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2010年8月30日 (月)

上場会社役員必読!メルシャン第三者委員会最終報告書

すでに新聞やニュースでも報じられておりますメルシャン株式会社(2536 東証・大証1部)の不正会計事件の最終報告でありますが、8月27日付けで報告書全文が公開されましたので、一読いたしました。8月12日に公表された社内調査報告及び第三者委員会中間報告と合わせますと、一冊の本になるほどの分量であります。メルシャンさんの株価も上がり、「親会社が体よく100%子会社にする理由になったのでは?」といった評価も多いようですし、また山口三尊さんがコメントで述べておられるとおり、事実上のキャッシュアウトではないか、といった手続きへのご批判もあるようです。ともかくこの最終報告書を第三者委員会からつきつけられた親会社および子会社の社長さんは、どう思われたでしょうか。最初から筋書きがあったのか、なかったのかは、これをお読みいただいたうえで各自判断したほうがよさそうであります。

A4で添付資料合わせ80頁にわたる最終報告書でして、関係者の方々には不謹慎だと怒られそうですが、本当に迫力があり、読み応え十分です(経済小説を読むよりも夢中になりました)。先日の社内調査報告書が「事実認定」(メルシャンに何が起こったのか)を中心としたものでありましたが、今回の第三者委員会最終報告書はメルシャンのガバナンスはこれまでどうだったのか(統制環境、全社的内部統制の把握)という点と、役員らの責任を根拠付ける事実、そして再発防止策に力点が置かれています。とくに後半のほうが読み応えがあります。「私がこの常務さんの立場だったら、たぶん同じことをしていたのかもしれない」と素直に考えてしまうほど、人間模様がリアルであります。

内部監査に携わる方、監査役の皆様には当然のことながら、このたびの最終報告書はぜひとも大きな会社の役員の皆様にお読みいただき、自社のガバナンスの状況を振り返っていただければ・・・と思います。おそらくこのような第三者委員会委員のご意見が出れば、社長さん含め役員の皆様も震え上がるのではないでしょうか。現社長、元社長はじめ「責任は相当に重いと思料する」との結論でありますが、事案の特殊性(親会社であるキリンHDからやってきた現社長に、メルシャン出身の役員や幹部社員が遠慮して何もいえなかった、ということと、キリンから来た人たちもメルシャンが名門企業ゆえに遠慮して文句をいいづらかった、ということ)ゆえの出来事だったのでは?といったあたりに「逃げ道」を探したくなるような内容であります。「遠慮して何も言えなかった」といったあたりの件は、第三者委員会委員の単なる「推測」ではなく、総勢18名の弁護士、会計士集団によるヒアリングの積み重ねが結論とされておりますので、たいへん事実分析にも説得力があります。メルシャンの元専務の方が「僕が(キリンとの提携後の)現在も専務だったら、やっぱり現専務と同様、社長の耳には(不利益な情報を)いれなかったかもしれない」との証言、リアルです。結局、現社長は言葉は悪いですが「裸の王様」だったのでしょうか?結構親会社に対しても厳しい内容になっております。

監査役の皆様は、この報告書をお読みになってどのような感想をお持ちになるでしょうか。この第三者委員会最終報告書では、会社法およびメルシャン社のガバナンス規程を根拠として、メルシャンの常勤監査役の「任務懈怠は明らか」と断言されております。(監査部長も同様、任務懈怠あり、とされております)監査役監査、内部監査とも、定例の監査は十分になされていたのであります。だからこそ2年前には水産飼料事業部における架空循環取引の疑いを発見したのであります。しかし問題はそこからであります。平時対応から有事対応へ切り替えることができなかった。異常な兆候を発見したのでありますが、

「もし報告して、後から間違っていたら親会社含めたいへんなことになる。もう少し架空循環取引である確証を得るまでは報告すべきではない、と思った」(監査部長)

まことにリアルであります。消費者の混乱を招かないよう、リコールの有無を慎重に判断していたら、先に事故情報が広まって、あとで「リコール隠し」と叩かれるパターンに似ているように思われます。おそらく常勤監査役の方も、この監査部長と行動を共にされておられたのですから、同様の考えであったと推測いたします。しかし監査役にとって、社内の異常な兆候を発見した時点から、有事なのであります。「おかしい」と疑惑を抱いた瞬間から、会計監査人、内部監査人、担当取締役と協議をし、また役員会で堂々と疑惑を呈示すべきでありました。(経営会議には監査役さんは出席されていなかったみたいですね。報告書を読みますと、経営会議こそ重要案件を審議する場だったようですから、取締役会はそれほど活発な議論がなされなかったのでしょうか?)業績立て直しに躍起になっておられた社長さんに、後ろ向きの話題を投げかけることに勇気が必要だったのでしょうか?しかし、事が大きくなってしまっては「任務懈怠」と評価されてしまうのでありまして、異常な兆候に遭遇した監査役さんの対応について、大きな教訓を残す事例になってしまったのではないかと思われます。

この報告書の怖さは、一見すべての役員に対して厳しい目が向けられているように思いますが、実はある役員さんには寛大な評価が下されているところであります。その役員さんは不正会計の発生した部署を担当する役員さんですので、普通に考えますと最も重い責任を課されるようにも思われます。しかし、問題発生時におけるその役員さんのメルシャンにおける業務内容を詳細に検討したうえで、たとえば「当時は○○の使命を全うすることが、この役員にとっては社内で最大の仕事であり、そこに没頭していたことは○○の証言からも明らか」「その使命が終了した後に、時期は遅れてしまったが、一応熊本まで行って地元で関係者と協議をしている」「自分ひとりでわからないことは、当該担当役員を巻き込んで、なんとか対応しようとしている」などとつぶさに検討したうえで、「やむをえなかった」と評価されております。こういったところに、この報告書のスゴミがありまして、逆に「責任が重い」とされる方々の評価の説得力を増しているように思えます。

残念なのは社外監査役さんの存在が薄いことであります。おそらく2名以上の社外監査役さんがいらっしゃると思いますが、この報告書では何も触れられておりません。常勤監査役さんが社長さんに対して、もしくは取締役会において「異常な兆候」を言い出せない理由があるのであれば、なぜ代わりに社外監査役さんが言えなかったのか?社外監査役ですから、社長さんと喧嘩して「あんた、やめなはれ」と言われてもいいわけでして、そのための社外監査役ではないのか、と素直に思います。常勤監査役さんは社外監査役の方々と、この不正会計の疑惑発見時にどのような協議をされたのか・・・、とても興味がわくところであります。

もうひとつが社外取締役さんのことです。こちらも(最近は)いらっしゃったようですが、報告書のなかでは社外取締役さんのことについては触れられておりません。担当外の役員さん方が、自分たちの担当のことで精一杯で、水産飼料事業部の過剰在庫のことについて無関心だったことが報告書で指摘されていますが、それであれば非業務執行取締役の役割はどうだったのか?そもそも社外取締役には不正疑惑追及など期待しても無駄、というのが前提なのでしょうか?再発防止策のなかにも全く社外取締役さんのことについては触れておられないので、こちらも少し違和感を持った次第であります。

まだまだ書きたいことが山ほどありますが、もうすこし精読したうえで(もっと発見できることがいっぱいありそうですので)、先日のシニアコミュニケーション同様、別の論稿で詳細に自説を述べてみたいと思っております。

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2010年8月28日 (土)

AJに「粉飾企業の上場阻止へ向けた特効薬はあるか?」を寄稿しました。

朝日WEB 「法と経済のジャーナル」に 粉飾企業の上場阻止へ向けた特効薬はあるか?不正経理に手を染める社長と有能な部下の心理と論理 その処方箋 を寄稿いたしました。(なお、全文をお読みいただくためにはAsahi Judicialyへの登録が必要となります)

シニアコミュニケーションや、私が関与いたしましたアイエックスアイ訴訟の経験などをもとに組織ぐるみの粉飾決算で上場前後を乗り切ろうとする企業に対して、監査や審査は本当に機能するのか、いかに効率的に排除するか、といったあたりを検討しております。かなり長いですが、また時間のあるときにでもお読みいただければ、と。 

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2010年8月26日 (木)

