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2011年1月31日 (月)

IFRS(国際財務報告基準)の日本的解釈はどこまで許容されるか?

週刊経営財務の創刊3000号まことにおめでとうございます。毎週自宅に届く「経営財務」は、私のような経理・財務の素人にもわかりやすく、最新の同分野の動向が解説されているところが特徴でして、これからも専門家以外の者にも親しみの湧く紙面つくりに努めていただければ、と期待しています。いよいよ「ドキュメント監査役監査12か月」の連載も始まりましたが、監査役の読者の方々にも「これは言えてる」「こんな監査役おれへんで」などとつぶやきながら楽しく読める特集も増えておりますね。

ところで、この創刊3000号記念スペシャルとして記念座談会「IFRSを考える 第1回 原則主義」が収録されておりますが、この座談会記事は全編非常に興味深い。何が興味深いかと申しますと、多くのIFRSに関する指南書、ガイドブック等が出版されているところの内容(IFRSの原則主義に関する解説)と、この座談会でIFRSの基準開発や解釈に第一線で携わっておられる方々の解説との差がかなり明確になっているのではないか?と私は認識いたしました。(読まれた方、どうお感じになられたでしょうか?)もちろん、IFRS関連の本を執筆していらっしゃる方々は十分に理解されておられるとは思いますが、少なくとも、書店に並んでいるガイドブックを読む我々一般の読者の理解と、今回の座談会で語られれているところとでは、かなりの認識のかい離があるのではないか・・・・・と、そのような印象を抱きます。

たとえば第1部「IASBが考える原則主義とは」では、会計基準と概念フレームワークは「鶏と卵の関係にある」ということが解説されておりますが、私などは概念フレームワークは、動かしがたいもので、ここから演繹的に会計基準が導き出される、もしくはフレームワークに戻って会計基準を選択する、というものだと認識しておりました。しかしながら、会計基準の開発の過程において、概念フレームワークが変容することがありうる、ということが解説されており、その相互関係からすれば概念フレームワークが変わりつつある段階では正式な解釈指針が出てこない、といった場面も想定されるようであります。

とりわけ興味をひきますのが第2部「原則主義への対応」で議論されております「解釈問題、許容される『ローカルな解釈』とは」であります。誤解があるといけませんので、記事の安易な引用はいたしませんが、IASBは決してローカルな解釈をすることを認めないと、言っているのではなくて、ローカルな解釈に対してIASBが権威づけ(オーソライゼーション)を与えることはしない、と言っているわけですね(なるほど・・・目からうろこ)。そうしますと、社内のIFRS適用指針における解釈問題や、企業と監査人との判断のミスマッチ、そしてなによりも規制当局の「指定会計基準」に対する判断と企業(および監査人)の判断が食い違う場合の裁定問題などを、日本国内でどう考えるべきか、ということも次の問題として当然に出てくるわけでして、このあたりの議論もまことに考えさせられるところが多いですね。「許容しないのではなく、権威づけをしない」といったあたりは、法律の世界のお話であるようにも思われます。

先週、無条件でIFRSを先行適用しているAUSで5年ほどIFRSの研究をされてきた方のお話をうかがいましたが、AUSでは法律(会社法)のなかにIFRSの会計基準を盛り込んで運用されているとのことでした(現在までのところAUSでは、適用にあたり企業に大きな問題は発生していないようです)。IFRSの問題に真剣に取り組むためには、会計基準だけでなく、国際監査基準や各国の監査人の質の標準化まで踏み込まなければ解決しないこともお聞きしたところであります。以前ご紹介した財団の提言にもありますように、日本が「なんちゃってIFRSの国」(IFRSを適用しているふりをする)を目指すのであればとくに大きな課題ではないかもしれませんが、IFRSの適用に真剣に取り組むまじめな国を目指すのであれば、この座談会記事にもありますように、とくに規制当局と企業とのIFRSの解釈基準が食い違うような場面(さらには、司法判断とIFRSの解釈機構との判断が食い違う場面)をどう理屈のうえで考えていくべきなのか、法律家を交えて真剣に討議する必要があるのではないでしょうか。このあたり、また有識者の方々にご教示いただく機会がございましたら、ぜひ参加してみたいと思うところであります。

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2011年1月27日 (木)

田辺三菱未試験薬販売事件にみる「内部告発」の脅威(その1)

前橋市が内部通報報奨制度を施行するそうであります。内部通報をした職員に対して現金や図書カード(1万から2万円相当)などの報奨を付与する、というものであり、内部通報(内部告発)に対価を付与するという制度はおそらく日本では初めてではないでしょうか。内部通報を促進することが主たる目的というよりも、報奨制度が存在することの「威嚇的効果」(不正の予防的効果)を狙ったものなのかもしれませんね。報奨金には税金が使われますので、費用対効果が市民に理解できるような説明が必要だと思われます。ただ、前にもご紹介しましたとおり、昨年11月に我が国はISO26000(組織の社会的責任に関する国際規格)を承認しておりまして、そのなかでは内部通報制度の整備と運用が重要な評価基準のひとつとされております。したがいまして、報奨制度が実際に良質の内部通報の増加につながるかどうかは別としまして、今後民間団体、公共団体にかかわらず内部通報制度の実効性を高める施策を(対外的なアピールとして)公表するところが増えるのは当然のことと思われます。現に海外ではCSRの一環として内部通報報奨制度が導入される例も増えておりますので、特に珍しくないように思います。

さて、昨年6月、試験データ改ざん事件(メドウェイ事件)の再発防止策として「内部通報制度を充実させます」と宣言されておられた田辺三菱製薬社におきまして、グループ子会社でふたたび未試験の注射薬が販売されていたことが発覚し、朝日新聞の第一報をはじめ、すでに多くの報道がなされております。発覚の経緯を詳細にみていきますと、①常勤監査役が業務監査において未試験販売の疑いを発見、同時に子会社従業員が子会社および親会社に内部通報→②親会社において社内調査開始→③社内調査の結果、未試験販売の事実なし、と認定そして報告→④子会社従業員 報道機関に内部告発→⑤報道機関、親会社に不正事実に関する問い合わせ→⑥親会社、社外調査委員会設置→⑦社外調査委員会、未試験販売の事実を認定→⑧親会社、厚労省へ社外調査委員会の報告内容を届出→⑨朝日新聞が不正事実を報道、といったところのようであります。(これを受けて、厚労省では薬事法違反の事実の有無につき、すでに工場等の立ち入り検査を開始した、とのこと)

