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2010年6月29日 (火)

セミナー「企業不正リスク-予防と発見に向けた処方箋」のお知らせ

常連の皆さまは総会関連事務でお忙しいかもしれませんし、今夜はおそらくどなたにも当ブログをご覧いただけないものと拝察いたしますので(笑)、営業時間中ではありますが、セミナーのご紹介をさせていただきます。

来る7月23日(金)午後1時半より、ACFE JAPANと第一法規さんの共催によりますセミナーを開催させていただきます。ちなみに大阪開催であります。

企業不正リスク-予防と発見に向けた処方箋-(第一法規さんのWEBより)

CFE(公認不正検査士)の受験者は関西でも増えておりますが(私も事業報告書の社外役員欄に「財務会計的知見」のひとつとして、公認不正検査士であることを堂々と記載しております。)、さらに広くCFEを知っていただくため、今回はおなじみ甘粕潔氏と、私の共同講演とさせていただきました。また10月13日開催のACFEカンファレンスの告知もさせていただきたいと思っております。

架空循環取引にまつわる諸問題といいますと、テーマは大きく二つに分かれると思います。ひとつは会計不正を巡る問題であり、もうひとつは商社取引(介入取引)に関する法的性質問題ですね。後者はすでに多くの優れた論文もあり、企業実務家の方による出版物等もございますので、今回は私が架空循環取引の見逃し責任に関する裁判の代理人を1年以上務めた経験から、前者の会計不正を巡る問題を中心に講演をさせていただく予定であります。

ただ、あまり架空循環取引の細かい部分をお話しても、ちょっとマニアックすぎるきらいがございますので、企業不正はなぜ三様監査(監査人監査、監査役監査、内部監査)をもってしても発見できないのか、その原因を関連事件から検証してみたいと思います。90分程度ですので、お話したい論点は二つ程度に絞ってみたいと存じます。

CFEの活動状況やCFEの本場アメリカの不正検査事情等、最新事情は甘粕さんのご講演をお聴きいただくとしまして、ブログでは書けないような「監査見逃し責任訴訟への裁判官の対応」なども盛り込んでお話させていただきますので、もしお時間の調整がつきましたら、大阪ミナミの会場までお越しくださいませ。

(追記)

まったく別件でありますが、来週某企業法務研究会で「第三者委員会」に関連する講演をさせていただきます。その際に、「第三者委員が途中で辞任することは会社へのダメージが大きすぎてできない。したがって、就任時の企業トップとの協議がきわめて重要」という趣旨のことを申し上げるつもりですが、今日のTDNETをみておりますと

ガバナンス評価委員からの辞任届受領の件について

できれば関係者の方より、お話をお聴きしてみたいものであります。

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会計士と弁護士の「わかりあえないミゾがある」ことを理解する

6月26日土曜日、日本公認会計士協会近畿会と大阪弁護士会の共催シンポ「会計不正判決に関するシンポジウム-監査人の民事責任について-」が大阪弁護士会館で開催され、私もパネリストのひとりとして登壇させていただきました。大雨の土曜日でありましたが、100名以上の先生方がお越しになり(会計士:弁護士≒2:1程度)、おおげさではなく本当に会場が満席となりまして、主催者側のひとりとしましては、ビックリいたしました。雨の中、足を運んでいただき、ありがとうございましたm(__)m。

登壇者は(司会者含め)会計士2名、会計学者2名(甲南大学の内藤先生、関西大学の松本先生)、弁護士2名ということで、ナナボシ事件判決、キムラヤ事件判決を中心題材として、多くの論点をとりあげました。後日、この模様は冊子としてまとめるようですので、またお目に留まる機会もあるかもしれません。リスク・アプローチの手法を法律家はどのように取り扱うのか、品質管理(組織的監査)については、チーム医療における医師の過失責任と同様の理屈が成り立つのか、パソコンの中身を開示しない被監査会社の監査において、監査人は適正意見を出せるのか、といった争点もありましたが、やはり法律家と会計士との間で、なかなか理解しづらいのが「重要性の原則」でありました。監査を取扱う会計士の皆さまは、もはや体に染みついた大原則かもしれませんが、弁護士にとってはあまりピンとこないのであります。おそらく「善管注意義務」に対する弁護士の感覚が、会計士の方々にとってピンとこないのと同じような感覚だと思われます。このシンポをやって良かったなぁと感じたのは、この「重要性の原則」のように、法律家と職業会計人との間で、なかなか分かりあえないことが存在する、ということを双方が理解できたことではないかと思いました。これはとても意義のあることではないか、と。

本日のTDNETにおきましても、以前ご紹介しました日本風力開発社(東証マザーズ)の

外部調査委員会設置に関するお知らせ

がリリースされております。同社は、監査役会(監査役全員の同意による)が、会計監査人(監査法人)につき、職務怠慢を理由に解任をしておりますが、その解任については監査法人側より既に反論のリリースが出されております。そこで、日本風力開発社としては、果たして本当に(監査法人が主張するように)過年度決算訂正が必要なのかどうか、過去の処理の適切性を確認するための調査委員会を設置する、というものであります。そしてその調査委員会は「弁護士」によって構成されているようであります。しかしながら、ここで問題となるのは会計の領域に関することであり、いわゆる「相対的真実」に関する論点であります。私は昨年ご招待を受けました日本監査研究学会の西日本大会におきまして、弁護士にとって理解困難な会計・監査の領域の問題として、会計については「相対的真実」と「重要性の原則」であり、監査については「リスク・アプローチ」と申し上げました。この領域に属する問題について、弁護士だけで考えるのはリスクが高いのであります。

たとえば西村・あさひ法律事務所の木目田先生も、過去に何度か引用しております金融商事法務1900号「弁護士からみた証券取引等監視委員会の法執行」95頁におきまして、「会計的真実の相対性」として

会計的真実とは相対的なものであるから、過年度決算の訂正を行った場合であっても、必ずしも訂正前の過年度決算に虚偽記載があったことになるわけではない。例えば、過年度決算を策定した当時には複数の会計処理方法が許容されていると考え、そのうちの一方により会計処理をしたところ、後に結果的に当該会計処理が許容されないことが明らかとなったにすぎない事案であれば、当該会計処理により策定された過年度決算は、たとえ現在の時点からみれば適正とはいえないとしても、策定当時に当該会計処理方法が許容されると考えたことにそれなりに合理性な理由がある限り、虚偽の記載があったことになるわけではない。

と論じられており、私もまったく同感であります。弁護士の扱う真実は「絶対的真実」であり、ゼロかイチかの世界でありますが、会計士の扱う真実は「相対的真実」であって、ゼロとイチの間には(光の当て方によって)無数の正解がありうる世界であります。そうしますと、弁護士的な発想で、過年度の会計処理が虚偽記載ではない、という結論を出したとしても、会計士側からは「それも虚偽記載とはいえないが、現時点からみれば訂正の必要がある」と反論されれば、結局のところ議論がかみあわず、調査報告書の結論が何らの意味を持たないことになるおそれが生じます。こういった議論は、過年度決算訂正と内部統制報告書との関係も同様であります。「わかりあえないミゾ」が横たわっていることを認識できれば、今後は少しでも理解しあうための研鑽の場が必要であることも認識されるところでしょうし、相互理解が少しでも先に進むのではないかと考えております。こういった共催シンポが、今後も定期的に開催されることを祈念しております。

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2010年6月28日 (月)