「内部告発・内部通報-その光と影-」出版記念講演決定

週刊経営財務8月23日号では「海外会計トピックス」においてドッド・フランク金融制度改革・消費者保護法について紹介されております。7月21日にオバマ大統領の署名により成立した法律でありますが、ここではSECに対する証券不正事件への内部告発者について、多大な報奨金が出ることが規定されております(詳細は、今後具体的な規則が制定されるまではわかりませんが、SECが執行訴訟によって回収した金額の10~30%、ということですから、報奨金は日本円にして10億~20億円になることも予想されます)。記事によりますと、不正会計事件にはSOX法よりもドッド・フランク法のほうが有効なのかもしれない、との期待もあるようでして、細かなチェックをかける現在のSOX法よりも、報奨金を伴う内部告発のほうが効果的ではないか、との見方もあるとのこと。※

※ ちなみに現在のSOX法でも806条は企業による内部告発者への制裁禁止が謳われておりまして、SOX法は決して内部告発を奨励していない法律ではございません。念のため

高額の報奨金をもって内部告発を奨励することの是非は別としまして、我が国においても行政当局による調査が内部告発や第三者の通報を端緒として開始されることが多いことはよく知られているところであります。そこに外部からでは判明しえないような正確性の高い情報や証拠価値の高い内部資料が含まれているわけですから、当局も内部告発を奨励することは当然のことと思われます。とりわけリストラによる事業再編の増加、企業結合方式の多様化(たとえばフランチャイズ制等)により、企業中枢の機密情報に比較的容易に外部第三者や企業関係者がアクセスできる経営環境が増えたことで、告発を通じて不祥事情報が簡単に明るみに出る可能性も高くなっております。公益通報者保護法の認知度が高まっていることも要因のひとつであります。これを企業のリスクとみるか、それとも最も安価な不正発見システムとみるかは企業の考え方次第であります。

おかげさまで発売以来、多くの方にお読みいただいております「内部告発・内部通報-その光と影-」でありますが、このたび出版元であります経済産業調査会さん主催で出版記念セミナーを開催させていただくことになりました(すいません、大阪での講演となります)。日時は2010年10月6日(水)午後1時半から4時半まで。参加費はかなりお安い(^^;マジですか?

経済産業調査会近畿本部セミナーのお知らせ 本日(8月25日)より申込開始(ちょっと、題名の文字の「告発」がひとつ多いような・・・・26日未明現在)

内部告発によって企業が極めて高いリスクを背負う前に、どうすれば内部通報制度によって社内調査を優先させることができるか?「不誠実な通報」に対して企業はどう立ち向かえばよいのか?消費者庁による情報集約・公表のスピードに遅れて「二次不祥事」を発生させないためには、いかに社内情報を活用するか等、これからの企業に求められる内部告発対応、内部通報制度について、まじめに考えてみよう、という趣旨の講演であります。内部通報窓口や内部告発代理人という私の本業に近いところからの経験に基づく講演でありまして、こういった業務に興味のある同業者の方々のご参加も歓迎いたします(けっしてキレイな仕事ではありませんが、きちんとした守秘義務の感覚をお持ちの若い弁護士さん歓迎です!~笑)。内部通報を受理する担当部署の方、通報に基づき社内調査を行う方、事実に基づき社内処分を行う責任者の方、そして不祥事公表に向けての経営判断をされる方々にぜひともご参加いただければ幸いです。もちろん、これから内部告発をお考えの方もぜひお越しいただければ・・・と。

PS 

最近、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)の簡素化が報じられておりますが、一年目の開示結果って、そんなに馬鹿にならないなぁ・・・と感じているのは私だけでしょうか?制度1年目の内部統制の有効性に関する評価結果を念頭に置いて、いろんな企業の開示をみていますとそろそろ登場してきております。投資家に迷惑をかけている企業さんも登場してきたり、社内にゴタゴタを抱えていることが露呈されてきた企業さんも出てきたり、なるほど・・・と頷けるような事態がポロポロ出てきていますよね。制度1年目に重要な欠陥あり、と開示した合計100社、ちゃんと記憶しておいたほうがよろしいのではないかと。「予兆を感じさせる」という意味では、けっこう前向きな制度ではないのかなぁと。簡素化については別に反対ではございませんが、この制度の良い面をもう少しきちんと検証しておいたほうがよろしいのではないかと思います(もう少し時間はかかりますが)。あと、よくわからないのですが、内部統制監査のレビューって、ダイレクトレポーティングを採用しなかったことと理屈のうえでは矛盾はしないのでしょうかね?監査との比較において四半期レビューというのはわかるのですが、内部統制監査とはどう区別されるのか、よく理解できません。

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2010年8月25日 (水)

シニアコミュニケーションの上場廃止事例こそきちんと検証すべきである

東京証券取引所のHPにて、シニアコミュニケーション(マザーズ)の上場廃止決定に関するお知らせが出ており、廃止理由についてもかなり詳細に記載されております。以前ご紹介した当社の不適切な会計処理に関する社外調査委員会報告書でありますが、予想どおり多方面で話題となりました。私は条件反射的に「秀逸」と書きましたが、ある方面では(この報告書により)かなり「困惑」されたように聞き及んでおります。

本件では監査法人から架空売上の計上ならびに不良債権の隠ぺい工作の事実を追及されないための手法が一番の話題となりましたが、なぜここまでして上場しなければならなかったのか、なぜ経営陣は粉飾を重ねていったのか、なぜ有能な社員達が経営陣の粉飾に加担するに至ったのか、なぜ主幹事証券会社に変更があったのか、監査役、監査法人はいったい何をしていたのか、そのあたりの諸事情を検証することが、新規上場を目指す企業への監査ならびに審査のあり方を考える上では有益ではないかと思われます。正直申し上げて、私の場合は「後だしジャンケン」にすぎませんが、エフ・オー・アイ社同様、当社についても平成18年の新規上場時から「ここはおかしいぞ」とはっきり「粉飾あり」と指摘しておられたブロガーもいらっしゃるくらいですから、なにゆえ売掛金残高を「異常な兆候」とみることができなかったのか、(関係者の方々を非難するのではなく)監査役監査を含めた「監査の実態」「審査の実態」から合理的に説明できるかどうか検証することが極めて重要ではないでしょうか。このあたりは残念ながら、詳細な上記調査報告書によっても十分に解明はされていないようであります。

あまりに厳しい規制を一律にかけることはせず、しかしながら投資家を欺く手法を用いて上場を図ろうとする企業をふるい分ける監査(監視)、というものは理想ではありますが相当抽象的な議論でありまして、一朝一夕には実現困難であります。ところで私が訴訟代理人を務めましたアイ・エックス・アイの事件と本件のシニアの事件とは、多くの点で酷似しておりまして、これらの事件を比較してみますと、新興企業への監査体制(従業員不正ではなく、会社ぐるみの不正への監査という意味ですが)のモデル例がみえてくるようにも思われます。このあたりを手掛かりとして、もう少し具体的な議論ができないものかと思案中であります。

この点はまた別の機会に詳細に検討してみたいです。シニアの事例は「あ~ぁ、またひとつ逝っちゃった」で済ますにはたいへん惜しい。。。

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2010年8月23日 (月)

監査役制度を支える「もうひとつの基盤」について

昨日のエントリーは未だ多くの方にお読みいただいているようでして(23日午前1時半現在、BLOGOS ランキング2位)、たいへんありがたいのでありますが、JFKさんやとーりすがりさんの冷静かつ的確なコメントもございますので、そちらも併せてお読みいただければ、と。また、TBをいただいております企業法務マンサバイバルさんのブログでも図表の入った有益なご意見を書いておられます(とくにゼンショーさんやココスさんをどうのこうの、というつもりはございませんので、あしからず)。

さて、先週は日本監査役協会主催による新任監査役さんの研修合宿(通称「長浜合宿」)に、8月17日、19日と参加してまいりました。2年連続で研修講師としてお招きいただき、2日とも懇親会にも参加させていただきました。せっかくの機会ですから、今年はこちらから名刺を持ち歩きまして、多くの監査役の方々とお話させていただき、私もたいへん勉強になりました。

当ブログでは、法制審議会会社法部会で議論されております監査役制度の「整備問題」とは別に「運用問題」についても議論すべきである、とよく申し上げておりますが、監査役の方々とお話しているうちに、監査役制度を支えるもうひとつの課題(もうひとつの基盤?)についても検討すべきではないのかなぁと考えておりました。よく申し上げる「運用問題」といいますのは、いくら監査役の権限を強化してみたところで、その権限を行使しなければ監査役監査の実効性は確保されませんよ、というお話であります。本当に監査役の皆さんが、監査役に付与された権限を行使しているのかどうか検証してみましょう、といったことにつながるわけであります。

