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2010年10月29日 (金)

JR西日本ATS作動不公表など(昨日の続き)

それにしても今回のJR西日本さんの対応は早かったので驚きました。昨日ご紹介いたしました「事故現場におけるATS作動事態を公表しなかった件」につき、同社の代表者(社長)の方が謝罪された、との報道がなされております(読売新聞ニュースはこちら)。また、今後の対応についての「公表の要否については、遺族や被害者の感情などを勘案して、場所にとらわれず判断する」とのことであります。昨日のエントリーで書かせていただいていたところと「ドンピシャ」だったから申し上げるわけではございませんが、私もそうすべきではないか、と思います。本来の「コンプライアンス」の意味に最も近い対応ではないでしょうか。私もこれがベストプラクティスとまでは自信がありませんが、「いまできる範囲の精いっぱいの対応方法」ではないかと。

話は変わりますが、26日にご紹介した中央経済社「ビジネス法務」12月号の論文をお書きになったソフトバンク社法務部長さん(須崎さん)よりコメントを頂戴いたしました。(どうもありがとうございます)私の「舌足らず」の文章を補足いただいていたり、コンプライアンスに関するご意見なども付記いただいておりますので、そちらを御一読いただけましたら幸いです。コンプライアンスへの全社的取組み、コンプライアンスの法体系化など、いずれも私自身も深く考えるところでありまして、理屈だけでなく、その実践方法を含めて今後もブログや書籍などで提案していきたいテーマであります。

まだまだ他にもJVCケンウッドさんの課徴金審判事件、住友電工さんのリーニエンシーに絡む株主代表訴訟、女性役員比率に関するEU委員会の方針、監査役協会さんのアンケート結果分析などなど、ブログで書きたいことが山積みの状況でございますが、ちょっと時間がございませんので、また週末にでも、ということで。。。

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2010年10月28日 (木)

JR西日本・脱線現場でのATS作動に関する公表の要否

2005年4月に発生したJR西日本福知山線の脱線事故現場において、ATS(自動停止装置)設置以降、はじめて(運転手の速度超過によって)停止装置が作動したそうでして、このことをマスコミが取材するまでJR西さんが公表しなかったことが問題になっているようであります。(ATSが作動して電車が停止したのは10月14日のことだそうです。多くのマスコミで報じられておりますが、たとえば毎日新聞ニュースはこちら

これに対するJR西日本さん側のコメントが「事故につながる問題でもなく、また公表するとなると運転手に制裁的なものとして萎縮的効果を与えてしまい、自主的な報告を妨げてしまうおそれがあるため」とのこと。つまり、JR西日本さんは、今後も同様の停止事態が発生したとしても公表はしない、という意見表明だと思われます。停止させてしまったことは謝罪するが、公表しないことには何ら問題はない、というもの。

JR各社において、ATSによって電車が停止することは日常茶飯事であり、それをいちいち公表することまでは必要ではない、事故につながる可能性のあったヒヤリハット事件でもないかぎり今後も公表はしない、という対応は、冷静に考えてみるとその通りでありまして、少しマスコミが騒ぎ過ぎではないか・・・といった見解も出てくるものと思います。

しかし、当ブログでは過去に何度も引用したとおり(たとえば2007年12月11日のこちらのエントリー)、悲惨な事故を起こしたエキスポランドは、市民の応援もあり、なんとか営業を再開したのでありますが、再開直後および再開1カ月後に故障事故を起こし、これをマスコミが知った後に、会社側は「とくに大阪府へ報告しなければいけないほどの事故だとは思っていなかった」と述べました。いままで応援してくれていた市民は、この報道内容に怒り、多くの方のひんしゅくをかってしまいました。たしかに事故が発生していなければ報告するほどの事故ではなかったかもしれませんが、あの痛ましい事故が発生した直後の故障だからこそ、市民はどんな事故にも敏感になっていたのであります。結局、これが引き金となってエキスポランドへ足を運ぶ人も少なくなり、閉園へと追い込まれてしまったわけでして、今回のJRの対応にも通じるところがあると思います。

コンプライアンスは「相手の行動に従って適切に対応する」という意味を含んでおります。つまりATSが作動する事態が発生した場合すべてに公表する必要がなくても、福知山線脱線事故発生の現場で作動したからこそ報告・公表の必要性がある、と考えるべきではないでしょうか。そう考えるならば「ATS作動の事態が、運転手の自主的な報告を委縮させるおそれがある」というのはまったく的外れなコメントになろうかと思われます。事件の重大性を認識しているからこそ、他の場所での作動については公表すべき問題ではなくても、遺族や被害者の気持ちを考えるならば、作動原因まで含めて報告または公表することが、社会の要請への適切な対応に該当するものだと私は考えます。またエキスポランドのように「不祥事によって事業が閉鎖となる」ようなものではない鉄道事業であるからこそ、国民の信頼を得るための細心の対応が不可欠になるのではないかと。

今回のJR西日本のATS作動問題でもう一つの重要なポイントは、先日の日清ラ王CM騒動と同様、隠そうと思っても、今の世の中、なかなか不都合な事実は隠ぺいしきれるものではない、という点であります。今回の件につきまして、運転手から報告を受けた問題につきまして、私は絶対にJR西日本の幹部の方々は「まずいことやっちゃたなあ」という意識は持っておられたと推測いたします。ただ、「適切にATSが作動した、ということは事故につながる問題ではないし、この程度でいちいち公表していたら運転手もかわいそうだから」といった「社内の常識」で不公表を判断されたものと思われます。

しかし、こうやって現実には社内にも「これって、やっぱりそのままじゃマズイのではないか。本当にあの事故で反省している、ということが言えないのではないか」といった別の常識を持った人たちがいて、その方々による外部への事実連絡があったから発覚したのではないかと思います。また、ひょっとすると実際に停止していた車両に乗り合わせていた方がいて、大きな問題だと認識したうえでマスコミへ通報されたのかもしれません。いずれにしましても、社内の判断の前提には「公表しなければ、とくに問題となることはないだろう」といった非常に甘い考えがあったと思われます。もしくは、「たとえマスコミが知るところになったとしても、ATSが適切に作動して停止した・・・ということくらいで報道する価値はないよね」といったバイアスのかかった認識がまん延していたのではないかと思われます。

私は「不祥事はかならずバレる!」などといった教訓めいたことを申し上げるつもりはありませんし、実際には不都合な事実はバレずに済むケースも多いと思っております。しかし、「バレる可能性」は格段に高くなっていることは確実だと思いますし、こういった問題はもはや企業において管理すべき不正リスクのひとつであることは間違いないものと考えております。コンプライアンス経営にとって「一次不祥事」は回避できない場合があるとしても、必ず「二次不祥事」だけは回避しなければならない、というのが鉄則であります。今回の件につきまして、世間一般にはマスコミの騒ぎ過ぎ・・・といった意見も出てくるかもしれませんが、ご遺族、被害者の方々の気持ちを再燃させてしまう・・・という意味においては、会社経営上においてもマズイ対応ではなかったかと思います。

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2010年10月26日 (火)

法務部員が元気になる記事!?(SB社法務部長さんの論稿)

中央経済社さんの「ビジネス法務」12月号にはたくさんの興味ある論稿が掲載されておりますが(とも先生の奥様のご尊顔発見!笑)、ひときわ「腹に落ちる論稿」として感嘆いたしましたのはソフトバンク社の法務部長さんの「機能する次世代『法務部長』の役割とは」(70頁以下)であります。いや、実にオモシロイ。筆者は三菱商事、ソフトバンクと30年以上にわたり「法務畑」を歩んでこられたそうですが、論稿の最初から最後まで納得させられてしまう内容であります。当ブログの常連の方々は、法務部ネタ関連のエントリーをアップいたしますと、ご異論、ご批判をいただくことが多いのでありますが、ともかく御一読いただければと。

「予防法務」「戦略法務」「臨床法務」という言葉は、法務部モノの記事ではよく出てくるフレーズであり、どことなくカッコいいイメージがございますが、やはり法務の中だけで受動的な仕事に埋没していると、結局は筆者が指摘されるとおり「法務屋さん」で終わってしまうのでしょうね。このあたりはかなりリアルな指摘ではないかと思います。「契約書作成の罠」あたりの記述は、おそらくどこの法務部でも「法務部リスク」として実感されているところではないでしょうか。経営陣が「しょせん、法務部の仕事とはこの程度でオッケー」のような認識しかされていないこともあって、そこに満足してしまう法務部員もいらっしゃるような気がいたします。

