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2010年5月31日 (月)

連邦量刑ガイドライン改正と日本法への適用可能性

企業の内部統制やコンプライアンスに詳しい方であればご存知だと思いますが、米国には「連邦量刑ガイドライン」が定められております。米国の連邦法では、企業犯罪に対しては非常に高額の罰金が規定されておりますが、いっぽうで裁判所がその量刑を判断するにあたり、企業内において一定の法遵守プログラム(コンプライアンス・プログラム)を備えていた場合には、量刑上の軽減を認める指針のことであります(いわゆるアメとムチによる政策)。このガイドラインは1991年に制定されたものですが、2004年に改訂され、SOX法の影響を受けて企業自ら内部統制システムを構築するためのインセンティブになっていることは周知のとおりであります。

ところで「月刊監査役」2010年6月号における柿崎環先生(東洋大学法科大学院教授)の論稿「米国における連邦量刑ガイドラインの改正と内部統制」によりますと、このガイドラインが2010年4月7日付で改正されたそうであります。(米国量刑委員会のWEBを拝見してみると今年11月から施行予定とされております。)

これまではコンプライアンスプログラムの内容については「犯罪の予防」に重点が置かれ、また経営幹部が関与する不正事件には適用されなかったのでありますが、このたびの改正では「たとえ上級幹部が違法行為に関与していたとしても、改正条件を満たす法遵守プログラムが機能していれば、会社の量刑上の軽減が認められる」ことになったそうです。その改正の条件というのは、「犯罪の発見とその是正」に重点が置かれておりまして

①法遵守・倫理プログラムの運用責任者に取締役会・監査委員会等への報告義務が明記されていること

②法遵守プログラムが、犯罪を社外の者よりも先に、または合理的に発見しうるものであること

③会社は適切な統治機関に対して直ちに犯罪を報告したこと

④法遵守・倫理プログラム担当者が不正への関与、黙認、意図的な無視をしていなかったこと

というものだそうであります。企業としての量刑は軽減される余地が広くなりそうですが、その分、運用の面において厳格な対応が要求されることになる、とのこと。不祥事は予防できるものではなく、かならず発生するリスクと捉えるならば、そのリスク低減のための運用実績こそ評価されるべきだと思いますので、こういった改正への流れは自然のように思われます。

我が国においても、独禁法上のリーニエンシー制度(自主申告制度)が比較的実効性が高いものとして評価されておりますが、こういった企業の自浄能力を高揚させる施策が講じられる可能性も十分にあると考えます。課徴金制度の普及もさることながら、昨今の判例にもみられるとおり、企業経営者自身への厳罰化、という流れが出てくるのであれば、過失犯認定のプロセスまたは情状の面において、こういった制度も活用できるのではないでしょうか。そこでは当然のことながら情報ラインの透明性や、犯罪発見時の迅速な対応などが要求されるのであり、今後は内部通報制度や公益通報への平時の対応が、法制度面においても注目されることになるのでしょうね。証券市場の健全性確保、という面におきましても、すべての上場会社に重いルールを課すのではなく、ルール違反にはあらかじめ重いペナルティを決めておいて、ただし各企業の法令遵守体制への取組みを量刑において反映させる、ということも考えられるのかもしれません。(ただし行政処分に裁量が認められる、ということの合意が前提となりますが)

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2010年5月30日 (日)

上場会社のクーデターに関与する弁護士のリスク-深夜開示より-

中央経済社「ビジネス法務」7月号では、「新ルール設立なるか?第三者委員会『新時代』」といった特集が組まれておりまして、存じ上げている先生や話題(?)の佐々木氏(証券取引等監視委員会総務課長)の論稿など、有事における上場会社が開示すべき情報の適切性を担保する「第三者委員会」の役割等わかりやすく解説されております。日弁連より第三者委員会ガイドラインが公表される直前だと思われますし、非常にタイムリーな特集ではないかと。今回のお話は、この「第三者委員会」の在り方にも関連するものであります。

さて、東京の企業法務弁護士として著名な先生よりメールを頂戴しまして、「これって、先生どう思われます?」ということで、教えていただいたのが5月28日(金)TDNET午後10時に開示されたアップルインターナショナル社(東証マザーズ)の「調査報告書受領等のお知らせ」と題するリリースであります。(情報どうもありがとうございました <m(__)m> )

ちょっと表現内容は不正確かもしれませんが、ざっくりと委員会報告書のなかから問題となる部分を説明いたしますと、

上場会社において「お家騒動」(創業者・大株主かつ取締役会長の方と、取締役社長との確執)が発生した。取締役社長は、会長の勢力を社内から一掃するためのクーデターを考えていた。知人の紹介で弁護士の紹介を受けた。当該弁護士は、この社長さんの計画実行を積極的に支援することになった。2月19日にクーデターは敢行されたものの、どうやら5日間で鎮圧され、会社のリリースが錯綜した。とくに、2月19日の時点で、会社は当該創業者である取締役会長を提訴する、といったリリースを出していたため、監査役会が中心となって、第三者委員会に提訴の根拠事実の有無を調査させることになった。当該報告書では、社長を支援していた弁護士が、(依頼者である取締役社長さんに)送付していたメールを、逐一公開し、「根も葉もない事実が、あたかも存在するかのように装って訴訟を提起して、挙句に対立役員を失脚させようと画策していた」とした。

第三者委員会報告書のなかでは、「ちょっと首をかしげたくなるような行動によって、社内を混乱させた法律専門家」といった事実認定(評価?)がなされております。(もし私の要約が事実と反するものであればいけませんので、よろしければ上記リリースに直接あたっていただけますと幸いですが・・・)いやいや、ひさしぶりにスゴイ開示情報であります(^^;といいますか、報告書に登場する弁護士の方も、企業法務(渉外等)でたいへんご活躍の方ですし、第三者委員会として「ここまで書いて委員会?」といった感覚を覚えました・・・・Σ( ̄□ ̄;)。つまり第三者委員会は監査役会からの嘱託で「会社として取締役会長さんを訴えるべきか否か」を調査することが目的であるにもかかわらず、「このようなお家騒動に至った背景事情」にまで踏み込んで克明にメール内容を開示する必要があったのかどうか、若干疑問を感じます。それとも、2月の開示内容に伏線がありますので、ここまで徹底した報告書を提出したのでしょうか、そうであるとしても報告書要旨だけを開示する、という選択肢もあったような気がします。

このたびの事例につきましても、2月ころからのアップル社の開示情報を逐一チェックしておりますと、(第三者割当増資に絡む問題など)固有の事情もありそうですので、当該支援にあたられた弁護士の行動の是非を含め、感想程度しか意見を述べることはできません。しかし、たしかにメールというのは動かしがたい証拠でありまして、そこで開示されているメールの内容を拝見いたしますと、うーーーーーん、と考え込んでしまいたくなるような表現もありますね。(日経新聞の経済部の記者さんが読んだら、おそらく心外に思うようなことも・・・。)ここではメールの内容にまで立ち入ってあれこれと野次馬的に意見を述べることは差し控えますが、こういった上場会社のクーデターに関与する弁護士としては、十分なリスク管理が必要ですね。これは実におそろしい。。。私もこういった役員クーデターに関与した経験がありますが、(当然のことながら)情報交換は決して社内メールでとりあう、といったことはいたしません。「密会」で情報交換を行ったり、クーデターのリハーサルを行うのが当たり前でして、どうしてもメールでの連絡が必要な場合は役員さん個人の携帯メールですよね。また、万が一、携帯メールの情報が関係者以外に漏れた場合のことを考えて「いとし、こいし」「マコとミコ」「さくらと一郎」(ちょっと古いですが・・・)等で関係者や企業名を特定しますよね。今回のリリースにもあるように、社内メールはどんなに削除したとしても、復元ソフトで(ある程度は)復元可能であります。これは上記「ビジネス法務」7月号のなかでも「デジタルフォレンジック」として紹介されております。また、復元された返信メールには、元の送信者のメール内容もくっついているケースが多く、いずれも証拠価値の高いものとして扱われることになります。