しかし、それ以前の問題として、監査役のみなさん、私は(少なくとも)4年の任期を全うされる予定で監査役に就任されたのだと思っておりましたが、どうもそうでない方がけっこういらっしゃることを初めて知りました。(ちなみに会社法上、定款に別段の定めがなければ監査役の任期は4年となっております。)たとえば企業が特定されないよう、抽象的な表現で具体例を申し上げますと、

①親会社から2年の約束で、子会社監査役に就任した(2年間、親会社から給与が出る)

②取引先金融機関の人事政策にすでに当社監査役ポストは組み込まれている(したがって、2年程度で次の人に譲る)

③取締役と違って監査役は任期が長いので、人事政策上、他の取締役に就任した人の退任時期に合わせて辞任する

④取締役に戻る(就任する)ための待機場所である

なるほど・・・・・。つまり、4年の任期を全うすることなく、途中で「一身上の都合」により辞任することが人事慣行となっている、ということのようであります。また、中には4年の任期を全うするものの、他の同期入社との関係上、監査役は部長クラスから直接就任する(つまり4年後の退任時期を見越して、取締役予定者よりも早めに就任する)ので、とてもじゃないけど社長を監視する、といった感覚にはなれない、という方もいらっしゃいました。

企業に勤めておられる方からしますと「そんなの当たり前」と言われそうですが、私にとってはちょっと意外でありました。エラそうに「監査役の有事対応」などと解説しておりましたが、感覚に微妙なズレがあったのではないかと反省しきり。たしかに(正直なところ)好き好んで監査役に就任された方は少ないのかもしれませんが、ほとんどの方が社長さんから「監査役として、しっかり腰を据えて力を発揮していただきたい」と期待をされ、4年どころか8年程度は監査役として頑張ろう・・・という気概をもって監査役の職務をスタートされるものだと思っておりましたが、「とりあえず今度は監査役ね」といった感覚で就任される方もなかにはいらっしゃるのですね。長浜合宿にお越しになるくらいの監査役さんですから、おそらくかなり真摯な気持ちで監査役監査を全うしよう、という気持ちの方が多いことは間違いないのでありますが、そのようななかでも、「監査役就任の会社事情」のようなものが監査に微妙な影を落とすように思えてなりません。最低4年はしっかり務めよう、と思う方と、最初からどうせ2年で、と思う方とでは、監査役就任の基盤が異なるものにみえるわけでして、監査役制度の整備や運用を云々申しあげる前に、会社や企業グループにおける人事政策は、監査役制度の実効性を確保することに大きな影響を及ぼす課題であるように感じられました。(たしか日本監査役協会のアンケート結果でも、1~2年目の監査役さんと3年以上の経験者の方とでは、不祥事発見の確率に差が出てましたよね・・・)

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2010年8月22日 (日)

「代表取締役」と「社長執行役員」どっちがCEO(最高経営責任者)?

今朝の日経新聞で知ったのですが、ゼンショーさんの連結子会社であるココスジャパンさん(JASDAQ)のリリースによりますと、収益回復に向けた経営戦略の一環として、代表取締役の交代ならびに社長執行役員の新設を発表しておられます。そして代表取締役にはココスジャパンさんの取締役の方が就任され、新設された社長執行役員には親会社であるゼンショーさんの関係者の方が就任される、とのこと。つまり同じ上場会社に「代表取締役」と「社長執行役員」が別々に就任される、ということのようであります。ファミレス業界は依然厳しい経営環境にありますので(私も他人事ではございませんので)、経営戦略の転換に向けたゼンショーさんならびにココスジャパンさんの対応がたいへん気になるところであります。

最近は「社長執行役員」さんがいらっしゃる会社はとくに珍しいものではないと思われますが、ただ普通は「代表取締役兼社長執行役員」という肩書で、お一人の経営トップの方が兼務されているのがほとんどではないでしょうか。かつてライブドアの社内取締役さんがほとんど機能しえなかったときに、取締役資格を有していなかった方が「社長執行役員」として切り盛りしておられたケースはありましたが、あのときも特別な事情があったためであり、業務執行を行いうる者が併存されるケースというのは、すくなくとも上場会社ではあまり聞いたことがございません。また中古車販売のガリバーさんのように、ご兄弟で「社長ふたり体制」という企業もあるようですが、社内での役割分担はあるでしょうけれど、経営責任は連帯して負担されることは明らかでしょうから、ちょっと本件とは事情が異なるものと思います。

ちなみに前記ココスジャパンさんのリリースによると「社長執行役員は経営業務執行を権限とする」とありますが、普通に考えれば経営業務執行を取締役会から包括的に委任されるのは株主に責任を負う代表取締役ではないでしょうか。社長執行役員はあくまでも「重要な使用人」ですから、取締役会における専決事項として取締役会によって選任されるわけですよね。会社とは雇用関係にたつだけでありますので、最高経営責任者はココスジャパンさんの取締役さんではないかと素直に考えるのでありますが、どんなものでしょうか?

たとえば社長執行役員さんは、「社長」であっても株主代表訴訟の被告にはならないですし、監査役による監査の対象にもなりません。(もちろん、取締役会における業務執行決定の在り方を通じて監査する、ということは言えると思いますが、かりに会社に著しい損害が及ぶような職務執行がなされた場合には、監査役は差止請求権を行使することはできないということになります)また、たとえば利益相反取引や親会社の利益を不当に優先するような取引がなされた場合でも、取締役ではないので、善管注意義務違反という問題も直接的には生じないようにも思えます。1億円以上の報酬をもらっていても開示の対象とはなりません。ということは、あくまでも業務執行者である代表取締役の監視監督のもとにある「社長」と考えれば良いのでしょうか。ちなみに、会社法では「業務執行取締役」の制度がありますので(会社法363条1項2号)、取締役会が個別に決定した業務の執行を取締役以外の者に担当させることはできないものと思われます。

どうもリリースを読むと、社長執行役員さんの方がCEOのようなイメージを抱くのでありますが、やはり株主に対して直接責任を負う方こそ(法律家らしからぬ言い方で恐縮ですが)会社で一番偉い人のように思います。対外的な代表権だけでなく、対内的にも取締役会から包括的な委任を受けた決定権限はまず第一に(社長ではなく)代表取締役にあると思うのでありますが。いずれにしても、監査役の方々の内部統制監査にあっては、たいへんムズカシイ統治構造のように思えます。

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2010年8月19日 (木)

闘うコンプライアンス(イトーヨーカ堂とウナギ偽装事件の巻)

なにかと物議をかもしだすウナギの流通問題でありますが、今度はイトーヨーカ堂さんの現役社員、その上司であった元社員が食品衛生法違反で逮捕される、という事態になってしまったそうであります。食品衛生法および同法施行規則によりますと、指定加工食品(たとえばウナギのかば焼き)には輸入元業者の住所氏名が法定様式で記載されていなければならないところ、この輸入元業者の記載を偽ってウナギの加工品を販売した、とのこと。ウナギの偽装といえば原産地偽装あるいは消費期限の張り替えというのを連想しがちでありますが、今回は輸入業者名の偽装ということです。「食品衛生法」違反ということは食の安全に関わる問題ですので、つまり輸入業者名を変更するということは、トレーサビリティ確保の信頼性を毀損することになります。したがいまして、かなり事態は重く受け止められるわけでして、県警の生活安全課が動くことも当然かと。(先日の米の不正転売と同じく神奈川県警です)

とりあえずイトーヨーカ堂さんはHP上で、今回の社員逮捕については残念、としつつも、会社としては法令違反はなかったものと言明されております。現時点では、逮捕された社員らも容疑を否認しておられるようですし、組織上での関与ということもみられないようですので、「法令違反はないと信じております」ということも納得できそうであります。しかし、どうしても報道されたところだけでは、よくわからない点もあり、そのあたりがコンプライアンス経営を考えるにあたっても、重要な点ではないかと思われます。

1 「箱のつめかえ」作業は2006年?2009年?