記者会見の内容によりますと、子会社工場では、出荷前の最終試験を担当官が8年以上、ひとりで行っていたようでして、(朝日新聞朝刊記事からですが)工場内ではすでに長年噂になっており、「告発はしないように」「会社がなくなったら困るもんね」「外に出たらまずい」といった話も出ていたそうであります。本件の事件内容はまた有識者の方々による検証委員会の報告で詳細になると思われますが、企業コンプライアンスの視点からは、いろいろな問題点が浮かび上がる事件であります。とりわけ内部通報に対する社内の対応に不都合がある場合、すぐさま通報者はマスコミへの内部告発に向かうわけでして、もはやこれは典型的な内部告発の脅威として受け止めなければならないと思います。このたびは、上記事実関係の流れからみますと、新聞記者からの質問内容からみて、もはや隠ぺいすることは困難と判断したため、(おそらく法律顧問等の意見も聴取したうえで)社外の第三者委員会設置に踏み切ったものと推測いたします。

各論的にみていきますと、まず関心を抱きますのが未試験販売という不正の発見に関する筋道であります。いかにして社内で不正が発見されるか?というのは企業コンプライアンスの永遠の課題でありますが、このたびは典型的なパターンのようです。つまり、①通常ならば試験で使われているはずの道具や装置などを、当該試験担当者が使っていない、②たとえ道具や装置などが使われていたとしても、試験結果の数と、道具や装置の仕入れの数とが合わない、といったところに社内で不審に思った社員がおり、これらの事実をもとに社内の噂などを総合して内部通報に至ったもののようであります。ロイターさんの記事によりますと、この従業員は昨年の8月以降、問題の試験担当者の後任の方が疑念を抱いた方のようでありますので、やはり技術者でなければ不正が見抜けないものであったこと(いわゆる「技術者倫理」の問題)、職場のローテーションが不正を予防する実効性が高いことが窺われます。(なお、子会社の常勤監査役さんが昨年9月ころに業務監査において疑念を抱いた、との報道がありますが、これは監査役さんに当初内部通報が届いたのか、それとも監査役自ら発見したのかは定かではございません。私自身はおそらく前者ではないかと推測いたします)このような根拠による内部通報に対して、はたして社内調査委員会ではどのような理由で「試験は実際に行われていた」という結論に至ったのでしょうか?朝日新聞の26日朝刊記事では、試験を実施していたことをうかがわせるデータが偽造されており、調査委員会はこの記録をみて「実施されていた」という結論に至ったようでありますが、それであればあまりにも社内調査がお粗末なように思えます。調査を担当していた者には、「事なかれ主義」の気持ちが入り込み、かなりバイアスがかかっていたことはやむをえないとしましても、「内部通報制度を充実させる」と宣言されていた企業として、通報制度をどのように運用しておられたのか、このあたりの詳細なご説明があれば、と思います。

たしかメドウェイ事件が発覚したときの報道だと記憶しておりますが、あの事件も平成22年4月15日の読売新聞、同月16日の朝日新聞の記事によりますと、試験データ改ざんの件が内部通報によって上層部に上がってきたのであります。そして上層部はこの通報に対して「また、社内の派閥争いによるガセネタだ。適当に処理しておこう」といった認識を持ち、このような共通認識が社内に蔓延し、結局のところ通報内容の真偽につき十分な調査が行われなかった、とのことでした。しかし、同様の状況はどこの企業にも起こりうる問題点でありまして、会社に重大な影響を及ぼすおそれのある通報が届いた瞬間から、社内の方々がみなさん、自分が「こうあってほしい」という方向での正当化理由を探し、そこで安心してしまうのであります。おそらく、今回の件における社内調査委員会の調査担当者の方々にも、同様のバイアスが働いていたのではないか?と推測いたします。(長くなりましたので、続きはその2とさせていただきます。)

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2011年1月25日 (火)

企業不祥事の発覚経緯と「件外調査」の重要性

ここ最近の会計不正事件といえば子会社の不適切な取引の発覚・・・というパターンが多いようですが、今度はホンダ社の連結子会社で不適切な取引がみつかり、親会社は2011年3月期に、150億円ほどの損失を計上する予定、とのことであります。水産品事業に関連する収益の過大計上ということになりますと、昨年のメルシャンの事例を思い出しますが、共通するのは水産品事業という点よりも、おそらく「ノンコア事業」での会計不正事件、という点であります。報道によりますと、長年同じ社員がローテーションもなく業務に従事しており、取引先とも親密な関係にあったようで、商社金融取引、在庫隠しのための買戻し特約付きの売買契約など、長年のおつきあいがなければ成立しないような取引環境があったからこそ、これまで不正が発覚してこなかったようです。

さっそく、日経WEBニュースでは、企業として取り組むべき「企業集団の内部統制」に関する記事が掲載されておりますが、ホンダトレーディング社のWEBページを拝見したところ、連結ベースでわずか4.2パーセントの売上比率しかない「生活産業事業部」のなかでも、水産部はずいぶんと小さな部署のようですから、企業として、水産事業部の架空循環取引による粉飾リスクにあらかじめ注意しておくことはかなり困難だったのではないでしょうか(内部統制報告制度の評価基準などからみて)。いくら5800億円の売り上げを誇るホンダ子会社でも、この水産事業部は内部統制評価の範囲外ではないかと思われます。少し不謹慎な物言いで恐縮ですが、これだけの規模の企業集団において、こういったノンコア事業が存在する以上、一定頻度で不正が発生することも、やむをえないものなのかもしれません。

むしろこういった報道を読んで「おそろしい」と感じるのは、架空取引による不正のケースでは、架空取引が破たんする・・・という事件が起こるまで社内で不正を発見できない・・・・・ということであります。本件でも(まだ明確ではありませんが)昨年12月20日ころに経営トップが不正を知るところになるわけですが、そのきっかけは金融取引の取引先が「売戻し」に応じることができない(ホンダトレーディング社の債権回収が困難になった)ことがきっかけとなり、その報告がなされたことによるものであります。つまり自浄能力が発揮されて社内調査の結果、不正がみつかった、というものではありませんので、「件外調査」の必要性が高い、ということであります。

社外の第三者の素朴な印象としましては、組織のいろいろなところで、同様の架空取引が行われている可能性がある、ということです。「徹底的に他の部署も調べてみましたが、幸いほかの部署では同様の取引は認められませんでした」という結論を、合理的な仮説、合理的な調査方法、そして合理的な証拠を持って説明する必要がございます。(恥ずかしながら、私はこの件外調査で失敗した経験がございます)社内の内部監査で不正がみつかった、内部通報をきっかけに社内調査が先行した、という事例であれば、他の部署では存在しなかったという結論は比較的容易に信用してもらえるのでありますが、第三者の指摘や関連部署での事件発生によって不正が明るみに出た場合には、どうも「企業風土」として不正が蔓延しているのではないか、という社会的評価を受けかねませんので、慎重な調査活動に工夫が要求されます。

