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2010年12月 6日 (月)

海外投資家からみたIFRSへの期待と不安(ICGN国際会議報告)

ちょうど1カ月前に広報させていただきました「いま社外取締役に求められる独立性とは?~関西企業に社外取締役は必要か?~」のシンポジウムが、いよいよ今週水曜日(12月8日)に迫ってまいりました。各団体からの広報のおかげもございまして、360名以上の方の参加申し込みをいただいております。いちおう申込が締め切られておりますが、これから参加を希望される方がいらっしゃいましたら、会社名と参加される方のお名前を私宛てにメールいただければ(当ブログの左のサイドバーにございますリンク「メール送信」をご活用ください)、なんとかなりますので(笑)、お時間がございましたらお申込みのうえ、12月8日午後2時までに大阪弁護士会館までお越しいただければ幸いでございます。なお当日はチラシには掲載しておりませんが、「コーポレート・ガバナンスの経営学」(有斐閣)を今年執筆されました神戸大学経営学部の先生にも、ゲストとして御登壇いただく予定であります。

基調講演をされる大杉先生のレジメ(パワーポイントの配布資料)を拝見しましたが、オモシロイ!!どのようなスタンスで大杉先生が基調講演をされるのか・・・・・、これは参加された方のお楽しみ・・・ということで。また、大阪証券取引所の副社長さん、ニッセンHDの社長さんも、わざわざこの日のために(レジメとして配布はできませんが)当日用のパワーポイント資料を作成いただきました。また金融庁ガバナンス連絡会議のメンバーでいらっしゃる田村代表のお話も楽しみでございます。弁護士、会計士の方も多数ご参加いただきますが、やはりなんといっても今回は関西の企業様が主役でございます。たぶん、参加される方は、①社外取締役制度導入論に不安と関心を寄せておられる企業の方々、②すでにグループ企業政策の一環として社外取締役、社外監査役さんを派遣しており、「独立性」の議論に不安と関心を寄せておられる企業、金融機関の方々、そして③ガバナンス改革には積極的であっても、むしろ監査役制度の充実を検討している企業の監査役の方々に分かれるのではないか・・・と考えております。ここ2カ月ほど、いろんな企業役員の方とお話をしていて、社外取締役制度への関心といいましても、内容はこのようにいくつかに分類できることを知りました。

さて、シンポの準備をしているなかで、ICGN「国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク」の2010年6月トロント会議の報告書を読む機会がございました。この会議の報告書が日本取締役協会の大楠理事によって作成されております。主要テーマは2008年金融危機後の「変化するグローバル・バランス」ということでありまして、海外投資家からみた「取締役への女性の登用問題」「良いガバナンスへの脅威」「CSRにおける新たなバランス」などの全体会議項目がオモシロイのでありますが、そのなかに「IFRS問題」への言及もございます。

海外投資家の方々にとって、各国のIFRS導入については基本的には好意的な評価のようでありますが、実際の「参加者の回答」となりますと、

「世界的に統一された会計基準はこれからどの方向に向かうと考えるか?」

との問いに対して、「より良い財務諸表と投資判断の基準となる」と回答されたのは3分の1にすぎず、その他は「潜在的に会計基準の形がい化につながる」「企業実態を理解するのが困難となる」という意見が合わせて60%に及んでおります。また、

「どんなに精巧な基準を作っても、必ず抜け道を探すことになると思うか」

との質問に対して、「思う」と回答されたのは90%以上(「時々」という回答を含める)という結果になっております。ちなみに、会場に集まった機関投資家の方々は、カナダの方々が圧倒的に多く、カナダといえば韓国、インドとともに、来年IFRSの強制適用が開始される国であります。フェアバリュー会計、国家の枠を超えた会計ルールの秩序形成、同質化については期待すべきところだけれども、はたして企業の本当の姿を映し出せる鏡となりえるのか、粉飾決算を防止できる制度となりえるのか・・・といったところには、あまり大きな期待は抱かいていないようであります。

いずれにしましても、IFRSが国境を越えたルールではあっても、粉飾が発生した場合のエンフォースメントは各国の主権に委ねられるわけでありますので、日本にかぎらず、各国の法と会計の交錯場面がどのように処理されていくのか、とても興味深いところです。

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コメント

こんばんは。武田雄治です。
IFRSは、エンロン事件などの相次ぐ粉飾事件をきっかけに世界的に広まったといえますが、粉飾決算を防止できる制度ではなく、(概念フレームワークにも書かれていますが)投資家に対して(より有用な)経済的意思決定情報を提供するということを目的とした財務報告基準です。しかし、包括利益か純利益かという議論ひとつとっても、企業の本当の姿(経営実態)を映し出す(会計として表現する)有用な方法、ベストな方法ってものはないのだろうと思います。だとしても、IFRSが導入されることによって「より良い財務諸表と投資判断の基準となる」と回答された機関投資家が3分の1にすぎないというのは、なんだかなぁーという感じがしました。