食品衛生法による公訴の時効は3年ですから、2007年ころまでの事件なら関係者を逮捕できそうですが、それ以前の事件については公訴時効が成立しているところであります。「箱の詰め替え」作業というのは、イトーヨーカ堂が輸入業者と記載されている箱から、別の業者が輸入業者と記載されている箱へ移し替えることであります。この作業をイトーヨーカ堂さんの社員らが手伝ったことが、「社員による事件関与」のキモになると思っております。報道では、新聞社によって、この詰め替え作業が2006年に行われたとするもの(たとえば読売新聞夕刊記事)と、2009年に行われたとするもの(たとえば朝日新聞ニュースの記事)に分かれております。公訴時効の関係からみますと、2009年が正しいような気もいたしますが、よくわかりません。もちろん、共犯者も最終の実行行為が終了した時点から時効の起算点が開始される、ということですから元社員らが箱の詰め替えを2006年に行ったものの、最終の犯罪成立が販売時点の2009年であれば時効は成立していない、という考え方もありそうです。続報では、このあたりはきちんと報じられるものと思いますので、またチェックしておきたいと思います。

(8月19日午前:追記)今朝の新聞などを読みますと、詰め替え作業は2006年ころに行われた、しかも詰め替え作業は複数の人間によって宮城県の某冷凍工場で行われた、といった新事実も報道されております。なかには「最初から箱の詰め替えを前提に費用負担が合意されていた」といった報道も(^^;;。。。スゴイなぁ

2 第三者へのウナギ転売は「異常な取引」?

2005年ころにイトーヨーカ堂さんが中国からウナギを輸入したところ、売れ行きが芳しくなく大量に売れ残りが発生してしまったこと、この売れ残りのウナギを第三者に販売したことについては間違いない事実のようであります。とくにこれは「法令違反」でもなく、またイトーヨーカ堂さんによれば公的な機関によって食品の安全検査を受けたものだけを転売したということですから、これもとくに法令違反には該当しないものと思います。ただ、よくわからないのが、大手小売業(ここではセブン・イレブンだそうです)で販売された加工食品が売れ残った場合に、これを第三者に転売する、という取引形態は日常茶飯事なのか、それとも異常事態なのか、という点であります。とくに朝日と毎日WEBの記事では、流通業界の話や、大学教授の話として「大手業者でいったん売って、その売れ残りを転売するというのはありえない」という話が引用されております。しかし私の感覚からすれば、在庫がキレイになるし、資金回収もできるのであるから、賞味期限等に問題がないかぎりは普通に転売してもよさそうに思うのでありますが、それは「常識外れ」なのでしょうか?もしこれが異常事態だったのであれば、イトーヨーカ堂さんさんとしては、この異常事態を把握しておられたのかどうか、とくに法令違反とは言えないまでも、「輸入業者」として商品に関する責任者たる地位にあるわけですから、ましてや当時はウナギから禁止薬剤が検出される、という事態もみられた時期ですので、そのあたりをまったくフォローしていなかったということであれば、また別の意味で議論が必要なのかもしれません。

朝日新聞の取材に対して関係者が「イトーヨーカ堂の元社員は『ヨーカ堂の名前はださないでくれ』と言っていた」とのことですから、やはりヨーカ堂の名前を出したくないインセンティブが元社員にははたらいていたものと思われますし、読売新聞夕刊記事では、逮捕された転売協力業者の方が(逮捕前の読売新聞の取材に対して)「ヨーカ堂さんが仕入れた商品をよそに売らないといけない、というのはただことではない、と思った」と証言されておられるのをみますと、やはり大手小売業者が輸入した加工食品がそのまま流通することの異常性は感じられるような気がいたします。

3 賞味期限切れのウナギ販売の認識は?

かりに2009年に「箱の詰め替え」作業が行われていたとしますと、転売時期から3年も経過した後に、なにゆえ輸入業者の名前を変更しなければいけなかったのでしょうか?この時期はすでに賞味期限も切れている時期であります。もし2009年に詰め替え作業をしていたのであれば、イトーヨーカ堂の元社員らも賞味期限切れのウナギの加工品が消費者に販売されることを前提として、販売に加担していたことにはならないのでしょうか?

4 事件はなぜ発覚したのか?

朝日ニュースによりますと、昨年10月にウナギの賞味期限切れ事件が発覚し、その事件を調べているうちに、輸入業者の表示が改ざんされた事実が発覚した、とあります。また、そもそも賞味期限切れ事件が発覚したのは、業者の出したゴミ箱に2年前の賞味期限の表示が記載されていたそうであります。ということは、農水Gメンの方々は、一般的な調査方法として業者工場のゴミ箱までチェックしている、ということなんでしょうか?こういった事件の発覚は、通常内部告発によることが多いのでありますが、そうではなく調査員の一般的な調査活動のなかで発見した、ということでありますと、ゾッとするほどコワイなぁと感じるのでありますが。

PS 「闘うコンプライアンス」シリーズといえば、「ファストファッション しまむら 対 加茂市」・・・・・市による刑事告訴、どうなったんでしょうね?

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2010年8月16日 (月)

「監査役監査への期待ギャップ」に監査役はどう応えていくべきか

Asahi Judicialy(朝日「法と経済のジャーナル」)で連載されている証券取引等監視委員会委員長さんのインタビュー記事、同委員会前総務課長さんの記事は回を重ねるたびに興味深さが増しております。佐渡委員長の検察捜査や裁判員制度への思いなどは非常に面白いのでありますが、とくにお盆休みにアップされた前総務課長さんの記事 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化(前総務課長) は、上場会社の監査役の方々もドキっとするような個人的なご意見が付されております(おそらく上記記事は無償で閲覧可能なものだと思いますが)。以下、前総務課長さんのご意見の要約であります・・・

いつも不思議に思っていたのだが、不祥事を起こした企業の内部監査や監査役はいったい何をやっていたのか?外部監査(注-会計監査)が実効的に機能する前提として、企業自身の内部統制、特に内部監査と監査役監査が有効に機能していることが不可欠である。しかし粉飾企業の監査役監査が実効的に機能していた事例は記憶にない。カネボウ、ライブドア事例等、監査役の責任はどうなっているのか、といった議論が聞いたことがない。会計監査人の法的責任同様、監査役監査についても「厳格化」が進むことが期待される。

監査役監査に内部統制監査の概念が浸透するにあたって、監査役の職務としては取締役の違法行為の発見業務から違法行為の予防業務のほうへシフトしつつあるように思います。したがいまして監査役監査の実効性としては、違法行為が事前に予防されているのではないか、という意味においては機能していることは間違いないと思われます。ただ、前総務課長さんのおっしゃるように「監査役監査への期待ギャップ」は当然にあるところですし、違法行為の発見的機能という点において実効性が発揮されなければ監査役制度の運用面における有用性を十分に説明できないのも現実であります。(ちなみに、ライブドア社の監査役さん3名は、一般投資家による損害賠償請求訴訟第一審において、損害賠償責任が認められております)

「あぁ、やっぱり監査役監査というのは日本のガバナンスにおいて不可欠な制度なのだ」と、世間一般から信頼を得るためには、単に制度として整備されているだけではだめでして、企業が窮地に至っているような場面で、監査役の対応が目に見えるような形で表現されるケースは必要であります。もちろん「物言う監査役」さんの登場、ということも想定されるところでありますが、私はむしろこういった「監査役は何をしていたのか」という問いが正面から投げかけられ、これに監査役さんが(額に汗して)正面から答えるような場面が増えることが必要なのではないかと考えております。そもそも「閑散役」というイメージがあれば、誰も監査役監査に期待していないわけでして、本気で監査役監査が期待されるようになるからこそ、問題が発覚すれば、その反面において取締役と同時に監査役も法的責任を負担してもらおう、会計監査人と一緒に「見逃し責任」を負担してもらおうといった風潮になるのでは、と思われます。

そして、そういった場面に遭遇して初めて、会計監査と業務監査との区別、人への監査と書類監査の区別、期末監査と期中監査の区別そして定例監査と非定例監査の区別などが真剣に議論されることになります。また、無過失を監査役自身が立証しなければならない開示責任(金商法上の民事賠償責任)を問われるような場面に監査役さんが遭遇することで初めて、会社の経営環境に合わせて、監査役がいかに効率的に監査を行うべきか、また自身で行うにおいて限界があれば、補助使用人(監査役スタッフ)を何名必要とするか、内部監査室や取締役会とどのようにモニタリング機能を分担すべきか、といった問題を真剣に考えるようになるものと思う次第であります。

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2010年8月14日 (土)

メルシャンの架空循環取引と財務報告内部統制の重要性

メルシャン社(東証・大証1部)から不適切な会計処理に係る社内調査報告書および社外第三者委員会中間報告書がリリースされましたので、相当な分量ではありますが、昼から夕方ころまでずっと読んでおりました。「不正調査」という本業に関連することでもありますが、人間模様が描かれている報告書には素直に興味をそそられます。

