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2010年11月30日 (火)

IFRS(国際財務報告基準)導入と法の後押し

やけに分厚い「経営財務」(2993号)を読んでおりましたら、カゴメさんがすでに参考書類として包括利益計算書(一計算書方式)を開示しておられた、との記事が目にとまりました。カゴメさんは、たしかHPで「IFRSの時代は、自分たちで仕訳処理、会計基準の選択を行う時代であり、まさに我々の時代である」と、ずいぶんと前から公表されておられたので、まさに包括利益会計基準の適用を控えて、先行者としての面目躍如といったところでしょうか。

この「経営財務」も、ほとんどの記事がIFRS絡みのものでありますが、11月27日の日経新聞朝刊でも「固定資産の償却方法、定率・定額ともに容認 国際会計審が見解」と題する記事が掲載されておりまして、IASB(国際会計基準審議会)が、工場設備や建物といった固定資産の減価償却方法に関する文書を公表し、定額法や定率法に優先順位はない(どちらも認める)見解を示したことが報じられております。このニュースにつきましては、いつも愛読しているKOHさんのブログ「IFRSはつらいよ」で詳細に解説がなされておりまして、たいへん勉強になります。記事にもありますように、もちろん優先順位はないとしても、自由に選べるわけではなく、実態に合わない方法は認められない可能性もある、とのことであります。

会計専門家の方々のブログでは、すでにいろいろと話題になっている上記日経の記事でありますが、これは伏線がありまして、2010年8月13日の日経新聞朝刊「国際会計基準 導入へ揺れる議論」という記事が元ネタになっているものと思います。有力企業が大手監査法人の実務担当者を招いて開いたIFRS勉強会で、監査法人側が「IFRSで決算を作る場合には、機械や工場の減価償却を毎年一定額を費用とする『定額法』が望ましい」と解説され、企業側がこれに反発すると「しかしIFRSでは定率法の事例が少ない、合理的に証明してもらわないと・・・」といった答えがかえってきた、といった話題が示されております。こういった話題が盛り上がり、その後金融庁による「国際会計基準に関する誤解」の公表につながった、というもの。

そんななかでのIASBの文書公表でありますが、先の8月13日の記事では、ある企業の方が、たとえ金融庁の「誤解」が公表されたとしても、果たして監査が認められるかどうか不透明、といった感想を漏らしておられました。私も、IFRSが原則主義であるとしても、企業がGAP分析をきちんとしておかなければ、企業の判断と監査法人の判断が食い違う場面においては、やはり企業の経営判断は通らないのではないか、といった懸念を抱いております。監査法人側が、ある一定のルールをもっているのであれば、このルールに従わざるをえない事態となるのではないか、と。たとえばこれまでは「重要性がない」として、連結の対象外だった子会社について、IFRS導入を機に、IFRSの基準によれば連結の範囲に含まれることになるのでは・・・といった監査法人の意見が出てくるとか。。。

8月13日の記事がどこまでニュアンスを正確に伝えているのかは不明でありますが、監査法人さんの意見と会社側のIFRS適用判断とが食い違うケースにおいて、そのまま意見の対立が続いてしまう、ということはあってはならないことだと思います。信頼関係こそ第一であることは間違いないところだとは思いますが、企業側にも、なぜそのような会計処理を行うのか、フレームワークの解釈をもとに演繹的な観点から自主的に説明できる力量が必要ではないか、と。この「力量」というのは、そもそも突発的に企業に備わるわけはないのでありまして、普段からの監査法人さんとのコミュニケーションのなかで、「この会社はIFRSを十分理解している」といった認識をもってもらうことが一番必要ではないかと思われます(これは内部統制報告制度の実務の中で学んだことを参考にしております)。

しかしそれでも、監査法人さんと企業側で意見対立が解消されない場合はどうなるのでしょうかね。意見不表明ということは上場廃止につながることになるわけですが、IFRSの解釈に関する意見相違で企業を上場廃止に追い込むだけの勇気が監査法人さんにはあるのでしょうか?後日のリーガルリスクを考えますと、監査契約の解消という方向性で検討が進むことはあっても、個別の企業の自主的な判断を断固として拒絶するだけの行動を監査法人さんがとることはちょっと想定しにくいのではないか、と思います。(つまり監査法人さんは、今後ますます対象上場企業さんとの普段のコミュニケーションが大切になってくるのではないかと思われます)

ちなみにIFRSにおける会計処理方法の是非、といったことはおそらく司法判断の枠外ですから、監査法人と企業のどちらが正しい(適法)といった法的紛争は想定しにくいように思います。要は、法的紛争のモデルごとにどちらに立証責任があるのか・・・といったことと関連することになろうかと。このあたりは、未だ私にも見当がつかないところでありますので、IFRSの適用にあたりましては、今後いろいろと法の後押しが必要になってくる場面が増えてくるのではないか、と考えております。

PS 上記「経営財務」の某記事によると、海外BIG4の監査法人の社員が「うちの法人の女性会計士ベスト10!」を顔写真付きで作成していたところ、そのファイルが外部に漏れてしまってエライ目に合っているとか。。。「こういった事件は他の法人でも時々報じられている」とのコメントも(笑)。私も小学生のころ、同じようなものを作って「終わりの会」(反省会)で吊るしあげられた経験がございました。いにしえの嫌な記憶がよみがえりました。。。

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2010年11月29日 (月)

なぜM&Aにおいてインサイダー取引は要注意なのか?

Kighobaishu001 新潮社の編集担当の方より「たぶん先生がお好きな本かな・・・と思いまして」ということで贈っていただきました(どうも、ありがとうございます)。なるほど、おっしゃるとおりでオモシロイです。土曜日、日曜日で一気に読ませていただきました。M&Aは「好き、嫌い」に関係なく、どこの企業様でも突然遭遇する可能性がありますし(分社化やTOB、不祥事に伴う完全子会社化なども含めますと)、その舞台裏を、舞台裏で活躍しておられる方によって解説される、というのはなかなか興味深いものであります。また、新書版ですので当然のことながら一般の企業人の方々がお読みになって、わかりやすいのが本書の一番の特色であります。

新潮新書「企業買収の裏側-M&A入門-」(淵邊善彦著 新潮社720円税別)

ここ数年のM&A関連の事件などを紹介されたり、クロージングに至るまでの関係者の行動など、非常にわかりやすく書かれております(クロージングは関与するプロフェッショナルの方々にとっては区切りかもしれませんが、企業にとっては「はじまり」であることはナットク!)。東京のTMI法律事務所でM&A、国際企業取引をご専門に扱っておられる淵邊先生の御著書であり、こういった一般向けにむずかしい企業再編の世界をわかりやすく解説できる、というのは、本当にこの世界に精通しておられるからだ・・・という印象を持ちました。私のような小さな法律事務所でも、税理士さん、司法書士さんと一緒にM&A関連の仕事をさせていただきますが、近所のおっちゃん、おばちゃんが代表者・・・というレベルの会社の事業承継に絡むようなものですので、エライ違い(笑)。いつまでたっても、文句や苦情相談を受けなければならず、どこがクロージングなのか判明しなかったり(笑)。

ただ私も年に1回くらいは、上場会社のM&Aに関与する機会もございますし、3年ほど前には私自身が役員としてM&Aの渦中に巻き込まれた経験もございますので、この本にも「インサイダー取引には要注意!」と書かれているように、M&A、とりわけ基本合意書締結の前後における情報管理の難しさは痛いほど身にしみております。

最近もTOBに絡む関係者のインサイダーリスクを金融庁さんが多くの法律・会計雑誌等で解説されたり、会計士や税理士さん、社外取締役さんなどのインサイダー事件(疑惑?)が報じられたりしておりますので、M&A時におけるインサイダーリスクは関係当事者間における重要課題と言っても過言ではないと思われます。

みなさま、社内に犯罪者を出さないように、M&Aの際には情報管理に留意して、インサイダー取引を防止できる体制をとりましょう・・・と、一言で注意を述べるのは簡単であります。教科書的にみれば、そもそもM&Aに絡む重要事実は、おそらく素人の方にとっても、その情報が公表されることによって株価が上がるのか、下がるのか、予想がつきやすい、ということがあろうかと思います。だから関係者の方々は、情報をできるだけ遮断してください、ということになろうかと。しかし、どうも私の経験上、なかなかM&A時におけるインサイダーを防止することは困難だと思っております。なぜ困難かと申しますと、M&A情報に遭遇した関係者にとって「公表前の株取引」は誘惑的である・・・ということだけではなく、もっと深いところにあるように感じております。インサイダー取引自体は「お金の誘惑」が引き金になることはありましても、インサイダー情報が飛び交うこと自体は、けっしてお金の誘惑だけに起因するものではない、と常々考えております。

