まだ全部は読めておりませんが(125頁!)、ホントおもしろいです。会計士の方々の研鑽のための報告書でありますが、我々弁護士のほか、上場企業の管理部門の方々も、平時におけるリスク管理の一環として社内研修に使えるような内容になっております。ここ5年以内に不適切な会計処理(会計不正)に関する情報開示を行った企業30社の事例分析を中心として、社内調査委員会や社外調査委員会のあり方なども研究されており、非常に有益なものであります。(私の場合、こういった報告書を読むのが大好きなので、この30社のうち、ヒマラヤ社を除く29社につきましては、すでに分析済みでありますが・・・・)

とても嬉しいのは、ACFE(公認不正検査士協会)の「不正及び不正調査に関する基本概念」を一章設けて紹介されているところです。(いわゆる不正のトライアングルですね)会計士協会のこういった報告書でACFEの「不正概念」が広く紹介されるのは「ACFE JAPAN」苦節○年、ナミダモノの出来事では?(ToT)/

「実際にはこんな単純なものではないよね~♪」といった声も時々は聞こえてまいりますが、基本となる不正調査のイロハが随所に盛り込まれております。とくに116頁あたりの「仮説検証アプローチ」は、内部監査と不正調査の区別として極めて重要な点ですし、実際には内部通報や告発によらねば会計不正が発覚しない、というのもうなづけるところであります。ちなみに、今回分析対象となった30社のリリースのなかで私の一番の好みはGSユアサ社の社外調査委員会報告書ですかね・・・)

ただ少しだけ注文をつけさせていただきたいところは、不正調査の場合、いわゆる「件外調査」がとても重要だという認識です。犯罪調査であれば、スコープした事実だけを評価対象とすれば良いのでありますが、こういった不正調査は「同じ不正が他の部署でも行われていないだろうか」といったステークホルダーからの関心にも応える必要があります。したがって、「他も合理的な方法で調査したけれど、他では見つからなかった」という結論を、どのように納得できる方法で調査し、説明できるか、という点が結構重要であります。これは会計士さん向けの報告書であったとしても、不正調査にかかわる以上は心得ておくべき点ではないかと。

それともうひとつは、「不正調査における今後の検討課題」として、グループ会社における内部統制の問題があると思います。内部統制によってある程度抑止できる従業員不正、内部統制の限界を超える経営者不正についての課題はある程度理解できるのでありますが、子会社経営陣による不正への対処・・・・というのが今後の課題であろうかと思われます。最近の近鉄さんやローソンさんの事例など、ひとつ間違えると大きな決算訂正の要因になりうるわけで、「グループ企業内部統制」という概念で対処できる問題なのかどうか、会社法の改正問題などとも絡めて喫緊に検討していくべき課題ではないでしょうか。(こちらは弁護士委員にとって重要なだけかもしれませんが・・・・)

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2010年4月19日 (月)

判例検索USBの使い心地(D1-Law nano 判例20000)

Image006 お手軽価格で、しかもネット環境なしで判例検索ができる、ということで1カ月間、使ってみました。→D1-Law nano 判例 20000 (第一法規出版)発売されたときから、かなり気にはなっていましたが・・・

消費者庁が設置され、消費者関連行政が大きく変わって以来、本業のほうでもコンプライアンス関連の仕事の中身が変わりつつあります。これまであまり消費者行政とか、消費者関連判例を勉強してこなかったので、せめて消費者関連の重要な判例だけでもフォローしなければ・・・ということで急きょ使い始めました。

ともかくネットにつながずに、サッと検索ができます。立ち上がりもかなり早いです。終了するときもとくにストレスは感じません。2万という判例の数は、使ってみて若干物足りないと感じますが、論文を書いたり、裁判で活用する場合にはおそらく紙媒体で確認すると思いますので、引用されている判例時報や判例タイムズで別途あたれば過不足なくフォローできるように思います。

2万円という価格(税別)と、このお手軽感というのはやはり魅力ですね。ともかく「判例検索」をめんどくさい、と感じることがなくなりました。

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正面から問われる吉本興業の非公開化手続き(やっぱり気になるなぁ)

会社法が施行されて4年が経過しようとしておりますが、いまだ議論が尽きないのが「全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社手続き」であります。4月16日金曜日の朝日新聞経済面の記事によりますと、吉本興業のTOB手続(1月の株主総会で上場廃止決定、2月上場廃止)について「違法性のある手続で株主の地位を一方的に奪われた」として、2名の元株主の方々が株主総会決議の無効確認(予備的には決議取消)を求めて大阪地裁に訴えを提起した、とのこと。

つまり、本件では特に吉本興業さんが債務超過に陥っていたわけではなく、「上場を廃止する」ために「全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化の手続き」を採用した、ということであります。本来、全部取得条項付種類株式を活用して反対株主を締め出すためには、正当な事業目的がないとできない、という立場から、本件吉本興業社の完全子会社化には正当な事業目的はない、ということで手続きの違法性を根拠に決議の無効もしくは取消を主張しておられるようであります。民法709条に基づく違法行為排除請求権を根拠として、総会開催を差し止めることはちょっと苦しかったものの、このたびは既に終了している株主総会における決議の無効もしくは取消を求めておられ、株主代理人でいらっしゃる阪口徳雄先生(株主オンブズマンで有名な大先生)のブログによりますと、「今回は、最後までやりぬく方針」とのこと。おそらく全部取得条項付種類株式を上場会社のMBO手法として活用することの違法性を最高裁まで争う、ということになるのではないかと思われます。

