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2010年8月26日 (木)

「内部告発・内部通報-その光と影-」出版記念講演決定

週刊経営財務8月23日号では「海外会計トピックス」においてドッド・フランク金融制度改革・消費者保護法について紹介されております。7月21日にオバマ大統領の署名により成立した法律でありますが、ここではSECに対する証券不正事件への内部告発者について、多大な報奨金が出ることが規定されております(詳細は、今後具体的な規則が制定されるまではわかりませんが、SECが執行訴訟によって回収した金額の10~30%、ということですから、報奨金は日本円にして10億~20億円になることも予想されます)。記事によりますと、不正会計事件にはSOX法よりもドッド・フランク法のほうが有効なのかもしれない、との期待もあるようでして、細かなチェックをかける現在のSOX法よりも、報奨金を伴う内部告発のほうが効果的ではないか、との見方もあるとのこと。※

※ ちなみに現在のSOX法でも806条は企業による内部告発者への制裁禁止が謳われておりまして、SOX法は決して内部告発を奨励していない法律ではございません。念のため

高額の報奨金をもって内部告発を奨励することの是非は別としまして、我が国においても行政当局による調査が内部告発や第三者の通報を端緒として開始されることが多いことはよく知られているところであります。そこに外部からでは判明しえないような正確性の高い情報や証拠価値の高い内部資料が含まれているわけですから、当局も内部告発を奨励することは当然のことと思われます。とりわけリストラによる事業再編の増加、企業結合方式の多様化(たとえばフランチャイズ制等)により、企業中枢の機密情報に比較的容易に外部第三者や企業関係者がアクセスできる経営環境が増えたことで、告発を通じて不祥事情報が簡単に明るみに出る可能性も高くなっております。公益通報者保護法の認知度が高まっていることも要因のひとつであります。これを企業のリスクとみるか、それとも最も安価な不正発見システムとみるかは企業の考え方次第であります。

おかげさまで発売以来、多くの方にお読みいただいております「内部告発・内部通報-その光と影-」でありますが、このたび出版元であります経済産業調査会さん主催で出版記念セミナーを開催させていただくことになりました(すいません、大阪での講演となります)。日時は2010年10月6日(水)午後1時半から4時半まで。参加費はかなりお安い(^^;マジですか?

経済産業調査会近畿本部セミナーのお知らせ 本日(8月25日)より申込開始(ちょっと、題名の文字の「告発」がひとつ多いような・・・・26日未明現在)

内部告発によって企業が極めて高いリスクを背負う前に、どうすれば内部通報制度によって社内調査を優先させることができるか?「不誠実な通報」に対して企業はどう立ち向かえばよいのか?消費者庁による情報集約・公表のスピードに遅れて「二次不祥事」を発生させないためには、いかに社内情報を活用するか等、これからの企業に求められる内部告発対応、内部通報制度について、まじめに考えてみよう、という趣旨の講演であります。内部通報窓口や内部告発代理人という私の本業に近いところからの経験に基づく講演でありまして、こういった業務に興味のある同業者の方々のご参加も歓迎いたします(けっしてキレイな仕事ではありませんが、きちんとした守秘義務の感覚をお持ちの若い弁護士さん歓迎です!~笑)。内部通報を受理する担当部署の方、通報に基づき社内調査を行う方、事実に基づき社内処分を行う責任者の方、そして不祥事公表に向けての経営判断をされる方々にぜひともご参加いただければ幸いです。もちろん、これから内部告発をお考えの方もぜひお越しいただければ・・・と。

PS 

最近、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)の簡素化が報じられておりますが、一年目の開示結果って、そんなに馬鹿にならないなぁ・・・と感じているのは私だけでしょうか?制度1年目の内部統制の有効性に関する評価結果を念頭に置いて、いろんな企業の開示をみていますとそろそろ登場してきております。投資家に迷惑をかけている企業さんも登場してきたり、社内にゴタゴタを抱えていることが露呈されてきた企業さんも出てきたり、なるほど・・・と頷けるような事態がポロポロ出てきていますよね。制度1年目に重要な欠陥あり、と開示した合計100社、ちゃんと記憶しておいたほうがよろしいのではないかと。「予兆を感じさせる」という意味では、けっこう前向きな制度ではないのかなぁと。簡素化については別に反対ではございませんが、この制度の良い面をもう少しきちんと検証しておいたほうがよろしいのではないかと思います(もう少し時間はかかりますが)。あと、よくわからないのですが、内部統制監査のレビューって、ダイレクトレポーティングを採用しなかったことと理屈のうえでは矛盾はしないのでしょうかね?監査との比較において四半期レビューというのはわかるのですが、内部統制監査とはどう区別されるのか、よく理解できません。

