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2010年10月23日 (土)

司法修習生給費制議論に関する素朴な疑問

かならずどなたかがおっしゃると思っておりましたので、私のような全体像のみえていない弁護士が申し上げることではないと静観しておりましたが、あまり視点の異なる問題を呈示される方もいらっしゃらないようですので、ひとことだけ「司法修習生給費制議論」に対する本当に素朴な疑問を申し上げたいと思います。

本日あたりのマスコミの論調を拝見いたしますと、日弁連のほうで「司法修習生の給与の存続を求める意見」に対して、自民党の反対が根強く、結局のところ当初の予定どおり「貸与制」になるのでは・・・といったことが報じられておりまして、マスコミとしても税金を投入して司法修習生の給与をねん出することは国民の合意が得られないであろう、といった意見が強いようであります。そして自民党の意見としても、またマスコミの意見としても、たとえば(いったん貸与制としたうえで)公益活動に従事することを条件に、返済義務を免除するというのはどうか、といった方向性が出されております。

私にとって「ちょっとビックリ」なのは、上記の意見では公益活動をすることに値段がつけられている(返済免除)ということであります。これは「値段をつけなければ弁護士は公益活動をしないであろう」といったことが前提とされているように思えます。しかし私の周囲の若手弁護士で、公益活動をしていない人は留学中の人を除いて探すのはむずかしいです。たとえば大阪弁護士会は老若男女の区別を問わず、平成19年から「公益活動」は義務化されておりまして、義務違反には罰金の制裁が課せられます。私も普段の日弁連、大阪弁護士会での委員会活動に加えて、この8月から10月はADR(裁判外紛争解決センター)の仲裁人をしております。1回2時間の審理でマンション組合における紛争の仲裁業務を行い、4回合計8時間の審理、その後仲裁人間での審議のすえ、合意に至らなければ仲裁判断を下します。決定書を書きあげたり、調査の時間を合わせれば、20時間以上は仲裁人の業務に従事し、報酬は全部で5000円程度であります。しかし、弁護士である以上は社会的正義のために「公益活動」に従事するのは当然だと思いますし、法律専門家のスキルを社会に還元するのは弁護士の職責であると考えております。

また、私は関西の社内弁護士の方々の委員会をとりまとめておりますが、関西の企業内弁護士の方々も、社内で「また弁護士会行くの??」と白い目で見られつつも、公益活動のために一生懸命委員会活動に従事しております。これも弁護士である以上、公益活動は当然のことだという認識のもとであります。東京の大手の法律事務所のHPをみますと、やはり若手の弁護士が公益活動に積極的に従事しておられる様子がうかがわれます。

つまり、貸与制にしてみても、弁護士は日常的に公益活動に従事することはあたりまえ(むしろ義務化されているところが多い)ですから、今の議論を前提とするならば、おそらくほとんどの弁護士が貸与されても返済免除になる、つまり実質的には給費制と変わらないことになるのではないでしょうか。どうも、いまの議論はあまり生産的なものではない、と思うのであります。国民に意見を問うのであれば、こういった実際の弁護士の業務の事情を踏まえたうえで、「弁護士が公益的な仕事をするのは当たり前、かりにお金のない人のために無償で仕事をしても、それでも返済免除は認めない」という方向性が妥当かどうか、という議論をしなければ、さらに将来に問題を残すことになると思うのでありますが。本当に素朴な疑問でありますが、この議論は弁護士の業務の実情を知っている方がどれほどなさっていらっしゃるのか、ちょっとよくわからないのでありますが。。。

10月 23, 2010 未完成にひとしいエントリー記事 |

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コメント

私も、「公益活動」の意味が、狭く捉えられていると思います。

社会のルールは、単純でないと同時に、社会の発展や変化と共に、変わっていく必要がある。あらゆる活動のほとんどが、社会の発展と公益に貢献しているはずであり、特定の活動が公益であり、それ以外は公益でないとする考え方には、私は大きな疑問を持ちます。

確かに、税法においては、「公益法人」なる用語が使われているが、法人税の扱いで優遇することを定めることであり、法人の活動自身に関わることではない。個人の活動も、これが公益で、これが自己の利益のみと割り切ることはできないと思います。

私は、社会の発展を、広い心で捕らえる考え方が、薄くなってきていることを懸念します。

投稿: ある経営コンサルタント | 2010年10月23日 (土) 11時15分

ある程度高収入の弁護士の方だと結構、課徴金払って、委員会活動行かなかったりしますよね…

投稿: ぱらりーがる | 2010年10月23日 (土) 13時39分

ご意見ありがとうございます。>経営コンサルタントさん、ぱらりーがるさん

私はあまりこの分野に詳しいわけではないので、前提のところで知識不足があるかもしれません。ただ、給費制の議論に公益活動の問題を持ち込むことは避けていただきたいと思っています。
公益活動をやれば返済免除などといった議論だと、ぱらりーがるさんがおっしゃるように、「俺、ちゃんと自分で負担したから公益活動やらなくていいんだよね?」といった理解が出てくるのではないでしょうか。