ここまで多くのMBO事案で活用されてきた手法ですから、多くの法律実務家の方々が「適法性に問題なし」と確信し、すでに法曹の関心はTOB価格に不満を持つ一般株主の方々による価格決定申立事件の手続き(たとえば個別株主通知の対抗力)や、価格決定のあり方に移っているようにも思えます。しかし、私の拙い理解では、略式株式交換など、ほかの手法によっても完全子会社手続きは可能でありますが、税制面での有利さを考慮して全部取得条項付種類株式を用いる方法が普及したものであり、とくにこの手法が適法性が高いという理由からではないと思われます。だからこそ、未だ議論が尽きないのではないかと。

また、昨年暮れに出版されました「Q&A会社法の実務論点20講」によりますと、全部取得条項付種類株式が導入された経緯につきまして、

会社法立案過程においては、100%減資を行う際に、株主全員の同意を必要とすることは硬直的にすぎ、柔軟な任意整理の実施の妨げとなっているとして、株主の多数決による株式全部の消却を可能とする方策の実現を求める実務上の要望が強かった。

法制審議会会社法部会の審議において、①株式会社は、正当な理由がある場合には、株主総会の特別決議により、株式の全部を有償または無償で取得することができるものとし、②その場合には、取得の対象となる株式であって、当該決議に反対したものは株式買取請求権を行使することができるものとする、との規程を設ける検討が進められた

その後の法制的な検討を経た結果、上記の構成ではなく、これを種類株式として構成すべきこととされ、立法化された

と(立案担当者らにより)述べられております。(同書3頁)つまり、正当な目的のある株式全部消却手続きであっても、少数株主排除時における財産権保護は保障されていたのであります。したがいまして、現行法上、(株式買取請求権の行使に類似した)価格決定申立の道が少数株主保護制度として存在しても全てが解決するわけではなく、この「正当な目的」のある場合にだけ全部取得条項付種類株式によるスキームが適法である、との解釈が成り立ちうるものと思われます。

では、この立法の経緯におきまして「正当な目的」ということが明記されることなく立法化されたことが、行使目的の無制限化をもたらした、と言えるのでしょうか?私見を申し上げるほどのこともできませんが、株主名簿の閲覧謄写請求権の行使が問題とされた日本ハウズイング社と原弘産社との仮処分高裁決定が、ひとつの参考となるのではないでしょうか。株主は、営業時間内であればいつでも株主名簿の閲覧・謄写の請求が可能でありますが、請求する株主が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいるような場合には、会社は閲覧・謄写を拒否できるとされております(会社法125条3項3号)。原弘産社は日本ハウズイング社との委任状争奪戦に利用する目的で、日本ハウズイング社に株主名簿の閲覧を要求したところ、原弘産社は日本ハウズイング社にとって競争関係にある会社だとして、閲覧謄写要求を拒否した事例であります。たしか高裁の決定では、たとえ競争関係にある会社であっても、株主権の行使の重大性に鑑みれば無制限に拒否できるというわけではなく、株主権行使のために正当な目的があれば、これを拒否することは濫用にあたる(したがって株主名簿の閲覧・謄写権行使は認められる)とされております(おおまかな記憶なので、もし間違いがございましたらご指摘ください。また、この高裁決定につきましては、葉玉先生のブログでも解説されておられたと記憶しております)。これは、会社法125条3項3号の拒否事由について制限的解釈を行ったとみるのか、そうではなく再抗弁としての拒否権濫用の抗弁が認められたにすぎないのか、という点では争いがあるものの、ともかく125条3項3号の文言上では無制限に拒否できるような書きぶりであるため、本件でも当該高裁決定と同様の発想で判断することも可能のようにも思えます。

多数の利害関係人にとって株主総会決議が取り消されたり、無効と確認されるような事態となりますと、非常に関係者間に混乱を生じさせることになるため、結論的には原告が勝訴するためにはかなり高いハードルがあるものと推測されますが、全部取得条項付種類株式を完全子会社化手続きに活用する場合の手続き自体の適法性を裁判所がどのように判断するのか、たいへん興味があるところでして、本当にとことん争っていただきたいと個人的には考えております。

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2010年4月16日 (金)

紛糾する富士通社の情報開示に関する素朴な疑問

昨日(4月14日)は、関西テレビさんの本社で放送倫理・コンプライアンス研修の講師をさせていただきました。「あるある大事典」問題からちょうど丸3年・・・ということで、もう一度原点にもどって内部統制を見直そう、という企画でありまして、質疑応答も含めて2時間ほど私の思うところをお話させていただきました。講演終了後の懇親会でも、夜遅くまで幹部の方々から「あるある」の件について話を伺いました。調査委員会委員や職員の悪戦苦闘、番組制作にあたっての構造的な問題、その後の社員の意識など、当事者の方からでないと把握できないムズカシイ事情をかなり理解でき、こちらもたいへん勉強になりました。同時に、「これは他の放送局でも抱えている問題であり、またどこの局で発生してもおかしくないリスク」だと認識した次第であります。

講演と同じ時刻に富士通さんの記者会見が行われたそうでありますが、TDNETでも元社長の辞任の経緯と当社の見解なるリリースが出ておりましたので、本日その開示情報を読みました。このリリースに登場しておられる富士通の監査役さんは、私の司法修習生時代の恩師でありますので(汗・・・・・)またまたツッコミ不足になるところもご容赦いただかねばならないのでありますが、「地位保全の仮処分申立の取下げ」となりますと、ムム?と興味をそそられるところもありまして、本当に素朴な疑問点だけ述べてみたいと思います。