ところで本件ではクーデターを起こす側の役員さんから、事前に状況説明を受けていたとされる監査役の方(おひとり)が「第三者委員会」から離脱していますね。会社側による説明によると「委員としての公正性、透明性に疑問があるため自ら離任された」とあります。しかし私が監査役だったら、事前に状況説明を受けた時点で、当該役員の方に、「他の監査役にも同じ説明をしておいてください」と言うか、もしくは私自身が他の監査役さんに連絡をして、こういった情報を監査役会として共有するようにします。たしかに、クーデターを起こす側としては、当該クーデターが適正な手続きによって行われたことを監査役に見届けていてもらいたいとの欲求から、最低限度弁護士や会計士などの社外監査役だけには事前にひとこと説明しておきたい、という気持ちになるのは理解できるところであります。しかし打ち明けられたほうとしましては、「一方当事者と親密な関係にあった」と言われるのは嫌ですし。もし私のような監査役がいて、事前に監査役全員が状況を知っていた場合にはどうなったんでしょうか。やはりこういった場合には、監査役会が依頼をするにしても、第三者委員会は社外の独立した者だけで構成するほうがいいのではないでしょうか。いずれにしましても、第三者委員会の在り方や、弁護士業務のおそろしさ、またリスク管理の在り方など、きわめていろいろなことを考えさせられるリリースであります。「マニュアル本」を読んでいても、とうてい学ぶことができないような事件が世の中では次々と起こっていることに気づきますね。

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2010年5月26日 (水)

これも「監査役の乱」?(社外監査役が解任される・・・の巻)

つい先日、監査役(監査役会)が会計監査人を解任した・・・という事例をご紹介いたしましたが(結構反響がありましたです。。。)、今日は社外監査役が解任される(解任議案を定時株主総会に上程される)というお話。昨日(5月24日)のシルバー精工社(東証一部)のリリースによりますと、弁護士資格をお持ちの社外監査役さんについて、取締役の職務執行に関する透明性、合理性についての業務監査が十分でないことから、監査役としての適格性を欠いているもの認識し、当該社外監査役を解任することの議案を上程する、とのことであります。シルバー精工社独自のお家事情等もあるでしょうし、他の役員の方々にもかなり異動があったようですから、先日の会計監査人解任事案と同じく、当該具体的事例について軽々に論じることはできません。しかし「辞任」ではなく「解任」となりますと、やはり監査役さんの方にも納得できない諸事情があるのでしょうから、これもやはり「監査役の有事」のひとつに含まれることになりそうであります。(ちなみに、他のおふたりの監査役の方々は「辞任」ということのようです。)

以前トライアイズ社の件でも書きましたが、監査役が解任されるのは株主総会の特別決議が必要です。しかし、とくに正当な理由が必要となるものでもなく、一応何らかの理由があって、特別決議の要件が満たされれば解任されることになります。もちろん解任が上程された定時株主総会において、当該監査役さんは意見陳述の機会が付与されるわけですが、上場会社の場合、議決権行使書面の提出に対しては無力であります。書面投票制度を用いる株主総会の運営においては、招集通知にあたり事前に株主に対して参考書類を交付する必要があり(会社法301条1項)、会社法施行規則80条のとおり、参考書類には解任理由を記載することになりますが、後日解任決議の取消事由にならない程度のほぼ抽象的な表現が用いられることが多いものと思われます。また、平成21年会社法政省令改正によって参考書類の各議案には「提案理由」の記載が必須となりましたが、解任議案では元々「解任理由」の記載が求められていたので、とくに別途「提案理由」は不要と思われます。また、解任議案について監査役の意見があるときは、その意見内容の「概要」が記載されることになりますが、ここでも「概要」ですから、監査役さんの意見がそのまま参考書類に記載されるわけではありません。

このようなことから、監査役の思いが一般株主に伝わることがなかなか困難であるというのが正直な印象であります。「○○氏は監査役として不適格」と言われて、とても悔しい思いをする社外監査役さんとしては、「監査役の乱」を起こしても株主総会で屈辱的な思いを味わうだけに終わってしまうのでしょうか。トライアイズ社の元監査役の方のように、自らWEBページを立ち上げて直接株主に語りかけて、自らの意見を情報開示する、という手法に出なければ、解任議案への反論を実質的に試みることができないように思います。

しかし今回の件がトライアイズ社の件と異なるのは、監査役3名が同時に退任する可能性がある、ということであります。つまり他のお二人の監査役は辞任され、そして当該社外監査役の方は解任議案が上程される、ということですので、この様子(社内事情)からすれば(たいへん失礼ですが)他のおふたりも監査役として不適切であったということなのか、あるいは「不適切」という理由が本当なのか(辞任を要請したにもかかわらず、あくまでも辞任を承服しなかったために、やむをえず経営陣としては解任の手段に出たのか)疑問が残る、ということであります。私は監査役の有事にあたり、他の監査役と対立関係にあるのか、監査役間で協調関係が保たれているのかは非常に大きな差があるものと思います。先週、東京のある場所で金融庁ガバナンス連絡会議のメンバーでもいらっしゃるある方(複数の上場会社の社外取締役を務めておられます)と1時間半ほどガバナンスに関する意見交換をさせていただきましたが

社外取締役の人数は、その数の二乗分の勢力を持つ

というご意見に全く同感でありました。つまり、取締役会に1人の社外取締役がいるのと、2人いるのとでは4倍ほどの勢力の差があり、3人いれば9倍程度の勢力差になる、というわけです。ちなみに牛島弁護士の新刊書「利益相反(コンフリクト)」では、社長が安心できそうな知人3名を社外取締役に迎えいれますが、これも3名だからこそ、お世話になってきた社長を裏切るような行動に出ることができるのであります。

これは以前、私がある「監査役の乱」に関与した事案での経験からでありますが、監査役会として経営陣と対峙した場合には、相当に監査役らの影響力は強く、監査役らの意見を取り上げざるをえない場合が多いかと思われます。(この場合には社外からは、社内で何があったのかは窺い知ることはできないです)そこで、経営陣の常とう手段としては、監査役ひとりひとりに圧力を加え、監査役会としての結束を弱めることが最も効果的であります。結局「監査役の乱」の中心人物だけが孤立してしまう、というパターンであります。監査役は独任制の機関である、というのが法のタテマエではありますが、現実には監査役ですら、共同戦線がなければ無力に等しい・・・というのが監査役の有事対応の原則ではないかと思います。

あくまでも(私が解任議案を出された場合・・・というように)一般論でありますが、今回のように同時期に退任が予定されるような監査役さんがいらっしゃるのであれば、株主総会では、それぞれの事情について、株主総会で意見を開示することが可能です。たとえば当該社外監査役の方は、おふたりが辞任に至った事情を述べることもできますし、また辞任される監査役さんも、当該社外監査役解任に関して意見を述べることができます。本当に業務監査の能力に欠け、監査役として不適格だったのかどうか、他の監視役の意見も聞いてみたいところですし、後日の損害賠償請求や解任決議取消の訴え等、法的手段に出るための「証拠作り」のためにも、辞任される監査役さん方のご意見をお聞かせ願えるようであれば、「監査役の乱」も無力とはいえないような状況が残るのではないかと思われます。

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2010年5月25日 (火)

企業トップのリーガルリスクは確実に高まっているのではないか?

