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2010年12月30日 (木)

「裁判官と学者の間」伊藤正己著

Itomasami001_400_2  伊藤正己先生(元最高裁判事 東大教授)の「裁判官と学者の間」(1993年 有斐閣)は名著であり、今でも時々読み返しております。とくに第Ⅰ部「裁判官と学者の間」(第Ⅱ部は「私の少数意見」)は、わずか140頁ほどではありますが、個々の裁判において弁護士がどのようにして裁判官を説得するか、また準備書面や弁論要旨に何を書けば、こちらの意見に耳を傾けてもらい、また判決に反映させることができるかを学ぶことができる最良の教科書であります。

若い弁護士の方々には、仕事にも役立つ、おススメの一冊です。最近、有斐閣ではオンデマンド版も発売しているようです。また商事裁判において、しばしば学者の方々の意見書を提出することがありますが、そのような学者意見について、裁判所はどのような思考過程をもって採否を決定するのか、また判決後の判例評釈を裁判官はどのような思いで検討するのか・・・・・といったあたり、最高裁の審理だけではなく、地裁の裁判所でも十分に参考にできる内容であります。

なお、新聞報道にもありますように、最高裁大法廷判決で、ひとり反対意見を付した自衛官合祀違憲訴訟の「反対意見全文」が第Ⅱ部に掲載されております。「亡夫を、意に反して護国神社に合祀されることは人格権の侵害にあたるか」という、信教の自由が憲法上の論点として争われた事案でありますが、「民主主義と法の支配の関係」を考えるにあたり、その思考過程を学ぶ絶妙な教科書であります。こういった裁判の経験を積まれて、伊藤先生は学者の思考と裁判官の思考の違いを本書で解説され、自らの心が「裁判官と学者の間」で動揺しておられた様子が理解できます。最高裁判事がなぜ補足意見を書きたいと思うのか、弁護士出身の最高裁判事と学者出身の判事とでは、なぜこうも思考が異なるのか・・・このあたりの心理も、本書によってすこしばかり理解できたような気がいたします。

伊藤先生の論考、著書は司法試験受験生の時代から多数拝読させていただきました。こころより、ご冥福をお祈りいたします。

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2010年12月29日 (水)

私が選ぶ2010年「ビジネス法務」関連の10大裁判!

たしか昨年は日経新聞で法曹関係者が選んだ10大裁判・・・のような企画モノ記事が掲載されていたかと思うのですが、今年はどうも見当たりませんね。ということで、当ブログ管理人が勝手に選んだビジネス法務関連、しかも管理人の興味を優先して10大判決を選んでみました(すいません・・・「判決」といいながら、一部違うものも含まれていますので、あまりそのあたりはツッコミを入れないでください・・・・・)

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やはり企業コンプライアンス、会計と法、会社法・金商法、内部統制に関連するもので占められております。これらの他にも金商法192条による緊急差止命令事件、カネボウ種類株式価格決定最高裁事件、会社分割による詐害行為取消請求事件、金融庁に対する文書提出命令申立事件ほか、いくつか候補があったのですが、単純に「私の好み」という面から先の10個を選んでおります。

10番や7番は、今後のIFRS時代(ホントに到来するのかどうかまだわかりませんが)における司法判断の在り方、6番は技術者倫理と法、5番は最近話題の「第三者委員会調査」の限界、4番は今年のM&A法制の代表的判断、3番は内部告発の光と影、9番は会社法上の内部統制の課題などが選出のポイントであります。8番は、あまり話題になりませんでしたが、株主代表訴訟を支援する弁護士の業務内容を、裁判官がどのように評価するのか、とても興味をそそられたものです。そして、1番2番については、まさに経営判断と経営者の法的責任の関係をいろいろと考えさせられるものでありました。

商事法務編集部さんの選ぶ今年の重要判例(商事法務1919号)とは、ずいぶんと異なりますが(合ってるのはアパマンショップHD最高裁判決くらいでしょうか)、まぁ管理人の興味や関心優先・・・・・ということでご勘弁ください<(_ _)>

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2010年12月27日 (月)

日航907便・航空管制官事件最高裁決定と事実解明のための刑事免責

Xmasも終わり、いよいよ年末モードですが、皆様におかれましては如何お過ごしでしょうか。昨年の年末は長女のセンター試験の直前ということで、ピリピリしたムードが漂っておりましたが、今年はまた恒例の「家族で温泉小旅行」を予定しております。しかしこれだけ寒いと、目的地に着くまでの道程がすこし億劫になってきましたが。。。

さて、2カ月ぶりになりますが、朝日新聞「法と経済のジャーナル」に「日航907便・航空管制官事件最高裁決定から考える安全対策と刑事免責」と題する論考を寄稿いたしました。企業コンプライアンスに関心を持つ者にとりまして、企業がリーガルリスクに過度に反応してしまうと、かえってみんなが不祥事を隠す方向に走ってしまうのではないか・・・といったことを危惧しております。本稿も、そのような危惧感から、条件反射的に感じたことをまとめたものであります。当ブログでも本年10月末ころに、この話題について少し書かせていただきましたが、今回は平成15年当時の本ニアミス事件の事故調査報告書(200頁以上の大作)をきちんと読んだうえで、朝日AJに寄稿させていただきました。

固めの内容で恐縮ですが、ぜひこの最高裁決定につきまして、お考えいただくきっかけになれば、と思っております。たぶん私の記事は無料でお読みいただけるものと思いますので、ご興味がございましたら是非、朝日AJのほうへお立ち寄りください。

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2010年12月25日 (土)

社外取締役関西シンポが日経マーケットオンラインにて紹介されました。

日経マーケット・オンラインにて、先日(12月8日)の社外取締役ネットワーク「関西シンポ」の様子が掲載されております。日経の有料会員の方でないとご覧になれないかもしれませんが。。。