最初に疑問を抱きますのが元社長さん側の地位保全の仮処分申立事件への初期対応であります。この富士通社のリリース内容が正しいものであることを仮定してのことでありますが、元社長さん側は、当初この仮処分事件を債権者審尋だけで決定を出してほしいと裁判所に要請した、ということであります。

つまり「自分達の言い分と証拠だけをみて、裁判所は判断してほしい」と要望したとあります。たしかに仮処分事件でありますので、審理の迅速が要請されることは間違いないのでありますが、たとえば無効な取締役会決議によって代表取締役を解職された方の「仮の地位を定める仮処分命令」などは口頭弁論や審尋など、債務者(ここでは富士通社です)が立ち会うことができる期日を経なければ、これを発することはできない、とされております(民事保全法23条2項、同4項)。例外要件も置かれておりますが、一般的に労働者の解雇処分などへの適用が想定されている仮処分命令申立ですら、ほとんど例外なく審尋が必要とされているのですから、ましてや大会社の経営トップが暫定的にでも経営者に返り咲くことを認めるような仮処分に例外など認められるはずもないわけでして、なにゆえに元社長さん側が、このような要請を裁判所に行ったのかはちょっと理解できないところであります。ひょっとすると、最初から「申立をしたけど裁判所はノーと言った」という既成事実を作りたかったのではないか?といった推測すら浮かんでくるわけでして、どうも解せないところであります。そもそも、経営トップの地位保全の仮処分という場合、裁判官との事前面談ということも考えられますから、そこで審尋を経なければ決定は出せない、というお話になるかとは思いますが。

また元社長さん側は結局、この仮処分を取り下げるに至るわけでありますが、その取り下げの理由として「出された証拠を十分に精査する必要があるため」と回答されておられるようであります(読売新聞ニュースより)。しかし私が現在担当している仮処分事件でもそうでありますが、仮の地位を定める仮処分などの債権者側において、とくに急ぐ必要性がないのであれば、相手方の反論をじっくりと時間をかけて再反論するために審尋期日を続行させればよいだけであり、本気で「保全の必要性」を裁判所に理解してもらうためには、むしろ期日を続行させるべきではないか?と考えます。相手方提出証拠を十分に精査する、ということがなぜ取り下げとつながるのか、私は素朴な疑問を抱きます。このあたりがクリアにならないと、富士通社側によります「記者会見で言ってることと、申立てを取り下げたこととは矛盾している」との主張のほうに説得力があるように思えてきます。

さて、一方の富士通社側の主張にも素朴な疑問が湧いてまいります。この経過説明書の4ページでは、元社長さんを数名で説得して辞任に至らしめた場面が語られておりますが、このなかで元社長さんに辞任届を書かせた後、定例取締役会で、元社長さんの取締役辞任を「決議した」とあります。これはどういう意味でしょうか?そもそも取締役の辞任というのは取締役会の決議事項ではありませんし、勧告決議でもないようです。辞任届をすでにとりつけているのであれば、単に報告で済ませばよいだけの話では?(代表取締役さんの辞任の意思が取締役会で了承され、この時点で「受理」された、ということであれば理解できるのですが・・・)「当社の見解」のところに「取締役の多数の合意のうえで」辞任を要請した、とありますから、そのことを強調したかったのかもしれませんが、どうもよく理解できません。ひょっとすると、反社会的勢力と評されるファンド側からの損害賠償請求訴訟を念頭におきながらの表現なのでしょうか?

そしてもうひとつ、富士通社側が「当社の見解」として「裁判所は、客観性・公正さが担保された究極の外部調査委員会である」とされています。これはまったく違うと思います。裁判所は当然のことながら当事者主義ですが、調査委員会は職権探知主義です。裁判所は当事者の主張に依存しますが、調査委員会は必要があると思えば自分の判断で証拠を探しにいきます。また裁判所は当事者の勝敗を決しなければいけませんから、立証責任の原則があります。裁判官が事実の存否について「最後までわからない」という心証の場合、その結果をどちらに負担させるのか、という問題であります。たとえば、この仮処分事件の場合、詐欺・強迫の事実を立証しなければならないのは元社長さん側であります。そこでは当該ファンドが反社会的勢力でないにもかかわらず、さも反社会的勢力であるかのように説明され、これを誤信してしまって辞任届にサインをした、という一連の事実を立証しなければなりません。しかし、もし裁判官が「当該ファンドが反社会的勢力と言えるかどうかわからない」という心証の場合、結局裁判では元社長さん側が負けるという結論となります。そうしますと、出てきた裁判所の決定から一般に認識されるところは、富士通社側が勝訴した、つまり当該ファンドは反社会的勢力ということが証明された、となるわけであります。しかし、これは誤りであり、「裁判所はどっちかわからなかった」という結論も十分にありうるわけです。しかし裁判所には「どっちかわからなかったから、引き分け」という結論はありません。調査委員会であれば、わからないことは「わからない」と書きますから、到底裁判所の判断とは異なります。

そもそも「究極の外部調査委員会である」と富士通社側が考えているのであれば、なぜ申立てがなされた時点で公表されなかったのでしょうか?適時開示ルール上では公表する必要はなかったからでしょうか?しかし密室で行われる「外部調査委員会」など私はこれまで聞いたこともなく、これは極めて素朴な疑問であります。外部調査委員会の報告は自社に都合の良い時だけ公表する・・・ということは絶対にあってはならないのであります。