朝日新聞ニュースによりますと、先日のパロマ工業社の元経営者の方は、控訴しない方針のようで、有罪判決が確定する様子でありますが、本日も(民事事件ではありますが)過労死を巡る訴訟において、企業だけでなく企業経営トップの損害賠償責任も認められる、という異例の判決が出たそうであります。産経新聞ニュースによりますと、過労死弁護団全国連絡会議のコメントでは大手企業の経営トップの賠償責任が認められたのは初めて、とのことであり、「労働時間が過重にならないように適切な体制をとらなかったこと」について経営者に過失ありと判断されたそうであります。経営者の積極的な行動が「過失」と認定されたのではなく、いわゆる「不作為」が過失として認定されたようですね。

会社法上の内部統制構築義務違反が、経営トップの責任根拠となり、具体的に損害賠償責任や刑事責任が認められたのは、最近の事例だけでも日本システム技術事件判決(ただし最高裁は否定)や、貴乃花親方名誉棄損(新潮社)事件判決、また先日のパロマ工業事件刑事判決、そして本日の大庄事件判決など、目立って増えております。また注目されているJR西日本元経営陣への強制起訴事件も現在係属中であります。とくに今回の過労死訴訟で経営トップの過失が認められたことは、セクハラ・パワハラ等、企業の職場環境配慮義務が問題となる事件にも影響が出るものと思われ、極めて重要な意義があるように思われます。経営陣が接する不祥事情報としては、どう考えても労務コンプライアンスに関する情報が圧倒的に多いわけですから、「法令遵守体制を容易に構築することができた」と認定される可能性も当然のことながら高まるわけでして。

もちろん、これまで内部統制構築義務違反が問題とされてきた判決同様、法的な責任あり、と評価される根拠事実が(具体的な事案において)どのように認定されたのかが、もっとも重要な関心事ではありますが、確実に経営者の方々は、このような訴訟に巻き込まれるリスクは高まってきているようです。(執務時間中のため、とりあえず備忘録程度にて失礼します)

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2010年5月24日 (月)

過年度決算訂正と訂正内部統制報告書との関係

かつて当ブログでもっともアクセス数が増える人気ネタといえば「内部統制報告制度」いわゆるJ-SOXネタでありました。現在も、ときどきJ-SOXネタをエントリーしておりますが、「マニアックなネタ」として、以前と比べますと人気度が下がってきたことは事実です。ただ私自身はまさに「法と会計の狭間の問題」として未だ高い関心を抱いておりまして、アクセス数がどうのこうの、ということは気にせずに、これからもアップしていきたいと思っております。(しかし平成18年から19年ころにかけ、コメントを10個ずつまとめなおしてアップさせていただいていた時期がなつかしいですね。)

さて、5月21日に3年4カ月ぶりに金融庁の内部統制部会(企業会計審議会内部統制部会)が開催されたそうで、その資料が公開されております。いよいよ内部統制報告制度の見直しに向けての本格的な議論が開始されるようです。昨年参加させていただいた内部統制ラウンドテーブルでは「費用対効果」や「経営者評価基準のルール化、内部統制監査のレベル感の統一化」という点に多くの意見が集中しておりましたので、「簡素化と明確化」(資料3-2)という内部統制報告制度改正の検討課題はほぼ予想されたところといえます。また米国SOX法の実施状況と同じく、中小の上場会社とそれ以外の上場会社との間で、評価作業や監査のレベル感に差を設ける(というか、差があってもいいことをあらためて確認する)ことも議論されることは有意義であると思います。

本日現在、未だ資料だけが公開されており、議事録は公開されておりませんので、内容についてはまた別途検討してみたいと思います。ただ公開された資料のなかに、これまで内部統制報告書を提出した約3500社のうち、「当社の内部統制は有効であると判断した」とする報告書を提出しながら、後日「当社の内部統制には重要な欠陥があり、有効ではない」と訂正した会社が8社存在することが調査結果(資料)として掲載されております。以前も一度、当ブログで検討いたしましたが、いまだによくわからないところであり、いま一度きちんと問題点を整理しておきたいと思います。

Naibutousei004 2010年5月15日までに訂正内部統制報告書を提出した企業のうち、内部統制の有効性に問題があるとして訂正内部統制報告書を提出した企業は左の9社です。このうち、「有効→有効ではない」と訂正したのが上の8社であり、「有効でないとの結論は同じだが、その理由が変わった(追加した)」とされるのが下のミツウロコ社であります。訂正理由や不備の内容は、当該訂正報告書を私が読んだかぎりでの概ねの状況ですから、完全に正確なものではないかもしれませんので、あしからず。ちなみに「訂正理由」とあるのは、主にどの部分に重要な虚偽記載に影響を及ぼすおそれのある不備が残っていたのか、ということを示しております。

上記表をご覧のとおり、内部統制報告書の実質的な訂正(※1)を行った上場会社は、いずれも過年度の決算訂正を余議なくされた企業ばかりであります。(ただし、過年度決算訂正を行った企業のすべてが内部統制報告書の訂正を行っているわけではないことに留意すべきです)昨年あたりの訂正理由は決算財務報告プロセスに不備があり、これを重要な欠陥と判断した、というものが多かったのですが、最近訂正報告書を提出した会社は、会計不正事件が大きく新聞で報じられたことが関係しているのか、「全社的な内部統制」の整備もしくは運用状況に重要な欠陥が認められた、とするものが増えているようです。報告書提出後の四半期レビュー等により無視しえない虚偽記載が監査人等の指摘で発覚した場合、つまり会計不正事件などが問題とならないケース、もしくは会計不正が問題とされても「従業員不正」に関するものでは業務プロセス、もしくは決算財務報告プロセスに不備があったとされ、経営者の関与しているようなケース、子会社の不正が問題とされるようなケースでは全社的内部統制に不備がある、とされる傾向があるのでしょうね。

※1・・・これまで訂正内部統制報告書を提出している企業は38社ほどありますが、そのうち「内部統制は有効」とする報告書を提出しながら、後日「有効ではなかった」とする訂正を行った企業について、ここでは「実質的な訂正」を行ったものと表現しております。

1「重要な欠陥」を法律家が議論する意義

そもそも金融商品取引法24条の4の4には「重要な欠陥」なる用語は登場してこないのでありますが(ただし内部統制府令には登場)、内部統制報告書に虚偽記載をした場合には当該会社の役員には刑事責任が課せられ、また株主等に対する開示書類に関する民事賠償責任も発生することになっております。内部統制報告書の開示情報において、投資家の判断に重要な影響を及ぼすものは、おそらく「重要な欠陥」の有無に関するもの(つまり、内部統制が有効であるか無効であるかに関する経営者評価の結果開示)でしょうから、経営者が内部統制報告書の提出によって刑事責任や民事責任を負うか否かのメルクマールは、(理屈の上では)やはり「重要な欠陥」に関する司法的判断ではないかと思われます。つまり裁判所が経営者の刑事・民事責任を下すにあたって「重要な欠陥」の有無を判断するわけですから、これはやっぱり法律上の概念にあたると考えるべきなのでしょうね。(※2)ちょうど、会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行とは何か?」(会社法431条)という論点と同じように、もし内部統制報告書の提出に関する開示規制違反の問題が発生した場合には、一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準に準拠した「重要な欠陥」とは何か?ということが法律家にとって議論されることになるのではないかと考えます。また、仮に今後中小の上場会社の内部統制評価基準が緩和されたり、一般の企業の評価基準が簡素化される、ということになれば、法律的な判断の枠組みを議論しておく必要性もでてくるのではないか、と考えます。

※2・・・以前、私は「重要な欠陥」は法律上の概念ではない、と述べておりましたが、これは当時「重要な欠陥が残るということは取締役の善管注意義務違反ではないか?」といった議論がなされていたときに、これに答える意味として述べたものであります。しかし、会計慣行が何か、といった長銀事件最高裁判決の考え方などからみると、会計専門家の判断を尊重しつつも、最終的には裁判所が民事・刑事問題を解決すべき必要性は、この内部統制報告制度においても同様ではないかと考えるものでありまして、そうであるならば、やはり「重要な欠陥」の有無を最終的には裁判所が判断しなければならない、という意味においては「法律上の概念」といえるのではないか、と考えております。

このように「重要な欠陥」という概念が、法律上の概念として捉えられるのであれば、その中身については法律家としても議論する必要があるのではないかと考えますし、不備が虚偽記載に及ぼす影響度やその発生可能性というものをいつの時点で判断するべきか、という点などについても「法律的な」視点から検討する必要があろうかと思われます。また、財務諸表監査であれば、これは企業の「過去の会計事実」の情報開示への審査、ということでありますが、内部統制監査であれば、企業の「評価時点における将来リスクの判断」への審査ということであるわけで、そうであるならば決算訂正が必要な場面において、(たとえ評価範囲の中から後日、不備が発見されたとしても)内部統制の評価結果も訂正しなければならないのか、といった疑問も自然に出てくるのではないかと思われるわけであります。

