「裁判官と学者の間」伊藤正己著
伊藤正己先生(元最高裁判事 東大教授)の「裁判官と学者の間」(1993年 有斐閣)は名著であり、今でも時々読み返しております。とくに第Ⅰ部「裁判官と学者の間」(第Ⅱ部は「私の少数意見」)は、わずか140頁ほどではありますが、個々の裁判において弁護士がどのようにして裁判官を説得するか、また準備書面や弁論要旨に何を書けば、こちらの意見に耳を傾けてもらい、また判決に反映させることができるかを学ぶことができる最良の教科書であります。
若い弁護士の方々には、仕事にも役立つ、おススメの一冊です。最近、有斐閣ではオンデマンド版も発売しているようです。また商事裁判において、しばしば学者の方々の意見書を提出することがありますが、そのような学者意見について、裁判所はどのような思考過程をもって採否を決定するのか、また判決後の判例評釈を裁判官はどのような思いで検討するのか・・・・・といったあたり、最高裁の審理だけではなく、地裁の裁判所でも十分に参考にできる内容であります。
なお、新聞報道にもありますように、最高裁大法廷判決で、ひとり反対意見を付した自衛官合祀違憲訴訟の「反対意見全文」が第Ⅱ部に掲載されております。「亡夫を、意に反して護国神社に合祀されることは人格権の侵害にあたるか」という、信教の自由が憲法上の論点として争われた事案でありますが、「民主主義と法の支配の関係」を考えるにあたり、その思考過程を学ぶ絶妙な教科書であります。こういった裁判の経験を積まれて、伊藤先生は学者の思考と裁判官の思考の違いを本書で解説され、自らの心が「裁判官と学者の間」で動揺しておられた様子が理解できます。最高裁判事がなぜ補足意見を書きたいと思うのか、弁護士出身の最高裁判事と学者出身の判事とでは、なぜこうも思考が異なるのか・・・このあたりの心理も、本書によってすこしばかり理解できたような気がいたします。
伊藤先生の論考、著書は司法試験受験生の時代から多数拝読させていただきました。こころより、ご冥福をお祈りいたします。
12月 30, 2010 未完成にひとしいエントリー記事 | Permalink | コメント (2) | トラックバック (0)
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