ビックカメラ課徴金審判決定を冷静に考える-その1

既報のとおり、ビックカメラ社の元代表者の方に対する課徴金納付命令につきましては、審判手続きの末、「違反事実なし」ということで、SESC(証券取引等監視委員会)の勧告にもかかわらず、課徴金納付命令は出されないことで決着いたしました。マスコミ各社の報道内容では、被審人が、さも取消訴訟で勝訴もしくは刑事事件で無罪判決を勝ち取ったようなイメージで捉えられております。たとえば読売新聞ニュースの見出しでは「証券監視委の拙速調査疑問-金融庁『無罪』判断」とあり、記事も「ずさんな調査だったことは否めない」で締めくくられております。

たしかに上記記事において早大の黒沼先生がおっしゃっておられるように、課徴金納付命令の勧告が出された時点において、被審人となる対象会社(対象者)は、その社会的信用が相当に毀損されることは間違いないわけですから、調査にあたってはもうすこし慎重な配慮が必要だったのかもしれません。法務省のHPに掲載されているY検事さんの紹介文によりますと、課徴金・開示検査課(犯則事件ではなく、課徴金事案について調査を担当する部署)にも検事や公認会計士の方々が配属され、立件(?)に関する指導を行っているとのことでありますので、被審人に対する適正手続き保障についての配慮も十分可能だったのでしょうね。

ただ、この金融庁の審判手続きというのは、たとえ発行開示規制違反の事実を糾弾するものであっても、犯則事件(刑事事件)を取り扱うのではなく、あくまでも課徴金処分(行政事件)を取り扱うものでありますから、どうしてもSESCさんの調査には「縛り」がかかってしまうのではないでしょうか?たとえば、現行の課徴金処分はあくまでも制裁ではなく、不当利得返還モデルですから、審判手続きも民事訴訟手続きをお手本とするものであり、また強制的な捜査権限も付与されていないのでありますから、刑事処分ほどの厳格な証拠や立証は必要ないものと解されております。(先日ご紹介した金融法務事情1900号56頁:SESC課徴金・開示課長さんの論文参照)つまり、被審人の方の違反事実を認定するためには、刑事訴訟のような厳格な立証は必要ない、という前提で調査をするのであれば、「できる範囲での立証」で勧告する、ということもやむをえないところではないかと思われます。

また、上記に加えて課徴金処分においては、刑事手続きのような「起訴猶予」は認められず、違反事実があると思えば必ず処分しなければならない、つまり課徴金処分とすべきか否かという点において、金融庁には裁量権がない、という点も問題かと思われます。調査をしても有力な証拠がないかぎりは、そのまま事件を寝かせておくことは考えられるでしょうけど、審判手続きがある以上は、最終判断は審判に委ね、とりあえずの証拠が出揃った段階では、課徴金納付命令に関する勧告は出さなければ、むしろ批難されることになるのではないでしょうか?SESCの調査段階で、あまり厳格な(慎重な)調査と、厳格な心証形成を要求することは、結局のところ金融庁が課徴金処分に裁量権を持つことを認めることになってしまい、原則の建付けと矛盾が生じてしまうことにはならないでしょうか。

さらに、平成21年2月の時点におきまして、ビックカメラ社は独立性が確保された弁護士3名が関与する第三者委員会を立ち上げ、その報告書においては、明らかに会社側に有価証券虚偽記載違反の事実が認められ、コンプライアンス体制の充実やガバナンス体制の再構築などが再発防止策として提言されております。被審人の方が、ビックカメラ社において実権を握っておられた方である以上、会社が依頼した第三者委員会報告書の内容を信頼して、元代表者であった方にも課徴金納付命令を勧告する、という流れは、迅速な処分を目標とする課徴金制度の趣旨にも合致するところであり、「第三者委員会報告書」の持つ意義からみても、そこそこ納得できるSESCさんの対応かと思います。

本件審判官の方々は、こういったSESCの調査に「縛り」があることも前提のうえで、今回の判断に至ったのかもしれません。今後、課徴金処分の持つ意味が、単に金額の問題ではなく、企業や個人の名誉・信用に関わるものであるとするならば、被審人側が争うケースが増えることも予想されるところであります。個人的には課徴金制度に審判手続きが設置された趣旨からすれば、ビックカメラ社における会計処理方針が法律上の重要な虚偽記載に該当するのか否か、という非常に重要な論点についても専門的判断を示すべきではなかったのか、という疑問が残るところではあります。しかし課徴金制度の(現実的な)必要性と、その背後にある人権保障(デュープロセス)とのトレードオフの関係が、今後の運用面における課題であることを考えさせられるような、きわめて興味深い事件ではなかったかと思う次第であります。(結局、審判の中身については-その2-におきまして、別途考えてみたいと思います)

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2010年6月25日 (金)

出たぁ!!ビックカメラ役員課徴金審判決定!(しかも違反事実なし!)-速報版-

6月14日のエントリー「どうして出ない?ビックカメラ役員に対する課徴金審判決定」におきまして、6月26日までには決定を出していただきたい・・・と期待しておりましたところ、

出ました!出ました!商事法務さんのメルマガ金曜版よりも早い「速報」ですよ!ごく一部のマニアックな方々にとっては、今朝の「号外」よりも貴重かも(^^;

株式会社ビックカメラ役員が所有する同社株券の売出しに係る目論見書の虚偽記載事件に対する違反事実がない旨の決定について(FSA)

本当にギリギリ(昨年6月26日に審判開始決定)で、1年以内の課徴金審判決定が出た、ということで、「1年以上の未済事件」にはならなかったことになります。正確には審判官より決定案が提出され、金融庁が決定したと。。。

しかし・・・・・・・

ビックカメラの不動産流動化スキームが虚偽記載に該当するのかどうか、という論点(論点1)については判断を回避して、いかにも裁判官の専門テリトリーである役員の虚偽記載に関する認識の有無(論点2)によって違反事実を否定しておりますので、

貴重な先例が・・・と期待していた方々にとりましては

ちょっとガックリ↓・・・

といったところではないでしょうか。先日のキャッツ事件最高裁判決と同じような感覚かも・・・。また、虚偽記載に該当するか否かの論点への判断を回避することで、すでに法人としてのビックカメラ社に課徴金納付命令が出されていることとの整合性も維持しようとされたのかもしれません。(ところで、審判官の事実認定の手法は刑事事件に近いでしょうか?それとも民事訴訟に近いでしょうか?)

まだきちんと決定要旨を読んでおりませんので、しっかり読んだ後に、また皆様方のご意見などをお聞きしたくエントリーを書きたいと思います。とりいそぎ速報版ということで失礼いたします。

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デンマーク戦の勝利と株主総会の出席率

さきほど、私が役員をしている会社の定時株主総会が終了いたしました。

早朝(深夜?)のデンマーク戦のおかげ(?)で、午前10時開催による総会への一般株主様の出席率は下がるのではないか・・・・・とひそかに予想しておりましたが、ほとんど例年と変わらず130名程度。※

※・・・もちろん、実際に総会会場へ足を運ばれた株主様のことです。議決権行使書、委任状提出者の方々は含みません。

みなさん、例年以上にバンバンご質問される。○期連続赤字ということで、経営責任に関連する質問もどっさり。。。

役員席から眺めてみると、そういえば出席されておられる株主様は、かなりご高齢の方が多いようで、なかには「普通に起きて後半からサッカー見てきた」という方も(^^;;もう役員席に続けて6年も座っておりますと、「この方は厳しい質問」「このご夫婦は激励の意味をこめた質問」とだいたいわかるようになります。(大きな企業のように1000名を超える出席者・・・ということだとそうもいかないと思いますが)

さすがに寝不足で総会に出席することはマズイだろう・・・ということで、私はしっかり寝てましたが、パラグアイ戦は絶対観戦したいと思います。日本戦はまた総会集中日ですが、今度は終了後ですよね??

