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2010年5月24日 (月)

過年度決算訂正と訂正内部統制報告書との関係

かつて当ブログでもっともアクセス数が増える人気ネタといえば「内部統制報告制度」いわゆるJ-SOXネタでありました。現在も、ときどきJ-SOXネタをエントリーしておりますが、「マニアックなネタ」として、以前と比べますと人気度が下がってきたことは事実です。ただ私自身はまさに「法と会計の狭間の問題」として未だ高い関心を抱いておりまして、アクセス数がどうのこうの、ということは気にせずに、これからもアップしていきたいと思っております。(しかし平成18年から19年ころにかけ、コメントを10個ずつまとめなおしてアップさせていただいていた時期がなつかしいですね。)

さて、5月21日に3年4カ月ぶりに金融庁の内部統制部会(企業会計審議会内部統制部会)が開催されたそうで、その資料が公開されております。いよいよ内部統制報告制度の見直しに向けての本格的な議論が開始されるようです。昨年参加させていただいた内部統制ラウンドテーブルでは「費用対効果」や「経営者評価基準のルール化、内部統制監査のレベル感の統一化」という点に多くの意見が集中しておりましたので、「簡素化と明確化」(資料3-2)という内部統制報告制度改正の検討課題はほぼ予想されたところといえます。また米国SOX法の実施状況と同じく、中小の上場会社とそれ以外の上場会社との間で、評価作業や監査のレベル感に差を設ける(というか、差があってもいいことをあらためて確認する)ことも議論されることは有意義であると思います。

本日現在、未だ資料だけが公開されており、議事録は公開されておりませんので、内容についてはまた別途検討してみたいと思います。ただ公開された資料のなかに、これまで内部統制報告書を提出した約3500社のうち、「当社の内部統制は有効であると判断した」とする報告書を提出しながら、後日「当社の内部統制には重要な欠陥があり、有効ではない」と訂正した会社が8社存在することが調査結果(資料)として掲載されております。以前も一度、当ブログで検討いたしましたが、いまだによくわからないところであり、いま一度きちんと問題点を整理しておきたいと思います。

Naibutousei004 2010年5月15日までに訂正内部統制報告書を提出した企業のうち、内部統制の有効性に問題があるとして訂正内部統制報告書を提出した企業は左の9社です。このうち、「有効→有効ではない」と訂正したのが上の8社であり、「有効でないとの結論は同じだが、その理由が変わった(追加した)」とされるのが下のミツウロコ社であります。訂正理由や不備の内容は、当該訂正報告書を私が読んだかぎりでの概ねの状況ですから、完全に正確なものではないかもしれませんので、あしからず。ちなみに「訂正理由」とあるのは、主にどの部分に重要な虚偽記載に影響を及ぼすおそれのある不備が残っていたのか、ということを示しております。

上記表をご覧のとおり、内部統制報告書の実質的な訂正(※1)を行った上場会社は、いずれも過年度の決算訂正を余議なくされた企業ばかりであります。(ただし、過年度決算訂正を行った企業のすべてが内部統制報告書の訂正を行っているわけではないことに留意すべきです)昨年あたりの訂正理由は決算財務報告プロセスに不備があり、これを重要な欠陥と判断した、というものが多かったのですが、最近訂正報告書を提出した会社は、会計不正事件が大きく新聞で報じられたことが関係しているのか、「全社的な内部統制」の整備もしくは運用状況に重要な欠陥が認められた、とするものが増えているようです。報告書提出後の四半期レビュー等により無視しえない虚偽記載が監査人等の指摘で発覚した場合、つまり会計不正事件などが問題とならないケース、もしくは会計不正が問題とされても「従業員不正」に関するものでは業務プロセス、もしくは決算財務報告プロセスに不備があったとされ、経営者の関与しているようなケース、子会社の不正が問題とされるようなケースでは全社的内部統制に不備がある、とされる傾向があるのでしょうね。

※1・・・これまで訂正内部統制報告書を提出している企業は38社ほどありますが、そのうち「内部統制は有効」とする報告書を提出しながら、後日「有効ではなかった」とする訂正を行った企業について、ここでは「実質的な訂正」を行ったものと表現しております。