内部統制報告制度では、トップダウンのリスク・アプローチによって評価範囲も絞られていきますし、またこのたびの改正法では制度の簡素化が進みそうなので、今後はますます今回のようなノンコア事業における不正事例が増えそうであります。たしかに企業全体の業績からすれば、不正による損失はわずかかもしれません。しかし、不正を見抜けない企業風土・・・という評価はつきまとうわけでして、こういった社会的評価を断ち切る必要はあります。重要なのは、不正はどのようにして発見されたのか、また同様の事態は他部署では起こっていなかったのか、それはなぜか・・・・・というあたりをきちんと特定し分析することだろうと思われます。先日、ある上場会社の社長さんが「子会社のコンプライアンスの大切なことは、同じ目標に向かって頑張る意識を社員全体が持っているかどうか、ということにつきる」とおっしゃっていましたが、これは結構重要な指摘だと思います。まあ、あんまり目標を高く掲げすぎますと、2007年の加ト吉社のように「過度の業績至上主義による現場のプレッシャー」が不正の引き金になってしまいますので、このあたりの絶妙のバランスが要求されるのでありますが・・・・。

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2011年1月24日 (月)

監査役(監事)の監査見逃し責任を認めた判例の検討

たしか10日ほど前に証券取引等監視委員会の再編(有報の虚偽記載検査を専門とする開示検査課のパワーアップ)に関する新聞記事が出ておりましたが、あまりブログ等でも話題になっていないようですね。某監査法人さんのアンケートでは昨年よりも「企業が感じているリスク・ランキング」で下がっておりましたが、私は断然、上場会社の虚偽記載リスク(およびそれに伴う役員さんの法務リスク)及び監査法人の行政処分リスクが増大することは間違いないと思っているのですが・・・・・。民主党の新成長戦略によって証券取引所も「積極路線」になるようですし。。。。。

さて私事ではございますが、今年もいよいよ2月の福岡を皮切りに、東京、大阪、名古屋にて日本監査役協会の研修会セミナーの講師をさせていただきます。テーマは昨年同様「監査役の有事対応と平時における予防的監査」ということでありますが、講演の内容は昨年とは全く異なりますので、昨年受講された監査役の方々にもぜひ、今年も受講いただければ幸いでございます。

とりわけ、今年は有識者懇談会で大きなテーマとなりました「監査役の『法的義務』と『ベストプラクティス』の関係」、「平成23年改正の監査役監査基準の重要な改正ポイント」、そして先日少しだけ触れました「釧路市民生協組合債高裁判決からみた『監査役の業務監査と会計監査』の整理」あたりのテーマについて触れてみたいと思っております。これらのテーマを、5ないし6ほどの設問形式のなかで、監査役さんのとるべき対応(期待される対応)を検討しながら研修していきましょう・・・・・という趣向でございます。また、「ベストプラクティス」といいつつも、何かあれば監査役監査基準は法的責任追及の根拠となるのではないか、それらしいことが改正基準の前文にも記載されているのではないか・・・といったところも、すぐに答えが出るわけではございませんが、監査役の皆様と考えていきたいところであります。

釧路市民生協組合債事件で4名の監事の方々に注意義務違反が認められるわけでありますが、これを一昨年の大原町農協最高裁判決や、同年のライブドア損害賠償請求事件における監査役(監事)の注意義務違反の認定過程と比較すると、かなり「監査役の有事対応の在り方」を考えるうえで参考になるのではないかと思っております。比較検討の前提問題としまして、2006年の消費生活協同組合法の改正前の状況につきましても、おおよそ調べてみましたが、生協の監事も株式会社の監査役と(当時の法律を前提としましても)それほど差異はないようです(あるとすれば組合員の中から監事が選出されること、最終的に行政による監督がなされることぐらいでしょうか)。もちろん、判決文の詳細を含め、この(結論が分かれております)地裁、高裁判断へのきちんとした法的検討は、また追って法律雑誌にて書かせていただきたいと思っております。

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2011年1月20日 (木)

闘うコンプライアンス(しまむらvs加茂市)その3

おかげさまで当ブログの人気シリーズ(?)となりました「ファストファッションしまむらvs加茂市」の闘うコンプライアンスシリーズでありますが、1月17日、18日と読売、朝日で新たな動きが報じられました。いずれの記事も(条例違反により)しまむら社を被告発人とする刑事告発を受理した県警は、そもそも加茂市の条例に無理がある、として立件には消極意見を付記して「しまむら社」を書類送検する方針、とのことであります(読売新聞ニュース朝日新聞ニュース)。

おもしろいのは、加茂市が地元で売り場面積を拡大して売上拡大を狙う「しまむら」社の計画を阻止しようと「売り場面積拡大を規制する」条例を制定し、これを無視して面積拡大を図った「しまむら」社を刑事告発するわけでありますが、県警はこの条例の内容を問題視して立件に消極的、とのことであります。報道では、もちろん加茂市の後出しじゃんけん的な条例制定、つまり手続きに問題があることも考慮しての判断とされておりますが、県警の消極判断では、条例の内容そのものに問題がある、との見解が主たる理由のようであります。

手続きの問題としては、一昨日「もこさん」からコメントをいただいておりますとおり、「余目町個室付き浴場最高裁判決」(刑事事件は昭和53年6月16日判決、民事事件は同年5月26日判決)が著名な先例とされているようで参考になります。刑事事件のほうだけご紹介いたしますと、A氏が個室付き公衆浴場(いわゆるソープランド)を作ろうとしたところ、山形県は急きょソープランド予定地の近くにある「無認可児童遊園」を「認可児童遊園」に格上げして、ソープランドの営業禁止区域にしてしまい、そのまま営業を開始したA氏について風営法違反で刑事告発した、という事案であります。(児童福祉施設から半径何メートル以内では風俗営業はできない、といった規制がもともとありますので、児童遊園を格上げされると営業規制の対象となります)最高裁は、そもそも児童遊園を認可対象施設に格上げすべき合理的な理由もないのに、A氏の営業直前にこれを認可する山形県の行為は、まさにA氏の営業を阻止することだけのための行政処分であり、行政権の濫用にあたり違法、したがってA氏は無罪、と判示しております。

たしかに本件とよく似た事例でありまして、特定の営業主体の事業を阻止することを目的とした行政の行動…という点からすれば、本件最高裁判決は加茂市にとって不利になるように思われます。ただ、上記の余目町個室付き浴場最高裁判決の事例は、山形県の認可処分の適法性が争われたものでして、条例という立法行為が争われたものではございません。上記最高裁判例に関する調査官解説も、「認可処分が適切とはいえないことから、今後は条例等によって対処すべきである」と述べておられますので、あながち加茂市としても「条例制定」によって対応しているのですから、決して法律的に無理であることを承知のうえで行動に出た、とも言えないように思われます。ただ、(その1)でも述べましたように、最近は「条例」といいましても、その制定経緯などから特定人の行動を規制することを目的とするようなものであれば「行政処分」性を認めることができる、という最高裁判決も出てきておりますので、そのあたりを重視しますと、やはり加茂市の対応は手続き的にも問題が残るようであります。

