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2010年7月28日 (水)

企業不正の「おかしな兆候」を発見するための思考過程(典型例)

7月26日の朝日新聞ニュースに「事故米の不正転売」を見破った農水省職員の方に関する記事が掲載されておりました。(ニュースはこちら)具体的には、農水省地方農政事務所の方が酒造業者への定例監査を行っていたところ、そこで不正の疑いを抱かせるような「おかしな兆候」を発見し、この疑惑を専門チームに申告した、というものであります。もちろん、不正転売の事実を現実に見破ったのは、この専門チームの方々でありますが、最初の農水省職員の方の「もしや?」がなければ今回の不正転売は発見できなかったわけでして、この「もしや」こそ、不正発見のためのスキルとして重要なところであります。ニュースの事例は外部者による発見事例でありますが、社内調査でも同様の発見的手法は不可欠ではないかと。

社内における不正の早期発見は、不正リスク管理のキモであり、重要ではあるものの、もっとも実行が困難な場面であります。ただ、私としては内部統制(予防的手法)や危機管理(事後的手法)と異なり、不正リスクを低減させるためには費用がもっとも低廉で済むものでして、社内でスキルアップをはかるには効果的なポイントではないかと考えております。また、社内にコンプライアンス遵守の風土を育成しつつも、いっぽうであまりに厳格な社内ルールで職場のヤル気を喪失させることも回避する、というバランスを確保するためにも、こういった発見的手法の向上は今後の企業コンプライアンスの課題になってくるのではないでしょうか。

考えてみると、実はそれほどむずかしい思考過程ではないと思います。

定例監査→酒造業者の伝票チェック→伝票に「米穀業者から米国産MA米仕入れ」と表示→「おかしい!普通なら米国産MA米はお酒には使わない」→「たしかに例外はあるが、その場合は酒造組合を通して使われる(つまり直接仕入れはありえない)」→「もしかして??」

ここで定例監査が「おかしな兆候」発見に至るには3つの前提が必要です。つまり①米国産MA米は酒造には通常使用されない、②たとえ使用されるとしても、その場合には酒造組合を通じて酒造業者には流通する、③米国産MA米は不正転売事件に使用された過去がある、という知識を持っていることであります。①と②が不正の早期発見のスキルであり、③は平時における全社的リスク評価の問題であります。この前提事実を職員が認識していたからこそ、合理的な疑いを抱くに至るわけでして、認識がなければ「おかしな兆候」発見には至らないと思われます。よく不正チェックマニュアルには「Aという事実を認識→Bのおそれあり」というパターンが使われておりますが、この思考過程で不正が発見できるほど甘くはないのが現実でありまして、たとえば本件のように「Aならば、普通はB。だけど結果はC」「かりに結果Cが正しいとしても、それはDという結果も引き起こしているのが通常だが、ひきおこしていない」といった知識や経験に裏付けされた前提事実があって、はじめて「合理的な疑い」を抱くものであります。

毎度講演等で同じことを申し上げておりますが、こういった早期発見の「勘」をもっておられる社員がひとりでもいらっしゃれば、企業はずいぶんと救われます。しかしこれはある意味で「運」のようなものですから、実力を具備するためには、額に汗して「Aならば通常Cとなる」という社内事情を体得する以外には方法はないものと思います。もちろん「おかしな兆候」を発見しても、これを農水省職員の方が専門チームに申告する「勇気」も必要ですし(実際、上の朝日新聞ニュースでは、不正転売米がまだ流通していたことを『調査のずさんであったことが明らかとなった』と批判的に報じております)、また専門チーム自体が存在しなければ不正発見という結果をもたらすことはできないわけであります。しかしいったん「合理的な疑い」が浮上すれば、監査役や会計監査人、あるいは外部のCFE(公認不正検査士)による非定例調査が可能となるわけですから、企業不正を早期に発見できる可能性は格段に高まることは間違いないと思われます。なかなか申告する勇気がなければ、内部通報制度などを活用することも考えられます。この「発見力」向上のスキルなどお持ちの方がいらっしゃいましたら、また具体的なお話などお聴きしてみたいものであります。

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2010年7月26日 (月)

社内コンプライアンス規定違反行為に対する解雇処分は有効か?

法律雑誌「判例時報」の最新号(2010年7月21日号)におきまして、社内のコンプライアンス規定に違反した元社員がその解雇処分の有効性を争った仮処分事件(地位保全等仮処分命令申立て事件)が紹介されております。東京地裁は社内倫理規定違反行為を根拠に会社(フィリップ・モリス・ジャパン株式会社)が従業員を解雇処分(正確には「諭旨退職」勧告)としたことを正当なものと認め、元従業員からの仮処分命令申立てを却下したそうであります(平成22年2月26日東京地裁決定→抗告あり)。ちなみに、元社員の行動で最も問題とされたのは、自社で禁止されているタバコの営業方法を部下に指示したこと(自らの営業成績を伸ばすため)と、自らの問題行動への社内調査が行われることを妨害した行為であります。

本決定に関する解説(同号158頁以下)でも指摘されておりますが、これまで会社の倫理規定(コンプライアンス規定)違反を認めて解雇処分としたことの有効性が争われた事例としましては、セクハラに対する解雇処分の有効性が争点となった東京地裁平成21年4月24日判決(「労働判例」987号48頁以下)程度しか見当たらないようであります。ちなみに、この東京地裁平成21年判決の解説と、今後のセクハラ事件への社内調査の在り方への提言につきましては、私の新刊「内部告発・内部通報-その光と影-」のなかでも詳しく論じているところでありますが、同セクハラ事件における会社の解雇処分は無効とされ、このたびの社内倫理規定違反行為は有効、と裁判所の判断は分かれております。従業員の身分をはく奪する社内処分でありますので、倫理規定違反の程度や事実認定の厳格性が当然に問題となるわけですが、両事件とも、解雇処分の根拠となる事実は犯罪事実には該当せず、あくまでも社内倫理規定違反であります。また、対象事実が「解雇相当事実」として明記されているわけではなく、概括的な規定(たとえば「著しい社内規定違反が認められた場合」等)に基づいて解雇処分が選択されているわけでありまして、「他の従業員に対する懲戒処分の公平性」との関係でも、今後十分に検討すべき判決ではないかと思われます。

ほんの出来心でやってしまった行為(元社員はこれを「交通事故のようなもの」と表現しておりますが)であり、他の社員もやっているのだから解雇処分は厳しすぎる、と元社員側は主張しておりますが、裁判所は「コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視する債務者(会社)において、債権者(元社員)が・・・・・という行為を行うのは、債務者の方針に合わない無責任な態度といわざるをえない」と判示しており、会社のコンプライアンス体制整備に向けての姿勢が考慮されております(実際にも、フィリップモリス社の普段からのコンプライアンス研修や倫理規定周知対策などが認定されています)。また、内部通報に基づく調査活動を妨害した行動も斟酌されております。最近はどこの企業も「企業倫理行動規範」が示され、社内規則の一環として「懲罰規定」とリンクされていることが一般ではないかと思いますが、「これまで他の社員に対しても、まぁ大目にみてきたことだから・・・」といった気持で「軽めの処分」で済ませてきた企業も多いでしょうし、だからこそ「処分の平等原則違反」を問われなかったのかもしれません。しかしながら、コンプライアンス違反に対する世間の目が厳しくなっている現状と、事前の社内での倫理規範違反への厳格な社内対応の周知徹底によって、「一発レッドカード」の適法性は高まってきているように思われます。

先に掲げた東京地裁平成21年判決もそうですが、ここでも通報を受理した会社側の調査のあり方が争点のひとつとされており、たとえば解雇処分を決定するにあたって、どの程度の証拠をそろえておけばよいか、その証拠をそろえるために、関係社員へのヒアリングを含め、どのような手段を用いるのが効果的か、といった問題にもヒントを与えてくれる事案であります。内部通報に基づく社内調査の進め方を検討するにあたっては有益な示唆を含むものでありまして、コンプライアンス経営に関心をお持ちの方で、「判例時報」が入手できる方でしたら、ご一読をお勧めいたします。

