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2010年6月 7日 (月)

役員報酬を開示する本当の意味はどこにあるか?

6月5日(土曜日)、社外取締役ネットワーク関西研究会にて、「役員報酬の個別開示について」と題する発表を担当いたしましたので、①役員報酬の個別開示に関するルールの概要、②コーポレート・ガバナンス上での「役員報酬開示問題」の位置づけ、③資生堂さんの開示をとりあげての具体的なケースの検討などをご紹介し、企業実務家の方々の意見を頂戴いたしました。

ルールの概要につきましては、最新の旬刊商事法務(1899号)の座談会記事でも討論されているとおり、「重複開示の取扱い」や子会社からの報酬、使用人兼務取締役の使用人給与問題などが中心となりますが、どちらかといえば担当者向けのお話になってしまいます。そこで本研究会のおきましては、ガバナンス上での役員報酬開示問題や資生堂さんの事前開示に関する話題のほうが中心課題でありました。

私の発表の要旨はといいますと、世間では役員さんの現金による個別報酬開示の是非、またその下限が1億円と規定されていることの是非ばかりが話題になっておりますが、それは違うのではないか、むしろ①誰が役員報酬を実質的に決めているのか、②役員報酬決定方針は明文上で規定されているのか、たとえば基本報酬以外に、中長期の業績と連動するような報酬、株価連動報酬等はどのように組み込まれているのか、③著しく短期の利益志向となる報酬制度に関する情報は役員間で共有され、モニタリング体制が図られているか、といったことを株主が監視できるシステムの開示ほうが重要ではないか、といった内容であります。もちろん、「1億円うんぬん」というお話は、③の部分にも関連するところではありますが、①および②が重要であるならば、たとえ1億円以上の報酬を誰ももらっていない会社の役員さんであっても、開示情報としては留意しておかなければならないのではないか、というものであります。

たとえばプライスウォーターハウスクーパース社による2009年度の「日本企業における報酬ポリシー(役員報酬に対する基本方針)の策定および開示状況」に関する調査結果(上場会社向け)によりますと、役員報酬に対する基本方針を策定している会社は46%にすぎず、さらにそのうち、WEBサイトや株主総会などにより、投資家や株主に基本方針を開示しているのは、わずか21%にすぎない、ということでありまして、金融庁による開示ルール改正のもとになりました金融庁スタディグループによる役員報酬開示の趣旨は、このあたりのもあるのではないか、という問題意識からであります。

そのような問題意識から、先日株主総会招集通知の参考書類のなかで1億円以上の報酬を得ておられる役員さんの個別開示を行った資生堂さんの例をとりあげ(ルールでは有価証券報告書で開示することになっておりますが、資生堂さんの場合は事前開示の意味も含めて招集通知で開示しておられます)、「これは素晴らしい!」と絶賛したのでありますが、その後のメンバーの社外取締役さん方のご意見は以下のとおり。

メンバーのAさん「あれ?本当にこれだけ?資生堂さんにしては、えらい少ないなあという実感ですなぁ。もっともらってもええんじゃないの、という感じ。社外役員さん方が報酬決定に関与している、とありますけど、実際には事務方が作って、確認する、という感じでしょうなぁ。給与コンサルタントでもなかったら報酬の妥当性はわからんのとちがいます?」

メンバーのBさん「役員報酬の基本方針って、ほんまに役員みんな知ってますかね?あっても、知らんのとちがいますか?そもそも社長の報酬なんて平の取締役にはわかりまへん。自分と同じ平の取締役やったらなんとなくわかりますけど、役付きがナンボやとか、副社長がナンボというのはわからんし、執行役員兼務の人達もわからん。聞くに聞けんし(笑)」(そうそう、「なんでそんなん聞くねん」と言われまっせ、との声)

メンバーのCさん「先生が業績連動性の比率を開示することの重要性を言われるのは、わかる気もするのですが、そもそも業績というのは、私らがどんなに立派なことをやっても、やめたころにわかることなんで(笑)、ちょっとピンときませんなぁ(そやそや、それにどうやって個人の業績と会社の業績を結び付けるんやろか・・・との声も・・・)

メンバーのDさん「金融庁SGでは、もともと全部の役員の報酬を開示したかった当局が、経済団体からの猛反対を受けて、妥協の産物として『1億円』とう数字が出てきただけですよ。あまり意味がないのでは・・・・・」

たしか昨年6月に出された金融庁SG報告書では、「株主と企業との対話の促進」として、役員報酬開示問題が提起されたと記憶しております。しかしながら、実際に皆様のご意見をお聞きしておりますと、これがガバナンス向上に結び付くためには、多くの山を越える必要がある、と実感した次第でありました(^^;;企業のディスクロージャー担当の方々の苦労ばかりが増えて、株主のための施策としての理想と現実にはかなりのギャップがあるのかもしれません・・・・・。

6月 7, 2010 ディスクロージャー |

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コメント

単純な感想にすぎませんが

上記1から3はおっしゃる通りだと思います。

稼いだ利益がだれに帰属するのか、取締役は誰に委任されるのか等、つまり「株式会社は誰のもの」の議論があいまいなために、筋の通った議論が噛み合わない一例のように思います。(取締役の善管注意義務は会社にあったのもおかしい)。

(けどこの議論をすると反発を招きますね)
株主といえども普段は何もできないし、特段上から目線でモノを言っているわけでもないと思います。

しかしながらこういったことに前向きに対応していく企業と後ろ向きな企業では中長期的に差が出てくるだろうなあ、と漠然と思います。投資家の多くは、開示が重要と言うより、そういった経営陣の姿勢を評価するような気がします。皆さん顧客の大事な資産を預かっているので、投資先の選定にも気を使っているはずです。