少し長くなりましたので、本論であります「過年度決算訂正が必要となる場面において、内部統制報告書の訂正は本当に必要なのか?」という点には続きのなかで検討したいと思いますが、このあたりを真剣に検討するにおいては、「過年度決算訂正の法務」(弥永真生編著 森・浜田松本法律事務所や監査法人トーマツの方々の執筆による 中央経済社)、「会計不祥事対応の実務」(長島・大野・常松法律事務所 あずさ監査法人 編 商事法務)そして「内部統制評価にみる『重要な欠陥』の判断実務」(仰星監査法人 編著)といった比較的最近出された本のなかでも、相当に執筆者の方々が悩みながら検討を加えておられるようですので、そのあたりをご参考いただければ理解が進むのではないかと思います。(以下、つづく)

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2010年5月20日 (木)

「無煙タバコ」への対応は結果無価値か行為無価値か(その2)

東京地区限定で無煙タバコが発売されたそうでありますが、3月に「無煙タバコへの対応は結果無価値か、行為無価値か?」でも予想しておりましたとおり、各社の対応は分かれているそうであります。

日本航空は機内での喫煙OK、しかし全日空は無煙タバコも禁止とのこと。その他、JR東海と東日本はOKのようですが、JR西日本が禁止する可能性があるとか。(毎日新聞ニュースより)

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ちなみに、ライブドア社がネットでアンケートを集計した結果は以下のとおりであります。(私のブログも紹介されていたんですね。ありがとうございますm(__)m )「無煙タバコならどこでも吸っていいか?」という問いに対する回答(3065名)は、なんとオソロシイほどきれいに結果が分かれております。

さて、この結果を各企業はどのように受け止めるでしょうか?ちなみに、サービス業だけでなく、今後は社員の受動喫煙禁止となりますので、すべての企業で対応を検討する必要がありそうです。

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2010年5月19日 (水)

東証「独立役員」は社外監査役でも務まるのだろうか?

本日(5月18日)の日経新聞によりますと、東証が上場会社に届出を義務付けた「独立役員」について、約1割の上場会社が未だ独立役員を確保していないということであります。日経ヴェリタス5月9日号(58頁)でも、届出られた独立役員の75パーセントが社外監査役であり、社外取締役については、(本来46%程度の東証上場会社に社外取締役が存在するものの)25%程度しか就任されていない、と報じられておりました。そもそも上場会社の場合、大株主やメインバンク出身者から社外取締役が選任されているケースが多いために、東証の「独立役員」の要件を満たさない役員さんが多いことが予想され、この結果についてはとくに不自然ではないように思います。しかしながら、「独立役員」のイメージが社外取締役のイメージにかなり近いからでしょうか、これだけ社外監査役が多いことについて、マスコミで報じられる際には「ちょっと意外」な集計結果といった論調が見受けられます。

現実問題として、今回の東証のルール改正を各上場会社に浸透させるためには、社外監査役まで含めなければ実現困難であります。したがいまして、社外取締役・社外監査役の中から独立役員を選任して届け出る・・・ということもやむをえないのかもしれません。しかし、最新号の旬刊商事法務に資料として掲載されている「独立役員に期待される役割」(平成22年3月31日東京証券取引所上場制度整備懇談会)を読んでおりまして、そこで期待されている独立役員としての役割を、果たして社外監査役たる独立役員が果たすことが可能なのかどうか、若干の疑問があります。

東証が公表した「期待される役割」のなかでは、「一般株主」が定義されておりまして「株式の流通市場を通じた売買によって変動しうる多数の株主であり、個々の株主としては持分割合が少ないために単独では会社の経営に対する有意な影響力を持ち得ない株主」とされております。これら一般株主の利益に十分に配慮することが独立役員に期待される役割でありますが、この一般株主の利益が「上場会社の価値向上」の名のもとで、毀損されかねない場合として、3つの場面が具体例として掲示されております。ご承知のとおり、MBO、買収防衛ルール、第三者割当増資、という典型的な場面であります。上記「期待される役割」では、これら3つの場面において共通している内容として、一般株主を保護するためには、意思決定プロセスの中に独立した立場の者の客観的な判断を取り込むことが必要であるとされており、一般株主の利益に配慮した公平で公正な決定のために独立役員の存在は有効かつ必要である、とされています。

ここで解説されている内容につきましては、いわゆる「独立社外取締役」の必要性を論じるにあたっては極めて妥当なものであり、「独立役員」を「社外取締役」と同様のイメージで捉えるのであればとくに疑問の余地もないものと思います。しかし、(私も社外監査役たる独立役員でありますが)社外監査役としての立場となりますと、すこしイメージが違うのではないでしょうか。ここで述べられているのは「意思決定のプロセスの中に独立した立場の者の客観的な判断が必要」とされておりますが、監査役は意思決定のプロセスの中で判断する立場にはありません。あくまでも会社における重要な意思決定のプロセスをチェックするだけであり、経営判断には関与しないのであります。たしかに「期待される役割」のなかで紹介されているとおり、買収防衛ルールにおいて、社外監査役が一定の役割を担うこともありますが、それは「企業価値委員会」や「社外調査委員会」などにおける組織の構成員として意思決定に関わるものであり、会社の最終的な「企業価値」に関する意思決定に参加するわけではありません。そうしますと、この「期待される役割」の文章は、社外監査役を含めて「独立役員」として就任できる制度とは矛盾していることにはならないでしょうか。

さらに、上記「期待される役割」を最後まで読み進めていきますと、「留意点」として

なお、独立役員が監査役である場合には、会社法上の権限との関係で、取締役とは異なる面がありうる。

と説明されております。しかし、上記のとおり「異なる面がありうる」どころか、会社の重要な局面において会社の意思決定への関わり方には大きな違いがありまして、私の理解では、重要な局面における社外監査役たる独立役員には、重要な役割は期待できないのではないか、と考えます。むしろ、これをディスクロージャー制度のひとつとして捉えるのであれば、東証の定めた独立性の要件を満たした「社外取締役」が存在する企業と、独立役員に「社外監査役」を選任している企業とでは、上場会社のガバナンス評価としては差がある、と認識してもよいのではないでしょうか。(もちろん、個々の企業の事情がありますので、これはあくまでも「有事」を前提とした一般論としての評価でありますが)

では社外監査役が「独立役員」に選任されることが無意味であるか?と問われれば、そうではないと考えております。社長交代の決議などの場面も含め、上記で掲示されているのは会社の重大な局面におけるものであり、いわば有事対応であります。しかし平時であっても、つまり企業価値向上のためのガバナンス改革、企業不祥事の予防・早期発見のため(企業価値毀損防止のため)のガバナンス改革のためにも、そこで定義されている一般株主の利益保護のために独立役員が機能する余地は十分にあると考えております。それは会社法が本来の取締役や監査役に期待している権限行使や義務履行の「あるべき運用状況」を確保することであります。たとえば業務執行取締役や使用人兼務取締役が企業全体の利益確保のために取締役会で発言しているかどうか、自らの責任領域を超えて他の取締役の職務について監視義務を尽くしているかどうか、戦略会議や執行役員会議、専務会などで実質的な意思決定がなされ、取締役会が形がい化していないかどうか、監査役会が全社的な内部統制を有効にチェックしているかどうか、といった、本来会社法で要求されている権限行使・義務履行を独立役員が運用面からチェックするべきであり、このチェックを通じて各取締役・監査役が一般株主の利益保護について配慮する姿勢を向上させることが求められるのではないかと思います。独立役員自身に積極的な権限行使を求めるのではなくて、一般の社内取締役、監査役の「あるべき姿」を社内に機能させるための後方支援を行うことに期待すべきであります。

このように考えるのであれば、経営判断への関与、妥当性監査、といった問題をそれほど考慮しなくても、つまり社外監査役でも独立役員は務まるのであり、株主や一般投資家への説明責任も尽くせるのではないでしょうか。また、独立役員だからといって、特に高度な注意義務が課せられるものではない、という見解とも合致するように思います。「独立役員には情報が適時適切に届けられることが重要」とされておりますが、これも自ら経営判断に関与するためだけでなく、現に存在するガバナンスが有効に機能しているのかどうかをチェックする立場にあるからこそ、と考えるべきではないかと。最初から「独立役員制度」にあまり高邁な理想を掲げるのではなく、本来会社法が期待しているガバナンスの制度の運用面に光を当てることから始めるのが至極現実的な発想ではないかと思います。

