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2010年7月12日 (月)

株式価格決定申立て事件の審理期間について

楽天・TBS間における株式買取価格決定事件につきましては、先週7月7日に東京高裁の決定が出て、楽天さんは最高裁に特別抗告を行ったそうであります。まだ確定はしておりませんが、地裁への申立て(双方から)から約1年2カ月ほどで高裁決定が出されたもので、(調停を含めた)裁判手続きの迅速性という点からすれば、それなりに評価できるものではないでしょうか。

Hikaku001 しかしながら、カネボウの価格決定事件はといいますと、左図のとおり、高裁決定まで約4年3カ月を要しています。とりわけ高裁の審理に2年を要しているのは、TBS・楽天事件の4か月と比較すると、異常に長いように思います。わたしは特に両事件に関与している者でもありませんので、固有の事情に詳しいわけではありませんが、それにしてもあまりにもカネボウ事件はTBS・楽天事件の審理期間と比較しても長すぎるように思われます。関係者の方のブログなどを拝見いたしますと、カネボウ事件にも投資家側には企業法務の世界で著名な代理人弁護士の方がついておられるようですから主張自体には問題がないと思われますし、高裁でも最終の書面提出が2009年3月ころとのことで、そこから1年2カ月後にやっと裁判所の判断が出された、というのはかなり問題ではないかと。

もちろん、カネボウ事件が重要な案件であることは理解しておりますし、そこで慎重な審理が必要であるということも(頭では)ナットクできるのでありますが、投資家の資金回収に関わる裁判での「長期化」は、たとえ投資家側に有利な最終判断が出たとしても、①投資家の投資機会の喪失、②紛争解決手段としての価格決定申立権の放棄(どうせ長引くならあきらめる)、③企業の信用不安等による買取請求権の劣化ということにつながるものではないでしょうか。また、企業の信用に問題がないような場合には、逆に企業側にも遅延損害金の高額化(もちろん、遅延損害金が加算されないように仮払いを行う、ということもありますが)という深刻な問題も生じさせることになります。こういった裁判には手続きが長期化すること自体が関係当事者に異常なまでの深刻な事態を生じさせるものである、という認識は司法に携わる方々にはあまり認識されていないのでしょうか?素朴な疑問が湧いてくるのであります。(それとも、そんなに深刻な問題ではないのでしょうか?)

6月23日、経済産業省が法制審議会に対して会社法改正に関する提言を出されたそうですが、そのなかに「金融・商事高裁の創設」というのがあるようです。M&A、企業組織再編に関わる当事者の紛争について、できるだけ早期に紛争を解決し、また予測可能性を高めるためにも不可欠、とのことだそうですが、裁判所も法務省も真剣に検討したほうがよいのでは、と。そうでないと、行政機関によるガイドラインやQ&Aが、さも司法判例のように取り扱われ、ガイドライン策定にとって近い立場にある企業等の利益ばかりが優先されてしまうような事態を招きかねないように思うのでありますが。。。(このあたりは、あまり皆様、真剣に検討されていないのでしょうか?それともどこかで検討されているのでしょうかね。・・・・・ナゾです。。)

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コメント

専門部を作ると、裁判官が固定されますから癒着のようなことも起きやすくなりはしないか?法的に白黒付かないような事柄まで、裁判所に全幅の信頼を寄せる経済産業省の立場には違和感が。。。東京地裁の商事部はもともと大企業寄りなのだからせめて高裁ぐらいは・・・という思いがしますが。

癒着という表現は不適切かもしれませんが、価格の判断など裁量の問題に過ぎないので、著名な大先生のネームバリューが勝負になってしまう恐れが強くなるでしょう。大先生に金を積めるほうが有利になります。

紛争が頻発することを前提として、問題があれば株の価格を裁判所に決めてもらえば良いとする極めて無責任な立法が、そもそも間違っている気がします。紛争が起きにくい法整備のほうが必要ではないかと思われるのです。


投稿: ターナー | 2010年7月12日 (月) 13時24分

 たしかに、ターナーさんの指摘どおりのリスクが、専門部にはありますね。専門部は知識が集積して判断が安定する、裁判官の質の際による判断の別れが減る等のメリットはありますが、その裏返しが、偏ってしまった裁判の傾向が是正されない(もっとも、誰が偏っているかと判断するか問い運問題がありますが。)