本稿では、法務部の活躍すべき場・・・というものを、非常にリアルなタッチで描かれておりまして、法務の仕事に無限の可能性を感じさせてくれるものであります。私自身も、普段から「社内法務の仕事はこうあるべきではないか」とボヤ~っと感じているところはありましたが、サラリーマンとしての実体験に乏しいために具体的なイメージがつかめずにおりました。しかし、この法務部長さんの論稿を読んだことで、自身の抱いておりました「法務部の理想」に関するイメージに肉付けがされたようで、なんだかとても元気をもらったような気がいたします。おそらく現役の法務部員の方々、そして企業内弁護士として勤務されていらっしゃる方々がお読みになると、私以上に元気になるのではないでしょうか?「求められる法務の変革:契約法務からの脱却」「これからの法務の役割:経営の根幹に関わる問題に関与すべし」は本当に同感でございます。

ただひとつ気になる点があります。「法務部門の理想の姿」があるとしても、それを経営陣が理解するためにはどうすれば良いのでしょうか。そこで、一番印象に残るフレーズをひとことだけ引用。

・・・また、法律を扱うことが専門性のある仕事であることの自負は大事であるが、それは全体からみると一部に過ぎないことの認識を(若手法務部員に)持たせることも重要である・・・・

ホンマ、そのそおりやと思います。決して「問題が発生したら営業部の責任に転嫁する」といったものではございません。この認識があって初めて全社的なリスクが見えてくるのではないかと。また、この認識を持つからこそ経営陣から信頼される法務になるのではないだろうか・・・と。あと、顧問弁護士や、セミナーなどでご招待された弁護士などが、側面からこういった「法務部の在り方」を経営陣に理解してもらう・・・といったことも必要なのかもしれません。余計なお世話かもしれませんが・・・(^^;もし入手可能でしたら、ぜひお読みいただきたい論稿であります。また、読まれた方の感想など、コメントやメールにてお寄せいただけますと幸いです。

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2010年10月25日 (月)

監査役の社会的使命と法的責任(本のご紹介)

Kansayakusimei 昨年、話題となりましたトライアイズ「監査役訴訟」を支えてこられた鳥飼総合法律事務所さんが著された「監査役の社会的使命と法的責任」(清文社 鳥飼重和、吉田良夫 編著 2000円税別)を拝読いたしました。私も昨年から今年前半にかけて、監査役さん方の裁判を担当してきましたが、これまで監査役訴訟というものがほとんどなかったものですから、裁判所も代理人も「監査役の職責とは?」というあたりで、ずいぶんと議論をいたしました。裁判官に真剣に監査役制度を説明するなかで、私自身もようやく理解できるようになった点もありました。本書でも、そういった鳥飼事務所の経験がふんだんに記述されております。とくに第2編の「監査役の危機対応」では、有事に直面した監査役さん方には参考となるところが多いと思われます。(私の論稿などもご紹介いただき、ありがとうございます)監査役さんの実務的には、社内に問題が発生した場合の監査役監査報告の書き方あたりが参考となるのでは。

第1編のほうで目を引きますのが、企業不祥事を起こすと、どれだけの損失が発生するか・・・というあたりを課徴金を課された企業の損失額を算定し、健全経営のための施策が効率的経営にいかに寄与するかを示しておられるところであります。コーポレートガバナンス改革が、企業にどれだけのパフォーマンス向上に寄与するのか・・・というあたりは、現在もなかなか実証できないものとされておりますが、こういった提案も議論の対象になるとおもしろいです。私は、IFRSの時代になっても、やはり投資家は持続的成長の判断指針となる指標(たとえば純利益)の分析がこれまでどおり中心になるのではないか、と考えておりますが、(最高益を公表してすぐに倒産する企業が出てくる時代において)「資産・負債アプローチ」の時代だからこそ、持続的成長を判断するための重要な指針は、ガバナンス評価に求められるのではないでしょうか。そんな時代の監査役さんに対する社会的使命はますます強く期待されるのでありまして、その裏腹に法的責任が厳格に問われるようになると思われます。(もうすでに何件も監査役訴訟が提起されているのですね。)「監査役でいることのリスク」等についても記載されておりまして、少しドキッとさせられるところもございますが、これも時代の流れでありまして、「イマドキの監査役の姿」をしっかりと見つめなおすにはたいへん良い本であります。

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2010年10月24日 (日)

ミシュランガイドで星が落ちるお店・落ちないお店

外食産業の社外監査役を務めているせいか、どうも「食事処の格付け」が気になりまして、今年もミシュランガイドを衝動買いしてしまいました。(ミシュランガイド2011京都・大阪・神戸)リーズナブルな値段で、すこしリッチな気分が味わえるブリーゼブリーゼのフレンチがはじめて掲載されましたので、もう予約がとれないかもしれません。(梅田のど真ん中の高層階ですから、夜景は最高なんです)

詳しい方からすれば「あたりまえ」なのかもしれませんが、こうやって2010と2011を比較してみますと、やっぱり「星」が落ちるお店ってあるんですね。たとえば昨年(2010)大阪には「ふたつ星」の飲食店が12店掲載されていたのですが、2店が落ちております。(1店は一つ星、もう1店は掲載なし)また、星1つだったお店のうち、今年は5店の星が消えております。これだけ騒がれて、1年で星が消えたり、ランクが落ちる・・・というのは、なんとなくお店側としては嫌な気分でしょうね。ひょっとすると「ランク外」になったというのは、お店のほうからミシュラン側に「掲載しないでほしい」と要請したのかもしれませんが、やはり星2つから星1つへ・・・というのは、「なんでやろ」って思います。審査する側が、なぜランクを下げたのか、たいへん知りたいところです。お店が悪いのではなく、ミシュラン側がそもそも誤った審査をしていた・・・ということなのでしょうか?大阪に限って言えば、超ビックネームの老舗がいくつも星が消えていますので、いろいろな理由があるのでしょうね。

あと、昨年最高ランクの3つ星に輝きながら、今年3月に食中毒事件を起こした京都の老舗が今年も3つ星を維持しています。お店は「ミシュランの名誉に傷をつけてしまい申し訳ございませんでした」と謝罪をされていましたが、築き上げてきた伝統の前ではお客様4名の食中毒被害、3日間程度の営業停止など、「重要な欠陥」にもなんにもならない、ということなのでしょうか?それなら、ますます3つ星というのは、いったいどこをみて決めるのだろうか・・・・・・と。不思議であります。(もし「ミシュラン弁護士ガイド大阪編」とかあったら、私けっこう「ビジネス弁護士部門」で覆面調査員になれるかも。。。ずいぶんたくさんの方の相手方になりましたから 笑)

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2010年10月23日 (土)

司法修習生給費制議論に関する素朴な疑問

かならずどなたかがおっしゃると思っておりましたので、私のような全体像のみえていない弁護士が申し上げることではないと静観しておりましたが、あまり視点の異なる問題を呈示される方もいらっしゃらないようですので、ひとことだけ「司法修習生給費制議論」に対する本当に素朴な疑問を申し上げたいと思います。

本日あたりのマスコミの論調を拝見いたしますと、日弁連のほうで「司法修習生の給与の存続を求める意見」に対して、自民党の反対が根強く、結局のところ当初の予定どおり「貸与制」になるのでは・・・といったことが報じられておりまして、マスコミとしても税金を投入して司法修習生の給与をねん出することは国民の合意が得られないであろう、といった意見が強いようであります。そして自民党の意見としても、またマスコミの意見としても、たとえば(いったん貸与制としたうえで)公益活動に従事することを条件に、返済義務を免除するというのはどうか、といった方向性が出されております。

