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2010年12月24日 (金)

財務報告内部統制の基準・実施基準改訂案(公開草案)出ましたね

12月22日、金融庁のHPにおきまして、財務報告に係る内部統制(評価および監査)に関する基準および実施基準の改訂版(公開草案)がリリースされております。審議経過をフォローされていらっしゃった皆様からすれば、とくに目新しいものではないかもしれませんが、「重要な欠陥」という用語の見直しや、各企業における創意工夫への監査人の理解(および指導的役割)、評価手続の簡素化・明確化、中堅・中小企業の組織に見合った作業負担の確認(あえて「確認」と述べておきます)といったあたりが改訂の主な趣旨となっているようであります。なお、日本監査役協会も、12月13日に内部統制システムの監査に関する実施基準の改訂版公開草案をリリースしておりますので、企業実務家や会計監査人の方々は、こちらも合わせて参照されるのがよろしいかと思われます(監査役の内部統制システム監査は、財務報告内部統制に限定されるわけではありませんが)。

改訂版をご覧になって、「うちは中堅・中小企業に該当するのだろうか?」「うちの連結子会社は該当するのだろうか?」といった疑問も出るかもしれません。定義をみても「事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織」というのは、どの程度の規模の企業なのかは明示されておりません。しかし、このあたりは3年半ほど前に出版されました「簡易版COSO内部統制ガイダンス」(同文館出版)がたいへん参考になるのではないか・・・・と思われます(出版当時は、「どこが簡易版なんや!」「もっとましな和訳はできへんのか?」などとご批判もあったように記憶しておりますが・・・(^^;  )。たとえば中小規模の会社であれば、運用評価における記録化手続についても、発注書や領収書等、業務のなかで作成されるもので足りる、ということなども明示されております。この本のなかでも

「企業を小規模、中規模または大規模に分ける『明確な線引き』が必要であるという向きもあるが、本ガイダンスではそういった定義は行わない。・・・・・本ガイダンスが対象とするのは、以下のような性質のうちの多くのものを備えている企業である。」

として、いくつかの特色を掲示して、経営者自らに検討してもらう、というスタイルになっております。また、ガイダンスのなかでは、実際に中小規模の企業が費用対効果に見合った創意工夫で内部統制システムを整備・運用している具体的事例を紹介しており、これも参考になるところであります(12月22日付けで、金融庁HPでは中小規模企業の具体的な工夫例を募集しておりますが、これも簡易版COSOガイダンスをモデルにしているのではないか、と思われます)。四半期開示制度と同様、民主党の経済成長戦略に合わせる形での見直し作業だったのかもしれませんが、各社でも「費用対効果」を意識した見直しの良い機会になるのでは、と。

これは私見にすぎませんが、上場会社は施行準備段階から既に4年から5年ほど、財務報告内部統制の整備・運用に向けて対応してこられたわけですが、もうすでに企業間の格差は大きなものになっていると確信しております。私が確信する理由は、大規模上場会社における多数の連結子会社の内部統制を評価する機会に感じたことからであります。同規模の子会社であっても、子会社トップの財務会計に向き合う姿勢によって、内部統制のレベルに大きな差が生じていることを認識いたしました。おそらく私が見たものと同様、各上場会社間でも、レベル感は大きく異なるのではないかと推測いたします。しかしながら、実際の開示法制のなかでは、わずか数十社程度しか「内部統制は有効とはいえない」という評価結果を報告していないため、現実には内部統制の最低限度のレベルをクリアしていれば「有効」という運用となっているのが現実であります。せっかく内部統制のレベル感には企業間で大きな差が生じているにもかかわらず、その結果を投資家に開示できていないことは、制度運用面において大きな課題ではないかと思います。

