住友電工カルテル課徴金株主代表訴訟とリーニエンシーの効用
弁護士会の委員会でもいろいろと話題になっておりましたのが、カルテル課徴金に関する住友電工さんの株主代表訴訟の報道でありました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。原告株主代理人の会見によりますと、リーニエンシー(自主申告制度)に絡む代表訴訟は初めてとのこと。住友電工さんは今年5月、光ファイバーケーブルをめぐるカルテルにより、独禁法違反に基づく課徴金納付命令を受けたのでありますが、課徴金68億円の納付を余儀なくされたのは、住友電工さんの役員らがリーニエンシーを使わなかったからである、との理由で一般株主から新旧の役員17名に対して代表訴訟が起こされたそうであります。(リーニエンシー制度とは、談合やカルテルに参加した企業が、自ら進んで公取委に「私は談合やりました」と申告すれば、先着順に課徴金処分が減免される・・という制度です。なお刑事訴追も事実上は免れる扱いとなっております。行政による指名停止は免れないようですが・・・)
報道されているところからは、役員さんらへの責任追及に関する法的構成が明らかになっておりませんが、①法令違反(独禁法違反)による任務懈怠+役員の過失→会社法423条1項責任の追及、②善管注意義務違反(内部統制構築義務違反、監視義務違反+役員の過失)→同423条1項責任の追及、といったあたりではないでしょうか。いずれにしましても、競争法コンプライアンス体制の整備につきましては、今年1月に経産省「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」より報告書が公表されており、法的な紛争解決の場面においても参考となるのと思われます(この研究会報告書はコンプライアンス体制整備の視点がきちんと明示されております)。
自主申告が遅れたことをもって、直ちに「役員の過失あり」と結び付けることにはちょっと無理があるように思いますが、ただリーニエンシーが創設されたことが、役員の法的責任になんらかの影響を及ぼすことは十分考えられるものと思われます。ひとつはリーニエンシーの効用として独禁法リスクを企業が十分に認識していなければならない、ということであります。2006年独禁法改正後、リーニエンシーの実施によって摘発する公取委側の証拠の収集力が格段に向上したのであり、これまで捕捉が容易でなかったカルテル事案も摘発できるようになったことであります。これはここ数年の実施状況をみても判明するところであり、企業がこのリーニエンシーの効用を十分理解して内部統制を構築していたかどうか(リスク管理義務違反の有無)、という点は重要ではないかと。ダスキン事件判決をみましても、役員の善管注意義務違反はリスク管理のずさんさ(過去の不祥事について、第三者から告発される可能性が濃厚であったにもかかわらず、我々が公表しなければ隠匿できる、と軽薄に考えていたのは、リスクの管理に重大な問題があった)が問われているのでありますから、カルテル違反のリスクをどの程度に重要なものと認識していたのか、関心のあるところであります。
そしてもうひとつは「不正発見能力」が問われることであります。これまで内部統制といえば、不正の予防に関する対策だけが注目されておりましたが、このリーニエンシーは他社に先駆けて、自社で不正を発見できれば高額な課徴金を免れる効用があります。そうであれば、企業として、いかにカルテルを予防することができるか、という点に加えて、いかに発生した不正を早期に発見することができるか、という点についても統制をかける必要性が高いわけであります。通常は、この不正早期発見のために「社内リーニエンシー制度」などを構築するわけでありますが、果たして住友電工さんも、このような早期発見のための対策をとっていたのかどうか、という点も注目されるところであります。そういった体制整備に基づき、実際の内部統制の運用面も注目されるところであります。原告としては、不正を早期に発見することが具体的に可能であったことを主張するために、いかにして「社内に異常な兆候があったこと」を証明するか、そのあたりが役員の主観的要素を明確にするために工夫すべきところかと。(事案の内容を詳細に存じ上げておりませんので、上記はあくまでも私の推測・・・ということでご理解ください)
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