私にとって「ちょっとビックリ」なのは、上記の意見では公益活動をすることに値段がつけられている(返済免除)ということであります。これは「値段をつけなければ弁護士は公益活動をしないであろう」といったことが前提とされているように思えます。しかし私の周囲の若手弁護士で、公益活動をしていない人は留学中の人を除いて探すのはむずかしいです。たとえば大阪弁護士会は老若男女の区別を問わず、平成19年から「公益活動」は義務化されておりまして、義務違反には罰金の制裁が課せられます。私も普段の日弁連、大阪弁護士会での委員会活動に加えて、この8月から10月はADR(裁判外紛争解決センター)の仲裁人をしております。1回2時間の審理でマンション組合における紛争の仲裁業務を行い、4回合計8時間の審理、その後仲裁人間での審議のすえ、合意に至らなければ仲裁判断を下します。決定書を書きあげたり、調査の時間を合わせれば、20時間以上は仲裁人の業務に従事し、報酬は全部で5000円程度であります。しかし、弁護士である以上は社会的正義のために「公益活動」に従事するのは当然だと思いますし、法律専門家のスキルを社会に還元するのは弁護士の職責であると考えております。

また、私は関西の社内弁護士の方々の委員会をとりまとめておりますが、関西の企業内弁護士の方々も、社内で「また弁護士会行くの??」と白い目で見られつつも、公益活動のために一生懸命委員会活動に従事しております。これも弁護士である以上、公益活動は当然のことだという認識のもとであります。東京の大手の法律事務所のHPをみますと、やはり若手の弁護士が公益活動に積極的に従事しておられる様子がうかがわれます。

つまり、貸与制にしてみても、弁護士は日常的に公益活動に従事することはあたりまえ(むしろ義務化されているところが多い)ですから、今の議論を前提とするならば、おそらくほとんどの弁護士が貸与されても返済免除になる、つまり実質的には給費制と変わらないことになるのではないでしょうか。どうも、いまの議論はあまり生産的なものではない、と思うのであります。国民に意見を問うのであれば、こういった実際の弁護士の業務の事情を踏まえたうえで、「弁護士が公益的な仕事をするのは当たり前、かりにお金のない人のために無償で仕事をしても、それでも返済免除は認めない」という方向性が妥当かどうか、という議論をしなければ、さらに将来に問題を残すことになると思うのでありますが。本当に素朴な疑問でありますが、この議論は弁護士の業務の実情を知っている方がどれほどなさっていらっしゃるのか、ちょっとよくわからないのでありますが。。。

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2010年10月20日 (水)

日清ラ王撮影騒動とイマドキのコンプライアンスリスク

(16時55分:追記あります)

ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、日清食品さんが、槍ヶ岳でのCM撮影において登山者に迷惑をかけた、として電通さん、製作プロダクションさんとともに環境省から異例の文書指導(厳重注意)を受けた、とのことであります。事件の内容等につきましては、こちらの朝日新聞ニュースをごらんいただだければ概ねおわかりになると思います。8月3日の槍ヶ岳山頂での撮影について、9月6日に問題発覚、その日のうちにCM撮影が日清食品のラ王に関するものであることが判明、9月8日には日清食品さんが「お詫び」をHPに掲載し、CM放映は自粛とのこと。

日清食品さんの不祥事対応はたいへん素早く、その危機管理能力の高さが図り知れるものではありますが、今回はむしろ日清食品さんがCM放映自粛にまで追い込まれた経緯についてのお話であります。こうやって企業の不祥事は発覚することもあるのだなぁ・・と、たいへん興味深いものがございます。

CM撮影のために登頂をいったん制止され、30分も足場の悪い場所で待機させられた67歳の登山者による「槍ヶ岳頂上を私物化?」という投稿が朝日新聞に掲載されたところ、朝日の読者がこの話題を2ちゃんねるにアップ。2ちゃんねるで「これはひどい!」「どこの食品会社だ?男性タレントって誰だ?」と盛り上がり、そこに別の登山者のブログが紹介されることで、男性タレントが特定されることになります。その男性タレントのCMに関するツイッターが紹介され、これで食品会社が特定され、その日のうちに日清食品さんの不買運動、といった話題にまで盛り上がってしまう、という経緯であります。ちなみに、食品会社特定のためのブログやツイッターは、とくに2ちゃんねるの盛り上がりに感化されて・・・というわけではなく、ごくごく私的なものが検索にひっかかって、「犯人探し」に活用されたようであります。この段階でマスコミも反応するようになり、2日後には日清食品さんが謝罪文書をHPに掲載する、ということになりました。

この2ちゃんねるの盛り上がりがなければ、日清食品さんの謝罪も、また環境省の厳重注意もなかったわけですので、今更ながら「2ちゃんねるの脅威」については認めざるを得ないでしょう。子細にこの経緯をみていきますと、

①67歳の登山者が、CM関係者の制止にもかかわらず「しびれを切らして」頂上まで上り、CM撮影の様子をみて、これを投稿内容に記述したこと(これがなければ、おそらく読者が2ちゃんねるに投稿する意欲がわかなかったと思われます)

②朝日新聞を丁寧に読んだ人が、「これはひどい」ということで、自ら2ちゃんねるにスレッドを立てたこと(おそらく「犯人探し」が始まることを期待してのことと思われます)

③2ちゃんねるの盛り上がりによって、食品会社と出演男優の特定のための作業が熱心に行われ、まったく別の登山者のブログやツイッターが見つけられたこと

などが重なって、今回の不正発覚に及んだものでありまして、著名な企業の不祥事は、このようにして大きな問題に発展していくこともある、ということを認識しておく必要があると思います。たとえば、この67歳の男性登山者が、「ヘリコプターが近づきますから、少し登山を待ってください」と言われ、しぶしぶ待っていて、「何の説明もなく登山を制止された」ことをボヤいただけでは今回の事件には発展しなかったのであります。義憤のあまり、関係者の制止を無視して登頂し、そこで垣間見たものを投稿の中で表現したからこそ、読者の心を奮い立たせたことは間違いないもので、こういったいくつかの偶然が重なっての不祥事発覚だったと思われます。

たしかに状況からみて、今回の件は日清食品さんも、電通さんも「申し訳ない」と謝罪するしかないと思われますが、こういったことに発展してしまう、という予想は「現場においては」まったく思い至らなかったのでしょうか?事前の(頂上における)撮影許可は得ておられるようで、許可条件としては「登山者に迷惑をかけないこと」「ヘリコプターは自粛してほしいこと」を申し渡されていたようであります。したがいまして、たとえ(自粛要請に反して)ヘリコプター撮影を敢行するにしても、その分、状況には十分に配慮しなければならなかったはずであります。(この状況で、制作会社にすべて委託していた・・・という理由は通らないものと思います)そこで、コンプライアンスリスクについては、3社間でどこまで認識されていたのか・・・というあたりは非常に関心を抱くところであり、日清食品さんのコンプライアンス委員会において十分に検証していただきたいところであります。

日清食品さんとしても、この登山者の方の投稿が朝日新聞に掲載されただけでは、「実はその会社はウチです。すいませんでした」とは(もちろん)ならなかったわけでして。67歳の登山者→2ちゃんねるでの盛り上がり→グーグル検索での犯人探し→不買運動という一連の流れはまったく想像がつかないところだったのかもしれません。著名な食品会社が絡んでいたからこそ、ここまで盛り上がってしまったのでしょうか。ヤフー掲示板における「犯人探し」は結構定番になりましたので、私も上場企業のリスクのひとつとしては認識しておりましたが(たとえば新聞で名前が掲載されている「犯人」が、実は●●会社の総務部長である、との指摘など)、こういった2ちゃんねるでのコンプライアンスリスクがあることも肝に銘じておきたいと思います。ホント、コンプライアンス経営はむずかしい。

(追記)午後4時55分にBLOGOSにて、意外にもランキング1位となりました。あまりブログでも話題になっていなかった件を取り上げましたので、ホントに意外です。

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2010年10月19日 (火)

あちゃちゃ!元監査役さんの横領事件(こりゃあかんわなぁ・・(^^; )

東証一部上場会社の元監査役の方が同社および同社健康保険組合から1億5000万円を横領し、自宅改築資金等に充当したとのこと(プレス工業さんのリリース)。事件発覚後、この元監査役さんは全額を返還されたそうであります。うーーーん、こりゃビックリのニュースであります(^^;;  以前、監査役会が機能していないことが「重要な欠陥」に該当し、内部統制は有効とは言えない、とする内部統制報告書を御紹介いたしましたが(京王ズHDさんでしたっけ?)、こういった事例も「監査役間での相互監視もできておらず、統制環境に大いに問題あり」として全社的内部統制に著しい不備がある、とされるのでしょうか。また、(この方は平成20年にすでに退任されているとはいえ)監査役監査報告にはどのようにお書きになるのでしょうか?社長が責任をとって減給(自主返上)・・・というのは、社長さんの監査役に対する監督責任??それとも内部統制構築義務違反の自認??いろいろと考えさせられるところが多いです。。

