企業集団における内部統制(近鉄グループの場合)
いよいよGWが始まりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。この時期、神戸メリケンパークあたりは全国から観光客が訪れて「モザイク」を中心にたいへんな人手でありますが、そのメリケンパークの中心にあるFM局が経営権争いの末、民事再生法の申請がなされたということでたいへん紛糾しております。議決権行使禁止の仮処分決定が債務者の審尋なしで発令されたり(おそらく電話くらいはあったのかもしれませんが)、社長が流会を宣言した株主総会の決議無効確認訴訟なども提起されて、法律家としてはたいへん興味深い事件ではありますが、ちょっとローカル色の強すぎる話題ですので、こちらのブログでは触れずじまいでした。
ところで法務省法制審議会会社法制部会が4月28日に開催された、とのことであります。MBOを含めた企業買収の手続きも話題となる予定とのことでありますが、グループ企業の法規制のあり方なども議論の対象になるのかもしれませんね。
そういった法制審の議論とダイレクトに結びつくのかどうかはわかりませんが、4月23日の朝日新聞経済面の記事(大阪版だけかも?)に、近鉄さんが連結子会社の常勤監査役を大幅に増員することを決めたそうであります。ご承知のとおり、今年2月に近鉄社の連結子会社であるメディアート社の不正経理が発覚し、社外調査委員会が設置され、過年度の決算修正を余儀なくされたことは記憶に新しいところ。また、他の子会社でも不正経理問題が発生しておりました。そこで、近鉄社としては不正防止を目的として連結子会社49社のうち24社に常勤監査役を置くことを決めたそうでして、これまで常勤さんが置かれていたのは12の子会社だけ、ということですので、一気に12社増える、ということであります。
親会社の幹部職員が「非常勤監査役」として就任される例はよくありますが、親会社の業務執行担当者が子会社の「常勤監査役」として就任する(しかも一気に12社)というケースはそれほど多くはないと思われます。たしかに「独立性」については若干の疑問もありますが、貴重な人材を子会社のモニタリングに配置するわけですから、かなり思い切った体制改編であり、今回の事件に関する親会社の真摯な対応のひとつではないかと考えます。
ちなみに、記事では(連結子会社に)常勤監査役を設置すべき基準も紹介されており、この基準によるとメディアート社にも常勤監査役が設置されるとのこと。(ちなみに売上高、資産、従業員数が一応の基準とされておりますし、この基準を満たすレベルの上場会社はたくさんありますから、とくに不自然ではないと思われます)こういった企業集団全体からみたリスク・アプローチにより、子会社の監査体制を整備する必要性は、これまでも提唱されていたところでありますが、今回の近鉄社の手法についてはひとつの具体的な試みであり、他社でも採用される可能性があるのではないでしょうか。(とりいそぎ備忘録程度にて失礼いたします。なおGW期間中もブログの更新を予定しておりますが、法務ネタとは全く違うことを書くかもしれませんので、お忙しい方はスルーしてください・・・・笑)
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コメント
親会社の業務執行者が常勤監査役に就任する、ということについては二つ程問題があるような気がします。
1.常勤性
親会社の業務執行担当者としては、親会社からの出向と言うことであればともかく、兼任の場合、常勤監査役の常勤性を満たすかどうか、つまり、常時会社の事業所等に勤務し、違法行為に目を光らせる、また、役職員の適法性に関する相談に乗る、会議に出席する、等々をきちんとできるのか、という問題があります。
2.利益相反問題
親会社の業務執行者が子会社の監査役(常勤、非常勤を問わず)を兼任すると、そのような担当者は通常グループ会社管理業務に従事しているでしょうから、子会社の不祥事を暴いて責任追及をさせると、当該業務執行者の業績評価がマイナスになる、また、少なくとも上司たる担当役員の責任になる、ということで、握りつぶされるリスクがあると思います。つまり、当該子会社常勤監査役には不祥事を隠匿するインセンティブがあるということです。
利益相反かと思いますが、いかがでしょうか(世間には多くありそうですが、よく考えると危険、という事例では。)
個人的には、親会社監査役(会)の指揮命令の下に動く、いわば監査役スタッフとしてならば利益相反はないと思いますが。