1「重要な欠陥」を法律家が議論する意義

そもそも金融商品取引法24条の4の4には「重要な欠陥」なる用語は登場してこないのでありますが(ただし内部統制府令には登場)、内部統制報告書に虚偽記載をした場合には当該会社の役員には刑事責任が課せられ、また株主等に対する開示書類に関する民事賠償責任も発生することになっております。内部統制報告書の開示情報において、投資家の判断に重要な影響を及ぼすものは、おそらく「重要な欠陥」の有無に関するもの(つまり、内部統制が有効であるか無効であるかに関する経営者評価の結果開示)でしょうから、経営者が内部統制報告書の提出によって刑事責任や民事責任を負うか否かのメルクマールは、(理屈の上では)やはり「重要な欠陥」に関する司法的判断ではないかと思われます。つまり裁判所が経営者の刑事・民事責任を下すにあたって「重要な欠陥」の有無を判断するわけですから、これはやっぱり法律上の概念にあたると考えるべきなのでしょうね。(※2)ちょうど、会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行とは何か?」(会社法431条)という論点と同じように、もし内部統制報告書の提出に関する開示規制違反の問題が発生した場合には、一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準に準拠した「重要な欠陥」とは何か?ということが法律家にとって議論されることになるのではないかと考えます。また、仮に今後中小の上場会社の内部統制評価基準が緩和されたり、一般の企業の評価基準が簡素化される、ということになれば、法律的な判断の枠組みを議論しておく必要性もでてくるのではないか、と考えます。

※2・・・以前、私は「重要な欠陥」は法律上の概念ではない、と述べておりましたが、これは当時「重要な欠陥が残るということは取締役の善管注意義務違反ではないか?」といった議論がなされていたときに、これに答える意味として述べたものであります。しかし、会計慣行が何か、といった長銀事件最高裁判決の考え方などからみると、会計専門家の判断を尊重しつつも、最終的には裁判所が民事・刑事問題を解決すべき必要性は、この内部統制報告制度においても同様ではないかと考えるものでありまして、そうであるならば、やはり「重要な欠陥」の有無を最終的には裁判所が判断しなければならない、という意味においては「法律上の概念」といえるのではないか、と考えております。

このように「重要な欠陥」という概念が、法律上の概念として捉えられるのであれば、その中身については法律家としても議論する必要があるのではないかと考えますし、不備が虚偽記載に及ぼす影響度やその発生可能性というものをいつの時点で判断するべきか、という点などについても「法律的な」視点から検討する必要があろうかと思われます。また、財務諸表監査であれば、これは企業の「過去の会計事実」の情報開示への審査、ということでありますが、内部統制監査であれば、企業の「評価時点における将来リスクの判断」への審査ということであるわけで、そうであるならば決算訂正が必要な場面において、(たとえ評価範囲の中から後日、不備が発見されたとしても)内部統制の評価結果も訂正しなければならないのか、といった疑問も自然に出てくるのではないかと思われるわけであります。

少し長くなりましたので、本論であります「過年度決算訂正が必要となる場面において、内部統制報告書の訂正は本当に必要なのか?」という点には続きのなかで検討したいと思いますが、このあたりを真剣に検討するにおいては、「過年度決算訂正の法務」(弥永真生編著 森・浜田松本法律事務所や監査法人トーマツの方々の執筆による 中央経済社)、「会計不祥事対応の実務」(長島・大野・常松法律事務所 あずさ監査法人 編 商事法務)そして「内部統制評価にみる『重要な欠陥』の判断実務」(仰星監査法人 編著)といった比較的最近出された本のなかでも、相当に執筆者の方々が悩みながら検討を加えておられるようですので、そのあたりをご参考いただければ理解が進むのではないかと思います。(以下、つづく)

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コメント

のらねこです。
ごぶさたしております。
「財務報告に係る内部統制」では、一般的に試査により全体を推測する手法がとられています。
いわゆるサンプル調査により、内部統制の有効性を判定しています。
事後に不祥事が発覚しても、サンプル調査による判定が正しいと主張できるのでしょうか。
部分的なデータで全体を推測することが、法的に認められるのでしょうか。
「財務報告に係る内部統制」と法における概念の差を認識したいと思っております。

投稿: のらねこ | 2010年5月24日 (月) 23時43分

決して“狭間の問題”ではないと思います(^^)
いつも刺激を受けながら拝見しており、感謝しています。

投稿: kero | 2010年5月25日 (火) 04時50分

のらねこさん、keroさん、こんばんは。(どうもおひさしぶりでございます。こういったマニアックなエントリーにコメントをいただけること、たいへんうれしく思っています!)

のらねこさんのご指摘、もっともかと思います。
ただ、内部統制の有効性というのは実施基準の「内部統制の限界」が示すとおり、留保つきの有効性ではないのでしょうか?そもそも万能ではなく、機能しない場合があるということも、報告書に記載されており、その前提のうえで有効であることが表明されるのでは、と。このあたりは、その2のなかで、また自説を述べてみたいと思います。またご意見よろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2010年5月27日 (木) 01時59分

のらねこさん
監査人の判断サンプリングをメインとする試査と、ランダム性があるサンプル調査は別に考えた方がよいと思います。
もし事後に不祥事が発覚した場合、ランダムサンプリング調査であれば監査人は弁護されますが、(監査人の恣意的な)判断サンプリングによる場合には、そのサンプルを選択した合理性の判定が行われることになると思います。
事後的にも統計的なランダムサンプリングであると主張できないと、部分的なデータをもって全体を推測する結論を導きだすことはNGだと思います。

投稿: もとちょうさかん | 2010年5月27日 (木) 11時41分

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