ニュースによりますと、この元監査役さんは、健康保険組合の職員に対して「絶対的な支配力」を利用して虚偽の伝票を作成させていた、ということですから、ここでも内部通報制度が機能していれば早期に発見できた可能性があります。いくつかの会計不正事件を御紹介したときにも申し上げましたが、不正から抜けられない従業員を早期に解放し、共同正犯としての逮捕から免れさせるためにも、もっと真剣に内部通報制度や公益通報者保護法の改正を考えていただきたいものであります。(ただ、通常は監査役さんに対して通報されるケースが多いのですが、監査役さんの不正・・・ということになりますと、それはそれでまたムズカシイかもしれませんが・・・)

ちょっと気になりますのが、着服したお金を全額弁償したことで、会社及び健康保険組合は元監査役さんに対して刑事告訴はしない、とのことだそうであります。これはみなさん、どのように思われますでしょうか?理事長としての立場を利用していたとはいえ、伝票を改ざんした「詐欺的行為」に近いものではないかと思われますし、健康組合職員も不正に巻き込んでおりますので、金員では償えない被害が会社側にも出ているのであり、かなり悪質ではないでしょうか。刑事告訴をしない、というのは素直に考えますと「見つからなければ着服したほうが得。やったもん勝ち」を認めることにはならないのでしょうか?不正行為に利用された職員さんは、本当にこの経営判断で納得されるのでしょうか?おそらく、刑事告訴はしないことを条件に、1億5000万円の即時回収を求めたからではないかと思われますが、立件された後に全額返還による「嘆願書提出」というのが正しいのではないかと。

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2010年10月18日 (月)

対象企業が選定しない監査法人と第三者委員会

すでに多くのブログ等で話題になっておりますが、EU域内の上場会社においては会計監査人を選定する権限を失い、規制当局が「監査人の起用や報酬、期間」についての決定権限を保有する可能性が浮上してきたそうであります。(ブルームバーグニュースはこちら)日本でも、たしか平成19年公認会計士法改正の機運が高まっていたころには、「監査のねじれ」を解消する選択肢のひとつとして、規制当局が監査人を選定する・・・ということも真剣に語られていたものと記憶しております。

欧州発といえばIFRSの適用問題がございますが、IFRSへのコンバージェンス、アドプションが極めて政治的な意味合いをもって語られるのであれば、日本でも今後同様の議論が出てくるのでしょうかね?ただ不正会計事件で証券取引所が提訴される時代ですから、粉飾決算が発生した場合に、当局による監査人選任責任を問うための国賠請求が(一般株主から)提訴されることは確実なわけでして、私は規制当局が監査人を選定する権限を行使することはないと予想しております。仮にあったとしても、株式会社の監査役固有の権限である「選任同意権」くらいまでではないかと。いま法制審でも議論されているところでありますが、日本独自の「監査役による監査人選任、報酬決定」というあたりの論点とも関連しそうであります。

ただ、監査対象企業が監査法人を選任するよりも、まったく独立した第三者が選任するほうが「監査への信頼」が高まる、というのは一理あるところです。この理につきましては、監査の問題に限らず、企業不祥事が発覚した際に依頼される「第三者委員会」の選任問題についても同様であります。そこで大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会が共同して登録名簿から委員を選定し、第三者委員会を「不祥事発生企業」に提供する制度(第三者委員会委員登録制度)も、外観的独立性を尊重し、ステークホルダーへ信頼される事実調査と原因究明を行うことを目的として発足いたしました(すでに当ブログでもご紹介しております)。報酬を支払う企業自身が選定する第三者委員会委員がはたして企業に対して不都合な事実を報告したり、本当の不祥事の原因を指摘できるのだろうか・・・という懸念は「外観的な独立性」の問題としては常にあるわけですから、制度発足に関与した者としては、ぜひ企業にも活用いただければ、と思っておりました。

本年3月の制度開始以来、なかなか活用される機会もなかったのでありますが、本日(10月17日)の朝日新聞(大阪版)で報道されておりますとおり、ようやく制度第一号の第三者委員会が活動することになりました。(構成は弁護士3名、会計士2名)要請がありましたのは新聞で報じられているとおり(一般企業ではなく)関西の某学校法人でありますので、金融庁マターの会計不正事件ではございません。しかし「第三者委員会」の活動場面は文科省、総務省、厚労省、国交省等が規制当局となります不祥事にも有益なものでありますし、場合によっては公共団体における問題にも対応しうるものであります。今後は会計不正事件のように(迅速性と正確性と独立性のバランスに配慮しなければならないような)ムズカシイ事案の第三者委員会事例にも耐えうるような体制作りを行っていくためにも、これからの第三者委員会第1号案件の活動に注目をしております。

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2010年10月14日 (木)

ACFE JAPAN第1回カンファレンスに参加いたしました!

2007年に日本での活動を開始しましたCFE(公認不正検査士)組織も、今年初めてカンファレンスを主催することとなりましたが、本日(10月13日)品川の東京カンファレンスセンターにて盛大にACFE JAPAN第1回の年次大会が開催されました。日本公認会計士協会、日本内部監査協会、日本監査役協会、日本取締役協会ほか多数の団体より御後援をいただいてのカンファレンス開幕、ということで、関係者の皆様も(マジで)たいへんなプレッシャーではなかったかと思いますが、満員御礼のなか(300名)、無事終了いたしました。ご参集されました皆様、本日は長時間、ありがとうございました。当組織の理事として、カンファレンスの準備にはほとんどお役に立てませんでしたが、登壇させていただき「盛り上げ役」に徹しましたので、それでなんとかご勘弁願えれば・・・・・・と。m(__)m

組織立ち上げ当初は、わずか20名ほどのCFEメンバーでしたが(なつかしいですね)、本日現在個人会員が800名を超えるほどになり、また法人会員も27社ほどに上り、やっと少しずつではありますが、CFEの知名度も上がってきたことは喜ばしいかぎりであります。第一回のカンファレンスを記念して、本場米国ACFEのジョナサン・ターナー氏、金融庁の佐々木清隆課長さんにも基調講演をいただきました。またシンポにおきましても、当組織設立時から運営に尽力いただいておりました八田先生の(毎度おなじみ)テンポの良い進行のもと、「企業集団と内部統制」というメインテーマを中心に、かなり有意義な意見交換ができたのではないかと思っております。また午前中のプレカンファレンスでは、各研究会の成果発表も開催され、こちらも多くの参加者がお越しになり、CFE制度の広報のためにはかなり役に立ったのではないかと思います。企業実務家、会計専門職、法律家が同一のテーマ(会計不正の発見、抑止のための内部統制等)を議論できる貴重な場となりつつあるなか、さらなる組織発展のために、CFE資格者拡大のためのお手伝いをしていきたいと思っております。

懇親会では、当ブログの常連の皆様ともお会いできて、楽しゅうございました。「国際監査基準」のマニュアル作りのこと、大手監査法人の品質管理のこと、内部統制報告制度の簡素化とIFRSの関係等、ブログネタになりそうなこともたくさん教えていただきましたし、素朴に疑問を抱いていることのヒントもたくさんいただけました。また(懇親会前ではありましたが)、金融庁検査課の方々ともお話ができましたが、大阪弁護士会と金融庁との勉強会なども(本当に)実現できたらいいですね。なお、時事ネタではございますが、内部統制報告実務の改正に関する部会がまた今月末くらいから動き出すようでして、近々「とりまとめ」も出てくるように某教授から風の噂でお聴きしました。

なお11月27日には、大阪でACFEのセミナーが開催されますので、関西在住の方でCFEの活動や、不正調査の実際をお知りになりたい方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会にお越しいただければと存じます(また広報させていただきます)。

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2010年10月13日 (水)

新ジャスダック始動にあたって(AJに寄稿いたしました)

ホテルオークラでの新JASDAQ統合祝賀パーティにご招待いただき、参加してまいりましたが、ものすごい人!元ブロガーのneon98さん(なつかしい!)と一緒に金融担当大臣の祝辞を拝聴しておりましたが、ふたりで「長っ!」笑

