闘うコンプライアンス(イトーヨーカ堂とウナギ偽装事件の巻)
なにかと物議をかもしだすウナギの流通問題でありますが、今度はイトーヨーカ堂さんの現役社員、その上司であった元社員が食品衛生法違反で逮捕される、という事態になってしまったそうであります。食品衛生法および同法施行規則によりますと、指定加工食品(たとえばウナギのかば焼き)には輸入元業者の住所氏名が法定様式で記載されていなければならないところ、この輸入元業者の記載を偽ってウナギの加工品を販売した、とのこと。ウナギの偽装といえば原産地偽装あるいは消費期限の張り替えというのを連想しがちでありますが、今回は輸入業者名の偽装ということです。「食品衛生法」違反ということは食の安全に関わる問題ですので、つまり輸入業者名を変更するということは、トレーサビリティ確保の信頼性を毀損することになります。したがいまして、かなり事態は重く受け止められるわけでして、県警の生活安全課が動くことも当然かと。(先日の米の不正転売と同じく神奈川県警です)
とりあえずイトーヨーカ堂さんはHP上で、今回の社員逮捕については残念、としつつも、会社としては法令違反はなかったものと言明されております。現時点では、逮捕された社員らも容疑を否認しておられるようですし、組織上での関与ということもみられないようですので、「法令違反はないと信じております」ということも納得できそうであります。しかし、どうしても報道されたところだけでは、よくわからない点もあり、そのあたりがコンプライアンス経営を考えるにあたっても、重要な点ではないかと思われます。
1 「箱のつめかえ」作業は2006年?2009年?
食品衛生法による公訴の時効は3年ですから、2007年ころまでの事件なら関係者を逮捕できそうですが、それ以前の事件については公訴時効が成立しているところであります。「箱の詰め替え」作業というのは、イトーヨーカ堂が輸入業者と記載されている箱から、別の業者が輸入業者と記載されている箱へ移し替えることであります。この作業をイトーヨーカ堂さんの社員らが手伝ったことが、「社員による事件関与」のキモになると思っております。報道では、新聞社によって、この詰め替え作業が2006年に行われたとするもの(たとえば読売新聞夕刊記事)と、2009年に行われたとするもの(たとえば朝日新聞ニュースの記事)に分かれております。公訴時効の関係からみますと、2009年が正しいような気もいたしますが、よくわかりません。もちろん、共犯者も最終の実行行為が終了した時点から時効の起算点が開始される、ということですから元社員らが箱の詰め替えを2006年に行ったものの、最終の犯罪成立が販売時点の2009年であれば時効は成立していない、という考え方もありそうです。続報では、このあたりはきちんと報じられるものと思いますので、またチェックしておきたいと思います。
(8月19日午前:追記)今朝の新聞などを読みますと、詰め替え作業は2006年ころに行われた、しかも詰め替え作業は複数の人間によって宮城県の某冷凍工場で行われた、といった新事実も報道されております。なかには「最初から箱の詰め替えを前提に費用負担が合意されていた」といった報道も(^^;;。。。スゴイなぁ
2 第三者へのウナギ転売は「異常な取引」?
2005年ころにイトーヨーカ堂さんが中国からウナギを輸入したところ、売れ行きが芳しくなく大量に売れ残りが発生してしまったこと、この売れ残りのウナギを第三者に販売したことについては間違いない事実のようであります。とくにこれは「法令違反」でもなく、またイトーヨーカ堂さんによれば公的な機関によって食品の安全検査を受けたものだけを転売したということですから、これもとくに法令違反には該当しないものと思います。ただ、よくわからないのが、大手小売業(ここではセブン・イレブンだそうです)で販売された加工食品が売れ残った場合に、これを第三者に転売する、という取引形態は日常茶飯事なのか、それとも異常事態なのか、という点であります。とくに朝日と毎日WEBの記事では、流通業界の話や、大学教授の話として「大手業者でいったん売って、その売れ残りを転売するというのはありえない」という話が引用されております。しかし私の感覚からすれば、在庫がキレイになるし、資金回収もできるのであるから、賞味期限等に問題がないかぎりは普通に転売してもよさそうに思うのでありますが、それは「常識外れ」なのでしょうか?もしこれが異常事態だったのであれば、イトーヨーカ堂さんさんとしては、この異常事態を把握しておられたのかどうか、とくに法令違反とは言えないまでも、「輸入業者」として商品に関する責任者たる地位にあるわけですから、ましてや当時はウナギから禁止薬剤が検出される、という事態もみられた時期ですので、そのあたりをまったくフォローしていなかったということであれば、また別の意味で議論が必要なのかもしれません。
朝日新聞の取材に対して関係者が「イトーヨーカ堂の元社員は『ヨーカ堂の名前はださないでくれ』と言っていた」とのことですから、やはりヨーカ堂の名前を出したくないインセンティブが元社員にははたらいていたものと思われますし、読売新聞夕刊記事では、逮捕された転売協力業者の方が(逮捕前の読売新聞の取材に対して)「ヨーカ堂さんが仕入れた商品をよそに売らないといけない、というのはただことではない、と思った」と証言されておられるのをみますと、やはり大手小売業者が輸入した加工食品がそのまま流通することの異常性は感じられるような気がいたします。
3 賞味期限切れのウナギ販売の認識は?
かりに2009年に「箱の詰め替え」作業が行われていたとしますと、転売時期から3年も経過した後に、なにゆえ輸入業者の名前を変更しなければいけなかったのでしょうか?この時期はすでに賞味期限も切れている時期であります。もし2009年に詰め替え作業をしていたのであれば、イトーヨーカ堂の元社員らも賞味期限切れのウナギの加工品が消費者に販売されることを前提として、販売に加担していたことにはならないのでしょうか?
4 事件はなぜ発覚したのか?
朝日ニュースによりますと、昨年10月にウナギの賞味期限切れ事件が発覚し、その事件を調べているうちに、輸入業者の表示が改ざんされた事実が発覚した、とあります。また、そもそも賞味期限切れ事件が発覚したのは、業者の出したゴミ箱に2年前の賞味期限の表示が記載されていたそうであります。ということは、農水Gメンの方々は、一般的な調査方法として業者工場のゴミ箱までチェックしている、ということなんでしょうか?こういった事件の発覚は、通常内部告発によることが多いのでありますが、そうではなく調査員の一般的な調査活動のなかで発見した、ということでありますと、ゾッとするほどコワイなぁと感じるのでありますが。
PS 「闘うコンプライアンス」シリーズといえば、「ファストファッション しまむら 対 加茂市」・・・・・市による刑事告訴、どうなったんでしょうね?
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