「独立役員は株価を上げるか?」(日経マーケットオンライン12月24日付け)。ちなみにリンクは差し控えさせていただきます。

まだまだ課題の多いテーマではございますが、採り上げていただき、ありがとうございました。企画した人間にとりまして、最高のXmasプレゼントでございます。m(__)m

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2010年12月24日 (金)

財務報告内部統制の基準・実施基準改訂案(公開草案)出ましたね

12月22日、金融庁のHPにおきまして、財務報告に係る内部統制(評価および監査)に関する基準および実施基準の改訂版(公開草案)がリリースされております。審議経過をフォローされていらっしゃった皆様からすれば、とくに目新しいものではないかもしれませんが、「重要な欠陥」という用語の見直しや、各企業における創意工夫への監査人の理解(および指導的役割)、評価手続の簡素化・明確化、中堅・中小企業の組織に見合った作業負担の確認(あえて「確認」と述べておきます)といったあたりが改訂の主な趣旨となっているようであります。なお、日本監査役協会も、12月13日に内部統制システムの監査に関する実施基準の改訂版公開草案をリリースしておりますので、企業実務家や会計監査人の方々は、こちらも合わせて参照されるのがよろしいかと思われます(監査役の内部統制システム監査は、財務報告内部統制に限定されるわけではありませんが)。

改訂版をご覧になって、「うちは中堅・中小企業に該当するのだろうか?」「うちの連結子会社は該当するのだろうか?」といった疑問も出るかもしれません。定義をみても「事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織」というのは、どの程度の規模の企業なのかは明示されておりません。しかし、このあたりは3年半ほど前に出版されました「簡易版COSO内部統制ガイダンス」(同文館出版)がたいへん参考になるのではないか・・・・と思われます(出版当時は、「どこが簡易版なんや!」「もっとましな和訳はできへんのか?」などとご批判もあったように記憶しておりますが・・・(^^;  )。たとえば中小規模の会社であれば、運用評価における記録化手続についても、発注書や領収書等、業務のなかで作成されるもので足りる、ということなども明示されております。この本のなかでも

「企業を小規模、中規模または大規模に分ける『明確な線引き』が必要であるという向きもあるが、本ガイダンスではそういった定義は行わない。・・・・・本ガイダンスが対象とするのは、以下のような性質のうちの多くのものを備えている企業である。」

として、いくつかの特色を掲示して、経営者自らに検討してもらう、というスタイルになっております。また、ガイダンスのなかでは、実際に中小規模の企業が費用対効果に見合った創意工夫で内部統制システムを整備・運用している具体的事例を紹介しており、これも参考になるところであります(12月22日付けで、金融庁HPでは中小規模企業の具体的な工夫例を募集しておりますが、これも簡易版COSOガイダンスをモデルにしているのではないか、と思われます)。四半期開示制度と同様、民主党の経済成長戦略に合わせる形での見直し作業だったのかもしれませんが、各社でも「費用対効果」を意識した見直しの良い機会になるのでは、と。

これは私見にすぎませんが、上場会社は施行準備段階から既に4年から5年ほど、財務報告内部統制の整備・運用に向けて対応してこられたわけですが、もうすでに企業間の格差は大きなものになっていると確信しております。私が確信する理由は、大規模上場会社における多数の連結子会社の内部統制を評価する機会に感じたことからであります。同規模の子会社であっても、子会社トップの財務会計に向き合う姿勢によって、内部統制のレベルに大きな差が生じていることを認識いたしました。おそらく私が見たものと同様、各上場会社間でも、レベル感は大きく異なるのではないかと推測いたします。しかしながら、実際の開示法制のなかでは、わずか数十社程度しか「内部統制は有効とはいえない」という評価結果を報告していないため、現実には内部統制の最低限度のレベルをクリアしていれば「有効」という運用となっているのが現実であります。せっかく内部統制のレベル感には企業間で大きな差が生じているにもかかわらず、その結果を投資家に開示できていないことは、制度運用面において大きな課題ではないかと思います。

各上場会社の財務報告の信頼性(財務報告において、投資家に与える影響が重要である虚偽記載が将来発生する可能性)を開示する・・・ということであれば、格差の生じている内部統制システムのレベル感をそのまま開示するような運用となることが望ましいのでありますが、当面はそういったことにはならないでしょう。だとすれば、内部統制報告制度の運用において重要なのは経営者を含めた関係者のコミュニケーション能力の向上にあると思います。プリンシプルベースの制度である以上、経営者(最高財務責任者)と監査人、監査役、内部監査担当者らが、費用をかけずに効果的な内部統制システムの運用に向けて試行錯誤を繰り返す姿が一番大切ではないかと考えております。このたびの日本監査役協会の内部統制システム実施基準改訂版では、「財務報告内部統制」(取締役の職務執行のひとつとしての整備・運用)への監査として、この経営者と会計監査人とのコミュニケーション、取締役会における関心度の高さ、といったあたりに焦点を当てておりますが、私も監査役が厳しくチェックすべきだと思います。

経営者が内部統制に関心を示す企業は、当然のことながら担当者も働きやすいわけでして、現場や監査人の協力も得やすいのであります。だからこそ、統制上の要点も理解が早く、被監査性(監査人が気持ちよく監査できるためのお膳立て)も高く、今回の改訂版に挙げられているような効率的・効果的対応はすでに「言われなくても」監査人へ十分に説明のうえで導入済みなのであります。そして、こういった担当者の方々は、内部統制は有効と評価されることが目的ではなく、財務諸表を適正に作成することや、営業戦略を実行に移すこと、不正の端緒を見極めること等のための「あくまでも手段にすぎない」ことを認識しておられるように感じております。

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2010年12月22日 (水)