ということで、朝日AJ「法と経済のジャーナル」に「新ジャスダック始動にあたって」を寄稿させていただきました。

ちょうど金融法務事情の最新号にアドバックス仮処分事件(東京証券取引所および自主規制法人が債務者)の地裁決定、高裁決定が掲載されておりましたので、当事件およびエフオーアイ事件などを参考にしております。ご興味がございましたら、そちらでお読みいただければ幸いです。

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2010年10月12日 (火)

企業広報リスクと「記者会見の仕切り方」

Kishakaiken002 企業不祥事に関する危機管理(クライシス・マネジメント)の典型的な課題として、社長の謝罪会見、事故報告会見の乗り切り方を考える・・・というものがございます。リスク・コンサルタントの方々や、コンプライアンスに詳しい法律事務所などが主催して、いろいろなセミナーが開催されております。しかしよく考えてみますと、キビシイ質問を投げかける記者さん側からみた「正しい記者会見の在り方」というものは、これまであまり聞いたことがなかったような気がいたします。

この三連休、迷わず購入し、一気に読了してしまったのが、この一冊であります。「記者会見にいちばん大切なことを記者が教えます」(エフシージー総合研究所 産経新聞出版 1,600円 税別)エフシージー総合研究所はフジテレビさん、産経新聞社さんの関連企業で、20年ほど前から企業等の広報担当者の方々の指導をされていらっしゃる会社だそうです。この本では産経新聞社の編集長さんが解説をされたり、マスコミの取材責任者の方々がシミュレーション(メディアトレーニング)の講師をされているそうです。9つほどの想定事件(製品リコールや個人情報漏洩問題など)について、大手企業の社長さんや広報担当者が模擬会見を行うのでありますが、さすが新聞記者さんの監修・講義のもとで質問がされるので、臨場感があり、社長や工場長、広報担当取締役がどこでつまづくのかが、たいへんよくわかります。おそらく記者さん方と経営陣との会見の様子を読まれたら、あまりの恐ろしさにゾッとするのではないかと。。。9つのシミュレーションのなかには、監修者からみて、散々の出来のものや、かなり評価が高いものもあり、それぞれどこが良かったのか、悪かったのか、かなり詳細に解説が施されております。解説も、抽象的なことではなく、かなり具体的な指摘や提言が書かれてありますので、どこの企業でも活用できる内容になっております。なかには、私が以前会見指導を経験して大失敗した事例に酷似したものもあり、「忘れようとしていた記憶がよみがえって」しまいました。

また、取材する記者がどうして誘導尋問のように厳しいものとなるのか、なぜ記者がツッコミをいれたくなるのか、記者会見のどの場面で企業は新たな「二次不祥事」を犯してしまうのか、ということがとてもよく理解できます(ちなみに船場吉兆事件のあの「囁き」は2時間の記者会見のうちの最後の5分のところでしたね・・・)。本書はおそらく大手企業の広報担当者向けに書かれたものだと思いますが、ぜひ企業の経営者の方にお読みいただきたいですし、企業コンプライアンス問題に接する機会の多い法曹の方々にもたいへん参考になろうかと思います。といいますのは、本書は記者会見の乗りきり方・・・という、きわめて表面的で技術的なレベルの知識を教えるようなものではなく、題名のとおり、企業が不祥事を起こしてしまったときの「真正面から向き合う姿」にこそ焦点をあてているからであります。つまりは有事に記者会見を乗り切ることができる経営陣というのは、結局のところ平時からリスク管理のPDCAがしっかり理解され、実践されている、ということに尽きるのではないかと思います。有事になって高額でコンサルタントの指導を受けたとしても、平時からリスク管理がなされていなければ、結局記者の餌食になってしまう確率は高い(企業の信用を毀損する二次不祥事を発生させてしまう)、ということが理解できるところであります。時間に追われて取材をする記者さん方が、決して挑発や困惑を目的として「意地悪な質問」をしているのではなく、背景に国民が控えているために「誤報は許されない」「特オチは許されない」という緊張状態のなかで、あのような質問となることもよく理解できました。

普段「しょーもない」と思っている軽微なコンプライアンス問題が、そのまま放置されていたことで、有事に「ヒューマンエラー」の原因として結び付けられてしまう・・・というオソロシサも実感できる本であります。(この本は、たぶん売れるだろうなぁ・・・・と。)

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2010年10月10日 (日)

法務担当者からみた「リスクが最も高いのは規制法の順守」

10月9日の日経朝刊の記事に、デロイトトーマツFASさんの調査結果(集計数170社の法務担当者に聞きました:あなたが最もリスクが高いと考えてい項目は?という質問に対する回答)が掲載されております。高い順から「規制法の順守」(5.3)→「証券市場の開示規定の順守」(4.1)、最も低かったのが「訴訟への対応」(2.9)だそうであります。トーマツFASさんの分析では「不正の厳罰化に向けた相次ぐ法改正に伴う、公正取引委員会や証券取引等監視委員会などの活発な動きを反映した結果」とのこと。

たしかに不正の厳罰化、当局の活発な動き・・・というあたりも問題なのかもしれませんが、むしろ私は「規制法の順守」が法務リスクとして最重要視されるのは当然のことであり、とくに時節的な変動なく法務担当者にとっては文句なしの関心項目だと認識しております。憲法で保障されている営業の自由は公共の福祉によって制約されるわけでして、とりわけ「行政裁量」によって至るところで企業の活動は制限されております。業法違反は「営業停止」や「商品の販売停止」につながることになるわけで、いわば「企業の死活問題」であります。担当者や顧問弁護士に任せておけばよい「訴訟の対応」どころの話ではございません。私が最近、本業で経験したところだけでも、リコールの基本方針が行政当局に納得してもらえず、商品の販売が長期間再開できなかったとか、食中毒の原因分析が甘く、事件発生場所の営業停止だけでなく、全店営業停止という事態に至ったなど、もはやコンプライアンスなどという言葉では済まない状況に立ち至るケースがございます。

また「法務担当者」が活躍できる場面も「規制法」の分野ではないかと思います。つい先日、大阪弁護士会がある会員向けサービスを開始しようとしたところ、郵便法との関係で若干の問題があることがわかりました。郵便事業者のみに認められている「信書の送達」(郵便法第4条2項)における「信書」の解釈が問題となり、こちらのスキームを説明したうえで、サービスが郵便法に違反していないかどうか問い合わせたところ、近畿総合通信局はオッケーであったにもかかわらず総務省はノー(郵便法に抵触するおそれあり)との回答。こちらは、総務省の判断理由から、どうすれば総務省が責任を負わないようにスキームを説明すればよいか、信書送達の運用状況と比較して、今回の総務省の回答結果に解釈の矛盾はないか、といったことを精査のうえ、再度回答を申し入れたところ、最終的には「そのスキームならオッケー」との回答を得ました。「グレーゾーン」は保守的にみれば「黒」と解釈できますが、それをいかにして「限りなく白に近いグレー」とするか、たとえ結果的に黒であったとしても、「白に見せたのはあなたですよ」といった申し開きの余地を行政当局に残してあげるか、といったあたりを考え抜くのも法務担当者の力ではないか、と思います。(一見して『弱腰』に思えるかもしれませんが、このあたりが現実問題として法務リスクを回避して事業の継続を図るための知恵ではないか、と思います。)

コンプライアンス経営を重視する企業であれば、行政との事前交渉の重要性は十分認識されておられると思いますが、事業をスタートさせることができるかどうか、事業を継続させることができるかどうかの瀬戸際で法務スタッフはその力量が問われるのでありまして、所詮行政処分は「いかにして行政目的を達成することができるか」「行政に責任が転嫁されないようためにはどう判断するか」といったことの積み重ねによって裁量権が行使されるのが現実だと思われます。ルールベースからプリンシプルベースへと規制手法が進む傾向にある現在、ますます各社法務部の実力の差が企業価値に影響するのではないでしょうか。また、過去に何度も申し上げているとおり、裁判はしないけれども、行政当局との交渉を専門とするような「行政法専門弁護士」が待望される所以であります。企業のエースを法務部に配属すべき・・・という持論は、まさにこの点にあるのでして(度胸と緻密な思考と相手への思いやり)、「規制法」の分野は人間の総合力が試される場ではないか、と。

