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2010年8月16日 (月)

「監査役監査への期待ギャップ」に監査役はどう応えていくべきか

Asahi Judicialy(朝日「法と経済のジャーナル」)で連載されている証券取引等監視委員会委員長さんのインタビュー記事、同委員会前総務課長さんの記事は回を重ねるたびに興味深さが増しております。佐渡委員長の検察捜査や裁判員制度への思いなどは非常に面白いのでありますが、とくにお盆休みにアップされた前総務課長さんの記事 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化(前総務課長) は、上場会社の監査役の方々もドキっとするような個人的なご意見が付されております(おそらく上記記事は無償で閲覧可能なものだと思いますが)。以下、前総務課長さんのご意見の要約であります・・・

いつも不思議に思っていたのだが、不祥事を起こした企業の内部監査や監査役はいったい何をやっていたのか?外部監査(注-会計監査)が実効的に機能する前提として、企業自身の内部統制、特に内部監査と監査役監査が有効に機能していることが不可欠である。しかし粉飾企業の監査役監査が実効的に機能していた事例は記憶にない。カネボウ、ライブドア事例等、監査役の責任はどうなっているのか、といった議論が聞いたことがない。会計監査人の法的責任同様、監査役監査についても「厳格化」が進むことが期待される。

監査役監査に内部統制監査の概念が浸透するにあたって、監査役の職務としては取締役の違法行為の発見業務から違法行為の予防業務のほうへシフトしつつあるように思います。したがいまして監査役監査の実効性としては、違法行為が事前に予防されているのではないか、という意味においては機能していることは間違いないと思われます。ただ、前総務課長さんのおっしゃるように「監査役監査への期待ギャップ」は当然にあるところですし、違法行為の発見的機能という点において実効性が発揮されなければ監査役制度の運用面における有用性を十分に説明できないのも現実であります。(ちなみに、ライブドア社の監査役さん3名は、一般投資家による損害賠償請求訴訟第一審において、損害賠償責任が認められております)

「あぁ、やっぱり監査役監査というのは日本のガバナンスにおいて不可欠な制度なのだ」と、世間一般から信頼を得るためには、単に制度として整備されているだけではだめでして、企業が窮地に至っているような場面で、監査役の対応が目に見えるような形で表現されるケースは必要であります。もちろん「物言う監査役」さんの登場、ということも想定されるところでありますが、私はむしろこういった「監査役は何をしていたのか」という問いが正面から投げかけられ、これに監査役さんが(額に汗して)正面から答えるような場面が増えることが必要なのではないかと考えております。そもそも「閑散役」というイメージがあれば、誰も監査役監査に期待していないわけでして、本気で監査役監査が期待されるようになるからこそ、問題が発覚すれば、その反面において取締役と同時に監査役も法的責任を負担してもらおう、会計監査人と一緒に「見逃し責任」を負担してもらおうといった風潮になるのでは、と思われます。

そして、そういった場面に遭遇して初めて、会計監査と業務監査との区別、人への監査と書類監査の区別、期末監査と期中監査の区別そして定例監査と非定例監査の区別などが真剣に議論されることになります。また、無過失を監査役自身が立証しなければならない開示責任(金商法上の民事賠償責任)を問われるような場面に監査役さんが遭遇することで初めて、会社の経営環境に合わせて、監査役がいかに効率的に監査を行うべきか、また自身で行うにおいて限界があれば、補助使用人(監査役スタッフ)を何名必要とするか、内部監査室や取締役会とどのようにモニタリング機能を分担すべきか、といった問題を真剣に考えるようになるものと思う次第であります。

8月 16, 2010 監査役の理想と現実 |

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コメント

会計士が短(監査)期間で見抜けるほど甘いものではありません。言い換えると、と言いますか現場からすると、会計士に指摘を受けないように幾重にも予防線(?)を張るものです。一般的に言えば、短い監査期間で良く監査報告書を仕上げていると思いますが、如何でしょう?会計士の能力を云々する前に実態を調べて改善するポイントに集中するのが得策だと思います。
監査役についてですが、ここ数年監査役の責任が随分と重くなりました。法的に整備されると後は運用となりますから、監査役の業務や担当する人の質も含めて裁判例を積み上げることが寛容かと思います。(ここでtoshi先生の出番になる?)株主総会で監査役が適任かどうかをしっかり議論するなどの実務面での積み上げも大事かと思います。

投稿: ohigo | 2010年8月17日 (火) 05時34分

金融商事判例の巻頭言で中東教授が監査役制度の今後について書かれています。監査役が取締役の解任の訴えを提起できるようにする方法も考えられる、とされていますが、いかがでしょうか。