つまりM&Aが敵対的であるにせよ、友好的であるにせよ、社内における意思統一が図られることはほぼ100%不可能、ということであります。たとえば社長さんが諸事情によって合併や子会社化を決定したとしても、その情報は役員間抗争、労働組合の反対、大株主の反対、従業員の不満などが一気に爆発する契機となるわけでして、その爆発が①誰かに聞いてもらう(話してスッキリする)、②反対行動(造反)を画策する、③自分で株式を売却(買付)してしまう、という行動を誘発するわけであります。合併、子会社化等の決定について、社内で一枚岩になれる・・・という幻想を持っておられるのは、社長さんとその取り巻きの方々くらいでして、失望感や焦燥感等、大いに不満を抱いている反対分子が企業の中にはたくさんいらっしゃるのが現実であります。このような方々に「インサイダー情報だから管理は徹底的に」と指導されたとしても、その行動を規律することはほとんど無理なわけでして、インサイダー取引をする、しないに関わらず、インサイダー情報はたちどころに広まってしまうわけであります。

この「インサイダー情報が飛び交う」状態こそ、M&A時におけるインサイダー取引リスクのもっとも大きな要因であり、M&Aは相手方企業との交渉スキルだけでなく、自社内に大きなコンプライアンスリスクも抱えていることを認識したほうがよろしいかと。企業買収の裏側で活躍する弁護士さんも知らない「裏側の、もうひとつ裏側で」暗躍している弁護士さんもいらっしゃる場合もあるわけでして(笑)。こんな状況からしますと、企業における体制整備にも限界がありますので、「一般予防効果」を狙って、何年も前のインサイダー事案をしつこくSESCさんが摘発していくことが極めて重要なのではないか・・・と考えたりしております。

また本書には、M&Aで活躍するアドバイザーや専門家の報酬のお話なども具体的に記述されておりまして、これがまた(ブログ的には)オモシロイのでありますが、これはまた別の機会にお話したいと思います。

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2010年11月26日 (金)

米国における財務諸表不正の減少とSOX法の影響

昨日のエントリーにて、「ラウンド・テーブルに行けなかった」と書きましたところ、数名の心温かい参加者の方々より、メールにてご報告を頂戴いたしました。なんとなく、雰囲気は理解できたように思います(どうもありがとうございましたm(__)m)また本日は金融庁企業会計審議会内部統制部会が開催されたそうで、すでに資料等が金融庁のHPにアップされております。

先日お会いした某上場会社の社長さんが、

「よく世間で『ガバナンスを改革したら、業績が向上するという実証例はない』などと言っておられるそうだが、そんなもの当たり前ですよ。業績が向上するためには良いタネ(ビジネスモデル)があって、そこに良いガバナンスがあるから育つ(業績が上がる)のですよ。でも、どんなに良いタネがあっても、ガバナンスが悪ければ業績は上がるわけないのです。つまりガバナンス改革とは、良いタネが育つための土壌作りなんですよ。だから時間がかかるのは当たり前だし、タネの検証もしないでガバナンスだけで業績が上がるわけないじゃないですか。」

とおっしゃっておられました。思うに、内部統制もガバナンス改革と同様、それだけで有効性や効率性が向上するわけではなく、内部統制を活用する人間も向上しなければ影響は出てこないのではないか、と思います。今回の内部統制報告制度の「運用見直し案」をみておりますと、すでに私の周囲でこれまで一生懸命J-SOXに取り組んでおられる企業担当者の方々は、(見直し案がなくても)すでに担当監査法人と見直しに関する協議済みのものも多いように感じております。つまり内部統制の簡素化・明確化の趣旨を十分に理解できる人間も、次第に増えてきたと思いますし、また現場にも浸透している中小上場会社もあるのではないでしょうか。たぶん、中小の上場会社の場合、内部統制も不祥事の早期発見力と同様に「人」に依存するところが大きいと思われます。

また最近、米国のACFE(公認不正検査士協会)から、非常に興味深い報告書(職業上の不正と濫用に関する報告書2010年版)が出ておりまして(日本のCFE資格保有者の方はHPで日本語版も閲覧できます)、そこでは、米国における2008年と2010年の財務諸表不正に関する件数や被害金額に関する統計、分析結果が出ております。この比較図表によりますと、2006年1月から2007年12月までの財務諸表不正の件数に比較して、2008年1月から2009年12月までの件数は約4割にとどまっております。調査規模はほとんど同じですから、ここ数年で米国では財務諸表不正の件数がかなり減少していることがわかります。また、財務諸表不正に限らず、汚職、資金横領のいずれにおいても、今回の調査は2年前の調査時と比較して、企業の平均損失額が大きく減少していることが報告されております。(調査結果は米国企業のみに限る)

たとえば財務諸表不正を例にとりますと、不正発覚の時点は、発覚の2~3年前頃の犯行についてのものと思われますので、米国SOX法導入時期から数年は(SOX法の施行が)あまり不正発生件数に影響はなかったもののようでありますが、2006年、つまりSOX施行から3年ほどが経過して、いまの日本と同じように緩和策がとられたころから、企業に浸透し、その結果が今回のACFEの報告結果に至ったのではないかと。本気で会計不正事件防止のための対策を講じたこと、そして数年を経て「緩和策」を検討するなかで、SOX対応が企業に浸透してきたことが、結局のところ大きな不正抑止の効果につながったのではないでしょうか。ちなみに、このACFEの報告書によれば、標準的な組織(企業および官公庁)の場合、毎年職業上の不正によって収益の約5%は毀損している、と述べております。

要は知恵と汗を出して、監査法人さんと徹底的に協議を重ねる・・・、そんな企業の担当者の方々は、すでに改正案にあるような簡素化・明確化は進んでやっておられるように感じておりますし、現場にもプロセスが浸透しているように思えるのであります。だからこそ、不正のトライアングルのひとつである不正の「機会」が減少し、効果的な不正抑止が図られるようになるのではないか、と考えております。

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2010年11月25日 (木)

ガバナンス改革派≠社外取締役導入論者(だと思う)

(25日お昼、若干の修正あり)

今日(11月24日)は第二回の内部統制ラウンドテーブルが東京で開催されていたのでありますが、残念ながら諸々の仕事が大阪で溜まっておりましたので伺うことができませんでしたo(;△;)o また状況はどなたかからお聞かせいただければ・・・・・・・と。

11月は役員セミナーにお招きいただいたり、シンポでご一緒させていただくなど、会社のCEOの方とお話する機会に恵まれました。上場会社の社長さんが多かったのですが、日本を代表する著名な非上場会社の社長さんにもお会いできて、ガバナンス関連の参考となるお話も聞かせていただきました。ずっと前から疑問に感じていたことでありますが、あまり自信がなくてブログにも書いたこともありませんでしたが、いろいろなCEOの方とお話していて「やっぱり」と感じたのが「ガバナンス改革論者は、かならずしも社外取締役推進論者ではない」ということであります。CEOの方々はほとんど「会社法」など理解しておられるわけでもなく、ましてやガバナンス論議が盛んであることなどは御存じないわけでありますが、自社の業績向上のために、どのようなガバナンスの仕組みがわが社には必要か…という点は、結構真剣に考えていらっしゃるようであります。

お会いしたCEOの方々は、どなたも自社のガバナンス改革には積極的であり、またCSR経営のためには、まずは企業統治改革を進めること・・・という意欲を強くお持ちでありました。これは当該企業の監査役の方々にお会いしても、また監査役の方々の活動を拝見していてもよくわかりました。たとえば某企業では、社長さんが推薦した社外監査役候補者の方と面談した監査役会が、「この方は、経歴も素晴らしく、また誠実な方だけれども、社長にモノが言えないタイプだと思います。残念ながら監査役会としては候補者としてふさわしい方とはいえません」との回答をCEOに出しておられました。この回答を受領したCEOの方は、とくに驚く様子もなく、じゃあ別の方を探さなくては・・・とのこと。

どのCEOの方も、監査役制度の重要性を非常に強く認識しておられました。また、どこの会社も取締役の人数を少なくして、執行役員制度を導入したことで、取締役会における議論の活発化を推進しておられるそうであります。ホールディングスと事業会社との役割を明確にして、迅速な意思決定機関としてのホールディングスの役割を明確化している企業もありました。CEOご自身がガバナンス改革に熱心であることの証左であると思われます。

ところが、そのようにガバナンス改革に熱心なCEOの方々が、社外取締役を導入することにも熱心かというと、どうもそうではなかったような印象を受けました。もちろん、なかには多数の社外取締役さんに囲まれた役員会の議長をされておられる方もいらっしゃいましたが、それはごくわずかでありまして、「ガバナンス改革に積極的ではあるが、社外取締役導入論には大いに反対」と言う方も結構いらっしゃいました。なるほど・・・つまり社外取締役制度導入に反対の立場の方々というのは、ガバナンス改革不要派と改革積極派だけど社外取締役不要派の両方の方がいらっしゃるわけであります。いっぽう社外取締役制度に賛成の立場の方々は、ガバナンス改革必要派のみで構成されている、ということになるのでしょうね。※社外取締役導入を推進する立場の方からすれば、単にガバナンス改革の必要性を訴えても、「それはわかってます。だけどなにも社外役員を導入することだけがガバナンス改革ではないですよ」と言われてしまうだけでありまして、どうも議論がかみ合わなくなってしまいそうな気がいたします。

※東京のIRコンサルタントさんよりご異論を頂戴しております。外国人の株式保有比率の高い企業は、外国人向けに「社外取締役」を導入しているのであって、かならずしもCEOがガバナンス改革に熱心というわけではない、とのこと。かなり説得的なご異論のような気もいたします。(ありがとうございました)