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2010年10月 8日 (金)

ベンチャーにとって大切な本とブログ

Isozaki001_2 もはや街場の話題になっている本ですから、当ブログでご紹介するまでもないとは思いますが、磯崎さんの処女作「起業のファイナンス-ベンチャーにとって一番大切なこと-」(磯崎哲也著 日本実業出版社 2200円)を読ませていただきました。決してレンジに入れて、本をバラして、スキャンして電子書籍にしたわけではございません。きちんと一冊の本としての体裁を整えたまま通読いたしました。

最近は時々、東京でお会いすることがありますが、お食事をご一緒したときの磯崎さんのエピソードが印象的。たしか私も磯崎さんも、同時期に東京杉並の小学校に通っていた・・・といった話で盛り上がっていたとき、

「小学校のとき、『徒競争』ってありましたよね?ボク、一回ビリになったことがあるんですよ。『ヨ~イ!』の合図で下を向いたときに、地面にめずらしい虫がいたんです。その虫に夢中になっちゃって、ピストルが鳴るの気付かなかったんです」(笑)

このエピソードは磯崎さんのブログを愛読する者として、なにかすべてを象徴しているように思います。誰かの読み方を真似して、みんながライブドアの決算書をワイワイ議論しているときに、「ちょっとまてよ、こういった読み方もあるんじゃないの?」と、今まで誰も気づかなかったような核心を突いた推論を展開される。そういった人だからこそ、「ベンチャーにとって一番大切なこと」をわかりやすく解説できたりするのではないでしょうか。

たとえば「ストックオプション活用」に関するお話。IPOに携わる法律家であれば、プルータスさんあたりが書かれた「新株予約権、種類株式活用の実務」を定番として読むことになるのですが、「イケてる社長さん」でも、これを理解するのはかなりしんどいのではないかと思います。しかし、この「起業の・・・」では、ストックオプションが「社員や会社関係者に幸せになってもらうため、夢を共有してもらうため、ビンボー会社が一流企業に対抗するため」の武器であることを、法律の素人である経営者(予備軍)の方にわかりやすく解説してくれています。ホント、ストックオプションにとって一番大切なことは、人の気持ちを考えることや、将来予想される人間ドラマを連想しながら設計することであることが理解できますし、そういったことがが法律や会計スキルを理解するうえでも重要なんだなぁと感じました。会社法のファイナンスがなんとなく苦手・・・というロースクールの皆様にも、私が申し上げるのも何なんですが、法規制の趣旨や契約条項の意味まで理解できるようになる(かもしれない)、かなり「イケてる本」ですので、どうかご一読いただけたら・・・と。

∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇

そして次はベンチャーをお考えの皆様、そして関係者の皆様にとって、非常に有益なブログをご紹介いたします。こちらも既に話題になっておりますので、ご存知の方も多いかもしれませんが

ベンチャー法務の部屋(弁護士森 理俊のブログ)

先の磯崎さんの著書にも登場する(ベンチャー支援で有名な)AZX総合法律事務所ご出身の弁護士で、今年1月、ご尊父が経営されておられる大阪の名門事務所に戻ってこられた方の「期待の」法務ブログであります。東京の法律事務所で7年間実務に従事されてこられたので、ビジネスローとしての感覚は抜群でして、我々IPO企業統治システム研究会の期待の星であります。9月1日にブログを開設されたのですが、「ひょっとして三日坊主かも」と思い、しばし静観させていただいておりましたが、日を追うごとにブロガーとしての素材が垣間見えてくるようになり、このところは本家(?)を凌駕する勢いとなりましたので(笑)、ここにご紹介する次第であります。

内容は私がどうのこうのと申し上げるよりも、ご一読いただければ、そのレベル感もおわかりになるかと。。。このままブログの更新が続くのであれば、おそらく「ベンチャーにとってとても大切なブログ」になるのではないか、とひそかに期待をしております。(昨日の私のセミナーにお金を払ってお越しいただいたから義理でご紹介した・・・というわけでは決してございませんよ(^^;;>森先生 笑)

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2010年10月 7日 (木)

日立工機社海外子会社の不適切会計処理と調査方法の是非

出版記念講演を無事終えることができました。本日はビジネスタイムにもかかわらず、多数お集まりいただき本当にありがとうございました。<m(__)m> また、このような場を設けていただきました経済産業調査会の皆様に厚く御礼申し上げます。拙著で書き足らなかったところ、とりわけ「内部通報に基づく調査活動の適法性を担保するための手法」等お話したことにつきまして、今後の実務のご参考になれば幸いです。同業者の方々も結構お越しいただいておりましたので若干緊張しましたが、法律解釈等、ご不明な点がありましたらメールでお問い合わせください。なお、おかげさまでこのたびの記念講演が好評だったことで、本部(東京)でもほぼ同じ内容の出版記念講演をさせていただくことになりました。日程等正式に決まりましたら、また当ブログでも広報させていただきますので、関東地区の皆様、どうかよろしくお願いいたします。<(_ _)>

本題でありますが、昨日(10月5日)日立工機さん(東証・大証一部)の海外子会社で、約5年にわたり売上高100億円(営業利益40億円)程度の架空売上が発覚し、当子会社では過大な営業投資による業績悪化を隠ぺいしていた模様である・・・とリリースされております(当社連結子会社の不適切な取引および会計処理について)。実際に株価にも影響が出ている模様であります(ニュースはこちら)。日立工機さんから出向していた社長さんの指示により、粉飾が行われていたようで、10月4日に懲戒解雇、10月5日に全容解明等のため第三者委員会が正式に立ち上げられた、とのこと。今年の不正会計事件の特徴として、本当に企業集団における内部統制に疑問のある事例が多いと感じます。会社の業績が安定しているようにみえることから、長く子会社の経営トップの地位が変わらない・・・ということ、子会社の調査が困難であり(とくに今回のような海外子会社であればなおさら)、いわゆる「異常の兆候」が発見しにくい・・・といったことが原因と思われます。ただし本件につきましては、内部統制基準に基づく評価範囲に含まれている子会社だったのかどうかはわかりませんが・・・・

ところで、本リリースを読みまして、ふと気がついたことがあります。日弁連第三者委員会ガイドラインでは(弁護士資格を有する委員について)独立の第三者が委員として構成することが望ましい、不祥事発生会社の顧問弁護士は「独立の第三者」には該当しない、とされていますが、当社第三者委員会の委員として、(親会社の)顧問弁護士の方が就任されておられます。そして、「なお書き」として「当社と全く利害関係を有しない第三者のみによる調査を行うという形態はとっておりません」と(その理由とともに)記載されております。東証自主規制法人は今年8月に「上場管理業務について-虚偽記載審査の解説-」を公表し、不適切な会計処理が発覚した上場会社においては、日弁連ガイドラインに沿った形で第三者委員会を立ち上げて調査を行うように指導されているようで、すでに日弁連ガイドラインに準拠して調査を行う(行った)と明示するものが3例ほど出ております。しかしながら、すでに何度か当ブログでも述べておりますとおり、事案によってはこういった会社の事情を精通した人が委員として就任する第三者委員会の在り方(社内調査検証型、非完全独立型)も検討されるべきであり、私は肯定的に解しております。

本件のように連結子会社の経営トップの不正を調査するようなケースでは、「経営トップによる号令」が効きません。強制捜査権限を有しない第三者委員の調査活動が短期間で奏功するためには、当該会社の経営トップの「調査協力宣言」が不可欠であります。しかしそのような宣言が得られない状況で実効性のある調査を遂行するためには、社内の事情に精通していたり、調査取引(社員の免責を約束しながら、社長の不正を正直に証言してもらう)に必要な信頼関係が前提となります。そこで、独立性には若干目をつぶってでも、調査の実効性、即効性を重視することも妥当ではないかと思われます。

また、あらかじめ子会社自身における調査が期待できない以上、親会社主導の社内調査により「異常な兆候」とその異常性を裏付ける合理的な証拠を得る必要があります(経営トップを納得させる、もしくは潜行する調査活動の合法性を担保するため)。連結子会社といえども「独立した法人」であるため、親会社と業務委託契約を締結している第三者委員会の新たな調査活動は、デュープロセスの下で行われる必要があります(企業集団の内部統制と人権保障とのチェックアンドバランス)。そのためには、常に社内調査の内容をチェックしながら調査を遂行する必要がありまして、少なくとも社内調査委員もしくは委員補助を担当した者が第三者委員会の活動に関与し、社内調査委員会との連携を図ることは不可欠と思料いたします。

