« これはおススメ!会計士協会「不正調査事例分析」 | トップページ | 「命燃やして-山一監査責任を巡る10年の軌跡-」を読んで »

2010年4月22日 (木)

グループ企業内部通報制度の考え方(整備編)

「とおりすがり」さんのご指摘で、「4月号の記事どうなんやろか」と思っておりましたが、案の定、中央経済社「ビジネス法務」誌でも・・・・・・・・・・ガックリorz(って、もう常連の皆様ならおわかりかと。。。 商事法務さんだけ書いて、中央経済社さんは書かないのは、やはり中立公正ではないと思いましたのであえてご挨拶代りに一言。 上場会社さんですし・・・・)

(話はガラっと変わりますが)

一昨日ご紹介した「上場会社の不正調査に関する公表事例の分析」(日本公認会計士協会)120頁の記述によりますと、分析対象会社30社のうち、会計監査人等からの指摘が8社、社内監査等での発見が6社、日常取引での不正発見、不正関与者の自主申告がそれらに続き4社であります。ここにも記載されているとおり、会計監査人や社内監査等での発見のうち、多くが社内での通報や告発に基づくものが含まれていると思われますし、また不正関与者の自主申告は、内部統制が厳格となり、逃げ場を失って自主申告に至ったケースも見られます。したがって、純粋に「怪しい」と睨んで発見に至ったのは「日常取引での不正発見」というパターンだけではないかと思われます。(この日常取引での不正発見というのはフォレジックの手法などによって端緒をつかんだ部類なのかもしれませんね)

同報告書でも「不正発見の環境を整えること」が課題とされており、「日本ではまだ利用度が高くないとされる社内・社外からの通報制度や、あるいは関与者による自主申告制度などの充実を図る必要がある」とされております。しかし、どうやって充実させればよいのか?という各論部分での議論というのは実際にはまだなされていないのが現実であります。

たとえば本日、TDNETにて開示されておりましたエムスリー社の「当社子会社メビックス株式会社の過去決算に係る調査結果について」でありますが、エムスリー社のTOBによって昨年8月にマザーズを廃止となりましたメビックス社の会計不正事件(経営陣が関与した売上前倒し計上事案)につきましては、連結後にメビックス社の社員が親会社であるエムスリー社に対して内部通報を行い、これが発端となって不正が発覚したそうであります。(社外調査委員会報告書、ご参照)経営陣が関与していた会計不正事件なので、自社内における通報制度がまったく機能しないパターンであり、親会社への通報が機能した典型的な事例であるといえます。

Naibutuhou002_2 最近よくみられる「子会社経営者による会計不正事例」に関する発見的機能を有するのがグループ企業内部通報制度であります。グループ企業内部通報モデルはいくつか種類がございますが、公益通報者保護法による社員の保護を重視した場合、外部窓口もしくは親会社の社内窓口へ子会社社員が直接通報できるパターンが比較的多いと思われます。

このモデルは一見素晴らしいように思えますが、実際に窓口業務を経験してみると、3つの欠点がございます。ひとつは子会社といえども独立した法人であり、子会社の秘密情報をダイレクトに親会社が取得してよいのか、という法的な問題、ふたつめは子会社社員のことを親会社はよく知らないために、スクリーニングがうまくいかず、いわゆる「デタラメや悪意に満ちた告発」に親会社が振り回される危険、そして三つめは公益通報者保護法によって社員が保護されるのは子会社との関係ですから、子会社としては「親会社に迷惑をかけたとんでもない社員」として出向や配置転換、ときには解雇処分など、事実上の不利益な取扱いが子会社から社員に対してなされる危険性が高い、というものであります。(すでに新聞報道もなされているような事件もあります)

しかし最近の会計不正事例をみますと、M&A後に子会社の不正が発覚するケースが多く、しかも子会社代表者の関与した事例がほとんどであります。こういった不正を防止することはできませんが、せめて早期に発見するためには、こういった短所はあるものの、グループ企業の親会社が一括して子会社の社員から通報を受理するような制度を運用せざるをえないのではないか、と最近は考え直しております(実は、以前は上記のような問題が多いことから、私自身は消極的でありました)。スクリーニングに関しては、子会社の監査役や共通の会計監査人等を通じて客観的な事実調査を行うことに工夫が必要であり、また子会社による事実上の不利益な取扱い禁止については、親子会社間においてあらかじめガイドライン等で明確に合意しておく必要があろうかと思われます。

|

« これはおススメ!会計士協会「不正調査事例分析」 | トップページ | 「命燃やして-山一監査責任を巡る10年の軌跡-」を読んで »

コメント

金融商事判例までも・・・

投稿: とおりすがり | 2010年5月17日 (月) 21時43分

1341号の最終頁ですよね(^^;;
私も読みました。。。

商事法務、中経ときて、何も触れないのもマズイかな、と。

投稿: toshi | 2010年5月17日 (月) 23時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: グループ企業内部通報制度の考え方(整備編):

« これはおススメ!会計士協会「不正調査事例分析」 | トップページ | 「命燃やして-山一監査責任を巡る10年の軌跡-」を読んで »