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2010年8月 2日 (月)

「財務会計士」なる会計プロフェッショナルへの素朴な疑問

先週、公認会計士制度に関する懇談会(中間報告書案)が金融庁HPで公開されましたので、内容を拝見いたしました。(公認会計士制度に関する懇談会中間報告書案)会計士の方々のブログや「週刊経営財務」の紙上解説などで、懇談会の議論経過については知っておりましたが、会計士試験制度の改正案について、詳しく知ったのは今回が初めてであります。

当懇談会は、本来は「待機合格者」問題を扱うことを目的としているものでありますが、目を引くのは(マスコミでもとりあげられておりますとおり)新たな国家資格「財務会計士(仮称)」の新設であります。公認会計士のような「監査証明業務」はできないけれども、法に基づく「会計プロフェッショナル」として、非監査サービス業務(企業内会計業務、監査補助業務等)は可能であり、「財務会計士(仮称)」なる名称は独占使用できる、というものです。原則としてこの「財務会計士(仮称)」なる資格で実務経験を積み、さらに公認会計士を目指す人もいれば、この資格をもって企業において非監査業務に従事し続ける、という人も出てくることが想定されております。外国でも「法廷に立てる資格のある弁護士」と「法廷には立てないが、法律事務を扱える弁護士」の区分がありますが、同様にどちらも「公認会計士」なる名称を付すことも可能だけれども、「監査証明業務」に関する信頼保護の見地から別名称の会計士資格を設置する、というイメージのようであります。

私は会計専門家でもございませんので、本当に素人的な素朴な疑問しか湧いてこないのでありますが、この「財務会計士」なる資格取得は、いったい何を目的としているのでしょうか?公認会計士の資格取得を目指す方が、試験制度の改訂(たとえば科目合格の有効期間を延ばす)に伴って、働きながら(「待機合格者」問題のネックとなっている実務経験を積みながら?)資格取得を目指しやすいようにするための対処方ということであれば理解できそうであります。しかし、最終目的が「財務会計士」資格の取得、という方々にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか?この資格取得者のメリットがはっきりしなければ、「待機合格者問題」と並んで大きな目的として掲げられている「グローバル化等の環境変化に対応した監査・会計分野の人材育成の必要性」を満たす施策にはなりえないのではないかと。

そもそも監査証明業務という独占業務があるからこそ、公認会計士には世間から高い信用が付与され、また高度の倫理観が要求されるわけでありますが、そのような独占業務をもたない「会計プロフェッショナル」にはどれほどの魅力があるのでしょうか?たしかに「財務会計士」という名称を独占して会計業務ができる、ということはありますが、それが資格者本人や雇用する企業にとってどれほどの有用性があるのかよく理解できません。企業がそのようなスキルを求めるのであれば、そもそも「財務会計士試験合格者」をそのまま採用すればよいだけの話であり、わざわざ公認会計士協会や金融庁の監督下(登録下)にある資格保有者を採用する必要はないはずであります。(これは現在、弁護士の世界でも同様の問題が起こっています。企業は弁護士登録をしない、つまり「企業内弁護士」ではなく「司法試験二次試験合格者」を採用する著名企業が実際に出てきております。)CPE(継続研修義務)なども、とくに資格保有者でなくても、この情報化社会においてはどこでも同様の勉強はできるわけでして、あまり資格保有の意味はないと思われます。