海外子会社となりますと、設立準拠法の適用が優先し、調査活動のリーガルリスクは高まるわけでありますし、なおさら臨機応変な調査活動が要請されるところであります。懲戒処分を優先させて、調査を遂行しやすい状況としたうえでリリース・・・ということで、不祥事の公表のタイミングについても、かなり考慮されているように思われます。また、報告書の提出予定が10月中旬ということで、極めて迅速に調査結果を出される(そのために正式決定以前から活動は一部されている、とのこと)ようで、たいへんビックリしております。日立工機さんのような社内調査委員会、社外調査委員会の構成および役割分担は、企業が自浄能力を示すための調査活動に困難が伴うような事例におけるモデルケースになるのではないでしょうか。

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2010年10月 5日 (火)

街場のコーポレート・ガバナンス改正素案

ブログで言いたいことを自由に書くのと違い、日弁連の看板を背負って提言を行う・・・ということは、そのプレッシャーの大きさからすれば雲泥の差であります。何よりも、まず日弁連のなかで多くの方のご批判・ご異論を頂戴し、提案を何度も再考し、次に外部団体から多くのご意見をいただき、「言いっぱなし」にならないよう、提言の実現可能性を探る・・・というのは、甚だたいへんな作業であります。

本日も、朝から日弁連→議員会館→JASDAQ-OSEプラザ(大証・東京事務所)と渡り歩きまして、かなりハードな一日でした。とくに、議員会館では、公開会社法PTの事務局長の方(大久保勉氏)と1時間ほどコーポレートガバナンス改正に関する某日弁連PTの素案(未だ本当に素案です・・・)についてお話をさせていただきましたが、素案に対するご意見もさることながら、いかに(経済団体や役人の方々との軋轢を少なくしながら)具体化(実現化)すべきか・・・というプロセスに関するヒントをいくつか頂戴しました。これは「なるほど!」と思いました。これからやるべき道筋が少し見えてきたような気がします。大久保議員とのこういった協議は継続的にやってみたいなぁ。なんだかこっちが国会議員の方から元気をもらったみたいで、少し申し訳なかったかも。。。今日は民主党内がいろいろたいへんだったのに、お時間いただきましてありがとうございました。m(__)m

あと、本日ソウル駐在の弁護士の方から教えていただいたのですが、「遵法監視人」制度(遵法監視員かも?)が一定規模以上の大企業において制度化するための法案が、韓国の国会に提出されているようであります。遵法監視人制度は、すでに韓国が通貨危機によってIMFの支援を受けるようになった1997年ころより、金融機関においては制度化されているそうですが、今回これを一般企業にも制度化する、というもの。英訳するとコンプライアンス・オフィサーということでして、大学教授や5年以上の実務経験を有する弁護士・公認会計士が対象とされております。常勤職でして、経営にも参画する立場にもあるらしいそうですが、制度改革のスピードが速い韓国では通用しても、果たして日本ではコンプライアンス・オフィサーは定着するでしょうか。制度の定着は良いとしましても、企業不正が発生したときの責任問題を考えますと、「誰も就任しないのでは?」といった一抹の不安もありそうです。

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2010年10月 4日 (月)

会社法からみた企業の社会的責任論(歴史編)

週末はFD改ざん事件に関するエントリーに多数のコメントありがとうございました。今回の件はマスコミも正確に報道するのがムズカシイと思います。どなたかがおっしゃっておられるように「ヤメ検」先生の解説も、なかなかお立場上コメントがムズカシイでしょうね。こういうときこそ、葉玉先生の「会社法であそぼ」あたりで解説をお聴きしてみたいです(笑)。

話はまったく変わりますが、最近とても関心を持っておりますISO26000との関連で、いまから35年ほど前の法律論文などを3つほど、週末に読んでおりました。当時議論が盛り上がっておりました「会社法とCSR(企業の社会的責任)」に関するものであります。(昔の論文では、社外取締役とか社外監査役という用語は使われず「社外重役」という用語が一般的だったのですね・・・)

昭和49年の商法改正の際、衆参両議院の法務委員会は、企業が社会的責任を果たしうる改正案を早期に提出するよう政府に求めたのでありまして、その結果として昭和50年6月、法務省民事局参事官室は「法改正に関する意見照会」を各業界団体へ提出したような経緯があります。要は取締役について社会的責任に対応する行動をとることを義務付ける条文をいれるべきか、それともこれまでの株式会社制度の改善を通じて、会社が社会的責任を実現できるような道を探るべきか、という選択の問題でありまして、結論としては圧倒的に後者の改善策を支持する回答が多かったようであります。

昭和49年頃といえば、最高裁の判例などをみてもかなりリベラルな雰囲気が法曹界にも漂っていた時期でありますので、「会社法とCSR」の法曹界における論争も、きわめてイデオロギー的な発想によるものではないかと思っておりました。実際に司法試験においても、(少なくとも私が受験していた25年ほど前は)重要な論点とはされていなかったように記憶しております。ただ、当時の「社会的責任と会社法」に関する論文を読んでおりましたところ、ちょっと私の誤解があったようで、「会社法とCSR」の論争はけっしてイデオロギー的な背景によるものではなく、今読んでも現代の会社法に十分通用するような極めて格調の高い論争であったことを初めて知りました。

いくつか論文を拝読いたしましたが、松田二郎博士(元最高裁判事)VS竹内昭夫教授(東大)の論争における竹内先生の論文「企業の社会的責任に関する商法の一般規定の是非」(商事法務722号33頁)は、最も印象的なものあります。竹内先生は鈴木竹雄先生と同じく「株式会社の社会的責任に関する一般規定導入」反対論の立場でありますが、なぜ反対するのか、といった根拠について、①内容が不明瞭、②いったい誰が、どのような方法で一般規定を使用できるのかわからない、使い方次第では訴訟濫用につながる、③経営者の裁量の幅がはなはだ不当に拡大するおそれがあり、無益どころが有害である、とのこと。会社法はあくまでも私法的法規であり、裁判規範性を有するものであるから、そこに一般条項として社会的責任に関する条項はなじまない、とされています。ただ、社会的責任の議論が重要ではないとしているわけではなく、竹内先生も「問題は一般的抽象的な規定を置くことではなく、企業にとっての社会的責任とは何かを考察し、それを実現するための規定、それを実現するための制度を検討し、そのうち会社法の中で規定すべきものを選択して具体的な規定を加えていく努力をしなければならない」と結論付けておられます。ちなみに竹内昭夫教授は、後年自身の著書「株式会社法」のなかで、社会的責任論争は「会社法とは何か」という極めて格調の高い論点を扱うものであったが、同じころに改正の論点であった「総会屋対策」は、なぜこのようなことを会社法で議論しなければならないのか、本当に悲しい思いであった・・・と嘆いておられます。

いま語られているCSRも、その概念自体語られる人にとってマチマチですし、はたして法律の世界に取り込まれるべきものかどうかは未知数であります。ただ、当時はハードロー、ソフトローといった考え方もあまり見当たらなかったわけでして、もしソフトローという概念が存在していたのであれば、たとえば証券取引所の自主ルールによって(行動規範によって)、あるいは機関投資家や投資運用会社による議決権行使運用基準等によって、さらにはSRI(社会的責任投資)や間接金融条件等によって、会社法で定めるべき方向性を模索する、といったことも検討されたのかもしれません。また、松田二郎博士が自身の論文で触れておられるとおり、一般条項の内容が不明瞭である点や裁判規範性に乏しいところは、判例の積み重ねによって補足されれば良いのではないか・・・という点も十分に検討されるべきではないかと思います。

ところでイマ風にいえば、会社法(または商法総則において)一般条項を付記することで問題が起きそうなものってどのような問題なのでしょうか。「ステークホルダーの定義」「一般株主の利益保護」「コンプライアンス」「取締役の独立性」といった議論にも通じるようなものではないでしょうか。「会社法上の内部統制」あたりのテーマも、実は内容がわかったようで、あまりわかっていない不明瞭な部類に入るのかもしれません。竹内教授風に申し上げるならば、企業を攻撃する側にも、また防御する側にも極めて便利で、内容が不確定な「孫悟空の如意棒」のような概念が、会社法解釈や会社法改正論議のなかでときどき活用されているような気もいたします。