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2010年7月25日 (日)

産地偽装事件における「お詫びリコール」のあり方を考える

(26日未明 追記あり)

うなぎ、お米など、ふたたび食品偽装事件が新聞に登場しておりますが、理研ビタミンさん(東証2部)が販売している「ふえるわかめちゃん」について、商品には国産(鳴門産)と表示されているにもかかわらず、実は中国産の疑いがあることが発覚した、との報道がなされております(毎日新聞ニュースはこちら)。そこで同社は、商品を既に購入した消費者から、その販売商品を回収することを決定されたそうであります(理研ビタミンさん「弊社一部受託商品の自主回収について」 )。なお自社調査によりますと、鳴門産わかめの原料の一部納入業者から産地証明がとれない、とのこと。理研ビタミンさんとしては、商品の安全性にはなんら問題はないものの、産地偽装(JAS法違反)の疑いがあるものとして、該当商品の回収(消費者への代金返還)を行う、とされております。

食品検査機関に情報が寄せられ、これをもとに検査機関が調査したところ産地偽装の疑いが生じ、検査機関より理研ビタミンさんに調査要請がなされたそうですから、発端は関連会社内部からの情報かもしれません。理研ビタミンさんは、本日(7月24日)の各新聞朝刊に「お詫びとお知らせ」なる公告を出しておられます。日経新聞朝刊に掲載されていた「お詫び」を閲覧いたしましたが、商品および受託商品の特定(どの商品を指しているのか、なぜその商品だけが回収の対象となるのか)、商品回収手続きなども明確に表示されており、産地偽装事件に関与せざるをえなくなった企業として、真摯に危機対応に努めておられる様子がうかがわれます。

本来、リコールには強制リコール(法令に基づいて製品回収等が求められているもの)と、自主リコール(法の定めはないが、消費者の生命・身体・財産等への損害拡大のおそれがあるために、自主的に製品回収を行うもの)がありますが、本件のようにどちらにも属さない「お詫びリコール」が近年は増加傾向にあり、BtoC企業におけるコンプライアンス経営のひとつと言われております。理研ビタミンさんの販売する商品の場合も、自らリリースされているように「商品自体の安全性には問題ない」わけであり、また産地偽装の疑いは取引先にあるわけですから、果たして商品回収まで行う必要があるのかどうかは、議論の余地がありそうです。とりあえず、国産わかめが使用されているから購入した、という消費者の方々を裏切ったことは間違いないわけですから、これへの謝罪の意味があるのかもしれません。

しかし、新聞公告や理研ビタミンさんのWEBサイトの広報をきちんと読んだところ、消費者の手元にある商品の回収、返金については明示されていても、市場に流通している商品の回収についてはどこにも記載がございません。すでに商品を購入した方々への謝罪の意味はわかるとしても、これから購入するおそれのある消費者に対するメッセージはどこにも見当たらないのであります。数のうえでは、消費者の手元にある(まだ食していない)商品とは比べ物にならないほどの流通途上の商品が市場に出回っているものと思われます。これら流通途上の商品について、理研ビタミンさんは回収したり、注意喚起をしたり、小売業者から消費者へ向けてのメッセージを要求したり、という行動はされないのでしょうか?「お詫びリコール」なるものが、企業のCSRの一貫として消費者の信頼を回復(維持)するために、自主的に行うものであるならば、一番先に行うべきことは「これ以上、産地偽装によって騙される消費者を増やさない」ことであり、すでに購入してしまった方々への代金返還はその次ではないか、と考えるのでありますが、いかがなものでしょうか。

企業不祥事でもっとも企業の信用毀損につながるのが「二次不祥事」であります。たとえば本件でも、取引業者に非がある場合には、これを冷静に伝えることで信用低下は防止できるものと思われます。しかし、一次不祥事への対応を誤ると、そこに消費者に対する企業の「本当の」気持ちが透けてみえる場合があり、これが露呈されて信用を著しく毀損してしまうケースがあります。私の意見はいくつもある答えのうちのひとつ(偏った意見)にすぎないものかもしれません。しかし「お詫びリコール」の際の消費者への対応のベストプラクティスを、こういった機会にこそ一度ゆっくりと考えるべきではないでしょうか。

(追記)johnさんより、私の疑問に対するご意見を頂戴しております。本件を考察するにあたり、非常に参考となるものであります(ありがとうございました)。そちらもご覧いただけますと幸いです。

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2010年7月22日 (木)

朝日新聞有料版「法と経済のジャーナル」に期待します。

昨日プレオープンした朝日新聞社の有料ネットサイト「法と経済のジャーナル」 (今月末までは無料で閲覧可)、早速閲覧しておりますが、記事の見出しをご覧の通り、ほとんど当ブログの関心事と内容がかぶっております。(採り上げてるテーマ、一緒やん!笑)ということは、当ブログをご覧の皆さまにはたいへん興味深い記事が多いのではないでしょうか。たとえば、先日「個人株主が企業法務の流れを変えるかも」でご紹介した朝日新聞の記事ですが、この「法と経済のジャーナル」では相当に記事内容が深堀りされておりまして、法律専門家の関心にも耐えうる内容になっております。さきごろ日弁連から公表されました「第三者委員会ガイドライン」(日弁連のHPにてご覧いただけます)にも関連性の深い内容の記事などもあり、おそらく企業法務に関心のある方々にもウケるのではないかと。個人的には「内部告発ネタ」、今後の展開が非常に楽しみであります。(ホントにこのまま息切れせずに続くのだろうか・・・・・・と若干の不安を覚えますが・・・・)NHKドラマ「鉄の骨」、私も毎回視ておりますが、すっかり更新をサボっておりましたら、こちらの批評も出てますね。。。

当ブログを開設した2005年ころは、「法と経済の狭間の問題」など、かなりマニアックな話題であって、あまり世間から注目されることはありませんでした。しかし「日経法務インサイド」で毎週かならず企業法務に関わる話題が提供されるようになり、フジサンケイビジネスアイでは新たに「コンプライアンス」なるカテゴリーで毎日記事がアップされるようになり、そして朝日では「法と経済のジャーナル」なる有料版が誕生する、ということで、同様の話題に関心を持つ法律家としましては、時代の流れを感じざるをえません。私もときどき経済部の記者の方から取材を受けますが、紙面の都合というものはいかんともしがたいものであります。「これだけ取材を受けたのに、記事はこれだけ・・・?一番伝えたかったことがわずか1行って?」とか「え?全国版っていってたけど、関西版だけなの?」といったことはしょっちゅうであります。(笑)ということは、他の方々も同様の思いをされているのではないかと拝察されるのでありまして、そういった新聞社の営業上の制限によって取り残された取材の跡(かといって週刊誌ネタにはならない)が、紙面に制限されることなく、また販売地域に左右されることなく報道されることへの期待は非常に大きいものがございます。

即時性にこだわらず、ある特定の経済事件をじっくりと描き切るような記事を書いていただきたいですし、経済団体や個人株主など、ある特定の視点からだけではなく、「経済と法にまたがる話題」を多面的に採り上げていただきたいと期待しております。(「新聞記者は何も勉強してないからこれや!」という批判に負けないでくださいね(^^;; もちろん登録させていただきます)

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会計サミット「IFRSへの対応と日本の会計戦略」

青山学院の大学院会計プロフェッション科よりお招きいただきまして、7月20日、会計大学院の講師を務めさせていただきました。「法律家そして監査役からみた内部統制報告制度」というテーマで90分ほどお話いたしましたが、ほとんど「これから会計士の道に進む方への檄!」みたいなノリになってしまいました(笑)時間を超過してしまって、次の授業に出る方にはご迷惑だったかも。。。

ということで、翌日(7月21日)も青学で開催されました「会計サミット~IFRSへの対応と日本の会計戦略」を聴講してまいりました。金融庁の三井さん、経産省の平塚さん、住商の鶯地さん、日経BPの磯山さん(司会は八田先生)によるパネル討論会は、最新事情なども知ることができ、またブログネタも入手できて非常に勉強になりました。とても私などが論評できるものではございませんので、詳細はまた会計雑誌等をご覧ください(笑)

ところで、このサミットの第Ⅰ部は公認会計士の田中靖浩氏による講演でした。いままで田中氏の本は何冊が読ませていただきましたが、講演「会計国際化のいま、落語に学ぶコミュニケーション」。これまでいろんな方の講演を聴講しましたが、いや、お世辞ではなく、本当におもしろかった!!

