これも「監査役の乱」?(社外監査役が解任される・・・の巻)
つい先日、監査役(監査役会)が会計監査人を解任した・・・という事例をご紹介いたしましたが(結構反響がありましたです。。。)、今日は社外監査役が解任される(解任議案を定時株主総会に上程される)というお話。昨日(5月24日)のシルバー精工社(東証一部)のリリースによりますと、弁護士資格をお持ちの社外監査役さんについて、取締役の職務執行に関する透明性、合理性についての業務監査が十分でないことから、監査役としての適格性を欠いているもの認識し、当該社外監査役を解任することの議案を上程する、とのことであります。シルバー精工社独自のお家事情等もあるでしょうし、他の役員の方々にもかなり異動があったようですから、先日の会計監査人解任事案と同じく、当該具体的事例について軽々に論じることはできません。しかし「辞任」ではなく「解任」となりますと、やはり監査役さんの方にも納得できない諸事情があるのでしょうから、これもやはり「監査役の有事」のひとつに含まれることになりそうであります。(ちなみに、他のおふたりの監査役の方々は「辞任」ということのようです。)
以前トライアイズ社の件でも書きましたが、監査役が解任されるのは株主総会の特別決議が必要です。しかし、とくに正当な理由が必要となるものでもなく、一応何らかの理由があって、特別決議の要件が満たされれば解任されることになります。もちろん解任が上程された定時株主総会において、当該監査役さんは意見陳述の機会が付与されるわけですが、上場会社の場合、議決権行使書面の提出に対しては無力であります。書面投票制度を用いる株主総会の運営においては、招集通知にあたり事前に株主に対して参考書類を交付する必要があり(会社法301条1項)、会社法施行規則80条のとおり、参考書類には解任理由を記載することになりますが、後日解任決議の取消事由にならない程度のほぼ抽象的な表現が用いられることが多いものと思われます。また、平成21年会社法政省令改正によって参考書類の各議案には「提案理由」の記載が必須となりましたが、解任議案では元々「解任理由」の記載が求められていたので、とくに別途「提案理由」は不要と思われます。また、解任議案について監査役の意見があるときは、その意見内容の「概要」が記載されることになりますが、ここでも「概要」ですから、監査役さんの意見がそのまま参考書類に記載されるわけではありません。
このようなことから、監査役の思いが一般株主に伝わることがなかなか困難であるというのが正直な印象であります。「○○氏は監査役として不適格」と言われて、とても悔しい思いをする社外監査役さんとしては、「監査役の乱」を起こしても株主総会で屈辱的な思いを味わうだけに終わってしまうのでしょうか。トライアイズ社の元監査役の方のように、自らWEBページを立ち上げて直接株主に語りかけて、自らの意見を情報開示する、という手法に出なければ、解任議案への反論を実質的に試みることができないように思います。
しかし今回の件がトライアイズ社の件と異なるのは、監査役3名が同時に退任する可能性がある、ということであります。つまり他のお二人の監査役は辞任され、そして当該社外監査役の方は解任議案が上程される、ということですので、この様子(社内事情)からすれば(たいへん失礼ですが)他のおふたりも監査役として不適切であったということなのか、あるいは「不適切」という理由が本当なのか(辞任を要請したにもかかわらず、あくまでも辞任を承服しなかったために、やむをえず経営陣としては解任の手段に出たのか)疑問が残る、ということであります。私は監査役の有事にあたり、他の監査役と対立関係にあるのか、監査役間で協調関係が保たれているのかは非常に大きな差があるものと思います。先週、東京のある場所で金融庁ガバナンス連絡会議のメンバーでもいらっしゃるある方(複数の上場会社の社外取締役を務めておられます)と1時間半ほどガバナンスに関する意見交換をさせていただきましたが
社外取締役の人数は、その数の二乗分の勢力を持つ
というご意見に全く同感でありました。つまり、取締役会に1人の社外取締役がいるのと、2人いるのとでは4倍ほどの勢力の差があり、3人いれば9倍程度の勢力差になる、というわけです。ちなみに牛島弁護士の新刊書「利益相反(コンフリクト)」では、社長が安心できそうな知人3名を社外取締役に迎えいれますが、これも3名だからこそ、お世話になってきた社長を裏切るような行動に出ることができるのであります。
