対象企業が選定しない監査法人と第三者委員会
すでに多くのブログ等で話題になっておりますが、EU域内の上場会社においては会計監査人を選定する権限を失い、規制当局が「監査人の起用や報酬、期間」についての決定権限を保有する可能性が浮上してきたそうであります。(ブルームバーグニュースはこちら)日本でも、たしか平成19年公認会計士法改正の機運が高まっていたころには、「監査のねじれ」を解消する選択肢のひとつとして、規制当局が監査人を選定する・・・ということも真剣に語られていたものと記憶しております。
欧州発といえばIFRSの適用問題がございますが、IFRSへのコンバージェンス、アドプションが極めて政治的な意味合いをもって語られるのであれば、日本でも今後同様の議論が出てくるのでしょうかね?ただ不正会計事件で証券取引所が提訴される時代ですから、粉飾決算が発生した場合に、当局による監査人選任責任を問うための国賠請求が(一般株主から)提訴されることは確実なわけでして、私は規制当局が監査人を選定する権限を行使することはないと予想しております。仮にあったとしても、株式会社の監査役固有の権限である「選任同意権」くらいまでではないかと。いま法制審でも議論されているところでありますが、日本独自の「監査役による監査人選任、報酬決定」というあたりの論点とも関連しそうであります。
ただ、監査対象企業が監査法人を選任するよりも、まったく独立した第三者が選任するほうが「監査への信頼」が高まる、というのは一理あるところです。この理につきましては、監査の問題に限らず、企業不祥事が発覚した際に依頼される「第三者委員会」の選任問題についても同様であります。そこで大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会が共同して登録名簿から委員を選定し、第三者委員会を「不祥事発生企業」に提供する制度(第三者委員会委員登録制度)も、外観的独立性を尊重し、ステークホルダーへ信頼される事実調査と原因究明を行うことを目的として発足いたしました(すでに当ブログでもご紹介しております)。報酬を支払う企業自身が選定する第三者委員会委員がはたして企業に対して不都合な事実を報告したり、本当の不祥事の原因を指摘できるのだろうか・・・という懸念は「外観的な独立性」の問題としては常にあるわけですから、制度発足に関与した者としては、ぜひ企業にも活用いただければ、と思っておりました。
本年3月の制度開始以来、なかなか活用される機会もなかったのでありますが、本日(10月17日)の朝日新聞(大阪版)で報道されておりますとおり、ようやく制度第一号の第三者委員会が活動することになりました。(構成は弁護士3名、会計士2名)要請がありましたのは新聞で報じられているとおり(一般企業ではなく)関西の某学校法人でありますので、金融庁マターの会計不正事件ではございません。しかし「第三者委員会」の活動場面は文科省、総務省、厚労省、国交省等が規制当局となります不祥事にも有益なものでありますし、場合によっては公共団体における問題にも対応しうるものであります。今後は会計不正事件のように(迅速性と正確性と独立性のバランスに配慮しなければならないような)ムズカシイ事案の第三者委員会事例にも耐えうるような体制作りを行っていくためにも、これからの第三者委員会第1号案件の活動に注目をしております。
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コメント
リーマン・ショックに端を発する金融危機とは、「とにかくリスクをたらい回しにして顕在化させないようにしよう」という行為の破綻によって引き起こされたものでした。
「対象企業が選定しない監査法人と第三者委員会」にも、同じものを感じます。
絶対的な正しさ、神に近い視線・モラルというものを求めようとすることは一種の害悪だと思うのですがね。
投稿: 機野 | 2010年10月19日 (火) 06時38分
機野さん、ご指摘ありがとうございます。むかしRCCの代理人に弁護士が就任したときにも「権力を持ったことがない人間が、いきなり持ったらどうなるか」と批判を受け、多くの問題を発生させてしまったことは記憶に新しいところです。
そのようなご指摘があることを前提に、害悪が発生しないよう努力いたします。
投稿: toshi | 2010年10月19日 (火) 10時13分