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2010年7月 7日 (水)

企業不祥事発生時の第三者委員会は「70点主義」でいいのでは?

「第三者委員会」につきましては、企業価値判断の公正性を確保するために設置されるものと、不祥事発生時の事実認定の客観性を確保するために設置されるものがありますが、本日は後者のお話であります。中央経済社の「ビジネス法務」7月号でも特集が組まれており、昨今ホットな話題となった「不祥事発生時の第三者委員会」でありますが、昨日ある業界団体の会合に招かれまして、「第三者委員会とは?」といった講演を約2時間ほどさせていただきました。

同業者の方もチラホラといらっしゃいましたが、お越しになっておられた方々はほとんどが企業法務関連の方(企業内弁護士含む)でした。私は不祥事発生時の第三者委員の経験はありますが、それよりも第三者委員会の支援業務とか、社内調査委員会の支援業務のほうが貴重な経験をさせていただきましたので、守秘義務に反しない範囲で、そういった委員会活動と企業側サイドとの接点で生じる出来事を中心にお話させていただきました。

講演というよりも、終了後の約3時間に及ぶ酒席のほうで皆さまからの(ホンネの)質問をたくさん受けました。概ね、以下のようなご質問が多かったようです。

「なんで委員の人に不利益な事実を話さないといけないのですか?委員は我々の味方ですか?」

「社内規則には何も書いてないのに、不利益なことを話して会社から処分を受けたら、委員の人は責任とってくれるのですか?」

「さっき『事実認定は委員の自由心証』っておっしゃてましたけど、灰色は『クロ』ということもありうるわけですか?それで処分されたらたまったものではないですよ。それだったら誰もホントのことを言わないですよ。」

マスコミ報道が先行して設置された第三者委員会の場合には、バックに行政調査や(ときには)司法捜査の可能性が控えておりますので、比較的社員の方々はまじめにヒアリングに対応していただけることが多いのでありますが、マスコミ報道以前から設置されている第三者委員会のケースでは、たしかに上記のような反応によって、ヒアリングがうまくいなないケースもあるわけでして、なかなか難問であります。なかにはアメリカ州弁護士の資格をお持ちの方もいらっしゃって、「委員は、社員の味方ではないのだったら、まず『私はあなたの味方ではありません。だから不利益なことは黙秘してもかまわない』と明確に述べるべき。そうでなかったら陳述書の信用性はないのでは?」「社員ヒアリングの際には、会社の費用で、委員とは別の弁護士を雇用して、ヒアリングへの対応を相談させる制度を作るべきではないか」といったご意見も出ておりました。

Cocolog_oekaki_2010_07_06_22_23 そもそも第三者委員会は不祥事を起こした企業のステークホルダーのために説明責任を尽くすことが大きな目的ということでありまして、決して企業に満足のいくような活動がなされるとは限らないわけであります。上図のとおり、第三者委員会は、外観的な独立性を確保しつつも、短時間のうちに、事実の解明や原因究明、再発防止策の提言など、その設置目的を達成しなければならない使命を有しております。しかし、これらの要請はいずれも「あちらを立てれば、こちらが立たず」というトレードオフの関係にあるわけでして、どれも満足させることは困難であります。要はこの3つの要請をいかにバランスよく調和させて、最終結論に至るか・・・というところの決断が必要になってまいります。決定して実行する・・ほどの時間的な余裕はなく、いわば決断して断行する、というプロセスであります。(だからこそ、委員の自由心証は確保される必要があります)

これは個人的な見解でありますが、私がいくつかの報告書をみてきたなかで、「これは素晴らしい委員会報告書だなぁ」と感心したものがございます。後日、そういった会社のコンプライアンス研修にお招きいただき、報告書作成の経緯などをお聞きするのでありますが、その「すばらしい」報告書は、素案の一部を社内のごく一部の方が中心となって作成した、といったケースが見受けられます。「このままでは会社がダメになってしまう」という危機意識を持って、ときどき幹部の方のなかに第三者委員会の活動に協力していただける方がいらっしゃいます。そういった方が、なかなか首尾よく進まない委員会活動に業を煮やして「そんなんじゃダメですよ。本当の原因はこうなんです!」と委員に進言するそうであります。たとえば第三者委員会の委員長からすれば、こういった社員の話に耳を傾け、委員としてのプライドをすこしだけ引っ込めて、この幹部社員の意見を尊重する・・・といったあたりでうまく委員会も機能するのではないでしょうか。(とんでもない!とのご意見もあるかもしれませんが、的外れ、ツッコミ不足の委員会報告書が作成されることも事実なわけでして)