ディスクロージャー制度の中での監査役監査基準改正

2010年の上場企業の定時株主総会におきまして、社外監査役の選任議案に40%以上の反対票が投じられた会社が5社以上あったそうで、監査役の外観的独立性に対して一般株主の厳しい目が向けられております。最近のガバナンス改革は、独立社外取締役導入論に注目が集まりがちでありますが、ガバナンス改革推進派の方々が、かならずしも「社外取締役導入論者」ではなく、社外取締役導入には否定的だが、その分監査役制度改革(強化)を主張される方々もいらっしゃいます。ただ、いずれの立場にも共通するのが、海外の投資家にも理解しやすいコーポレート・ガバナンス改革を目指す点にあろうかと思われます(だからこそ、法制審の議論のなかでも、監査役の代表取締役解任権の付与、といったことが検討課題に挙げられております)。本来、監査役は会社法上の機関であり、金商法(上場会社のディスクロージャー)との関係性は薄いものであります。しかし、監査役制度の運用面や外観的独立性が課題とされ、法規制とは異なる「ベストプラクティス」としての行為規範が示されることで、ディスクロージャー制度のなかの監査役監査が位置づけられるようになってきたものと理解できます。

先日(12月13日)、日本監査役協会のHPにおいて、監査役監査基準ならびに内部統制システム監査実施基準の改正案が公表され、意見募集がなされておりますが、監査役監査のベストプラクティスとして提示されている改正案を読みますと、金融商品取引法や取引所の上場規則に影響を強く受けたものとしての、ディスクロージャー制度の中での監査役の姿が模索されているような印象を受けました。独立役員としての社外監査役、第三者割当増資における監査役の意見表明、有事における第三者委員会との関係(私個人としましては、これは少し異論がございますが・・・)など、その典型的な例でありますが、その他にも、内部統制に関する議論の進化とともに、監査役が内部統制の整備面だけでなく、その運用面のチェックについても積極的な役割を果たすような動機づけがなされているところが特徴的であります。財務報告内部統制につきましても、昨今のJ-SOXの簡素化、明確化(改正案)の流れのなかで、(財務報告の信頼性確保に向けての)監査役監査への依存度が高まることとの整合性が図られているのではないかと思われます。

しかし現実問題としまして、監査役監査がいかに運用されているか?といったことはなかなか外見からは容易に把握できないものであります。本日、メディア・リンクス事件の渦中にいらっしゃった方々のお話を拝聴する機会がございました。高橋篤史さんの著書「粉飾の論理」などを読むかぎりでは、メディア社の架空循環取引による粉飾を見抜けなかった監査法人も監査役も、さっさと辞任をして逃げてしまった・・・といった印象を持っておりましたが、実際に関係者の方々のお話を聞いておりますと、決して彼らは逃げていたわけではなかったようであります。とくに公認会計士資格をお持ちだった女性の監査役の方は、経営陣の不正行為を発見した際、旧商法260条の3に基づいて、取締役の法令違反行為があるものとして、取締役会の招集を求めようとされていました。その結果、経営陣と監査役との対立が激化して、多くの迫害を受け、やむなく辞任に至った・・・というのが真相のようであります。しかし、監査役制度がいかに運用されているのか・・・といったことは、そもそも監査業務を開示したり、株主に直接説明する機会がないために、ほとんど表に出てくることはないと思われます。メディア・リンクス事件の当時、監査役が適時開示として意見を表明したり、独立役員として期待される役割を積極的に果たしたり、金商法193条の3による不正行為届出を監査法人から受理する立場にあったとすれば、メディア・リンクス事件も、少し違った展開になっていたのかもしれません。

単に外観的独立性を確保するだけでなく、監査役制度がどのように個々の企業で運用されているのか、その運用状況がわかりやすく第三者にも理解できるようになることが、今後の監査役制度にとって必要になると考えております。監査役の権限を強化したり、法的責任が認められやすくすることではなく、運用のガイドラインを「ベストプラクティス」として示したうえで、これをソフトローとして活用することが、いま最も必要な改革なのかもしれません。(なお、監査役監査基準改正案は、一読したにすぎませんので、まだ理解不足な点もございます。今後また折に触れて、監査基準をご紹介したいと思っております)。

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2010年12月20日 (月)

鹿島社の鉄骨補正隠ぺい工作とCSR経営

金曜日は拙著出版記念セミナー(東京講演)に多数ご参加いただき、誠にありがとうございました。大阪講演の後、尖閣問題(海上保安庁問題)やウィキリークス問題、公益通報者保護法改正問題など、内部通報や内部告発に関連する事件等が話題となりましたので、やはり企業情報の管理や告発対応へのご関心が高まっているように感じております。ということで、本日も内部告発モノの話題を取り上げたいと思います。

先週12月16日(木曜日)の日経朝刊におきまして、大手ゼネコンの鹿島さんの事例が報じられております。大阪梅田の21階建て高層ビル建築にあたり、測量ミスによって鉄骨のズレが生じていたことが判明したにもかかわらず、鹿島さんの現場社員の方は、工期の遅れをおそれたため、(補強工事は行わず)補正措置のみを行い、建築確認申請データも改ざんしていたことが判明した、とのこと。上記新聞報道によれば、本件発覚の端緒は、今年10月ころ、ネット上に内部告発情報が流されたことによるものだそうであります。最近の内部告発の傾向としまして、この鹿島さんの事例のとおり、内部告発が匿名性を確保したまま、ネット情報として流出することであります。私も現在進行形で同様の事案に対処しておりますが、今後もこのての「ネットを活用した内部告発」が増加することは間違いないものと確信しております。

鹿島さんとしては社内調査を行い、具体的な事実を認め、HPでは謝罪のリリースを公表しておられます(施行不具合に関する一部新聞等の報道について)。マスコミも鹿島さんご自身も、21階建ての高層ビルとは一体どこのビル?という点については明らかにしておりませんが、すでに2ちゃんねる上では、報道された当日にビル名が特定されておりましたので、こういった点でもネット掲示板の威力が理解できるところであります。