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コメント

山口先生
東京にもファンは多いので、出版記念講演会は東京でも是非やって頂きたいですね。
PSに一言。内部統制報告制度は、確かに一部の内部統制に大きな問題を抱える会社にとっては有効性を持つのはその通りでしょう。
問題は圧倒的大多数の会社にとっては、大きな手間とコストを掛けた「粗捜し」になってしまいがちなことです。その結果、簡素化=コストダウンの名の下、とにかく形だけ作って実質手抜きする「形骸化」が進んでいるように見えます。それが制度の形骸化だけで済むならともかく、内部統制そのものの形骸化や評価者=監査部員のモチベーション低下に繋がるとその影響は深刻かも知れません。
経営者が内部統制を評価して開示すること自体は大いに意味があります。それを外部監査人が「監査」することによって、内部評価も外部評価も共にがんじがらめにしてしまったことが、制度の硬直的形式化の大きな要因です。それを「レビュー」とすることで内部統制の効率性と実質的有効性の向上が両立し易くなり、制度の有用性も高くなるというのが私の考えですが、長くなるのでまた別な機会に。

投稿: いたさん | 2010年8月26日 (木) 23時09分

いたさん様、ごぶさたしております。内部統制報告制度ネタが最近少ないので、申し訳なく思っております。例の研究会報告書がもうすぐ(たぶん今年の内部統制研究学会の日程に合わせて)公表されると思いますので、またそのときにでもネタをアップしたいと思っております。

いたさんはレビュー賛成派ですね。じつは監査の手間暇がどの程度「監査」と異なるのはよくわかっていないのです。制度の有用性との関係でまたご教示いただければ・・・と。
東京開催ですか? うーーーーん(笑)

投稿: toshi | 2010年8月28日 (土) 01時39分

山口先生
6月10日開催の企業会計審議会内部統制部会において内部統制監査の「レビュー化」について議論したが、否定的意見が大勢であり、見送りになる公算が大きいようですね。それでも経団連は7月20日に発表した意見書でも改めてレビュー方式の採用検討を要望していますが、残念ながら手遅れかも知れません。私は「重要な欠陥」の用語の見直しよりもこちらの方が本質的課題だと思っています。レビュー化反対の主張は「制度が定着しているから」とか「財務諸表監査と一体だから」という本末転倒論は別にして、「レビュー化しても監査人の工数はあまり減らずコスト削減につながらない」と「レビュー化することで制度が緩和されたという印象を与え、会社が手を抜く」というものでしょう。私の基本的考え方は、そもそも内部統制の有効性を監査という高水準の保証対象とすることに無理がある、しかし会社評価を開示する上で外部検証が何らかの形であることが望ましいのでレビューとする、監査人は財務諸表の適正性の保証に集中すべき、というものです。コスト面では監査人の工数ばかりが議論されていますが、会社側の工数にも目を向ける必要があります。①まず監査人の工数では、「合理的保証」たる「監査」と「限定的保証」である「レビュー」では証明文言、立証手続及び監査責任の水準が異なり、特に運用状況評価のサンプルテストは削減可能でしょう。また近年の監査の失敗に対するペナルティの重さから手続きの厳格化に向かわざるを得ない監査人の意識面でも、過度に厳密な手続きへの拘りが薄れることの効果も大きいでしょう。②会社側の工数としては、監査人への応対に掛る手間(特に独立サンプルテスト時)も見ておく必要がありますが、より大きな問題は「監査」だからこそ監査人が会社側の評価に同様の手続きを要求することです。このことにより本来自主性を持つべき会社の評価でも、通常の内部監査ではやらないような監査手法を使うことを余儀なくされているのが見直し可能となります(統計的サンプリング手法、ロールフォワード手続き、EUC検証等)。以上コスト面では監査人だけでなく、会社側の工数も含めて考えると相当な差が出ると考えます。更により本質的な問題は、単なる工数=コストの問題でなく、「監査」であることがむしろ「制度」の、ひいては内部統制の「形骸化」「空洞化」を齎す恐れがあることであり、実効性ある内部統制を構築するためにもむしろ「レビュー化」が必要という点です。①本来定性的で黒か白かの単純な判断に馴染まない内部統制に対し保証レベルを維持するための「監査手法」を無理矢理適用するために、実質を見ない手続き重視の「形式的」「画一的」評価になっている。(承認印やチェック証跡の確認等)②内部統制が有効であることを証明することが焦点となり、本当に重要なプロセス上の課題の指摘と改善の積み重ねが置き去りにされる。プロセス評価と言いながら、実は余程のことでない限りプロセスを評価して「重要な欠陥」があると判断するのは難しいものです(会社側も「有効でない」と言われたくないので猛烈に抵抗する)。結局は財務報告数字の誤りや会計不正が現実に発生した後に初めて跡付けで重要な欠陥を検出することが殆どになる。レビューの場合は会計士も「手続き」にそれほど拘ることなく、財務諸表監査で得られた知見も含めて改善への提起、助言がやり易くなるのではないか。③会社の評価が監査人からの手法の押し付けでなく自主的な方法をとる余地が大きくなれば、従来からの内部監査との有機的結合が可能となって、財務報告に限定しない内部統制の評価=内部監査を効率的有効的に運用することが可能となります。なによりも多くの内部監査部員が意義を感じることが出来ずにJ-SOX評価はやりたくない、業務監査に戻りたいと訴えるような悲惨な状況は改善されるでしょう。
制度の定着化の声とは裏腹に制度の形骸化は確実に進んでいるように思えます。本来効率化=コスト削減は無駄な形式主義を廃し、内部統制を重点的、実効的に構築・評価することによって達成されるべきです。一定簡素化の要求に応じて手直ししつつ、本質論議は回避して基本的な枠組みを温存するやり方では制度の一層の形骸化は避けられないでしょう。J-SOXなんて元々そんなものと割り切って形作りにひたすら励む=手を抜く手もありますが、内部統制の空洞化の代償はいずれ高くつくことになるかも知れませんし、なにより「形骸」のために、簡素化したとはいえなお相当量の経営資源を投入する余裕は多くの企業にはないはずです。(コメント欄に相応しくない長文で申し訳ありません)

