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2010年12月14日 (火)

「なんちゃってIFRS」と内部統制の重要性

今日は東京からデジタル調査の専門家の方に大阪弁護士会館にお越しいただき、調査技法の基礎を学びましたが、ホントに面白かった。「悪魔の証明に挑むIT調査」「告訴手続のために必要なデジタル調査」というものの基本が理解でき、たいへん有意義であるとともに、どうしても毛嫌い(食べず嫌い?)しがちなIT検査という領域が身近に感じられるものとなりました。SESCの課徴金開示検査課にもIT分析官として出向しておられた講師の先生には本当に感謝申し上げます。<m(__)m>また、IT調査が不正予防(内部統制)にも有用であることも理解できました。

※ 悪魔の証明とは、たとえば「不正が他に存在しないことの証明」・・・というように、ないことの証明が極めてムズカシイものである、といったことを示すときに使われる言葉

さて本題でありますが、12月9日の朝日新聞朝刊(経済面)では、内部統制制度の信頼が揺らいでいるとして、いったん「有効」と評価しながら、不祥事等の発覚で「内部統制は無効」と訂正した企業が17社に及んでいることが報じられておりました(朝日新聞ニュースの記事はこちら)。後から発覚した会計不正によって従来の報告書の内容を訂正することが慣行となるようでは、内部統制報告制度の形がい化である、「有効」ありきの運営である、機能停止であるとの批判が専門家の方々より意見として出されております。(この問題は、過去に何度も当ブログで検討してきたところであります)しかし、せっかく根付いてきた内部統制報告制度(とりわけ整備よりも運用)を決して形がい化してはいけないと思いますし、IFRSの時代においては、今まで以上に重要性が増すものと考えております。また、このブログでも何度かそのような主張をしてまいりました。

ところで、私のような会計素人でも、IFRSと内部統制報告制度(J-SOX)との関係についての問題意識を共感できるような論文が二つほど出ております。ひとつは、今年10月に日本銀行金融研究所から公表されておりますディスカッションペーパー「IFRSによる見積り拡大と経営者、監査人の責任・対応-重要性を増す裁量的判断過程への内部統制-」(越智信仁氏)であります。すでに諸事情により(?)ネット上では閲覧できなくなってしまった会計制度監視機構の2009年7月リリースの政策提言「公正ナル会計慣行とは何か?-会計判断調査委員会の設置を目指して-」の提言内容と、かなり近いものでありまして、私見としましては、この越智研究員のイメージには賛同するところであります。IFRSの強制適用により、とりわけ経営者における見積もり判断の余地は格段に広くなるのでありまして、法律上の「経営判断原則」類似の思考過程が必要となるはずであります。また、裁量的判断が必要になることは、すなわち粉飾決算の可能性や、監査責任が追及される法的リスクも増えることが予想されるのでありますが、残念ながら司法機関がこれを判断する能力は乏しいものであります。このように粉飾決算への事後対応能力が弱まる分、事前対応の重要性が増すのでありまして、たとえば内部統制の「見える化」を推進することや、財務情報の信頼性を補完するための非財務情報(ESG情報等)の重要性が高まる、ということになるものと思われます。

そして、もうひとつ迷える会計士さんから教えていただいたのが、この12月にリリースされました東京財団さんの政策提言「日本のIFRS(国際財務報告基準)対応に関する提言」であります。以前、当財団の敵対的買収防衛策に対する提言については、私自身はいまひとつ納得できるものではございませんでしたが、今回の提言につきましては、賛同できるところが多いように思います。この提言でも、原則主義がもたらす問題点として恣意的な会計処理の余地が大きくなることが挙げられており、これに対する裁判所の判断については、IFRSの解釈権がIFRICにしかないことから、これをどう裁判所が受け入れるかは不透明な状況にあることが説明されております。今後のIFRSへの対応について、強制適用廃止(任意適用制)というのはちょっと・・・と思いますが、IFRSを「導入したふりをする」というのは、なるほど・・・これはオモシロイと思いました。整備はするけど実質的には運用は控える、ということなんでしょうね。まさに(当財団の提言にもありますが)プリンシプルベースで導入したにもかかわらず、蓋を開けたらルールベースになってしまった内部統制報告制度と同じ道をたどる・・・ということなのでしょうか?日本人はまじめだから、IFRSの運用を世界一誠実に守るのか、それともシタタカなので外見上はIFRSを完全適用しているような顔をしながら「なんちゃってIFRS」で運用していくのか、このあたり、この財団の提言について、ご専門家からのご意見を期待しております。

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コメント

先生、「国罪財務報告基準」になってまっせ。気持ちはわからんでもないですが。

投稿: KOH | 2010年12月14日 (火) 01時59分

すいません、ついうっかりホンネが(笑)

早速修正しておきました。

ご指摘ありがとうございます>KOHさん

投稿: toshi | 2010年12月14日 (火) 02時03分

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