さて、まだまだしまむら社と加茂市の対決は続きそうでありますが、条例の中身自体が問題・・・とする県警の意見が付されているのであれば、今後は加茂市側としてはこの条例をどうするのでしょうか?手続き的な面で問題があったのであれば、すくなくとも「しまむら」社との間においては営業の自由を侵害するものとして違憲、つまり「適用違憲」として、(しまむら社との間では問題があるとしても)条例自体の有効性、適法性には問題なし、と考えることもできそうですが、中身が問題だとすれば、条例自体の存在が違憲のおそれがあり、条例の改廃も検討しなければならないかもしれません。加茂市としても、決して「しまむら」社が憎いわけではなく、地域の経済を守るための対応であります。地域経済の保護、営業の自由、法律と条例の関係など、いろいろな問題のバランスをとりながら、最終的にはどのような決着をみるのか、私自身は企業コンプライアンスの視点から、今後も注目をしていきたいと思います。

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2011年1月18日 (火)

東京でのセミナー「上場会社ディスクロージャーの信頼確保に向けた関係者の取組みと法的問題の検討」(東京開催)

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昨日は午前中だけで6万アクセスを超えましたので、これは一日で10万アクセスまちがいなし!と思っておりましたが、ヤフーニュースの内容から消えたとたん、普段のアクセス数に戻りました。それでも一日で9万アクセス、というのは「とんでもない新記録」でございます。いい記念になりました。<m(__)m> でも、もういいです(笑)

さて、東京の弁護士の方から教えていただきましたが、2月10日(木)午後1時から3時半まで、クレオ(弁護士会館2階ホール)にて左記のとおりのセミナーが開催されるそうであります。内容は上場会社関係者向けでございます。

「上場会社ディスクロージャーの信頼確保に向けた関係者の取組みと法的課題の検討」(第一東京弁護士会、同会総合法律研究所、同金融商品取引法研究部会 主催)

東京の「ふしぎな開示研究会」に毎月出席させていただいておりますが、同じ有報や適時開示情報を見ていても、(その道の方々は)どうして引き出せる情報がこうも違うのだろうか、どうしてこんなに分析が鋭いのだろうか・・・といつも感心しております。開示情報から、これだけいろんなことがわかるのであれば、ガバナンスのあるべき姿を追求したり、不公正ファイナンスをできるだけ防止するために、今後は会社法や取締法といった「行為規制」よりも「開示規制」によって運用していく方向に向かっていくのではないでしょうか。また、たとえ行為規制によるものとしても、法というハードローよりも、自主ルールといったソフトローによる手法が多用される時代に向かっていくのではないでしょうか。また、逆にガバナンスがしっかりしていなければ、投資家に信頼されるような開示情報をリリースできない時代になりつつあるのではないかとも思われます。

そういった時代に、まさに私好みのタイムリーなセミナーであります。講演、シンポに登壇されるメンバーの方々も錚々たるもので、もし人的・物的資源があるならば、私個人としても関西でこのようなセミナーを開催したいと思えるような内容であります(まあ、ご登壇される顔ぶれからみて、なかなか関西で開催するのは困難かもしれませんが・・・)。すでに一弁さんは、東京近辺の上場会社さんに向けて広報を開始されたようですが、定員は200名(先着順)とのことですので(参加費も3000円はかなり安い!)、当ブログをご贔屓にしていただいている皆様方も、ぜひとも多数ご参加されてみてはいかがでしょうか。

1月24日がお申込み締切日だそうでありますが、上記図面はちょっと読みにくいでしょうし、申込用紙が添付されておりませんので、お申込みを含め、詳しくは下記のPDFをご参考くださいませ。

「201120210201.pdf」をダウンロード

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2011年1月17日 (月)

午前中だけで6万アクセス突破・・・・・(みなさんのご関心がわかります)

当ブログは平日約7000~9000アクセスというところでありますが、本日はなんと午前中だけで6万アクセスを超えております。(NINJA TOOL 調べ)はじめて当ブログをご覧になられた皆様、あまりのマニアックさに落胆されたことでしょう(^^;;これで丸6年、やってきたのであります(笑)

最初「アクセス解析」の故障かな??と思ったのでありますが、読売ニュース、Yahooニュースで「ファンション しまむら VS 新潟県加茂市」の新たな動きが報じられていたのですね。「闘うコンプライアンス」の代表例ですし、皆様方のご関心の高さがよくわかります。とくにYahooのほうで私のエントリーがリンクされておりますので・・・それにしてもYahooの力はスゴイです。

私自身もたいへん関心のあるニュースですので、また改めてエントリーしたいと思います(とりいそぎ、執務中なのでご挨拶のみにて失礼いたします <(_ _)> )

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春日電機元社長逮捕事件から改めて考える監査役監査の機能

すでにいろいろなブログでも話題になっておりますが、春日電機元社長の方が会社法違反で逮捕された、とのこと。当ブログでも本件は2年以上前から話題にしておりましたので、感慨深いものがございます(以下のエントリー、ご参照)。

伝家の宝刀 金商法193条の3は春日電機を救えるか?

また2009年には、この春日電機の監査役さんへのインタビュー記事(春日電機監査役を紹介する朝日新聞ニュース)なども掲載され、興味深く拝読したことを記憶しております。私自身もZAITEN2009年3月号に本件に関する監査役さんの対応を中心に論考を書かせていただきました。ただ乗っ取り前から、社内の生え抜きの役員と資金流用に関する謀議を行っていた、という事実は存じ上げませんでした。元社長さんは、逮捕直前のインタビューに「脇が甘い会社は乗っ取られるのは当たり前」とのコメントを残していますが、その真意は、そういった「寝返る」生え抜きの役員の存在に(創業者一族が)気づかなかった点を捉えて、そのように表現したのではないでしょうか。この逮捕事件、大株主になった元社長がどのようにしてこの協力者となる役員に接近していったのか(また、寝返る可能性をどこで知ったのか)が非常に興味の湧くところであります。

さて、上記のZAITENにも書きましたが、金商法193条の3の新設により、会社ぐるみの会計不正事件の予防・発見に向けた監査法人と監査役との連携・協調の時代がはじまったのではないか、と期待をしていたところ、いきなり春日電機でこの金商法193条の3による「不正事実の届出通知」が監査法人から内容証明によって監査役に届けられました。監査役がこれに応える形で仮処分を申し立てたということになり、本件は一躍有名な事件となりました。内容証明を受け取った春日電機の監査役は、その後、(今回逮捕された)代表取締役を相手に違法行為差止仮処分、臨時株主総会開催禁止の仮処分を求め、いずれも東京地裁で認められました。いわゆる「監査役の乱」と(当時)呼ばれる典型的な事例でありましたが、その後監査役さんの頑張りもむなしく、春日電機は残念ながら上場廃止となり、このたびは元社長逮捕に至ったわけであります。ちなみに金商法193条の3の条文は以下のとおりであります。

第193条の3  法令違反等事実発見への対応

公認会計士又は監査法人が、前条第1項の監査証明を行うに当たつて、特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(次項第1号において「法令違反等事実」という。)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、当該特定発行者に書面で通知しなければならない。