投稿: いたさん | 2010年8月31日 (火) 22時33分

いたさんさんの貴重な意見に誰のレスもないので、久しぶりにコメントさせていただきます。
去る9月6日の内部統制研究学会の第3回年次大会でも、企業関係者の方から監査ではなくレビューにすべきという意見が主張されたと聞きました(私は残念ながら参加することはできませんでした。)
また、toshi先生がお勧めされている國廣弁護士のご著書では、法律の専門家である弁護士の観点から内部統制報告制度の形式的対応への批判が述べられています。
監査不要論や形式的な対応への批判(特に制度の最も重要な関係者から監査不要論が出てくること)を、その他の制度関係者は真摯に受け止めるべきではないでしょうか。
私は、以前このブログでコメントさせていただいたように、内部統制報告制度は、財務報告の結果だけではなくプロセスにも焦点を当てた、また、誠実性や倫理観といった精神的要素も取り入れた「すばらしい制度」であると考えています。問題は制度自体ではなく、運用の仕方にあると考えています。
制度がきっかけで一般に広く知れ渡った「トップダウン型のリスク・アプローチ」や「キーコントロール」といった概念は、うまく使えば企業の付加価値の向上にきっと貢献するはずです。
内部統制研究学会の第3回年次大会の統一論題は「内部統制報告制度による企業価値向上-制度のさらなる進化に向けて」だったようですが、企業価値向上のヒントになるようなものは提言されたのでしょうか。

投稿: 答えは風の中 | 2010年9月12日 (日) 00時32分

コメントありがとうございます。
いたさん、答えは風の中さんのご意見は、9月15日の某研究会でとりあげさせていただきます。このコメント欄で議論するにはもったいないので、別エントリーといたします。というより、いたさんのご意見は、どこからコメント差し上げればよいのか、ちょっとムズカシイ・・というのがホンネのところです。基本的に、おふたりの考え方に私も賛同するところですし。

また、企業価値向上のヒントになるものは?ということですが、私たち関西の内部統制研究会は3年以上、内部統制報告制度を見つめてきました。そして今後の目標が「経営者の視点」で内部統制を考える、というもので、IFRS導入も配慮して成果品を出す予定にしております。内部統制報告制度は決して形骸化させてはならない、もしくは形骸化しない工夫をしなければいけないと考えております。このブログで内部統制を取り扱う使命は、これからも内部統制報告制度にひとりでも多くの方(とくに経営者)に関心を持ち続けていただくことだと認識しています。
そちらも、また新メンバーの追加募集を(関西ではありますが)させていただく予定にしております。

投稿: toshi | 2010年9月12日 (日) 01時51分

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