最近の「第三者委員会はかくあるべし」といった論稿などを拝見しておりますと、世間の信頼を確保するためには、委員の活動は100点満点でなければならない・・・といった風潮を感じるのでありますが、(これまたご異論の出るところだとは思いますが)先の図で示したような「委員会活動の宿命」や、良質な委員会報告書が作成される実例などからしますと、私は100点中70点くらいの最低合格点を目指すほうが、ベターなのではなかろうか、と感じるところであります。

7月 7, 2010 独立第三者委員会 |

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コメント

わたしは100点でなければいけないと思います。
もっとも、真実を完全に暴き出すことを100点と考えているわけではありません。
エビデンスや複数同一証言によって(高度に)確定された事実は記述する。不明なものは不明と記す。それでよいと思います。
裁判とちがって、ノンリケットが許されるわけですから、無理に事実や判断をひねり出す必要はまったくありません。
トレードオフの関係は十分わかりますが、自由心証に依拠する根拠がわかりかねます。不明なものは不明でよいのであり、むしろ事実認定の客観性(極力誰が判断しても同じ結論に至ることを志向)が求められると思います。
何らかの結論を出そうとしたリキみのある報告書は0点です。
報告書の信用性に?マークがついてしまっては本末転倒だからです。

本文にも示唆されておりますが、刑事訴訟のノウハウは応用されるべきです。正義感ある社員の供述が真実とは限りませんし、引っ張り込みの危険、迎合、自己防衛、思い込みなど虚偽証言のリスクは多々あります。エビデンスで補強できない証言は疑問視すべきです。

投稿: JFK | 2010年7月 8日 (木) 02時25分

JFKさん、ご意見ありがとうございます。
私も報告書の信用性に?がつくのは「いただけない」という思いです。
実際、第三者委員会の委員としましては、被疑事実の調査と同時に、他の部署でも同様のことが行われていないのか、その「行われていない」ということをどのような調査と立証方法で説明できるのか、という点にも配慮する必要がありまして、まあ70点くらいの出来であれば説明責任を果たすことができるのではないか、というところが本意です。
どのような判断基準をもって100点とみるのか、というのは考え方の相違かもしれませんが、これまでこういった委員会活動についてのマニュアルなどなかったところに、最近「かくあるべし」というマニュアルが出来つつありますので、そのあたりへの思いからであります。
ちなみに「自由心証」の点も、そのマニュアルで登場(予定?)です。もちろん、報告書のなかには「委員会の限界」についての留保付きであることは明言いたしますが。

投稿: toshi | 2010年7月 8日 (木) 22時53分

最近いわれているあるべき論が100点だとすると、私も70点でよいと思います。
調査報告は自由心証というよりも実証の世界だと思っています。
もう少し勉強してみます。

投稿: JFK | 2010年7月 9日 (金) 02時39分

建前と本音という言葉が表わすように、建前は100%が理想であり論稿にもそのような傾向があります。一方、会社を弁護する立場からは訴訟に耐えうる程度の、可もなく不可もない「外部調査報告書」が求められます。
しかし先生お勧めのシニアコミュの報告書ですが「今回の修正」についての調査であり、「過去のすべて」の売上計上の取消処理が必要な売上高になっていないのがミソです。つまり会社側の説明に基づく調査となっており、いまひとつ客観性に欠けています。
不正についての外部調査報告については、過去の現有するすべてのデータ分析に基づいて、調査実施して不正の解明をすべきです。そうでなければ公開企業の責務を果たせないと思います。

投稿: 元調査官 | 2010年7月14日 (水) 19時19分

元調査官さん、コメントありがとうございます。
ご指摘の点、参考にさせていただきます。

なお、シニアの件ですが、ひょっとすると元調査官さんもご存じかもしれませんが、「秀逸」と書いたものの、いろいろと問題点が指摘されるているようです。これもタテマエと本音の問題かもしれませんが、「犯罪行為」という言葉を調査報告書のなかで、使用するのは、はたしてどうかな??という点です。単に報告書の体裁の問題ではなく、金融庁の処分にも影響を及ぼす可能性があるかもしれません。
第三者委員会報告書の作成にあたっては、まだまだ委員として勉強しなければならない問題が潜んでいるように思います。

投稿: toshi | 2010年7月16日 (金) 01時32分

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