投稿: Kazu | 2010年4月30日 (金) 10時40分
子会社、関係会社を多く保有する企業のGovenance体制の強化として、それらの会社に親会社の人を常勤監査役として任命することは、有効であると思います。非常勤の場合は、会計監査人と大差ない恐れもあると思います。
但し、親会社からの出向者は、ともすれば出向元での出世・昇進に関心があり、問題点の指摘より、自分の任期中に不祥事がないこと、不祥事が発覚しないことを望み、機能しない恐れも懸念されます。
方法としては、定年に近い人を子会社監査役に就任願うことと思います。即ち、大量定年時代に入っており、有能な方が、必ずしも、その会社の役員になれない。子会社の相談役なんてこともあり得るでしょうが、それより、監査役として第一線で活躍いただくことが、最も有効と思います。一般的には、子会社の監査役として、出向させるとなると、下手をすると子会社経営陣より若いこともあり得る。親会社における上下関係が持ち込まれる恐れがあると同時に、経験的な分野での論争や、親会社に対する報告の面でも、定年に近い人が子会社監査役に就任した場合の、有効性があるのではと私は思いました。
投稿: ある経営コンサルタント | 2010年4月30日 (金) 13時40分
先生、ご無沙汰しております。
近鉄さんの件は、「なぜ内部監査部門の強化ではなく常勤監査役を増やすことでもってガバナンス強化を試みたのか。そうすることに決定した過程はどのようなもんだったのか。」というのが非常の気になります。
社内(子会社含む)の不正を調査するなら、(親会社の)内部監査部門を強くした方が効果が高いのではないかという気もします。確かに、親会社従業員等を子会社監査役に就任させ、子会社内部に精通させるということも方法の1つとは思いますが、それはそれで子会社が「俺たちを監視しに来た親会社のやつ」ということで、身構えられてしまうと、有効に監査ができないのではないかと思います。
どちらにしろ、折角このようなガバナンスを試みてくれている訳ですから、是非、その効果の程を今後開示していただきたいものです。
投稿: m.n | 2010年4月30日 (金) 22時45分
ご無沙汰しております。
云うまでもなく、会社会社で環境が異なりますので、どの方法がベストだと断言することは出来ませんよね。近鉄グループさんの場合、考えに考え、同社として一番実効性の高いやり方を選ばれたのだということだと思います。OBや定年間近の人が子会社に行っても下手したら相手にされず、あしらわれて終わってしまいかねませんし、子会社の自主性(例えば、内部監査部門の強化)に任せておいていいのかと考えるなかで、たとえ利益相反になろうとも現役の親会社の人間が実態を伴った「監視」役として子会社に入り込むことが必要と思われたのでしょう。
親会社に籍を置いたまま「常勤」の役員として派遣される、という異例な処置に、近鉄さんの苦心が偲ばれます。
ことが起こってしまった以上、子会社を萎縮させてはならないとか、そういうことは云っていられないのでしょうね。
それにしても、関係ない話ですが、野次馬的には面白いですな、セイコーさんは(笑)。ステークホルダー(従業員や株主、取引先ら)にとっては迷惑千万なことですけど。創業家も経営者も総退陣し所有株式も放棄するぐらいの覚悟はないのでしょうか。。。
投稿: 機野 | 2010年5月 1日 (土) 02時18分
皆様、ご意見ありがとうございます。「備忘録程度」とエントリーで書きましたのは、ちょっと時間がなくて、こういった常勤監査役を増やすことのメリット、デメリットについて自説を書けなかったところであります。
やはり、皆様方のご意見が、そのメリット、デメリットに集中しております。(よくお読みいただいておりまして、ホント恐縮です)
たしかに全社的内部統制の在り方としましては、指摘すべき点はいろいろあるとは思うのでありますが、私も機野さんのご意見に近いほうで、利益相反問題や、内部監査手法の妥当性などにも少しひっかかるのですが、ともなく経営陣の「真剣さ」を社内・社外にアピールすることがまず第一なのかな・・・などと考えております。
たしか子会社と親会社との間で、経営陣の交流は頻繁になされていたにもかかわらず、情報がまったく親会社に伝わっていなかったそうですから、ともかくモニタリング機関を設置することで、この情報伝達の実効性を上げることにも寄与してほしいと思います。こういったガバナンスが機能するかどうか、私も開示していただきたいと思いますね。
投稿: toshi | 2010年5月 2日 (日) 02時00分