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2010年10月20日 (水)

日清ラ王撮影騒動とイマドキのコンプライアンスリスク

(16時55分:追記あります)

ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、日清食品さんが、槍ヶ岳でのCM撮影において登山者に迷惑をかけた、として電通さん、製作プロダクションさんとともに環境省から異例の文書指導(厳重注意)を受けた、とのことであります。事件の内容等につきましては、こちらの朝日新聞ニュースをごらんいただだければ概ねおわかりになると思います。8月3日の槍ヶ岳山頂での撮影について、9月6日に問題発覚、その日のうちにCM撮影が日清食品のラ王に関するものであることが判明、9月8日には日清食品さんが「お詫び」をHPに掲載し、CM放映は自粛とのこと。

日清食品さんの不祥事対応はたいへん素早く、その危機管理能力の高さが図り知れるものではありますが、今回はむしろ日清食品さんがCM放映自粛にまで追い込まれた経緯についてのお話であります。こうやって企業の不祥事は発覚することもあるのだなぁ・・と、たいへん興味深いものがございます。

CM撮影のために登頂をいったん制止され、30分も足場の悪い場所で待機させられた67歳の登山者による「槍ヶ岳頂上を私物化?」という投稿が朝日新聞に掲載されたところ、朝日の読者がこの話題を2ちゃんねるにアップ。2ちゃんねるで「これはひどい!」「どこの食品会社だ?男性タレントって誰だ?」と盛り上がり、そこに別の登山者のブログが紹介されることで、男性タレントが特定されることになります。その男性タレントのCMに関するツイッターが紹介され、これで食品会社が特定され、その日のうちに日清食品さんの不買運動、といった話題にまで盛り上がってしまう、という経緯であります。ちなみに、食品会社特定のためのブログやツイッターは、とくに2ちゃんねるの盛り上がりに感化されて・・・というわけではなく、ごくごく私的なものが検索にひっかかって、「犯人探し」に活用されたようであります。この段階でマスコミも反応するようになり、2日後には日清食品さんが謝罪文書をHPに掲載する、ということになりました。

この2ちゃんねるの盛り上がりがなければ、日清食品さんの謝罪も、また環境省の厳重注意もなかったわけですので、今更ながら「2ちゃんねるの脅威」については認めざるを得ないでしょう。子細にこの経緯をみていきますと、

①67歳の登山者が、CM関係者の制止にもかかわらず「しびれを切らして」頂上まで上り、CM撮影の様子をみて、これを投稿内容に記述したこと(これがなければ、おそらく読者が2ちゃんねるに投稿する意欲がわかなかったと思われます)

②朝日新聞を丁寧に読んだ人が、「これはひどい」ということで、自ら2ちゃんねるにスレッドを立てたこと(おそらく「犯人探し」が始まることを期待してのことと思われます)

③2ちゃんねるの盛り上がりによって、食品会社と出演男優の特定のための作業が熱心に行われ、まったく別の登山者のブログやツイッターが見つけられたこと

などが重なって、今回の不正発覚に及んだものでありまして、著名な企業の不祥事は、このようにして大きな問題に発展していくこともある、ということを認識しておく必要があると思います。たとえば、この67歳の男性登山者が、「ヘリコプターが近づきますから、少し登山を待ってください」と言われ、しぶしぶ待っていて、「何の説明もなく登山を制止された」ことをボヤいただけでは今回の事件には発展しなかったのであります。義憤のあまり、関係者の制止を無視して登頂し、そこで垣間見たものを投稿の中で表現したからこそ、読者の心を奮い立たせたことは間違いないもので、こういったいくつかの偶然が重なっての不祥事発覚だったと思われます。

たしかに状況からみて、今回の件は日清食品さんも、電通さんも「申し訳ない」と謝罪するしかないと思われますが、こういったことに発展してしまう、という予想は「現場においては」まったく思い至らなかったのでしょうか?事前の(頂上における)撮影許可は得ておられるようで、許可条件としては「登山者に迷惑をかけないこと」「ヘリコプターは自粛してほしいこと」を申し渡されていたようであります。したがいまして、たとえ(自粛要請に反して)ヘリコプター撮影を敢行するにしても、その分、状況には十分に配慮しなければならなかったはずであります。(この状況で、制作会社にすべて委託していた・・・という理由は通らないものと思います)そこで、コンプライアンスリスクについては、3社間でどこまで認識されていたのか・・・というあたりは非常に関心を抱くところであり、日清食品さんのコンプライアンス委員会において十分に検証していただきたいところであります。