とくに印象的だったのが、某会社の社長さんのひとこと。

「社長である私でも、正論で指摘されたら従わざるを得ないような監査役会をもつこと。これがうちの会社のガバナンス改革であり、他社に自慢できるものです。これがやっと最近『経営の透明性』という、理想に近いものになってきました。この人達に『やめろ』と言われたら、私は辞める覚悟です。」(なんと立派な・・・・)

私など、ガバナンス改革賛成派=社外取締役推進論者という図式をずっと抱きつつ、どこかで「企業統治に熱心な人の中にも、社外取締役制度導入には反対している人がいるのでは・・・」といった疑問もおぼろげながら感じておりました。そのあたりの疑問がちょっと当っているような気がしております。もちろん、海外の人達に「監査役」の職務がわからない、ということもあるでしょうが、ここまでガバナンス改革に熱心な姿勢があるのであれば、どうやってアピールすべきなのか、これも課題になりそうであります。また社外取締役導入を推進する立場の方は、こういったガバナンス改革賛成派の方々をどうやって説得すべきなのか・・・そのあたりも課題になってくるように思いますが、いかがなものでしょうか。

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2010年11月23日 (火)

近藤崇晴最高裁判事を偲ぶ

最高裁に、いくら優秀な調査官がいらっしゃったとしても、裁判官が激務であることは夙に知られているところでありますが、近藤崇晴裁判官が逝去されたことは誠に残念であります。朝日新聞で報じられているように、近藤裁判官はキャリア裁判官でありながらも、かなりリベラルな立場で判断に臨んでおられたようであります。

すでに何度も当ブログで述べてきたとおり、私は近藤裁判官のお書きになる判決文のファンでありまして、近藤裁判官の補足意見、反対意見などは常にマークしておりました。最高裁の判断が世の中に与える影響に一番配慮していたのが近藤裁判官だったのではないでしょうか。「法律家として、このような文章が書きたい!」と憧れの存在でありました。

土地区画整理事業における事業計画の「処分性」

最高裁判所は変わったか(一裁判官の自己検証)

裁判員制度は最高裁判事の事実認定手法まで変えるのか

今後も、在職中はたくさんの判決を書いていただきたい・・・と思っておりましたが、本当に残念です。謹んでご冥福をお祈りいたします。

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2010年11月22日 (月)

とりあえず争う?金融庁による課徴金納付命令への企業の対応

Konnahoumuja001_2 先週土曜日のエントリーに引き続きまして、本日も金融規制におけるエンフォースメントに関するお話であります。先週金曜日に参加いたしました「ふしぎな開示研究会」でも話題になっておりましたのが、「最近、課徴金納付命令の勧告を受けた企業が、審判で争う事例が増えているのではないか?」というもの。たしかに金融庁HP「審判手続状況一覧」によりますと、有価証券報告書虚偽記載事件、インサイダー取引事件等におきまして審判で課徴金処分を争う事例が続いているようであります。しかしながら、近時の審判事件では、味の素インサイダー事件及びビックカメラ元会長虚偽記載事件が多数回の審判手続を経ていたにもかかわらず、このたびの一連の審判事件では、ほぼ1回で終結しているようであります。

私は審判手続の当事者でもございませんので、本当に推測の域を出ませんが、ひょっとすると「とりあえず争っておこう」とお考えになって、審判手続を進行させる企業が増えているのではないでしょうか。この「とりあえず」といいますのは、後日、会社役員に対してなんらかの賠償請求が求められる場合の抗弁をきちんと立てられるように・・・・・、というのがホンネではないか、と(いえ、本当に勝手な推測でございますが・・・)。

今年9月のエントリー「闘うコンプライアンス(課徴金は払うけど)」では、法人としてのビックカメラさんが審判で課徴金納付命令の勧告について何ら争わずに、後日(被告役員のために)補助参加した株主代表訴訟で「課徴金は素直に払ったけれども、虚偽記載であることまで認めたわけではない」といった苦しい主張をしておられることを伝えましたが、上でご紹介しております畑中鐡丸弁護士の「こんな法務じゃ会社がつぶれる-最新ビジネスロー問題を5分で解決」(第一法規952円税別)におきましても、同様の見解が述べられております。(「課徴金納付命令審判手続はとりあえず争っておくべし」115頁以下)この本の中で、畑中先生は、有価証券報告書虚偽記載事件に関連するIHI株主代表訴訟を例に挙げておられ、IHI社が有価証券報告書虚偽記載事件ではなんら争うことなく課徴金を支払ったにもかかわらず、株主から代表訴訟によって厳格な責任追及を受けるや、「たしかに課徴金は払ったけれども、ミスを認めたわけではない」と、苦しい主張を強いられていることをみて、どんなに状況が不利であっても、認めてしまったら後日、株主からの賠償請求訴訟でやられ放題になってしまう、法令違反の事実を不利に援用されてしまえば後の祭り・・・・・と述べておられます。(私は畑中先生は存じ上げておりませんが、この本は多くのブログですでに紹介されております。コンプライアンス問題を中心に、最新のビジネスローに関連する話題なども豊富に掲載されており、私としましては非常に重宝しているものであります・・・)

後日提起されるかもしれない、役員への株主代表訴訟を考えますと、(たとえ負け筋であったとしても)課徴金処分について審判で争う、という事例も、今後ひょっとしたら増えてくるかもしれません。

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2010年11月20日 (土)

金商法192条(緊急停止命令)と金融庁の新たなる旅立ち

本日、東京の某所で開催されました「第12回ふしぎな開示研究会」に出席してまいりました。月1回ペースですから、もう始まって1年が経過したのですね。本日も盛りだくさんの事例が取り上げられましたが、11月19日にSESC(証券取引等監視委員会)からリリースされましたZ社に対する「有価証券報告書等の不提出に係る課徴金納付命令勧告」などとともに、私にとりまして、やはり一番注目だったのが昨日(11月18日)SESCからリリースされました「D社およびその役員に対する金融商品取引法第192条第1項に基づく裁判所への申立てについて」であります。まさに「抜かずの宝刀」だった金商法192条の緊急停止命令申立てが、日本ではじめて活用されております。グーグルで検索してみましたところ、あまり取り上げられているブログなども見当たらないようであります(今後の金融行政への影響力、という意味でも、もう少し話題になってもいいのではないか、と)。

昨年6月のエントリ-「金商法157条と課徴金処分との親和性」でも触れておりましたとおり、昨年の金融庁SG(スタディ・グループ)報告書で積極的活用が望まれる、とされておりました金商法192条(緊急停止命令申立て)が、このたび初めて活用されました。金融庁は17日にD社を相手方として、東京地裁に金融商品取引法違反行為の禁止を命ずるよう、申立てを行ったそうであります。事案は、D社が金融商品取引業の登録を受けずに、S社の新株発行にあたって、投資家に取得勧誘を繰り返し行っており、今後も同様の違反行為を行う蓋然性が高いと認められたため、というものであります。黒沼先生のブログで「証券取引等監視委員会において、現在192条の使用が検討されている」とのお話が出ておりましたが、たぶん本件がその検討事例だったのかもしれませんね。

これまで金融庁は、登録・届出業者に対する監督を行う、というのが通常の業務であったと思いますが、この192条を行使する、ということは未登録業者、つまり言葉は少し悪いですが、「海のものとも山のものともわからない」業者さん方を調査して、証券市場の健全性を確保する、という未開拓の分野へと舟を漕ぎだしたものと言えるのかもしれません(インサイダー取引における一般人の調査とはまた違った意味で、新たな使命を担うことになったような・・・)。またそれ以上に、この規定は条文をお読みになるとおわかりのとおり、相当に包括的な条項としての色彩が強いものであります。つまり応用の効く条文となっておりますので、たとえ今回の申立てが本件に効果的とは言えないような事態が生じたとしましても、他の事案にも適用される前提が築かれたものと思いますし、「ひょっとしたら192条の申立てがなされるかもしれない」といった一般予防的効果が期待できるものではないかと。課徴金制度とは別に、金商法上の新たなエンフォースメントの誕生という意味で、今後の展開がとても気になるところであります。

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2010年11月17日 (水)

IFRS(国際財務報告基準)と欧州型CSRの考え方

東京証券取引所が先ごろ公表したIFRS(国際財務報告基準)に関するアンケート結果によりますと、現時点において上場企業の7割がIFRS導入に不安を抱いている、とのことだそうであります。(産経新聞ニュースはこちら)なかでも、「解釈の指針が十分でなく、具体的な会計処理の手続がむずかしい」という回答が最も多かったそうです(76%)。これはIFRSが原則主義を採用することによる不安だと思われます。そういえば旬刊経理情報(中央経済社)の最新号にも「IFRS原則主義への対応とその考え方」という特集が組まれておりまして、CESR(欧州証券規制当局委員会)の執行決定事例などが参考として紹介されており、関心の高さがうかがわれるところです。(自社の会計事実にIFRSの原則主義をどのように取り込んで、どのような会計処理を選択するのか、その思考過程を検討することが目的だそうで。)