2 前項の規定による通知を行つた公認会計士又は監査法人は、当該通知を行つた日から政令で定める期間が経過した日後なお次に掲げる事項のすべてがあると認める場合において、第1号に規定する重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事項に関する意見を内閣総理大臣に申し出なければならない。この場合において、当該公認会計士又は監査法人は、あらかじめ、内閣総理大臣に申出をする旨を当該特定発行者に書面で通知しなければならない。

一 法令違反等事実が、特定発行者の財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること。

二 前項の規定による通知を受けた特定発行者が、同項に規定する適切な措置をとらないこと。

3 前項の規定による申出を行つた公認会計士又は監査法人は、当該特定発行者に対して当該申出を行つた旨及びその内容を書面で通知しなければならない。

このたびの春日電機元社長逮捕の報道を読んでおりますと、さすが監査役の乱を起こすほどの監査役さんだけあって、元社長は当該監査役の存在をかなりおそれていたようであります。

決済なく4,5億円融資 春日電機元社長ら不正認識か(朝日新聞)

上場会社でありながら、取締役会における専決事項である「多額の融資」について、元社長は、就任後わずか3日で取締役会の決議を得ずに決定をしていたそうで、その理由は取締役会に諮ると監査役の反対にあうから、ということだそうです。たしか3日ほど前の読売新聞ニュースにも同様のことが書かれてありました。

私が担当したある上場会社の経営トップが関与する不正会計事件でも、監査役がこれまで参加していた会議への関与を社長から拒絶されるようになり、重要案件の経営判断が(監査役の出席する)取締役会ではなく、ごく一部の役員間のみで決定されるようになっていきました。当該会社の元社長は「監査役は3人ともまじめな人たちだから、架空循環取引の存在を知れば、阻止される可能性が高かったために疎外した」と後日の検察官調書で述べております。

また、先日(12月8日)モデレーターを務めさせていただいた社外取締役シンポに登壇されたニッセンHDの社長さんも、私が「独立性要件が厳格になったとしても、社長さんが仲の良いお友達を連れてきて、『まあ、お手柔らかに』と(社外取締役に)就任してもらえば済む話ではないのですか?」と意地悪な質問をさせていただいたところ、

「とんでもない!うちの会社でもし私が友達を社外取締役に就任させようとしたら監査役の人たちが黙ってないですよ。一発で反対意見です。」

とのご回答でした。監査役さんの威光がガバナンスに色濃く影響を与えていることがとても印象的でありました。

監査役という存在は、いまでこそ「物言う監査役」がもてはやされる時代となりましたが、「存在すること自体が経営者にとって脅威」と大隅健一郎先生が「株式会社法変遷論」(有斐閣 昭和62年改訂版)のなかで存在価値を主張しておられます。たとえ「監査役の乱」を起こさずとも、そこに監査役が存在するだけでも違法行為から企業を遠ざける機能があることはまぎれもない事実であります。

監査役が存在するだけで「脅威」といえるためには?

ただ、単に監査役にだれがなっても、またどのような監査を行っていたとしても、経営者にとって「脅威」となるのではないと考えます。経営者が「脅威」と感じるのは、普段から監査役としてのお仕事をきちんとされておられるから、ということは当然のことであります。ニッセンHDの社長さんから、シンポの打ち合わせの際にニッセンの監査役さん方のお仕事ぶりを聞いておりましたが、そこでの監査役としての厳格な仕事ぶりが社長の信頼を得るようになり、先の発言につながっていることがわかります。春日電機の監査役さんの積極的な対応も、このような方だからこそ社長さんにとっては避けたい存在だったものと推察されます。

脅威といえるためには、まさに「平時」における監査役さん方の社内における心構えと厳格な監査業務を通じた経営陣との信頼関係の構築にあると考えています。また、そういった信頼関係があるからこそ、たとえば監査役を遠ざけるような言動が経営陣に見え隠れしたとき、これを監査役は「異常な兆候」と認識して、(不正発見の端緒となる)定例監査から非定例監査に移行するための、ひとつの合理的な理由にできるのではないかと考えております。たとえ外からは見えにくくとも、社内にあっては「物言う監査役」であることは不正の兆候発見のためには不可欠ではないか・・・・・と考えております。

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2011年1月13日 (木)

監査役の「監査見逃し責任」が認められた判決を発見(釧路市民生協事件判決)

大原町農協最高裁判決といいますと、農協の監事さんの責任が問われた判決として、当ブログでも一昨年11月のエントリー「監査役は辞任すれば免責されるのだろうか?」でご紹介し、また昨年2月には中央経済社の旬刊経理情報でも解説記事を書かせていただきました。その後は商法学者の方々が判例時報等で本格的に論文を著されるなど、株式会社の監査役の法的責任を検討するリーディングケースとして多くの方々の研究対象になっております。

ところで本日、某団体連合会の経理グループの方々とお話をしていたところ、実は過去にも監事(監査役)の監査見逃し責任が裁判所において認められた事例があったことを知りました。当該協同組合内ではすでに研究対象となっていたそうでありますが、あまり対外的に公表されておらず、いわゆる判例時報や判例タイムスなど公刊されている判例集にも未登載かと思われます(グーグルやヤフー検索をしましたが、まったくひっかからないので。もし私の勘違いでしたらお許しください)。

いちおう「釧路市民生協 組合債損害賠償事件」としておきますが、事件は1995年ころのお話であります。釧路市民生協では長年粉飾決算が続いていたところ、新たに組合債(組合員からの借金)を発行するにあたり、組合の財務諸表について、監事4名はそれぞれ適正意見を述べていたそうであります。そのうえで組合債が発行されたわけでありますが、その後組合の財務状況が悪化し、粉飾決算が表面化して一部デフォルトとなってしまいました(組合は結局解散することになります)。この事件について、組合員の一部から組合役員に対する損害賠償請求訴訟が提起された、という事案であります。ちなみに監事(4名とも非常勤監事)は、粉飾決算には加担していたわけではなく、典型的な「監査見逃し責任」を追及されております。

一審(札幌地方裁判所 1998年6月30日判決)は、粉飾を首謀してきた理事6名に対する損害賠償責任を認めたものの、監事4名に対しては当該生協の粉飾は非常に巧妙であり、常勤理事会に出席していなかった監事4名がこれを発見することは困難であったこと、監事らは会計専門家でもないので、これを発見して阻止することは期待できなかったことなどを理由として任務懈怠なし、としております。