たしかに高収入の弁護士の方は、委員会活動に行く時間はないかもしれませんが、その代わり、司法修習生の指導担当やロースクールの教授(金銭的に見合わないのが私が一番知っております 笑)、審議会委員や司法試験委員など、ご自身のステータスに合った形で公益活動に従事していただければ良いわけでして、それもされずに課徴金(そういった呼称なのですか?)だけ支払うというのは、ちょっと私は悲しくなります。おそらく「公益的な仕事」という概念も、人によって違いますので、「おれは公益的な仕事をしているのに、弁護士会が『それはちがう』というから罰金払ってるだけや」と言われる方もいらっしゃいますので、いちがいに罰金を支払っておられる方が問題とは決して申しませんが・・・・・

投稿: toshi | 2010年10月23日 (土) 14時21分

いつも楽しみにしております。

関係ないかもしれませんが、私も利用して返済中の奨学金について、文部科学省が利用資格に「社会貢献活動への参加」という項目を追加する方針を固めたことがニュースになっていました。

奨学金貸与生に限らず、大学単位で生徒に指導をするという程度が好ましいと思います。経済格差等が理由で借りるにもかかわらず、こんなことを条件に入れられると、理屈ではなく、情けなくなります。

どんな人を育てて、どんな未来をつくりたいのか、この方針を固めた方々にお聞かせ願いたいと思います。

投稿: cpa-music | 2010年10月23日 (土) 16時44分

個々の活動を指すのではなく、活動の全体として「公益」を担う立場にあるからこそ、無利子というたいへん優遇された貸与金制度が認められるのだと思います。

司法関係者のかたはそのことをよく認識していただければと存じます。

投稿: 機野 | 2010年10月24日 (日) 23時05分

無利子というのは司法修習生が給与ももらわないのに公務員扱いとされ、兼業が禁止されるからでしょう。

また、実際には司法修習生も「拒否」しないかぎりは公務(たとえば被疑者取調)を行いますから。

投稿: 篤史 | 2010年10月25日 (月) 02時24分

果たして、司法修習制度は必要なのか?
この議論をされたほうがよいのではという気がします。

私の思いつく限り、いわゆる士業試験に合格した後に
無報酬の修習が長期間義務付けられるのは・・・司法修習しかないのでは?
しかも、兼業禁止って・・・無茶苦茶ですね。

近しい知人に司法研修所の教官(裁判官)をされていた方がおりますが、
研修所は必要、と。なぜなら優秀な裁判官候補をリクルートできなくなる、
からだそうです・・・。

確かに、法曹教育にとって研修所がないよりもあったほうがいいに変わりがありませんが、
お金がない司法試験合格者が借金をしてまで研修所にいく
必要があるのかギモンです。
借金(奨学金等)を返済するために借金をする・・・
将来の弁護士の卵にコンプライアンスの話は「釈迦に説法」かも
しれませんが・・・、
この感覚が身についた弁護士に金銭を扱って欲しくはないです。

個人的には、裁判官と検察官(法曹官僚)になる方々が行くべきであって、
ハナから弁護士になりたいという人は1~2ヶ月程度の合同研修で
十分なのでは?と思います(そういう官僚機関なら世にたくさんあります。
警察大学校や防衛大学校(いずれも給費制)などなど・・・)。

それから、もうひとつ。

司法修習って、朝から晩まで研修所で勉強していると思ってました。
(それで、給料?・・・それはちょっと抵抗ありますが。)
しかし、実態は、各機関(裁判所や検察庁、法律事務所)で補助職員として
働いているように見受けられます。
とすれば・・・朝9時から夕方5時まで身体拘束されて労働して、
その労働の対価として賃金をもらうのは当然では?と。
ビジネスの視点から言っても、「対価(報酬)」はモチベーションの
立派な要素です。それが、無報酬って・・・。
「お金持ちしか弁護士目指せない」という主張は、
ちょっとマト外れに聞こえます。

もう一度いいますが、そこまでして行く司法研修所にどんな意義があるのか
見直す時期にきていると思います。
裁判官や検察官のリクルートの場でしか意義を見出せないようなら、
現行の制度は不要、むしろ我々会計士のように業務を通じて(もちろん
有報酬)研修に代えるほうがよっぽど魅力的な資格となり
かつ人が成長しますよ。