私はこの分野では全くの素人でありますが、最近の欧州発のCSR(企業の社会的責任)の考え方と、このIFRSの原則主義の考え方は、どういった関係になるのでしょうか(まったく関係ないのでしょうか?)。CSRを「持続可能な社会をグローバルな視点から考えるために企業の果たす役割」と捉えますと、企業の持続可能性を示す過程の自発的な開示、ということはCSR(もしくはISO26000)の基本的要素であります。このことと、IFRSの基本的な考え方とはかなり近いものがあるように思えるのですが。。。

CSRの考え方というのは、企業の事業執行の成果が社会の持続可能性をどのように高めているか、ということと同時に、成果を生み出す事業過程についても、そういった持続可能性を自社においてどのように高めているか、ということを自ら積極的に発信することが求められる、というものであります。たとえば、どんなに素晴らしい商品を作って、社会に貢献したとしても、その商品を「児童を酷使して」作っていたとしたら、その企業は世界から非難されてしまうわけであります。お財布事情の面からみた「成果を生み出す事業過程」とは、まさにIFRSの考え方と非常に近いように思います。またCSRは社会からの要請への適合というよりも、非常に政治的な意味合いの濃い、発信主義(イニシアティブ)的発想が強いわけで、NGO団体がターゲットとするようなグローバルな大企業が積極的にCSRへの取組み状況を発信することで、(グローバルスタンダードとなって)国境を越えたルール化を目指すところが特徴的であります。各国独特の文化や法規制を飛び越えて、遵守へのインセンティブを生成していくプロセスとしてうまくできているように感じます。それぞれの概念が台頭してきた経緯はまったく異なるものの、政治的な色彩も含めた基本思想の部分ではかなり似たところがあるように思います。(ちなみにCSRは「先行者利益」を認める概念であります)

かりにIFRSも欧州発CSRの考え方に近いものがあるとしますと、IFRSの原則主義というのは、「個々の具体的な問題が、IFRSの原則主義のもとで許容されるか」とか「当社の会計処理がIFRSの裁量の範囲内に収まっているか」といったような(横並びの)受け身の考えではなく、そもそも自分の思ったところを自発的に発言する、という積極的な対応のことを指しているのではないでしょうか。つまり、力の強い企業が、「ウチはこうやっている」と堂々と会計処理を発表すれば、そこよりも力の弱い同業者がこれに追随する、そしてそのうち「会計慣行」が出来上がる・・・ということが「原則主義」の本旨ではないかと。そもそも力の強い大企業が決定した会計処理方針について、誰が「それは見積もりの変更ではなく誤謬だから修正せよ」と言えるのでしょうか?(だからこそ、アメリカのグローバル企業はIFRSへのアドプション推進に賛成しているのではないでしょうか-「IFRSと包括利益の考え方」高田橋範充 108頁参照)。日本の企業はまじめなので、いったん出来上がった業界の会計処理に「横並び」をすることはとても得意なのですが、自分で業界の会計方針をリードすることはできないのではないでしょうか(たぶん、投資家保護を重視して、企業間における「比較可能性」を理由に「横並び」することは得意ではないかと)。ただ、英国の会計業界のように「ルールよりも、俺の言っていることのほうが正しいのだ。それは○○だからだ。文句あるか」といったような説明責任の世界が浸透しない日本におきましては、自らルールを作り上げるようなことに時間と費用を使うようも、IFRS導入後も、まじめに「横並び」によるコストメリットを享受したほうがお得なような気もしますが、いかがなものでしょうか。ここ数年、内部統制狂想曲の真っただ中にいて、J-SOXへの企業の対応をみてきた上での素直な感想なのでありますが。。。どうも「原則主義」というのは、日本の産業振興にとっては不利な概念のように思えてなりません。

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2010年11月15日 (月)

最高裁は「社外取締役制度」をどう考えているのか?(その2)

このタイトルは本年7月16日の前回のエントリーにおきまして、常連の方々より不評を買いましたが、前エントリーは拙ブログの歴代閲覧数からしますと、第10位程度にランクされておりまして、結構多くの方に読まれているエントリーでございます。今年7月15日のアパマンショップHD事件最高裁判決は、間違いなく私にとりましては今年の10大判決に含まれるものであります。前エントリーの中で「有識者の方が書かれる判例評釈が出ることを楽しみにしている」と申しておりましたところ、旬刊商事法務11月5日号にて落合誠一教授が「アパマンショップ株主代表訴訟最高裁判決の意義」という論稿を発表されました。この週末やっと落合論文を拝読させていただきました。

「そもそもそんな政策的なこと考えて最高裁が判決出していいのか?」という常連の方のご指摘どおり、落合先生はとくに社外取締役制度を最高裁が考えて、こういった判決を出したのだ、ということは全く触れておられません。むしろ、現行会社法の解釈から、経営判断原則の法的根拠を導き、そこから判例の妥当性を考察しておられます。(そりゃそうですよね・・・株式会社といっても、閉鎖会社から上場会社までいろいろありますし・・・少なくとも「経営判断原則」は上場会社だけの議論とは言い切れないわけでして・・・・・)

落合先生は高裁と最高裁でほとんど経営判断原則の枠組みは変わらないものの、経営判断への踏み込み方が積極的なのか、消極的なのかというあたりを分水嶺として整理され、最高裁は経営者のビジネス的な判断過程を尊重した、極めて妥当な判断であると解説していらっしゃいます。(最高裁の審理において、「高裁判断が確定してしまってはビジネス世界はたいへんなことになる!」」とお考えになって、意見書も提出されていたそうであります)裁判官の常識と、ビジネス世界における経営者の常識とは大きく異なるものであり、後だしジャンケンを排して経営者の常識を尊重しなければ、経営者は萎縮してしまってグローバル競争の激しい世界で日本企業は取り残されてしまう、ということを力説されておられます。

いっぽう、あまりに経営判断原則を強調して、経営者の法的責任が問われない状況を生ぜしめると、そもそも不適切な判断を下した経営者まで不当に保護してしまうのではないか、という懸念も出てくるところであります。ただ、この点につきましては①たとえ善管注意義務違反というサンクションを厳格に適用してみても、問題のある経営者にどこまで効果的であるかは疑問である、という理由とともに、②司法によるサンクション以外の規律によって、経営者は十分に淘汰される仕組みがあるのだから、そちらで対応するべきである、との考えをお持ちのようであります。このあたりは、落合先生は経営の失敗によって「無能」という烙印を押され、経営者は首をすげ替えられるのであるから、たとえ善管注意義務違反を問われずとも、不当な経営の抑性が有効に機能する、と説いておられます。ここからは私見でありますが、私も同様の感想を、前回のエントリーでは述べたのでありますが、このあたりから社外取締役制度導入論へとつながることはないのでしょうかね?前回のエントリーで「最高裁は社外取締役制度を導入する基礎を築いた」と書いたことは少し言い過ぎだったかもしれませんが、落合先生も、この商事法務の論文におきまして、今後終局的にはアメリカのビジネスジャッジメントルールと日本の経営判断原則は一致する方向になるようにすべき(この原則がよって立つその基本的な存在根拠は同一であると考えられるので)、と説いておられますのでありますが。。。

たいへん勉強になりました。昨年の日本システム技術事件と今年のアパマンショップHD事件によって、最高裁の最近の経営者責任への司法判断の在り方が、少しばかり整理できたような気がいたします。ちなみに落合先生は、積極的な独立社外取締役制度導入論者のおひとりで(「独立社外取締役ハンドブック」日本取締役協会 2010年 130頁以下、「ビジネス法務」中央経済社2010年4月号1頁以下 ご参照)、会社法を改正したうえで、取締役会の専決事項を極力会社の基本事項に関わることに限定をしたうえで、独立社外取締役を過半数導入すべし、との意見をお持ちであります。アパマンショップHD最高裁判決へのご見解と、この社外取締役導入論が論理的につながるものではないことは承知しておりますが、こういったコーポレートガバナンスへの強い思いがあって、初めて上記の最高裁判決の方向性が首肯しうる、ということも(少しは)あるのではないか、と考えております。

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2010年11月12日 (金)

株式後悔-後悔せずに株式公開する方法

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常連の皆様よりいろいろとコメントをいただいておりますが、どうも本業が忙しく、なかなかお返事が遅れておりますことお許しください<(_ _)>

ただ、「迷える会計士」さんにご紹介いただいているdancing-ufoさんの「ゲゲゲ!の監査法人」これはなかなか興味深いエントリーですね(^^; ブログの醍醐味・・・というのは、こういったものを読むと感じます。S有限責任監査法人の会計士さんとは、いろんなところで(仕事とか研究会とかで)ご一緒する機会が多いので、これ、話題にしてみようかなぁ(笑)怒られるかなぁ・・・・・・また、監査法人側もいろいろ数字については反論はあるのだろうなぁ・・・・たとえいろいろ聞けたとしても実名ブログではちょっと書けない内容かも。。。

さて、忙しいと言いつつ、気になる新刊が出ると、ついつい購入してしまうのでありますが、タイトルにつられて(おもしろそう!!)と衝動買いしましたのが

株式後悔-後悔せずに株式公開する方法(チームIPO著 株式会社無双舎 1600円税別)

