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2010年4月 9日 (金)

富士通の混乱と日弁連「第三者委員会ガイドライン」

富士通社の元社長の方が、株主代表訴訟(提訴請求)および取締役らに対する損害賠償請求訴訟の準備をされている、との報道が各局からなされております。法廷闘争となる状況のようでありますが、そのなかでご自身が辞任に至る経緯につき、外部委員から構成される第三者委員会で調査するよう、富士通社に要請されたそうであります。(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)何も不祥事が発生していなければ問題はないのでありますが、富士通社側としましても、例の不適切な開示がありましたので、たしかにステークホルダーとしては辞任劇に関する更なる情報開示、しかも公正な立場で調査を行った結果についての報告を聞きたい、と考えるところも合理的な理由があるように思えます。

ところで、とも先生のブログでもお書きになっておられますので、私のブログでも少しばかりご紹介いたしますと、このほど日弁連では企業不祥事発生時に構成されます「外部第三者委員会」の指針(第三者委員会ガイドライン)がほぼまとまりまして、日弁連の関係各委員会における意見聴取の段階にまで来ております。昨年来、新聞でも何度か報じられているとおり、弁護士によって構成される「第三者委員会」の報告内容が、本当に独立公正な立場で調査されているのかどうか疑問・・・との声が世情聞かれるところであります。これではせっかく企業が立ち直るために委員会を設置したにもかかわらず、なにやらグレーなイメージだけが残ってしまうことから、本来の第三者委員会のあり方を指針として明示すべきではないか、ということで策定されてきた経緯がございます。私も関係委員会のPT副座長を務めております関係から、今週この「ガイドライン案」が回ってきまして、内容を拝見させていただきました。また来週月曜日にはこのガイドライン案に関する意見とりまとめの関係で日弁連の業務改革委員会における緊急電話会議が開催されます。

ところで、このガイドライン案を拝見しての感想でありますが、とも先生を含め、著名な企業法務弁護士の方々が作成された「ガイドライン」に沿った第三者委員会が、この富士通社の外部第三者委員会として調査にあたったとしたら・・・・・・・・・・なかなかスゴイことになるのではないか、と予想いたします。(^^;  純粋に元社長の方が辞任されるまでの事実経過だけを調査対象とするのであれば特に問題ではないと思いますが、たとえば辞任を迫った原因となるニフティ社売却の関係当事者の件などにも調査が及ぶとなりますと、反社会的勢力に該当する個人もしくは法人が存在したのか、もしくは当該個人または法人が反社会的勢力であると信じるに足りる合理的な理由があるのか、といったあたりまで調査の対象になってしまうのではないでしょうか。もちろん、報告書が誰を対象として開示されるのか、という点は課題として残りそうですが、それでも紛争当事者に調査結果が公表されますと、おそらくどちらかの当事者から結果がマスコミへ流れるでしょうから、やはり影響はかなり大きなものとなるはずであります。ステークホルダーがいったい何を知りたいのか・・・ということを詰めていきますと、やはり今回の富士通の混乱問題では、反社会的勢力の関与の有無、ということになるのではないかと。

まだガイドライン案の内容をここで申し上げるわけにもいきませんが、示されるガイドラインは「ベスト・プラクティス」でありますし、比較的柔軟なものとして公表される予定だそうであります。しかしながら個人的な意見としてはおおいにツッコミドコロ満載でありまして、来週月曜日の電話会議でも、多くの疑問点を指摘させていただきたいと思っております。ただガイドライン案の「前文」に、たいへん興味ある言葉が登場してまいりまして、(たぶん消されることはないと思いますが)弁護士の業務としては初めて「リスク・アプローチ」という表現が用いられ、従来の弁護士業務と異質な面が多いことが指摘されております。これは大いに賛同するところであり、迅速性が要求されるなかでの事実認定の困難さを克服するうえでのメルクマールになるのではないかと考えております。毎度申し上げるところでありますが、独立性や事実認定の正確性をあまりにも強調しますと、迅速性に欠ける結果となり、あまり迅速性ばかりに目を向けますと、報告書の信頼性に疑問が生じるわけでして、このトレードオフの関係についてどこで折り合いをつけるか・・・というあたりがムズカシイ課題ではないかと思います。なによりも「普段の弁護士業務とはかなり異質なもの」であることを正面から認めたうえでのガイドラインであることを高く評価いたします。今後は、このガイドラインに沿った形での第三者委員会を、不祥事を発生させた企業が(社会的な責任として)受け入れる「度胸」に期待したいところであります。

