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2010年9月29日 (水)

貴乃花親方名誉棄損事件控訴審判決と経営者個人の法的責任

新潮社、講談社を相手とした貴乃花親方名誉毀損事件判決は、何度もこのブログでお伝えしているところでありますが(たとえばこちら)、朝日新聞ニュースによりますと、講談社事件について本日控訴審判決(東京高裁)が出まして、講談社の社長さんは一審よりも賠償金額が増額された判決を受けてしまったそうであります。いわゆる内部統制構築義務違反について、講談社の社長さん個人に重過失があり、第三者に対して賠償責任が認められているわけですが、その金額は法人自身の賠償額と同額とのこと。私はてっきり第一審では法人の賠償責任だけが認められ、代表者個人の責任は否定されたのかと思っておりましたが、第一審でも注意義務違反は認められていたようであります。

つまり新潮社事件、講談社事件とも、大手出版社の社長さん個人が貴乃花親方に対して内部統制構築義務違反に関する「重過失」ありとして賠償責任が認められていることになります。出版社における編集権の独立、といった問題も残りますが、表現の自由の確保が特に求められる業界であるがゆえに(つまり外からの事前規制と相容れない業界であるがゆえに)、出版社にはとくに自律、つまり法令遵守のための内部統制システムが厳格に構築されなければならないものと思われます。そのあたりの出版社の特殊性を考慮してもなお、内部統制構築義務違反が社長個人の重過失と結び付くことを示す事例としてはきわめて重要な先例になりうるものと考えております。最高裁で消極的な判断が下された日本システム技術事件判決の例もありますので、今後最高裁における判断がさらに注目されるところです。

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コメント

いつも愉しく拝見させていただいております。

不勉強でこの事件はよく知らなかったのですが、「代表取締役」個人に内部統制構築義務違反が認められているのですね。asahi.comの内容だけ拝見すると、そもそも取締役会レベルでの内部統制システムの「基本方針」自体も定められていなかったように読み取れますので、第一義的には取締役会(各取締役)に対して注意義務違反と見做すべきではないのでしょうか。ちょっと疑問を持ちました。

投稿: kazemachiroman | 2010年10月 3日 (日) 15時19分

kazemachiromanさん、こんばんは。

この一連の事件は内部統制構築義務違反を認めた判決として、私はとても注目しています。
第一義的に・・・とお書きになっているところですが、このあたりがムズカシイところでして、もうすこし具体的な「義務」の発生がないと、おそらく内部統制構築義務違反・・とまで裁判所は認定しないのではないかと思います。各取締役の基本的な内部統制の構築義務・・・あたりは、経営判断の枠内であって、それだけでは「重過失」認定までは届かず、個々の実効性を確保するための体制まで構築することが不可欠な状況にあったかどうか・・といったあたりが本件のキモではないかと。
なお、朝日「法と経済のジャーナル」に本件高裁判決の抜粋が掲載されております。ご参考まで。

投稿: toshi | 2010年10月 4日 (月) 22時55分

講談社が会社法上の大会社かどうか知りませんが(資本金は3億円になってますね)、大会社における「基本方針の決定」は、文字通り、決定すべき義務なので、具体的なリスク管理体制(内部統制システム)の構築義務とは別次元かと思われます。かりに基本方針の決議漏れがあったとしても、現実に体制は存在するということはあり得るからです。善管注意義務違反が認められるか否かは、あくまで事業の特性・規模等に応じた具体的な仕組みの内容がどうだったかという問題。だとすると、全社的な予防体制に基本的な不備があったならば、「全社」が担当領域である代取の善管注意義務違反肯定に傾きますね。あとは、賠償責任における重過失要件の問題でしょうが、「経営判断の枠内」とおっしゃる部分にはいささか異論があります。法令順守に関する基本的な仕組みについては、決まり切ったものは存在して当たり前であり、その構築に関してはある程度類型的な判断が可能です。方法に関する裁量はあるとしてもレベルにかかる裁量はほとんどないと思われます。

高裁判断より緩むか否か、という意味では上告審判断に興味はありますが、日本システム技術事件は基本的な(決まり切った)リスク管理体制が一応備えられた中で、それが故意に破られた事案でしたので、基本的な部分の不備が問題になっている本件とは直接の比較対象にはならないんじゃないかと思っています。

投稿: JFK | 2010年10月 7日 (木) 03時20分

jfkさん、ご意見ありがとうございます。
私もほぼ同意見です。

本件で、実は「内部統制構築義務」をどのように位置づけるべきかは、まだよくわからないところがあります。
重過失=注意義務違反のほうに重点を置くべきか、善管注意義務違反(内部統制構築義務違反)のほうに重点を置くべきか、というあたりです。パロマ工業事件の経営者過失のように、結果回避義務を説明するための材料として内部統制が語られているようにも思われます。

投稿: toshi | 2010年10月 7日 (木) 11時58分

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