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2010年10月 3日 (日)

検察幹部の立件はそんなに簡単なものではないかも・・・・・

(10月3日夕方:追記あり)

DMORIさんがコメントでおっしゃるとおり、私的には非常にコメントしづらい話題でありますし、テレビを視ておりましたら、おつきになっておられる弁護人も、存じ上げている方(ヤメ検の先生)でありますので、この事件はごくごく「野次馬的」な感想しか書けなくなってきました・・・・

法律家の方には「あまりにも当然のこと」で、おもしろくないかもしれませんが、法律家以外の方に知っていただきたいことは「犯人隠避罪」というのは、本件ではそう簡単には立件できないのではないか、ということであります。要するにM検事がフロッピーディスクを故意で書き換えたことを検察幹部の方々が知っていて放置していた、ということだけでは犯罪は成立せず、「放置+α」の部分が「隠避」と評価できないと成立しない、ということであります。犯人蔵匿罪と一緒に刑法上は規定されておりますので、「犯人と知りつつ、官憲の捜査を免れるように自宅でかくまった」といった行動と同様に評価できるほどの行動があってはじめて「隠避」行為が認められる、というものです。マスコミ報道では、この「+α」の部分を「故意に書き換えたことを隠ぺいしていた疑いが濃厚となった」と抽象的な表現がなされておりますが、この「隠ぺい」とは具体的には何を指すのか?ということであります。

ちなみに日経新聞の検察幹部ら逮捕に関する記事から、この部分(逮捕事実)を拾い上げますと

O前部長らの逮捕容疑は、M検事が捜査資料のフロッピーディスク(FD)のデータを意図的に改ざんしたと知りながら、

①今年2月上旬ごろ、東京に応援派遣中のM検事に対し、以後は改変を過失によるものと説明するよう電話で指示したこと

②同月10日ごろ、M検事が持参した報告書の内容を修正させるなど、故意ではなく過失だとすり替え、M検事の検挙を見合わせたこと

以上のふたつが「+α」として適示されております。ちなみに内部告発をされた4名の若い検事の方々の証言が重要なのは2つのステージに分かれておりまして、まず最初のステージが「意図的に改ざんしたことを知りながら」の部分に関する点であります。検察幹部らは最初から「M検事の故意による改ざん」であることを知っていた、という点です。

もうひとつのステージは「自分たち(検察幹部の方々)の改ざん事件放置によっても、本件は闇に葬られない」という点であります。「犯人蔵匿罪」と同等評価される「隠避行為」といえるためには、たとえ犯行時点では官憲の捜査が開始されていなくても、将来的にはその可能性があることは必要であります。(可能性がなければ保護法益の侵害危険性が認められないため。)そうしますと、偽装工作を行う時点で、すくなくとも行為者らには「官憲による捜査の可能性に関する認識」は必要でしょうから、たとえば「この若手検事らによって公表されるかもしれない」「もっと上層部に直訴されるかもしれない」といった認識が必要かと思われます。「部長が調査しないのであれば、私が公表して辞職します」といったセンセーショナルな言葉がマスコミ取材で登場したのは、おそらく検察幹部が「このまま放置していては、本件はもっと上部において捜査対象となるかもしれない」といった認識を有していたことが、どうしても立件のためには不可欠だったからだと推測いたします。「+α」の事実があいまいなものだと、結局のところ検察幹部らは「自分のミスを隠したかったのか、M検事の犯罪行為を隠したかったのか」特定できなくなるおそれがありそうです。

したがって、この+αの部分は、「公表しますよ」といった若手検事の言動に加えて、①および②(もしくは①と②の事実のいずれか)の客観的事実が「合わせ技」となって、はじめて成立するのではないかと。おそらく逮捕状はM検事の証言によって請求されたものと思われますが、本日の報道をみますと、逮捕された検察幹部方々は完全に否認をして無罪を争う、ということのようですから、①および②の事実については「言った」「言わない」の世界になるのではないかと。ちなみに最高検はM検事のパソコンから、消去されていた顛末報告書の復元に成功したそうでありますが、この報告書も検察幹部から指示される前の報告書と後の報告書のいずれも復元されたのかどうかもわからず、客観的な証拠としての価値は未知数のように思われます。そうしますと、この「+α」の部分は、逮捕事実とは別の事実をもってくるか、上記①、②の事実を補強できる客観的な証拠が登場するか、というあたりが今後捜査上の争点になってくるのではないでしょうか。(そう考えますと、最高検が検事7名体制から18名体制に大幅拡大したことも頷けるように思います)また、最高検は元大阪高検検事長の参考人聴取まで視野に入れている、と報じられておりますが、これも「+α」の立件のためには必要と思われますので、当然のことかと。

前エントリーのコメント欄でJFKさんがおっしゃるように、こういった事案に犯人隠避罪を適用するとなりますと、今後の一般企業における内部告発事案などにも影響する可能性がありますね。内部告発を放置していた企業経営幹部の方にも、むやみに刑事罰が課されるようなことにならないためにも、この「+α」の立件は誰もが納得できるような事実を、納得できるような証拠によって世間に示すことがポイントになってくるかと思われます。

(追記)

本日の読売新聞ニュースの記事(供述対立、「隠避」立証に高い壁…最高検は自信)を読みましたが、やはり犯人隠避罪立証については専門家の間でも疑問が呈されているようであります。「故意でM検事がFDを改ざんしたことを知りつつ、上には『過失だった』と報告したこと」や「公表しようとした若手検事を現場から移動させた」などといった事実を捉えて「隠避」と評価する・・・ということも考えられそうなのですが、「自分達のミスを隠す」のではなくて、「M検事の官憲による捜査の可能性を隠す」というところが「隠避」の核心となりますので、「たとえ若手検事らによって公表されても、M検事の立件が困難となることへの働きかけ」というところに焦点を置かざるを得ないものと思われます。

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2010年10月 1日 (金)

(元)京都地検次席検事逮捕への雑感・・・・・

元京都地検次席検事の方が逮捕された、とのこと(10月1日付けで大阪高検総務部付けに異動とのこと)。諸事情ございまして、気の利いたことは申し上げられませんし、本件にはあまり深入りすることは避けますが、8月11日付け朝日「法と経済のジャーナル」の佐渡委員長(証券取引等監視委員会:元東京地検特捜部副部長)インタビューが、これまでのマスコミ報道のなかで最も核心を突いているのではないか、と思います。(有料情報なので、閲覧できない方もいらっしゃるかもしれませんが・・・)

同インタビューのなかで、佐渡委員長は村木さんの事件捜査を痛烈に批判しておられ(すでにこの時点で検察官個人の問題ではなく、部長・副部長クラスの組織の問題だと指摘しておられ)裁判員制度施行により、優秀な検事は公判担当検事に抜擢され、特捜検察が疲弊していることを明快に述べておられたのが印象的であります。そういえば、これまで裁判員制度と検察の人的・物的資源との関連、という視点ではあまり取り上げられていないように思います。「元特捜検事」という方々も、この点では自身の経験に基づいてお話することはできないでしょうし、マスコミも少し取り上げにくい構図ではないかと。裁判員制度は、今後もますます検察、とりわけ捜査検事を疲弊させていくのでしょうか?

私個人の雑感ではありますが、内部告発代理人や内部通報窓口業務の経験からすると、やはり女性の力はすごいなぁと改めて感じます。組織を動かすのは、やはり今回も

「もし調査をしないのであれば、私は検事をやめます」

組織の空気を変えることができるのは、やはり女性の力だと改めて認識したような次第であります。若手の女性検事はどんどん増えているようですから、黙っていても検察の雰囲気は変わっていくのかもしれません。

検事→弁護士(いわゆるヤメ検先生)、弁護士→判事、そして判検交流はよく聞く話でありますが、弁護士→検事という流れは(過去には多少ありましたが)ほとんど聞きませんね。(最近の指定弁護士制度は別として。)佐渡委員長がおっしゃるように、国税やSESCとの情報交換等も大切だと思いますが、在野法曹との人材交流などもこれから検討課題になってくるのではないでしょうか。

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