こういった新たな会計専門職の登場により、合格者の経済界等への就職を促進することが期待されているようでありますが、本当にそうなるのでしょうか?企業が求める会計プロフェッショナルの人材は、公認会計士試験に合格するための「腰かけ」で勤務する人ではなく、その会社に腰をすえて会計業務に従事するプロフェッショナルだと思われますが、はたして「財務会計士」として長年企業に勤務しようと考える方がどれほど増えるのか、私はちょっと懐疑的であります。念のため申し上げておきますが、私はけっして懇談会の議論を批判しているものではございません。実は私自身、こういった新たな会計専門職の資格に魅力を感じ、できれば(「実務経験」の内容にもよりますが)チャレンジしてみたいという気持ちを持っているために、この「監査証明業務ができない会計プロフェッショナル」の資格を保持することのメリットについてあらかじめ十分に認識しておきたいと真摯に考えているからこその「素朴な疑問」でございます。単に就職に有利な資格であれば民間実務検定でも十分に足りるのでありますし、「財務会計士試験合格者」で企業に能力をアピールできるのであれば、わざわざ金融庁や会計士協会から監督される立場にはなりたくないなぁ・・・と思うところであります。そもそも企業側だって、社員として会計スキルを発揮してくれる人こそ採用したいのであり、高度な倫理規範に則って、社内で第三者的に振る舞う人を採用したくないことは、すでに「企業内弁護士問題」でも明らかなわけでありまして。。。

独占業務をもたない会計プロフェッショナルの資格者が、そのメリットを享受できるようにするためには、たとえば会計士協会や金融庁が、どんどん資格停止の措置をとるとか、CPEをむずかしくして年に何割かは継続保有ができなくなる、など、保有していることの社会的信用性を高めるような努力を当局側が行わなければ困難なのではないか、と思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

8月 2, 2010 財務会計士 |

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コメント

山口先生、お久しぶりです。。。

 国家資格をなくそうというのが全体の流れです。
 しかも、独占業務がない国家資格というのは税金をつかってまで国が維持しなければならない制度なのかを説明していく必要があるでしょう。

 弁護士や会計士の人数を増やすことを目的とした制度改革を行ったのでしょうが、「人数が増えない原因は合格者数が少ないこと」という仮説が正しかったのかを検証する必要があるでしょう。

 マーケットの需給バランスというのは存在するわけですから、マーケットがない中で合格者を増やしたら、就職浪人が増加するわけです。
 弁護士や会計士の給料を減らしたらたくさん雇えるという話もあるでしょうが、それもマーケット受給関係次第です。

 合格者を増やすよりもマーケットを広げるようにすることが重要かと思います。

 弁護士と違って会計士は、国際競争にさらされることになるでしょう。会計基準や監査基準が国際的に統一されてきているからです。(法律は国際的に統一されていかないでしょう。)

 「日本語が話せる」会計士、「日本国籍を有する」会計士というのが、国際的にどれほど価値がある存在なのか、そこがこれからの日本の会計士資格の存在価値を考える上で重要かと思います。

投稿: 丸山満彦 | 2010年8月 3日 (火) 07時29分

丸山先生、おひさしぶりです。

>合格者を増やすよりもマーケットを広げるようにすることが重要かと思います。

ご指摘のとおりかと。

日本で2番目か3番目に大きな法律事務所がニューヨーク事務所を開設するそうです。海外進出する日本企業の支援が目的だそうで、大きな事業展開かと思います。
業務改革委員会の委員をしていますと、弁護士はリスクをとる事業をしたがらないことがわかります。マーケットを広げるためには先行投資の感覚を弁護士がもてるかどうか、というところから始める必要があると思います。若い弁護士の方々も、意外とコンサバなんですよね。。。

投稿: toshi | 2010年8月 5日 (木) 01時49分

するどい視点のご意見、勉強になりました。

資格の新設の目的は、たしかに、はっきりしておきたいところだと感じました。

ありがとうございました。

投稿: 財務会計士 | 2010年9月14日 (火) 00時07分

財務会計士さん、こんばんは。
とんでもございません。本当の「素朴な疑問」です。

そちらのブログ拝見いたしました。
たいへんマニアックなブログですね。
このテーマをエントリーする場合には、そちらのブログを参考にさせていただこうかと思います。
エントリーにも書きましたが、私も実は「財務会計士」なる資格に多少なりとも魅力を感じております。エントリーとは裏腹に「メリットがなくても、ともかくどんな資格でどんなことができるのか、とりあえず保有者になってみたいな」と思ったりしております。
パブコメが締め切りになったようですが、また新たな情報がありましたら教えてください。