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2010年6月24日 (木)

株主総会の議決結果開示にみる「社外役員の独立性」への期待度

月2回発行となりました金融法務事情の記念号(1900号)はなかなかオモシロイ!一冊まるごと「SESC(証券取引等監視委員会)特集号」、オールキャストによる執筆ということで、まさに「SESCのいま」を知るには最高の読み物になっております。(強いて挙げればPCAAOB-公認会計士・監査審査会-についても特集の中でとりあげていただきたかった、というのが感想でありますが。)米国SEC(証券取引委員会)は2009年11月現在で、その内部統制には「重要な欠陥」があるとGAO(会計検査院)から評価を受けておりますが、日本のSESCの内部統制はどうなのでしょうか?先日のエフオーアイ調査などの活躍に代表されるように、適正なものと評価されるのでしょうか?

さていよいよ株主総会シーズンも真っ只中となりました。連日、「どこの会社のCEOが○億円もらってる」というニュースが飛び交っておりますが、情報開示は役員の個別報酬だけではなく、議案の賛否に関する株主の「議決権行使結果」もルール化されるようになり、なかなか興味深い結果も開示されております。日経新聞電子版のニュースで知り、ちょっと驚きましたのはバンダイナムコHDさんの株主総会で、社外監査役選任議案に45%の反対票が集まったそうであります。(第5回定時株主総会の議決権行使結果に関するお知らせ)他の役員さん方(取締役、監査役を含め)への反対票がほぼ均一(25%程度)ですから、この反対票の比率は異様に高いわけでして、私がこの候補者の立場だったら、かなり落ち込みますよ。。。(>_<)。。

弁護士の社外監査役候補者の方に関する議案でありますが、日経新聞電子版によりますと、この候補者の方は、バンダイナムコHDさんの子会社であるバンダイ社の法律業務を担当され報酬を得ていることから、米国の議決権行使助言会社は「社外監査役として疑問がある」と意見表明をされていたとのこと。しかし賛成票55%ですから、かなりの株主さんが同様の疑問を持ち、本当に「薄氷を踏む思い」での可決だったようであります。当該弁護士の方は、企業法務を取扱う法律事務所の方で、株主総会指導などに詳しい専門家でいらっしゃるベテランの先生ですから、このたびの議決権行使結果についても予想されておられたのでしょうか?(^^;;それとも、ちょっと意外な結果だったのでしょうか?

以下は私の個人的な意見でありますが、当該候補者の場合、会社法の社外監査役の要件に抵触することはありませんので、法律的に社外性に疑問がある、ということにはならないと思われます。(当該会社の顧問弁護士でも、社外監査役に就任することはとりあえずOK、と言われておりますし。)ただ、かなり問題を抱えていることは事実ではないかと考えます。たとえば親会社の社外監査役は、子会社の調査権を有しています。調査した内容に問題があれば(つまり親会社取締役の職務執行の適法性に疑問があれば)、株主に対して説明をしなければなりません。しかしながら、当該社外監査役が弁護士として子会社業務に関与しているのであれば、弁護士倫理上守秘義務がありますので、監査役の調査に対しては回答を拒否しなければならない場面が想定されます。しかしこの回答拒否は会社法381条4項の「調査を拒絶する正当な理由」には該当しないものと思われます。つまり、弁護士としての職務上の守秘義務と、社外監査役としての調査権行使、説明義務とが相対立する場面が想定され、潜在的な利益相反関係が生じる可能性が高いと思われます。このような状況が想定されるにもかかわらず、当社の経営企画室の方がおっしゃっているように「一般株主との利益相反関係にはなく、独立性は確保されている」とのことであれば、なぜそのように言えるのか、合理的な説明が必要となるのではないでしょうか。

もちろん合理的な説明がなされれば「セーフ」なのかもしれませんが、私としてはやはり「説明の必要性がないほどの外観的な独立性」を一般株主の方々は社外監査役候補者に期待しているものと考えます。実際の監査役の業務は、これまでバンダイナムコ(もしくはその子会社)のお仕事に関与されていた方のほうが、内情もよく知っておられるでしょうから、妥当性監査も含めて適任なのかもしれません。ただ、一般株主の利益が毀損されるおそれのある事態は、平時というよりも有事に関連する重要な業務執行に関するものであります。「取締役会」の監督機能よりも監査役の監督機能が重視されるのも、やはりそういった有事の際ではないでしょうか。一般株主と経営者との情報の非対称性を補完して、一般株主の利益保護の視点から物が言えるのは、独立かつ中立の立場で監査業務に没頭できる立場にある方ではないかと思われますし、そのためには(少なくとも)誰がみても外観的に独立性が維持されておられる方が適任である、と自然な感覚として判断できそうであります。

「そのへんのオッチャンを連れてきて社外監査役に選任したらええがな~♪」というわけにはいかないことは重々承知しておりますし、会社法務に精通しておられる法曹の方だからこそ、「この人なら問題はない」と会社が太鼓判を押されるのもよく理解できるところでありますが、 「社外性」と「独立性」は今後区別して考える必要があり、どこの上場会社さんにとっても、社外役員の「独立性」への配慮につきましては、この議決権結果開示の制度が、今後ボディブローのように効いてくるように思えるのでありますが、いかがなものでしょうか。これは就任時の人的属性だけの問題ではなく、たとえば2期8年を超えて「社外監査役」として居座る方にとっても要注意ではないかと。。。

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2010年6月22日 (火)

エフオーアイ社の粉飾決算事件と内部告発の世間的認知度

関西の某研究会にて、本日はエフオーアイ社(半導体製造会社 破産手続き中)の粉飾決算の事例を検証しておりました。すでに報道されているように、本事件は株主の皆様が取引所、主幹事証券会社、監査人を相手に訴訟提起の準備中、ということだそうですので、ちょっと法的な責任問題をブログで述べることはエチケット違反になりそうですので、研究会での検討結果等のご紹介は控えさせていただきます。

ただ、本事例もマスコミで報じられているところによれば、取引所や証券取引等監視委員会に対して内部告発があったそうでして、内部の者でなければわからないような正確な情報が伝えられたそうであります(たとえばこちらのニュース記事)。匿名組合等を用いたVC(ベンチャー・キャピタル)保有の株式が市場に出回る寸前の強制調査・・・ということですから、おそらく内部告発がなければ、被害はさらに拡大していたことは間違いないところだったのでしょう。しかもVCの株式保有率が75%にも上っていた、ということであります。

本日の研究会でも話題になりましたが、世間では間違いなく「内部告発」の認知度は上昇しているように思われます。調査権限を有する行政当局、消費者団体、業界団体、マスコミ、そして2ちゃんねる・・・。告発者の告発動機にしたがって申告先が選択できるほどであります。上司は部下を会社の不正に引きずり込む、部下は最初はこれに応じるが、次第に不正行為が過激になるにつれ、終わりのない不正の繰り返しに思い悩み、耐えきれず不正を第三者に申告する、というパターンが典型例であります。