 また、カネボウ事件は、まず鑑定が行われていてそれが円滑でなかったことと、会社が審理中に合併をしたり、また重要な不動産を処分する(処分したことについては、会社自身は自ら主張せず、申立人の指摘があった)などした結果、審理が長引いているということもあり、一律には論じられないかと思います。

 最近決定が相次いでおり、レックス、サンスター、サイバード等のMBOや、テクモ、学研など、最近の案件で比較した方が、時間がかかっているかどうか明確になると思いますが、いかがでしょうか。

投稿: Kazu | 2010年7月13日 (火) 15時21分

学研の事例は、大量に株を抱えた投資ファンドが会社に株を買い取らせた事例ですよね?持株会社化するだけで株主にとっては特段不利益が発生していなかったはず。投資ファンドは市場では売れないほど株を抱えてしまっていたので、会社法の規定を利用して会社側に株を買い取らせてイグジットしたに過ぎません。

こういう、保護に値しないようなケースの保護規定は存在するのに、絶対に保護すべきであろうケースには保護規定が無かったり、十分でなかったり・・・

全部取得条項が付けられるケースや、会社の不当な行為に絡む買取請求(カネボウなど)と、言いがかりを付けて会社に株を買い取らせるケース(学研など)は場合分けしたほうが良いかとは思います。

言いがかりを付けるだけのケースのほうが、株主側も市場価格で売りたいだけなので審理が早く進みます。

投稿: ターナー | 2010年7月13日 (火) 22時17分

ターナーさんへ
 学研もそうですが、三共生興も、簡易合併での株式買取請求案件であり、殆ど株価や資産・収益に影響を与えない旨が判示されている(金融商事判例1320号59頁)という、株主に損失が生じていないと考えられる案件です。
 確かに、案件の実情毎に整理する必要があると思います。

1.複数銘柄で登場する某ファンド(またはその運用者)が申立人の案件(学研、協和発酵、三共生興、テクモ等)
2.事業会社が申立人である案件(TBS対楽天)
3.個人が申立人であり、手続の公正さ等が争点になっている案件(レックス、サンスター、サイバード、日興コーディアル)
4.鑑定が行われた件(カネボウ)
5.その他(メディアエクスチェンジ等)

という分類でしたら、いかがでしょうか。

投稿: Kazu | 2010年7月14日 (水) 20時45分

いろいろ分類する必要はあるでしょうね。

審理期間が短くするために専門部を作るとしても、マイナスの面にも目を向けなければならないと思います。判断が固定化しやすいことに加え、外国では当然と考えられている裁判所の汚職のリスクまで考えて、あえて専門部を作るほうが良いのか、(専門部のほうが汚職のリスクは高まります)、それとも、価格決定の際の算定マニュアルなど拠り所となるものを予め定めて、判断のばらつきを抑えるようにしたほうが良いのか?

裁判所に白紙委任のような今のあり方に問題があるのは確かです。

投稿: ターナー | 2010年7月16日 (金) 00時22分

何度も連投で申し訳ないのですが、上記は価格決定を受けられるだけマシなケースです。どれだけ時間がかかろうと、一応の保護手続きさえあれば多少は保護されるわけでありまして、文句を言うのは罰当たりなのかもしれません。

あまり、一般には議論になっていないのですが、反社企業の場合は違った方法によって株を召し上げてしまうやり方が存在しています。

例えばTTGホールディングスという会社の場合、合併と株式併合を組み合わせ、一般株主が持つ既存株式をすべて1株未満の端数として、端数の合計数も1株未満とすることで、裁判所を一切介在させることなく無償で消却してしまった事例があります。(端数の合計数が1株に満たない場合は切り捨てることになっています)

また、OHTという会社の場合も株式併合を用いて会社法第234条2項によって株主に価格決定申立の機会を与えることなく多数の株式を強制取得しています。OHTの場合は1株当たり、一株純資産の5%ほどで裁判所の許可が下りています。