「会計ビックバン」「コンバージェンス」「アドプション」を、一般の方にわかりやすく解説するときには「女装趣味」「オ○マ」「性転換」に例える・・・といったお話も笑いましたが、田中氏が某外資系コンサルタント会社に勤務されていたころのユダヤ人上司、イギリス人上司、アメリカ人上司等のクセを紹介され「IFRSの原則主義と日本人」との関係を論じておられるのは、ウマイ!と思いました。イギリスの会計士は「自分がルール」という高いプライドを持っていて、自分がこう考えるのだから正当である、もし間違っているというのであれば、その証拠をきちんと示しなさい、という態度。たとえば公務員が別の解釈をしているのであれば、「公務員のぶんざいで私の会計処理がおかしいなど失礼な!」といった具合。だから原則主義が成り立つ土壌があるとのことだそうであります。こういったお話を聞くと、簡単に日本で原則主義が浸透するのかどうかは、疑わしいかもしれませんね。

一番驚いたのがペリーが浦賀に来たときの歴史を引用して、これから日本はIFRSにどう立ち向かうか、というお話。幕末の佐久間象山(?)の言葉を紹介され「開国、攘夷と極端な道に走れば日本は滅びる。ともかくペリーの話をよく聞いて、外国を知り、外国人のルールを十分に理解したうえでできないものはできない、とはっきりと日本の態度を決めよ」という対応がもっとも適しているのではないか、といった内容でありました。私がなぜ驚いたかと言えば、第Ⅱ部のシンポ討論会の最後のまとめで、金融庁の三井課長が締めくくった言葉とまったく同じだったからであります。「日本の会計戦略としては、まずはIFRSの常識を知ることです。日本の常識で良しあしを判断するのではなく、まずはIFRSの中身を理解して、その常識を理解したうえで、日本の態度を決める。IFRSで修正すべきと思われる提案ははっきりと示す。これが大事です」

いやいや、たいしたものであります。会計素人である私にもよく理解できました。「この会場まで来る時、きょうは何をしゃべろうかと考えていたのですが・・・」いや、たしかにふつうにお聴きしていると「与太話」のように聞こえてくるのでありますが、おそらく田中氏の講演内容は用意周到に練られたものだったと私は推測しております。田中氏の講演は、またどこかで続編をお聴きしてみたいものだと思いました。

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2010年7月20日 (火)

個人株主の行動が企業法務の流れを変えるのかも・・・・・

旬刊商事法務の最新号(7月15日号)のニュース欄では、フタバ産業社の株主名簿謄写仮処分命令事件におきまして、株主の抗告が高裁で棄却されたことが掲載されております。有価証券報告書等の虚偽記載で金融庁から課徴金処分を受けたことをめぐり、一般株主が金融商品取引法上の損害賠償請求訴訟を提起するための原告募集を目的として名簿謄写仮処分命令を申し立てた事件でありますが、名古屋高裁は「株主名簿閲覧等請求の趣旨と金商法上の損害賠償請求の趣旨は異なる」としてこれを棄却したものであります。(現在特別抗告、許可抗告中とのこと)

そういえば、7月10日(土曜日)の朝日新聞(全国版)「BE-REPORT」欄で、企業買収等の世界における個人株主の活躍が特集されておりまして(「企業買収で個人株主ノー」)、かなり読み応えがありました。もちろん当ブログにも登場される三尊さんのことも採り上げられておりました。その特集でも、上記フタバ産業株主名簿謄写事件のことが紹介されておりまして、本事件の支援は、大阪の20人近い弁護士による「投資者訴訟研究会」の活動の一環であることを知りました。同じく大阪では、この6月に市民オンブズマンを構成する弁護士を中心とした「株主の権利弁護団」も結成されたそうであります。WEBを拝見いたしますと、最近世間を賑わせた企業に対する訴訟を中心に活動されているようであります。

いままでの常識的な考え方からしますと、個人株主が何らかの被害を受けるような企業法務関連事件については、散発的に「○○被害弁護団」というものが結成され、そこに多くの株主の方が参加を希望され、集団訴訟的に裁判を提起していく、というのが主流だったかと思いますが、最近は個人株主の方が個別に企業を相手に裁判を提起したり、朝日新聞で紹介されているような恒常的な弁護団組織が相談を受けて活動する、ということも増えてきたようであります。たしかに、ひとつひとつの事件の流れをみますと、決して個人株主側に良い結果が裁判で獲得できる、というわけでもないようです。しかし先日の年金受給権所得税課税に関する最高裁判決のように、「どうもおかしい」という一般人の感覚が最高裁を動かすこともあるわけですし、サンスターMBO事件における田原裁判官意見のように、受理されれば大いに意見を述べたい、という最高裁判事もいらっしゃるわけですから、個人株主の方々の訴訟(非訟)活動はけっこう貴重であります。(上記フタバ産業名簿閲覧事件につきましても、商事法務の記事で紹介されているとおり、たしかに株主側は2回続けて棄却決定を受けておりますが、地裁の理由と高裁の判断理由は異なっているわけでして、それなりに有意義かと)朝日の記事にもありますとおり、今後は企業法務の流れを変える可能性もあるかもしれませんね。まぁ、ホントは米国のように株主集団訴訟で和解630億円・・・みたいなことがあれば(毎日新聞ニュース)流れが一気に変わるのかもしれませんが(^^;

以前当ブログでもとりあげました旧日本興亜損保の株主有志の会でも、7月14日に損害賠償請求訴訟を提起されたことが公表されております。先のフタバ産業名簿謄写請求事件と同様、会社法的にはなかなかむずかしい解釈の壁が立ちはだかっているのかもしれませんが、審理の俎上にまで登ることができれば、(たとえ結果が満足できるものではないとしましても)「闘い方」や「裁判官の判断過程」という先例を残すことになり、大きな意義があるものと思います。(もちろん当事者の方々は、それでは満足できないことは十分に承知しておりますが。。。)そして問題はいかに情報を共有できるか・・・ということではないかと思いますし、そういった意味でも個人株主を支援する弁護団の恒常化といったことには、とても期待をしてしまうところであります。また、ネットの発達(ネット人口の増加)ということも、個人株主や支援する専門家の情報共有化にとっては有益なツールになるかもしれませんね。

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2010年7月16日 (金)

最高裁は「社外取締役制度」をどう考えているのか?

ちょうど1年前の7月9日、上場会社役員の法的責任に重要な影響を及ぼす最高裁逆転判決(日本システム技術事件判決)が出ましたが、昨日(7月15日)ふたたび同じ最高裁第一小法廷より、取締役の法的責任を否定する逆転判決が出されました。事案の概要につきましては、2008年のエントリー(アパマンショップHD事件高裁判決関連)をご覧ください。また下級審判決の正確なところは、金融・商事判例1304号(2008年12月1日号)28頁以下をご参照ください。ひとことでいえば、発行済の株式総数の3分の2以上を有する会社を、完全子会社にするために、当該会社の株式を被支配株主から買い取るにあたり、その適正価格の5倍の価格で親会社が買い取ったことが、当該親会社の取締役の任務懈怠にあたるか否か、という点が争われた株主代表訴訟であります。