何度か申し上げておりますとおり、私自身も数社の内部通報窓口(外部窓口)を担当しておりますが、先週たいへんむずかしい通報を受理いたしました。内部通報は当該会社のA社員からでありますが、「同社のB社員が、公益通報者保護法の保護要件に該当しないにもかかわらず、内部告発をマスコミに対して行おうとしている。告発のための証拠収集方法を含め違法行為なので直ちに止めてほしい」というものであります。会社の不正を告発しようとしているBの行動であるが、その行動自体が違法行為であるから、この社員の違法行為に対して何らかの会社としての対応を求める、という通報でありまして、こういったむずかしい問題が生じるのも、一般の企業社会のなかで、内部通報や内部告発、また公益通報者保護法の意味が少しずつ理解されはじめているからではないかと思われます。

JR西日本さんもセイコーHDさんも、そしてローソンさんも近鉄さんも、ガバナンス向上のために「内部通報制度」をしっかり整備することを最近表明しておられましたが、内部通報制度をどのように整備してみても、その運用に失敗すれば内部告発は急増するわけでして、とりわけ労働力の流動化が進んだり、非正規雇用者が増加するにしたがって、「元社員」「パート社員」による内部告発はこのまま増え続けるものと思われます。正社員が減る傾向のなかではさらに特徴的ではないでしょうか。今回のエフオーアイ社のような事例が発生しますと、また規制が厳格な方向へ向かうことが懸念されるわけでありますが、できるだけ規制が過剰にならず、それでいて不正摘発に効果的な手法として「内部通報制度」「内部告発」に注目が集まるのも、なんとなく頷けるような気もいたします。

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2010年6月21日 (月)

動き出した「監査法人異動時における意見開示制度」とセカンド・オピニオン

ちょうど2年前の2008年6月24日のエントリー「監査法人(公認会計士)異動時の意見開示」におきまして、

今後は監査法人と被監査対象会社との意見が対立した場合、監査法人が投資家に対して適正意見が表明できない理由等を堂々と説明することが増えるのではないか

と書きました。しかしながら、やはり被監査対象会社が監査法人との対立を回避することが多かったり、たとえ対立する場面が生じたとしても、(監査法人の守秘義務の関係から)合意解約や辞任という形で監査法人が自ら監査を下りることが多いということから、「意見開示制度」が活用される場面はなかなか発生することはありませんでした。また皆様方のご意見も、そうした予測が多かったように記憶しております。

しかしながら、近時TLホールディングス社や日本風力開発社のように、監査意見が表明されない理由に関する会社側、監査法人側の意見が食い違うため、それぞれが意見を開示する、という事態が発生しております。(法的には監査役さん全員による意見と監査法人との意見が食い違っている、ということであります。)2年前の私の推測は、単なる杞憂にすぎなかった、というわけではなかったようであります。(臨時報告書と適時開示という差異はありますが、監査法人の守秘義務が解除される正当な理由、という点では同様に取り扱って良いかと思われます。)とりわけ日本風力開発社は週間の株価下落率62.3%(473,000円→61,300円)で監理ポスト入り、本日(6月20日)発売の日経ヴェリタス紙によりますと、日経電子版株価検索ランキング2位(週間あたり)ということでありますので、あらためて監査法人の意見表明が株価に及ぼす影響の大きさを痛感するところであります。

ただし留意すべきは、こういった監査法人さんの意見開示がなされても、いずれの会社も後任の監査法人さんの就任が予定されていることであります(上場会社である以上は当然といえば当然ですが)。監査法人側が「会社の会計処理が不適切である」とは表明せず「意見が表明できない」としているのではありますが、後任の監査法人さんとしては、会社側の会計処理を適正と表明する可能性は十分にあるわけでして、もし、解任された監査法人さんのご意見(説明)も、また後任の監査法人さんのご意見も、いずれも正しいものであるということが前提であれば、これは監査意見にはセカンド・オピニオンが存在することを認めることにはならないのでしょうか?監査法人さんが意見を表明するにあたっての心証形成の程度は一定レベルの水準が必要でありますので、その水準(レベル)に関する意見の相違もやはりオピニオンに該当するものだと思うのでありますが、いかがなものでしょうか?

当ブログにおける常連の皆様からも、またある著名な会計学者の先生からも、「会計の世界には『オピニオン・ショッピング』は存在しても、『セカンド・オピニオン』は存在しない」と教えていただきました。つまり制度監査の世界においては、資格を持つ公認会計士さんが一般的な職業上の注意義務を払ったうえで行う監査業務では、どの企業においても、その監査意見には二つ以上の正解はない、ということが前提とされているものと思われます。そうしますと、たとえば後任の監査法人さんが、もし適正意見を後日表明するような場合には、「前の監査法人さんは間違った監査をしていた」ということを表明することになるのでしょうか?それとも会計監査の世界にも「セカンド・オピニオン」は存在する、ということを認めることになるのでしょうか?会計士の先生方も、この時期、年度監査から解放されて、少しだけお時間ができる頃かとは思いますが、このあたり、ご教示いただけましたら幸いです。

それともう一点、こういった監査法人さんの意見開示が活用される風潮になれば、この「意見開示制度」は、不正や誤謬に基づく重要な虚偽記載リスクがある場合における監査法人さんの中立性や独立性を維持するための有力な武器になる、ということであります。監査法人さんが効率的な監査を行いつつも、ある一定レベルの心証形成を必要とした意見を述べなければならないとすれば、重要な虚偽記載リスクを低減させるために監査役を利用する(金商法193条の3)、被監査企業の協力を求める(たとえば深度ある監査のための監査報酬の追加を要求する)という方法とともに、こういった意見開示をもって注意喚起をする、ということも行動規範のひとつになりうる、ということであります。しかし、武器を持つ・・ということは、逆からみると、武器を使わない場合に「なぜ使わなかったのか」ということの説明を求められることになります。とりわけ会計監査人の監査見逃し責任が法的に問われるような場合におきまして、この「意見開示制度」の活用事例が増える風潮がどのように影響を及ぼすのか、今後検討を要する課題になるのではないかと考えております。(ちょっと長くなりましたので、最後の課題についてはまた別途エントリーにて。)

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2010年6月17日 (木)

役員報酬開示問題と総会リハーサル

6月25日と29日が今年の株主総会集中日だそうでありまして、私が社外監査役を務めている会社も25日(第二集中日)開催であります。すでに有報や招集通知で1億円以上の報酬を受け取っていらっしゃる役員さんについて開示された上場会社もあるそうですが、3月決算会社様は、いままさに株主総会リハーサルの真っ最中ではないでしょうか。そういえば今年は海外機関投資家による提案権行使・・・という話題はほとんど出ませんね。

役員報酬開示問題につきましては、上場会社といいましても、外国人株主比率の高そうな大企業さんであれば、それなりにまっとうな対応をされるところも多いと思いますが、中小の上場会社さんにとりましては、やはり新聞等で紹介されているような方向には向いていないところもあるようですね。ブログネタとしては面白いのでありますが、九州怪計士さんより関連エントリー「役員報酬を開示する本当の意味はどこにあるのか?」にいただきましたコメントによりますと、役員報酬個別開示のルール化の影響で、取締役から顧問に「変身」される予定の役員さんもいらっしゃるとか。今年はダメでも、来年からは報酬開示の対象とはならない、ということで・・・・こんなのアリ?(^^;;  )怪計士さんはまじめに憤っておられるので、「法の砦」として、あんまり笑い話でご紹介するのも不謹慎ですが。。。汗