まだ第三者報告書の最終版が出ておりませんし(8月下旬ころに出るそうです)、ひょっとすると当事者の方々の経営責任や法的責任が問われる場面も出てくるかもしれませんので、報告書を読み終えた段階での素朴な疑問は差し控えさせていただき、素朴な感想だけを述べたいと思います。今回は社内調査委員会報告書が読みごたえがあります。

まず印象的なのは社内調査委員会報告書の迫力であります。弁護士、会計士、デジタルフォレンジックの専門家など社外専門家を含め、総勢80名(うち、社員40名)による社内調査体制というのは、かつてない調査体制ではないでしょうか(たぶん)。しかも、この社内調査の目的は決算訂正の正確性を期すための事実確定だけであり、役員クラスの責任の有無を基礎付ける事実調査および原因究明、原因分析については追って8月下旬の社外第三者委員会報告書で明らかにする、というものであります。まさに今後予想される金融庁の課徴金処分審理にそのまま活用できそうな事実調査内容であり、日弁連第三者委員会ガイドラインの指針を意識した内容になっているように思われます。

ただ、調査手法や調査項目に関する説明が冒頭にありますが、なぜこのような手法を採用したのか、なぜこの点にスコープしたのか、ということは、事案の全体が把握できないとわかりにくいように思いました。登場人物の説明や、取引説明図、事件の概要などを先に読んだほうが報告書全体を理解しやすいです。また内部監査の責任者を調査スタッフからはずしております。なぜか?という点は、この報告書を読むと「なるほど」と納得されるところであります。

つぎに印象的な点は、やはり架空循環取引というものは、「不正のトライアングル」に支配されている、という点であります。(不正のトライアングル→不正を犯すには動機、機会、正当化根拠が揃っている必要がある)たとえば「なぜ架空取引に手を染めたのか」という「動機」という点では(一例ではありますが)キリンHD社と事業提携後、メルシャンのなかでも主力事業とはいえない水産飼料事業部の存続への不安(売上を伸ばすこと、売掛金回収で事故を起こさないことへの焦り)、「機会」としては本部から距離的に離れたところでの取引の完結、関係者に対する形がい化したローテーション、そして「正当化根拠」としては、不正な手段で一時的に取引先を支援していれば、いつかは取引先も黒字化してその利益で架空在庫も解消できるではないか(つまり、今は悪いことをしているけれども、一時的なことであって、後でみんな笑って話せるときが来る)、という甘い見通しであります。このあたりは(会社ぐるみであれ、従業員マターであれ)どの架空循環取引の事例をみても、ほぼ同じであります。

(追記)架空取引発覚前の会社四季報によると、メルシャンとしては水産飼料事業部門の赤字幅は今後改善の方向に向かう見込み、とIRされておりますし、そのために原材料等の見直しによって原価削減を急ぐ、とあります。現場では相当のプレッシャーがあったのかもしれません。

そして本事件でもっとも強く印象に残ったことは、内部統制をまじめに構築しようとしないことがオソロシイ結果を生む、ということであります。この社内調査報告書の最後にも、関係者が内部統制を無効化したことが指摘されております。しかしこれは、メルシャンがいちおう整備した内部統制が運用面において有効に機能しなかったことに関する指摘であり、その意味においては頷けるところです。しかし、水産飼料事業部が置かれていた状況は、そもそも人間関係がドロドロとしていて、水産飼料事業特有の取引慣行がいたるところで構造化していたのであります。よく内部統制の整備というと現場をギチギチの統制でしばりつける、現場での対応を硬直化してしまう、といわれるところでありますが、そうではなく、どこにでもある当たり前の状況を構築する(つまり例外を作らない)ことが内部統制の要諦と考えております。以前、当ブログにて三井物産社の九州支社で架空循環取引が発覚した事例をとりあげましたが、なぜ架空取引が発覚したかといいますと、J-SOX導入に合わせて現場特有の慣行を見直し、取引承認手続きを再構築しようとしたところ、現場の循環取引関与者から(たまらず)不正に関する自主申告がなされたからであります。ただ、この三井物産社の場合、本部から現場へ「再構築する取引手続を要求することで、取引先が去っていってもかまわないからやれ」と確固たる本部の意思が伝えられたそうであります。ここまでの意思を本件で伝えられるかどうかはわかりません。しかし本件の詳しい事件経過を読んで、内部統制とりわけ財務報告の信頼性確保のための内部統制作りに、当社がもう少しがんばって取り組んでいれば、架空循環取引に手を染めなければならなくなる発端の事件が発生しなかったように思われます。またかりに原因となる問題が生じたとしても、早期に内部監査で発見できたのではないだろうか、との印象を強く持ちました。

しかし架空循環取引事例というのは、本当にどれも共通の土壌がありますね。ソフト開発会社の在庫商品(CD-ROM)も、水産飼料事業の在庫商品(袋に入った原料)も、監査法人さんにとっては確認が至難の業です。本件のように手の込んだ棚卸資産隠しが行われたら、実在性のチェックも限界があるように感じます。「異常な兆候」が出始めたころにはもう手遅れ・・・という点も難題であります。今回の事例でも、架空取引を指示される苦悩社員がいらっしゃったようですが、そういった方が内部通報できるような体制って、なかなかムズカシイのでしょうか?(それが最も早期発見に有用だと思いますが・・・)上記報告書を読ませていただき、本当は「素朴な疑問」がたくさんございますので、そちらをたくさん書きたかったのでありますが、また別の機会に、ということで。

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2010年8月12日 (木)

「ちゃん」付けメールはレッドカードか?(イマドキのセクハラ・パワハラ判断)

(セクハラ関連の話題が続きますが・・・すいません、どうしてもこういった話題には敏感に反応してしまうのです・・・)福井大学は8月9日、50代の幹部職員が20代女性職員に対して数ヶ月間、40件ほどの私的メールを送っていたことを「非違行為」に該当するとして2カ月の停職処分としたことを発表しております。朝のワイドニュースなどでもとりあげられておりましたが、比較的詳細に報じているのが こちらの日刊スポーツニュースのようです。

各局ニュースの論調は

「『ちゃん』付けメールでセクハラに該当してしまうのか?」

「『ちゃん』付けメールで停職2カ月ってどうよ?」

といった印象を与えるものばかりであります。たしかに上記日刊スポーツの記事を読みますと、この50代男性職員は女性職員を飲食に誘うわけでもなく、性的な文言を書き連ねるわけでもなく、仕事のことをとやかく中傷するようなものでもない、ごく普通のたわいない話しか書いていないようであります。フジテレビの得ダネで解説をされていた山田秀雄弁護士の書籍「弁護士が教えるセクハラ対策ルールブック」(日本経済新聞出版社)を読みましても、「ちゃん付けで(職場で)女性を呼ぶのはグレーゾーンであり、イエローカード」と記されております。

たしかに男性上司が、誰かれかまわず職場で「○○ちゃん、そっちの仕事を先にお願いね」という感じでしたら、グレーゾーンかもしれませんが、閉鎖空間であるメールの世界で「○○ちゃん、きょう元気なかったみたいだけど、なんかあったん?」というのは、私個人の考えでは限りなくレッドカードに近いのではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。ちなみに2007年4月施行にかかる人事院規則10-10-1第2条によりますと、セクハラとは「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定義されております。たとえば職場では「山口さん」と普通に呼んでいる上司が、職場外のメールで(たとえば由加里さんだとすると)「ユカちん、何してる?」などと書いてきたときには、若い女性職員に「疑似恋愛」を想起させるものとして、やはり性的な言動に該当するものと思います。

過去に何度か申し上げたように、セクハラに該当するかどうかの基準は、セクハラが人格権侵害であるがゆえに、被害者の主観的な判断に大きく依存するところであります。つまり「通常人であればどう考えるか」ではなく、「その女性がどう感じたか」に重きを置いて判断されるわけでして、だからこそセクハラ的言動を防止する職場環境配慮はむずかしいコンプライアンス対策のひとつであります。極論すれば、たとえば「裕美」さんという20代の女性に対して同年代の男性職員が公然「ヒロミ」と呼び捨てにしてもセクハラに該当することはないでしょうが、私のような者が香水の匂いを感じとれる距離から「ロミちゃん」などと呼ぼうものなら、「きっしょー!」ということでセクハラの対象になるわけであります。この「香水の匂いを感じとれる距離からの囁き」こそ、福井大学の事件における午後8時から10時ころの「ちゃん」付けメールではないかと思いますが。