出来れば、議論に際してはTTGホールディングスのケース、OHTのケースも考慮に入れていただけると幸いです。

投稿: ターナー | 2010年7月17日 (土) 08時05分

ターナーさん、Kazuさん、いろいろとご意見ありがとうございました。(たいへん勉強になりましたです)ちょっと脊髄反射的に思いついたことをエントリーにしたものですから、息切れしてしまって、なかなかご議論に入れずにスイマセン。。。

所得税課税と最高裁判決に関するエントリー同様、すっかり読む側に回ってしまいました(笑)
ターナーさんの最後のコメントにある事例などは、どこかで紹介されているのでしょうか?Kazuさんの整理されたものもたいへん参考になりますが、いずれ法律雑誌等でどなたかがきちんとご紹介されるでしょうから、こういった最後の事例こそ、ブログでとりあげてみたいものです。

どうか有益なご意見は、連続投稿でも結構ですので、またよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2010年7月18日 (日) 02時40分

これ、わたくし両方持ってたんです。
いろいろと上場廃止面白株の行方を見守るのが好きで・・・最後にほんの少し買ってみることがあるんです。で、結局、株を取られてしまったんですね。
OHTについては会社の公開情報で成り行きが多少はわかると思います。

もっとも、上記のような会社ですら、怪しげな法手続きを一応踏んで株を形ばかりは合法的に行っているわけでありまして、まだまともな部類かもしれません。


投稿: ターナー | 2010年7月18日 (日) 06時45分

 株式併合を利用した少数株主締め出しは、ターナーさんの指摘の他に、モックなどでもありましたが、証券取引所のルールで封じられていると考えており、今では参考事例として紹介することが適切かなと思います。
 今度の法制審会社法部会での議論に乗って、改正されるといいですね。

投稿: Kazu | 2010年7月21日 (水) 19時50分

モックの例は、上場株だったので、若干異なるような気がいたしております。
株式併合を利用した少数株主締め出しも上場している会社が行うのであれば、排除されたとしても後で買い戻せばよいわけでありますから・・・

わたしが問題だと考えるのは、上場廃止された会社が、相当数の株式を取得するために株式併合を用いるケースです。OHTは取得した株を社長が買い取り筆頭株主になっています。

さて、そもそも論でいうと、スクイーズアウトという制度自体が必要ないのではないかとも思われるのです。買い占めたい人は市場で買い付ければ良いのであり(そうすれば株価も多少はまともな価格がつくでしょう)、買い占めた結果として株主数基準に満たなくなるなどして上場廃止になったときにどうするかを議論すれば足りるような気がします。

また、上場を維持できるような状況下で無理やり上場廃止にしてしまうような制度にすべきではなく、上場廃止基準と絡めて議論すればより発展的な制度になるような気がしています。

上場が廃止された後も、株主でありたいとする人もおり、そういった株主に換金の場を与える以上の強圧的制度が果たして必要なのでしょうか?

投稿: ターナー | 2010年7月23日 (金) 23時41分

>>3.個人が申立人であり、手続の公正さ等が争点になっている案件(レックス、サンスター、サイバード、日興コーディアル)

すみません。言葉尻を捕らえるようで恐縮ですが、これらの事件での争点は「価格」であって「手続き」ではありません。
一部の弁護士などが、価格の問題を手続きの問題にすりかえようと画策している最中であり、このような表現はいかがなものでしょうか。
例えば、第三者委員会を設置すれば、1円でも良いのでしょうか?
「手続の公正さ等が争点になっている」ということ自体、少数株主を苛める側に加担した表現のように思います。

投稿: 山口三尊 | 2010年7月26日 (月) 12時25分

山口三尊さんへ

 直線的に価格の当否を求めると主張しても、専門家ではない裁判所は、いきなり価格算定には入ってくれないのが現状です。
 現実問題として、価格そのものの算定を裁判所に求めても、裁判所は、まず、買付者が定め対象会社が承諾した価格が妥当か否か、という点から出発をします。そして、適正な手続を経ていなければ、結果として妥当な価格であったとしても(通常はそんなことはないでしょうが。)、裁判所が改めて決定することになるし、逆に適正な手続であれば、すなわち、利害相反関係がなくガチンコの交渉をして価格が決定されれば、価格が適正と判断することになると考えられます。
 その背景には、裁判所は完全な性悪説には立たないことがありますし(これでも、昔と比べて会社側に肩入れしなくなった方だと思います。)また、ガチンコの交渉をする当事者自身にも、自分の財産を相手方のために投げ出す覚悟や、自社あるいは自分のファンドの投資家からの損害賠償責任を負う覚悟は、普通はないと考えられているからです。