総じて、どうでしょうか?日本の弁護士の方々に、
この問題を「自分のこととして」捉えているかたが少ない気がします。
本質的なことですが、「本当に無報酬が妥当なのか」、
この命題を真剣に考えたほうが将来の法曹業界のためと思います。

投稿: 九州の怪計士 | 2010年10月25日 (月) 10時37分

本日10月25日の日経19面に、「不当に安い価格でのТОBは、最初からできないようにすべきだ」との私のコメントが掲載されました。紙面の関係でこのようなコメントになったと思いますが、これは言うまでもなく二段階買収型のТОBのことを指しています。念のため。

さて、この問題については素人なのですが、公認会計士や不動産鑑定士の場合、監査法人や鑑定事務所に勤務しながら、実務修習をしております。
弁護士も同様にはできないのでしょうか?
開業当初から数100万円の借金を背負うというのは、いいことだとは思いません。
裁判官や検察官になる方がいらっしゃるので、こういうシステムになっていると思うのですが、それは司法試験合格者の一部であって、大多数は弁護士になるのですから、裁判官志望者も一旦法律事務所に勤務しながら実務修習をしては如何でしょうか?その方が多様な経験ができるという点でもプラスと思います。

投稿: 山口三尊 | 2010年10月25日 (月) 11時19分

九州の怪計士様

 警察に関して司法修習に相当するのは、警察学校における初任科生ということになろうかと思いますが、こちらは、大卒相当で6ヶ月、短卒・高卒相当で10ヶ月です(もちろん、地方公務員として俸給を受けることができます。)。

 なお、弁護士が司法修習を受けることの意義ですが、裁判官の思考法をやや内側から知ることができるということのもたらす意義はとても大きいと思います。

投稿: 小倉秀夫 | 2010年10月25日 (月) 15時03分

皆様、貴重なご意見ありがとうございます。

司法修習を通じて、自分が裁判官になるのか、検事になるのか、弁護士になるのかを決めることができる、というのはとても貴重だと(私は)思いました。
小倉さんは裁判官の思考法を内側から知ることができる、とおっしゃていますが、私はやはり覚せい剤や破廉恥罪の被疑者取調をやったことが、後の刑事弁護に役だっています。単に取調をやるだけでなく、総務部長のところへ行って、なぜ立件できるのか説明します。不十分な点があれば、何度でも取調はやり直しました。(そういった意味では篤史さんが言われるように仕事の一部を補助的にでも行っていたのかもしれません-ただし、修習生が取調べを単独で行うことについては当時から問題があり、これを拒否していた修習生もいたことを付記しておきます。)

投稿: toshi | 2010年10月25日 (月) 23時28分

九州の怪計士様、山口三尊様
司法修正制度の必要性を含め、大いに議論して、本当の改革をすべきと考えます。その点、現在の貸付制度への改正は、根本的な議論がなく、政府の支出削減の観点のみで、出てきており、悲しくなります。法という国家にとって最も重要な基礎インフラに関わる部分であり、法はハコモノが支えるのではなく、人が支えるのであり、人材育成は法の発展にとり重要と考えます。

私は、自分のブログhttp://aruconsultant.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-2682.htmlで書きましたが、現在の司法修習制度に関する裁判所法と検察庁法は、日本国憲法施行と同じ1947年5月3日の施行です。戦前においては、裁判官と検察官は、司法官試補制度で、弁護士は弁護士試補であり、別の制度であった。裁判官、検察官、弁護士の人事交流を可能とし、司法制度の発展を図るためには、法曹人を同じ司法修習制度の下で修習させることが重要であるとの考えでした。

また、外国の制度も参考にすべきと思います。司法修習制度のない国もあり、あっても今回の日本のように、無給制度はないと思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2010年10月26日 (火) 12時16分

弁護士のボランティア的活動が無ければ世の中回って行かないとすれば、そのあたりを多少でも改める必要があろうかと思います。

刑事弁護が公益活動になってしまうのも、国選弁護の報酬が安すぎることにも原因があるわけで、ココで正当な対価を受け取れるような方向性に持っていくのが正しいあり方でしょう。報酬が安すぎるのに嫌々弁護を引き受けるようなあり方では、被告人の利益にもなりません。

国が一方で弁護士に便宜を図りつつ、弁護士が国のためにボランティア的活動を行うような馴れ合い関係が望ましい形とは思えません。むしろ、国からの便宜供与たる司法修習給費制は廃止してしまって、国選弁護の報酬基準を変えたほうが弁護士全体としては利益になると思いますけどね。