あと、今年も数社の総会リハーサルにおじゃましましたが、どこも「役員報酬の個別開示はしないのか?」といった想定質問を検討されているようであります。ちなみに多くの想定問答集では、「どっちみち有報でわかるんだから、総会でも真摯に回答しましょう」ということが書かれております。しかし有報は「開示」の世界ですが、総会における質問回答は「説明責任」の世界ですよね。わかりやすく株主へ説明する必要があるわけでして、有報で開示するのと同じ、というわけではないように思います。リハーサルのなかで、「1億円もらっている役員はいるか?」といった質問への答えは簡単でありますが、「報酬決定方針を知りたい」とか「業績連動部分の比率を知りたい」とか「執行役員分と取締役分との比率は」など、(本来、現実的には総会で質問が出る可能性がかぎりなく少ないにもかかわらず)総会リハーサルで想定問答をしなければいけない・・・というあたりが、社内的にも若干きまずい雰囲気を醸し出しているような気がいたします。

「うちには決定方針はありません。都度、取締役会における経営判断にて決定しております。」というところも多いかもしれません。ただ業績が良い会社様であればいいのですが、そうでない会社様では株主さんからツッコミが入ることもあるでしょうね。「○○会社、役員報酬を開示」といったニュースが増えれば増えるほど、総会がやりにくくなる会社様も増えるような気がいたします。

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2010年6月15日 (火)

日本VSカメルーン戦に匹敵する注目度!:監査法人VS第三者委員会!

すいません、長いタイトルの割には内容が薄いエントリーであります。(多忙のため、ダイジェスト版で失礼します)

「はやぶさのカプセル帰還」「カメルーン戦勝利」と、ひさしぶりに日本中にうれしい話題が飛び交っておりますが、ディスクロージャーの世界では、またまたスゴイ開示情報が出ております。日本風力開発社(マザーズ)の「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」うーーーん、これまたスゴイ。。。

追記;6月15日早朝に当社の他のリリースなどを読みますと、やはり当社固有の事情もあったようですね。(追記おわり)

先日のTL社の事例につづき、またまた監査役会(正確には監査役全員の同意)により、会計監査人を解任するという事態が発生しております。そして今度は日本で最も大きな監査法人さんが解任された、とのこと。ちなみに会社法340条1項(監査法人の職務懈怠)による解任だそうであります。いっぽうの大手監査法人さんは、解任に関する意見開示を現在準備中とのこと。また、今回の解任劇に直接関わっておられるわけではありませんが、6月30日の株主総会で新たに就任予定の監査役さんは、司法試験合格者を多数輩出している名門ロースクールの会社法の大先生でいらっしゃいますね。。。(当然、今回の監査法人解任劇を熟知しての監査役就任ということだと思いますし、なんだか会社側の意気込みのようなものを感じます。)

大手監査法人さんが懸念されている事項について、「懸念するほどのことではない」といった独立第三者委員会報告(意見)が提出されたにもかかわらず、当該監査法人さんは懸念が払しょくされないとして、意見表明に難色を示しておられたことが解任の最大の理由と思われます。(ちょっと意見書の内容は法律に詳しい方でないと理解できないものと思われますが、このようなスタイルの意見書もあるのですね。)ここのところ、監査役の有事対応の話題は事欠かないのでありますが、とりわけ本件は監査法人さんの意見開示も含めて、今後の展開が注目されるところではないでしょうか。本当にリリースを精査する時間がなくて申し訳ありません。とりいそぎ備忘録程度のみ。。。

(追記その2)会社リリースを読んでの素朴な疑問として「なぜ当該監査法人さんは、解任されたにもかかわらず、一時会計監査人への引き継ぎに協力するのだろうか?たしかに会社法監査については準委任契約上の引き継ぎ義務はあるかもしれないけれども、おそらく解任理由は争っておられるわけで、これでは(財務諸表監査に関する契約の)合意解除による場合と同じであり、解任理由があることを(法的には)認めたことにならないのだろうか?」とも思われます。しかし、会計士さんには、異動に関する事情が発生した場合には、公認会計士の職務上のルールとして、適切に引き継ぎをしなければならないそうであります。つまり法的にはどうであれ、事実上、その会社の監査から身を引くときには、きちんときれいに立ち去る、ということなんですね。さすが、投資家、株主のために仕事をする職責だと理解いたしました。(なるほど・・・)

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2010年6月14日 (月)

どうして出ない?ビックカメラ役員に対する課徴金審判決定

「もうそろそろ出るのでは?」と、4月5日付けエントリー「待ち遠しいビックカメラ役員に対する課徴金審判決定」において軽々しく予想していたのでありますが、ビックカメラの役員さんに対する有価証券目論見書の虚偽記載に関する課徴金審判の決定(金融庁)が未だ出ておりません。審判開始決定は平成21年6月26日ですから、当該審判手続きは、まもなく1年を迎えようとしております。銀行検査や、検査忌避に伴う刑事告発など、いろいろと金融庁もお忙しいこととは存じますが、審判を担当される方々は、まったく別の部門に属しておられるわけで、なにゆえこんなに時間を要するのか不思議であります。処分対象者側の事情で長引いている、ということもないと思われます。

そもそも、証券取引法改正によって課徴金制度が導入され、その処分の慎重を期するために審判手続が設置されたわけでありますが、これまで課徴金処分を課された法人、個人がその処分を不服として争ったことはなく、最近やっと味の素事件で(インサイダー規制違反ですが)否認事件に関する審判決定が下されたところであります。行政法的にみれば、この審判制度は司法制度に代替する役割を担うものではなく、あくまでも証券市場における不利益処分を迅速に解決するために設置されたものであり、審判決定に不服のある者は、その後行政訴訟のなかで、その取消を求めることが可能になっております。したがいまして、課徴金処分を争う対象者としては、この審判決定の理由を行政訴訟のなかで争うことになりますので、いかなる審判決定が出るのかは、自身の利益保護(防御権保障)のためにはきわめて重要であります。

審判手続きのルールを示す「金融商品取引法第6章の二の規定による課徴金に関する内閣府令(平成17年3月4日内閣府令第17号、以下「課徴金府令」といいます)」のなかでも、たとえば「審判官は、その職務を公正迅速に、かつ、独立して行わなければならない」(同6条)と定められており、また迅速な審理のために争点や証拠の整理を行う「準備手続き」の活用が規定されており(同30条)、さらに「審判官は、課徴金納付命令の決定をするに足りる主張および証拠の提出がなされたと認めるときには審判手続きを終結する」(同60条)とされ、もし課徴金処分の根拠となる事実が認められないときには、その旨の審判決定をしなければならない、と定められております(同61条4項)。とくに審判官は、上記課徴金府令の文言からすれば、もう当事者からの主張と証拠は出尽くした、と判断したからこそ審判を終結したわけでありまして、終結後、これまで相当の時間が経過している点をどのように理解すればよろしいのでしょうか。

上記のとおり、課徴金処分に不服のある者としては、この審判決定が出ないかぎり、どのような点に異議を申し立てて裁判を起こすべきなのか、その見通しが立たないことになります。もちろん、ビックカメラという法人自身は課徴金処分を争っておりませんが、役員個人としては有価証券報告書、届出書の虚偽記載の点を争う可能性もありますし、またそれらの書類作成に関与した、とされる点を争うことも考えられます。しかし、これだけ審判決定が出ないとなりますと、自身の主張を裏付ける証拠が散逸する可能性が高まることも考えられます(審判官から「早く出せ」と促されるわけですから、裁判と同じレベルの証拠を処分対象者側が出さなければならない、ということもいえないわけでして)。先日の味の素事件の審判決定をみると、課徴金納付命令の根拠事実を裏付けるものとして、企業内に残る電子記録が多用されておりました(電子メールや、社員の入退館記録等)。デジタルフォレンジックの必要性は、なにも摘発する側だけでなく、防御する側にもあるはずです。(ちなみに、ここでは「デジタルフォレンジック」の文言を、ハードディスクに残った痕跡から、システム利用の実態を解明する、という意味で用いております。)