投稿: 武田雄治 | 2010年12月 6日 (月) 03時03分

シンポジウムに申し込みさせていただきました。
神戸大学の先生が参加されるとなると、去年か一昨年の神戸での、経営学の視点からの社外役員制度全般への痛烈なご意見がまたお聞かせいただけるのかどうか、非常に楽しみになりました。
社外役員を導入すれば全て上手くいく(あるいは上手くいくかもしれない)というのは、きっと幻想でしょう。市場の買い手が非常な金持ちで力があって、並べられている商品は全部同じ基準でなければ許さない、ということでしょうから、生産者はきっと一生懸命お化粧しなければならなくなりますね。最近はわけあり商品・ちょっとだけ市場の基準に満たないキズ(?)のある商品も、中身は一緒だから人気がありますけどね。

投稿: 総務部長見習い | 2010年12月 7日 (火) 09時57分

感覚で恐縮ですが、実際に海外の企業動向を観察していますと、

女性取締役の登用:「女性だから」というよりは実力でのし上がってきた人が多いような気がします。特にCEOレベルだと、誰にもケチをつけられない人がいるような(中にはペプシコの様に、あえてインド人女性をCEOに持ってきて新興国アピールしていますが、これも実力あってのこと)抜群の実績を残している人をよく見ます。控えめなタイプはあまり見かけない。したがって、アグレッシブで押しの強い(それでいて結構美人)な人が多い(元HPのフィオリーナさんは典型的)。

社外取締役の独立性:独立性があっても仲良しクラブだったりすることもあり、ケースバイケースでしょうか。サブプライムバブルに走った投資銀行を止めれた社外取締役はいなかった。また、たとえば10年間同じメンバーだったりすると、利害関係が独立しているとも言いにくくなる(結局引き受け手問題になる)。

国際会計基準:多くの企業では自らの役員報酬基準と連動させるために、投資家に独自の指標を提案して、その達成度合いを議論するケースがあります(例:一株当たり利益で、M&Aや為替の影響を排除した純利益を採用するとか、経営陣のコントロールが及ばないものを排除する)。投資家も(ケースバイケースですが)その指標を見ながらモニタリングするので、数字や測定方法が分散されて、かえって評価しズライのではないかという点(例:既にIRFS導入済みの欧州企業でも、ネスレ等は当期純利益に為替とM&Aによる影響を排除した一株利益をアピールする)。

結局世界の株式市場の約半分は米国で、米国の投資家の目線が国際会計基準への変化をどう考えているのか次第になるのでしょうが、ややこしいことを好まないような気がします。

また、米国では短期的な時価の変動より持続性のある中長期的な成長を好む年金基金や投信の主旨にもあまり合っていない(=投資家目線なのか)。あちらの経営陣も持続性のある中長期的成長路線を標榜しにくくなる。皮肉にも余計に短期志向に陥ってしまわないか気になる。

結局国際会計基準で、誰が一番得をするのか、という点に行き着きます。

しかしながら、日本に関しては、ついに持ち合い株が絶滅する可能性もあって、良い側面もあるように思います。

なんとなく雑感になってしまいました。

投稿: katsu | 2010年12月 8日 (水) 10時46分

東京財団から、『日本のIFRS(国際財務報告基準)対応に関する提言』
が出てますね。
http://www.tkfd.or.jp/admin/files/2010-12.pdf

IFRSに対する反対論として、優れた提言であると思います。
会計士にとって耳の痛い話も含まれています。
「プリンシプル・ベースが機能する重要な前提として、その国の公認会計士などの会計専門家への社会的な信頼が極めて高いことが前提になっている。しかし、そのような前提の国はイギリスなどごく少数に限られるし、日本においても内部統制報告制度の運用の実態を見れば、プリンシプル・ベースが機能するほど会計インフラが成熟しているとは言えないのではないだろうか。」

投稿: 迷える会計士 | 2010年12月11日 (土) 12時50分

皆さまコメントありがとうございました。

katsuさん、今回のシンポでも、任期問題と独立性について、質疑の対象となっていました。残念ながら時間切れとなりましたが、もし具体的な法改正が問題となる場合には、これも「独立性」の立派な論点ではないか、と思うのです。

迷える会計士さん、これは興味深い提言をお教えいただき、ありがとうございます。ほかのおもしろい報告書と併せて、一度エントリーにしたいと思います。

投稿: toshi | 2010年12月11日 (土) 17時52分

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