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2010年12月20日 (月)

鹿島社の鉄骨補正隠ぺい工作とCSR経営

金曜日は拙著出版記念セミナー(東京講演)に多数ご参加いただき、誠にありがとうございました。大阪講演の後、尖閣問題(海上保安庁問題)やウィキリークス問題、公益通報者保護法改正問題など、内部通報や内部告発に関連する事件等が話題となりましたので、やはり企業情報の管理や告発対応へのご関心が高まっているように感じております。ということで、本日も内部告発モノの話題を取り上げたいと思います。

先週12月16日(木曜日)の日経朝刊におきまして、大手ゼネコンの鹿島さんの事例が報じられております。大阪梅田の21階建て高層ビル建築にあたり、測量ミスによって鉄骨のズレが生じていたことが判明したにもかかわらず、鹿島さんの現場社員の方は、工期の遅れをおそれたため、(補強工事は行わず)補正措置のみを行い、建築確認申請データも改ざんしていたことが判明した、とのこと。上記新聞報道によれば、本件発覚の端緒は、今年10月ころ、ネット上に内部告発情報が流されたことによるものだそうであります。最近の内部告発の傾向としまして、この鹿島さんの事例のとおり、内部告発が匿名性を確保したまま、ネット情報として流出することであります。私も現在進行形で同様の事案に対処しておりますが、今後もこのての「ネットを活用した内部告発」が増加することは間違いないものと確信しております。

鹿島さんとしては社内調査を行い、具体的な事実を認め、HPでは謝罪のリリースを公表しておられます(施行不具合に関する一部新聞等の報道について)。マスコミも鹿島さんご自身も、21階建ての高層ビルとは一体どこのビル?という点については明らかにしておりませんが、すでに2ちゃんねる上では、報道された当日にビル名が特定されておりましたので、こういった点でもネット掲示板の威力が理解できるところであります。

さて、大手ゼネコンさんのコンプライアンス問題につきまして、私は特に青臭い意見を述べるつもりはございませんし、電力・ガス・鉄道事業と同様、コンプライアンス問題が企業の社会的評価の毀損に結びつかないほどの大手事業会社であれば、自社の信じるところに従い堂々と対応すればよいのでは・・・とも思うところであります。しかし、コンプライアンス問題とCSRは別物であります。CSR問題として捉えるのであれば、上記鹿島さんのリリース内容は若干素朴な疑問がございます。

鹿島さんのCSRへの取組みをみておりますと、「ステークホルダーとのコミュニケーション」が重要な要素として紹介されております。当然、ここに言うところのステークホルダーには、株主、監督官庁と並び、建築物を使用する住民や鹿島の従業員も含まれておりますので、有事におけるコミュニケーションも当然のことながら鹿島さんは十分に尽くすことを宣言されているはずであります。したがいまして、鉄骨がずれたまま建築された高層ビルの安全性につきましては、単に第三者評価機関から安全性に問題なし、との回答を得たことだけでなく、耐震性も含めまして、どのようなレベルでの安全性が確保されているのか、十分に説明する必要があるのではないでしょうか?

また大手ゼネコン社員の方は、建築現場の責任者として、たった一人で現場を取り仕切っておられるでしょうから(たとえばこちらの取材記事参照)、相当なプレッシャーのなかでお仕事をされているはずであります。会社側は「施行管理を今後は徹底する」とありますが、たった一人で現場に駐在する社員をどのように徹底管理するのでしょうか?徹底管理すればするほど、現場社員はミスを隠ぺいする傾向が強くなり、今回のように現場の取引先社員等によるネットへの内部告発は増えるのではないでしょうか?むしろ、経営トップが「会社に報告が上がってきた場合、会社としては工期の遅れを甘受してでも、補強工事を優先すべきと考えている」ということをはっきりと現場社員に向かって言わなければ、同じことはいつまでも繰り返されるのではないでしょうか?

内部通報制度の運用が適切に行われていない企業ほど、通報の匿名性はほぼ間違いなく保証されないのが実態でありますので、規律を徹底したり、不正を隠ぺいする体質の企業の場合、匿名性を確保できる手法としての「ネットへの告発」が増えるのは当然のことであります。コンプライアンスとは別にCSRへの取組みを標榜している企業であればこそ、従業員がナットクできるような対応を、企業としては検討していただきたい、と考えるところです。

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