さて、大手ゼネコンさんのコンプライアンス問題につきまして、私は特に青臭い意見を述べるつもりはございませんし、電力・ガス・鉄道事業と同様、コンプライアンス問題が企業の社会的評価の毀損に結びつかないほどの大手事業会社であれば、自社の信じるところに従い堂々と対応すればよいのでは・・・とも思うところであります。しかし、コンプライアンス問題とCSRは別物であります。CSR問題として捉えるのであれば、上記鹿島さんのリリース内容は若干素朴な疑問がございます。

鹿島さんのCSRへの取組みをみておりますと、「ステークホルダーとのコミュニケーション」が重要な要素として紹介されております。当然、ここに言うところのステークホルダーには、株主、監督官庁と並び、建築物を使用する住民や鹿島の従業員も含まれておりますので、有事におけるコミュニケーションも当然のことながら鹿島さんは十分に尽くすことを宣言されているはずであります。したがいまして、鉄骨がずれたまま建築された高層ビルの安全性につきましては、単に第三者評価機関から安全性に問題なし、との回答を得たことだけでなく、耐震性も含めまして、どのようなレベルでの安全性が確保されているのか、十分に説明する必要があるのではないでしょうか?

また大手ゼネコン社員の方は、建築現場の責任者として、たった一人で現場を取り仕切っておられるでしょうから(たとえばこちらの取材記事参照)、相当なプレッシャーのなかでお仕事をされているはずであります。会社側は「施行管理を今後は徹底する」とありますが、たった一人で現場に駐在する社員をどのように徹底管理するのでしょうか?徹底管理すればするほど、現場社員はミスを隠ぺいする傾向が強くなり、今回のように現場の取引先社員等によるネットへの内部告発は増えるのではないでしょうか?むしろ、経営トップが「会社に報告が上がってきた場合、会社としては工期の遅れを甘受してでも、補強工事を優先すべきと考えている」ということをはっきりと現場社員に向かって言わなければ、同じことはいつまでも繰り返されるのではないでしょうか?

内部通報制度の運用が適切に行われていない企業ほど、通報の匿名性はほぼ間違いなく保証されないのが実態でありますので、規律を徹底したり、不正を隠ぺいする体質の企業の場合、匿名性を確保できる手法としての「ネットへの告発」が増えるのは当然のことであります。コンプライアンスとは別にCSRへの取組みを標榜している企業であればこそ、従業員がナットクできるような対応を、企業としては検討していただきたい、と考えるところです。

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2010年12月15日 (水)

業界トップ・ヤマダ電機のCSR経営への熱き思い(?)

(16日未明:追記あり)

ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、業界大手のヤマダ電機さんが、日経ビジネス誌上「お客様満足度ランキング最下位」と報じられたことで名誉をいたく傷つけられたとして、日経BP社を相手に損害賠償請求訴訟を提起していたそうであります(裁判自体、私は存じ上げませんでしたが)。そして12月14日、東京地裁はヤマダ電機さんの請求を棄却する判決を下したようです。(読売新聞ニュースはこちら

法人にも(不法行為に基づく)名誉毀損は成り立つ・・・というのが判例通説でありますので、5500万円分の社会的信用を毀損された、とするヤマダ電機さんの気持ちもわからないではありません。ましてや世は正にCSR経営の時代。家電量販店にとりましてステークホルダーの中心にある顧客様へのアフターサービスが最下位・・・という評価を「天下の日経ビジネス誌」で公表されたとなると、これはエライ痛手でありますし、ヤマダ電機さんは企業としての社会的責任をまったく果たしていない、と評されているに等しいものでありますので、「闘うコンプライアンス」の必要性も十分に認められるように思われます。

ただ、どうでしょうか。。。皆様がもし、ヤマダ電機さんの経営者だとしたら、「何を書いとるんや!」と怒り心頭で訴訟を提起するでしょうか??私はかなり悩みますよね。法人の社会的評価(信用)を毀損するに足りるほどの具体的な事実の摘示を原告であるヤマダ電機さんのほうで主張・立証する必要があるわけですが、そもそも顧客の満足度・・・というのは、お客様の主観的な評価にすぎないわけでして、たとえば顧客がブログで「ヤマダ電機はアフターサービスが悪い」と書いたとしても、それは個人の主観的な嗜好の問題であって、名誉毀損は成り立たないものと思います。そういった満足度をマスコミがアンケートで集計して、その結果を公表する、ということになりますと、「ヤマダのサービスが悪い、という人がたくさん存在する」ということが具体的な事実になりそうであります。ただ「集計作業」はかならず1番から最下位まで順位が必然的についてしまうものでありますから、マスコミが集計結果を意図的に作り上げなければ名誉侵害行為と評価することはできないようにも思われます。この世の中にヤマダ電機の顧客満足度が悪いと考えている人がたくさんいる・・・という具体的な事実に何らの根拠もない、という点の立証はかなり困難ではないかと想像いたします。

いずれにしましても、この東京地裁の判断をみてもわかるように、決してヤマダ電機側に明らかに(一方的に)正義があるわけではなく、敗訴の可能性はあるわけでして、こういった状況で裁判を起こすことは、かえって、「ホントだ。ヤマダ電機のアフターサービスの悪さは、裁判で証明されたのだ。あれは真実だったのだ」といった一般市民の認識を増幅させてしまう結果になるのではないかと。これはかなりマズイなぁと思うのでありますが。ましてや、相手は日経BP社であり、相手が敗訴すれば最高裁までとことん争う筋の裁判ですよね。おそらく著名な裁判例になると思いますし、先の読売新聞ニュースではすでに「ヤマダ電機満足度最下位訴訟」といったネーミングまでされてしまうわけであります。つまり、これから10年も20年も先まで「ヤマダ電機最下位訴訟」なる事件名で、幾度も紹介されることになるわけですから、どうもCSRの時代において、トホホな判例を形成してしまったのではないか、と危惧いたします。これは高裁で逆転判決が出たとしても、完全にヤマダ電機さんの名誉が回復されるわけではなく、どっちかといいますと、「ヤマダ電機顧客満足度最下位」のネーミングが一般国民の脳裏に焼き付いてしまうように思います。