上記判決を不服とした組合員らは控訴したのでありますが、二審(札幌高裁 1999年10月29日判決)は、一審とは逆に監事4名の粉飾見逃し責任を認めることとなりました。詳細は追ってまた説明したいと思いますが、たしかに会計監査という概念からすれば、監事4名は会計の専門家ではなく、分析的手法によって粉飾決算を発見することができなかったかもしれないが、監事らは「業務監査」を行うのが本分であり、業務監査のレベルにおいて例年つみあがっていく組合債の増加額を不審に思い、監事らは理事長らに対して説明を求めるなどの調査を行うことはできたはずである、そのような調査を行えば、常勤理事会で決定された決算が不自然あるいは不当であると指摘することが困難であったとは認められない、そのような調査をすることなく、単に決算書の金額が資料と一致するかどうかを確認するだけに終始した監事らは、適切な監査を怠っていたと言わざるを得ない、として監事4名の法的責任(損害賠償責任)を認めております。なお、監事らはこれを不服として最高裁へ上告受理申し立てを行っておりますが、2000年11月10日、最高裁は上告を受理しない旨の決定を下し、監事らの監査見逃し責任が確定しました。

1995年ころの協同組合監事の職責と、株式会社監査役の職責では多少異なるところもあるでしょうし、また常勤・非常勤の区別にも違いがあるかもしれません。しかし、比較的規模の大きな生協さんの場合には任意監査として会計監査人による監査も行われておりますし、上記判決内容からすると、ほぼ監査役監査にもあてはまる内容かと思われます。某団体の方々に、ぜひとも判決文を頂戴したいとお願いしたところ、ご快諾いただけましたので、先の大原町農協最高裁判決同様、監査役の監査見逃し責任の研究対象として勉強させていただきたいと思っております。また、内容等につきましてご紹介できれば・・・と思っております。

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2011年1月12日 (水)

大相撲力士は労働者なのか?

読売新聞ニュースによりますと、元大関琴光喜さんが、日本相撲協会を相手取って解雇処分撤回を求めて提訴する予定である、と報じられております(ニュースはこちら)。元琴光喜さんは野球賭博問題で解雇処分となっていたのでありますが、昨年力士としての地位保全仮処分命令の申し立てを行っていたところ、こちらは「保全の必要性なし」ということで東京地裁は却下していたそうであります。そこで今回は仮処分ではなく、本訴訟として解雇処分なる法律行為の無効確認のため提訴する、ということだと思われます。

昨年、元幕内力士の露鵬氏ら2名に対する解雇処分の無効を争った訴訟(東京地裁)で、露鵬氏らは日本相撲協会に敗訴しております。いわゆる大麻使用の件で元露鵬氏らは解雇処分となったわけでありますが、この件は平成20年8月の若ノ鵬大麻所持事件が先行し、やはり同年10月30日に東京地裁で地位保全仮処分申立事件の決定(却下)が出されていた中での解雇処分であったため、たとえ大麻使用が(所持とは異なり)刑事処分の対象とはなっていないとしましても、「まあ解雇処分についてはおおむね妥当だ」といった意見が多かったのではないでしょうか。

しかしこのたびの元琴光喜関の裁判については、少し状況が異なるのではないかと。そもそも力士というのは「労働者」に該当するのかどうか、おそらく争点になると思われます。先の元露鵬氏らの裁判では、裁判官はとくに労働者か否かを問題にすることなく解雇を認容していました。しかし、先の元若ノ鵬地位保全仮処分事件では、裁判所は労働契約法の適用を肯定しております。したがいまして、スポーツ選手としての力士にどこまでの「労働者性」が認められるのか、関心が向けられるところであります。

また、解雇処分ですから、当然のことながら適正手続による必要があります(これは一般企業でも同様ですね)。その点で、水平的公平と垂直的公平をどのように考えるか・・・・・という問題が出てきます。垂直的公平というのは、今回の一連の野球賭博問題で、賭博を行っていたほかの力士への処分との間に公平感はあるか・・・・・という点であります。元露鵬らの事件は大麻使用ということで、他の力士との公平感ということはあまり考えずに済むわけですが、(私の記憶が正しいのであれば)今回の野球賭博では、他の力士も多数関与していたのでありまして(たとえば賭博に関与していた関取10名は謹慎処分だったそうで)、そこに不公平感がないか、というところであります。また、水平的公平というのは、ほかのプロスポーツ競技において、プロ選手が賭博事件が起こしたときでもやはり解雇処分が妥当か、ほかの競技ではもうすこし処分が甘いにもかかわらず、相撲だけなぜ解雇処分になるのか、という点であります。

たしかに元琴光喜関と同じような事件で他の力士には「謹慎処分」ということであれば、なにゆえ元大関だけが解雇処分となるのか、とりわけ力士が「労働者」ということであれば合理的な説明がなければ解雇権の濫用(労働契約法18条)に該当する可能性もあるわけで、このあたりは社員の違法行為と懲戒処分を考えるにあたっても、関心を抱くところであります。

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2011年1月11日 (火)

J-SOXで「財務報告の虚偽記載リスク」は現実に低減しているのだろうか?

トーマツ企業リスク研究所さんの上場企業アンケート調査結果によりますと、企業リスクの上位に「IFRSへの対応遅延」が急浮上しており、その代わりに昨年2位だった「財務報告の虚偽記載リスク」が大きく順位を下げている(8位)とのことだそうであります(IFRSフォーラムのニュースはこちら)。同研究所の分析では「内部統制報告制度への対応が一段落したことが考えられる」としたうえで、ただし継続的な取り組みの必要性を述べておられます。

私も昨年まで2位だったリスクが、わずか1年で8位に急落する、つまり財務報告の虚偽記載リスクが「J-SOX制度のおかげで相当程度リスクが低減した」というのは、ちょっと早合点ではないかと思います(もしそうだとしますと、少なくともJ-SOXは非常にリスク回避に向けて有効性の高い制度である、との『うれしい』結論になりそうですが、どうも世間ではそこまでの合意はできていないのが現実だと思います)。内部統制報告制度は現在、3年目を迎えておりますが、整備に関する評価は充実してきたとしても、運用に関する評価はこれからが本番ではないかと思っております。また運用に関する評価が正しく出来なければ「整備の改善点」も見えてこないわけで、このPDCAが適切に社内で機能しなければ財務報告の虚偽記載リスクは、なかなか低減しないものと考えております。4日ほど前の日経新聞ニュースでも、このトーマツ企業リスク研究所さんのアンケート調査結果が報じられておりましたが、そこでも企業の法令遵守状況の点検が遅れていることが示されています。やはり整備は比較的容易であるが、運用というのが困難な作業であることがアンケート結果からも読み取れるようであります。

たとえば昨年末、ドンキホーテさんのコンプライアンス担当役員の横領事件が発覚したことが報じられておりました。当該役員さんとお付き合いのある方と先日お話しておりましたが、金融機関出身のたいへんまじめな役員さんで、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかった、とため息をついておられました。社内調査で不審な領収書(私的な表現でいえば『異常の兆候』)が発見されたことで、当該調査を続行したところ、この元常務さんの横領行為が発見されたそうであります。常務決済の裁量範囲内での交際費の流用が長年続いていたことで、不正発見が遅れたそうであります(朝日新聞ニュースはこちら)。おそらく本件などは、表向きは「内部統制システムの不備があった」といった説明がなされるかもしれませんが、実態からすれば「内部統制の限界事例」であり、J-SOXが機能していたとしても、財務報告の虚偽記載リスクが高いことを示す好例ではないかと思われます。