早速、きちんと読ませていただきました。弁護士、会計士、証券会社審査担当者、VC(ベンチャー・キャピタル)関係者、証券取引所関係者、IPOコンサルタント等の方が集まって「チームIPO」という勉強会を開催されていらっしゃるそうですが、そのメンバーの方々が(名前も出せない方も含めて)共同執筆された400頁弱のIPO指南書であります。「指南書」といいましても、手にとってご覧になるとおわかりのとおり、たいへん読みやすい本でして、「なるほど、こういうことをしていてはIPOはむずかしいのか」といった、逆転の発想で書かれたものです。御承知のとおり、IPOには逆風が吹き荒れている昨今の状況ではございますが、こういった時期だからこそ、関係者のホンネの部分なども、じっくり聞いてみる価値があるのではないでしょうか。

「取引所のキモチ」「証券会社のキモチ」「会計士のキモチ」「VCのキモチ」などなど、それそれの立場から、IPOを目指す企業に対するホンネを語っておられ、そこに関係者がそれぞれツッコミを入れる、という構成はなかなかおもしろい。たとえば私自身IPOを目指す会社の社外監査役を辞任した経験がございますが、社長さんとの間で「アンタとはやってられまへんわ!」ということになってしまった経験を持つ身としましては、「あるある大事典」的な内容に思わず納得してしまいます。社長さんの愛人が子会社役員だったり、率先して粉飾決算を目論んだりするケースならばそれほど悩むこともないのでありますが、人間的には「いいひと」だけど会社資産と個人資産の区別がどうしてもできない社長さん・・・というケースは結構あるのではないでしょうか。所詮は「経営者」次第ということも言えそうでありますが、それでもVCさんと証券会社の審査担当者では、経営者のどこを見るのか・・・というあたりで違いがあるのもオモシロイですね。

正直申し上げて、本書のご意見については、私個人の意見とは、かならずしも合わないところもございまして、思わずツッコミを入れたくなるような部分もございますが、たぶん著者の皆様も、おそらく読者のいろんなツッコミを期待されておられるのではないでしょうか。キレイゴトでは済まない、新規株式公開の場面におけるそれぞれの立場の方の「エゴ」も垣間見えてくるようで、とても新鮮で楽しめる本です。真剣にIPOを目指す企業と、それをとりまくIPO関係者の上場実務をこういった読みやすい本で勉強するのもいいかもしれませんね。ちなみに私自身が一番興味をそそられましたのが「VCのキモチ」です。上場準備の段階で、一番コンプライアンスを意識するのがVCさんの要求事項だったりするわけで、VCさん側の事情などもすこしだけわかるような気になりました(少しですが・・・笑)

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2010年11月 9日 (火)

インサイダー取引防止体制構築義務と株主代表訴訟

すいません、最近は「インサイダー取引」関連の話題が続いておりますが、金融法務事情の最新号(1909号)の「OPINION」に、SESCに任期付き公務員として出向されておられた弁護士の方が「金融機関向け『課徴金事例集』の読み方-監視委での職務経験から」と題する文章を寄稿しておられ、そこに日経インサイダー取引株主代表訴訟のことが紹介されていることに興味を持ちました。東京地裁は日経新聞社の役員ら(当時)について、善管注意義務違反の事実は認められない、として原告株主らの請求を棄却する判決を下しております。(平成21年10月22日東京地判 判例時報2064号139頁以下)社員がインサイダー取引を行った平成17年当時の一般的な注意義務の水準からみて、日経新聞社の役員らはそれなりのインサイダー防止のための体制整備に関する注意義務を尽くしていた、というもの。筆者はこの内容から、日経新聞社の役員は、こういった体制整備義務を尽くしていたことで救われた、金融機関等の一般会社においても、インサイダー防止のための社内体制構築に配慮すべし、と締めくくっておられます。

私もこの日経インサイダー株主代表訴訟判決は、(昨年の今頃)旬刊商事法務「スクランブル」で紹介されたときに知りまして、判例時報で全文も読んだのでありますが、インサイダー取引防止体制構築義務が役職員に認められることを紹介するためのリーディングケースとみるのに適切かどうか、という点に少し疑問を持っておりました。といいますのは、この判決文を読みますと、

日本を代表する経済新聞社という会社の性質上、そこは各上場会社の未公表の情報が毎日多数集約される場であり、その情報管理は極めて重要であるために、とりわけインサイダー防止体制をきちんと構築しておく必要がある

というもので、それは経済新聞社という特殊な業種であるがゆえの「構築義務」のようにも読めるからであります。逆にいうと、一般の上場会社の場合には、果たして(抽象的にでも)そこまでの義務があるのか?むしろ個別の役員の過失問題として論じれば足りるのではないか、という考え方も成り立ちうるように思えたからであります。上場会社の取締役には、役職員のインサイダー取引防止体制の構築義務がある、と主張するときに、この判決を引用しようか逡巡するところはこのあたりにございます。

これは代表訴訟で回復されるべき「損害」についての考え方からも考察することができるものと思われます。そもそもインサイダー取引によって、企業の何を損失とみるのか?といった点は、これまであまりきちんと論じられてこなかったように思います。上の日経インサイダー取引代表訴訟事件についても、原告側は「日経新聞社のコーポレートブランド価値の少なくとも1%」というきわめて「ざっくりとした損害額」を主張しておられたようであります。たとえば企業の信用というものが従業員のインサイダー取引によって毀損された、ということであれば、その「企業の信用」というものは、インサイダー情報が集まる会社だから、その信用は毀損されたとみるのか、そもそも情報管理体制がゆるい会社であり、犯罪者が勤務していたような会社という評価を受けるから信用が毀損されたとみるのかは、どうもハッキリとはしていないように思います。もし、前者ということであれば、そもそも金銭的評価の対象となるほどに、一般の会社の信用は毀損されないのではないか、ということになり、インサイダー取引を防止することで、企業に損害が果たして発生するのかどうか、という問題にもなりそうであります。

上記OPINIONにおけるご見解や、最近の法曹実務家の方々のご意見等でも、「上場会社の役員は、もしインサイダー取引防止体制の不備を第三者から追及された場合には、法的責任を負担するケースも出てくるであろう」と述べられるのが一般的であります。ただ、裁判上で具体的な内部統制構築義務違反を問うケースでは、まず個々具体的な企業環境(実際にとられている情報管理体制や、防止のための社内研修など)などを分析したうえで、個別事情を検討することになるのでしょうね。このあたりは、もう少し勉強しておく必要がありそうです。

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2010年11月 8日 (月)

社外取締役とTOBインサイダー(その2)

日経ヴェリタスの最新号(11月7日号)を読みましたが、最近は「公募増資」に関するリリース直前の空売りインサイダーが話題になっている(当局によって疑惑の目が向けられている)ようですね。先日のエントリーで、私は「公募増資」というのは、事案によっては株価が上がったり、下がったりするものだから、当局としても把握しにくいのではないか・・・と疑問に思ったことを述べたのでありますが、公募増資によって株価が下落することを当然の前提として、空売りが摘発対象となる、というのが最近傾向なのかもしれませんね。ただ東京電力さんの事例のように、事前に噂が流れて・・・ということでしたら情報管理体制の問題を指摘することもできそうですが、日経ヴェリタスで報じられているように「プレヒアリング」によるもの・・・ということであれば、会社側が努力してみもインサイダー取引を防止できないようにも思えますね。とくに国際石油開発帝石さんのような事例をみると、このまま放置していると日本の市場の信頼性を失うことにもつながりかねないように思われます。(このあたりは、それこそSESCさんと証券業協会さん、取引所さんあたりでがんばってもらう必要があるのではないかと思います)

さて、土曜日(11月6日)に社外取締役ネットワークの関西勉強会に出席いたしましたが、先日の新聞報道(西友の社外取締役の方がTOBインサイダー疑惑によって捜査の対象とされている、といった報道)について(やはり)話題になっておりました。

私はあまり意識していなかったのでありますが、何名かの方からおもしろい感想が出ておりまして、「なぜ西友の社外取締役の方は、自社株の買い付けが可能だったのだろうか?」という疑問が呈されておりました。そもそも、ご自身方の経験では、株式の公開買付けをかける側であればまだしも、買付られる側の社外役員など、賛同の意見表明を決定する役員会の直前にしか情報は知らされないのではないか、たとえデューデリが先行するような場合であっても、買付対象会社の場合には担当取締役と社長以外には知らされないのが一般的、というものであります。「リリースまでの短時間で、親族に連絡までして自社株の購入を完了させることなどできるのだろうか?」といったご意見が述べられておりました。

私は、そもそも社外取締役たる地位にある者は、会社の誰から言われずとも、自社株式が買付対象になっているような事態であれば、みずから積極的にインサイダー取引の防止体制(情報管理の徹底)維持に務めるべきである、といった意見を述べたのでありますが、「そもそもそういった情報自体が社外取締役には役員会の直前にならなければ伝えられないものであるから、情報管理体制云々・・・という議論は、社外役員には関係ないのではないか?といった意見が強かったようでありました。つまり、あまり社外取締役の理想の姿を追い求めて、期待されたとおりの活動ができていなかった、といって社外取締役の責任を議論することは、現実の社外取締役の活動状況との間にかい離が生じているのではないか、というものであります。