企業や自治体の職場環境配慮としましては、こういったセクハラ判断の「危うさ」ゆえに、グレーゾーンを含めて禁止することをお勧めしておりますが、懲戒処分という不利益処分を加害者に課す、ということであれば話はまったく別であります。同じ行動をとったとしても、Aという男性だから懲戒、Bという男性によるものは該当しない、ということは懲戒処分ではありえない話ですし、また被害者の主観的な判断のみで懲戒処分が決定される、ということもありえません。当然のことながら、加害者がどのような行動に出たかという客観的な事実認定に被害者の主観的要素を加味して決定する、というのが原則であります。今回の事件でむずかしいところは、おそらく男性上司がメールを送りだした最初のころは、たとえ午後10時の「ちゃん付けメール」であっても、被害者女性は返信をしていたのではないか(もちろん義理で、ということです)、と思われる点であります。この返信がなければ、加害者男性が「ちゃん付けメール」におぼれていくことはなかったように推測されます。そうなりますと、セクハラ判断だけで懲戒対象となる「非違行為」を推認するにはちょっと客観的な根拠が弱かったのかもしれません。

そこで今回のケースでは、セクハラ・パワハラの合わせ技で懲戒処分に結びつけている、という配慮がうかがわれます。つまり、「ちゃん」付けメールは女性の主観的な不快感を推認させる理由ではあるが、懲戒処分を正当化する最も大きな理由は、同様のメールを執拗に送り続けたこと、および職場における上司と部下の関係にあって、拒否できない関係にあったこと、そして「きのう返信なかったね」とリアルの世界でメールを返信することを事実上強要していたこと、あたりをパワハラとして認定したことではないかと思われます。たとえば「『ちゃん』付けメール」を男性が送ったとしても、3回から4回くらいのところで「あれ、これは迷惑だったかな」と思ってやめておけば懲戒処分にもならずに済んだはずですし、セクハラとして申告されることもなかったのでありますが、女性が義理で返信していたことをよいことに、疑似恋愛におぼれてしまった、断りきれない関係に気付かずにメールを送り続けてしまったところに問題があったように思います。

皆様、あまり笑ってはおれないですよ。メールの閉鎖性がドキドキ感を生むのかもしれませんが、この疑似恋愛型セクハラ、非常に増えております。被害者が男性、加害者が女性というパターンも増えております。セクハラ・パワハラ混在型の職場環境悪化要因のひとつであります。

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2010年8月10日 (火)

HP(ヒューレット・パッカード)CEO辞任にみる米国企業統治の本気度

新聞やニュースでは大きくとりあげられておりますが、意外とブログでは採り上げられていないのが米国HP(ヒューレット・パッカード)社CEO(最高経営責任者)のセクハラ疑惑による辞任問題であります。私は最初、日本の新聞系のニュースを読んだ限りでは、セクハラ被害者とされる元契約社員の方が内部通報を行い、通報を受理した外部窓口の法律事務所が調査を行ったものと思っておりました。しかしブルームバーグ、ウォールストリートジャーナル、CNN、ロイターあたりのニュース(日本版)をきちんと読みますと、どうもそうではないみたいです。

実際は今年6月29日に、この元契約社員の女性が「セクハラ被害」に関する手紙をHP社の取締役会に提出し、問題を知った取締役会が、HP社の法律顧問に調査を依頼。外部の調査委員会が立ち上げられたそうで、その調査に基づく結論としては(これは当法律顧問の方の会見記事からですが)、申告のあったセクハラの事実は認められなかった、しかしCEOは約2年にわたって、この元契約社員と親密な関係を続けていた、今回の調査において、この親密な関係の内容についてCEOは証言を拒否し、また取締役会にも報告をしなかった、CEOは(日本円にして)約170万円の経費について、女性との関係を隠匿するために虚偽の経費請求を行った、HP社としては、不正請求した金額の大きさを問題としているのではなく、HP社CEOとしての清廉性、誠実性、信頼性に問題であると考え、取締役会としては全員一致でCEOの辞任勧告を決定した、とのことであります。

その後、取締役会とCEOは何度も協議を重ね、結局CEOは退職金10億円とHP社の相当額の株式をもらってHP社のCEOを辞任することが決まったとのこと。調査結果については、ご承知のとおりセクハラの事実は認められなかったものの、CEOには元契約社員との関係に絡む経費の不正請求が認められ、これはHP社のビジネス行動規範に違反するものだ、との公式な発表がなされております。なお、8月9日、この元契約社員の方が弁護士を通じて会見を開き「私は彼(CEO)を辞任に追い込むつもりなど、まったくなかった。とても残念。私と彼との間では、すでに問題は解決済み」とのコメントを述べておられます(この元契約社員の方も、けっこう著名な方だったんですね)。昨日のニュースを読んだとき、元契約社員の方は、今後HP社を相手に莫大な金額の損害賠償請求訴訟を提起するのではないか、と予想しておりましたが、この会見内容からしますと、HP社が訴訟に巻き込まれるリスクはほとんどないようです。

私はこの一連のニュースを読んで、やはり企業統治(コーポレート・ガバナンス)の本場アメリカは違うなぁと素直に実感をいたしました。(注)経営トップのセクハラ疑惑について、被害者本人からの書簡が取締役会に届き、直ちに社外に法律家を中心とした調査委員会を設置して調査を開始する、たとえセクハラの事実が認定できなくても、ビジネス行動規範違反の事実をつきとめて、たとえ社運を背負った有能なCEOに対してですら、辞任勧告を全員一致で決定してしまうということで、まず取締役会のCEOに対する姿勢に驚きます。独立社外取締役の使命は、経営に対するアドバイザーではなく、有事にクビにすることである・・・ということが、日本でも最近やっと真剣に言われるようになってきましたが、こういったことが米国ではあたりまえのように行われるということを見せつけるような事態であります。

注・・・なお、hp社は以前から取締役会がゴタゴタするので有名であるため、この事件をもって「米国の取締役会は」と一般化できるか疑問、との意見もあります。

また、もうひとつ驚いたのが、HP社の社風を守るためには、たとえ有能な経営者であろうとも、その解任はやむをえないということが取締役会の「あたりまえの常識」だということであります。元契約社員の方の記者会見の発言から、噂レベルではありますが「この取締役会の判断は断固たるものだったのか、それとも早計に過ぎた失策だったのか」議論になっているそうでありますが、これだけ有事の判断に「社風」が尊重される・・・ということは日本ではあまり考えられないところではないでしょうか。もちろん教科書的には、企業風土は守られるべきだと言えそうですが、これを地で行くのは本場アメリカの企業だからこそ、と思うのでありますが。

さて、もし日本の会社で同じようなことが発生した場合はどうでしょうか。たとえば経営トップが女性秘書と親密な関係となり、その後不仲となって、この経営トップが未練たらしく追いかけまわし、最後にセクハラ騒動となる。そして秘書からは監査役のところへ内部通報が届くようなケースであります。監査役はこれを真正面から受け止めて、有能な経営トップを糾弾することができるでしょうか(日本の場合、取締役会構成員の過半数が独立社外取締役・・・というところはほとんどありませんので、いちおう監査役さんの有事として考えます)。ここで監査役さんが動かなければ、女性秘書の方はマスコミなど社外に対して内部告発を行う可能性や、会社に対してセクハラ損害賠償請求訴訟を提起する可能性がありますので、いちおう調査を開始することはあるでしょうけれど、社長の辞任勧告・・・というところまではいかないのではないでしょうか。それは、そもそも監査役と経営トップとの関係が、米国の独立社外取締役とCEOのような関係にはないことと、やはりそこまでして「社風」を維持しようとする役員が日本にはあまりいないのではないか、と思えるからであります(もちろん、そういった社風を一番に考える企業もあろうかとは思いますが、それでもそういった企業はごく一部だと思います)。あっそうそう、当ブログを長年ご覧の方はご記憶されていらっしゃるかもしれませんが、2006年に東証一部のT誘電さんの経営トップが「温泉コンパニオン宴会」の費用100万円(ただし、8回の合計額)を社外監査役2名から役員会で追及され、辞任されたことはありましたので、まったく皆無とは申しませんが・・・・・・。

経営トップを交代させる社外取締役の力、経営トップでさえ辞任に追い込むほどの社風の力・・・、本場アメリカのコーポレート・ガバナンスの「本気度」をまざまざと見せつけられるような事件であります。本当に続報が気になるところであります。

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2010年8月 6日 (金)