昨日(1月10日)、ItproさんのWEBページにて、コンサルティング会社の社長さんが「中途半端なJ-SOX対応の危険性と経営者の甘い認識」と題する論考が紹介されておりましたが、私もそこに記されている社長さんのご意見に賛同するものであります。「静的対応」は比較的順調に社内で進んでいるものの、「動的対応」つまり整備された内部統制システムがどのように活用されているか、その検証と改善策提言がうまく機能していない企業が多いのではないでしょうか。「整備」というのは他社との比較によって、自社のレベル感がわかるのかもしれませんが、「運用の評価」というのは他社と比較できるものではありません。J-SOXは虚偽記載リスクを低減することに有用かもしれませんが、リスクはそれだけで回避できるものでもないことを、きちんと理解しておくべきではないかと思います。

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2011年1月 8日 (土)

秀逸!朝日新聞板橋記者の講演録(特捜改ざんを暴いた経緯)

私もときどき寄稿させていただく朝日新聞「法と経済のジャーナル」ですが、同サイト開設以来、これほど秀逸な記事はなかったと思います。有償版なので、無料でご覧になれるかどうかはわかりませんが、本日(1月7日)アップされた記事「特捜検事の証拠改ざんは、こうやって明るみに出した」は、例の大阪地検特捜部における証拠改ざん事件を初めて報道した板橋記者の早稲田大学における講演録でありますが、単なる講演録ではございません。いや、最後まで一気に読んでしまいました。

やはり「フロッピーディスクを改ざんした」という証言は、板橋記者が「検察関係者」から聞いた話でした。この「検察関係者」からどうやって聞き出したのか?という点につきましては、もうすこしツッコミがほしいところではありますが、取材源の秘匿ということでやむをえないところでしょうか。しかし、そもそも板橋記者の熱意がなければ検察関係者からこういった証言を聞き出すことができなかったことは確かですし、また聴取した後の、朝日新聞社という組織の動きや、フロッピーディスクを受け取るまでの弁護人とのやりとりなどは、非常にリアルであり、このような内容を今回、記事にした朝日新聞社には敬意を表したいと思います。「ひょっとしたら、この事実が明るみに出たとき、私はどうなるのだろうか?」・・・・・、記者だって人間、身を案じるのも当然かと思います。(あの三井氏の事件が頭をよぎったのも当然かと)

正直申し上げて、私もこのお話に登場する元係長の弁護人と同様のことを考え、記者にフロッピーディスクを渡すことをためらったかもしれません。まさか検事が客観的な証拠を改ざんするなどとは夢にも思わないからであります。また、フォレンジックを担当する業者としても、まさか改ざんが行われているだろうとは想像もしていなかったのではないかと思われます。記者自身、報道当日に最高検が特捜検事逮捕にまで発展することを予想していなかったところも、この講演録を読んで、なんとなく理解できました。

下野新聞社から途中入社で全国紙の記者になられたわけですが、そういった地方新聞社での経験が、今回の取材に生きたことなども非常に興味深く読ませていただきました。前代未聞の検察不祥事が、このような記者および組織としての新聞社の姿勢によって生まれたことを知り、この事件の「うやむやな」部分が、少しずつではありますが氷解してきたように感じております。

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2011年1月 7日 (金)

顧問先企業の不正公表と守秘義務

本日(1月6日)付けの日経ニュースによりますと、トヨタ自動車の元顧問弁護士(米国)が、トヨタ・リコール問題に関連して同社が情報を隠ぺいしていたと公表していた件で、米国の裁判所は、元顧問弁護士側に対して、約2億円の賠償命令、および持ち出し資料の返還命令を発した、と報じられております。(なお、裁判官の判断ではなく、裁判所から回付されていた調停事件における調停人の判断のようであります)調停人はトヨタ側の主張を全面的に認容したようでして、おそらく顧問弁護士が合理的な根拠に基づかずに情報隠ぺいの事実を公表したことに対しての判断かと思われます。

今回の事件とは直接関係ないかもしれませんが、たとえば(日本において)顧問弁護士や企業内弁護士など、自己の職務に関して企業の違法行為や不正を発見してしまった場合、当該弁護士は企業内においてどのように対応すべきなのか、つまり守秘義務との関係はどうなるのでしょうか。(弁護士法23条の「守秘義務」は、その職務に関して知った場合を規定しています。弁護士資格を有する社外監査役や社外取締役のケースでも、ひょっとすると社外役員として不正を知ってしまった場合に、それが弁護士としての「職務に関して」と解釈されることもあるかもしれません。)現職の場合も問題となりえますが、顧問契約解消後や企業内弁護士の退職後などにも問題となりそうであります。

まず社内で上司や経営トップに不正を報告し、その是正を求めることは、やってもよいというよりも、やらねばならない弁護士法上の義務だと思われます。これは弁護士服務基本規定51条に(組織内弁護士に対する規程ですが)明記されております。たとえば企業内弁護士が担当する職務について、社内で違法行為の存在を知った場合には、これを上司等に報告し、適切な対応を求めることが義務とされております。顧問弁護士の場合も、その顧問先企業の違法行為を知った場合には、その是正に努めなければならないものとされております。判例上でも、これは弁護士倫理の問題ではなく、法的義務であるとされております(東京地裁昭和62年10月15日判決・判例タイムス658号149頁)。使用人たる地位や顧問契約の存在など、かなり厳しい現実があるかもしれませんが、これは弁護士たる地位にある以上は心得ておかねばならないところです。厳密に考えますと、社員の不正を会社の上司に報告することは、会社自身の顧問弁護士にとってみれば「第三者への報告」にあたるのではないか・・・とも考えられますが、あまりそこまで踏み込んで考えることは不要かと思われます。

さて、次に社内や法律事務取扱のなかで、不正や違法行為を知ってしまった社内弁護士や顧問弁護士は、その不正を是正するために内部告発(公益通報)を行うことも考えられますが、その場合第三者に不正事実に関する情報を提供することは弁護士法23条の「守秘義務」違反にはならないのでしょうか?たとえば会計士さんの場合には、春日電機さんや日本風力開発さんの事例で問題となりましたように、監査法人の守秘義務が解除されるための法の定めが必要であります。このような明確な法の規定が存在しないままに、職務上知りえた不正(不正がおこなわれようとしている状況も含む)について、第三者に情報を提供する行為については刑法134条1項の秘密漏示罪に該当するのではないか、とも思われます。