この独立役員の制度も、「制度ができたからこれに合わせて終わり」というルールベースの考え方だけでは形骸化するのではないかという不安が出てきます。せっかく作った制度なのですから、「使いやすさ」つまり運用面での使い勝手まで含めて検討すべきではないでしょうか。(ただし、これはあくまでも平時における企業価値向上に向けての運用であり、有事における重大な局面における独立役員の務めとしては、やはり社外監査役では一抹の不安を覚える次第であります。)

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2010年5月16日 (日)

監査役の有事対応(監査法人を解任する・・・の巻)

(追記:本事件については、いくつかのブログでも取り上げられており、また有識者の方よりメールなども頂戴しておりますので、若干追記いたしました。)

いつも拝見している武田先生(会計士)のブログで知りましたが、TLホールディングスさん(大証ヘラ)が、スゴいリリースを出しておられます。同社は 1Qの四半期報告書提出遅延および監理銘柄指定のお知らせ のなかで、当四半期報告書の提出遅延理由を述べておられますが、同社の監査を担当されていたS監査法人の会計監査がひどすぎて話にならないから解任しました、本日一時会計監査人にG監査法人を選任しました、いまG監査法人による監査が未了のため、報告書の提出をやむをえず遅延します、とのこと。また、会計監査人異動に関するリリースのなかでも、同様のことが述べられておりますが、S監査法人からはとくに意見はないとの回答を得た、とあります。つまり、ここだけ読むと、四半期報告書の提出遅延の責任は、会計監査人の対応が悪かったためだ、監査法人は何ら反論もしないので、自らの責任を認めているのだ・・・ということになりそうであります。会計監査人たる監査法人さんが、ここまでボロクソに被監査企業から指摘されたリリースは、これまであまり記憶にありません。「辞任」ではなく「解任」ですから、これはよほどのことが両者間にあったのではないかと推察されます。

追記:小石川経理研究所さんのブログで知りましたが、平成17年5月にヤオコー社(東証1部)において監査役会が監査法人を解任した事例があるそうです。会計監査人の変更に関する補足について  なお、このヤオコーさんの事例をみると、監査法人の指摘事項と、それに対する自社の見解が書かれており、相当程度は対立点が明らかにされております。

会計監査人たる地位の解任のほかに、金商法監査に関するS監査法人の地位はどのような手続きで解任されたのだろうか・・・といった問題など、TL社のリリースからは、いくつか手続き上の疑問も残るところでありますが、ともかく監査役が会計監査人を解任する、というめずらしい事案であります。(ちなみに会計監査人の解任には監査役全員の同意による監査役会決議が必要であります-下記条文を参照)本来、ご承知のとおり会社法上の会計監査人は株主総会で選任され、また解任されるのでありますが、会社法340条1項所定の事由があれば監査役が会計監査人を解任することが可能であります。

(監査役等による会計監査人の解任)
第340条  監査役は、会計監査人が次のいずれかに該当するときは、その会計監査人を解任することができる。
   一  職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき。
   二  会計監査人としてふさわしくない非行があったとき。
   三  心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき。
2  前項の規定による解任は、監査役が二人以上ある場合には、監査役の全員の同意によって行わなければならない。
3  第一項の規定により会計監査人を解任したときは、監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、監査役の互選によって定めた監査役)は、その旨及び解任の理由を解任後最初に招集される株主総会に報告しなければならない。
4  監査役会設置会社における前三項の規定の適用については、第一項中「監査役」とあるのは「監査役会」と、第二項中「監査役が二人以上ある場合には、監査役」とあるのは「監査役」と、前項中「監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、監査役の互選によって定めた監査役)」とあるのは「監査役会が選定した監査役」とする。
(以下省略)

条文を読む限りでは、個人としての公認会計士ではなく、監査法人に適用されるのは同1項1号、つまり「職務上の義務に違反し、または職務を怠ったとき」に該当する場合であります。これらの事由に該当せず、会計監査人の解任が無効とされた場合の法律効果については法律学者の間でも意見が分かれているところでありますが、いずれにしましても「監査役が会計監査人を解任するのはよほどのこと」ですから、おそらく会計監査人の解任事由は厳格な認定のもとでなされる必要があり、解任権を持つ監査役としても、非常に難しい判断を迫られる場面であります。とくに金商法監査と会社法監査はいちおう区別されるべきものではありますが、同一の監査法人が担当するのが実務であり、会計監査人の独立性が要請される昨今の状況では、解任事由が認められるケースというのはかなり制限されるのではないでしょうか。(監査役としては、実際には取締役らとの協議がもたれることになると思いますが)

本日は、この会社法340条に関連する法律論のお話(および監査契約を解除した場合の法律問題など)は省略いたしますが、このように会社側から「おたくの監査法人は、職務上の義務に違反し、任務懈怠があったからクビだ」と言われて、監査法人さんのほうは果たして何も言い返さなくてもよろしいのでしょうか?職務上の懈怠があったと言われて、黙っていて株主代表訴訟のリスク(会社法847条1項、同423条1項)は負わないのでしょうか?辞任ということであれば、なんとなく守秘義務への配慮ということも考えられるのですが、ここではあくまでもS監査法人さんは自ら辞めることはなかったので、解任という結果となったはずです。それであれば、(会社側リリースの内容からも推察されるとおり)当然に反論したいこともたくさんあるとは思うのですが、果たして適時開示ではなく、法定開示(臨時報告書)のなかで、反論は出るのでしょうか。(しかし大阪証券取引所適時開示規則第2条第1項第1号ae該当例などをみても、開示府令第19条第2項9号記載事由とはあまり変わらないように思われますので、臨時報告書もほぼ同様の開示がなされるような感じですが)

たとえばこのS監査法人さんは、HPの法人概要などからみても、50法人以上の法定監査を担当されていらっしゃいます。金商法監査を担当されている株式会社も10社以上あるようですから、他の被監査企業やその株主から「なんだあの監査法人は」といった目でみられることはないのでしょうか?私は単に野次馬的な立場ですから、勝手な物言いで恐縮ですが、こういった場合こそ、監査法人さんは守秘義務が解除される正当な理由があって、被監査企業の株主や投資者のためにも、何らかの情報開示が必要になってくるのではないか、と思うのでありますが、いかがなものなのでしょうか?ちなみに、大証さんは、おそらく既にS監査法人さんや当該企業さんに事実関係の調査を始めておられるのでしょうね。

追記:なお、有識者の方より、会計監査人異動時における意見表明についての統計的な数値を紹介した記事を教えていただきました。(Lotas21の記事はこちら)やはり今回も、監査法人さんは「大人の対応」といいますか、(ターナーさんが指摘されているように)自ら被監査企業に対して引導を渡したくない、との配慮が働いているのでしょうか。しかし、会計監査人異動時における臨時報告書等の開示事項の改訂は、まさに今回のようなことで、株主や投資家が困惑するであろうことを想定しているのであり、本件でも何ら監査法人さんからの意見表明がないということになりますと、結局「会計監査人の制度改正は、どんなに整備しても適切な運用は期待できない」ということで、今後の会計監査人制度の改正に関する協議にも影響が出てくるように思われますが、どうなんでしょうか。(金商法193条の3による監査証明業務における不正届出制度などの運用実績などについても、同様のことが言えると思いますが)

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2010年5月14日 (金)

半導体製造会社の粉飾決算だそうで・・・

私が社外監査役を務めております会社も、昨日が監査法人と監査役会との最終決算報告会、そして本日が決算役員会ということでして、ブログ更新もお休みさせていただきました。たくさんの外食店舗を有する企業の場合、資産除去債務を「公正価値」として算定するのは結構たいへんですね。私は「特損計上分」と「償却分」との区別がわからず、新日本の指定社員の方に、黒板(ホワイトボード)でいろいろと説明してもらってやっと理解しました。これ、不動産取引に関する知識や経験も必要ですよね。(ちなみに、このエントリーは決算短信公表後の午後4時10分に発信しております。念のため・・・)