東京高裁は、取締役らの任務懈怠を認め、総額1億3000万円ほどの損害賠償義務を命じましたが、昨日の最高裁判決はこれを否定し、取締役らには任務懈怠(善管注意義務違反)はないと示しております。たとえ適正価格の5倍で買い取ったとしても、これは事業再編を円滑に進める目的であったことや、経営陣は経営会議で議論を尽くし、また弁護士にも意見を聴取して決めたことであるから「不合理な点は認められない」とのこと。結論として、事業再編計画の策定は、経営上の専門的な判断であって、決定過程や内容に著しく不合理な点がないかぎりは経営陣に幅広い裁量があることを認めるものとなっております。なお、第一審で認定された事実によりますと、「経営会議」は取締役会に上程する議案を実質的に審理する場であり、必要により監査役や担当部長なども出席していた重要会議、とされておりますので、取締役だけの私的協議の場ではなかったようであります。

私の周りでは、(依頼があれば)社外取締役や社外監査役に就任してもよいという弁護士と、絶対に就任したくないという弁護士がちょうど半々くらいであります。就任したくない、とおっしゃる弁護士さんには、とくに企業法務専門の先生方が多いようでして、事務所とのコンフリ(利益相反)を理由とされる方よりも、むしろ「山口先生、よく監査役なんかやってますね。こわくないですか?いくら責任限定や保険がかかってても、訴訟リスクを考えたら、ちょっと私は勘弁ねがいたいですなぁ」というのが大きな理由のようであります。ちょうど、アパマンショップHD高裁判決が出たころも、「こんなんで責任を負わされるんやったら、やっぱりこわくて社外役員なんかできへんで」といった意見が出ておりました。(私はどっちかといいますと、高裁判断を歓迎していたほうでありましたが・・・)

本件の専門的な解説はまた、法律雑誌等で勉強させていただくこととして、こうやって日本システム技術事件判決、そしてアパマンショップHD事件判決と並べてみますと、規範的にみれば取締役の善管注意義務違反が問題となるケースであることは明らかなのでありますが、法令定款違反、株主総会決議違反のような経営判断がなされていないかぎりは、かなり経営者の裁量を広く認め、法的責任はよほどのことがないかぎりは認めない傾向がはっきりしてきたのではないでしょうか。(ただし金融機関等については、また別個に検討する必要がありますので、ここでは一般的な事業会社の場合ということです)これはかならずしも株主の利益を軽視しているものではなくて、最高裁は「とりあえず、上場会社に社外役員が就任できる土台を築くことを優先しよう」との考え方を示しているように思われます。法律や会計の専門家ではなくても、ある程度企業経営に精通しておられる方々が、社外取締役候補となり、上場会社に広く就任していただくためには、あまりガチガチな法的責任論を裁判所が認定してしまうのは得策ではない、との意向があるように思われます。株主によるガバナンスのあり方としては、法的コントロール(責任追及)と市場圧力によるコントロールとがありますが、まずは社外取締役を入れるか入れないか、適正な職務を執行しているかしていないか、という問題は法的コントロールではなく、市場圧力によるコントロールを重視し、ある程度社外取締役が増えてくれば、法的コントロールによる事後規制を行う、という方向性が考えられるのであります。

もちろん、株式買取価格決定やコンプライアンス違反事件など、単純に経営判断原則が適用されない場面も予想されますので一概にはいえませんが、すくなくとも最高裁は社外取締役制度が(まずは)浸透することについては好意的ではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうかね。(ところで、本件アパマンショップ事件で、意見を求められた弁護士が反対の意見を述べた場合に、それでも適正価格の5倍による買取を敢行した場合には、結論は変わっていたのでしょうか?)

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2010年7月15日 (木)

「内部告発・内部通報-その光と影ー」まもなく発売

Web_3 ダスキン株主代表訴訟の株主側代理人の報酬はいくらが妥当か?---ということで、会社側(ダスキン社)と株主側とが争っていた訴訟において、大阪地裁は8000万円が妥当な弁護士報酬である、とする判決を出したようであります。(サンケイニュースはこちら)この事件では、たしか株主側が4億円程度、会社側が4500万円程度を「妥当な報酬額」と主張して、その溝がなかなか埋まらずに裁判に発展しておりましたが、8000万円というのは安いのか、高いのか?弁護士13名が約5年にわたって訴訟を遂行し、結果的に10名以上の旧経営陣から7億5000万円程度を実回収した成果であります。 まだ確定はしておりませんが、今後の株主代表訴訟の活発化への影響度はかなり大きいものと思われますし、今後「企業法務」の世界においても注目される判決になるものと思われます。(7月15日の読売新聞朝刊によりますと、「弁護士の労力は相当なものであったが、事案そのものはさほど複雑なものではなかった」との判決文が紹介されております。しかし、役員の不祥事不公表に関する善管注意義務違反を争った点はかなり複雑な審理ではなかったかと。。。)

このダスキン事件(ぶたまんへの違法添加物混入事件)が衆目を集めるに至ったのは、ダスキン側が裏取引を毅然と拒絶した約1週間後に某マスコミからダスキンへ質問状が届いたことがきっかけでありました。その裏にはマスコミへの告発があったことは想像に難くありません。最近の企業不祥事の多くが、このような内部通報や内部告発を発端として明るみに出るわけでして、企業がその対応を一つ間違えますと、二次不祥事に発展したり、従業員と連帯して不法行為責任を追及されることになります。

ということで、私の新刊でありますが、「内部告発・内部通報-その光と影- 守れるか企業の信用、どうなる通報者の権利」が、まもなく発売されます。(経済産業調査会 企業法務シリーズ 税別2000円、270頁程度)書店に並ぶのは、7月26日ころだそうであります。アマゾンでもまもなく登録される予定です。昨年10月の書籍版「ビジネス法務の部屋」は、取扱書店が少なく、たいへんご迷惑をおかけいたしましたが、このたびは全国取次ですので、全国300の書店でお求めになれます。今回はおそらく東京中心の販売体制になろうかと。(具体的には こちらの書店が配本予定です。私がよく立ち寄る浜松町の文教堂さんにも配本されるようで・・・)カバーはちょっと派手めかもしれません(^^;;ので、たぶん、すぐ本屋さんで見つけられると思います。発売当初は「ビジネス法務」関連のスペースに置いていただけるようにお願いしております。

ブログは「思いつき」による問題提起型の記述が多いのですが、この本で述べているところは、私の本業に近いところ(内部通報窓口業務、内部告発代理人等)の経験等による問題解決型の記述が多くを占めております。最近よく再発防止策として「内部通報制度を見直しました」とリリースする企業が多いのでありますが、その「見直し」には何が必要なのか、多くの頁を割いて解説しております。具体的には「はじめに」のところを手にとってお読みいただき、買う買わないを決めていただければ結構なのですが、主な構成は

第1章 企業社会と内部通報、内部告発

第2章 代表的な判例からみた内部通報、内部告発の実務的な課題

第3章 公益通報者保護法の概要

第4章 消費者行政と公益通報者保護制度・内部通報制度

第5章 内部通報制度の現状と実務

第6章 内部告発者に対する制裁と防止策

第7章 パワハラ・セクハラ防止に向けた企業の対応

第8章 不祥事の公表・調査義務~内部通報を発端とするケースについて~

といった章目となっております。公益通報者保護法は昨年10月に消費者庁に移管されましたし、平成21年の不正競争防止法改正や労働契約法の制定など、最近の関連法改正にも対応した内容となっております。さらに来年は、公益通報者保護法の改正が予定されておりますので、第3章では、現実の運用からみた現行法の課題についても触れております。とりわけ、内部統制の時代となり、内部通報制度と内部告発問題とをリンクさせて検討しており、かなり制度の枠組みを企業担当者向けに整理してみました。また、内部告発をしたい、社内のヘルプラインに通報をしたい、という方々にも参考になろうかと思います。こういった本が議論の「たたき台」になれば望外の幸せであります。

また、実際に書店に並んだ時点で広報させていただきますが、今回は正真正銘の「書き下ろし」でございますので、とりいそぎ、予告をさせていただきました。

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2010年7月14日 (水)

トヨタ自動車品質問題・外部評価報告書-私の読み方

(7月14日午前;追記あり)

昨年末から今年2月にかけて発生しましたトヨタ自動車さんの一連の品質問題(フロアマット、アクセルペダル、プリウスのブレーキ)は、日米で大きな社会問題となり、アメリカでは制裁金支払にまで発展したことは記憶に新しいところであります。このほど今回の一連の品質問題へのトヨタ社の対応を検証し、今後の改善策について提言するという外部第三者の評価報告書が7月12日にリリースされました。 (トヨタ自動車株式会社 品質保証体制の外部評価報告書)