しかし、弁護士としての職責を考えますと、刑事事件でもないかぎりは、社内の不正を発見した者は、その是正のために必要があると認められる限り、内部告発や公益通報に出ることも違法とはいえないのではないかと思われます。刑法134条1項も「正当な理由」ある場合には犯罪が成立しないことになっておりますし、また弁護士法23条には除外事由こそ明記されていないものの、そういった正当理由ある場合には守秘義務が解除される、ということが「解釈として」読み込まれるべきである、と一般には理解されているからであります(条解弁護士法 171頁)。
もちろん、不正や違法行為の該当性(法律解釈や事実認定など)に問題があれば、今回の米国トヨタ事例のように、むやみに公表することは控えなければなりませんが、たとえば社内調査や内部通報により、違法行為の存在が明らかなケースにおきましては、弁護士資格を有する社員や顧問弁護士にとって、これを知った場合に非常に悩ましいことになるのではないか、と思われます。

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2011年1月 6日 (木)

小学館の情報誌「SAPIO(サピオ)」に寄稿いたしました(本日発売)

Sapio001_2 本日(1月6日)発売の小学館「SAPIO」(1月26日号:定価550円)に、見開き2頁ですが「会社の機密 今の日本では『内部告発者』は『会社からの報復』というリスクをほぼ必ず負ってしまう」というインタビュー記事を掲載させていただきました。最近話題のウィキリークス関連の特集記事の中で、「企業の場合はどうか?」といったご関心への参考意見を述べております。(本日の日経ニュースでも企業のリスク管理の一番の関心が「情報漏えい」ということが伝えられておりますが(トーマツさんの調査)が、情報端末が進化するなかで今後はますます企業の重要情報の流出事故は増え、これを公表する企業と公表しない企業に対応が分かれてくるものと思います。)

公益通報者保護法施行5年となる本年4月ころに、「もっと使い勝手の良い制度に」ということで法改正が予定されていたわけでありますが、どうも昨年暮れの専門委員会の審議内容からしますと、改正は先送りになるようなことが言われております。といいますのも、中小企業経営者らに対するアンケート結果でも、ほとんどの方が「公益通報者保護法など知らない」「名前は知っているが、どのような制度なのかわからない」「とくに社内で制度を作る予定はない」とのことでして、施行5年が経過した今もほとんど周知されていないのが現状であります。法改正よりもまずは公益通報者保護制度の内容を周知してもらう施策のほうが先決ではないか・・・ということで、私も(ちょっと恥ずかしいですが)情報誌に登場させていただきまして、読者の方々に制度のご紹介と現状を知っていただきたいと思いました。

ご興味のある方は、お近くのコンビニでご購入いただければ幸いでございます。<m(__)m>

追伸

このSAPIOという国際情報誌、実はほとんど読んだことがなかったのですが、原英史氏の連載「おバカ規制の責任者出てこい!」、コレ、めっちゃオモシロイです!!このブログでも、過去に何度か「行政法専門弁護士待望論」のなかで書かせていただきましたが、さすが通産省ご出身、行政改革担当大臣補佐官の経歴を有する方だけあって、トンデモ行政規制のツボをズバリと指摘。ホテルと旅館の線引き、ラブホとビジネスホテルの線引きのファジーなツボ(問題点)を的確に指摘しておられます。この感覚こそ弁護士が行政と交渉するときに必要だと思うのでありまして、私自身ブログで書きたくても、知識が乏しいために書けなかった内容であります。バックナンバーも含めて(今回は6回目とのこと)、この連載全部読みたいと思います。

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2011年1月 5日 (水)

「バイク王」比較サイト偽装疑惑への企業対応

すでに多くのブログで紹介されておりますが、「バイク王」経営母体のアイケイコーポレーション社(東証二部)は、バイク買取価格の比較サイトにおいて「バイク王」以外の全ての買取業者の経営母体だったという「お粗末」なお話。消費者庁は、それが事実なら景表法に抵触する可能性がある、とのことだそうですが、予想通りアイケイ社の株価にも大きく影響が及んでいる模様であります(ブルームバーグニュースはこちら。昨年末と比較して、4日のアイケイ社の株価は8.5%下落)。

各紙報道をみますと「バイク王、比較サイト偽装」との見出しもあり、一般の方々も「高値買取」を偽装していた、との認識を持っておられるのではないかと思います。しかし会社側コメントを読みますと、今回の事件は誤解を生じさせるおそれのあるものであり、再発防止に努めます、として決して会社ぐるみの不正が行われた、というものではないことを強調しておられるようです。朝日新聞に対するコメントでも「今回の件は遺憾であり、残念です」とありますので、決して悪いことをしたわけではない、顧客に誤解を生じさせたことについては再発防止のため努力する、とのスタンスは崩しておられないように思えます。しかし、このようなサイトで、あたかも他の業者と買取価格で競争している外観を作出していたのですから、これをバイク王の広告だと理解することは困難でして、なぜ「偽装」にあたらないのか、会社コメントを読んでも理解できないところであります。再発防止の前に、まず事実関係をきちんと調査のうえ公表することが先決ではないかと思われます。

今回の件、顧客からの苦情によって疑惑が浮上したのであれば、消費者庁が先に情報を収集しているはずでありますが、新聞社が先に事実を解明しているところをみると、やはり内部告発による情報提供の可能性が高そうであります。社会部の新聞記者さん達は、入手した情報をもとに会社側に取材を求めるのでありますが、事前に会社側に送られてくる質問事項で、だいたい漏洩した情報の内容が判明し、どのペーパーが漏れたのか特定できることが多いように思います(私の経験からですが・・・)。その場合、会社側の対応としては、自社で調査のうえ真摯に対応するケースと、新聞記者さんを完全に無視するケースに分かれるようです。私は原則として前者をお勧めします。なぜなら内部告発者の情報は、告発者自身のストーリーに基づくものであり、決して企業不祥事の全貌を知りながら告発するケースが少ないということ、たしかに不祥事に近い事実が存在していたとしても、記者さん方にも「ニュースとしてのストーリー」があり、これに沿った形の不祥事ではない場合には「報道に値するほどのおいしいネタ」にはならないからであります。こういったケースでは、自社の言い分を記者さん方に堂々と主張することで、結局のところ没ネタになる可能性が高いと思います。また教科書的な回答ですが、本当に申し開きのできない不祥事が発覚した場合には、事実調査のうえ自社において不祥事を公表し謝罪するほうが、「自浄能力」を示すことができ、再発防止策への信頼も高まるため、社会的評価の毀損の度合いはそれほど大きくないものと思われるからであります。

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2011年1月 1日 (土)

謹賀新年(本年もよろしくお願いします)

みなさま、あけましておめでとうございます。本年もどうかよろしくお願いいたします。毎年、元旦は各紙一面記事を読み比べておりますが、今年は読売さんと毎日さんの記事(社会福祉法人の身売り、警視庁内部資料の流出経路の解明)が面白かった。

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年末より奈良吉野山の温泉に来ておりましたが、予想以上の大雪。大みそかの世界遺産・金峯山寺の山門も、ご覧の通りの大雪でございました。

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ネットから離れて幻想的な雰囲気のなかで、ゆっくりと過ごしてまいりました。今年もいろいろと新しいことにチャレンジする予定です。

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