その間に大きな粉飾決算容疑事件が報道されていたようでして、ずいぶんと出遅れてしまいました( ̄◆ ̄;) 私がいつも拝読しているブログでは、この会社が新規上場した昨年11月時点で「この売上高と売掛金残高との関係は怪しいですね。届出書や事業リスクの表示を額面通り受け取らないほうがいいですね」と書かれておりましたので印象に残っておりましたが。。。公開資料をご覧になったアナリストの方が、新規公開時に堂々と「これはあやしい」とブログで書かれるほどの内容ですから、監査法人さんや、監査役さんはどう思っておられたのでしょうか。まず、私はそこがとても関心のあるところです。(海外口座が活用されていたみたいですから、当局も調査に時間がかかったのではないかと思いますが。)

まだ執務時間なので、とりいそぎ、出遅れた話題への備忘録のみ。

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2010年5月12日 (水)

パロマ工業元社長・有罪判決への感想

当ブログをごひいきの皆様はすでにご承知のとおり、5月11日、パロマ工業元経営者らに対する業務上過失致死傷被告事件につきまして、いずれの被告人にも有罪の判決が出されました。取材をされた記者さんのお話によると、判決文の朗読は約2時間にわたるものであった、とのこと。当裁判は公判前整理手続きから35回(34回?)の公判の末、本判決に至ったものでして、相当慎重な審理がなされたものと思われます。

東京の記者さんの取材でしたので、某全国紙に私のコメントが掲載されていると思いますが、判決要旨を読んだうえでの「わずか数行のコメント」ですし、読まれた方に誤解をうける可能性もあろうかと思いますので、ブログ上で少しだけ感想を述べて、言い訳とさせてください。

本事案に特有の問題点として、製品の欠陥はかなり事故に対しては限定的な寄与しかないにもかかわらず、製造元会社の経営トップに過失犯は認められるのだろうか?といった疑問もありましたが、判決はこれを肯定しております。当判決では、パロマ工業社と修理業者(関連会社といっても良いかと思います)との平時における業務上の関係性をかなり詳細に論じたうえで、パロマ工業社が十分な安全対策を講じていれば、たとえ関連会社の不正改造に起因する事故であったとしても重大な結果を回避することはできたとしています。ここはかなり規範的な評価がなされている、といった感想を持ちました。おそらく今後、企業グループ(企業集団)を含めた平時の安全対策のあり方に影響が出てくるのではないかと思われます。なお新聞報道では「製品に欠陥がないにもかかわらず、メーカーは責任を負うか?」といった問題提起をされているものもみかけられますが、当判決はそこまで言っておらず、修理業者が容易に不正改造できるような安全装置自身が被害発生に一定の寄与をしていた、と言及しております。この点にも企業としては注意が必要であります。

次の特徴的な点として、パロマ工業社だけで事故を防止できるのではなく、ガス事業者や経産省などの事故防止対策が万全でなければ防止することはできなかったのではないか、といった疑問もありましたが、判決では詳細な事実認定のもと、事故防止は他の事業者や行政当局に頼るべきものではなく、被告人らによる積極的な行動でも十分に防止できたのであり、被告人らの「刑法上の義務」であった、としています。ここでも、製品をこの世に送り出しているメーカーは、原則としてその製品に関連した事故については安全対策を講じるべき責任者たる地位にあることが明確に示されています。

平時の安全対策だけでなく、製品事故を知ったメーカーとしての有事の「被害拡大防止義務」についても触れられており、重大な製品事故を認識した経営者としては、マスコミを利用して製品の使用停止などを広報すべきであり、また徹底した製品回収に努めなければならないことが具体的に明示されています(結果回避可能性に基づく回避義務違反)。このあたりは、製品事故の情報集約の重要性、とりわけ消費者庁による事故情報の集約と同時もしくはそれ以前に正確な情報を集約して、原因分析や再発防止策を検討し、被害拡大措置をとることの重要性が伺えます。また、製品事故が多発している状況を知った経営者としては「より上位の者(組織)によって事故防止対策が行われる必要がある」とされ、全社的なリスク管理体制が構築されている必要性が謳われているのが印象的であります。

最後に予見可能性に関する点ですが、これはかなり抽象的な事故発生への懸念であっても「予見可能であった」と結論付けられている印象を持ちました。製品利用者への切迫した危険性の認識ということではなく、製品に関連する事故が多発している状況を認識している以上は「未必の故意」ではありませんが、結果の予見可能性は認められる・・・とされるようです。たしかに品質管理部長は事故発生の原因事実を認識していたようですが、経営者が容易に品質管理部長と同様の情報を共有できたのかどうか、またたとえ共有しえたとしても、パロマ工業社としては、一定程度の安全対策は講じていたようですから、それらの対策によって少なくとも経営者の(事故発生にかかる)予見可能性が低減されるのではないか、とも考えられそうであります。しかしそのあたりは予見可能性の判断において考慮されていないようです。つまり誤使用の可能性があろうと、他の事業者による不正改造が原因であろうと、自ら供給している製品の重大事故発生の事実を認識した以上は、安全対策を最優先すべき経営者の義務(しかも高度な義務)があることが、このあたりから理解できそうに思われます。

ご意見はいろいろでしょうが、私の個人的な感想としては、経営トップへの刑事責任が認められ、企業側にとっては相当厳しい判決が出たなぁ・・・というところです。控訴された場合、結論がどうなるのかは、私もわかりません。17年間で15件の死亡事故が発生している、ということは、いったいどこまでが「平時」であり、どこからが「有事」になるのかもよくわからないところです。民事上の責任と異なり、刑事上の注意義務はいったいどの時点から発生するのでしょうか?このあたりは、判決全文から確認したいところであります。でもこれが消費者庁時代におけるメーカーの経営トップに求められる「消費者の安全を守る意識」なのかもしれません。あるいは、とくに安全性が問題とされる「ガス器具」ゆえに、その製造会社の経営者には高度な注意義務が認定されたのかもしれません。このあたりはまた著名な法律実務家の方々による判例評釈などに待ちたいと思います。まだ判決要旨を読んだだけのことで本当に雑駁な印象でありますが、私自身も、もう少し「内部統制」の視点から本事例について今後検討していきたいと思う次第です。

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2010年5月11日 (火)

証券取引等監視委員会(検査報告書)に対する文書提出命令

証券市場の健全性向上のため、日夜活躍するSESC(証券取引等監視委員会)さんでありますが、IHI社の有価証券報告書虚偽記載事件について、一般株主とIHI社(経営陣?)との損害賠償民事訴訟に巻き込まれてしまった、というお話であります。IHI社は、ご承知のとおり金融庁の審判手続きにおいて、課徴金賦課の対象事実を認める旨の答弁書を提出しておりますので、すでに16億円の課徴金を納付済みでありますが、一般株主が提訴している損害賠償請求訴訟では(どういうわけか)「虚偽記載ではない」と争っておられるようで、一般株主の方から、金融庁(証券取引等監視委員会)が所持する検査報告書への文書提出命令申立てを行い、裁判所がこれを認めた・・・という構図であります。(産経ニュースはこちら)法律的にみると、「公務秘密文書」(民事訴訟法220条4号ロ)における提出免除事由(同ロ記載事由ならびに同法223条3項ないし5項記載事由)が認められなかった、ということになります。