押しも押されぬ業界トップのヤマダ電機さんですから、週刊ダイヤモンドや、日経ビジネスなどの売れ筋企画「●●ランキング」で○○部門最下位になったとしても、悠然と構えていることはできなかったのでしょうかね?少なくとも、日経BP社の悪意が明確でない以上は、「ちょっとうちの会社も反省すべき点があるのではないか」と真摯に受け止める、ということもできなかったのでしょうか?それとも「ウチに何かいちゃもんつけてくる奴は、みんなこういう目にあうぜ」といった一般予防的効果を狙ったものなのかもしれません。(これならとくに勝訴しなくても、それなりの効果はあるかと・・・)

ひょっとすると、裁判に至るまでになにか伏線があったのかもしれません。企業のCSRに関連する問題であるがゆえに、今回のヤマダ電機さんの訴訟につきまして、コンプライアンスの視点からは結構悩ましい事例であるように思えました。今後の展開に注目しておきたいところであります。

(追記)問題の日経ビジネス誌のランキングでありますが、コメント欄にてgo2cさんが詳細に解説、分析しておられます。たいへん参考になりますので、ご興味のある方はそちらもご覧ください。しかし、この「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズは、本当にいつもたくさんの方に閲覧していただき、またツイッター等でも話題にしていただいているようで、どうもありがとうございますm(__)m

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2010年12月14日 (火)

「なんちゃってIFRS」と内部統制の重要性

今日は東京からデジタル調査の専門家の方に大阪弁護士会館にお越しいただき、調査技法の基礎を学びましたが、ホントに面白かった。「悪魔の証明に挑むIT調査」「告訴手続のために必要なデジタル調査」というものの基本が理解でき、たいへん有意義であるとともに、どうしても毛嫌い(食べず嫌い?)しがちなIT検査という領域が身近に感じられるものとなりました。SESCの課徴金開示検査課にもIT分析官として出向しておられた講師の先生には本当に感謝申し上げます。<m(__)m>また、IT調査が不正予防(内部統制)にも有用であることも理解できました。

※ 悪魔の証明とは、たとえば「不正が他に存在しないことの証明」・・・というように、ないことの証明が極めてムズカシイものである、といったことを示すときに使われる言葉

さて本題でありますが、12月9日の朝日新聞朝刊(経済面)では、内部統制制度の信頼が揺らいでいるとして、いったん「有効」と評価しながら、不祥事等の発覚で「内部統制は無効」と訂正した企業が17社に及んでいることが報じられておりました(朝日新聞ニュースの記事はこちら)。後から発覚した会計不正によって従来の報告書の内容を訂正することが慣行となるようでは、内部統制報告制度の形がい化である、「有効」ありきの運営である、機能停止であるとの批判が専門家の方々より意見として出されております。(この問題は、過去に何度も当ブログで検討してきたところであります)しかし、せっかく根付いてきた内部統制報告制度(とりわけ整備よりも運用)を決して形がい化してはいけないと思いますし、IFRSの時代においては、今まで以上に重要性が増すものと考えております。また、このブログでも何度かそのような主張をしてまいりました。

ところで、私のような会計素人でも、IFRSと内部統制報告制度(J-SOX)との関係についての問題意識を共感できるような論文が二つほど出ております。ひとつは、今年10月に日本銀行金融研究所から公表されておりますディスカッションペーパー「IFRSによる見積り拡大と経営者、監査人の責任・対応-重要性を増す裁量的判断過程への内部統制-」(越智信仁氏)であります。すでに諸事情により(?)ネット上では閲覧できなくなってしまった会計制度監視機構の2009年7月リリースの政策提言「公正ナル会計慣行とは何か?-会計判断調査委員会の設置を目指して-」の提言内容と、かなり近いものでありまして、私見としましては、この越智研究員のイメージには賛同するところであります。IFRSの強制適用により、とりわけ経営者における見積もり判断の余地は格段に広くなるのでありまして、法律上の「経営判断原則」類似の思考過程が必要となるはずであります。また、裁量的判断が必要になることは、すなわち粉飾決算の可能性や、監査責任が追及される法的リスクも増えることが予想されるのでありますが、残念ながら司法機関がこれを判断する能力は乏しいものであります。このように粉飾決算への事後対応能力が弱まる分、事前対応の重要性が増すのでありまして、たとえば内部統制の「見える化」を推進することや、財務情報の信頼性を補完するための非財務情報(ESG情報等)の重要性が高まる、ということになるものと思われます。

そして、もうひとつ迷える会計士さんから教えていただいたのが、この12月にリリースされました東京財団さんの政策提言「日本のIFRS(国際財務報告基準)対応に関する提言」であります。以前、当財団の敵対的買収防衛策に対する提言については、私自身はいまひとつ納得できるものではございませんでしたが、今回の提言につきましては、賛同できるところが多いように思います。この提言でも、原則主義がもたらす問題点として恣意的な会計処理の余地が大きくなることが挙げられており、これに対する裁判所の判断については、IFRSの解釈権がIFRICにしかないことから、これをどう裁判所が受け入れるかは不透明な状況にあることが説明されております。今後のIFRSへの対応について、強制適用廃止(任意適用制)というのはちょっと・・・と思いますが、IFRSを「導入したふりをする」というのは、なるほど・・・これはオモシロイと思いました。整備はするけど実質的には運用は控える、ということなんでしょうね。まさに(当財団の提言にもありますが)プリンシプルベースで導入したにもかかわらず、蓋を開けたらルールベースになってしまった内部統制報告制度と同じ道をたどる・・・ということなのでしょうか?日本人はまじめだから、IFRSの運用を世界一誠実に守るのか、それともシタタカなので外見上はIFRSを完全適用しているような顔をしながら「なんちゃってIFRS」で運用していくのか、このあたり、この財団の提言について、ご専門家からのご意見を期待しております。