各上場会社の財務報告の信頼性(財務報告において、投資家に与える影響が重要である虚偽記載が将来発生する可能性)を開示する・・・ということであれば、格差の生じている内部統制システムのレベル感をそのまま開示するような運用となることが望ましいのでありますが、当面はそういったことにはならないでしょう。だとすれば、内部統制報告制度の運用において重要なのは経営者を含めた関係者のコミュニケーション能力の向上にあると思います。プリンシプルベースの制度である以上、経営者(最高財務責任者)と監査人、監査役、内部監査担当者らが、費用をかけずに効果的な内部統制システムの運用に向けて試行錯誤を繰り返す姿が一番大切ではないかと考えております。このたびの日本監査役協会の内部統制システム実施基準改訂版では、「財務報告内部統制」(取締役の職務執行のひとつとしての整備・運用)への監査として、この経営者と会計監査人とのコミュニケーション、取締役会における関心度の高さ、といったあたりに焦点を当てておりますが、私も監査役が厳しくチェックすべきだと思います。

経営者が内部統制に関心を示す企業は、当然のことながら担当者も働きやすいわけでして、現場や監査人の協力も得やすいのであります。だからこそ、統制上の要点も理解が早く、被監査性(監査人が気持ちよく監査できるためのお膳立て)も高く、今回の改訂版に挙げられているような効率的・効果的対応はすでに「言われなくても」監査人へ十分に説明のうえで導入済みなのであります。そして、こういった担当者の方々は、内部統制は有効と評価されることが目的ではなく、財務諸表を適正に作成することや、営業戦略を実行に移すこと、不正の端緒を見極めること等のための「あくまでも手段にすぎない」ことを認識しておられるように感じております。

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コメント

内部統制監査はエンロン事件の反省から生まれました。しかし、リーマンのアーンスト&ヤングをみても、真っ当な監査人が真っ当に監査すれば発見できる粉飾です。問題は企業側ではなくそれを故意か過失か許す監査側の問題だと思います。高額な監査報酬をチェックすることも考えなければならない時期にきていると思います。

投稿: 荒木 福則 | 2010年12月24日 (金) 11時40分

(キチンと情報を追っていないので、的外れなのかもしれませんが)
中小ベンチャーの起業の分野にとって、遅きに失した感が強いです。
僕は当時(5年ほど前ですかね)内部統制に関し、「こんな重厚な対応はするべきでない、最低限に抑えるべき」、という意見でしたが、もう少し上の世代の「リスクケア万能主義」の方々によって受け入れられませんでした。そっちの人たちの意に沿った制度だったので、その制度を一字一句こぼさないような重厚な対応になったのです。(導入当初は業績も良かったです)
こういったことで、かろうじて起業をかじって起業マインドを引き継ぎつつあった世代が根こそぎ傷ついた印象を持ちます。
外科医の世界も大変らしいですよ、我々(50歳前後ですが)の世代が引き継いだものを、引き継いでもらう世代がいないそうです。(これもリスクいやいや病が元ですが)その結果、今後の日本の外科医の分野はかなりのダメージを負うとのことを友達から聞いています。(育成に時間がかかるので もう手遅れだそうです)
僕自身も起業などの分野には戻らないと思います。

やっぱり僕の感覚が正しかったのだ、と言いたいだけですがね。
一度の失敗で致命的に傷つく、ということも起こることはあると思います。
今でも元気な若者はたくさんいらっしゃいますか?

投稿: ingen | 2010年12月25日 (土) 20時16分

荒木さん、ingenさん、ご意見ありがとうございました。

ingenさんの「グチ」もっともかと思います。でも、当時そこまできちんと疑問を呈しておられた現場担当者の方は、ほとんどいらっしゃらなかったように記憶しております(もちろん、心中ではそう感じておられた方もいらっしゃったのかもしれませんが)。
最近「マネジメントが会社を滅ぼす」という本が出版され、なかなかおもしろいと思いました。そこで語られているところに通じるものがありますね。私自身は「内部統制」もそこそこの規模の会社では、必須であり、やり方によっては非常に業務の有効性を高めるものと考えておりますが、やはり「やり方」なのでしょうね。

