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2010年11月17日 (水)

IFRS(国際財務報告基準)と欧州型CSRの考え方

東京証券取引所が先ごろ公表したIFRS(国際財務報告基準)に関するアンケート結果によりますと、現時点において上場企業の7割がIFRS導入に不安を抱いている、とのことだそうであります。(産経新聞ニュースはこちら)なかでも、「解釈の指針が十分でなく、具体的な会計処理の手続がむずかしい」という回答が最も多かったそうです(76%)。これはIFRSが原則主義を採用することによる不安だと思われます。そういえば旬刊経理情報(中央経済社)の最新号にも「IFRS原則主義への対応とその考え方」という特集が組まれておりまして、CESR(欧州証券規制当局委員会)の執行決定事例などが参考として紹介されており、関心の高さがうかがわれるところです。(自社の会計事実にIFRSの原則主義をどのように取り込んで、どのような会計処理を選択するのか、その思考過程を検討することが目的だそうで。)

私はこの分野では全くの素人でありますが、最近の欧州発のCSR(企業の社会的責任)の考え方と、このIFRSの原則主義の考え方は、どういった関係になるのでしょうか(まったく関係ないのでしょうか?)。CSRを「持続可能な社会をグローバルな視点から考えるために企業の果たす役割」と捉えますと、企業の持続可能性を示す過程の自発的な開示、ということはCSR(もしくはISO26000)の基本的要素であります。このことと、IFRSの基本的な考え方とはかなり近いものがあるように思えるのですが。。。

CSRの考え方というのは、企業の事業執行の成果が社会の持続可能性をどのように高めているか、ということと同時に、成果を生み出す事業過程についても、そういった持続可能性を自社においてどのように高めているか、ということを自ら積極的に発信することが求められる、というものであります。たとえば、どんなに素晴らしい商品を作って、社会に貢献したとしても、その商品を「児童を酷使して」作っていたとしたら、その企業は世界から非難されてしまうわけであります。お財布事情の面からみた「成果を生み出す事業過程」とは、まさにIFRSの考え方と非常に近いように思います。またCSRは社会からの要請への適合というよりも、非常に政治的な意味合いの濃い、発信主義(イニシアティブ)的発想が強いわけで、NGO団体がターゲットとするようなグローバルな大企業が積極的にCSRへの取組み状況を発信することで、(グローバルスタンダードとなって)国境を越えたルール化を目指すところが特徴的であります。各国独特の文化や法規制を飛び越えて、遵守へのインセンティブを生成していくプロセスとしてうまくできているように感じます。それぞれの概念が台頭してきた経緯はまったく異なるものの、政治的な色彩も含めた基本思想の部分ではかなり似たところがあるように思います。(ちなみにCSRは「先行者利益」を認める概念であります)

かりにIFRSも欧州発CSRの考え方に近いものがあるとしますと、IFRSの原則主義というのは、「個々の具体的な問題が、IFRSの原則主義のもとで許容されるか」とか「当社の会計処理がIFRSの裁量の範囲内に収まっているか」といったような(横並びの)受け身の考えではなく、そもそも自分の思ったところを自発的に発言する、という積極的な対応のことを指しているのではないでしょうか。つまり、力の強い企業が、「ウチはこうやっている」と堂々と会計処理を発表すれば、そこよりも力の弱い同業者がこれに追随する、そしてそのうち「会計慣行」が出来上がる・・・ということが「原則主義」の本旨ではないかと。そもそも力の強い大企業が決定した会計処理方針について、誰が「それは見積もりの変更ではなく誤謬だから修正せよ」と言えるのでしょうか?(だからこそ、アメリカのグローバル企業はIFRSへのアドプション推進に賛成しているのではないでしょうか-「IFRSと包括利益の考え方」高田橋範充 108頁参照)。日本の企業はまじめなので、いったん出来上がった業界の会計処理に「横並び」をすることはとても得意なのですが、自分で業界の会計方針をリードすることはできないのではないでしょうか(たぶん、投資家保護を重視して、企業間における「比較可能性」を理由に「横並び」することは得意ではないかと)。ただ、英国の会計業界のように「ルールよりも、俺の言っていることのほうが正しいのだ。それは○○だからだ。文句あるか」といったような説明責任の世界が浸透しない日本におきましては、自らルールを作り上げるようなことに時間と費用を使うようも、IFRS導入後も、まじめに「横並び」によるコストメリットを享受したほうがお得なような気もしますが、いかがなものでしょうか。ここ数年、内部統制狂想曲の真っただ中にいて、J-SOXへの企業の対応をみてきた上での素直な感想なのでありますが。。。どうも「原則主義」というのは、日本の産業振興にとっては不利な概念のように思えてなりません。

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