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2010年12月12日 (日)

サンコー社、創業家社長解任劇の行方はいかに・・・

あの和製ウォーレン・バフェットと称される竹田和平氏も今年株式をたくさん買い増ししておられる(買い支えしておられる?)長野県のデジタル家電部品メーカー「サンコー」(東証二部)さんで、社長解任劇が起きたそうであります(時事通信ニュースはこちら)。社長の独断経営をこのまま許していては、優秀な人材の社外流出を食い止められないばかりか、3期連続赤字を免れない、との(取締役らの)切実な思いから・・・だそうであります。

代表取締役の異動および役員の異動に関するお知らせ

新しく代表者に就任された方が、今年5月に「経営サポーター」として入社しておられるので、(ニュースでも若干報じられているとおり)もう半年ほど前から他の取締役らによる「退任要求」は通告されていたようです。したがいまして三越岡田社長解任劇のような「ある日突然」のドラマチックな場面が繰り広げられた・・・というわけではないようであります。

ただ素朴な疑問として、昨日の取締役会における社長解任(代表取締役の解職→取締役としては残る)によって、新社長が誕生したわけでありますが、解任された元社長さんは、このまま黙っておられるのでしょうか?この方は創業家一族であり、資産管理会社を含めると、サンコー社の(議決権ベースで)過半数の株式を保有しておられます。(50,12%)親会社の決算に関する資料を拝見すると、元社長と奥様で、資産管理会社の100%の株式を保有しておられますので、普通は「社長(大株主)の意思でなんとでもなる」上場会社、ということになりそうです。来年の定時株主総会で株主提案権を行使すれば、(定款上の取締役数の上限次第では、いろいろと手法が変わってくることにはなりますが)また自分が社長に返り咲くこともできることになります。

紳士的な対応・・・ということも考えられるかもしれませんが、それならば半年間も「辞めろ」「辞めない」を繰り返して最後は解任・・・という結末との整合性がとれないようですし、元社長による反撃、取締役らによる第三者割当増資・・・といった今後の展開なども予想されるのではないでしょうか。ひとつ気になりますのが、社長解任とともに、ナンバー2だった常務さんが新体制において降格されていることであります。このあたりの人間模様が実はポイントだったりするかもしれません。(もちろん、これは私の勝手な推測であり、投資判断に影響を及ぼすほどのお話ではございませんのでご了解ください。あくまでもガバナンスに関する興味からの推測であります)今後、ゴタゴタが続くのか、それとも既になんらかのパワーバランスが出来上がっていて、このまま新体制のもとで3期連続赤字回避のための全社挙げての取り組みが進むのか、今後の株価の変動とともに、ちょっと注目してみたいところであります。

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2010年12月10日 (金)

エコノミスト増刊号に「法と会計のミゾ」シリーズを寄稿いたしました。

20101206org00m020026000p_size6 すでにブログやツイッター等では、そこそこ話題になっているようですが、エコノミスト増刊号(12月20日号)「弁護士・会計士たちの憂鬱」が発売されております。そのなかで、私も拙著「弁護士と会計士との『わかりあえないミゾ』を考える」を寄稿しております。

毎日新聞社エコノミスト「弁護士・会計士たちの憂鬱」(1000円)

昨年、日本監査研究学会西日本支部におきまして、特別講演をさせていただいた題材を基礎として、一般の方向けに少しわかりやすく解説させていただいたものです。この本の全体のトーンと比較しますと、「やや固め」の内容となっておりますが、私の意見を全面に出した形での解説となっておりますので、賛否両論あるかとは思いますが、けっこう読者の方々の頭の体操にはなるのではないかと。もしこういった話題にご関心がございましたら、ご一読ください。

弁護士と比較して、会計士の方々は実名で意見表明をしにくいところが少し残念ですね。「会計士の憂鬱」は経営財務に連載されている山中君の監査実務シリーズのほうがリアルで悩ましい問題が提示されていておもしろいかもしれません。

個人的に一番おもしろかった記事は、なんといいましても「匿名座談会 法務担当者のホンネ炸裂 こんな弁護士は使えない」でした。読んでいて「なるほど・・・」とナットクさせられることが多かったですし、「ヒドイと思った弁護士」には、私も共感いたしました。ちょっと自分にもあてはまるところがあるような・・・・。

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2010年12月 9日 (木)

独立社外取締役シンポ、ご参加ありがとうございました。

社外取締役ネットワーク、大阪弁護士会、日本公認会計士協会近畿会共催「社外取締役の独立性とは?~関西企業に社外取締役は必要か?~」(関西経済同友会、大阪証券取引所後援)、なんとか無事終えることができました。正確には299名 304名の方にご参加いただきました。寒い中、弁護士会館2階にお越しいただき、ありがとうございました。<(_ _)>

大杉謙一教授の関西デビューとなる基調講演に始まり、シンポ、そして神戸大学の砂川(いさがわ)教授の意見発表まで、10分オーバー(計3時間10分)でしたがなんとかこなしました。モデレーターを務めさせていただきましたが、途中から「時間との闘い」となり、登壇者の方々にもすこしばかりご迷惑をおかけしました。

こういった大きなシンポを企画、協力要請、演出、広報、現場指揮することのムズカシサを痛感いたしました。こういったものは個人の力を越えた「組織力」で乗り切らなければ成功しないですね。しかも各人が仕事として行うものではございませんので、信頼関係が成り立った上での「組織力」は不可欠だなぁと。おそらく、内容につきましてはいろいろとご不満もあるかとは存じますが、日経や朝日、読売新聞の記者さん方にもお越しいただき、「独立社外取締役」制度を関西の企業の皆様に周知していただく機会を得られたこと、たいへん満足しております(せめて関西版でも良いので記事にしていただければありがたいのですが。。。 笑)。レジメも余分に作っておりましたが、みなさん帰り際に「余分に持って帰りたい」とのことで、残部数ゼロとなりました。