海外に多くの現地従業員や製品ユーザーを持つ日本企業にとりましては、リスクマネジメントを考えるにあたり、非常に参考となる報告書だと思いますし、私自身もこういった分野におけるマニュアルをほとんど読んだことがなく、内容はとても新鮮であります。また、海外展開をされていない企業にとりましても、消費者庁による情報集約が企業による情報集約に先行する(可能性のある)時代となった今、自社製品の品質問題が発生した場合のクライシス・マネジメントの在り方を学ぶ上でも参考になろうかと思われます。

私の場合、やはりコンプライアンスの視点から、「品質問題を発生させないための対策」「なにが『品質問題』なのか、早期に感知する対策」「やむをえず品質問題を発生させてしまった後に、ステークホルダーへの被害を最小限に食い止める対策」に整理して、この報告書の内容を理解したいところであります。さて、ざっと一読しての感想は、

財団法人日本科学技術連盟さんの推薦された外部委員の方々が作成されたものですから、どうしても技術的な用語を頻繁に現れて、典型的な文科系人間である私にはさっぱり理解できない・・・・・・

と予期していたのでありますが、まったくそのようなことはなく、意外にも全編非常に読みやすいものとなっております(これは経営幹部向け、というものだからでしょうか?)こうやって読んでおりますと、未然予防、早期発見、危機管理のどの場面におきましても、品質管理のためにはコミュニケーション(意思伝達)の重要性が謳われているところが特徴的です。しかし国内企業ならまだしも、トヨタさんのように世界企業の場合「どうやってコミュニケーション能力の向上を図るのだろうか」と真剣に考えますと、思わず気が遠くなりそうであります。

個人的には12頁以降の「重要問題発生時の社内外コミュニケーション改善」あたりの記述が興味をそそられます。品質問題が大きく報じられた時点において、トヨタ社では誰が司令塔として対応するのかまったく決まっていなかった、とのこと。応急対応の指針も決まらなかったということのようであります。この改善策として何が「重要問題」なのか、①どのような基準で、②誰が、③どのタイミングで「重要問題」と認定するのか、そのあたりを明確にする必要がある、と提言されております。これはまったくそのとおりだと思いますし、いつも講演等でお話させていただいているとおり、「問題が発生しているのかどうか」ということは、どんなに高いお金をコンサルタントに払っても他社依存では判断が困難な点であります。むしろ一銭もお金をかけずに、社内のひたむきな訓練(運がよければ嗅覚のスルドイ社員が方の存在)で企業の社会的評価が低下するかしないかの生命線を死守するわけであります。

ただ、残念ながら「何が重要問題なのか」の判断基準が成り立つのは、そこに100%ピュアな社員の方々がいらっしゃって、その社員の認知した情報が、100%上層部(判断権者)に上がってくることが大前提であります。しかし、この大前提は絶対成り立ちません。(そりゃそうですよね。自分の評価が下がる情報を、会社のためと思って全て正直に話す社員の方はおられないですし、また報告を受けた上司にしたって、自分の部下のことで悪い評価は受けなくないですし。)いくら判断権者が積極的に自ら情報をとりにいっても、20%から30%程度の有益な情報が集約できる程度ではないでしょうか。ましてや、文化の違う海外のカスタマーや社員からの情報ということでは、「重要問題」と判断するための情報の集約は困難を極めるものと推測いたします。結局、この報告書のなかでも少し触れられておりますが、普段からの運用がモノを言うのではないかと思います。重要問題の発見作業には大きく分けてふたつあり、ひとつは「疑惑」の認定、そしてもうひとつは疑惑を「問題発生」と確証するための認定であります。効果的な運用はこれといってありませんが、やはり「ヒヤリ・ハット」作業の訓練と、経営トップと従業員の双方向における「コミュニケーション」作業を地道に繰り返し、出来栄えを検証すること、同業他社の不正事例のうち、自社内による早期発見事例を研究すること、それ以外に最良の方策はないように思われます。

ちなみに来週金曜日(7月23日)に「架空循環取引」に関するセミナーをさせていただきますが、そこでも「疑惑の発見」と「発見した疑惑の確証手続き」に分けて検討いたします。もちろん、どんなに不正検査のプロが支援しても、支援できるのは後者のほうでありまして、「疑惑の発見」は社内の人間にしかできないのであります。財務分析などの手法によって架空取引が発見できるかといいますと、それは多分に「後だしジャンケン」的なものでありまして、社内の取引事情に長年精通され、人事を含めた組織の論理を十分知悉された社員であるがゆえに、「なんかいつもと違うのでは?・・・・・疑惑」を発見できるのであります。

(追記)今朝の産経ビジネスアイの記事に米国運輸省が「トヨタ品質問題の大半は運転者の過誤による」と報告した、とのこと。(まだ今後の動向はわかりませんが)こういう記事を読みますと、企業にとって最もコワイのは「二次不祥事」だなぁとあらためて感じます。

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2010年7月12日 (月)

株式価格決定申立て事件の審理期間について

楽天・TBS間における株式買取価格決定事件につきましては、先週7月7日に東京高裁の決定が出て、楽天さんは最高裁に特別抗告を行ったそうであります。まだ確定はしておりませんが、地裁への申立て(双方から)から約1年2カ月ほどで高裁決定が出されたもので、(調停を含めた)裁判手続きの迅速性という点からすれば、それなりに評価できるものではないでしょうか。

Hikaku001 しかしながら、カネボウの価格決定事件はといいますと、左図のとおり、高裁決定まで約4年3カ月を要しています。とりわけ高裁の審理に2年を要しているのは、TBS・楽天事件の4か月と比較すると、異常に長いように思います。わたしは特に両事件に関与している者でもありませんので、固有の事情に詳しいわけではありませんが、それにしてもあまりにもカネボウ事件はTBS・楽天事件の審理期間と比較しても長すぎるように思われます。関係者の方のブログなどを拝見いたしますと、カネボウ事件にも投資家側には企業法務の世界で著名な代理人弁護士の方がついておられるようですから主張自体には問題がないと思われますし、高裁でも最終の書面提出が2009年3月ころとのことで、そこから1年2カ月後にやっと裁判所の判断が出された、というのはかなり問題ではないかと。

もちろん、カネボウ事件が重要な案件であることは理解しておりますし、そこで慎重な審理が必要であるということも(頭では)ナットクできるのでありますが、投資家の資金回収に関わる裁判での「長期化」は、たとえ投資家側に有利な最終判断が出たとしても、①投資家の投資機会の喪失、②紛争解決手段としての価格決定申立権の放棄(どうせ長引くならあきらめる)、③企業の信用不安等による買取請求権の劣化ということにつながるものではないでしょうか。また、企業の信用に問題がないような場合には、逆に企業側にも遅延損害金の高額化(もちろん、遅延損害金が加算されないように仮払いを行う、ということもありますが)という深刻な問題も生じさせることになります。こういった裁判には手続きが長期化すること自体が関係当事者に異常なまでの深刻な事態を生じさせるものである、という認識は司法に携わる方々にはあまり認識されていないのでしょうか?素朴な疑問が湧いてくるのであります。(それとも、そんなに深刻な問題ではないのでしょうか?)