平成17年以降、有価証券届出書および同報告書の虚偽記載事件に課徴金制度が適用され、行政当局としては迅速かつ機動的に証券市場における違法行為を捕捉することが可能となり、これまで一定の効果を上げてきたことは誰もが認めるところであります。とりわけSESCが作成する検査報告書は、おそらく課徴金納付命令を勧告するにあたっての重要書類であり、今後の調査業務の信頼性確保のためにも、当局の内部文書として、おそらく外部には公開されたくない資料だと思われます。当然、今回もIHI社関係者の意向を聴取したうえで、裁判所に対しては提出しかねる旨の回答を出しておられたものと推測いたします。しかし、裁判所はおそらく平成17年10月14日の最高裁決定(署長判決の前提となる労働基準監督官作成の災害調査復命書に関する文書提出命令を肯定した決定)に従い、SESC作成に係る検査報告書においても、たとえば検査報告書にはIHI社の証言がそのまま記載(引用)されていない、課徴金納付勧告を妥当とする当局の意思形成の判断過程が含まれていない、といったことを認定したうえで、文書提出を認めることになったものと思われます。ひょっとすると、民事裁判における真実発見のためには、公務員の職務上の秘密が一部公開され、公務に支障が出るおそれがあったとしても、それが抽象的な「おそれ」にとどまるかぎりは「真実発見」を優先する、といった価値判断があったのかもしれません。また、こういった価値判断には、昨今の情報公開制度見直しの機運も影響しているように思われます。

いずれにせよ、今回の文書提出命令は、金融庁(証券取引等監視委員会)にとっても、ちょっとビックリ!ではないでしょうか。「とりあえず金融庁には頭を下げておいて、一般の投資家から訴えられたら争えばいい」といった、金融庁にとても都合のよい実務に影響が出てくるんじゃないでしょうか。先日は金融庁の指導に従っていたにもかかわらず、過払い金請求訴訟によって多大な損害を受けたとして金融業者から国賠請求訴訟を提起されたばかりでありますが、金融庁もいろいろとツツカれる存在になってしまったみたいですね(^^;

とくに、ビックカメラ社元経営者の審判決定が控えているなかでの、今回の文書提出命令は、ビックカメラ社の一般株主による民事責任追及訴訟にも波及する可能性がありますので、今後はこのような民事訴訟に利用される可能性を前提として、検査報告書が作成されることになるのかもしれません。課徴金処分事案であっても、事後刑事処分の対象となる可能性があれば「刑事捜査に関わる文書」として公開されずにすみそうですが、課徴金事案と刑事犯則事案を初期段階において振り分ける金融庁の実務を前提とすれば現実的ではありません。また、報告書に関係者の証言を逐一記載する運用も考えられますが、そんなことをしていたら、課徴金処分を設けた趣旨が没却されてしまうことになりそうであります。(追記:別のニュース記事によりますと、関係者の証言部分だけ削除して文書を提出せよ、といった内容のようであります。)

課徴金処分と文書提出命令との関係でいえば、もうひとつ、公認会計士さん(監査法人さん)に対する金融庁の処分などはどうなるのでしょうかね?会計監査人の法的責任が追及される場面において、もし金融庁による処分が先行しているような場合(たとえばナナボシ事件もそうですが)、公認会計士・監査審査会による検査実施報告書なども文書提出命令の対象文書となるのでしょうか?もちろん、金融庁の処分の前提となる「不注意な虚偽証明」と民事責任の前提となる過失(不注意)とは、その制度目的が異なるわけでありますが、検査実施報告書には、過失を基礎付ける具体的な事実が含まれていることは間違いないわけでして、とくに平成19年の公認会計士法改正によって、課徴金処分まで設けられておりますので、相当細かい内容が報告書には記載されているものと推測されます。こういった内容が、会計監査人の責任を追及する側の弁護士に開示される、となりますと、会計専門職たる審査官の判断基礎となる事実を参考にすることが可能となるわけでして、会計監査人の過失を立証するにあたり、非常に証拠価値の高いものにアクセスできることになります。こういった手法も、これからの訴訟事件のなかで活用されるかもしれませんね。

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2010年5月10日 (月)

明日(5月11日)は、いよいよパロマ事件判決(経営トップの刑事責任は問われるか?)

もうすでに数社の新聞(ネット上)でも報じられておりますが、5月11日午後1時半より、パロマ工業社の元経営者の方々に対する業務上過失致死被告事件の判決(東京地裁刑事部)が言い渡されます。当ブログでも4年ほど前から何度か取り上げてきた事件でありますが、湯沸かし器の不正改造を原因として、製品の利用者の方々が死傷された、痛ましい事故です。事故発生当時のパロマ工業社の経営トップの方が、不正改造による一連の重大事故を認識しながら、抜本的な安全対策を採らなかったことが、「過失」と認定されるのか否か、たいへん注目される裁判であります。商品の欠陥ではなく、販売後の対応をもって「過失」を問うという極めて異例の裁判ではありますが、仮に有罪判決が出るとすると、会社法上の内部統制構築義務の評価にも影響を及ぼすことは必至ですし、また消費者庁時代における企業の経営トップのリスク管理にも警鐘をならす判決になることは間違いないものと思われます。

法律家の視点からは、(民事上の責任は別として)品質管理の直接の責任者ではなく、まさに経営のトップ自身に刑事責任、つまり業務上過失致死という「不作為犯」の実行行為性が認められるのかどうかが注目されるところであります。とりわけ今回は、①経営トップ自身に不正改造による事故発生まで予見可能性があったのか、②資本関係にない製品修理会社の不正改造にまで、パロマ社の経営トップが監視監督する立場にあったのか(つまり危険性を予見できたとしても、その危険を回避できる立場にあったのか)、③経産省による事故防止対応の不備も競合して事故が発生したのではないか、といったあたりが「過失犯」と呼べるほどの不作為と規範的に評価できるかどうか、という点が最も注目される争点かと思われます。安全装置が機能しないように、不正改造をパロマ工業社自ら指示していたようなことがあれば別ですが、商品販売後の不正改造への対応の不備について「刑事責任」を問われることになるのであれば、取締役や従業員(場合によっては子会社従業員を含め)の職務執行の適法性を確保するための内部統制構築義務のレベル感がかなり具体化することになるでしょうし、製品事故が発生したり、欠陥が判明した場合の経営トップのリスク管理(免責されるためには、いかなる証拠を残しておかなければならないか)も再考する必要も出てきそうであります。

すでに三菱自動車のトラック脱輪事件では、経営トップの刑事責任が認められておりますが、そこでは商品の欠陥が認められ、また「リコール隠し」(国交省への虚偽報告)という組織ぐるみの悪質な行為も認定されておりました。しかし本件は、事件の前提において明らかに三菱自動車事件とは一線を画するものであります。いっぽうにおいて、同様の事故で不起訴となったリンナイ社の事件のように、「被害者の誤使用」(検察の公表理由)が認定されたものでもありません。おそらく有罪・無罪の判断は、きわめて困難な法的判断、事実認定のもとで下されるのではないでしょうか。先日のJR西日本元経営者の方々に対する強制起訴事件と同様、過失犯の実行行為性が企業の経営トップにどのように認定されるのか(されないのか)、今後の企業社会に多大な影響を及ぼす判決になることが予想されるところであります。

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2010年5月 8日 (土)

IFRS(国際会計基準)における「法と会計の接点」-その1

「その1」などとエラそうなタイトルですが、IFRSと法に関連するテーマは(以前にも書きましたように)強制通用力の正当性(憲法問題)や、内部統制報告制度との関係など、いろいろと思いつくところであります。そんななかで、企業実務に影響のありそうなテーマとしてはIFRSにおける収益認識によって契約実務の見直しが必要なのか?というのが挙げられます。法律上の所有権の移転時期や危険負担の時期は、おそらく商売上の慣行が斟酌されるわけでして、これを契約書の修正(もしくは覚書の締結)によって明確化する作業となりますと、まさに上場親会社の経理部と法務部との協働作業が必要となる場面といってもよろしいかと思われます。

旬刊経理情報の5月1日号の特集「IFRS収益認識で『契約』はココを見直す!」は、IAS18号適用上の検討ポイント、法的解決ポイントが、それぞれ公認会計士、弁護士の視線から解説されたものであり、非常にタイムリーなものであります。「会計専門職と法律家のコラボで書かれていれば読みたいなぁ」と思っておりましたので、とても興味深く拝読させていただきました。「そもそも会計基準が変わるからといって、これに合致させるために契約内容を見直す・・・というのは本末転倒ではないか?」という素朴な疑問が生じるところでありますが、これに対する一定の解答(ご意見)も述べられており、「法と会計との接点」をどのように調整すべきか、それなりに苦心された跡も記されております。「物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値が移転する」ということを、法的な所有権移転、危険負担の概念と、どのように矛盾なく説明するのか、という点がなかなか難しいですね。あまり厳格に考えてしまいますと、修正に膨大な費用がかかってしまいそうですし、あまり簡略化してしまうと、収益認識の時期を決定した合理性を客観的な証跡によって説明できなくなってしまうということのようで、やはり契約書の条項を修正して、リスク移転の時期を明確化すべきではないか、という提言も納得できそうであります。

