明日(5月11日)は、いよいよパロマ事件判決(経営トップの刑事責任は問われるか?)
もうすでに数社の新聞(ネット上)でも報じられておりますが、5月11日午後1時半より、パロマ工業社の元経営者の方々に対する業務上過失致死被告事件の判決(東京地裁刑事部)が言い渡されます。当ブログでも4年ほど前から何度か取り上げてきた事件でありますが、湯沸かし器の不正改造を原因として、製品の利用者の方々が死傷された、痛ましい事故です。事故発生当時のパロマ工業社の経営トップの方が、不正改造による一連の重大事故を認識しながら、抜本的な安全対策を採らなかったことが、「過失」と認定されるのか否か、たいへん注目される裁判であります。商品の欠陥ではなく、販売後の対応をもって「過失」を問うという極めて異例の裁判ではありますが、仮に有罪判決が出るとすると、会社法上の内部統制構築義務の評価にも影響を及ぼすことは必至ですし、また消費者庁時代における企業の経営トップのリスク管理にも警鐘をならす判決になることは間違いないものと思われます。
法律家の視点からは、(民事上の責任は別として)品質管理の直接の責任者ではなく、まさに経営のトップ自身に刑事責任、つまり業務上過失致死という「不作為犯」の実行行為性が認められるのかどうかが注目されるところであります。とりわけ今回は、①経営トップ自身に不正改造による事故発生まで予見可能性があったのか、②資本関係にない製品修理会社の不正改造にまで、パロマ社の経営トップが監視監督する立場にあったのか(つまり危険性を予見できたとしても、その危険を回避できる立場にあったのか)、③経産省による事故防止対応の不備も競合して事故が発生したのではないか、といったあたりが「過失犯」と呼べるほどの不作為と規範的に評価できるかどうか、という点が最も注目される争点かと思われます。安全装置が機能しないように、不正改造をパロマ工業社自ら指示していたようなことがあれば別ですが、商品販売後の不正改造への対応の不備について「刑事責任」を問われることになるのであれば、取締役や従業員(場合によっては子会社従業員を含め)の職務執行の適法性を確保するための内部統制構築義務のレベル感がかなり具体化することになるでしょうし、製品事故が発生したり、欠陥が判明した場合の経営トップのリスク管理(免責されるためには、いかなる証拠を残しておかなければならないか)も再考する必要も出てきそうであります。
すでに三菱自動車のトラック脱輪事件では、経営トップの刑事責任が認められておりますが、そこでは商品の欠陥が認められ、また「リコール隠し」(国交省への虚偽報告)という組織ぐるみの悪質な行為も認定されておりました。しかし本件は、事件の前提において明らかに三菱自動車事件とは一線を画するものであります。いっぽうにおいて、同様の事故で不起訴となったリンナイ社の事件のように、「被害者の誤使用」(検察の公表理由)が認定されたものでもありません。おそらく有罪・無罪の判断は、きわめて困難な法的判断、事実認定のもとで下されるのではないでしょうか。先日のJR西日本元経営者の方々に対する強制起訴事件と同様、過失犯の実行行為性が企業の経営トップにどのように認定されるのか(されないのか)、今後の企業社会に多大な影響を及ぼす判決になることが予想されるところであります。
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