審判決定に時間を要したために、こういった電子記録が散逸してしまって、原告側が裁判では提出できない、といった事態になることは考えられないのでしょうか。対審制の民事訴訟ルールが妥当する審判手続きであることから、処分対象者にとって「まったく予想できなかったような処分理由」が出ることはあまりないものとは思われますが、そもそも審判する側がこのように迅速に判断できない、ということになれば、適正手続き違反ということにはならないのでしょうか?一般に行政不服審査が遅々として進まないケースも散見されることはありますが、当該制度は上記課徴金府令に定めているとおり、関係当事者に対して迅速な審理への協力を求めているわけでありますから、当然、審理する側も、迅速性が要求されても当然のことであろうと思われるわけでして、このあたりは審判決定の中身と同様、多くの議論がなされるであろうと予想されます。

課徴金処分は、たしかに行政処分ではありますが、罰金(刑事処分)の確定裁判があった場合の按分に関する規定があり、また平成20年の改正金商法では(行政当局の裁量の余地はないものの)課徴金加算制度も設けられ、制裁的な意味合いも含むものに変容しつつあるようです。そうだとすれば、課徴金処分の迅速性の問題は、単にデュープロセス保障ということにかぎられず、憲法上の迅速な裁判を受ける権利の保障にもつながるように思われます。課徴金処分を真剣に争う処分対象者が出てきたときにこそ、この制度の本当の長所・短所が露呈することになるのかもしれません。(とりあえず、6月26日までに決定が出されることを期待しております)

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2010年6月11日 (金)

これも「監査役の乱」?(社外監査役解任される・・・の続編)

昨日のエントリーの続きのようでありますが、先日ご紹介したシルバー精工社(東証一部)の社外監査役さんの解任議案の件、ここへ来て、ドンデン返しの展開となっております。あれだけ「うちの社外監査役は監査役として適格性がない」と提案理由を説明しておられたにもかかわらず、今度は社外監査役さんに謝ったうえで解任議案を取り下げるとのこと。Kazuさんが、先にコメント欄で指摘しておられるとおり、「いったい、何があったのでしょうか」。これはナゾです。弁護士資格をお持ちの社外監査役さんとしては相当の覚悟で会社と対峙されたのではないかと思うのでありますが、経営陣としては、これに敗北したのか?それとも他の要因があったのか?

6月9日付けシルバー精工社総会議案取り下げのリリース

会社側は、取締役選任議案や商号変更に関する定款変更議案とともに、同社の社外監査役が「監査役としての適格性がない」として解任議案を上程しておりましたが、「しかしながら、その後、様々な反響があったこともあり」再度慎重に検討を重ねた結果、当社の利益につながらないことから、議案を撤回することに決めたそうであります。しかし「様々な反響」って一体何が発端だったんでしょうか???(まさか、このブログも含まれているわけじゃないでしょうね・・・・(^^;;  )

「W監査役解任の件につきましては、取締役会と監査役会で慎重に検討を重ねた結果、その適格性には問題がないと判断し、W監査役に謝罪のうえ、解任議案を撤回することに」されたそうであります。「W監査役に謝罪のうえ」って、あんまり開示情報では出てこないフレーズですよね(^^; よほどW監査役が「謝罪したことを書いてもらわないと気がすまないわよ!」っと、おっしゃったんでしょうか。(一度お聞きしてみたいものです)あと、就任予定者を含め、社外監査役2名が弁護士というのも、けっこう珍しいのではないでしょうか。

いずれにしても、これまでの同社のリリースは非常に混乱しており、おそらく東証さんからは、かなり厳しく説明を求められておられるものと推察されます。説明するのもたいへんでしょうね。(昨日に引き続き、多忙及び体調不良のため備忘録程度にて失礼いたします。。。)

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2010年6月10日 (木)

監査法人からの反論ですね(TLホールディングス)

この時期、本業でかなり忙しく、ブログの更新もままなりません。といいますか、ブログネタはあっても、ネタのフリ方を「ボーーー」っと考える時間的な余裕がございません。ネタのフリ方が当ブログの「生命線」なので(笑)、いまひとつ更新に乗り気ではないのですが、せめて下記の話題にだけは触れておかねば・・・・・と思いましたので、少しだけ。

ということで、すでにコメント欄のほうでエントリーよりも先にご議論いただいているようですが、監査役の有事対応(監査法人を解任するの巻)におきまして、「これだけボロカスに言われて、監査法人さんはなんで反論しないのだろうか?他のクライアントの手前、何も言わないのはまずいのではないか?」と書いておりましたところ、

TLHD社の6月8日付けリリース 出ましたね。

監査法人側からのコメントが掲載されております。前回のリリースの後、両法人とも、関東財務局から説明を求められたようですね。しかしながら、監査法人さんからの反論は全文ではなく、概要(要旨)のみのようであります。たしかにコメント欄でJFKさんが指摘しておられるような問題点もありますが、とりあえずキチンと反論することは、投資家や株主への問題喚起という意味ではよかったのではないでしょうか?むしろ、こういった反論があることをあらかじめ予想しての「監査役の有事対応」だと思います。

しかし以前から当ブログでは「深夜の開示は蜜の味」といっておりますが、同じ日の23時33分の細谷火工さん(私は内部統制報告書の件で、同社のお名前を存じ上げたのですが)、またまた「監査役の有事対応」を地で行くようなリリースでありますね。元取締役さんだけ・・・ということでしたら、単に監査役が代表して訴訟を提起する、ということでしょうが、現代表者や現取締役相手、ということですから、(同族内での揉め事かも?)取締役会の判断ではなく、監査役独自の判断で提訴に踏み切った、ということなのでしょうね。

本当に、最近は「監査役の有事対応」の実例が増えているように感じます。

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2010年6月 7日 (月)

役員報酬を開示する本当の意味はどこにあるか?

6月5日(土曜日)、社外取締役ネットワーク関西研究会にて、「役員報酬の個別開示について」と題する発表を担当いたしましたので、①役員報酬の個別開示に関するルールの概要、②コーポレート・ガバナンス上での「役員報酬開示問題」の位置づけ、③資生堂さんの開示をとりあげての具体的なケースの検討などをご紹介し、企業実務家の方々の意見を頂戴いたしました。

ルールの概要につきましては、最新の旬刊商事法務(1899号)の座談会記事でも討論されているとおり、「重複開示の取扱い」や子会社からの報酬、使用人兼務取締役の使用人給与問題などが中心となりますが、どちらかといえば担当者向けのお話になってしまいます。そこで本研究会のおきましては、ガバナンス上での役員報酬開示問題や資生堂さんの事前開示に関する話題のほうが中心課題でありました。