企業側もそういった良質な腰の据わった投資家(長期スタンスであまりモノ言わない)を歓迎するはずですので、ガバナンスに前向きな企業は株主の質も良くなっていくように思います。

逆に背を向けていると、「狙われ」やすくなるように思います。

(あまり詳しく存じませんが)資生堂は確か買収防衛策も廃棄したはずでROEにも力を入れると言っていた。買収防衛から本質的に取り組んでいるのでしょうね。

投稿: katsu | 2010年6月 7日 (月) 12時34分

katsuさん、おおきに(涙)。私の意見を理解していただける方がひとりでもいてくれて、ありがたいです。

ちなみに、資生堂さんのIRへの姿勢は、2009年版「議決権講師」(日本プロクシーガバナンス社発行)のインタビュー記事のなかで、同社専務さんが詳しく解説しておられ、参考になります。

業績がいいから開示に熱心なのか、開示に熱心だから業績も上がるのか、このあたりも、実はいろいろと議論されていたりしますね。

投稿: toshi | 2010年6月 7日 (月) 12時42分

> それにどうやって個人の業績と会社の業績を結び付けるんやろか

アメさんとこではそれを無理矢理やっとるんでっしゃろなあ。
そりゃあ粉飾決算の誘惑も絶えまへんやろ。

(以上、心の声を補足してみました(笑))

投稿: 機野 | 2010年6月 7日 (月) 23時32分

投資家としての観点で付け加えますと、株主に対してやること(単に株価を上げるのではなく、業績や株主還元をしっかりする)をきちっとやってくれていれば、役員がいくらもらおうと、過度に問題にならないと思います。
事実私もたまに何十億円もらっているという記事を自分の投資先でも目にしますが、「へえ~」と思う程度です。

米国企業と比較する場合、単純な感覚ですが、一部の例外を除きあちらは日本企業の利益と数倍から桁が一つは違いますから、利益に占める役員報酬の重みも全く程度の違いがあるかと思います。また(先生の方がお詳しいと思いますが)法的リスクも違う。そのうえで開示、比較議論を行った方がよいと思います。

投稿: katsu | 2010年6月 8日 (火) 16時23分

連投ですいません^^;

 証券アナリストジャーナルの6月号が役員報酬特集となっていますね。
実証分析の論文によると、日本企業の一人当たりの取締役報酬は、平均で21.3百万円、中央値で18.5百万円となっています。個別の報酬開示よりも、役員報酬の総額が付加価値の内どのくらいの割合であるかが重要ではないでしょうか。

 この当たりの論点は、公開会社法とも関連してきます。昨年、あるシンポジュームで、民主党公開会社法PTのメンバーが、2001年から2004年にかけて企業の付加価値は11%しか増加していないにも拘わらず、配当は71%増加、役員報酬は59増加する一方、従業員給与はー5%となっているデータを示され、問題意識をもっているようです。(出典は、「誰のための会社にするか」岩波新書)

投稿: 迷える会計士 | 2010年6月 8日 (火) 22時13分

ここ数ヶ月の話ですが・・・。
世間的も知名度のある上場企業ですと、
役員(取締役、監査役)の地位は、対外的にも重要です。
社会的な責任からも、そう簡単に退任の道は考えられません。
一方で、知名度の低い(関心の低い?)上場企業では、
役員を退任して「顧問」としてとどまることで、
名を捨て実をとる実質的な経営者が散見されます。
確かに、今期の発表はまぬかれないとしても、
来期以降は、公表対象外になるわけですから
どれだけ意義のある制度かギモンです。
(金融庁のパブコメでも「顧問」は役員に含まれないとの
回答を行なっていることから)
現場で目の当たりにしても、怪計士として何もできない・・・。
この制度の意義を考えさせられます。

投稿: 九州の怪計士 | 2010年6月14日 (月) 10時14分

ええ!?まぢですか?>九州の怪計士さん

私もそこまで実務に精通しているわけではなく、そのような本末転倒な出来事が実際に発生しているとは存じ上げませんでした。
今朝の日経新聞でも、いろいろと話題になっいる報酬開示問題ですが、そういった現実の課題もとりあげてもらわないと・・・・

情報ありがとうございます。

投稿: toshi | 2010年6月14日 (月) 11時24分

怪計士の仕事は、言わずもがな「公正妥当な会計慣習」に従って行う
ものですから、成果物(BS/PL)にインチキがないことを合理的な
範囲で証明できれば、それまでです。
極論、然るべき金額が然るべき科目に計上されていれば適正意見の
監査証明をだします。
確かに、開示ルールの意義を問いただしたらキリがないです。
ただ、ある法令が合憲的に存在する限り、それは従う必要がありますし、
法治国家に暮らす国民として当たり前のことと思っています
(「不満」があるなら、権利として争えばいい。)。
法の番人とはよくいったものですが、我々会計専門職が
「会計の砦」だとしたら、法律実務家(法曹一般)は、まさに「法の砦」と
解せます。現場のナマの声は、いつでも提供します。
法令の趣旨の潜脱を許すくらいなら、そんな不公正なルールはいりません。

「砦」の社会的意義としても、あるべき姿に変えて行きたいものです。

投稿: 九州の怪計士 | 2010年6月15日 (火) 14時41分

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