PS

警察OBの方々が、この「個人情報保護」のうるさい時代でも、反社会的勢力に関する情報に強い理由というのが最近ようやくわかりました。。。警察時代の上下関係からのコネ??そんな甘いものではなかったんですね・・・・笑

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2010年4月14日 (水)

消費者事故等に係る情報開示制度と内部統制構築義務

4月14日の日経朝刊に おおすぎ先生の公開会社法制に関するご意見が掲載されるようですので、ぜひ拝見しておきたいと思っております。たぶん本日の上村先生のご意見とは異なる立場からのものなんでしょうね。(以前の金融・商事判例の論稿に近いものかと。)最近はネット上でも「経済教室」が読めてしまうようになりましたね。でもやっぱり日経は新聞を広げて読むほうが「脳の活性化」のためには良いように思うのですが、いかがなものでしょう。ドン・キホーテさんの「WEBチラシ」は大好きなのですが、日経紙面とヴェリタスは、どうもWEBチラシで読む気にはなれません。。。笑

先日「商事法務のコンプライアンス-その光と影-」なるエントリーを書きまして、とくにフォローするつもりではございませんが、NBL最新号(926号)の論稿「消費者庁の設置と消費者事故等の情報開示制度への対応」を拝読いたしました。なんやかんや言っても、やっぱりこの雑誌はオモシロイなぁ。。。消費者安全法に関する行政作用法としての性格と、13条公表、15条公表の意味が、わかりやすく解説されており、実に秀逸な論稿です。実は、私が執筆しております新刊書でも、この消費者庁における一元的な情報集約と情報開示が企業にどのような法的リスクを及ぼすか?ということに言及しておりますが、そのなかで情報開示と内部統制構築義務の関係について触れております。

4月1日から消費者庁HP「事故情報データバンク」が開設されましたが、ここに自社製品に関する消費者事故情報が掲載された後で、拡大製品事故が発生した場合、おそらく被害拡大に関する損害につき、製造企業の取締役さんはかなり重たいリーガルリスクを背負うのでははないかといった意見であります。普通はここに情報が掲載される以前に、メーカーさんのほうで事故情報は把握しているでしょうから、そもそも全くチェックをしていない、という事態も想定しにくいかとは思いますが。ただ事実確認から、原因分析、再発防止策検討、回収の要否まで、早急に対応できる体制を整えなければ、今回のトヨタさんのように品質管理から経営管理まで問題視される事態となってしまうのではないか、といった問題提起であります。せめて開示情報の管理くらいはリスク管理の一環として「消費者庁時代の常識」になりつつあるのではないかと。

新刊書の原稿を書き終えまして、「ここまで書いてしまって、まったく的外れなアホなことと思われたらどうしよう・・・」という一抹の不安を抱いておりましたが、日本で最も大きな法律事務所(これもとくにフォローするつもりではございません・・・・(^^;;  )の先生が「担当取締役の善管注意義務違反ないし内部統制体制構築義務違反とされる可能性は否定できないであろう」と同様のご意見を私見としてお持ちのようですから、とりあえずアホなことを考えていたわけではないようで、ホッとしております。

一昨日のエントリーとも関連しますが、厚労省が田辺三菱製薬さんに「異例の」業務停止処分・・・とありました。(ここで日経ニュースのリンクを貼れないのがちょっとツライ・・・)でも消費者庁ができて、情報集約の一元化がはかられる時代に、(しかも民主党政権下において)誰も好きこのんで最終責任を負う官庁はいないと思いますし、消費者に迷惑をかける企業はたとえ大企業でも厳格な処分が発令されるのはあたりまえになっていくのではないかと思います。とりわけ消費者の生命・身体の安全に関わる商品、サービス提供についてはご留意ください。

PS 発信者情報開示等請求事件について、立て続けに2件の最高裁判決が出ておりまして、こっちもエントリーをしたいのでありますが、ちょっと時間的な余裕がないので、どなたか他の方のエントリーを探してみます。

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2010年4月12日 (月)

試験データ改ざん事件にみる「情報伝達経路」の曖昧さ

朝日新聞だけが報じているものですが、田辺三菱製薬の子会社の元社長さんが、製剤データの改ざん(差し替え)をして厚労省への承認申請をしていたことが社外調査委員会の報告書で判明した、とのことであります。(朝日新聞ニュースはこちら)厚労省への承認申請取り下げ、および自主回収などのリリースは昨年3月末に田辺三菱製薬社によりなされていたものでありますが(リリースはこちら)、具体的な事実経過については今回の報告書で明らかになる模様であります。(不適切な会計処理発覚に関する調査報告書とは異なり、このての社外調査委員会報告はなぜ時間がかかるのか?という疑問もあるかもしれませんが、監督官庁との関係から「それなりの理由」があるわけでして、これはまた別途エントリーしたいと思います)

報道された事実のなかで、2005年に就任した2代目社長さんが、社内の意識調査で不正をうかがわせる内容の回答があったが、これを取り合わなかったとされ、その理由については「親会社からの出向者との待遇面での格差などに不満を持つ現地採用者が、過激な表現や針小棒大な回答をしていると考えた」とのことであります。ここでは「社内の意識調査」とありますが、これは内部通報の場合でも同様でありまして、この社長さんの発言はまことに「よくある」ケースかと思われます。だいたい私の通報窓口業務の経験からしますと、原因はふたつ考えられます。