日清食品さんとしても、この登山者の方の投稿が朝日新聞に掲載されただけでは、「実はその会社はウチです。すいませんでした」とは(もちろん)ならなかったわけでして。67歳の登山者→2ちゃんねるでの盛り上がり→グーグル検索での犯人探し→不買運動という一連の流れはまったく想像がつかないところだったのかもしれません。著名な食品会社が絡んでいたからこそ、ここまで盛り上がってしまったのでしょうか。ヤフー掲示板における「犯人探し」は結構定番になりましたので、私も上場企業のリスクのひとつとしては認識しておりましたが(たとえば新聞で名前が掲載されている「犯人」が、実は●●会社の総務部長である、との指摘など)、こういった2ちゃんねるでのコンプライアンスリスクがあることも肝に銘じておきたいと思います。ホント、コンプライアンス経営はむずかしい。

(追記)午後4時55分にBLOGOSにて、意外にもランキング1位となりました。あまりブログでも話題になっていなかった件を取り上げましたので、ホントに意外です。

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コメント

おそらく、それだけではあれほど炎上しなかったと思います。

最大の炎上要因は、事後処理にあったと思われますが・・・
弁護士が2ちゃんねるに対する仮処分を取り、2ちゃんねるの公開削除依頼スレッドで削除依頼をしたことが、かえって事を大きくしてしまったものと考えられます。

どうも、その弁護士の先生は2ちゃんねる削除が得意分野の一つで、削除仮処分の依頼を受けるために営業活動を行っているのではなかろうかとすら見受けられるのですが、名誉棄損系の削除はやり方を間違えると傷口を広げることになります。

弁護士の対応が事態を悪化させたとも言えますので、訴訟関連は弁護士に完全にお任せではマズイのかなぁと思えてきます。裁判での勝ち負けよりも、別の所にまで配慮しないと困ったことになる良い例だと思います。試合(裁判)に勝って勝負に負けたのかなぁと・・・

投稿: ターナー | 2010年10月22日 (金) 08時34分

おはようございます。

なるほど、そういった経緯があったのですか・・・

以前このブログでもすこし申し上げましたが、私も2ちゃんねるを相手に仮処分(スレッド削除、IPアドレス開示)および本訴を東京地裁でやりました。ホンネでいいますと、ここまではそんなに難しくないのでして、問題はこっから先ですね。スレッドはすぐに他の人が別に立てますし、IPアドレスも海外からのパソコンを経由したりすると、ちょっと個人の特定が困難なのかなと。

ある意味「こういったことをやりました」と世間に公表することのほうを重視する場合もあるかもしれませんね。

投稿: toshi | 2010年10月22日 (金) 10時11分

DMORIです。日清ラ王の槍ヶ岳CM撮影事件と2chの関係は知りませんでしたが、必ずしも2chでなくても、ウェブによる炎上はいくらでもあり得ると、企業はコンプライアンス上、認識しておく必要があるでしょう。
インターネットによる、こうした企業コンプライアンスへの批判拡大の“草分け”は、東芝ビデオデッキ・クレーマー事件ですね。インターネットの出始めの頃で、なつかしいエピソードを思い出しました。
私も自分のブログで、食品K社が特保天ぷら油の返品先を表示しないのは不当だとの記事を書いたことがありましたが、2chを経由しなくても、今はプログ情報のいろいろなチャネルがあり、話題は拡大されました。いまだに検索サイトからそのページを閲覧する方がいます。
誰でも簡単にブログを作ったり、メールで中央官庁へ投稿できる時代ですから、企業はコンプライアンスにいっそう気をつけないといけませんね。
もしあの日の槍ヶ岳で、私もその足止め登山者になっていたとしたら、間違いなくスタッフに、どういう法的な権限で私の登頂を阻止できるのか、責任者は誰なのかを迫り、さらに声の大きな私のことですから、周囲の登山者にも大きな声で「皆さん、自由な公共の場でおかしいと思いませんか」などと呼びかけて、登山者同士の連帯を図るでしょう。
企業は、CSRにしっかり気をつかわなくてはいけない時代ですね。

投稿: DMORI | 2010年10月23日 (土) 21時06分

東芝の事例は、いまでもコンプライアンスに関するセミナーなどではよく引用されますね。ネットコミュニティの発達が企業の不正を暴く・・・という典型的な事例であり、動画を活用した・・・という点が画期的であったと記憶しています。
ご指摘のとおり、今後は2ちゃんねるの効用とは申しませんが、こういった問題にウソがつけない(隠せない)時代になってきたと思います。

投稿: toshi | 2010年10月25日 (月) 01時08分

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