春日電機元社長逮捕事件から改めて考える監査役監査の機能
すでにいろいろなブログでも話題になっておりますが、春日電機元社長の方が会社法違反で逮捕された、とのこと。当ブログでも本件は2年以上前から話題にしておりましたので、感慨深いものがございます(以下のエントリー、ご参照)。
また2009年には、この春日電機の監査役さんへのインタビュー記事(春日電機監査役を紹介する朝日新聞ニュース)なども掲載され、興味深く拝読したことを記憶しております。私自身もZAITEN2009年3月号に本件に関する監査役さんの対応を中心に論考を書かせていただきました。ただ乗っ取り前から、社内の生え抜きの役員と資金流用に関する謀議を行っていた、という事実は存じ上げませんでした。元社長さんは、逮捕直前のインタビューに「脇が甘い会社は乗っ取られるのは当たり前」とのコメントを残していますが、その真意は、そういった「寝返る」生え抜きの役員の存在に(創業者一族が)気づかなかった点を捉えて、そのように表現したのではないでしょうか。この逮捕事件、大株主になった元社長がどのようにしてこの協力者となる役員に接近していったのか(また、寝返る可能性をどこで知ったのか)が非常に興味の湧くところであります。
さて、上記のZAITENにも書きましたが、金商法193条の3の新設により、会社ぐるみの会計不正事件の予防・発見に向けた監査法人と監査役との連携・協調の時代がはじまったのではないか、と期待をしていたところ、いきなり春日電機でこの金商法193条の3による「不正事実の届出通知」が監査法人から内容証明によって監査役に届けられました。監査役がこれに応える形で仮処分を申し立てたということになり、本件は一躍有名な事件となりました。内容証明を受け取った春日電機の監査役は、その後、(今回逮捕された)代表取締役を相手に違法行為差止仮処分、臨時株主総会開催禁止の仮処分を求め、いずれも東京地裁で認められました。いわゆる「監査役の乱」と(当時)呼ばれる典型的な事例でありましたが、その後監査役さんの頑張りもむなしく、春日電機は残念ながら上場廃止となり、このたびは元社長逮捕に至ったわけであります。ちなみに金商法193条の3の条文は以下のとおりであります。
第193条の3 法令違反等事実発見への対応
公認会計士又は監査法人が、前条第1項の監査証明を行うに当たつて、特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(次項第1号において「法令違反等事実」という。)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
2 前項の規定による通知を行つた公認会計士又は監査法人は、当該通知を行つた日から政令で定める期間が経過した日後なお次に掲げる事項のすべてがあると認める場合において、第1号に規定する重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事項に関する意見を内閣総理大臣に申し出なければならない。この場合において、当該公認会計士又は監査法人は、あらかじめ、内閣総理大臣に申出をする旨を当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
一 法令違反等事実が、特定発行者の財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること。
二 前項の規定による通知を受けた特定発行者が、同項に規定する適切な措置をとらないこと。
3 前項の規定による申出を行つた公認会計士又は監査法人は、当該特定発行者に対して当該申出を行つた旨及びその内容を書面で通知しなければならない。
このたびの春日電機元社長逮捕の報道を読んでおりますと、さすが監査役の乱を起こすほどの監査役さんだけあって、元社長は当該監査役の存在をかなりおそれていたようであります。
決済なく4,5億円融資 春日電機元社長ら不正認識か(朝日新聞)
上場会社でありながら、取締役会における専決事項である「多額の融資」について、元社長は、就任後わずか3日で取締役会の決議を得ずに決定をしていたそうで、その理由は取締役会に諮ると監査役の反対にあうから、ということだそうです。たしか3日ほど前の読売新聞ニュースにも同様のことが書かれてありました。
私が担当したある上場会社の経営トップが関与する不正会計事件でも、監査役がこれまで参加していた会議への関与を社長から拒絶されるようになり、重要案件の経営判断が(監査役の出席する)取締役会ではなく、ごく一部の役員間のみで決定されるようになっていきました。当該会社の元社長は「監査役は3人ともまじめな人たちだから、架空循環取引の存在を知れば、阻止される可能性が高かったために疎外した」と後日の検察官調書で述べております。
また、先日(12月8日)モデレーターを務めさせていただいた社外取締役シンポに登壇されたニッセンHDの社長さんも、私が「独立性要件が厳格になったとしても、社長さんが仲の良いお友達を連れてきて、『まあ、お手柔らかに』と(社外取締役に)就任してもらえば済む話ではないのですか?」と意地悪な質問をさせていただいたところ、
「とんでもない!うちの会社でもし私が友達を社外取締役に就任させようとしたら監査役の人たちが黙ってないですよ。一発で反対意見です。」
とのご回答でした。監査役さんの威光がガバナンスに色濃く影響を与えていることがとても印象的でありました。
監査役という存在は、いまでこそ「物言う監査役」がもてはやされる時代となりましたが、「存在すること自体が経営者にとって脅威」と大隅健一郎先生が「株式会社法変遷論」(有斐閣 昭和62年改訂版)のなかで存在価値を主張しておられます。たとえ「監査役の乱」を起こさずとも、そこに監査役が存在するだけでも違法行為から企業を遠ざける機能があることはまぎれもない事実であります。
監査役が存在するだけで「脅威」といえるためには?
ただ、単に監査役にだれがなっても、またどのような監査を行っていたとしても、経営者にとって「脅威」となるのではないと考えます。経営者が「脅威」と感じるのは、普段から監査役としてのお仕事をきちんとされておられるから、ということは当然のことであります。ニッセンHDの社長さんから、シンポの打ち合わせの際にニッセンの監査役さん方のお仕事ぶりを聞いておりましたが、そこでの監査役としての厳格な仕事ぶりが社長の信頼を得るようになり、先の発言につながっていることがわかります。春日電機の監査役さんの積極的な対応も、このような方だからこそ社長さんにとっては避けたい存在だったものと推察されます。
脅威といえるためには、まさに「平時」における監査役さん方の社内における心構えと厳格な監査業務を通じた経営陣との信頼関係の構築にあると考えています。また、そういった信頼関係があるからこそ、たとえば監査役を遠ざけるような言動が経営陣に見え隠れしたとき、これを監査役は「異常な兆候」と認識して、(不正発見の端緒となる)定例監査から非定例監査に移行するための、ひとつの合理的な理由にできるのではないかと考えております。たとえ外からは見えにくくとも、社内にあっては「物言う監査役」であることは不正の兆候発見のためには不可欠ではないか・・・・・と考えております。
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