ひとつはよくブログや講演で申し上げるところの「先入観」や「偏見」に基づくものであります。先日の近鉄さんや、アーム電子さんの連結子会社における不適切な会計処理事件も子会社役員の方々の問題事例(積極的関与や黙認)でありましたが、役員さん方が不祥事に関する情報を耳にすると、悪い方向へは考えない傾向がございます。「たいしたことではない」「マスコミが興味を抱くことでもない」「監査法人に連絡するほど重要な誤差ではない」といった具合であります。そして、これは問題だ、と認識するに至った場合でも、今度は「これは前任者もやっていたこと」「職場ではみんな知っている」「この業界では『必要悪』であって、他社もみんなやっている」というあたりで正当化する傾向にあります。おそらく当該子会社社長さんも、たしかな根拠もなく、先入観をもって「たいしたことではない」と考えておられた可能性があります。「社内の常識と社外の常識に食い違いがあった」などといわれる場合もあります。

そしてもうひとつは、情報伝達のあいまいさに起因するパターンであります。実は内部通報制度を運用していて、これが最もやっかいだなぁと感じております。たとえば内部通報で10の情報が伝えられ、しかるべき部署に情報が集約されますと、その部署にとって都合が悪い情報は捨象され、残る5つの情報だけが担当取締役さんに届きます。その取締役さんは、ご自身がまだ出世の道が残っていたりしますと、これまた自身の責任にならないように都合よく経営トップに報告したり、派閥争いがあったりしますと、別の役員さんが責任をとらねばならないようなニュアンスで事実を歪曲して報告するケースもあります。最終的に経営トップの方のところへ情報が届いてみると、通報窓口に届いた10のうち、2とか3くらいの情報、しかも正確性を欠くものが届いたりするもので、そこから社長さんも「公表するほどのことはない」とか「コンプライアンス委員会に任せておけばよい」といった感じで不正リスクを把握できない状況に陥るわけであります。

今回の件も、ひょっとすると誰かが「これは出向者と現地採用者との待遇面での差に不満をもっている者の批難にすぎない」といった情報を混ぜ合わせて届けている可能性もあり、そうなりますと、元社長さんだけを責めるわけにはいかず、もっと構造的な組織の欠陥にメスを入れていかないと、このような不祥事の再発は防止できないものと考えます。記者会見で「私は知らなかった」とおっしゃる社長さんが多いのも、実はこういった情報伝達のあいまいさ、とか人間組織における思惑の産物に起因しているケースではないかと思われます。(もちろん、だからこそ内部統制の構築が必要になってくるわけでありますが)

PS

ところで4月9日に金融庁WEBにて企業内容等開示ガイドラインの改正留意事項がリリースされており、これがなかなか興味深いのでありますが、フォローされている方、いらっしゃいますでしょうか?

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2010年4月 9日 (金)

富士通の混乱と日弁連「第三者委員会ガイドライン」

富士通社の元社長の方が、株主代表訴訟(提訴請求)および取締役らに対する損害賠償請求訴訟の準備をされている、との報道が各局からなされております。法廷闘争となる状況のようでありますが、そのなかでご自身が辞任に至る経緯につき、外部委員から構成される第三者委員会で調査するよう、富士通社に要請されたそうであります。(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)何も不祥事が発生していなければ問題はないのでありますが、富士通社側としましても、例の不適切な開示がありましたので、たしかにステークホルダーとしては辞任劇に関する更なる情報開示、しかも公正な立場で調査を行った結果についての報告を聞きたい、と考えるところも合理的な理由があるように思えます。

ところで、とも先生のブログでもお書きになっておられますので、私のブログでも少しばかりご紹介いたしますと、このほど日弁連では企業不祥事発生時に構成されます「外部第三者委員会」の指針(第三者委員会ガイドライン)がほぼまとまりまして、日弁連の関係各委員会における意見聴取の段階にまで来ております。昨年来、新聞でも何度か報じられているとおり、弁護士によって構成される「第三者委員会」の報告内容が、本当に独立公正な立場で調査されているのかどうか疑問・・・との声が世情聞かれるところであります。これではせっかく企業が立ち直るために委員会を設置したにもかかわらず、なにやらグレーなイメージだけが残ってしまうことから、本来の第三者委員会のあり方を指針として明示すべきではないか、ということで策定されてきた経緯がございます。私も関係委員会のPT副座長を務めております関係から、今週この「ガイドライン案」が回ってきまして、内容を拝見させていただきました。また来週月曜日にはこのガイドライン案に関する意見とりまとめの関係で日弁連の業務改革委員会における緊急電話会議が開催されます。

ところで、このガイドライン案を拝見しての感想でありますが、とも先生を含め、著名な企業法務弁護士の方々が作成された「ガイドライン」に沿った第三者委員会が、この富士通社の外部第三者委員会として調査にあたったとしたら・・・・・・・・・・なかなかスゴイことになるのではないか、と予想いたします。(^^;  純粋に元社長の方が辞任されるまでの事実経過だけを調査対象とするのであれば特に問題ではないと思いますが、たとえば辞任を迫った原因となるニフティ社売却の関係当事者の件などにも調査が及ぶとなりますと、反社会的勢力に該当する個人もしくは法人が存在したのか、もしくは当該個人または法人が反社会的勢力であると信じるに足りる合理的な理由があるのか、といったあたりまで調査の対象になってしまうのではないでしょうか。もちろん、報告書が誰を対象として開示されるのか、という点は課題として残りそうですが、それでも紛争当事者に調査結果が公表されますと、おそらくどちらかの当事者から結果がマスコミへ流れるでしょうから、やはり影響はかなり大きなものとなるはずであります。ステークホルダーがいったい何を知りたいのか・・・ということを詰めていきますと、やはり今回の富士通の混乱問題では、反社会的勢力の関与の有無、ということになるのではないかと。