これは以前、私がある「監査役の乱」に関与した事案での経験からでありますが、監査役会として経営陣と対峙した場合には、相当に監査役らの影響力は強く、監査役らの意見を取り上げざるをえない場合が多いかと思われます。(この場合には社外からは、社内で何があったのかは窺い知ることはできないです)そこで、経営陣の常とう手段としては、監査役ひとりひとりに圧力を加え、監査役会としての結束を弱めることが最も効果的であります。結局「監査役の乱」の中心人物だけが孤立してしまう、というパターンであります。監査役は独任制の機関である、というのが法のタテマエではありますが、現実には監査役ですら、共同戦線がなければ無力に等しい・・・というのが監査役の有事対応の原則ではないかと思います。
あくまでも(私が解任議案を出された場合・・・というように)一般論でありますが、今回のように同時期に退任が予定されるような監査役さんがいらっしゃるのであれば、株主総会では、それぞれの事情について、株主総会で意見を開示することが可能です。たとえば当該社外監査役の方は、おふたりが辞任に至った事情を述べることもできますし、また辞任される監査役さんも、当該社外監査役解任に関して意見を述べることができます。本当に業務監査の能力に欠け、監査役として不適格だったのかどうか、他の監視役の意見も聞いてみたいところですし、後日の損害賠償請求や解任決議取消の訴え等、法的手段に出るための「証拠作り」のためにも、辞任される監査役さん方のご意見をお聞かせ願えるようであれば、「監査役の乱」も無力とはいえないような状況が残るのではないかと思われます。
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コメント
いつも楽しく拝見しております。
この会社もなかなかのものですが、東理HDでは弁護士資格をお持ちの方が常勤監査役に就任されていますね。本日の開示をみてビックリしました。弁護士の業務と常勤監査役の業務はとうてい両立は困難ではないでしょうか。
投稿: 無名の男 | 2010年5月27日 (木) 02時45分
そんなことよりも(笑)、我々末端実務家の与り知らぬところで、「複数の社外取締役・独立役員を置こう、置かねばならぬ」などという話が進んでいることのほうが怖ろしいです。ボードと執行とを分離すべきだ、それがあるべき姿だ、などというのは企業の実態を知らぬ幻影に過ぎません。
(そういう文化がある企業は別として、また状況によりますが)「プロ経営者」なるものがいて(この国にそんな人々が大勢いたとして、ですが)、そういう余所者がのこのこやってきてその企業のトップに座るということになった場合の、サラリーマンのモチベーションがどれだけ下がるか、忠誠心が低下した結果どれだけ不祥事や事故が起きるか、を想像できないのでしょうか。なーんも分かっとらへん。
話は違いますが(笑)、小泉-竹中路線については功罪ともあったとは思いますが、その一翼を担ったさる人物の今回の「失脚」劇には微苦笑を禁じ得ません…
投稿: 機野 | 2010年5月28日 (金) 00時44分
総会の招集通知(参考書類)に、監査役の意見が載るかどうか楽しみです(会社法施行規則80条3号)。今では、招集通知が東証のHPに掲載されるでしょうから。
投稿: Kazu | 2010年5月28日 (金) 21時16分
そういえば東京エレクトロンさんなどは、もう東証のWEBで招集通知が閲覧できるんですね。5月31日あたりから、閲覧できる会社が増えそうです。ちなみにシルバー精工さんは6月7日あたりですね。
投稿: toshi | 2010年5月31日 (月) 02時21分
社外監査役の解任も、全て撤回となりましたね。
http://eir.eol.co.jp/EIRNavi/DocumentNavigator/ENavigatorBody.aspx?cat=tdnet&sid=807306&code=6453&ln=ja&disp=simple
一体何があったんでしょうか。
投稿: Kazu | 2010年6月10日 (木) 23時06分