6月23日、経済産業省が法制審議会に対して会社法改正に関する提言を出されたそうですが、そのなかに「金融・商事高裁の創設」というのがあるようです。M&A、企業組織再編に関わる当事者の紛争について、できるだけ早期に紛争を解決し、また予測可能性を高めるためにも不可欠、とのことだそうですが、裁判所も法務省も真剣に検討したほうがよいのでは、と。そうでないと、行政機関によるガイドラインやQ&Aが、さも司法判例のように取り扱われ、ガイドライン策定にとって近い立場にある企業等の利益ばかりが優先されてしまうような事態を招きかねないように思うのでありますが。。。(このあたりは、あまり皆様、真剣に検討されていないのでしょうか?それともどこかで検討されているのでしょうかね。・・・・・ナゾです。。)

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2010年7月 8日 (木)

昨日のエントリーの表現に対する「誤解」につきまして。

いつも当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

さて、昨日のエントリー「年金受給権・所得税課税に係る最高裁判決への感想」をお読みいただき、数名の方よりメールを頂戴いたしました。お叱りといいますか、もうすこしソフトに「違和感がある」とのご意見をいただきましたのが、下記のフレーズです。

ところで、こういった生命保険を取り扱っておられる金融機関さんの説明義務や、相談業務に携わっておられる税理士さんの専門家責任など、行政だけではなく、今後は企業や税務に関わる専門家の方々の法的責任がクローズアップされることになるのでしょうね。この最高裁判決は、かなり大きな混乱を招きそうな予感がいたします。

なるほど、コメント欄のTenpointさんのご意見などを拝見しておりましても、私の表現がご覧いただいている方に誤解を生じさせてしまっていることがわかりました。

私は、このような最高裁判決が出たことで、これまでの金融実務や税務に携わっておられる方の「法的責任」が問題となる、といった意味で申し上げたわけではございません。今回の最高裁判決を受けて、行政当局がどの契約が問題となり、どのような還付手続きをとるべきか、はっきりと対応できればよいのですが、もし対応が不十分である場合、今後の顧客からの相談にきちんと金融機関の方や税理士の方が対応できないケースもあるのではないか、といったことを「感想として」述べているものであります。おそらく行政当局といろいろな協議がなされるかとは思いますが、なかには説明不足があったり、このような還付手続きについてクライアントに説明されない専門家の方がいらっしゃったりした場合には、「なんで教えてくれなかったのよ」というクレームも生じるのではないか・・・・といったあたりのお話であります。

法律家として、後だしジャンケンのように「こんな判決が出たのだから、これまで問題視してこなかった人たちの法的責任を追及せよ」などと、そんな品格のないことは口が裂けても申し上げるわけはございません(笑)ただ、法律専門家の「物言い」の影響を考えれば、素直に反省すべきですし、そのように受け取られた方も多かったのかもしれませんので、表現の不適切であったことにつきまして、一部エントリーを修正するとともに、謹んでお詫び申し上げます。

昔は「場末のブログ」でしたが、最近はそうも言っておれず(ひさびさに7月9日午前9時現在;BLOGOSでランキング1位・・・こういった話題だと読まれる方も多いのですね・・・)、誤解を生むおそれのある表現につきましては、今後も注意を払ってまいります。m(__)m

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年金受給権・所得税課税に係る最高裁判決への感想

多くのブログですでに話題になっておりますが、税務行政や金融実務に大きな影響が出そうな最高裁判決が出たようです。(すでに最高裁のHPにおいて全文が閲覧できます。)年金払い生活保障特約条項のついた終身保険契約に基づき、保険会社は年金額230万円(年額)を主契約の受取人である原告(死亡した保険契約者の妻)に対して10年間支払うものとされております。ところで、この年金受給権に係る部分においても相続税がかかり(みなし相続財産)、なおかつ毎年支払いが確定している年金額部分(230万円)には支払われるたびに所得税も源泉徴収される、という実務慣行があります。しかし、毎年支払われるべき年金については、すでに「年金受給権」への相続税を支払っているので所得税の非課税所得(所得税法9条1項15号)に該当して、いわゆる「二重課税」にあたるのではないか、といった争点への判断が注目されておりました。最高裁は、上記判決文記載のとおり、原告側(納税者)の言い分を認め、原審を破棄しております。

Nijukazei001 2005年2月22日の国税不服審判所の裁決以来、左図のような経過をたどって、最高裁判決が出ております。こういったケースでは、マスコミの論調などをみておりましても、「最高裁→正義が勝った 高裁→トンデモ判決をなぜ出した?」といった構図が浮かんでおりますが、そういった高裁判断の批判をするのであれば、まずきっちりと高裁の判決を読んでからやるべきではないか?と思っております。本件にかぎらず、高裁判断のほうが、意外と理屈のうえでは正しいのではないか?と思われるケースもあります。ちなみに原審福岡高裁の判決文はこちら(全文)であります。(なお、第一審である長崎地裁判決・全文はこちらです。国税側の指定代理人がどのような主張を行っていたのかをきっちりと確認したい場合には、この第一審判決も読むべきかと。)高裁判決は本当に「トンデモ」だったのかどうか、ゆっくりと判決文を吟味していただいたうえで、最高裁判決の射程範囲(第2回以降の定期金支払いについてはどのように取り扱うべきか?年金受給権以外の定期金への課税についてはどこまで影響が及ぶのか?)などを検討したほうがよさそうであります。

しかし(単なる感想で恐縮ですが・・・)普通の主婦の方が、国税指定代理人12人の主張を相手に最高裁で勝訴する、ということは、正直スゴイのひとことです。最高裁で逆転勝訴判決(租税訴訟)を得た経験をお持ちの代理人弁護士の方も、また長年支援をされていた税理士の方も、おそらく「手弁当」でここまでやってこられたと思われますが、これまた執念に頭が下がります。国税の常識はおかしい!という信念のもと、最高裁まで頑張ってこられたのでしょうね。とくに最初の審査請求(国税不服審判)で一蹴されてしまった時点で、普通であれば「やっぱりダメみたいですねぇ」で終わってしまうのではないでしょうか?今回の最高裁判決が、はたして納税者にとって有利な判断だったのかどうかはよくわかりません。しかし、「普通の市民の常識」が税務の常識を覆すことができるということは、まだまだ他にも頑張る方がいらっしゃれば覆るべき実務もあるんじゃないでしょうか。

ところで、こういった生命保険を取り扱っておられる金融機関さんの説明義務や、相談業務に携わっておられる税理士さんの専門家責任など、行政だけではなく、今後は企業や税務に関わる専門家の方々の法的責任がクローズアップされることになるのでしょうね。この最高裁判決は、かなり大きな混乱を招きそうな予感がいたします。(※ 一部、誤解を招く表現がございましたので、削除線を引いております。)

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2010年7月 7日 (水)

企業不祥事発生時の第三者委員会は「70点主義」でいいのでは?

「第三者委員会」につきましては、企業価値判断の公正性を確保するために設置されるものと、不祥事発生時の事実認定の客観性を確保するために設置されるものがありますが、本日は後者のお話であります。中央経済社の「ビジネス法務」7月号でも特集が組まれており、昨今ホットな話題となった「不祥事発生時の第三者委員会」でありますが、昨日ある業界団体の会合に招かれまして、「第三者委員会とは?」といった講演を約2時間ほどさせていただきました。

同業者の方もチラホラといらっしゃいましたが、お越しになっておられた方々はほとんどが企業法務関連の方(企業内弁護士含む)でした。私は不祥事発生時の第三者委員の経験はありますが、それよりも第三者委員会の支援業務とか、社内調査委員会の支援業務のほうが貴重な経験をさせていただきましたので、守秘義務に反しない範囲で、そういった委員会活動と企業側サイドとの接点で生じる出来事を中心にお話させていただきました。

講演というよりも、終了後の約3時間に及ぶ酒席のほうで皆さまからの(ホンネの)質問をたくさん受けました。概ね、以下のようなご質問が多かったようです。

「なんで委員の人に不利益な事実を話さないといけないのですか?委員は我々の味方ですか?」

「社内規則には何も書いてないのに、不利益なことを話して会社から処分を受けたら、委員の人は責任とってくれるのですか?」

「さっき『事実認定は委員の自由心証』っておっしゃてましたけど、灰色は『クロ』ということもありうるわけですか?それで処分されたらたまったものではないですよ。それだったら誰もホントのことを言わないですよ。」