まだガイドライン案の内容をここで申し上げるわけにもいきませんが、示されるガイドラインは「ベスト・プラクティス」でありますし、比較的柔軟なものとして公表される予定だそうであります。しかしながら個人的な意見としてはおおいにツッコミドコロ満載でありまして、来週月曜日の電話会議でも、多くの疑問点を指摘させていただきたいと思っております。ただガイドライン案の「前文」に、たいへん興味ある言葉が登場してまいりまして、(たぶん消されることはないと思いますが)弁護士の業務としては初めて「リスク・アプローチ」という表現が用いられ、従来の弁護士業務と異質な面が多いことが指摘されております。これは大いに賛同するところであり、迅速性が要求されるなかでの事実認定の困難さを克服するうえでのメルクマールになるのではないかと考えております。毎度申し上げるところでありますが、独立性や事実認定の正確性をあまりにも強調しますと、迅速性に欠ける結果となり、あまり迅速性ばかりに目を向けますと、報告書の信頼性に疑問が生じるわけでして、このトレードオフの関係についてどこで折り合いをつけるか・・・というあたりがムズカシイ課題ではないかと思います。なによりも「普段の弁護士業務とはかなり異質なもの」であることを正面から認めたうえでのガイドラインであることを高く評価いたします。今後は、このガイドラインに沿った形での第三者委員会を、不祥事を発生させた企業が(社会的な責任として)受け入れる「度胸」に期待したいところであります。

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2010年4月 7日 (水)

闘うコンプライアンス(トヨタ・リコール問題編)

本日は新聞報道に対する感想にすぎませんが・・・・

少し前までは「安全神話」、つまり品質管理が問題とされていたトヨタ・リコール問題でありますが、アメリカ政府による15億円の制裁金賦課の件で、経営管理の問題に発展してしまったようであります。現場における「安全神話」は必要ですが、経営陣における「安全神話」は「悪い情報を信じない」「使用法に問題あり、と即断する」方向へ走ってしまうリスクを伴うわけでして、欠陥を隠す気持ちは毛頭ないわけでありますが、欠陥を認めるまで時間を要し、その結果として「欠陥を知ってて隠していた」「マスコミに指摘されて、やっと重い腰をあげた」と世間では評価されることになってしまいます。まじめに商品作りに取り組む会社でも、商品に誇りを持っているがゆえにリコールリスクも大きいのではないでしょうか。

「製品の欠陥を知ってて放置していた」という事実による制裁金だそうですが、これはなんぼなんでも認めるわけにはいかないのではないかと(トヨタ社としては「現在、対応を検討中」とのことですが)。もちろん品質管理の面においてはできるだけ誠意をもって今後の対応策を検討すべきではありますが、経営管理つまり「欠陥を知ってて放置」ということになりますと、制裁金だけでは到底済む問題ではないでしょうし、法令違反行為に関する経営判断として、日本でも大きな裁判が起こってしまうものと思われます。なにより、従業員の士気にも関わってくるのではないでしょうか。

これまでトヨタ・リコール問題はいくつかの過程を経ておりますが、経営管理問題に火がついてしまった現時点において、まさに最大の正念場がやってきたのでは。たしかに長引けば信用問題に傷がつくかもしれませんが、あやふやな対応では更に大きな傷がつくのではないかと思います。「闘うコンプライアンス」の典型例として、まさに今回のトヨタの対応に注目しております。

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2010年4月 5日 (月)

待ち遠しいビックカメラ元役員に対する課徴金審判決定

先日、味の素社員によるインサイダー取引に対する課徴金審判決定が出されまして、その内容を精査いたしますと、わずかばかりではありますが、違反行為に対する金融庁の立件方法が垣間見えてきて、たいへん興味深いものがありました。先日もご紹介したように、デジタルフォレンジックの重要性や、社員のインサイダー取引摘発及び立件に対する会社側の協力体制の重要性なども考えさせられるところがございます。この事件は納付命令(行政行為)に対して取消訴訟が提起されたようですので、今後は裁判所で争われることになります。(ちなみに味の素社の株式交換の相手方だったカルピス社の社員の方については、すでに争わない旨の答弁書が提出され、課徴金納付命令は確定しております)

ところで、もうそろそろ審判決定が出てもいいのではないか、と思われるのがビックカメラの元役員の方に対する課徴金納付命令に関する否認審判手続きですね。有価証券報告書(正確には同社報告書に基づく目論見書)虚偽記載事件についての1億2000万円余りの課徴金納付命令が勧告されているものであります。上の味の素事件の終結直後である3月17日ころに審判手続きが終結しておりますので、今週あたり決定が出るのではないでしょうか。ただ、味の素事件の審判期日が4回に対して、ビックカメラ元役員さんについては6回開催されておりますので、事案の争点および事実認定とも複雑なのかもしれません。また、法人たるビックカメラ社は、すでに事件について争わない旨の答弁書を提出しておりますので、これが元役員さんの審判にどのように影響を及ぼすのか、このあたりも気になるところであります。(果たして法人たるビックカメラ社は、創業者である元会長さんにとって不利益となる証拠を積極的に金融庁に提出しているのでしょうか?このあたりは大いに悩ましいところではないかと。。。)