私の発表の要旨はといいますと、世間では役員さんの現金による個別報酬開示の是非、またその下限が1億円と規定されていることの是非ばかりが話題になっておりますが、それは違うのではないか、むしろ①誰が役員報酬を実質的に決めているのか、②役員報酬決定方針は明文上で規定されているのか、たとえば基本報酬以外に、中長期の業績と連動するような報酬、株価連動報酬等はどのように組み込まれているのか、③著しく短期の利益志向となる報酬制度に関する情報は役員間で共有され、モニタリング体制が図られているか、といったことを株主が監視できるシステムの開示ほうが重要ではないか、といった内容であります。もちろん、「1億円うんぬん」というお話は、③の部分にも関連するところではありますが、①および②が重要であるならば、たとえ1億円以上の報酬を誰ももらっていない会社の役員さんであっても、開示情報としては留意しておかなければならないのではないか、というものであります。

たとえばプライスウォーターハウスクーパース社による2009年度の「日本企業における報酬ポリシー(役員報酬に対する基本方針)の策定および開示状況」に関する調査結果(上場会社向け)によりますと、役員報酬に対する基本方針を策定している会社は46%にすぎず、さらにそのうち、WEBサイトや株主総会などにより、投資家や株主に基本方針を開示しているのは、わずか21%にすぎない、ということでありまして、金融庁による開示ルール改正のもとになりました金融庁スタディグループによる役員報酬開示の趣旨は、このあたりのもあるのではないか、という問題意識からであります。

そのような問題意識から、先日株主総会招集通知の参考書類のなかで1億円以上の報酬を得ておられる役員さんの個別開示を行った資生堂さんの例をとりあげ(ルールでは有価証券報告書で開示することになっておりますが、資生堂さんの場合は事前開示の意味も含めて招集通知で開示しておられます)、「これは素晴らしい!」と絶賛したのでありますが、その後のメンバーの社外取締役さん方のご意見は以下のとおり。

メンバーのAさん「あれ?本当にこれだけ?資生堂さんにしては、えらい少ないなあという実感ですなぁ。もっともらってもええんじゃないの、という感じ。社外役員さん方が報酬決定に関与している、とありますけど、実際には事務方が作って、確認する、という感じでしょうなぁ。給与コンサルタントでもなかったら報酬の妥当性はわからんのとちがいます?」

メンバーのBさん「役員報酬の基本方針って、ほんまに役員みんな知ってますかね?あっても、知らんのとちがいますか?そもそも社長の報酬なんて平の取締役にはわかりまへん。自分と同じ平の取締役やったらなんとなくわかりますけど、役付きがナンボやとか、副社長がナンボというのはわからんし、執行役員兼務の人達もわからん。聞くに聞けんし(笑)」(そうそう、「なんでそんなん聞くねん」と言われまっせ、との声)

メンバーのCさん「先生が業績連動性の比率を開示することの重要性を言われるのは、わかる気もするのですが、そもそも業績というのは、私らがどんなに立派なことをやっても、やめたころにわかることなんで(笑)、ちょっとピンときませんなぁ(そやそや、それにどうやって個人の業績と会社の業績を結び付けるんやろか・・・との声も・・・)

メンバーのDさん「金融庁SGでは、もともと全部の役員の報酬を開示したかった当局が、経済団体からの猛反対を受けて、妥協の産物として『1億円』とう数字が出てきただけですよ。あまり意味がないのでは・・・・・」

たしか昨年6月に出された金融庁SG報告書では、「株主と企業との対話の促進」として、役員報酬開示問題が提起されたと記憶しております。しかしながら、実際に皆様のご意見をお聞きしておりますと、これがガバナンス向上に結び付くためには、多くの山を越える必要がある、と実感した次第でありました(^^;;企業のディスクロージャー担当の方々の苦労ばかりが増えて、株主のための施策としての理想と現実にはかなりのギャップがあるのかもしれません・・・・・。

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2010年6月 4日 (金)

これは秀逸!(シニアコミュニケーションの社外調査報告書)

執務中にもかかわらず、読みふけってしまいました。これはスゴイ。

シニアコミュニケーション(マザーズ)の社外調査委員会報告書

おそらく、今年一番の調査報告書ではないかと。

すくなくとも会社と調査委員会の信頼関係がなければ、ここまでの報告書はできないと思います。独立性を維持しつつ、信頼関係を保持するというのは、どういった状況だったのでしょうか?

CFE(公認不正検査士)の教材にもなりそうな報告内容であります。

しかしIPO支援の仕事をさせていただいておりますと、この財務担当取締役の方の気持ち・・・・・安易に理解してはいけないのだろうけど、痛いほどわかります。。。VCあたりから社外取締役の方々が派遣され、いろんな拘束条項が増えていって、後戻りできなくなるとか。。。

誰でも同じ境遇で上場を夢見たら、同じ行動に出るかも。。。家族の顔が浮かんだりして。。。

監督官庁の立入検査の原因となったのはいったい何だったんでしょうか?

読後の感想として、監査役の方々がグルではなかったことが、せめてもの救いでありました。監査役さんの厳しい追及が事件発覚へと導いたものと「信じたい」です。ともかく、本報告書を作成された弁護士、会計士の皆様に、敬意を表します。

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2010年6月 3日 (木)

キャッツ会計士・最高裁判決(有罪確定)への感想

細野祐二氏の著書は何度も当ブログで取り上げさせていただきましたし、法と会計の狭間の問題を検討するにあたり、その意見については何度も参考にさせていただきました。JALがあのようになる2年以上前から「空飛ぶ簿外債務」として、その問題点を指摘されていたことや、日興コーディアル事件が話題となるきっかけとなった論稿をお書きになっていたことも印象的であります。

その細野氏が被告人とされているキャッツ粉飾決算刑事事件の最高裁判決(第一小法廷)が5月31日に下され、細野氏の有罪が確定しております。話題の事件判決として、すでに最高裁のHPで判決文が公開されております。これまでの細野氏の主張から、どのような判決が出るのか楽しみにしておりましたが、結果はわずか4ページの短い判決文です。補足意見もなく、裁判官全員の意見として原審(高裁判断)を支持しております。

「司法に経済犯罪は裁けるか」(細野祐二著 2008年 講談社)の第3章「司法と会計」を改めて読み直し、この最高裁判決文を何度か読み返してみましたが、制度会計における会計行為(会計事実+会計処理の原則・手続き+会計報告書・会計数値)のうち、細野氏は会計処理の原則・手続きのところで勝負しようとしたのでありますが、最高裁は「会計事実」で判決を下した、というのが実際のところではないでしょうか。法律家が複式簿記を知らない(得意としない)ことは細野氏が先の著書のなかで述べているとおりだと思いますし、継続企業の前提において、「貸金」「預け金」の区別にどれほどの意味があるのか、ということも、おそらく細野氏が述べているとおりかと思います。※ちなみに、上の「会計行為」の解説は、「会計学一般教程(第7版)」武田隆二著の4頁をもとにしております。

しかし、消費貸借や消費寄託という契約の「要物契約性」については、まぎれもなく会計ではなく、法律の分野であります。「資金移動の根拠となる契約は果たして有効だったのか」というところは、会計基準によって判断されるのではなく、まぎれもなく法律もしくは裁判例によって決定されるのでありまして、額面30億円のパーソナルチェックが交付されたことによって、「返済がなされたのか」「運用資金が移動したのか」というあたりは、消費寄託契約の有効性を決する「要物性」の問題として、すでに最高裁よりも前の大審院の時代に出た先例があります。最高裁が焦点をあてたのは、会計処理の手続きではなく、それ以前の「会計事実」であり、細野氏がこの「会計事実」を認識していたことに注目していたものと思われます。パーソナルチェックを振り出した人間の資力が乏しかったのかどうか、支払呈示に回さないような合意があったのかどうか、これらは継続企業の前提における会計処理の問題からすれば、その処理方法に大きな問題はなかったのかもしれません。しかし、消費貸借契約、消費寄託契約が有効に成立しているかどうか、つまり条文上の「要物性」や「寄託」の意味を解釈するうえでは大きな意味を有しているのでありまして、そこが明確にならねばそもそも「会計事実」(物的・経済的な事実関係)が存在しないことになるのではないでしょうか。