投稿: unknown1 | 2010年8月17日 (火) 09時29分

山口先生
いつも楽しく拝見しています。
今回の件、果たして本当にそうなのか、素朴な疑問があります。

>監査役の職務としては取締役の違法行為の発見業務から違法行為の予防業務のほうへシフトしつつあるように思います

どうも監査役に違法行為の予防や発見を期待するかのごとき表現がありますが、違法行為の発見といっても、通常の監査の中での発見とその適切な対処ではないかと思います。合理的に期待できる範囲を超えて、あたかも監査役がスーパーマンであるかのごとき議論が横行すれば、怖くて監査役などできません。

むしろ知っていた、またはうすうす気づいていたのに適切な対応(何が適切かは別途議論が必要ですが)をせずに放置したという場合に、責任を問われるのではないかと思います。発見しなかったから責任を問われる、ということではないはずですが、いかがでしょうか。

ましてや、予防、とはどういうことをさすのでしょうか。本来、違法行為を防止する体勢整備は、取締役会で定める基本方針のもとで、経営執行部の責任であるはずです。その体勢整備が十分であるか、不備がないか、をチェックすることが監査役の職務ではないでしょうか。

先生の説明の意図を誤解しているといけないですが、上記疑問がありますので、ご趣旨を明らかにしていただければ幸いです。よろしくお願いします。

投稿: 龍のお年ご | 2010年8月17日 (火) 19時15分

龍のお年ごさん、こんばんは。

まず後半の点ですが、監査役の予防的・・・というのは、まさにご指摘のとおりです。私は取締役の内部統制構築義務の履行状況を監視・検証するなかで監査役の機能が発揮されるべきものと考えております。おそらくここ10年の監査役協会での内部統制監査(監査役の、という意味ですが)の流れは、このあたりのチェックをいかに効果的・効率的に行うか、ということに注力されてきたものと認識しています。財務報告内部統制に関する監査役監査の在り方も、よく誤解されるところですが、監査役の視点で会計監査人とは別の視点で判断されるわけですね。

いっぽう発見しなかったから責任を問われる・・というのは、実際に監査役責任訴訟の代理人を経験したことから言いますと、結果的には監査役は責任を問われる可能性があるのでは・・・と考えています。裁判官も、たとえば「8割が粉飾」という結果からみて、過失を基礎付ける事実の主張立証責任を考えたりするわけでして、少し気を抜くと「後だしジャンケン」のように結果から責任を問われかねないように思います。理屈のうえでは龍のお年ごさんの言われるとおりかもしれませんが、そもそも監査役の職務の実際(監査役の仕事の内容)は、各会社によって大きく異なるのではないでしょうか。だから、どのあたりが監査役としての「適切な職務」といえるのかは、個々の事案によってかなり規範的に検討されることになると思いますし、そのあたりも監査役の責任が認められやすくなる要因になってくるのではないかと思います。前任者がこうやっていたから、それを踏襲すれば免責される、とはいいにくい面があろうかと思います。

投稿: toshi | 2010年8月19日 (木) 02時08分

山口先生
ありがとうございます。
これまで監査役の責任という問題が問われることが非常に少なかったことは確かであり、最近の責任の厳格化の流れの中、油断大敵ということだと思いますが、やはり結果責任となることは、おかしいと思います。これまでの監査にもし「ゆるい」部分があれば、問題でしょうが、基本としては職務を誠実に遂行している場合にも、いわば無過失責任を後だし的に問われるのでは、取締役同様、監査役は怖くてできない、となりかねません。過失があって発見できなかった、という場合の「過失」の具体的な定式化などをもう少しきちんと議論してもいいように思われますね。勿論、先例踏襲だけでよし、としていれば疑問がなげかけられることはあるでしょうが、発見できなかった場合の「過失」、うすうす気が付いていたのにそれ以上特に何もしなかったのか、うすうすであっても気がつく端緒もなかったのか、そこに義務があることが前提ですよね。裁判の経験で先生がおっしゃっているのはわかりますが、自ら新任監査役をしている法律家として、もう少し具体的に議論を詰めておく必要があると思っています。
今後もいろいろと勉強させていただきたく、引き続き監査ネタ、監査役ネタを楽しみにしています。

投稿: 龍のお年ご | 2010年8月19日 (木) 11時04分

ご意見ありがとうございます。はっきりと「粉飾見逃し」の結果から責任を問われるのはおかしい、と明言していただける方が少ないので、私も最近少し弱気になっておりました(笑)

監査役訴訟が増えていることは現実ですので、また実務面から議論が進むことを期待したいと思います。こちらこそ、今後とも有益なご意見よろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2010年8月19日 (木) 11時21分

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