第三者委員会と裁判所の「事実認定」の食い違い(加ト吉事件判決)
(コメント欄においてUnknownさんが既にお書きになっておられますが)6月29日のエントリーでご紹介していた日本風力開発さんの特別調査委員会のメンバーが本日公表されておりますが、やっぱり公認会計士資格をお持ちの委員の方が、おふたり加入されたようであります(^^;。関係者の方がとくにこのブログをご覧になったからというわけではないと思いますが(笑)、私も、このほうが適切ではないかと。(なお、私はとくにどちらかを支援するつもりはございません)
上記の件もそうですが、最近いろいろなところで「企業不祥事発覚後に設置される第三者調査委員会の在り方」が問題とされているところでありますが、ちょうど3年前に「加ト吉社の外部調査委員会」なるエントリーを書きまして、そのなかで当時から「外部調査委員会」の調査については日経ビジネス誌などでも疑問が呈されていることをご紹介いたしました。(現在は「テーブルマーク」社なので、旧加ト吉社といったほうが正確ですね。ちなみに加ト吉さんの架空循環取引事件も、発端は監査法人への内部告発でありました。)本日(6月30日)、3つの架空循環取引のうちのひとつの事例に関するものでありますが、(結果的に)循環取引に関与していたとされる名古屋の総合商社岡谷綱機さんが、加ト吉さんを相手に提訴していた商品代金請求事件の地裁判決が出され、岡谷さんの請求がほぼ主張どおり認められたそうであります(共同ニュースはこちら)。
ところで、当時の加ト吉社の外部調査委員会報告書(要旨)によりますと、本件架空循環取引は、この岡谷綱機さんと別の会社が起点となって循環取引が組み立てられており、加ト吉社としては循環取引であることを知らなかったと報告しております。いっぽう当時岡谷さんは、直ちにTDNET経由により、この外部調査委員会報告の内容を否定し、起点になっていたのは加ト吉さんと親密な関係にある当該別の会社である、自分達は商流に関与したにすぎない、と公表しておりました。
この循環取引の後始末問題として、岡谷さんが加ト吉さんを提訴していたわけでありますが、このニュース記事によりますと、裁判所は「加ト吉社は相当量の循環取引が存在することを暗に認識していながら、売上を伸ばすために積極的に活用していた」と認定しているそうであり、(まだ判決が確定したわけではありませんが)結論は当時の第三者委員会報告要旨の内容とは食い違っております。本来、商品の引き渡しがない以上は、売主側が敗訴することが多いと思われますが、そもそも循環取引であることを加ト吉さん側が認識していた以上は、引き渡し未了であることを抗弁として主張できない・・・といったあたりでしょうか。(そういえば岡谷綱機さんといえば、赤福さんの事件のときに初めて知ったのですが、日本でも数少ないエノキアン協会に加盟しておられる会社ですよね。「健全経営を本旨とする企業」であることが条件だそうですが)
短い期間において、会社と独立した立場で事実認定を行うのが第三者委員会の役割ですので、事実認定作業が不十分であったのかもしれません。しかしながら、この岡谷さんが2007年4月26日にリリースした「当社に関する一部報道(冷凍加工食品の循環取引)について」では、加ト吉さんの第三者委員会による調査が一度あったが、その内容は極めて概括的なものであったことを公表しており、果たして加ト吉社さんの第三者委員会がどこまで機能していたのか、やはり疑問が残るところであります。とくに、本件訴訟のように、取引に関与していた会社間において、循環取引に関する認識が重要な論点になるケースもあるでしょうから、このあたりの事実認定につきましては、より慎重な調査および判断が必要ではなかったか、と思われます。
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コメント
それこそ、相撲協会もそうですけど、第三者機関・委員会に何か幻想を抱いているひとが多いように思います。
効果を出すこともあるでしょうけど、それは、たまたまその事案に合致した有能な人材が選出され、かつ、運良く証拠、証言が得られた場合でしょう。どちらかというと(今回のケースも、などとは決めつけたりは「一応」しませんが(笑))経営者側のアリバイ作り、正当化に利用されることが多いと感じます。
第三者委員会の人選自体を第三者にやらせないとね(笑)。
投稿: 機野 | 2010年7月 2日 (金) 00時07分
訴訟提起時(08年2月13日)の加ト吉のプレスリリースは、次のようになっています。
『当社は、岡谷鋼機の当社に対する上記売買代金債権は不存在であると認識しており、岡谷鋼機が主張する売買代金の支払義務はないと認識しております。また、岡谷鋼機の当社に対する売買代金請求が裁判所により認容された場合に備え、保守的な財務会計処理をしております。』
今回の判決にたいして、財務的には手当済み(訴訟損失引当金?)であり、テーブルマーク社財務への影響はありませんが、今後上級審で逆の判決が出た場合には、50億円の引当金取崩益が発生しますね。50億円と少額(JTの連結財務数値に対してですが)のため、監査上は大きな問題とはならないでしょうが、今回の事案は、訴訟に関係する損失の計上タイミングの難しさを示すものと言えます。
投稿: 迷える会計士 | 2010年7月 3日 (土) 20時05分
>第三者委員会の人選自体を第三者にやらせないとね(笑)。
機野さん、コメントありがとうございます。
ということで、大阪弁護士会では「委員登録名簿」がいよいよ稼働したのですが、どうなることやら。。需要があれば良いのですが(^^;
迷える会計士さん、ご解説ありがとうございます。
訴訟提起時におけるリリースまでは読んでおりませんでした。こういった引当金をいうのは、はたしてどのような場合に積むのでしょうか?すべての訴訟で積むというわけでないとすれば、どの程度の敗訴可能性があれば積むのか、なかなかムズカシイ判断ですね。いままであまり考えたことがありません。
投稿: toshi | 2010年7月 4日 (日) 01時43分
ミロク情報サービスの子会社(MST、架空循環取引の仕入側)に対し、富士通の子会社(架空循環取引の売上側)へ代金の支払を命ずる東京地裁の判決が出たようです。
「富士通子会社側には循環取引の認識がなかったとし、MSTが商品の未納入などを理由に支払いを拒否することは許されないと判断した。」
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011113001105
架空循環取引の場合でも、債権・債務は存在するとする裁判所の判断が定着したということでしょうか?会計理論的には認めがたいことですが、財務上も債務を計上する必要がありそうです。
旧加ト吉と岡谷鋼機は、3月の和解したようです。
投稿: 迷える会計士 | 2011年12月 2日 (金) 22時38分
これはまた「法と会計の狭間」の問題としてオモシロイ題材を提供していただきました。この架空循環取引の問題や先日アップした東理HDの問題など、書物として私論を展開するつもりです。まだ執筆中ですが・・・
投稿: toshi | 2011年12月 5日 (月) 01時40分