パロマ工業事件・刑事判決の分析を「法と経済のジャーナル」(AJ)に寄稿しました。

朝日新聞WEBマガジンの「法と経済のジャーナル」(Asahi Judicialy)に、「パロマ元社長有罪判決の衝撃」を寄稿いたしました。AJは8月1日より有料WEBマガジンとなりましたが(月額1050円)、私の寄稿文は無料でお読みいただくことができます。(ただし、私が判例分析の参考とさせていただいた「判決要旨」は一部会員限定だそうです。この判決要旨はかなり詳細なものですので、法律家の方々のご興味にも耐えうるものではないかと思います。)

不定期ですが、AJのほうでもブログ同様、関心のあるテーマで書かせていただく予定ですので、そちらもご覧いただければ幸いです。

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企業法務-夏のオススメ新刊書3冊ご紹介

Kabukahyouka 暑中お見舞い申し上げます。最近は東京と大阪を行ったり来たりの日々ですが、今年は東京も異様に暑いように感じます。どうかお体をご自愛くださいませ。m(__)m

さて、サイドバーにも掲示しております私の新刊書でありますが本日(8月5日)の日経朝刊1面下で広告が掲載されました。(これをみて多くの書店から発注があれば良いのですが。。。)先週少しだけ本屋巡りをしておりましたところ、ほぼ同時期に平積みになっておりました新刊書2冊を発見いたしましたので、ご紹介いたします。どちらも「おお!」と思わず唸って衝動買いしてしまったものであります。ちょっと悔しいですが、おもしろいです(笑)

ジュンク堂天満橋店では「会社法」関連の棚で、私の本の隣に平積みされていたのが「企業法務からみた株式評価とM&A手続~株式買取請求を中心に~」(田辺総合法律事務所 大和証券企業提携部 編著 清文社 2,600円税別) 先日のエントリーで、ターナーさんとKazuさんの議論についていけなかったので、思わず衝動買い(笑)

皆様ご承知のとおり、いま会社法・金商法関連の話題でもっともホットなのが株式買取請求事件、価格決定申立事件ネタであります。最新の旬刊商事法務(7月25日号)の「平成21年度会社法関係重要判例の分析(上)」をご覧いただいても、そのほとんどが買取価格の「公正な価格」とはなんぞや?が争われたものばかりであります。商事法務さんのほうにも、企業法務の専門家の方々が、多くの判例解説等を出稿されておられますが、専門家向けであって、少々内容がハイレベルです。

ところで、本書は企業法務に携わるビジネスマンや少数株主となりうる個人投資家にも配慮されておりまして、ご専門家の方以外でも読みやすい内容に仕上がっております。おそらくこの本を執筆された弁護士の方々が、実際の価格決定申立事件の代理人として携わっておられるからではないかと思います。そういった立場の方々なので、豊富な判例紹介・判例解説もなされております。どうも公正な価格の決定にあたって、「適正手続とは何ぞや」のほうばかりに目が向きがちになりますが、株価算定とデューデリに関する解説もかなり詳細でありまして、企業価値判断にも目が向けられております。いままで株式買取請求権を中心として事業再編手続が解説されたものは見当たりませんので、平成17年改正会社法制定後の株式関係の重要論点を概観するには貴重な一冊ではないかと思います。私がぜひこの本を読んでいただきたいのは、これから事業再編をお考えの上場会社の取締役ならびに監査役の方々であります。事業再編の巧拙はやはりきっちりと時間をかけて取り組む姿勢によって決まるのでは・・・・ということが理解できます。いわば「M&Aのコンプライアンス」の重要性が認識できるのでは・・・と。

ただ、心配な点をひとつ申し上げるなら、ホットな判例理論やTOB手続を扱っておられる本ですので、実務の流れが早く、現在は最先端の情報が詰まっているのですが、時の経過とともに扱っている情報が古くなってしまうのではないか、ということであります。(ただし売れ筋の定番本となりますと、第2版、第3版と、ぎゃくに儲けの出る本になるかもしれませんが・・・(^^; )

Soredemokigyou そしてもう一冊は、ジュンク堂千日前店で私の本の横に平積みされておりました「それでも企業不祥事が起こる理由」(國廣正著 日本経済新聞出版社 1,600円税別)

こちらは「コンプライアンス関連」の棚でして、会社法とはずいぶんと離れたところで陳列されていました。国広先生の本は、私の本の執筆にも参考にさせていただいておりますし、すべて読んでおりますので、もちろん購入。

法令違反とコンプライアンスとの違いを感じさせる例はいろいろとございますが、事件の渦中でこれを知る機会というものはなかなかございません。「それでも不祥事が起こる」のは、「法令違反とコンプライアンス」の違いを理屈では理解していても、不祥事の原因究明や事実解明、再発防止策検討にあたって、本当につきつめて(自らの頭で考えて)いないからであろうと思われます。つきつめて考えますと、本当に再発を防止するためには、いままで誰も触れたがらないような「組織のタブー」に触れなければならないこともあるかもしれません。そういったことをしみじみと考えらせられる一冊であります。

この本のなかで国広先生は、消費者目線によるコンプライアンスの重要性を改めて力説しておられ、さすが日本を代表するコンプライアンスのご専門家、ご自身の経験された事件などをもとに、具体例を通じてわかりやすく解説しておられます。(コンプライアンス関連判例として話題の「パロマ工業元社長刑事判決」についても鋭い視点で解説されておられます。)そして最も私の興味がそそられましたのが、国広先生の第三者委員会に関する考え方が最終章においてかなり詳細に表現されているところであります。先日日弁連から公表されました「第三者委員会ガイドライン」は、国広先生が中心になってとりまとめられたものでありまして、本日(8月5日)の朝日AJにおける証券取引等監視委員会の佐渡委員長インタビューでも、この日弁連ガイドラインが高く評価されているところであります。全体として、今回の本は国広先生の個人的な見解がかなり前面に出た一冊に仕上がっており、弁護士だけでなく、コンプライアンス関連のお仕事をされている専門家の方にもおススメの一冊であります。

おススメの3冊目はといいますと・・・・・ はい、サイドバーでご紹介している拙著(笑)。こちらもどうかよろしくお願いいたします。。。

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2010年8月 4日 (水)

いよいよ法制審会社法改正論議にIFRS登場か?

8月3日の日経ニュースで、同日開催されました企業会計審議会総会に関する記事が出ておりましたが、単体財務諸表へのIFRS導入についてダイナミック・アプローチを採用、企業のIFRS任意適用を認める方針となったようであります。ただし単体のIFRS移行時期や方法につきましては、ASBJの判断にゆだねる、とのこと。

単体財務諸表にIFRSが適用される、ということは、つまり会社法の計算規則の改正問題、とりわけ分配可能額規制の基準としてIFRSを適用するのかどうか、仮に適用するとして、これまでの計算規則をどのように検討しなおすのか、という点は喫緊の課題になってくるものと予想されます。(たとえば「のれん」の償却規定と公正価値評価概念の導入など)いよいよ法制審議会会社法部会でも、この国際財務報告基準への対応問題が本格的に議論されるようになるのでしょうね。これは本当に楽しみです。

ところで、少し気になりますのが「週刊経営財務」最新号のIFRS対応会議主催「日印フォーラム2010」に関する記事や、JICPA研究大会に関する記事。いずれのフォーラムでもIFRSの原則主義が「実務上避けられない問題」として議論の対象となっているようであります。原則主義が招く混乱を不安視するのは日本もインドも同様のようでして、なんと(来年4月からIFRSを導入する)インドでは堂々と解釈ガイダンスを作成する、とのこと!

ええ!?IFRSって、勝手に(各国で)解釈指針を作ったらアカンのとちゃうの!?