 株価算定の当否を争うのは非常に難しいのですが、レックスなどは、価格決定にあたって株主の利益を考えた手続を執っていない(株主の利益の代弁者が手続に関与していない。)ことから、公開買付価格が妥当でないとして、裁判所が自ら価格算定をしたのだと読めると思います。

投稿: Kazu | 2010年8月10日 (火) 18時01分

利害相反関係が無いことを会社側が立証していない場合でも、株主側で利益相反関係を立証しないと(ほとんど不可能ですが)価格を適正と判断する裁判官がいます。

何度か株主側に有利な裁定が下ったことにより、より巧妙に利益相反の不存在を装う人たちが出てきました。

利益相反が無い場合に裁判所が会社側の判断を丸呑みしてしまうのは非常にまずいような気がします。これまでは、手続き自体が明らかに不正といった脇の甘い会社がありましたが、今後は脇の甘過ぎる会社は出てこないでしょう。

投稿: ターナー | 2010年8月11日 (水) 10時51分

ご返答ありがとうございます。
「利害相反関係がなくガチンコの交渉をして価格が決定されれば、価格が適正と判断することになる」というのは、当然、一つの見識とは思います。
しかし、ガチンコの交渉などは簡単に作出できます。例えば、口頭で馴れ合いの交渉をした上で、「交渉記録」だけ激しい交渉があったと書き留めておけばよいのです。この場合、それこそ「内部告発」がない限り、株主は勝てないことになってしまいます。
特に、非訟事件では文書提出命令が難しいこともあり、さらに、仮に提出しても、偽造することもできますし、肝心な部分を書き落とすこともできます(裁判で出てくる取締役会議事録などはほとんどそうですね)。

極端な例を挙げると、第三者委員会を設置した上で、価格を1円とした場合、第三者委員会を通じて適正な手続きを行ったから価格も適正とするのか、手続きは適正(実質的には適正でないが、それを証明するのは困難)だが、価格は不当と考えるのかですね。

まあ、このブログで議論することが適切な話題かどうかは別として、裁判の実態を見てきた者としてはかなり危機感を持っていますので、問題提起だけはさせていただきたいと思います。

投稿: 山口三尊 | 2010年8月11日 (水) 12時48分

脇からで失礼します。
結局、取締役会が信頼に足りる存在ではない、という一言に尽きます。
どことはいいませんが、まだまだひどいTOBは頻繁に実施されています。
マスコミも、大きな会社さんの場合は、自主規制をしてあまり批判しなくなってしまう国です。言論封殺の圧力は方々にある中で、独立社外取締役
がちょこっとだけ義務化されたとしても、あまり効果はないのではないか、と絶望的なぐらい悲観していまいます、日本の現在の状況は。
現場に近いところで、たくさん「変な」話を見てきましたので、決してきれいごとではない、とだけ申し上げておきます。

投稿: 龍のお年ご | 2010年8月11日 (水) 22時37分

取締役会も信頼できず、裁判所にも荷が重すぎる。

株の価値を軽々に取締役が決めてしまい、奪い取ってしまうことを許す法律自体が傲慢なのではないかと思います。裁判所であれば株の価値を適切に判断できると考える学者さんたちも、現実を見ていません。

TOB規制を緩める代わりに、株は市場で買い付けるようにしたほうが良いのかもしれません。市場で買うなら恨みっこなしの本当のガチンコ勝負なのですから

投稿: ターナー | 2010年8月12日 (木) 13時08分

楽天さんの抗告許可申請が高裁で通ったようですね。TOB事案ではありませんが、「公正な価格」の法律解釈として最高裁の判断が出る可能性もありますのでまたエントリーをアップしようかと思っております。ちょっと本日は時間がありませんでした。

投稿: toshi | 2010年8月17日 (火) 02時19分

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