マスコミ報道が先行して設置された第三者委員会の場合には、バックに行政調査や(ときには)司法捜査の可能性が控えておりますので、比較的社員の方々はまじめにヒアリングに対応していただけることが多いのでありますが、マスコミ報道以前から設置されている第三者委員会のケースでは、たしかに上記のような反応によって、ヒアリングがうまくいなないケースもあるわけでして、なかなか難問であります。なかにはアメリカ州弁護士の資格をお持ちの方もいらっしゃって、「委員は、社員の味方ではないのだったら、まず『私はあなたの味方ではありません。だから不利益なことは黙秘してもかまわない』と明確に述べるべき。そうでなかったら陳述書の信用性はないのでは?」「社員ヒアリングの際には、会社の費用で、委員とは別の弁護士を雇用して、ヒアリングへの対応を相談させる制度を作るべきではないか」といったご意見も出ておりました。

Cocolog_oekaki_2010_07_06_22_23 そもそも第三者委員会は不祥事を起こした企業のステークホルダーのために説明責任を尽くすことが大きな目的ということでありまして、決して企業に満足のいくような活動がなされるとは限らないわけであります。上図のとおり、第三者委員会は、外観的な独立性を確保しつつも、短時間のうちに、事実の解明や原因究明、再発防止策の提言など、その設置目的を達成しなければならない使命を有しております。しかし、これらの要請はいずれも「あちらを立てれば、こちらが立たず」というトレードオフの関係にあるわけでして、どれも満足させることは困難であります。要はこの3つの要請をいかにバランスよく調和させて、最終結論に至るか・・・というところの決断が必要になってまいります。決定して実行する・・ほどの時間的な余裕はなく、いわば決断して断行する、というプロセスであります。(だからこそ、委員の自由心証は確保される必要があります)

これは個人的な見解でありますが、私がいくつかの報告書をみてきたなかで、「これは素晴らしい委員会報告書だなぁ」と感心したものがございます。後日、そういった会社のコンプライアンス研修にお招きいただき、報告書作成の経緯などをお聞きするのでありますが、その「すばらしい」報告書は、素案の一部を社内のごく一部の方が中心となって作成した、といったケースが見受けられます。「このままでは会社がダメになってしまう」という危機意識を持って、ときどき幹部の方のなかに第三者委員会の活動に協力していただける方がいらっしゃいます。そういった方が、なかなか首尾よく進まない委員会活動に業を煮やして「そんなんじゃダメですよ。本当の原因はこうなんです!」と委員に進言するそうであります。たとえば第三者委員会の委員長からすれば、こういった社員の話に耳を傾け、委員としてのプライドをすこしだけ引っ込めて、この幹部社員の意見を尊重する・・・といったあたりでうまく委員会も機能するのではないでしょうか。(とんでもない!とのご意見もあるかもしれませんが、的外れ、ツッコミ不足の委員会報告書が作成されることも事実なわけでして)

最近の「第三者委員会はかくあるべし」といった論稿などを拝見しておりますと、世間の信頼を確保するためには、委員の活動は100点満点でなければならない・・・といった風潮を感じるのでありますが、(これまたご異論の出るところだとは思いますが)先の図で示したような「委員会活動の宿命」や、良質な委員会報告書が作成される実例などからしますと、私は100点中70点くらいの最低合格点を目指すほうが、ベターなのではなかろうか、と感じるところであります。

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2010年7月 5日 (月)

ドラマ「鉄の骨」(第1回)-談合はなくならない?

ふだんあまりテレビで連続ドラマをみることはないのですが、7月3日からスタートしたNHKドラマ「鉄の骨」は楽しめました。以前視ていた「ドラマ・監査法人」によく雰囲気が似ていると思っていたら、同じNHK名古屋局制作だったのですね。

5代目のぼんぼん社長が経営トップに就いている中堅ゼネコンを舞台にしたドラマであります。同社建築課に勤務していた若い社員(主人公)が、経営環境の悪化によって、営業(土木課)に配置転換となるわけですが、そこで公共工事入札における談合を目の当たりにします。「このビルはお父さんが建てたんだよ」と子供に誇れるような仕事(いわゆる建築課の仕事)は、実は土木課(営業)におけるドロドロとした暗闇の仕事のうえで成り立っていたことを知り、悩みながらも同社の一社員として、仕事を獲得すべく尽力する姿が描かれております(全5回だそうです)。「国土建設省」OBの天下り社員(顧問など)をベテランの役者さん方が演じておられるので、政・官・民の癒着・・・というあたりも中心テーマとなっているようです。リアルに「内部告発」がマスコミに届けられて入札が延期されたりもします。おそらく第2話以降は、なんとか安値で入札に成功したところ、今度は下請けに安値で業務を委託せざるをえない状況となって、手抜き工事が行われ、この対応に苦慮する姿なども映し出されるのではないかと予想しております。ドラマは2005年ころの話ですから、独禁法改正によるリーニエンシー(自主申告に伴う課徴金減免制度)にまつわる話などは登場しないものと思われます。

6月30日に公正取引委員会のHPで公表されております「独禁法コンプライアンスへの企業の取組み」などを読んでおりましても、たとえば談合を未然に防止する対策、談合を早期に発見する対策、談合が発覚した場面における企業の対応策、といったあたりは、とても有益な検討がなされており、独禁法関連以外のコンプライアンスにも参考になります。しかし、これらは「談合は当然に犯罪である」ということを前提としての「コンプライアンス上の」取組みでありまして、なぜ談合が悪いのか?自由競争によって安値で落札したゼネコンの先には(当然のこととして)下請けいじめと手抜き工事があり、これによって談合を禁じる以上の国民の犠牲が生じるのではないか?といったあたりの根本的な疑問は十分に議論されているのでしょうか。このあたりが十分に議論されなければ、経営者から社員に対する「談合決別宣言」や「コンプライアンス研修」の本気度は伝わらないような気がいたします。(その結果として、社員→経営者という情報の自由度が確保されず、いつまでたっても談合情報の滞留はなくならない)

2006年の「月刊監査役」に私が書評を書かせていただいた「談合はなくなる-生まれ変わる建設産業」(DANGOをなくす会 編)という本がありますが、この本は談合が及ぼす社会的影響、経済的影響を分析して、とりわけ官製談合の悪質性について論証されており、また「手抜き工事」を助長するおそれのある自由競争入札の弊害を、いかにして防止するか、といったあたりの具体的な提案が豊富に紹介されており「談合は決して『必要悪』ではない」とする立場から、地に足のついた議論をするための参考となります。このNHKのドラマなども、単に談合参加者を「ワルモノ」と決めつけるのではなく、企業が犯罪に手を染めざるをえない状況を克明に表現するものでしょうし、企業だけで解決できない課題などにも触れられるものと思います。ただ、いくつかの内部通報を処理したり、中堅ゼネコンの破産管財人を経験した立場からしますと、「談合」そのものの悪質性よりも、「談合体質」から派生する弊害こそ企業にとってオソロシイ結果を招くことにドラマのなかで触れていただければ・・・と思う次第であります。

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2010年7月 3日 (土)

小糸工業社の内部統制報告書において「重要な欠陥」表明

金融商品取引法上の内部統制報告制度も、2年目の評価結果が出る時期となりました。企業会計審議会の議論などによりますと、今後は「重要な欠陥」なる用語を使用せず、ダイレクトに「内部統制は有効とはいえない」という報告内容だけでいいのでは?といった意見も出ているようでありますが、本日もTDNET上では多くの上場会社から「重要な欠陥表明のお知らせ」が出ております。そんななかで、6月25日に小糸工業さんが財務報告に係る内部統制報告書において重要な欠陥を表明する予定である旨のお知らせを出しておられます。

財務報告に係る内部統制の重要な欠陥に関するお知らせ

小糸工業さんといえば、以前ご紹介したとおり、航空機シートの設計・製造業務において、性能偽装(試験用データの改ざん等)により国交省から業務改善命令を受け、大きく報道されたところでありますが、これが全社的な統制環境の不備に該当するものとして、内部統制上の重要な欠陥に該当するものと評価されております。

不祥事関連で「重要な欠陥あり」と表明するのは、通常「不適切な会計処理」が発覚し、過年度決算訂正を余儀なくされる場面が想定されるのでありますが、金融庁関連ではない(ここでは国交省マター)不祥事発覚が、財務報告に係る内部統制の評価に影響を与える、という事例はちょっとめずらしいのではないでしょうか。たしか昨年は西松建設さんが「重要な欠陥あり」と評価されておりましたが、あの事例は政治献金に絡む裏金作りが問題とされ、経営者の一部によって例外的な金銭処理が社内で可能だったところに「財務報告の信頼性への重大な不備」があったと記憶しております。

今後他社でも同様の評価手法がとられる場面が出てくるのでしょうか?

