とりあえず争う?金融庁による課徴金納付命令への企業の対応
先週土曜日のエントリーに引き続きまして、本日も金融規制におけるエンフォースメントに関するお話であります。先週金曜日に参加いたしました「ふしぎな開示研究会」でも話題になっておりましたのが、「最近、課徴金納付命令の勧告を受けた企業が、審判で争う事例が増えているのではないか?」というもの。たしかに金融庁HP「審判手続状況一覧」によりますと、有価証券報告書虚偽記載事件、インサイダー取引事件等におきまして審判で課徴金処分を争う事例が続いているようであります。しかしながら、近時の審判事件では、味の素インサイダー事件及びビックカメラ元会長虚偽記載事件が多数回の審判手続を経ていたにもかかわらず、このたびの一連の審判事件では、ほぼ1回で終結しているようであります。
私は審判手続の当事者でもございませんので、本当に推測の域を出ませんが、ひょっとすると「とりあえず争っておこう」とお考えになって、審判手続を進行させる企業が増えているのではないでしょうか。この「とりあえず」といいますのは、後日、会社役員に対してなんらかの賠償請求が求められる場合の抗弁をきちんと立てられるように・・・・・、というのがホンネではないか、と(いえ、本当に勝手な推測でございますが・・・)。
今年9月のエントリー「闘うコンプライアンス(課徴金は払うけど)」では、法人としてのビックカメラさんが審判で課徴金納付命令の勧告について何ら争わずに、後日(被告役員のために)補助参加した株主代表訴訟で「課徴金は素直に払ったけれども、虚偽記載であることまで認めたわけではない」といった苦しい主張をしておられることを伝えましたが、上でご紹介しております畑中鐡丸弁護士の「こんな法務じゃ会社がつぶれる-最新ビジネスロー問題を5分で解決」(第一法規952円税別)におきましても、同様の見解が述べられております。(「課徴金納付命令審判手続はとりあえず争っておくべし」115頁以下)この本の中で、畑中先生は、有価証券報告書虚偽記載事件に関連するIHI株主代表訴訟を例に挙げておられ、IHI社が有価証券報告書虚偽記載事件ではなんら争うことなく課徴金を支払ったにもかかわらず、株主から代表訴訟によって厳格な責任追及を受けるや、「たしかに課徴金は払ったけれども、ミスを認めたわけではない」と、苦しい主張を強いられていることをみて、どんなに状況が不利であっても、認めてしまったら後日、株主からの賠償請求訴訟でやられ放題になってしまう、法令違反の事実を不利に援用されてしまえば後の祭り・・・・・と述べておられます。(私は畑中先生は存じ上げておりませんが、この本は多くのブログですでに紹介されております。コンプライアンス問題を中心に、最新のビジネスローに関連する話題なども豊富に掲載されており、私としましては非常に重宝しているものであります・・・)
後日提起されるかもしれない、役員への株主代表訴訟を考えますと、(たとえ負け筋であったとしても)課徴金処分について審判で争う、という事例も、今後ひょっとしたら増えてくるかもしれません。
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コメント
純粋な疑問です。
課徴金納付命令については、会社に対するものであって、会社と国(金融庁)の争いですが、その判断において、取締役個人の事由(代表訴訟を提起される蓋然性/可能性)を基礎にして判断することは、取締役の忠実義務に反するのではないでしょうか。
ぶっちゃければ、個人のプロテクトのために、会社の費用で勝ち目のない争いを行うわけですから、そのようなことを勧めること自体、コンプライアンス上、問題がありませんでしょうか。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2010年11月22日 (月) 12時57分
場末のコンプライアンスさん、ご質問ありがとうございます。
「誰が勧めるのか」と言う点、たとえば会社の顧問弁護士さんが勧めるのであればコンプライアンス上で問題があることも考えられそうですね。実際には「まったく勝ち目がない」という場面は想定されにくいとは思いますが。。。
後日、会社が株主代表訴訟に(役員に有利に)補助参加する場面も想定されますし、過去にも(すでに立法上の手当てはなされましたが)コマツさんや大塚家具さんのようなインサイダー事例などもありますので、とりあえず争う・・・という選択肢も、コンプライアンス上問題とまではいえないケースも多いのではないかと。(「まったく勝ち目はない」という点にこだわれば、問題事例も出てくるかとは思いますが)
投稿: toshi | 2010年11月25日 (木) 02時20分
ご回答いただいてありがとうございます。
「勝ち目のない」という点は語弊があったかもしれません。
どちらかというと、「動機の不法」という感じのほうが正しかったかもしれません。
勝ち目があるなしということよりも、そもそもとして、争いを行うか否かの判断について、「会社の利害」のみを考えるのではなく、「役員個人の利害」を踏まえて判断することの是非に、非常に違和感を感じたわけです。
課徴金納付命令に該当する事実認定に異議があれば争うべきですし、そうでない場合でもレピュテーション等を踏まえて争わないという判断もあると思います。
「レピュテーション等を踏まえて争わない」ということが認められるならば、役員の代表訴訟のリスクのために会社を犠牲にすることに問題があるように思った次第です。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2010年11月25日 (木) 23時55分
株主代表訴訟には関係しませんが、T監査法人の会計士もとりあえず争うでしょうか。今回の事案は、166条3項後半の「職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等」に該当しインサイダーとされたのでしょうが、過去に前例はあったのでしょうか?
適用要件を明確にするためにも、異議を申し立てて審判を受けてもらいたいと思います。
投稿: 迷える会計士 | 2010年11月27日 (土) 19時25分
迷える会計士さん、こんにちは。ご意見ありがとうございます。過去に前例はなかったと記憶しています。(もし詳しい方、いらっしゃいましたらご教示いただければ、と)ただ、現在調査中の事件が、たぶん同様のものがありますので(会計士さんではありませんが)、そちらは争われる可能性がありそうですね。
投稿: toshi | 2010年11月30日 (火) 12時20分