投資運用会社の議決権行使ガイドラインにみる独立役員への期待
(21日午後 訂正あります)
本年1月12日のエントリー「投資運用会社による議決権行使状況の開示義務付け」でも少しご紹介しましたが、今年5月、6月の上場会社定時株主総会において、投資運用会社と信託銀行などの機関投資家がどのように議決権を行使したのか、その結果がそろそろ開示されているようでして、上記機関投資家は会社提案議案の約15%について反対票を投じたことが報じられております。(日経新聞9月17日朝刊記事より。なお、当ブログでは上記1月のエントリー以外にも、こちらの関連エントリーがございます)
大手の投資運用会社や信託銀行さんのHPでも、個別に結果が開示されておりますし、投資信託協会では全体の傾向等が公表されております。昨年の状況は会社提案に対する反対票は約10%、とのことですから、数字の上ではずいぶんと反対票の比率が増えていることがわかります。「運用会社の受託者責任」としての議決権行使の意識が高まったことや、役員への退職慰労金支給議案について、業績や株価が低迷している企業への反対票の増加あたりが原因ではないかと思われます。個人的な感想で申し上げますと、取締役・監査役の選任議案に対する反対票の比率が高いことをどのように分析するのか、という点に興味がございます。(反対比率は15%~22%程度。ただし一部反対を含みます。)役員選任議案との関係だけで申し上げますと、法律や証券取引所ルールによって、上場会社に一律に社外取締役選任を義務付けることへの抵抗が強い現状では、投資家による投票行動が当該会社のガバナンス改正への動機付けとなることが期待されるのでありまして、果たして「動機付け」となりうるような投票行動がみられたのかどうか、という点に関心が寄せられるのではないかと。
どうしてこんなに役員選任議案について反対票が多いのだろうか・・・と、投資運用会社のHPで各会社の議決権行使ガイドラインを眺めてみますと、とくに詳細なガイドラインを定めている会社は少ないようです。ただ、私がみた限り、そのなかで三井住友アセットマネジメントさんと、大和住銀投信投資顧問さんのガイドラインは結構詳細に規定されているように感じられます。とくに大和住銀投信投資顧問さんはこの8月13日にガイドラインを最終改訂されたようで、これがなかなか議決権行使基準が明確になっていてオモシロイ。
まず(既に、もしくは同時に?)独立取締役が選任されていない場合には、(独立性のある社外監査役が選任されていないことを条件として)取締役選任議案に反対票を投じる、といった要件が規定されております。つまりオーナー一族がある程度の株式を保有しているような上場会社の場合とか、買収防衛策が既に導入されている場合、剰余金処分権限が取締役会に授権されている場合など、独立取締役による監督権限が不可欠と思われる上場会社の場合と、それ以外とで反対票を投じる要件が異なるものとされております。このあたりは議論もあろうかと思いますが、これからのソフトローによるガバナンス規制の在り方として参考になるのではないでしょうか。
また、たとえば社外取締役や社外監査役の選任候補者の「独立性」については、顧問弁護士だけでなく、顧問契約を締結している法律事務所の他の弁護士もダメ、以前当該事務所に所属していた弁護士もダメ、監査契約を締結している監査法人の関係者(以前関係者だった者も含む)ダメ、とかなり明確に判断基準を示しておられます。社外監査役の出席状況なども、3分の2以下の出席率の監査役の再任については原則として反対票が投じられるとのこと。また、「企業不祥事判断基準」というものがあって、監査役在任中に当該不祥事判断基準に該当するような場合には、原則として当該監査役の再任には反対票が投じられる、とのことであります。定款変更議案については、けっこう反対票が投じられる比率が高いことが上記記事でも報じられておりますが、なぜ反対されるのか、という点も、このガイドラインを読みますと「なるほど」と頷くところであります。会社と会計監査人がケンカして、新たな会計監査人が選任される場合の基準・・・などもあって、ホント興味深いですね。
この大和住銀投信投資顧問さんの議決権行使ガイドラインを拝見いたしますと、原則反対だけど、合理的な説明があればOKという基本スタンスに気付きます。買収防衛策にしても、ガバナンスの在り方にしても、社外監査役の取締役会出席率にしても、明確な基準を示したうえで、そこからの逸脱を会社側が(株主価値を高めるために)説明責任を尽くした場合にはこれに賛同する、というスタンスのようです。会社側としても、こういった明確な判断基準があれば、説明責任を尽くすうえでも有用ではないでしょうか。会社側の経営判断を尊重しつつも、株主総会開催日が集中していたり、プラットフォーム参加企業が伸び悩んだり、開示資料の定型化が進んでいない現状での分析能力の限界(ヒアリング時間の限界?)を考慮しての姿勢ではないかと思われます。いずれにしましても、単なる開示だけの問題ではなく、「株主との対話」に積極的でない企業はけっこうしんどいかもしれませんね。
社外取締役導入制度化の議論がなかなか進まない要因のひとつとして「社外取締役に期待される役割は何か」という点に関する意見の一致が見られない、という点が挙げられます。そういった意味では、先日ご紹介した東証さんの「独立役員セミナー」などは意見の合意を形成する契機になるでしょうし、またこういった投資運用会社による議決権行使ガイドライン等によって、社外役員に期待される役割が浮かび上がってくることは、これからの議論の進展にも大いに役立つのではないかと思う次第であります。
PS
関係者の方より、ご指摘を受けまして、一部訂正をしております(赤字部分)。たいへん失礼いたしました。
| 固定リンク
コメント
詳しく取り上げていただいて恐縮です。
これからも宜しくお願いします。
一カ所だけ補足をさせていただくと、独立役員不選任を理由とした取締役選任議案の反対条項は、独立性のある社外監査役を選任しない場合を対象とするものです。
投稿: unknown | 2010年9月21日 (火) 08時49分
正確性を欠く記述で申し訳ございませんでした。さっそく、本文は訂正をしております。
投稿: toshi | 2010年9月21日 (火) 14時30分
年金基金に、なんでもよいからとにかく反対率が高いほうがよい投資運用会社といった間違った認識が広がっており、投資運用会社が困惑しているという話を聞きます。
投稿: ty | 2010年10月 2日 (土) 17時21分
tyさん、情報ありがとうございます。そういえば、きょう日経ニュースで議決権行使結果に関する報道がなされていたような・・・
後でまたきちんと読んでおきます。
投稿: toshi | 2010年10月 4日 (月) 22時44分