なるほど、現実の企業社会をみると、社外取締役さんの実務というものは、こういった意見に集約されているとおりでありまして、たとえ有効的なM&A(つまり事前に適切なデューデリが行われるような場合)であったとしても、社外取締役の方々の耳に、詳細な情報というものは届かないのかもしれません。しかし、買付対象会社が買付会社のTOB価格が適切であるかどうか、ということに「賛同するかどうか」を決定するにあたりましては、はたして他の一般株主にとってその価格が適切かどうかを判断することが前提となるわけでして、私としては当然に社外取締役さんも、一般株主の代表者たる立場で積極的に関与しなければならないのではないか、と考えております。いわば、こういった「会社の有事」であるからこそ、社外取締役の活躍が期待されるような場面でありますので、会社としましても社外取締役には意見形成のために必要な十分な情報を開示しておく必要があるのではないかと。たとえば今回のTOBだけでなく、ファイナンスに関連する増資事例の場合でも同様かと思います。

たとえば、今回の西友さんのTOBインサイダー疑惑の件につきましても、社外取締役の理想の姿を考えるならば、デューデリを行う以前から情報は伝わっていたのではないかと推測いたしますし、インサイダー取引が関係者によって行われてしまうリスクを十分に認識したうえで、情報管理を徹底することに寄与しなければならなかったのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。(本件のインサイダー疑惑の報道のなかで、私的に一番コワイと思うのは、やはり3年前の買付行為が捜査の対象となっていることですね。徹底して悪質事案には対応する・・・といった当局の姿勢がみてとれるようです・・・)

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2010年11月 6日 (土)

東京での企業ご担当者様向けセミナーのお知らせ(ふたつほど)

週末の夕方ということで、一番アクセス数が減少しているところを狙って「お知らせ」をさせていただきます。

お陰様で、最近は東京でも特定企業さんの役員セミナーや一般企業のご担当者さん向けのセミナーなどをやらせていただく機会も増えました。最近も企業研究会さんの「リコール対応セミナー」をさせていただき、また来年3月にもセミナーをさせていただくことになりました。

関東地区の方で、このブログの管理人のセミナーを一度聴いてみたい・・・という奇特な方がいらっしゃいましたら、とりあえず一般の企業様向けセミナーをふたつご紹介いたしますので、どちらかご関心のある内容でございましたら、お越しいただければと。

一つ目は、11月19日の金融財務研究会セミナーでございます。こちらは「平時に学ぶ危機管理 第三者委員会ガイドラインとあるべき姿」というテーマで3時間お話させていただきます。(詳しくは 「kinyuzaimuchosakai001.pdf」をダウンロード をご覧ください)

Keieizaimu001 総務省関連の企業不祥事に係る第三者委員会委員や、金融庁関連の会計不正における第三者委員会補佐、社内調査委員会支援業務などを基に、おもに企業担当者向けに「第三者委員会」の現状とあるべき姿(理想)についてお話させていただく予定にしております。

10月末に出ましたサイバードHD(株式取得価格決定抗告)高裁決定によりまして、企業価値算定に関わる第三者委員会の在り方も、ふたたび議論されることになりそうでありますが、今回はいわゆる企業不祥事発生時における第三者委員会に関する解説が中心であります。

第三者委員会の活用は、いわば企業の危機管理として捉えられるところが中心であります。しかしその内容は「公正中立な第三者による事実調査と事実認定」はステークホルダーからの信頼を得やすい、というところにだけ集中しているのではないでしょうか。では、その委員会報告書の内容は行政許認可に対応しているのでしょうか?マスコミによる記者会見に耐えうる内容なのでしょうか?取引先や消費者から民事賠償を請求される基礎となるのでしょうか?社内で「二次不祥事」を発生させる誘因にはならないでしょうか?経営陣の法的責任追及の根拠資料となりうるものなのでしょうか?企業不祥事は、マスコミでとりあげられるのは最初の数カ月にすぎませんが、実際に企業が様々な対応をしなければならない時期は2~3年を要するものと思います。※ 第三者委員会報告書は、この数カ月ではなく、2~3年の事後対応に耐えうるものである必要があります。そういったことも含め、当セミナーでは「あるべき姿」を解説してみたいと考えております。

※・・・・・昨日(11月5日)の日経夕刊「注目株を斬る」によりますと、小糸製作所さんが、子会社である小糸工業さんの不祥事によって株価が大きく低迷していることが報じられております。国土交通省からの業務改善命令の後、再検査による納期遅延などで多くの損害賠償債務を(小糸工業さんが)抱えていることによる、とのこと。小糸工業さんの不祥事に関する報道はほとんどされなくなりましたが、このように事後処理には多くの時間と費用を要することを示す典型例であります。

そしてもうひとつは12月17日(金)午後1時半から4時半まで 経済産業調査会さんのセミナーでございます。先日大阪で開催いたしました「内部告発・内部通報その光と影」出版記念セミナーが、ご好評につき東京でも開催されることとなりました。(詳しくは経済産業調査会さんのWEBページをご覧ください)内容的には、先日の大阪での講演と同じでありますが、消費者委員会における最近の公益通報者保護法改正審議の話題なども交えまして、私の本業であります内部通報窓口業務、内部告発代理業務に基づくお話をさせていただきたいと思っております。以前にも書きましたが、今年に入って、パワハラ事例に関する通報および調査業務が増えております。そのあたりも実務に沿って詳しく解説をしてみたいと思っております。企業ご担当者の皆様、こちらは非常にお安い料金ですので、お時間がございましたら是非、お越しいただければ幸いです。

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2010年11月 5日 (金)

社外取締役とTOBインサイダー(ほんの少しだけですが・・)

世間のブログでは圧倒的に「映像流出」事件のほうで盛り上がっておりますが、「情報流出」に関する話題もございます。朝日新聞はじめ、各紙朝刊で西友関係者のTOBインサイダー疑惑が報じられております。当局が慎重に捜査中・・・・ということでありますが、仕事中ですし、ブログといえどもマナー違反はよろしくないと思いますので、ほんの少しだけコメントさせていただきます。

今回のTOBインサイダーについて、新聞で報じられているところを読みますと、けっこう奥が深い内容であります(社外役員問題とは直接関係があるものではなく、いわゆる公開買付者等関係者によるインサイダー取引に関する構成要件該当性の問題)。おそらく金融商品取引法(および経済刑事法)に詳しい方々の間ではいろんな議論がなされているのではないでしょうか?

TOBスキームに関与する方々の「リスクと防止体制」につきましては、最近いろんな法律雑誌で(当局の方々が)解説されておりますが、こういった「思い悩む」事件が続発しているからではないかと、なんとなく察しがついたような気がいたします。ちなみに今回は友好的M&Aの事例でありますが、これが敵対的M&Aだったらどうなんだろうか、状況は変わるのでは?といった気もいたします。先日の味の素課徴金審判事件なども、やはり参考になるような気が・・・(これ以上個別案件に踏み込むことはやめておきます)。

TOBにも西友さんのように完全子会社化のためのものや、そのまま親子上場として対象会社が市場に残るケースもありますし、個別事件の摘発にバスケット条項(包括条項)が活用されるようになってきたこと等、いずれにしましても、もはやインサイダー事件の防止は、個人的な違法行為として済ますのではなく、全社的に取り組むべき内部統制構築の問題になってきたというのが私の意見であります。買い付ける側ではなく、今回のように対象会社側にとっては特にリスクが高いと思われます。また、対象となる「重要事実」のなかでも、TOBや決算情報のように、「発表したらどっちのほうへ株価が動くのかはっきりしている」事実については、細心の注意が必要かと。(公募増資とかって、最近はよくわからないですが・・・)

なお、本エントリーへのコメントにつきましては、あまりにスルドイご意見につきましては非開示とさせていただきますので、ご了解ください(^^;; それにしても「社外取締役」さんのインサイダーって、前のエントリーとの関係からすると、タイミング悪いなぁ・・・↓

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2010年11月 4日 (木)

いま、社外取締役に求められる独立性とは?(関西企業に社外取締役は必要か?)

Shagaitori002_4 いまから3年半ほど前、旬刊商事法務1796号(2007年4月5日号)に「監査役制度改造論」という論文が発表され、そこでは「監査役兼務取締役制度の創設」が立法論、政策論として提唱されました。当ブログでも「監査役を兼務する取締役」という、あまりにも唐突な提案に衝撃を受けたことをエントリーにいたしましたが、この論文はその後、多方面で議論の対象となりました。

そして今、「監査役兼務取締役制度」にかなり近い構想が、法制審議会のなかで「監査・監督委員会制度」といった名のもとに事務当局から提案され、監査役が監査役業務を行いながら取締役会で議決権を行使する「独立社外取締役」の地位を兼務することが真剣な議論の俎上に上っております(詳しくは法制審議会会社法部会第5回議事録をご覧ください)。上記論文で提示された監査役と取締役との職制の整理、現行法(監査役会設置会社と委員会設置会社からの選択)との連続性、理論としての問題点など、3年半前に指摘されていた問題点が、いま改めて社外取締役導入の是非にあたって論議されております。社外取締役制度導入論争の「ひとつの着地点」を模索するにあたって、上記論文が果たしてきた役割が大きかったことを改めて感じるところであります(もちろん、今後も活発が議論が予想されますので、その方向性は未知数でありますが)。