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コメント

日弁連でどういうアプローチをとるか、なかなか興味深いです。
本当は、問題事例を具体的に示したうえで問題の所在を分析しないと解決は導けないと思いますが、そういう検討は同時にされているのでしょうか。問題事例に関して、弁護士倫理上問題がなかったか、もちろんガイドラインでは言及されると思いますが、そもそも論では、依頼者が会社である点を見落とし、あたかも経営陣を依頼者と扱って、しかもその意向を反映した事例があったならば、相当に問題ではないかと思われます。あくまで一般論ですが。

次に、やはり信頼性の基礎は独立性ではないか、と思います。客観性、中立性など直接測定できないのですから、外観的な独立性の価値、それから調査手法等のプロセスの適正さなどをきちんとルール化しなければ、ガイドラインとして意味がないのではないか、と思います。

これまでもお題目だけで実効性の乏しいガイドライン・指針が公的な研究会から多数出されたことがありますが、それはやはり業界利益を配慮して本筋からはずれた結果ではないか、と思います。中途半端なものは、永続的な価値をもちえません。官僚の方ばかり批判する意図はありませんが、成果物をみて、失望する例は多数あります(調整型では、本当はダメなのでしょう)。

弁護士会は、業界と近い官庁が策定する公的研究会のガイドライン等よりも、考えようによってはもっと疑念をもたれかねない点には留意していただきたいと思います。
(弁護士が自らの関与の在り方についてガイドラインを策定しようというのだから、身内に甘いと非難されないようにする必要があるでしょう。)
中身が余程しっかりしていないと、中途半端なガイドラインは弁護士全体の信頼にも疑問を抱かれかねません。関係委員の方々の検討の成果には、そういう観点から疑念を抱かれない高度なものを期待しています。

投稿: 龍のお年ご | 2010年4月10日 (土) 11時07分

外部第三者委員会が独立しているかどうかを監査する、外部第三者委員会に対する外部第三者委員会を設立し、さらにその委員会に対する外部第三者委員会を作る・・・こんな感じにしないと、第三者委員会が真に独立しているかどうか担保する事は困難でしょうね。

一方で、外部第三者委員会が企業の内情を公開しすぎて会社がさらなる危機に陥ることも避けたいところでしょう。本当に独立して調査してもらっても困るし、やりすぎるなら不祥事が起きても外部第三者委員会など設置しないとする企業も増えてしまいます。

そうすると、独立性はともかく、同じような不祥事が起きない程度に情報を公開できる絶妙なバランス感覚を持った第三者委員会が必要になってくるのでしょうが、そんなバランス感覚を常に保てるのでしょうか?

私は外部第三者委員会の制度そのものに懐疑的です。私は、内部者による誠実な報告に、外部第三者委員会がお墨付きを与えるだけの役割だけで良いと思います。(例えるなら財務諸表に証明を与える公認会計士の役割です)どうせ、出来レースになってしまうんですから・・・

投稿: ターナー | 2010年4月10日 (土) 21時02分

辰のお年ごさん、ターナーさん、厳しいご意見ありがとうございます。
おそらくおふたりのご意見は、一般企業からの感想に近いのではないかと思います。

社会的な要請があって、日弁連でも大阪弁護士会でも開始するわけで、信頼を失わないよう、始動いたします。

投稿: toshi | 2010年4月12日 (月) 11時04分

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