シンポでは、制度義務化の是非、ハードローとソフトロー、ガバナンス改革と業績向上、独立性の要件化とこれにまつわる問題点・・・というところで時間切れとなりました。本当は監査役との連携、「任期」問題と独立性、ガバナンス改革積極派=社外取締役導入論にあらず・・・といったオモシロイ論点も用意していたのですが、登壇者の皆様の熱いご発言で、積み残しとなりました。コーポレート・ファイナンスがご専門の砂川先生からも、ガバナンス改革と業績向上に関する実証研究に関する示唆もあり、今後の勉強課題も見つかりました。

今回のシンポにあたりましては、モデレーターとして、ひとつのモノサシを決めておりました。これは、今年3月経済同友会さんからリリースされております報告書「日本的コーポレート・ガバナンスのさらなる深化」であります。ここで同友会さんから提言されている(日本企業のガバナンスの良さを活かした)社外取締役制度論を意識して、このモノサシに照らしながら、理屈は大杉先生、外見は藤倉副社長、中身は片山社長、社外取締役の立場からは田村代表・・・といった具合に、ご意見をうかがうようにいたしました。取締役会の多様化(ダイバーシティ)を理想として、社外取締役制度の導入も、「ビジネス的、社会的、国際的」知見をもって多様なステークホルダーとのコミュニケーションを図る(これにより一般株主の長期的利益を向上させる)ことを目的とする、という考え方に、私も賛同したからであります。

時間の関係で、残念ながら「関西企業に社外取締役は必要か?」との問いに対する明確な回答は提示できませんでした。しかしニッセンの片山社長さんの最後の言葉

「ガバナンスを改良したからといって、業績が向上するわけではない。しかし、どんなに良いビジネスモデルを持っていても、これを育てる土壌(ガバナンス)がなければ、ビジネスは育たない」

を忘れずに、これからも研究対象の一環として、この制度について取り組んでいきたいと思う次第であります。

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2010年12月 6日 (月)

海外投資家からみたIFRSへの期待と不安(ICGN国際会議報告)

ちょうど1カ月前に広報させていただきました「いま社外取締役に求められる独立性とは?~関西企業に社外取締役は必要か?~」のシンポジウムが、いよいよ今週水曜日(12月8日)に迫ってまいりました。各団体からの広報のおかげもございまして、360名以上の方の参加申し込みをいただいております。いちおう申込が締め切られておりますが、これから参加を希望される方がいらっしゃいましたら、会社名と参加される方のお名前を私宛てにメールいただければ(当ブログの左のサイドバーにございますリンク「メール送信」をご活用ください)、なんとかなりますので(笑)、お時間がございましたらお申込みのうえ、12月8日午後2時までに大阪弁護士会館までお越しいただければ幸いでございます。なお当日はチラシには掲載しておりませんが、「コーポレート・ガバナンスの経営学」(有斐閣)を今年執筆されました神戸大学経営学部の先生にも、ゲストとして御登壇いただく予定であります。

基調講演をされる大杉先生のレジメ(パワーポイントの配布資料)を拝見しましたが、オモシロイ!!どのようなスタンスで大杉先生が基調講演をされるのか・・・・・、これは参加された方のお楽しみ・・・ということで。また、大阪証券取引所の副社長さん、ニッセンHDの社長さんも、わざわざこの日のために(レジメとして配布はできませんが)当日用のパワーポイント資料を作成いただきました。また金融庁ガバナンス連絡会議のメンバーでいらっしゃる田村代表のお話も楽しみでございます。弁護士、会計士の方も多数ご参加いただきますが、やはりなんといっても今回は関西の企業様が主役でございます。たぶん、参加される方は、①社外取締役制度導入論に不安と関心を寄せておられる企業の方々、②すでにグループ企業政策の一環として社外取締役、社外監査役さんを派遣しており、「独立性」の議論に不安と関心を寄せておられる企業、金融機関の方々、そして③ガバナンス改革には積極的であっても、むしろ監査役制度の充実を検討している企業の監査役の方々に分かれるのではないか・・・と考えております。ここ2カ月ほど、いろんな企業役員の方とお話をしていて、社外取締役制度への関心といいましても、内容はこのようにいくつかに分類できることを知りました。

さて、シンポの準備をしているなかで、ICGN「国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク」の2010年6月トロント会議の報告書を読む機会がございました。この会議の報告書が日本取締役協会の大楠理事によって作成されております。主要テーマは2008年金融危機後の「変化するグローバル・バランス」ということでありまして、海外投資家からみた「取締役への女性の登用問題」「良いガバナンスへの脅威」「CSRにおける新たなバランス」などの全体会議項目がオモシロイのでありますが、そのなかに「IFRS問題」への言及もございます。

海外投資家の方々にとって、各国のIFRS導入については基本的には好意的な評価のようでありますが、実際の「参加者の回答」となりますと、

「世界的に統一された会計基準はこれからどの方向に向かうと考えるか?」

との問いに対して、「より良い財務諸表と投資判断の基準となる」と回答されたのは3分の1にすぎず、その他は「潜在的に会計基準の形がい化につながる」「企業実態を理解するのが困難となる」という意見が合わせて60%に及んでおります。また、

「どんなに精巧な基準を作っても、必ず抜け道を探すことになると思うか」

との質問に対して、「思う」と回答されたのは90%以上(「時々」という回答を含める)という結果になっております。ちなみに、会場に集まった機関投資家の方々は、カナダの方々が圧倒的に多く、カナダといえば韓国、インドとともに、来年IFRSの強制適用が開始される国であります。フェアバリュー会計、国家の枠を超えた会計ルールの秩序形成、同質化については期待すべきところだけれども、はたして企業の本当の姿を映し出せる鏡となりえるのか、粉飾決算を防止できる制度となりえるのか・・・といったところには、あまり大きな期待は抱かいていないようであります。

