« 富士通の混乱と日弁連「第三者委員会ガイドライン」 | トップページ | 消費者事故等に係る情報開示制度と内部統制構築義務 »

2010年4月12日 (月)

試験データ改ざん事件にみる「情報伝達経路」の曖昧さ

朝日新聞だけが報じているものですが、田辺三菱製薬の子会社の元社長さんが、製剤データの改ざん(差し替え)をして厚労省への承認申請をしていたことが社外調査委員会の報告書で判明した、とのことであります。(朝日新聞ニュースはこちら)厚労省への承認申請取り下げ、および自主回収などのリリースは昨年3月末に田辺三菱製薬社によりなされていたものでありますが(リリースはこちら)、具体的な事実経過については今回の報告書で明らかになる模様であります。(不適切な会計処理発覚に関する調査報告書とは異なり、このての社外調査委員会報告はなぜ時間がかかるのか?という疑問もあるかもしれませんが、監督官庁との関係から「それなりの理由」があるわけでして、これはまた別途エントリーしたいと思います)

報道された事実のなかで、2005年に就任した2代目社長さんが、社内の意識調査で不正をうかがわせる内容の回答があったが、これを取り合わなかったとされ、その理由については「親会社からの出向者との待遇面での格差などに不満を持つ現地採用者が、過激な表現や針小棒大な回答をしていると考えた」とのことであります。ここでは「社内の意識調査」とありますが、これは内部通報の場合でも同様でありまして、この社長さんの発言はまことに「よくある」ケースかと思われます。だいたい私の通報窓口業務の経験からしますと、原因はふたつ考えられます。

ひとつはよくブログや講演で申し上げるところの「先入観」や「偏見」に基づくものであります。先日の近鉄さんや、アーム電子さんの連結子会社における不適切な会計処理事件も子会社役員の方々の問題事例(積極的関与や黙認)でありましたが、役員さん方が不祥事に関する情報を耳にすると、悪い方向へは考えない傾向がございます。「たいしたことではない」「マスコミが興味を抱くことでもない」「監査法人に連絡するほど重要な誤差ではない」といった具合であります。そして、これは問題だ、と認識するに至った場合でも、今度は「これは前任者もやっていたこと」「職場ではみんな知っている」「この業界では『必要悪』であって、他社もみんなやっている」というあたりで正当化する傾向にあります。おそらく当該子会社社長さんも、たしかな根拠もなく、先入観をもって「たいしたことではない」と考えておられた可能性があります。「社内の常識と社外の常識に食い違いがあった」などといわれる場合もあります。

そしてもうひとつは、情報伝達のあいまいさに起因するパターンであります。実は内部通報制度を運用していて、これが最もやっかいだなぁと感じております。たとえば内部通報で10の情報が伝えられ、しかるべき部署に情報が集約されますと、その部署にとって都合が悪い情報は捨象され、残る5つの情報だけが担当取締役さんに届きます。その取締役さんは、ご自身がまだ出世の道が残っていたりしますと、これまた自身の責任にならないように都合よく経営トップに報告したり、派閥争いがあったりしますと、別の役員さんが責任をとらねばならないようなニュアンスで事実を歪曲して報告するケースもあります。最終的に経営トップの方のところへ情報が届いてみると、通報窓口に届いた10のうち、2とか3くらいの情報、しかも正確性を欠くものが届いたりするもので、そこから社長さんも「公表するほどのことはない」とか「コンプライアンス委員会に任せておけばよい」といった感じで不正リスクを把握できない状況に陥るわけであります。

今回の件も、ひょっとすると誰かが「これは出向者と現地採用者との待遇面での差に不満をもっている者の批難にすぎない」といった情報を混ぜ合わせて届けている可能性もあり、そうなりますと、元社長さんだけを責めるわけにはいかず、もっと構造的な組織の欠陥にメスを入れていかないと、このような不祥事の再発は防止できないものと考えます。記者会見で「私は知らなかった」とおっしゃる社長さんが多いのも、実はこういった情報伝達のあいまいさ、とか人間組織における思惑の産物に起因しているケースではないかと思われます。(もちろん、だからこそ内部統制の構築が必要になってくるわけでありますが)

PS

ところで4月9日に金融庁WEBにて企業内容等開示ガイドラインの改正留意事項がリリースされており、これがなかなか興味深いのでありますが、フォローされている方、いらっしゃいますでしょうか?

4月 12, 2010 内部通報の実質を考える |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/48062680

この記事へのトラックバック一覧です: 試験データ改ざん事件にみる「情報伝達経路」の曖昧さ:

» 不正と経営者の胆力 トラックバック まるちゃんの情報セキュリティ気まぐれ日記
 こんにちは、丸山満彦です。田辺三菱製薬子会社のアルブミン製剤の承認申請のための [続きを読む]

受信: 2010年4月12日 (月) 08時51分

コメント

社内の意識調査といっても多種多様です。
匿名のアンケート程度のものならば、不平不満の範疇のものが多く混じっているでしょう。大規模企業の場合であれば、誹謗中傷まじりのゴミ同然回答も多いことでしょう。

適切な処理方法としては、クレーム対応の基本が参考になると思います。
たとえば、同一の通報が相互に関連なく2つ以上なされていること、原因を共通にすると思われる回答が同様に2つ以上あること、内容の真摯性などが基準となりえます。
基本的に、明白な違法行為の通報でない限り、1件のみの情報にとり合う必要はありません。
調査にも経営資源をさく必要があるわけですから、ある程度の選別ルールに則ったより分けは大事です。

投稿: JFK | 2010年4月12日 (月) 02時44分

JFKさん、ご指摘ありがとうございます。

ちょっとエントリーでは舌足らずでしたが、ご指摘のとおりかと思います。このあたりは、今度出版する内部告発・内部通報と企業対応に関する本のなかで、ページを割いて解説しておりますので、またご覧いただければ幸いです。
ただ、実際に窓口業務をやっていて、最初から明白な違法行為の通報はほとんどありませんね。あまり厳格に絞りをかけますと失敗に終わります。

投稿: toshi | 2010年4月12日 (月) 11時08分

是非とも拝読させて頂きたいと思います。
なるほど、背景を想起することも必要なのですね。
匿名性と真摯性は相関関係がありそうですし、通報先(名宛人)の属性との関係も考えると、複数の方法論が出てきそうですね。

投稿: JFK | 2010年4月12日 (月) 22時43分

コメントを書く