投稿: toshi | 2010年12月27日 (月) 11時28分

toshi先生

 先月のラウンドテーブルで、金融庁の方は、中堅・中小企業について、規模より組織構造が簡素かどうかが重要で、効率化事例は、大企業でも参考にしてもらいたい旨の説明をしていました。「簡易版COSO内部統制ガイダンス」読まないといけないのですね。

 さて、一番問題なのは、内部統制報告制度が、経営に役立っていると表向き発言していても、実際のところ、監査人に有効と評価されることしか関心がないか、あるいは管理上の負担としか感じていない経営者がいるのではないかということのように思えます。そのような経営者の下では、先生もおっしゃるように、企業内の内部統制担当者や内部監査人は、大変苦労することとなります。
 今回の公開草案は、これでもよいとは思いますが、内部統制の目的を経営者に本当に理解させるためにも、長期的な視点で、引き続き改善を検討する必要を感じますがどうでしょうか。

 ところで、最近、高橋伸夫東大教授の『ダメになる会社』(ちくま新書)で、経営者には「自ら責任をとるという精神」が必要と記されているのを読み、大変納得いたしました。

投稿: YAMAYA | 2010年12月28日 (火) 12時41分

yamayaさん、ご意見ありがとうございます。ほぼ全面的にそちらのご意見に賛同いたします。最近の旬刊経理情報などを読みますと、ちらほらと「IFRS導入に向けての内部統制整備」に関する会計士さんの論考が出てきましたが、やはりそこでもJ-SOXに真剣に取り組んできた企業がトクをする・・ということが書かれております。単に管理負担や監査法人向けというだけでなく、経営に役立つ内部統制を考えている企業さんでは、それなりのメリットが出てきたのではないかと思います。とくにIFRSに限るわけではありませんが、長期的な視点で検討する必要性はあると私も考えています。

ご教示いただいた本、内容は把握しておりませんが、おもしろそうなので書店で購入してみますね。

投稿: toshi | 2010年12月30日 (木) 01時04分

> 監査人に有効と評価されることしか関心がないか、あるいは管理上
> の負担としか感じていない経営者がいるのではないか

「監査人に有効と評価されること」だけでも真っ当な関心を持っている
経営者なら、もうそれは立派なものです(笑)。

学者って何の為に存在するんですかね。

アメリカあたりだと、政・官・学・産、シームレスに人材が動き、
学問と現実の経営、政策を担う人間(社会)が分離してない感じが
しますが、日本はそうではない。(例外はありますがあくまでも例外)

私の恩師も経営学者の一人ですが、企業や政治家の批判をしなかっただけ
マシだったのかもしれません。

とにかく学者が、上から目線で企業のあり方がどうの経営者の責任が
どうのと、実社会を(あまり)知らないのに語られると、私は経営者
ではありませんが(笑)、むかっ腹が立ちます。
ましてや、政策決定の場に、企業経営者(現実の専門家)が殆ど参画
していない場合が多いのには目まいがする思いが致します。

もちろん、経営者側にも応分の問題があることは確かです。
国内的、或いは国際的に(政治面への)影響力を発揮しようとする
経営者もとんといなくなりました。
(毀誉褒貶はありますが、孫正義氏あたりがその例外かと)
「IFRSなんて、百害あって一利なし。我が社我が業界我が国では
 採用しない。断る!」
という大物経営者がいてもいいはずですのに…

-  -  -  

そんなため息が出る新年ですが(笑)、
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

投稿: 機野 | 2011年1月 3日 (月) 02時34分

機野さん、少し遅れましたが本年もどうかよろしくお願いいたしますm(__)m。今年も機野さんが脊髄反射的に反応してしまいたくなるようなエントリーを書きたいと思っておりますので(笑)、また是非コメントをお願いいたします。ただ、ときどき登場人物と管理人の人的関係上(笑)、ツッコミができないこともありますので、そのあたりはご容赦くださいませ。

投稿: toshi | 2011年1月13日 (木) 02時40分

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