給費制の存続で国民の理解を得ることは難しいでしょう。義務教育ではないんだから、逆に授業料を取れと言われてしまいます。弁護士会の内部活動の多くは外部から見れば公益と呼ぶにはふさわしいとは思えませんし。

投稿: ターナー | 2010年11月 3日 (水) 13時54分

結局、宇都宮会長らの活動は、逆効果というか、「そもそもそんな制度が
これまであったこと自体がとんでもない!」という認識を有権者に
もたせてしまったようです。

早晩、給費制運動は止めて、「司法インターン制度」とでもいうような
有給制度を創設する活動に切り替えるべきでしょう。

弁護士は(或いは裁判官は、或いは検察官は)社会的に特別な存在だ、
というような間違った自覚からは、早く脱却して頂きたいものです。

投稿: 機野 | 2010年11月 4日 (木) 00時33分

ターナーさん、機野さん、ご意見ありがとうございます。

なお、このエントリーに関するコメントにつきましては、何名かの方のコメントは非開示とさせていただきました。

私の意見に対するご批判、ご異論はなんぼでも書いていただいて結構なんですが・・・


以前にも何度か問題がありましたので、御理解ください。

投稿: toshi | 2010年11月 4日 (木) 01時37分

法科大学院で先生の講義を聴いたことのある、今年の新司法試験合格者です。最近の報道によれば私たち新64期に関しては給費制にもどりそうなのですが、どうも根本的な議論を置き去りにして政党間の連携の道具として使われているような気がしてなりません。
こんなやり方で、国民の皆さんの理解を得られるんでしょうか?

そもそも、社会において新人の研修費用はその人材を雇用する会社や業界全体が持ってきたはずです。
その論理でいけば、弁護士会も応分の負担をする仕組みを作ってしかるべきではないでしょうか?現に公認会計士の実務補習所の費用は監査法人が出しているわけで、荒唐無稽な議論ではないと思います。
なぜ、法曹だけ特別扱いなんでしょうか?
「法曹は、社会に不可欠だから・・・」と弁護士会の幹部の方はおっしゃいますが、世の中に不要な仕事なんてありません。
どうも、弁護士会の主張には特権階級意識があるように映ります。
あんな豪勢な弁護士会館を作っておいて、修習生に回すカネがないといっても、国民の皆さんの納得は得られないと思います。

今の弁護士会や各党派のやり方では、かえって法曹への信頼を損ねることになりかねません。もらう側としても、国民の皆さんから強烈なしっぺ返しが来るような気がします。

投稿: てぃべ | 2010年11月20日 (土) 20時08分

上に書かれたかたと内容が重複してしまいますが、実に酷いことになってしまいました。

今、司法も公安も検察も、その存在意義そのものが市民、有権者から疑いの目で見られているというのに、何ともまあ、お気楽な、愚かな…

投稿: 機野 | 2010年11月22日 (月) 02時01分

てぃべさん、機野さん、こんばんは。

合格本当におめでとうございます>てぃべさん
最近は就職活動がとても早い時期から行われるようですが、もし弁護士志望であれば、ともかく多種多様な事件を扱える事務所をお勧めいたします。(たとえ企業法務志望であったとしても、です)

弁護士が応分の費用を出すことはそんなにムズカシイことだとは思えませんが、一番ムズカシイのは誰が修習生の指導をするのか、ということでしょうね。弁護士は公務として指導担当が決まるのではなく、ボランティアですね。特権階級であれば「名誉職」として指導担当希望者が多いと思いますが、残念ながら今は指導できるだけの余裕のある弁護士は少ないと思います。私も3年ほど指導担当をやりましたが、金銭の負担どころの話ではありません。まさに自分も先輩から一生懸命指導を受けたので、その恩返しだと思って一生懸命指導をいたしました。
研修所の教官候補者も、最近はなり手がいなくて採用がたいへんだそうです。かといって、「とんでも弁護士」さんを教官にするわけにはいかないでしょう。私はこちらの問題が喫緊の課題だと思っています。

あんな豪勢な弁護士会を作っておいて・・・というのは全く的外れですよ。あれは弁護士のために使われておりません。法テラスはじめ、一般市民の方々のために利用されています。(なので税金の優遇措置があります)もちろん修習生も会議に活用しているので、私のような一般弁護士は会館予約ができないときもあります。もちろん、これは会館が市民のためのものだから当然のことであり、そのために毎月大阪弁護士会の会員が高い特別会費を払い続けているのです。もし市民から疑われるような「会員優先使用」があれば会館委員会からクレームが出るほどです。市民に回る金を修習生の給与に回すかどうかは、ちょっと私には判断ができない問題ですね。

投稿: toshi | 2010年11月23日 (火) 01時11分

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