投稿: toshi | 2010年9月14日 (火) 01時40分

こねくりまわされた制度設計って感はありますよね!年齢無視のシンプルな社会じゃだめなのかねぇ。

投稿: ななし | 2010年9月22日 (水) 18時55分

ずいぶんと旬が過ぎた段階での書き込みで申し訳ありません。「財務会計士」は見送りになったわけで、いまさらの話です。

 公認会計士試験合格者、あるいは公認会計士という形では、監査業界で吸収できないから、財務会計士という資格を作ってみよう、
 あるいは、
日本の実業界の中で、会計の知見のある人(知見について、ある程度のレベル保障を国家レベルでする。別に、政府がやらずともよいが)を増やしてみる、という話であれば、ある程度、理解できます。しかし、議論が不足し(会計専門家団体の後押しも今一つでしたし)、経済界などのニーズもいまひとつでした。そもそも、新しい資格を作るより、先に行う手があると、私は思っておりました。
 
 たしかに、中国では高級会計師などの資格があり、ある程度の会社では雇う必要があるようです。監査をする会計師とは別です(監査する会計士は、「注冊会計師」)。
 また、たしかに、アメリカなど、会計士資格を持った人が企業にたくさんおられるようです。MBAの方も多いでしょうし。たんなる大学卒業だけでは、弱いのかもしれません。また、アメリカでは、GAOにも、弁護士と会計士がたくさん入り、キャリアアップのひとつとしているようです。日本では、会計検査院に、弁護士や会計士が入るということはないでしょう。仮に入っても、幹部コースのⅠ種試験合格者の風下になっては面白くないでしょう。

 日本の公認会計士は、公認会計士として協会に加入し、公認会計士としての会費を払っていても、CPEを受けていなければ、公認会計士の名称は使えません(名刺に書くことはできません)。会計士補は、準会員として協会に入れば、名刺に会計士補と書けるはずです。会計士補には、CPEはありません。新しく作る予定であった「財務会計士」は、CPE義務と名称使用の関係が、結局最終的にどう落ち着ける予定であったか、少し疑問でした。

 現状すでに、CPE受けていない公認会計士(協会に正会員として入り、ただし、CPE免除手続を行っている)に却って不利?な状況なわけです。会計士補は名刺に書けるし、しかも、協会会費は、公認会計士の場合にくらべ、準会員ゆえ、少なくて済む。そこにあらたに、「財務会計士」ができる予定だったのです。
 私は、別に、CPE不要を主張するわけではないのですが、例えば、CPE免除中の方であれば、「公認会計士(制限会員)」とか、なにかを認めて差し上げないと均衡を欠くと思うわけです。企業勤務会計士には、CPEを受けておらず(免除適用申請し)、しかし、実際には、経理に精通している方も多くおられます。特に、大手企業の経理マンであれば、先進的な事柄に、世間に先駆けて接する場合が多いと思います。監査人の公認会計士は、他社事例などに詳しいでしょうが、企業会計士も業界で勉強会を開くケースもあります。
 また、現状は、監査従事者も非従事者も公認会計士協会の会費は一律にて、企業勤務の場合、会計士協会の会費が個人負担であると、当人は、却って、会計士協会から脱退する方がよいという判断もできると思います(名刺にもかけず、メリットがない。せいぜい、社内の人事考課くらいか)。しかし、会社負担が必ずしも一般的ではないでしょうし、やはり、金額が大きいと社内の経費申請稟議でも気を使うでしょう。
 一般企業に、会計専門家?を雇用するよう推進することが主目的ならば、むしろ、現状の名称利用の形、会費の柔軟化が、早道だと思い、その意味でも、「財務会計士」は、議論が尽くされていないと感じていました。
 