ただ弁護士として、本当に取り扱ってみたいのは、インサイダー取引事件にせよ、有価証券報告書虚偽記載事件にせよ、クロかシロか、を審判や裁判ではっきりさせることよりも、刑事事件として起訴相当と思われる事件をなんとか課徴金納付命令事件(行政処分事件)に落とせるのではないか、という事案でしょうね。クロかシロかを争うことよりも、よっぽどこっちの方が難しい仕事ではありますが、行政事件を取り扱う弁護士としてはやりがいを感じるところであります。おそらく刑事事件と行政処分事案とでは、行政当局での組織も変わってくるでしょうから、相当に困難が伴うかもしれませんが、当事者にとっては最も切実な局面でしょうし、それゆえにプロとしての弁護士の力量が問われる最大の場面ではないかと。現実問題としては、証券取引等監視委員会に出向経験のある(現場感覚を持ち合わせた)法律家が、この分野ではもっとも能力を発揮できるのではないでしょうか。当局にとりましては市場の健全性確保のためにリスク・アプローチの手法で事件処理に臨まれるわけですから、「前例がすでにある、ごくごくありふれた事案」なのか「たとえ検察庁と全面協力してでも、世間に示しをつけなければならない事案」と考えるのかは、やっぱり中にいた人の感覚でないとわからないところもあるのではないか、と思われます。

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2010年4月 2日 (金)

商事法務のコンプライアンス-その光と影-

本日の話題はおそらく一般の方々にはあまりご関心がないテーマかと思いますので、アクセスはガクっと落ち込みますが、ビジネスローで生計を立てている弁護士としましては、避けて通れない話題であります。しかもこれだけ著名な先生方が委員会報告書を公表されているのに、誰も何も言わない・・・というのも不気味ですし、あえて「にくまれ役」になることを承知のうえで(笑)、この話題にそろっと触れてみたいと思います。こういったお話はブログという媒体がちょうどいいかもしれませんね。

商事法務さん(株式会社商事法務と社団法人商事法務研究会)といえば、真言宗派の私にとりましては総本山高野山のようなものでして、おいそれとその編集権に批判をすることなどできない存在であります。(今日も、思わず新刊「会計不祥事対応の実務」を衝動買いしてしまいましたし・・・・・私自身も7月ころに共著ですが改訂版でお世話になりますし・・・・・)ましてや旬刊商事法務やNBLなど、いわば経典のごとくありがたい教本として日夜参考にさせていただいておりますが、そのNBLの編集に問題があり、第三者委員会が立ちあげられ、一昨日(3月31日)その委員会報告書が公表されました。(なにが問題だったのか、という点は商事法務さんのWEBサイトをご覧ください)

第三者委員の方々は、「今回はあえてコンプライアンスという言葉は使わなかった。なぜならこれは編集倫理の問題であり、またジャーナリズムの価値や原則の問題、ひいては編集の自由、出版の自由に関わる問題だからである」とされております。また第三者委員の方々による提言のなかでも、「記事の内容が中立であるか否かにかかわらず、紛争の一方当事者の関係者作成にかかる判例解説記事を編集部名義で紙面に掲載することは問題だと考える」「判例解説記事の執筆者が紛争の一方当事者の関係者であることを秘して掲載することは、読者をあざむいたことになる」「係属中の事件当事者(関係者)が、論文掲載をしてはならないというものではないが、堂々と立場を明らかにして顕名で著して世に問題を問うべきである」と記されており、これはまさに正しいご指摘かと思います。

なぜほぼ同じ内容の判例解説記事が判例雑誌である「金融・商事判例」と「NBL」にほぼ時を同じくして掲載されたのか、著作権侵害に関する問題はなぜ表面化しないのか、というあたりの疑問が解消されなかったことにつきましては、報告書でも記されているとおり、調査の限界があるのでやむをえないものと思います(本当はそのあたりが一番知りたいところでありましたが・・・)。

ただ、どうも腑に落ちない点が若干ございます。一読して、すぐに疑問に思ったのでありますが、この報告書のどこにも「原稿料」のことが記載されておりません。商事法務さんは、この執筆者の方に原稿料をお支払いになったのでしょうか?それとも無報酬で12000字余りのたいへんレベルの高い論稿が掲載されたのでしょうか?これは当然に調査の範囲内のことですから、情報は関係者間で共有されているはずでありますが、なぜ報告書には記載がないのでしょうか。執筆者に原稿料が払われたのかそうでないのかによりまして、この問題がコンプライアンスなのか、編集倫理の問題なのかという点が変わってくるように思われます。

それともう一点は、「企画は編集権の範囲外なのか」という問題であります。執筆者にあてられたNBL編集長からのメールでは、二日にわたり「この件については旬刊商事法務を窓口にしてください」との要望が書かれております。おそらく最終的には「判例のダイジェスト版は旬刊商事法務、判例解説はNBLでいきましょう」という社内での合議で大枠の企画が決まったものだと思われます。そうであるならば、話題の大裁判(東証VSみずほ証券)の判決文紹介と判例解説はひとつの企画であり、その役割分担を社内合議で決めたのではないかと素直に読めました。そうしますと、そもそも編集権を論じるのであれば商事法務全体の問題として論じる必要はないのでしょうか?ちなみに、NBL編集長の編集が不適切であったことが、歴代のNBL編集長ヒアリングから読み取れますが、現在の旬刊商事法務の編集長の方のヒアリング結果は掲載されていないのであります(そこが知りたかったのですが・・・)。それとも、これは私の独断的思考であって、企画と編集は別、とみるのが正しいのでしょうか?このあたりも、本件がコンプライアンスなのか、編集倫理上の問題とみるのか、見解が分かれるのではないかと考えます。