このような時期に誠にタイムリーではありますが、上記論文の著者でもあり、経産省企業統治研究会委員でもいらっしゃる大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)や各界の有識者・企業家の方々をお迎えし、大阪弁護士会2階ホールにおきまして、「いま、社外取締役に求められる独立性とは~関西企業に社外取締役は必要か~」という公開シンポジウムを開催することになりました(上の案内チラシをクリックしていただくとポップアップにて詳細はご覧になれます)。関西経済同友会さん、大阪証券取引所さんの後援事業となっておりますので、今週もしくは来週にはそれぞれ会員企業の皆様のところへも、メールにてお知らせが参る予定になっておりますし、またそろそろ各HPでもご覧いただけるものと思います。また共催団体である大阪弁護士会、日本公認会計士協会近畿会の会員の皆さまにも、CPE(継続研修制度)の適格認定をいただきましたので、研修制度の一環として広くご参加いただけることとなりました。

後半のシンポ(討論の部)は、パネリストとして大杉先生のほかに、ニッセンホールディングス社長の片山氏、大阪証券取引所副社長の藤倉氏、社外取締役ネットワークの田村代表を迎え、東京とは「一味違った」関西企業の視点からの「社外取締役制度導入論」「社外取締役に求められる独立性」「ホントに社外取締役って必要なのか?」「入れたいとこだけ入れたらええがな~♪」というホットな話題を(法制審の議論を横目で見ながらも)コテコテの関西のノリで語り合おう・・・という企画であります。ニッセンHD社(本社:京都市)は、すでに社外取締役が半数という役員会をすでに3年以上経験されておられます(日経ビジネス誌3月8日号の「社外取締役制度特集号」に登場されていらっしゃいます)。またご承知のとおり、大証さんは「独立役員届出制度」の運用で、いろいろとご苦労されておられます。大杉先生もひょっとするとコテコテの関西人(姫路市ご出身)の片鱗をみせていただけるかもしれません(笑)。ただ当日は投資家や経済団体の方のご意見なども踏まえ、賛否両論いろいろな角度から問題点を語りたいと思っております。東京でのシンポのようにスマートに議論をしても、おそらく関西の皆様にはウケないと思います。せめて司会者だけでも、関西企業の目線でわかりやすく討議を進めるように努力しなければなりません。ちなみにシンポの司会(モデレーター)は私です。大手の法律事務所所属ではございませんので、シャベリにシバリはございませんよ(笑)ホンネで自由に質問させていただきます♪。「悪役」はひとりで背負う覚悟ですのでご期待ください。(でも、弁護士会の会長、副会長と所属委員会の委員長の指示だけはしたがいますので・・・(^^;; )

関西人は、東京の人たちを「ええカッコしい」と表現いたします。「ほんで、なんぼマケてもらえますのん?」「それで、ナンボもうかりますのん?」と言って憚らない関西商人は、きわめて形にこだわらず、ホンネ(実利)で勝負いたします(すこし大げさな表現ですが)。社外取締役制度の導入にあたっても、東京では「立法事実が見当たらない」と表現されるかもしれませんが、「それいれて、ナンボもうかりますのん?」の世界かと思います。それにもまして、「このまえJ-SOX入れたばっかりやないの。ほんで、今度はIFRSやろ?もう堪忍してえなぁ~~(苦笑)」あたりがホンネかと。。。このたびの企画について、関西の経済界の方々にご相談するたびに(私は)ボコボコにされ、「よ~し、今日はこのくらいにしといたろ!」(吉本新喜劇の池乃めだかさん風に)。それでも気を取り直して、なんとか企画を実現できるところまで参った次第です。(ご協力いただきました皆様に感謝!)

日時は 12月8日(水)午後2時から5時までです。各種お申し込みの方法がございますが、同友会、大証参加企業以外の方で、「あの有名なおおすぎ先生の講演が聴きたい」、「いま議論されている社外取締役制度を知りたい」、もしくは「コワイもの見たさ」で(笑)、聴講をご希望の方は、NPO法人全国社外取締役ネットワークのHPからお申し込みいただけますと幸いです。(参加は無料ですが、事前のお申し込みが必要となりますので宜しくお願いいたします)一応700名まで収容できる大ホールなので大丈夫かとは思いますが、もし参加希望者が多い場合にはごめんなさいです。<m(__)m>

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2010年11月 2日 (火)

第2回内部統制ラウンドテーブルのお知らせ

金融庁のホームページに、企業会計審議会内部統制部会10月28日開催部会資料が掲載されております。そこで制度改正に関する議論の方向性が見て取れると思われますが、「簡素化・明確化」といったあたりが中心テーマ、ということになりそうです。今年6月に閣議決定された「新成長戦略」に答える形で改正案を出すことになりますので、四半期報告制度と同様に、簡素化・明確化はその流れに沿った形のように思えます。

しかし「簡素化・明確化」ということは注意が必要です。そもそもこの制度が導入された趣旨については誰も反論されていないのでありますから、かならずどこかに簡素化・明確化の「しわ寄せ」が来るはずです。それは会計監査人であったり、監査役であったり、内部監査人だったりするはずであります。「費用対効果の見直し」といっても、そこで見直されたのは、目に見える効果(無駄な承認手続が多すぎる 等)に関するものであって、「発生したかもしれない不正を防いだ」という「目に見えない効果」については誰も検証していないからであります。

これは内部統制報告制度の元になっているCOSOの流れをみても明らかです。1992年にモデル化されたCOSOフレームワークにつきましては、2006年に「簡易版COSO内部統制ガイダンス」が公表されて、中小上場会社向けのガイダンスが示され、2009年には「COSO内部統制システム・モニタリングガイダンス」が公開されており、内部統制システムの有効性確保のためには、効果的なモニタリングの必要性が認識されつつあることと通じるものであります。財務報告の信頼性を確保すべき要請については、これまでと同じものが企業に要求されるわけですので、J-SOXの負担が軽減される分、それではその負担(法的責任も当然に含む)は誰が負うのだろうか・・・という問いが生まれてくることになります。

さて、そんな改訂作業の真っ只中、今年も内部統制ラウンドテーブルが11月24日に東京で開催されます。(ご案内は、内部統制研究学会HPにて)ちなみに、私は今年は登壇いたしません(笑)。ただ、この3年から4年ほど、多くの企業の内部統制担当者の方々、内部統制監査人の方々と「内部統制狂想曲」の真ん中におりましたので、改正の方向性を含めて、意見はたくさん持っております(なお、私の意見につきましては、到底ブログでは書けませんので、書籍のなかで申し上げる予定であります)。この制度が導入時の初心を忘れることなく、さらに有効に活用されることを願いつつ、今年のテーブルの開催を楽しみにしております。

ぜひご関心のある方は、テーブルの傍聴にお越しくださいませ。

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日本ハム社の不祥事「件外調査」と自浄能力の高さ

日本ハムさんが、中元ギフト商品について、(商品に在庫切れが発生した際)注文とは異なる商品を詰め合わせて発送していたことを自社で公表しております。(贈答品に関する社内調査結果のご報告-10月29日付け)「注文品と異なる商品を差し替えてギフトセットに入れていた」というのは、たしかに不正のトライアングルがそろっておりますので、不正リスクの高いもののひとつといえそうであります。

動機→「品切れ」によって商品の発送が遅れるとお客様に迷惑がかかるので、予定どおりに発送することを最優先と考えた、機会→注文した商品の内容は注文者しかわからず、ギフトを受け取る者にはわからない、正当化根拠→差し替え商品が、たとえ注文品とは異なっても、値段が同等ならかまわないだろう

といったところが、不正の温床となった要因ではないかと思われます。

しかし今回の日本ハムさんの対応をみておりますと、企業不祥事に対するリスク管理の手法としては「自浄能力」があるところを十分に示すものとなっており、かなりハイレベルではないかと考えております。こちらの読売新聞ニュースを読みますと、もともと不正が社内で発覚したのは下請会社従業員からの通報によるもののようであります。関連会社社員による通報が、マスコミやネット掲示板に向かうのではなく、きちんと本社に届くところが第一のポイントであります。おそらくこれは日本ハムさんが設置している内部通報窓口(関連会社向け)か、もしくは投書箱のようなものに通報がなされたものと思われます。日本ハムさんの内部通報制度は、日本でも有数の進化系であり、年間200件以上もの通報を受理しているようでありますので、おそらく関連会社も含めて、その存在や機能については十分に浸透していることによるのではないでしょうか。

そして上記リリースを読み、もっとも印象に残ったところが「件外調査」であります。不正調査の特徴のひとつとして、「本件調査」とともに「本件外調査」を行うことが挙げられます。企業不祥事の発生が疑われるところに対して行われるのが本件調査でありますが、その結果として不正が判明した場合、「ひょっとして他の部署でも同じことがあるのではないか?」「別の商品についても同じような不正が行われているのではないか?」との仮説を立てて行うのが「件外調査(本件外調査)」であります。第三者委員会による調査などでも、件外調査を行うことは鉄則でありますが、ほとんど「不正は見受けられなかった」という結論で終わっております。正直、どこまで本気で調査がなされているのか、疑わしいケースも見受けられます。