 弁護士業界も、将来、企業採用を推進するのであれば、同じ問題があると思います。弁護士のCPEは詳しく存じませんが、弁護士会の会費は、会計士協会会費より更に高額だと聞きます。個人負担するならば、そこだけみれば、実質給与減です(たぶん、副業で弁護士業をするのはうるさいでしょうし)。単なる司法試験合格者、あるいは修習所修了者として、企業人になっていただくか、弁護士会のメンバー(準会員、制限会員、など、あり方はいろいろだと思いますが)として、企業人になっていただくか、そういう論点はあるのではと思います。思うに、弁護士業をされている方が、企業に移り、また、弁護士業に戻る、政府に行く、また、・・・ということは、将来必要とされると思います(日本の国力のためにも)。
 もちろん、大手企業ならば、弁護士会会費など気にしないかもしれませんが。

 
 

投稿: 浜の子 | 2012年6月18日 (月) 02時47分

浜の子さん、ご意見ありがとうございます(他のエントリにも書き込みいただき、お礼申し上げます)。なるほど財務会計士の在り方というのもなかなか難しい問題があるのですね。

弁護士も最近はずいぶんと組織内で活躍される方々が増えました。明石市役所では、このたび5名の弁護士を同時に採用、来年度も2名採用するとのこと。まだまだテスト段階かもしれませんが、徐々に企業内の弁護士資格保有者も増えています。明石市の場合、弁護士会費は公費負担だそうです。顧問弁護士とは異なり、内部にいるからこそ弁護士が果たせる役割を模索していく必要がありそうです。

投稿: toshi | 2012年6月20日 (水) 01時59分

過去記事へのレスですいません。
明石市役所の例を挙げてらっしゃいますが、あれは無視したほうがよいかと。
5名も採用したのですが、やっていることといえば単位会の公益活動を「市役所の仕事」にしたって感じで、一般的なインハウスとは随分と職務内容が異なります。
弁護士会費の公費負担についても、その適法性も含めて非難轟々の状態です。
来年度の2名採用も今のままでは無理でしょう。
増員論者には希望の光なのかもしれませんが、傍からは見ていると弁護士業界が地方公共団体を食い物にしているかのようです。

投稿: とおりすがりですが | 2012年7月14日 (土) 11時55分

だいぶ間隔が空きました、申し訳ありません。2012年7月の「とおりずがりですが」様のコメントですが、「弁護士会会費負担について非難轟々」とのこと、拝見いたしました。
 役所として弁護士の法律的見識のある方を採用するのであれば、必要経費のようにも感じてしまいました。また、それを役所が負担しなければ。採用される側に、インセンティブが薄れます。少なくとも本人の法律的知見を地方行政に活かしてみようという意欲に無意識のうちにも水を指すのは間違いないと思います(気は心です)。これでは、あとに続く方は出ないであろうと感じます。
 役所の経費とは人件費も含めいろいろと手続きが大変であるのは聞き及んでおります(厳しい手続を順守しても、浪費が多い、経費削減努力が薄い、年度末無意味に消化する、民間からの水増しを見抜けない、など、批判がよく聞かれるのはなんともはやと思いますが。。。私はこれについてはなんとも申し上げたくはありません。)
このような経費(役所へ奉職する場合の弁護士費用)は免除せよ、という考えもあるかもしれません。しかし、弁護士の方が、研鑽を積めるよう、リーガルナレッジをストックし提供している弁護士会が、会員から何らかの負担金を取るのは当然かと思います。受益者負担であり、受益者は間接的には雇用している役所であると思うからです。弁護士業をしている弁護士と、組織内弁護士や教鞭専任中の弁護士で負担に差を付ける、(受益の質が異なるとして)、それはありうるとは思いますが。

投稿: 浜の子 | 2013年12月30日 (月) 14時56分

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