これは私の推論にしかすぎませんが、おそらく東京高裁の裁判官も、NBL編集部作成にかかる判例解説記事には目を通すものと思われます。先日の「個別株主通知は価格決定申立事件の申立要件か否か」という争点で、東京高裁は判断が分かれているのをみても、前例のない裁判では裁判官も心証形成のための拠り所を求めたがるのではないでしょうか。そこに地裁判断は大いに疑問、と「編集部名」で書かれてあれば、いくら聡明な裁判官の方々でも、格式の高い法律雑誌であるがゆえに参考にされるところもあろうかと思います。(ただ、私がこの記事を読んだかぎりにおきましては、だいたい2頁目あたりで「これは当事者が書いた」とすぐにわかりそうにも思いますが・・・笑)

これは調査委員会報告書とは関係ありませんが、「金商判例」と「NBL」双方の記事を比較してみますと、どう考えても第三者から苦情が出ることは明白であります。明白であるにもかかわらず、どうして執筆者は双方の出版社に原稿を提出されたのでしょうか?おそらくこれは法律事務所のご判断ではなく、その方もしくはそのチームのご判断ではないかと思います。このあたりも、実際はどうであったのか、知りたいところです。

実際のところ、出版社はどこも経営がむずかしい時期に来ており、社員数などもギリギリのところで賄っておられるものとお聞きしております。そういったなかで、編集担当者がどこまで目を通すことができるのか、というところも気になるところであります。執筆者と編集担当者との個人的な信頼関係が「無形資産」ではないか、という点も長所と短所があるのかもしれません。率直に申し上げて、こういった問題が発生したからといって「不買運動が始まる」ものでもなく、とくに経営面に影響が出るものでもないでしょうが、だからこそ「あるある」で民放連を除名され、最近ようやく復帰された関西の某テレビ局と同様、外部有識者による編集オンブズマン制度を発揮され、自浄能力のあるところを見せつけていただきたいと真に願うところであります。以上、旬刊商事法務をこよなく愛するひとりのファンの檄文としてお読みいただければ幸いです。

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2010年4月 1日 (木)

「不正発見監査」はもはやトレンドなのか?

修了考査に合格された皆様、まことにおめでとうございます。登録を済ませば晴れて公認会計士ですね。高い志をいつまでも忘れずに、精進されますことを祈念しております。(いろいろと問題になっておりますが、「実務補習所」というのもたいへんなんでしょうね。)さて、私は畑違いではありますが、日本監査研究学会が発行されていらっしゃる「現代監査」第20号(2010年3月号)に、「会計不正に係る判決と課題」なる報告を寄稿させていただきました。このような由緒正しい論文集に拙稿を掲載していただき、関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

同文館出版さんより、この「現代監査」を送っていただいたので、初めて拝読いたしましたが、著名な会計学者の方々の論文表題に少し驚きました。イマドキの論文はIFRS(国際会計基準)に関係するものがズラリと並んでいるものと予想しておりましたが、さにあらず、不正監査に関連するテーマが非常に多いのであります。「不正リスク」「内部監査人の不正に対する責任」「不正に関する監査人の役割」など。最近の会計監査に携わる会計専門職の方々のご関心は「不正に立ち向かう監査」に向いておられるのでしょうか?

そういえば3月30日、大阪弁護士会館におきまして、大阪弁護士会と会計士協会近畿会合同による研修会「企業及び非営利法人における反社会的勢力に対する防御策」が開催されましたが、ここでも弁護士(民暴委員会副委員長の先生)と並んで中堅の公認会計士の方が講演をされました。「反社会的勢力排除」に関する問題は、弁護士の専門分野かと思っておりましたが、IPO支援業務に従事しておられる会計士さんが、「反社会的勢力からの企業防衛の提言」について具体策を講演されたのであります。しかも、金商法193条の3を引き合いに出して「法令違反等事実を発見した場合には、この条項を用いましょう」ということでありました。

コーディネーターの若い会計士の方が「私たちはいつも『重要性がない』とか『証憑がそろっていればそれで十分』という認識で監査に従事していますが、もっと不正に立ち向かう姿勢で監査に臨まなければいけないのですね」とおっしゃったのが印象的でありました。えー!?会計監査人の意識はそこまできているのですか!?ホンマに?(涙)・・・と私は心の中で叫んでおりました。ちなみに会計士さんのお作りになったレジメを再確認しますと、反社会的勢力排除のための事後対応として、たしかに「金商法193条の3による対応も必要となる」と書かれております。厳密には「財務報告の信頼性に重大な影響を及ぼすような法令違反等事実」に反社会的勢力との癒着問題が含まれるかどうかは若干の疑問もございますが(反社会的勢力との癒着について守秘義務が解除される、ということも含めて)、少なくともそれくらいの意識をもって監査に望まれる会計士さんがいらっしゃるということは非常に心強いものを感じました。

しかしながら、この「不正監査」は監査業界においても時流に乗ったテーマなのでしょうか?もしそうだとすると、何が原因でこうなったのでしょうか?例の監査法人解散、公認会計士法改正あたりからなのか、それとも私の報告にあるような最近の裁判の流れからなのか、それとも会計士さんご自身の意識変化によるものなのか、よくわからないところであります。ただ、いずれにしましても、内部統制報告制度と同様、「不正監査」につきましては、法律家と会計専門職との共有できるテーマでありますので、垣根を越えて共同研究を行うべき重要な課題だと認識しております。法律家にとって非常に難解な「リスク・アプローチ」の概念とともに、もうすこし議論が深化することを期待しております。

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