いずれにしましても、IFRSが国境を越えたルールではあっても、粉飾が発生した場合のエンフォースメントは各国の主権に委ねられるわけでありますので、日本にかぎらず、各国の法と会計の交錯場面がどのように処理されていくのか、とても興味深いところです。

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2010年12月 3日 (金)

インボイス社のMBOと公表直前の出来高の変動(こりゃすごい・・・泣)

西友さんの社外取締役の方へのインサイダー報道(日経新聞によりますと、話を聞いちゃった親族の方だけを立件方針とのこと)といい、昨日のインボイスさんのMBOインサイダー疑惑といい、やはり今週月曜日のエントリーで書きましたように、「M&Aに絡むインサイダーは防止困難」ということを裏付けるものであります。(もちろん、あくまでも「疑惑」を前提とした話であり、断定はできないわけでありますが・・・・・しかし、一般株主からみれば、不公平感はどうしてもぬぐえませんよね・・・・)

こういったMA絡みのインサイダーのケースでは、どんなにインサイダー防止体制を構築してみても、社内の求心力が喪失されている以上は、「悪気のない情報ばらまき」は不可避であります。(これは私の不正調査等の経験から・・・ということです)動機は前回のエントリーで述べたとおりですが、情報をばらまく人たちに私利私欲がないわけでして、その情報をたまたま受領した人たちが私利私欲をもっていれば(もはや第一次情報受領者とはいえない人達による)インサイダー取引は止めることができない状況になるものと思われます。私は、社内(しかも経営の中枢に近いところ)で事業再編に反対の人たちが多ければ多いほど、インサイダー取引の顕在化という形で「事業再編に向かって一枚岩ではないこと」が示されるのではないかと考えております。

インサイダー取引規制の在り方も曲がり角にきているのではないでしょうか?しかし昨日のインボイスさんの件は、ちょっとスゴイなぁ。。。

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2010年12月 2日 (木)

住友電工カルテル課徴金株主代表訴訟とリーニエンシーの効用

弁護士会の委員会でもいろいろと話題になっておりましたのが、カルテル課徴金に関する住友電工さんの株主代表訴訟の報道でありました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。原告株主代理人の会見によりますと、リーニエンシー(自主申告制度)に絡む代表訴訟は初めてとのこと。住友電工さんは今年5月、光ファイバーケーブルをめぐるカルテルにより、独禁法違反に基づく課徴金納付命令を受けたのでありますが、課徴金68億円の納付を余儀なくされたのは、住友電工さんの役員らがリーニエンシーを使わなかったからである、との理由で一般株主から新旧の役員17名に対して代表訴訟が起こされたそうであります。(リーニエンシー制度とは、談合やカルテルに参加した企業が、自ら進んで公取委に「私は談合やりました」と申告すれば、先着順に課徴金処分が減免される・・という制度です。なお刑事訴追も事実上は免れる扱いとなっております。行政による指名停止は免れないようですが・・・)

報道されているところからは、役員さんらへの責任追及に関する法的構成が明らかになっておりませんが、①法令違反(独禁法違反)による任務懈怠+役員の過失→会社法423条1項責任の追及、②善管注意義務違反(内部統制構築義務違反、監視義務違反+役員の過失)→同423条1項責任の追及、といったあたりではないでしょうか。いずれにしましても、競争法コンプライアンス体制の整備につきましては、今年1月に経産省「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」より報告書が公表されており、法的な紛争解決の場面においても参考となるのと思われます(この研究会報告書はコンプライアンス体制整備の視点がきちんと明示されております)。

自主申告が遅れたことをもって、直ちに「役員の過失あり」と結び付けることにはちょっと無理があるように思いますが、ただリーニエンシーが創設されたことが、役員の法的責任になんらかの影響を及ぼすことは十分考えられるものと思われます。ひとつはリーニエンシーの効用として独禁法リスクを企業が十分に認識していなければならない、ということであります。2006年独禁法改正後、リーニエンシーの実施によって摘発する公取委側の証拠の収集力が格段に向上したのであり、これまで捕捉が容易でなかったカルテル事案も摘発できるようになったことであります。これはここ数年の実施状況をみても判明するところであり、企業がこのリーニエンシーの効用を十分理解して内部統制を構築していたかどうか(リスク管理義務違反の有無)、という点は重要ではないかと。ダスキン事件判決をみましても、役員の善管注意義務違反はリスク管理のずさんさ(過去の不祥事について、第三者から告発される可能性が濃厚であったにもかかわらず、我々が公表しなければ隠匿できる、と軽薄に考えていたのは、リスクの管理に重大な問題があった)が問われているのでありますから、カルテル違反のリスクをどの程度に重要なものと認識していたのか、関心のあるところであります。

そしてもうひとつは「不正発見能力」が問われることであります。これまで内部統制といえば、不正の予防に関する対策だけが注目されておりましたが、このリーニエンシーは他社に先駆けて、自社で不正を発見できれば高額な課徴金を免れる効用があります。そうであれば、企業として、いかにカルテルを予防することができるか、という点に加えて、いかに発生した不正を早期に発見することができるか、という点についても統制をかける必要性が高いわけであります。通常は、この不正早期発見のために「社内リーニエンシー制度」などを構築するわけでありますが、果たして住友電工さんも、このような早期発見のための対策をとっていたのかどうか、という点も注目されるところであります。そういった体制整備に基づき、実際の内部統制の運用面も注目されるところであります。原告としては、不正を早期に発見することが具体的に可能であったことを主張するために、いかにして「社内に異常な兆候があったこと」を証明するか、そのあたりが役員の主観的要素を明確にするために工夫すべきところかと。(事案の内容を詳細に存じ上げておりませんので、上記はあくまでも私の推測・・・ということでご理解ください)

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