ただ、契約というのは取引相手の合意が必要でありますので、IFRS適用会社の一方的な都合によって(条項追加等)契約内容を修正できるものではなく、取引先から「なんでそんな風に契約を修正する必要があるのか?、それではうちのほうが不利になるのではないか」といったクレームが生じればどうにも契約の見直しは進まないのではないかと思います。たとえば「みなし検収条項」など入れようものなら、「それは会計上での便宜だけのことですか?出荷後の物品の紛失や毀損等の危険負担は法的にはそちらにあると考えてよいか?」といった質問を相手方から受けた場合には、どのように回答すればよいのでしょうか?契約書で合意した以上、法的にも出荷後のリスクはすべて買主に移転します、ということであれば、「なんでおたくのIFRS適用のために、うちが損するような契約を締結しないといけないのか?」といった反論が出てくるのではないでしょうか。また「そんなこというなら、うちはお宅とはもう取引はしませんよ」といった「力技」をもって契約変更を強要する(もしくは、それとなくにおわせる)ものなら、「優越的地位の濫用」として独禁法違反を主張されることも考えられるのではないでしょうか。さらに、うるさい取引先と、そうでない取引先とを比較して、同じ商品売買契約の内容が異なった場合でも、収益認識時期に関する企業の考え方は、合理的に説明できるものなのでしょうか?このあたり、かりに契約書を見直すとしても、どうやって相手方取引先に納得してもらうのでしょうか?いわゆる保険契約の実務慣行や、物品が第三者の過失によって毀滅した場合の損害賠償請求の主体問題との関係なども含め、有識者の方々にぜひお聞きしてみたいものであります。

あくまでも思いつきの感想ではありますが、やはりIFRS適用を前提として、企業間の契約内容を見直す、というのはかなり難しい作業になるのではないかと思われます。ロッテリアのプレミアムバーガーが販売されたとき、「おいしくなければ返金します」とありましたが、あのような場合は、返金される確率を合理的に見積もって、費用計上すれば、販売した時点で収益が認識できるのでしょうね。それと同じように、出荷されて後の検収による返品率などをもとに、リスクを費用化して出荷基準で収益を認識する、というわけにはいかないものなんでしょうか?(あくまでも素人考えではありますが)

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2010年5月 7日 (金)

エントリー削除とお詫び(セイコーHD社記事の件)

5月1日に前社長の解任に関する素朴な疑問をエントリーとして書かせていただきましたが、私の事実認識に誤りがありました。加筆修正程度では関係者の皆様、閲覧されている皆様にも誤解を招きかねないものと思いましたので、当該エントリーをすべて削除させていただきました。(ミスを「それとなく」ご指摘いただきたIKさん、ありがとうございました。)

セイコーHD社の社外取締役の方から出されていた緊急動議は「代表取締役の解任と、社長の交代」であって、「代表者の選定」ではなかったことは、私がきちんと記事を読み、公開されている資料を読めば明らかであったにもかかわらず、そこを十分に認識しておりませんでした。改めまして、関係者の皆様、コメントをお寄せいただいた皆様、そして閲覧されておられる皆様におわび申し上げます。

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甘くなかった「芦屋ロックガーデン」

GW終盤の5月4日、妻と大学生になった娘と3人で、久しぶりのハイキングに出かけてまいりました。関西では定番コースでありますが、南大阪の人間にとってはあまり馴染みのない阪急芦屋川から岩山を上り、その後阪急岡本駅へ戻るコースであります。「芦屋ロックガーデン」と言ったほうがわかりやすいかもしれません。

Dsc01339_400 子供でも登れる岩山と聞いておりましたので、気楽に考えておりましたが、とんでもなかったです。途中かなり険しい岩山を、鎖につかまりながら登る場面もあり、50を目の前にした男性にとっては貧血を起こしそうなハードな道のりでありまして、ここはしっかりとした準備をしていく必要がありました。ただ、目的地点である「風吹岩」のあたりから眺める風景はご覧のとおり絶景でありました。

多くのブログで紹介されている芦屋ロックガーデン入口の茶店を出ると、帰路に至るまで茶店どころが自動販売機も一切ありませんので、もし関西方面の方で、今後ハイキングに来られる方がいらっしゃいましたら、この茶店で飲料を豊富に購入しておくことをお勧めいたします。GWとはいえ、25度を超える夏日でしたので、脱水症状になられる方も多かったようで、捜索隊の活動やヘリコプターの低空飛行がやたら多い一日でした。甘い考えは禁物だと思います。

Dsc01333_320 登山路では、途中このような野生のイノシシなども登場しますが、とくに追っかけられるようなことはありませんでした。

しかし、阪急芦屋川駅付近といい、阪急岡本駅付近といい、関西ではいわゆる「高級住宅街」の代表的な地域であります。とくに阪急岡本駅からJR摂津本山駅付近まで歩いて帰る途中、東京生まれ、東京育ちの妻曰く「ここって、『自由が丘』によく似てるわね。私も、こういうところに住んでみたいなぁ。結婚当初は、セレブになって、こういったところで子どもとショッピングができるようになるって、思っていたんだけどなぁ。。。」

このコースを選択するときに一抹の不安があったのが、妻のこういった気持に火をつけてしまわないか・・・ということでありました。まあ、阪急芦屋川付近は現実味がないとしても、岡本駅付近となりますと、それなりに豪華なマンションなども立ち並び、セレブな雰囲気が醸し出されているのでありまして、これまで夫婦間で避けていた話題(いつかは阪神間)が再燃してしまったのであります。結局私にとって甘くなかったのは、登山道にもまして、夫婦の会話だったような気がいたします。。。

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2010年5月 3日 (月)

中学校の同期会(35年ぶりの仲間たち)

1976年に高石市立高石中学校を卒業した同期による35年ぶりの同窓会に出席してきました。卒業生330名のうち、80名を超える参加者、当時の担任の先生も4名が参加され、たいへん盛大なものでした。(ちなみに、高石市というのは、大阪府堺市の南にある小さな町です)

35年ぶりの再会・・・となると、ほとんどわからないのではないかと思いましたが、体型・容貌の変化こそあれ、会ってみると一瞬のうちに当時の面影がよみがえってきて、すぐに15歳当時の雰囲気に戻れました。声も性格もほとんど変わらず、人間というのは15歳までに人格が形成されるのではないかなぁと思いますね。市会議員になった人、娘がタカラヅカ宙組のスターになった人、ガンと闘っている人、夫の介護に人生を捧げている人、リストラで求職真っただ中で毎日を過ごしている人など、それぞれ歩む人生は違いますが、出席者のほとんどが南大阪在住でして、あと10年か15年もすれば、みんな「地域デビュー」する年齢です。高校や大学の同窓会と違って、中学校の同窓会は、性別も肩書きも既婚・未婚の区別も超えて支え合える貴重な機会ですね。記念写真を撮影するときにも、中学時代に仕切り役だった友達が、やっぱり35年の時を経て、同じように仕切っているのをみて、「来て良かった」としみじみ感じました。私のことを「ぐっちゃん!」と呼び、またブログのことなど一切知らない友人達との交流を、これからは大切にしてきたいと思いました。

しかし同窓生のなかで、2組も夫婦で参加していたのには驚きでした。そういえば私も中学時代、おつきあいしていた○○さんとは会えるだろうか?・・・・・、とひそかな期待を胸に秘めて出席しましたが、残念ながら欠席。。。1976年の卒業アルバムがテーブルに回ってきて、アルバムに映っている彼女の写真を見たときに、「こうやって会えなかったことで『ちいさな宝物』を失わずに済んだのかも・・・」と思い直すことにしました。(でもやっぱり、次の同窓会のときには遭ってみたいかも・・・・(^^;;  )

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