日立工機社海外子会社の不適切会計処理と調査方法の是非
出版記念講演を無事終えることができました。本日はビジネスタイムにもかかわらず、多数お集まりいただき本当にありがとうございました。<m(__)m> また、このような場を設けていただきました経済産業調査会の皆様に厚く御礼申し上げます。拙著で書き足らなかったところ、とりわけ「内部通報に基づく調査活動の適法性を担保するための手法」等お話したことにつきまして、今後の実務のご参考になれば幸いです。同業者の方々も結構お越しいただいておりましたので若干緊張しましたが、法律解釈等、ご不明な点がありましたらメールでお問い合わせください。なお、おかげさまでこのたびの記念講演が好評だったことで、本部(東京)でもほぼ同じ内容の出版記念講演をさせていただくことになりました。日程等正式に決まりましたら、また当ブログでも広報させていただきますので、関東地区の皆様、どうかよろしくお願いいたします。<(_ _)>
本題でありますが、昨日(10月5日)日立工機さん(東証・大証一部)の海外子会社で、約5年にわたり売上高100億円(営業利益40億円)程度の架空売上が発覚し、当子会社では過大な営業投資による業績悪化を隠ぺいしていた模様である・・・とリリースされております(当社連結子会社の不適切な取引および会計処理について)。実際に株価にも影響が出ている模様であります(ニュースはこちら)。日立工機さんから出向していた社長さんの指示により、粉飾が行われていたようで、10月4日に懲戒解雇、10月5日に全容解明等のため第三者委員会が正式に立ち上げられた、とのこと。今年の不正会計事件の特徴として、本当に企業集団における内部統制に疑問のある事例が多いと感じます。会社の業績が安定しているようにみえることから、長く子会社の経営トップの地位が変わらない・・・ということ、子会社の調査が困難であり(とくに今回のような海外子会社であればなおさら)、いわゆる「異常の兆候」が発見しにくい・・・といったことが原因と思われます。ただし本件につきましては、内部統制基準に基づく評価範囲に含まれている子会社だったのかどうかはわかりませんが・・・・
ところで、本リリースを読みまして、ふと気がついたことがあります。日弁連第三者委員会ガイドラインでは(弁護士資格を有する委員について)独立の第三者が委員として構成することが望ましい、不祥事発生会社の顧問弁護士は「独立の第三者」には該当しない、とされていますが、当社第三者委員会の委員として、(親会社の)顧問弁護士の方が就任されておられます。そして、「なお書き」として「当社と全く利害関係を有しない第三者のみによる調査を行うという形態はとっておりません」と(その理由とともに)記載されております。東証自主規制法人は今年8月に「上場管理業務について-虚偽記載審査の解説-」を公表し、不適切な会計処理が発覚した上場会社においては、日弁連ガイドラインに沿った形で第三者委員会を立ち上げて調査を行うように指導されているようで、すでに日弁連ガイドラインに準拠して調査を行う(行った)と明示するものが3例ほど出ております。しかしながら、すでに何度か当ブログでも述べておりますとおり、事案によってはこういった会社の事情を精通した人が委員として就任する第三者委員会の在り方(社内調査検証型、非完全独立型)も検討されるべきであり、私は肯定的に解しております。
本件のように連結子会社の経営トップの不正を調査するようなケースでは、「経営トップによる号令」が効きません。強制捜査権限を有しない第三者委員の調査活動が短期間で奏功するためには、当該会社の経営トップの「調査協力宣言」が不可欠であります。しかしそのような宣言が得られない状況で実効性のある調査を遂行するためには、社内の事情に精通していたり、調査取引(社員の免責を約束しながら、社長の不正を正直に証言してもらう)に必要な信頼関係が前提となります。そこで、独立性には若干目をつぶってでも、調査の実効性、即効性を重視することも妥当ではないかと思われます。
また、あらかじめ子会社自身における調査が期待できない以上、親会社主導の社内調査により「異常な兆候」とその異常性を裏付ける合理的な証拠を得る必要があります(経営トップを納得させる、もしくは潜行する調査活動の合法性を担保するため)。連結子会社といえども「独立した法人」であるため、親会社と業務委託契約を締結している第三者委員会の新たな調査活動は、デュープロセスの下で行われる必要があります(企業集団の内部統制と人権保障とのチェックアンドバランス)。そのためには、常に社内調査の内容をチェックしながら調査を遂行する必要がありまして、少なくとも社内調査委員もしくは委員補助を担当した者が第三者委員会の活動に関与し、社内調査委員会との連携を図ることは不可欠と思料いたします。
海外子会社となりますと、設立準拠法の適用が優先し、調査活動のリーガルリスクは高まるわけでありますし、なおさら臨機応変な調査活動が要請されるところであります。懲戒処分を優先させて、調査を遂行しやすい状況としたうえでリリース・・・ということで、不祥事の公表のタイミングについても、かなり考慮されているように思われます。また、報告書の提出予定が10月中旬ということで、極めて迅速に調査結果を出される(そのために正式決定以前から活動は一部されている、とのこと)ようで、たいへんビックリしております。日立工機さんのような社内調査委員会、社外調査委員会の構成および役割分担は、企業が自浄能力を示すための調査活動に困難が伴うような事例におけるモデルケースになるのではないでしょうか。
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