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2010年7月 2日 (金)

「IFRSと包括利益の考え方」(この本をご存じですか?)

Ifrskangae_3 6月30日、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」が企業会計基準委員会から公表されておりますが、公開草案の段階では連単同時適用が提案されていたところ、結局連結先行適用ということになったようであります。

会計専門家でもない者がIFRSに関連する本の「書評」などと言えるものは書けないので、会計素人による読後感想文ではありますが、この本を皆様ご存じでしょうか?

「導入前に知っておくべきIFRSと包括利益の考え方」(高田橋範充 著 2010年6月 日本実業出版社)

巷にあふれているIFRS解説書について、どれが良い、悪いなどと評価できる力量もない私でありますが、書店で立ち読みしてすぐにおもしろさに感動し、すでに2回ほど通読しております。知人の会計士の先生方にも「これ、絶対にいいよ」などと(身分もわきまえず)推奨しております。

著者は中央大学のアカウンティングスクールの先生(国際会計研究科長 教授)でいらっしゃるそうですが、私はまったく存じ上げません。しかし、この本に感化されまして(笑)、私はすでに1990年代の国際会計基準に関する研究書と、ASOBATを解説している会計基準の生成過程に関する本を購入してしまいました。(^^;;イヤ、本当にこの本を読むとそういった会計基準生成の歴史とか、EU諸国における会社法指令等による国内法化の顛末などが知りたくなるのであります。いままで雑誌を含めて、何冊かのIFRS解説書を読みましたが、基礎がわかっていないためか、どれも挫折してしまったのでありますが、この本は専門家以外の者が読んでも非常におもしろい!IFRSの理屈の世界と妥協(政治的な産物)の世界とが、きちんと区別して書かれてありまして、今後2015年ころまで(おそらく)揺れ動くIFRSを理解するには、非常に有益ではないかと思います。あまり深く考えますと、最終的には「会計学とはなんぞや?」というところまで行き着いてしまうのでしょうかね?

ちょっと前までは「イファース」なる通称(IFRSの読み方です)が流行だったのが、最近なぜか「アイファース」と読む方が増えてきたのでは?といった疑問にも、この本は説得的な理由をもって回答され、私もナットクいたしました。またこの本を読むと「国際会計基準」ではなく「国際財務報告基準」という和訳しかありえない・・・という気になってまいります。また、今後IFRSがどのような変遷を遂げようとも、「公正なる会計慣行」「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」という(これまでの)法律概念における「公正性」や「会計慣行」の解釈には収まりきれない性質を有していることも理解できます。利益のリサイクリング・・・といった論点も、会計雑誌でなんとなく拾い読みしていて理解していなかったあたりもIFRSの原初的理解との関係で問題点が把握できました。「理屈ではこうなるんだけど」といったあたりにこだわりたい方にはおススメです。

また、このたびの包括利益の表示に関する会計基準との関係では、表示する計算書として1計算書方式と2計算書方式の選択が可能、とされておりますが、IFRSの原初的な理解からすれば、2計算書方式によって「当期純利益」の計算を優先すること自体が原則主義からは矛盾を生じており(だからこそコンバージェンス?日本のこれまでの主張が政治的に認められた?)、これからのIASB、FASBの政治的な綱引き次第では、また別の方向に向かう可能性も考えられるのではないか、と思われます。

「IFRSが全面適用されると、あなたの会社の決算書はこうなる」といった話題ばかりが先行しているのでありますが、そこで解説されているのは、これまでどおりの当期純利益優先主義を基本とした決算書の読み方を基本としているのではないでしょうか。しかし、その読み方自体の発想を転換する、というのも選択肢のひとつではないかと。IFRS、そしてフレームワークを理屈で考える、というのも、なかなか楽しいわけでして、いままで出されているIFRS解説書を理解するうえでも、この本はとても参考になろうかと思われます。(くどいようですが、あくまでも会計専門家ではない者による、読後感想文としてお読みいただければ幸いです。)         

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2010年7月 1日 (木)

第三者委員会と裁判所の「事実認定」の食い違い(加ト吉事件判決)

(コメント欄においてUnknownさんが既にお書きになっておられますが)6月29日のエントリーでご紹介していた日本風力開発さんの特別調査委員会のメンバーが本日公表されておりますが、やっぱり公認会計士資格をお持ちの委員の方が、おふたり加入されたようであります(^^;。関係者の方がとくにこのブログをご覧になったからというわけではないと思いますが(笑)、私も、このほうが適切ではないかと。(なお、私はとくにどちらかを支援するつもりはございません)

上記の件もそうですが、最近いろいろなところで「企業不祥事発覚後に設置される第三者調査委員会の在り方」が問題とされているところでありますが、ちょうど3年前に「加ト吉社の外部調査委員会」なるエントリーを書きまして、そのなかで当時から「外部調査委員会」の調査については日経ビジネス誌などでも疑問が呈されていることをご紹介いたしました。(現在は「テーブルマーク」社なので、旧加ト吉社といったほうが正確ですね。ちなみに加ト吉さんの架空循環取引事件も、発端は監査法人への内部告発でありました。)本日(6月30日)、3つの架空循環取引のうちのひとつの事例に関するものでありますが、(結果的に)循環取引に関与していたとされる名古屋の総合商社岡谷綱機さんが、加ト吉さんを相手に提訴していた商品代金請求事件の地裁判決が出され、岡谷さんの請求がほぼ主張どおり認められたそうであります(共同ニュースはこちら)。

ところで、当時の加ト吉社の外部調査委員会報告書(要旨)によりますと、本件架空循環取引は、この岡谷綱機さんと別の会社が起点となって循環取引が組み立てられており、加ト吉社としては循環取引であることを知らなかったと報告しております。いっぽう当時岡谷さんは、直ちにTDNET経由により、この外部調査委員会報告の内容を否定し、起点になっていたのは加ト吉さんと親密な関係にある当該別の会社である、自分達は商流に関与したにすぎない、と公表しておりました。

この循環取引の後始末問題として、岡谷さんが加ト吉さんを提訴していたわけでありますが、このニュース記事によりますと、裁判所は「加ト吉社は相当量の循環取引が存在することを暗に認識していながら、売上を伸ばすために積極的に活用していた」と認定しているそうであり、(まだ判決が確定したわけではありませんが)結論は当時の第三者委員会報告要旨の内容とは食い違っております。本来、商品の引き渡しがない以上は、売主側が敗訴することが多いと思われますが、そもそも循環取引であることを加ト吉さん側が認識していた以上は、引き渡し未了であることを抗弁として主張できない・・・といったあたりでしょうか。(そういえば岡谷綱機さんといえば、赤福さんの事件のときに初めて知ったのですが、日本でも数少ないエノキアン協会に加盟しておられる会社ですよね。「健全経営を本旨とする企業」であることが条件だそうですが)

短い期間において、会社と独立した立場で事実認定を行うのが第三者委員会の役割ですので、事実認定作業が不十分であったのかもしれません。しかしながら、この岡谷さんが2007年4月26日にリリースした「当社に関する一部報道(冷凍加工食品の循環取引)について」では、加ト吉さんの第三者委員会による調査が一度あったが、その内容は極めて概括的なものであったことを公表しており、果たして加ト吉社さんの第三者委員会がどこまで機能していたのか、やはり疑問が残るところであります。とくに、本件訴訟のように、取引に関与していた会社間において、循環取引に関する認識が重要な論点になるケースもあるでしょうから、このあたりの事実認定につきましては、より慎重な調査および判断が必要ではなかったか、と思われます。

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