しかし日本ハムさんの社内調査では、中元商品の別商品差し替えの事実が判明した段階で、さらに昨年の歳暮商品でも同様のことが行われていないかどうかを証拠に基づく調査が可能なものについてはすべて行い、実際に歳暮商品でも別商品差し替えの事実をつきとめ、これを公表しております。この対応は「不正は絶対に許さない」といった会社の意思が感じられ、極めて高い自浄能力のレベルを消費者に印象付けるものとして、高く評価されるべきではないでしょうか。たしかにBtoCの企業として、消費者の信頼を裏切るような不正は絶対に起こしてはならないものでありますが、これは理念であり「品質管理」の問題であります。競争する会社として、不正はどこの会社でも必ず起こるのでありまして、企業の信用を維持するための不正リスクへの対応は、「経営管理」の一環としてかならず必要であります。

さらに今回の社内調査で重要なポイントは「早期発見、早期公表」であります。「発見力」の重要性は常々申し上げるところでありますが、①たとえ調査を熱心に遂行していたとしても、マスコミやネット掲示板で先に騒ぎになってしまっては結局のところ「隠ぺい」を疑われること、②不正が大きくなってからでは、かならず社内のモニタリングの機能不全が指摘されるため、どうしても「公表しないこと」へのインセンティブが働き「二次不祥事」を発生させてしまうことになるからであります。不祥事に関する社内調査は情報管理を徹底して行う必要があるのは、こういったところからであります。

こういったポイントをすべてきちんと心得て、なおかつ再発防止策もきちんと確定したうえで今回の日本ハムさんは謝罪広報をされたものと推測されます。このようにかなりハイレベルな対応が可能となったのは、おそらく2002年の牛肉産地偽装事件によって、40億円もの商品を廃棄せざるをえなくなり、大きく企業の信用を喪失した経験によるものと思われます。8年ほど前のことですから、「明日のわが社はどうなるのか」といったつらい経験をされた方が今も社員として残っておられ、まさに「全社的な取組としてコンプライアンス体制構築」に励んでおられる方がいらっしゃるからではないかと。

以前、三井物産さんの、九州支社における事例やインドネシアにおける「化学機能品本部による架空取引」を社内調査で発見した事例についてご紹介し、企業の不正リスクへの対応としては模範的なものではないかと申し上げましたが、その後三井物産の法務部の方から「こういった対応は、2005年の東京都の排ガスデータ改ざん事件のつらい経験があったからですよ」と説明をいただきました。企業の信用がガタ落ちになるような企業不祥事を経験しなければ、なかなか全社的な取組の機運も高まることがないのでしょうか。「うちにかぎって・・・」という意識がなかなか除去できないところが、やはりコンプライアンス経営のむずかしさなのかもしれません。

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2010年11月 1日 (月)

航空管制官に対する有罪判決(最高裁)と技術者倫理

JFKさんから教えていただきましたが、10月26日、航空管制官の業務上過失致傷罪の成否が問われた最高裁決定が第一小法廷から出されております。(最高裁決定全文はこちら)平成13年1月に発生した焼津市沖でのJAL旅客機2機のニアミスにより、衝突を回避したパイロットの操縦によって多くの乗客が負傷した事件に関するものでありますが、最高裁は旅客機に間違った指示を出した(便数を言い間違えた)管制官2名に対して業務上過失致傷罪が成立するものとして、有罪とした高裁判断を支持する判断を下したものであります。この事件は一審東京地裁は無罪、原審東京高裁は有罪と、判断が分かれていたものでしたが、最高裁では5名中4名が有罪意見、1名が無罪意見(反対意見)を述べておられます。櫻井龍子裁判官は、2008年9月に就任して以来、おそらく初めての反対意見表明ではないかと思います。マスコミ等の論調は、概ね最高裁多数意見が妥当である、とのこと(たとえば読売新聞の10月30日社説等)。

業務上過失致傷罪という「過失犯」の開かれた構成要件該当性を問題としているわけですから、刑事責任を問えるだけの「予見可能性」があったのかどうか、管制官らの実行行為と乗客の負傷との間に刑事責任を問えるだけの「相当因果関係」が認められるのかどうか、というあたりは、裁判官のきわめて規範的な評価に依存するものであります。したがいまして、地裁や高裁の判断、そして最高裁の多数意見と少数意見のいずれかが理屈のうえでおかしい、ということを述べることはできないように思います。法律上の相当因果関係の判断にあたっては、すでに最高裁判断の先例もありそうですので(たとえば最高裁決定 平成4年12月17日 刑集46-9-683等)、過失による第三者の行為の介在が因果関係の否定にはつながらない、といった判断はなんとなく理解できそうであります。ただ、私個人の感覚的な意見としては、東京地裁の判断および最高裁の櫻井判事の反対意見に賛同するものであります。

そもそもヒューマンエラーを防止するためにRAという(航空機の衝突を回避するための)安全装置を導入したわけでありますが、本件で管制官が有罪とされたのは、このRA装置が導入されたことに起因するものでありまして、たとえ管制官が言い間違えをしていたとしても、このRA装置が導入されていなければニアミスは生じなかったのでありますし、またこのRA装置が導入されたことによって、もっと重大なミスが発生した場合(たとえば管制官が旅客機の接近にまったく気がつかずになんら指示さえ出していないとき)には、逆に(RAが正常に作動することによって)犯罪行為が認められないという事態も考えうるわけであります。人為的なミスを回避するための装置が導入されることで、これまで以上に厳格な注意義務が管制官に認められることや、今回よりも明らかに悪質なミスが認められる場合には犯罪が成立しない結果を招来させる、ということはどうも違和感がございます。

たしかにRA装置が存在していることを管制官が知っていたのでありますから、言い間違えによってRAの指示と管制官の指示に食い違いが発生することの予見はできたかもしれませんが、そもそもヒューマンエラーを回避するためにRAが導入されたのでありますから、現場の管制官らにとっては、注意深く業務を遂行したうえでの人為的なミスはRAが回避するものとして、操縦士は最終的にはこれに従うであろう・・・という合理的な判断があってもおかしくはないのではないか、と思います。もし、管制官の言い間違えが重大なミスにつながる、という点についての(刑事責任を問えるだけの)予見可能性があるのであれば、なぜその予見可能性は会社内部の者に対して向けられず、現場の管制官だけに向けられるのでしょうか(ちなみに、当時はRAの指示と管制官の指示に食い違いが発生した場合の、優先関係に関する規定は存在しなかった、ということであります。)

非常に大きな事故が、管制官のミスによって結果的には発生しているわけでありまして、被害者の多くの方々も処罰感情を示しておられたようです。また社会の常識からみてもこういった問題点を情状としては考慮できても、刑事処罰を免除することは許容されない、とする考え方もよく理解しうるところであります。しかし櫻井判事も指摘しているとおり、このような事案で刑事責任を認めるということは、今後も重大な事故が発生したときに、事件関係者は黙秘権を行使して真相を語らない傾向を助長することになるのではないでしょうか。旅客機や鉄道事故が発生した場合に、運輸安全調査会等によって事故原因が究明されるわけでありますが、これとは別に事故の責任を追及するための警察・検察による調査が控えているのであれば、おそらく関係者は事故調査委員会による調査においても真相を語ることはないと思われます。今回のケースでも、本当に言い間違えによるニアミス発生の危険性が予見できるのであれば、従前からそういった状況を想定してRAが設定されたり、ルールが整備されているはずでありますが、そのような整備がない以上、会社関係者にも過失が認められると思われます。しかしそのような関係者の責任を問われることはなく、すべての刑事責任を管制官が負うということでありますので、「正直者(素直に反省する者)が馬鹿をみる」結果を助長することになるのでないでしょうか。

今回、宮川裁判長は政策論・立法論からみても、今回のような事案で刑事処罰を求めないことは現代社会の国民の常識にかなうものでなない、と指摘しておられます。しかしアメリカ社会では、技術者倫理協会が技術者の誠実義務(真実義務)を規定し、内部告発を義務付けていることや、関係者に刑事免責を表明して事故原因究明のために供述を求める、といったことが実際に行われていることからしますと、やはり事故調査を行う専門的機関と捜査機関との協力関係は、思っているほどやさしいものではないように感じます。それとも、日本はアメリカよりも会社関係者は誠実であり、刑事責任を負担するリスクがあったとしても、誠実に原因究明のための事実を語るものである、という土壌がきちんと存在する、ということなのでしょうか。

要するに、大きな事故が発生するような場合、一番「過失」責任を負わせやすいところで刑事責任を問い、その他の関係者は真相を語らず、それで事故原因の真相が明らかにならずに調査終了となれば、一番被害を被るのは再発防止策が十分に検討されず、繰り返される事故のリスクを抱える国民ではないのか、と思います。被害者の方々の目が刑事責任に注がれることは当然のことと思いますが、はたして一般の国民の目が、事件の真相究明と引き換えに誰かに刑事責任を追及することに注がれている(それが社会常識)と言えるのでしょうか。コンプライアンスは、単に「法令遵守」を意味するのではなく、企業が社会的な責任を負うことへ向けられるようになっている現実の流れについても考慮すべきではないのか、と思うところであります。法令遵守のために関係者は注意義務を尽くせばかならず不祥事を防ぐことができる・・・という考え方よりも、どのような場面においても不祥事は必ず発生する、という考え方を前提として企業のリスク管理を重視するほうが妥当ではないかと考えております。

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