ディスクロージャー制度の中での監査役監査基準改正
2010年の上場企業の定時株主総会におきまして、社外監査役の選任議案に40%以上の反対票が投じられた会社が5社以上あったそうで、監査役の外観的独立性に対して一般株主の厳しい目が向けられております。最近のガバナンス改革は、独立社外取締役導入論に注目が集まりがちでありますが、ガバナンス改革推進派の方々が、かならずしも「社外取締役導入論者」ではなく、社外取締役導入には否定的だが、その分監査役制度改革(強化)を主張される方々もいらっしゃいます。ただ、いずれの立場にも共通するのが、海外の投資家にも理解しやすいコーポレート・ガバナンス改革を目指す点にあろうかと思われます(だからこそ、法制審の議論のなかでも、監査役の代表取締役解任権の付与、といったことが検討課題に挙げられております)。本来、監査役は会社法上の機関であり、金商法(上場会社のディスクロージャー)との関係性は薄いものであります。しかし、監査役制度の運用面や外観的独立性が課題とされ、法規制とは異なる「ベストプラクティス」としての行為規範が示されることで、ディスクロージャー制度のなかの監査役監査が位置づけられるようになってきたものと理解できます。
先日(12月13日)、日本監査役協会のHPにおいて、監査役監査基準ならびに内部統制システム監査実施基準の改正案が公表され、意見募集がなされておりますが、監査役監査のベストプラクティスとして提示されている改正案を読みますと、金融商品取引法や取引所の上場規則に影響を強く受けたものとしての、ディスクロージャー制度の中での監査役の姿が模索されているような印象を受けました。独立役員としての社外監査役、第三者割当増資における監査役の意見表明、有事における第三者委員会との関係(私個人としましては、これは少し異論がございますが・・・)など、その典型的な例でありますが、その他にも、内部統制に関する議論の進化とともに、監査役が内部統制の整備面だけでなく、その運用面のチェックについても積極的な役割を果たすような動機づけがなされているところが特徴的であります。財務報告内部統制につきましても、昨今のJ-SOXの簡素化、明確化(改正案)の流れのなかで、(財務報告の信頼性確保に向けての)監査役監査への依存度が高まることとの整合性が図られているのではないかと思われます。
しかし現実問題としまして、監査役監査がいかに運用されているか?といったことはなかなか外見からは容易に把握できないものであります。本日、メディア・リンクス事件の渦中にいらっしゃった方々のお話を拝聴する機会がございました。高橋篤史さんの著書「粉飾の論理」などを読むかぎりでは、メディア社の架空循環取引による粉飾を見抜けなかった監査法人も監査役も、さっさと辞任をして逃げてしまった・・・といった印象を持っておりましたが、実際に関係者の方々のお話を聞いておりますと、決して彼らは逃げていたわけではなかったようであります。とくに公認会計士資格をお持ちだった女性の監査役の方は、経営陣の不正行為を発見した際、旧商法260条の3に基づいて、取締役の法令違反行為があるものとして、取締役会の招集を求めようとされていました。その結果、経営陣と監査役との対立が激化して、多くの迫害を受け、やむなく辞任に至った・・・というのが真相のようであります。しかし、監査役制度がいかに運用されているのか・・・といったことは、そもそも監査業務を開示したり、株主に直接説明する機会がないために、ほとんど表に出てくることはないと思われます。メディア・リンクス事件の当時、監査役が適時開示として意見を表明したり、独立役員として期待される役割を積極的に果たしたり、金商法193条の3による不正行為届出を監査法人から受理する立場にあったとすれば、メディア・リンクス事件も、少し違った展開になっていたのかもしれません。
単に外観的独立性を確保するだけでなく、監査役制度がどのように個々の企業で運用されているのか、その運用状況がわかりやすく第三者にも理解できるようになることが、今後の監査役制度にとって必要になると考えております。監査役の権限を強化したり、法的責任が認められやすくすることではなく、運用のガイドラインを「ベストプラクティス」として示したうえで、これをソフトローとして活用することが、いま最も必要な改革なのかもしれません。(なお、監査役監査基準改正案は、一読したにすぎませんので、まだ理解不足な点もございます。今後また折に触れて、監査基準をご紹介したいと思っております)。
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