インド企業省の方曰く「原則主義のもとでは、解釈に大きな差が生じてしまうため、それぞれの国で解釈を出していくことが必要です」

ホンマに!?( ̄△ ̄;)

日本のIFRS対応会議のS氏曰く「産業界で解釈のばらつきがでてくると、比較可能性の観点から問題」「うまく収斂するような解釈(アドバイス)を作れないか、今後議論を深めていく」「インド側とも相談しながらベストソリューションを見出したい」

ええ!?日本もですか!?!( ̄∇ ̄ ;)

連結先行(ダイナミック・アプローチ)の方針が定まったということは、今後は会社法とIFRSとの関係についても議論が深まることになりそうですが、避けて通れない問題、つまりIFRSも会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と認められるか、という点については、ほぼ方向性は固まってきたのかなあ・・・と考えております。しかしIFRSの解釈指針(ガイダンス)のようなものが登場した場合には、そっちのほうが会社法上の「会計慣行」として評価の対象となるでしょうから、その上位概念たるIFRS自体は会計慣行とはいえなくなってしまうのではないでしょうか?解釈指針に従うのも会計慣行、別の解釈に従うのも(IFRSの原則に反していなければ)会計慣行、ということになってしまわないのでしょうか?これは中小企業会計指針を策定して、どっちに従ってもオッケーという場合の「会計慣行には幅がある」とする理屈とはまた別の問題かと思われます。

企業実務家の方々の要請とはいえ、IFRSの解釈指針(ガイドライン)を設置することと、IFRSのアドプションとの関係はどのように考えるべきなのか、また頭が混乱してきそうな雰囲気であります。

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2010年8月 3日 (火)

NHKドラマ「鉄の骨」最終回まで全部みました。

日本振興銀行の債権二重譲渡判決(不当利得返還請求事件)のほぼ全文が朝日新聞AJに掲載されておりましたので、この判決への感想を書くつもりでしたが、ちょっとショッキングな事件が報道されておりますので、また日を改めて書かせていただきます。ということで、ドラマ「監査法人」以来、ひさしぶりに「鉄の骨」を最後まで視聴いたしましたので、その感想など。

第1回の感想しかブログでは書いておりませんでしたが、実は最終回(第5回)まで全部みておりました。-NHKドラマ「鉄の骨」-私は素直におもしろかったです。談合や入札の実態、政官民の癒着構造などを垣間見たような気がしました。以下はアラ探しのような意見ですが・・・

談合事件の弁護人経験者からしますと、あの東京地検特捜検事はありえません(笑)たぶん現役の検事さんがご覧になっていたらビックリかも・・・(^^; 被疑者の任意調べが、あのようにラフなものだとすれば、おそらく被疑者はみんな自ら命を絶つか、無罪になるかのどちらかだと思います。

ドラマなので細かいことは申しませんが、主人公の立場も身柄拘束の可能性は十分にあったのでは?(逮捕・勾留→不起訴のパターン)といいますか、事件関係者が逮捕されている上司に面会しているシーンはかなり違和感がありました。(普通、弁護人以外は面会禁止では?)

「談合は悪!」ということを印象付けるものではありましたが、今度は大手が下に調整をやらせているのでは、とか、ガチンコ(価格勝負)によって今度は下請けが手抜き工事をやっていて、そのツケは国民に回ってきている、とか、入札にあたって「価格だけでなく企業実績も考慮する」ということが、新たな行政の恣意性を生むことになっている実態・・・というあたりまでは光があたらなかったようです。

しかし一番ドラマをみていて悲しかったのは、一回も監査役が登場しなかったこと(笑)「いやあ~、最近は公取も厳しくて・・」というセリフは登場しましたが、「いやぁ~、最近は監査役が営業部門にうるさくてなぁ・・・」といったセリフが一回くらいは社長から飛び出すかと期待していたのですが、まったくなし(笑)しょせんコンプライアンスとは(世間的には)この程度のものなのでしょうか?(泣)

あと、ベタな感想ですが・・・・・

「松田美由紀さん、あいかわらずイロっぽいなぁ・・・・・」

「烏丸せつこさん、もう少し見たかったなあ・・・・昔好きだったんで・・・」

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2010年8月 2日 (月)

「財務会計士」なる会計プロフェッショナルへの素朴な疑問

先週、公認会計士制度に関する懇談会(中間報告書案)が金融庁HPで公開されましたので、内容を拝見いたしました。(公認会計士制度に関する懇談会中間報告書案)会計士の方々のブログや「週刊経営財務」の紙上解説などで、懇談会の議論経過については知っておりましたが、会計士試験制度の改正案について、詳しく知ったのは今回が初めてであります。

当懇談会は、本来は「待機合格者」問題を扱うことを目的としているものでありますが、目を引くのは(マスコミでもとりあげられておりますとおり)新たな国家資格「財務会計士(仮称)」の新設であります。公認会計士のような「監査証明業務」はできないけれども、法に基づく「会計プロフェッショナル」として、非監査サービス業務(企業内会計業務、監査補助業務等)は可能であり、「財務会計士(仮称)」なる名称は独占使用できる、というものです。原則としてこの「財務会計士(仮称)」なる資格で実務経験を積み、さらに公認会計士を目指す人もいれば、この資格をもって企業において非監査業務に従事し続ける、という人も出てくることが想定されております。外国でも「法廷に立てる資格のある弁護士」と「法廷には立てないが、法律事務を扱える弁護士」の区分がありますが、同様にどちらも「公認会計士」なる名称を付すことも可能だけれども、「監査証明業務」に関する信頼保護の見地から別名称の会計士資格を設置する、というイメージのようであります。

私は会計専門家でもございませんので、本当に素人的な素朴な疑問しか湧いてこないのでありますが、この「財務会計士」なる資格取得は、いったい何を目的としているのでしょうか?公認会計士の資格取得を目指す方が、試験制度の改訂(たとえば科目合格の有効期間を延ばす)に伴って、働きながら(「待機合格者」問題のネックとなっている実務経験を積みながら?)資格取得を目指しやすいようにするための対処方ということであれば理解できそうであります。しかし、最終目的が「財務会計士」資格の取得、という方々にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか?この資格取得者のメリットがはっきりしなければ、「待機合格者問題」と並んで大きな目的として掲げられている「グローバル化等の環境変化に対応した監査・会計分野の人材育成の必要性」を満たす施策にはなりえないのではないかと。

そもそも監査証明業務という独占業務があるからこそ、公認会計士には世間から高い信用が付与され、また高度の倫理観が要求されるわけでありますが、そのような独占業務をもたない「会計プロフェッショナル」にはどれほどの魅力があるのでしょうか?たしかに「財務会計士」という名称を独占して会計業務ができる、ということはありますが、それが資格者本人や雇用する企業にとってどれほどの有用性があるのかよく理解できません。企業がそのようなスキルを求めるのであれば、そもそも「財務会計士試験合格者」をそのまま採用すればよいだけの話であり、わざわざ公認会計士協会や金融庁の監督下(登録下)にある資格保有者を採用する必要はないはずであります。(これは現在、弁護士の世界でも同様の問題が起こっています。企業は弁護士登録をしない、つまり「企業内弁護士」ではなく「司法試験二次試験合格者」を採用する著名企業が実際に出てきております。)CPE(継続研修義務)なども、とくに資格保有者でなくても、この情報化社会においてはどこでも同様の勉強はできるわけでして、あまり資格保有の意味はないと思われます。

こういった新たな会計専門職の登場により、合格者の経済界等への就職を促進することが期待されているようでありますが、本当にそうなるのでしょうか?企業が求める会計プロフェッショナルの人材は、公認会計士試験に合格するための「腰かけ」で勤務する人ではなく、その会社に腰をすえて会計業務に従事するプロフェッショナルだと思われますが、はたして「財務会計士」として長年企業に勤務しようと考える方がどれほど増えるのか、私はちょっと懐疑的であります。念のため申し上げておきますが、私はけっして懇談会の議論を批判しているものではございません。実は私自身、こういった新たな会計専門職の資格に魅力を感じ、できれば(「実務経験」の内容にもよりますが)チャレンジしてみたいという気持ちを持っているために、この「監査証明業務ができない会計プロフェッショナル」の資格を保持することのメリットについてあらかじめ十分に認識しておきたいと真摯に考えているからこその「素朴な疑問」でございます。単に就職に有利な資格であれば民間実務検定でも十分に足りるのでありますし、「財務会計士試験合格者」で企業に能力をアピールできるのであれば、わざわざ金融庁や会計士協会から監督される立場にはなりたくないなぁ・・・と思うところであります。そもそも企業側だって、社員として会計スキルを発揮してくれる人こそ採用したいのであり、高度な倫理規範に則って、社内で第三者的に振る舞う人を採用したくないことは、すでに「企業内弁護士問題」でも明らかなわけでありまして。。。

独占業務をもたない会計プロフェッショナルの資格者が、そのメリットを享受できるようにするためには、たとえば会計士協会や金融庁が、どんどん資格停止の措置をとるとか、CPEをむずかしくして年に何割かは継続保有ができなくなる、など、保有していることの社会的信用性を高めるような努力を当局側が行わなければ困難なのではないか、と思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

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