« なぜM&Aにおいてインサイダー取引は要注意なのか? | トップページ | 住友電工カルテル課徴金株主代表訴訟とリーニエンシーの効用 »

2010年11月30日 (火)

IFRS(国際財務報告基準)導入と法の後押し

やけに分厚い「経営財務」(2993号)を読んでおりましたら、カゴメさんがすでに参考書類として包括利益計算書(一計算書方式)を開示しておられた、との記事が目にとまりました。カゴメさんは、たしかHPで「IFRSの時代は、自分たちで仕訳処理、会計基準の選択を行う時代であり、まさに我々の時代である」と、ずいぶんと前から公表されておられたので、まさに包括利益会計基準の適用を控えて、先行者としての面目躍如といったところでしょうか。

この「経営財務」も、ほとんどの記事がIFRS絡みのものでありますが、11月27日の日経新聞朝刊でも「固定資産の償却方法、定率・定額ともに容認 国際会計審が見解」と題する記事が掲載されておりまして、IASB(国際会計基準審議会)が、工場設備や建物といった固定資産の減価償却方法に関する文書を公表し、定額法や定率法に優先順位はない(どちらも認める)見解を示したことが報じられております。このニュースにつきましては、いつも愛読しているKOHさんのブログ「IFRSはつらいよ」で詳細に解説がなされておりまして、たいへん勉強になります。記事にもありますように、もちろん優先順位はないとしても、自由に選べるわけではなく、実態に合わない方法は認められない可能性もある、とのことであります。

会計専門家の方々のブログでは、すでにいろいろと話題になっている上記日経の記事でありますが、これは伏線がありまして、2010年8月13日の日経新聞朝刊「国際会計基準 導入へ揺れる議論」という記事が元ネタになっているものと思います。有力企業が大手監査法人の実務担当者を招いて開いたIFRS勉強会で、監査法人側が「IFRSで決算を作る場合には、機械や工場の減価償却を毎年一定額を費用とする『定額法』が望ましい」と解説され、企業側がこれに反発すると「しかしIFRSでは定率法の事例が少ない、合理的に証明してもらわないと・・・」といった答えがかえってきた、といった話題が示されております。こういった話題が盛り上がり、その後金融庁による「国際会計基準に関する誤解」の公表につながった、というもの。

そんななかでのIASBの文書公表でありますが、先の8月13日の記事では、ある企業の方が、たとえ金融庁の「誤解」が公表されたとしても、果たして監査が認められるかどうか不透明、といった感想を漏らしておられました。私も、IFRSが原則主義であるとしても、企業がGAP分析をきちんとしておかなければ、企業の判断と監査法人の判断が食い違う場面においては、やはり企業の経営判断は通らないのではないか、といった懸念を抱いております。監査法人側が、ある一定のルールをもっているのであれば、このルールに従わざるをえない事態となるのではないか、と。たとえばこれまでは「重要性がない」として、連結の対象外だった子会社について、IFRS導入を機に、IFRSの基準によれば連結の範囲に含まれることになるのでは・・・といった監査法人の意見が出てくるとか。。。

8月13日の記事がどこまでニュアンスを正確に伝えているのかは不明でありますが、監査法人さんの意見と会社側のIFRS適用判断とが食い違うケースにおいて、そのまま意見の対立が続いてしまう、ということはあってはならないことだと思います。信頼関係こそ第一であることは間違いないところだとは思いますが、企業側にも、なぜそのような会計処理を行うのか、フレームワークの解釈をもとに演繹的な観点から自主的に説明できる力量が必要ではないか、と。この「力量」というのは、そもそも突発的に企業に備わるわけはないのでありまして、普段からの監査法人さんとのコミュニケーションのなかで、「この会社はIFRSを十分理解している」といった認識をもってもらうことが一番必要ではないかと思われます(これは内部統制報告制度の実務の中で学んだことを参考にしております)。

しかしそれでも、監査法人さんと企業側で意見対立が解消されない場合はどうなるのでしょうかね。意見不表明ということは上場廃止につながることになるわけですが、IFRSの解釈に関する意見相違で企業を上場廃止に追い込むだけの勇気が監査法人さんにはあるのでしょうか?後日のリーガルリスクを考えますと、監査契約の解消という方向性で検討が進むことはあっても、個別の企業の自主的な判断を断固として拒絶するだけの行動を監査法人さんがとることはちょっと想定しにくいのではないか、と思います。(つまり監査法人さんは、今後ますます対象上場企業さんとの普段のコミュニケーションが大切になってくるのではないかと思われます)

ちなみにIFRSにおける会計処理方法の是非、といったことはおそらく司法判断の枠外ですから、監査法人と企業のどちらが正しい(適法)といった法的紛争は想定しにくいように思います。要は、法的紛争のモデルごとにどちらに立証責任があるのか・・・といったことと関連することになろうかと。このあたりは、未だ私にも見当がつかないところでありますので、IFRSの適用にあたりましては、今後いろいろと法の後押しが必要になってくる場面が増えてくるのではないか、と考えております。

PS 上記「経営財務」の某記事によると、海外BIG4の監査法人の社員が「うちの法人の女性会計士ベスト10!」を顔写真付きで作成していたところ、そのファイルが外部に漏れてしまってエライ目に合っているとか。。。「こういった事件は他の法人でも時々報じられている」とのコメントも(笑)。私も小学生のころ、同じようなものを作って「終わりの会」(反省会)で吊るしあげられた経験がございました。いにしえの嫌な記憶がよみがえりました。。。

|

« なぜM&Aにおいてインサイダー取引は要注意なのか? | トップページ | 住友電工カルテル課徴金株主代表訴訟とリーニエンシーの効用 »

コメント

いつも楽しく勉強をさせていただいております。


日本公認会計士協会近畿会のホームページ上にて、『「会計不正事件」判決の論点整理』という資料がアップされてることをご存知でしたでしょうか?先生のblogでアナウンスされてなかったので、発見したときは、なぜかドキドキしました。


ところで、IFRSになることで上記資料の討論内容が変わることはあるのでしょうか?また、変わるとしたら、どの点が問題になりうるとお考えでしょうか?


資料内容の理解を深めるためにもご教示いただけたらと思います。


どうぞよろしくお願い申し上げます。

投稿: cpa-music | 2010年11月30日 (火) 14時08分

そういえば産経新聞関西版に掲載されていましたが、当ブログではまだリリースしておりませんです(汗)すいません・・・

ご質問の点、またあらためてエントリーさせていただきます。(ちょっと、これは語ると長くなりそうですし)

投稿: toshi | 2010年11月30日 (火) 14時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: IFRS(国際財務報告基準)導入と法の後押し:

« なぜM&Aにおいてインサイダー取引は要注意なのか? | トップページ | 住友電工カルテル課徴金株主代表訴訟とリーニエンシーの効用 »