上場会社役員必読!メルシャン第三者委員会最終報告書
すでに新聞やニュースでも報じられておりますメルシャン株式会社(2536 東証・大証1部)の不正会計事件の最終報告でありますが、8月27日付けで報告書全文が公開されましたので、一読いたしました。8月12日に公表された社内調査報告及び第三者委員会中間報告と合わせますと、一冊の本になるほどの分量であります。メルシャンさんの株価も上がり、「親会社が体よく100%子会社にする理由になったのでは?」といった評価も多いようですし、また山口三尊さんがコメントで述べておられるとおり、事実上のキャッシュアウトではないか、といった手続きへのご批判もあるようです。ともかくこの最終報告書を第三者委員会からつきつけられた親会社および子会社の社長さんは、どう思われたでしょうか。最初から筋書きがあったのか、なかったのかは、これをお読みいただいたうえで各自判断したほうがよさそうであります。
A4で添付資料合わせ80頁にわたる最終報告書でして、関係者の方々には不謹慎だと怒られそうですが、本当に迫力があり、読み応え十分です(経済小説を読むよりも夢中になりました)。先日の社内調査報告書が「事実認定」(メルシャンに何が起こったのか)を中心としたものでありましたが、今回の第三者委員会最終報告書はメルシャンのガバナンスはこれまでどうだったのか(統制環境、全社的内部統制の把握)という点と、役員らの責任を根拠付ける事実、そして再発防止策に力点が置かれています。とくに後半のほうが読み応えがあります。「私がこの常務さんの立場だったら、たぶん同じことをしていたのかもしれない」と素直に考えてしまうほど、人間模様がリアルであります。
内部監査に携わる方、監査役の皆様には当然のことながら、このたびの最終報告書はぜひとも大きな会社の役員の皆様にお読みいただき、自社のガバナンスの状況を振り返っていただければ・・・と思います。おそらくこのような第三者委員会委員のご意見が出れば、社長さん含め役員の皆様も震え上がるのではないでしょうか。現社長、元社長はじめ「責任は相当に重いと思料する」との結論でありますが、事案の特殊性(親会社であるキリンHDからやってきた現社長に、メルシャン出身の役員や幹部社員が遠慮して何もいえなかった、ということと、キリンから来た人たちもメルシャンが名門企業ゆえに遠慮して文句をいいづらかった、ということ)ゆえの出来事だったのでは?といったあたりに「逃げ道」を探したくなるような内容であります。「遠慮して何も言えなかった」といったあたりの件は、第三者委員会委員の単なる「推測」ではなく、総勢18名の弁護士、会計士集団によるヒアリングの積み重ねが結論とされておりますので、たいへん事実分析にも説得力があります。メルシャンの元専務の方が「僕が(キリンとの提携後の)現在も専務だったら、やっぱり現専務と同様、社長の耳には(不利益な情報を)いれなかったかもしれない」との証言、リアルです。結局、現社長は言葉は悪いですが「裸の王様」だったのでしょうか?結構親会社に対しても厳しい内容になっております。
監査役の皆様は、この報告書をお読みになってどのような感想をお持ちになるでしょうか。この第三者委員会最終報告書では、会社法およびメルシャン社のガバナンス規程を根拠として、メルシャンの常勤監査役の「任務懈怠は明らか」と断言されております。(監査部長も同様、任務懈怠あり、とされております)監査役監査、内部監査とも、定例の監査は十分になされていたのであります。だからこそ2年前には水産飼料事業部における架空循環取引の疑いを発見したのであります。しかし問題はそこからであります。平時対応から有事対応へ切り替えることができなかった。異常な兆候を発見したのでありますが、
「もし報告して、後から間違っていたら親会社含めたいへんなことになる。もう少し架空循環取引である確証を得るまでは報告すべきではない、と思った」(監査部長)
まことにリアルであります。消費者の混乱を招かないよう、リコールの有無を慎重に判断していたら、先に事故情報が広まって、あとで「リコール隠し」と叩かれるパターンに似ているように思われます。おそらく常勤監査役の方も、この監査部長と行動を共にされておられたのですから、同様の考えであったと推測いたします。しかし監査役にとって、社内の異常な兆候を発見した時点から、有事なのであります。「おかしい」と疑惑を抱いた瞬間から、会計監査人、内部監査人、担当取締役と協議をし、また役員会で堂々と疑惑を呈示すべきでありました。(経営会議には監査役さんは出席されていなかったみたいですね。報告書を読みますと、経営会議こそ重要案件を審議する場だったようですから、取締役会はそれほど活発な議論がなされなかったのでしょうか?)業績立て直しに躍起になっておられた社長さんに、後ろ向きの話題を投げかけることに勇気が必要だったのでしょうか?しかし、事が大きくなってしまっては「任務懈怠」と評価されてしまうのでありまして、異常な兆候に遭遇した監査役さんの対応について、大きな教訓を残す事例になってしまったのではないかと思われます。
この報告書の怖さは、一見すべての役員に対して厳しい目が向けられているように思いますが、実はある役員さんには寛大な評価が下されているところであります。その役員さんは不正会計の発生した部署を担当する役員さんですので、普通に考えますと最も重い責任を課されるようにも思われます。しかし、問題発生時におけるその役員さんのメルシャンにおける業務内容を詳細に検討したうえで、たとえば「当時は○○の使命を全うすることが、この役員にとっては社内で最大の仕事であり、そこに没頭していたことは○○の証言からも明らか」「その使命が終了した後に、時期は遅れてしまったが、一応熊本まで行って地元で関係者と協議をしている」「自分ひとりでわからないことは、当該担当役員を巻き込んで、なんとか対応しようとしている」などとつぶさに検討したうえで、「やむをえなかった」と評価されております。こういったところに、この報告書のスゴミがありまして、逆に「責任が重い」とされる方々の評価の説得力を増しているように思えます。
残念なのは社外監査役さんの存在が薄いことであります。おそらく2名以上の社外監査役さんがいらっしゃると思いますが、この報告書では何も触れられておりません。常勤監査役さんが社長さんに対して、もしくは取締役会において「異常な兆候」を言い出せない理由があるのであれば、なぜ代わりに社外監査役さんが言えなかったのか?社外監査役ですから、社長さんと喧嘩して「あんた、やめなはれ」と言われてもいいわけでして、そのための社外監査役ではないのか、と素直に思います。常勤監査役さんは社外監査役の方々と、この不正会計の疑惑発見時にどのような協議をされたのか・・・、とても興味がわくところであります。
もうひとつが社外取締役さんのことです。こちらも(最近は)いらっしゃったようですが、報告書のなかでは社外取締役さんのことについては触れられておりません。担当外の役員さん方が、自分たちの担当のことで精一杯で、水産飼料事業部の過剰在庫のことについて無関心だったことが報告書で指摘されていますが、それであれば非業務執行取締役の役割はどうだったのか?そもそも社外取締役には不正疑惑追及など期待しても無駄、というのが前提なのでしょうか?再発防止策のなかにも全く社外取締役さんのことについては触れておられないので、こちらも少し違和感を持った次第であります。
まだまだ書きたいことが山ほどありますが、もうすこし精読したうえで(もっと発見できることがいっぱいありそうですので)、先日のシニアコミュニケーション同様、別の論稿で詳細に自説を述べてみたいと思っております。
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