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2010年4月 1日 (木)

「不正発見監査」はもはやトレンドなのか?

修了考査に合格された皆様、まことにおめでとうございます。登録を済ませば晴れて公認会計士ですね。高い志をいつまでも忘れずに、精進されますことを祈念しております。(いろいろと問題になっておりますが、「実務補習所」というのもたいへんなんでしょうね。)さて、私は畑違いではありますが、日本監査研究学会が発行されていらっしゃる「現代監査」第20号(2010年3月号)に、「会計不正に係る判決と課題」なる報告を寄稿させていただきました。このような由緒正しい論文集に拙稿を掲載していただき、関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

同文館出版さんより、この「現代監査」を送っていただいたので、初めて拝読いたしましたが、著名な会計学者の方々の論文表題に少し驚きました。イマドキの論文はIFRS(国際会計基準)に関係するものがズラリと並んでいるものと予想しておりましたが、さにあらず、不正監査に関連するテーマが非常に多いのであります。「不正リスク」「内部監査人の不正に対する責任」「不正に関する監査人の役割」など。最近の会計監査に携わる会計専門職の方々のご関心は「不正に立ち向かう監査」に向いておられるのでしょうか?

そういえば3月30日、大阪弁護士会館におきまして、大阪弁護士会と会計士協会近畿会合同による研修会「企業及び非営利法人における反社会的勢力に対する防御策」が開催されましたが、ここでも弁護士(民暴委員会副委員長の先生)と並んで中堅の公認会計士の方が講演をされました。「反社会的勢力排除」に関する問題は、弁護士の専門分野かと思っておりましたが、IPO支援業務に従事しておられる会計士さんが、「反社会的勢力からの企業防衛の提言」について具体策を講演されたのであります。しかも、金商法193条の3を引き合いに出して「法令違反等事実を発見した場合には、この条項を用いましょう」ということでありました。

コーディネーターの若い会計士の方が「私たちはいつも『重要性がない』とか『証憑がそろっていればそれで十分』という認識で監査に従事していますが、もっと不正に立ち向かう姿勢で監査に臨まなければいけないのですね」とおっしゃったのが印象的でありました。えー!?会計監査人の意識はそこまできているのですか!?ホンマに?(涙)・・・と私は心の中で叫んでおりました。ちなみに会計士さんのお作りになったレジメを再確認しますと、反社会的勢力排除のための事後対応として、たしかに「金商法193条の3による対応も必要となる」と書かれております。厳密には「財務報告の信頼性に重大な影響を及ぼすような法令違反等事実」に反社会的勢力との癒着問題が含まれるかどうかは若干の疑問もございますが(反社会的勢力との癒着について守秘義務が解除される、ということも含めて)、少なくともそれくらいの意識をもって監査に望まれる会計士さんがいらっしゃるということは非常に心強いものを感じました。

しかしながら、この「不正監査」は監査業界においても時流に乗ったテーマなのでしょうか?もしそうだとすると、何が原因でこうなったのでしょうか?例の監査法人解散、公認会計士法改正あたりからなのか、それとも私の報告にあるような最近の裁判の流れからなのか、それとも会計士さんご自身の意識変化によるものなのか、よくわからないところであります。ただ、いずれにしましても、内部統制報告制度と同様、「不正監査」につきましては、法律家と会計専門職との共有できるテーマでありますので、垣根を越えて共同研究を行うべき重要な課題だと認識しております。法律家にとって非常に難解な「リスク・アプローチ」の概念とともに、もうすこし議論が深化することを期待しております。

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コメント

 先日の勉強会ではありがとうございました。
 反社会的勢力との癒着が「財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実」に該当するというのは、割と素直に受け入れることは出来ますが、何をもって「反社会的勢力」とするかというのは現場では難しい問題だと思います。
 また、上記に該当すると報告義務が発生するとなると、非常に重たいです。
 さらに反社会的勢力との癒着は、全社的な内部統制の有効性に疑義を生じさせることにはなると思います。全社的な内部統制の重要な欠陥、または、内部統制監査の意見不表明という結論には結び付けられやすくなるのではないかと思われます。
 

投稿: goo_n | 2010年4月 1日 (木) 21時46分

goo_nさん、こんばんは。
こちらこそ、たいへん勉強になりました。ありがとうございます。

その「反社会的勢力」の件ですが、講演後に弁護士の講師の方には
質問をさせていただいたのですが、「属人的な要件」だけで
反社会的勢力との癒着とみるのがむずかしい時代になってきたのでは
ないかと思っています。
むしろ極めて「疑いが濃い」ということで排除できるシステムが
ほしいので、いわゆる「行為要件」で認定できるようにできれば、と
いった話をしておりました。
そんなところでの疑問として「反社会的勢力との接触」という言葉は
非常に抽象的であり、もうすこしこれを補完できるような行為が
なければ「法令等違反事実」には該当しないのではないか、というのが
疑問です。「取締役自身がソレ」というのであればわかるのですが・・
ちなみにK電機さんのときは粉飾のおそれ、というものでしたね。

投稿: toshi | 2010年4月 1日 (木) 23時23分

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