もちろん、虚偽記載有価証券報告書提出罪の「共同正犯」が認定されているわけですから、そこには刑法総論でおなじみの「共謀共同正犯」に関する成立要件(たとえば順次共謀による共同正犯の成否など)も議論されるのかもしれません。しかし、このあたりは最高裁は極めて保守的であり、とくに「経済犯罪」に特有の論点でもありません。最高裁は、会計専門職に対して太刀打ちできない「会計処理の妥当性」で議論するのではなく、契約法理の支配する領域、つまり会計事実のところで判断を下したのであり、法律を知らないことをもって故意は阻却されない、という、これまた司法ではあたりまえの論理によって、ほとんどむずかしい議論もすることなく有罪を認定したものと思われます。

正直なところ、細野氏側を応援していた立場からして、「なぜわずか4頁の最高裁判決」で終わってしまうのか、冷静に分析をしてみたいと思ったので、心苦しいのではありますが、このような感想を書かせていただきました。会計不正事件のなかで、監査人が最も粉飾を発見しにくいのは経営者が第三者と共謀している場合であります。おそらく粉飾見逃し責任を問われる可能性は乏しいと思います。しかしその監査人が「経営者の共謀の事実を知っていながら適正意見を表明したら・・・」といった論理が最高裁の判断には流れているように感じました。司法にも経済犯罪を裁く方法が(それなりに)あるのではないか・・・というのが正直な感想であります。

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2010年6月 1日 (火)

コンプライアンス経営はむずかしい・・・(大手生保のセクハラ編)

ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズです。もうすでに5年ほど前ですが、リスクマネジメント会社の社長さんから、「日本で一番職場環境の整備に熱心なのは住友生命さんですよ。」というお話を聞いておりました。たしかに住友生命CSRのWEBページ(人権への取組み)を拝見しますと、なるほど当該社長さんから聞いていたとおり、セクハラ専用窓口が社内と社外にふたつ設置されており、おそらくカウンセリングも受けられる体制が整備されているようであります。

実際にも、住生さんはセクハラ・パワハラ防止体制は十分に整備されている会社ではあると思うのですが、そのような会社でも起こってしまうのがセクハラ事件であります。本日(5月31日)の読売新聞ニュース、時事通信ニュースなどによりますと、上司にセクハラを受けたとする女性(原告)が提訴していた裁判で、神戸地裁柏原(かいばら)支部は、この上司とともに住友生命さん(法人)にも損害賠償責任あり、とする判決を出していたそうであります。報道によると「男性から体を触られそうになったり、キスを強要されそうになった」とのこと。

セクハラやパワハラ事件がコンプライアンス経営上とても問題となるのは、たしかに裁判所で認められる賠償金額は少ないのかもしれませんが、マスコミで大きく報じられること(本件裁判も、5月中旬に判決が下りたにもかかわらず、マスコミが認識した5月末でも取り上げられてしまうこと、また午後10時半現在、読売新聞ニュースのアクセスランキングで第8位にランクインしております)、今後、判例が紹介されるたびに「○○生命セクハラ事件」と呼称されてしまい、いつまでもイメージの悪さが残ってしまうことにあります。できれば調停や審判で和解を成立させたいと思うのは、このあたりにあるわけでして。

会社側が損害賠償責任を負う根拠は民法715条の使用者責任でありますが、さすがに普段から平時の研修やマニュアル作り、有事の社内調査などを熱心に履行されておられたのか、職場環境配慮義務違反による債務不履行責任は退けられたようです。

ところで当ブログをご覧の皆さま、「セクハラ」という言葉を聞いて、思い浮かぶのはどのような行動でしょうか?おそらく「肩を抱きながらカラオケで『ロンリー・チャップリン』や『愛が生まれた日』のデュエットを強要する」とか「社内旅行の宴会で、前に座っている部下の女性に『あれ?最近ちょっと髪の毛がツヤツヤしてるみたいやけど、○○ちゃん、女性ホルモンの分泌が盛んになってるんちゃうか!?』などとからかう」ことが想起されるのではないでしょうか。しかし、そういった典型例はさすがに減少傾向にあり、実際に問題になるケースは「プチ・セクハラ」型というものであります。私が内部通報窓口を担当している会社さんでも、そういった「プチ・セク」事案にときどき遭遇いたします。

社内研修やセクハラ禁止マニュアルによって「理性で抑える」ことが可能なものはよいとしても、プチ・セクハラはなかなか抑制が効かない態様のものが多いように思います。たとえば「社内恋愛なし崩し型」は、女性の心が離れているにもかかわらず、男性社員のほうが、未だ自分に恋心を抱いていると勘違いして、いつまでも追っかけまわすパターン。同年代であればそれほど問題も大きくなりませんが、やはり40代上司と20代から30代の女性社員という場面がやっかいです。(これは最近の判例でもよく出てきますね。)あと「うっかりインサイダー」ならぬ「うっかりセクハラ型」というものがあります。たとえば社交辞令でバレンタインのプレゼントを40代の女性社員からもらって、ホワイトデーに、その女性社員に「白髪染め」を贈ってしまった、というもの。(これは私が苦労した実話であります)男性は本当に喜んでもらおうと思って贈ったのであります。「彼女が最近とても白髪が増えたから、きっと喜んでくれるにちがいない。意表を突くプレゼントでナイスガイな上司と思われたい」という真摯な気持ちからでありました。こういったプチ・セクハラは、女性側は堂々と内部通報窓口やセクハラ相談窓口に通報してこられるものの、男性側には悪気がないため、なくそうと思ってもなかなかなくならないと思われます。

前にも書きましたが、セクハラ調査、セクハラによる社内処分がムズカシイのは、セクハラは基本的に人格権侵害事案だからであります。つまり女性(2007年の雇用機会均等法改正後は男性も対象ですが)の主観的な意識を基本とせざるをえない。当該女性が嫌な気持ちを抱いているのであれば、その気持ちは尊重しなければならない。しかし社内処分となると「行為規範性」が必要です。つまり罪刑法定主義ではありませんが、「あなたはこんな行為をしたから懲戒処分となります」という「行為」を特定しなければならない。したがいまして、主観的な部分と客観的な部分のどちらにも配慮しながら社内調査をしなければならないし、このバランスをどうとるか、ということが「社内対応で終わせるのか、裁判にまで突入してしまうのか、それともマスコミへの告発にまで至るのか」を分けるキモとなります。

男性側への処分がなされずに「隔離政策」だけで女性の気持ちはおさまるか?「けん責処分」だけでおさまるか?極めてむずかしい判断ですし、いっぽう社内調査があいまいなまま懲戒処分を受けた対象者から会社に向けられた裁判で、対象者が勝訴した事例も出ております。これもマニュアルがあるわけではなく、人事部や総務部等に、こういった感覚に長けている方がいらっしゃるかどうかが課題であります。上記のようなプチ・セクハラ事案が減少しないことに加え、こういったセクハラ問題への対応の特殊性にもコンプライアンス経営のむずかしさがあるわけでして、いかに立派なセクハラ防止体制を整備していたとしても、当該リーガルリスクがゼロにはならない所以ではないでしょうか。

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