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2011年1月 7日 (金)

顧問先企業の不正公表と守秘義務

本日(1月6日)付けの日経ニュースによりますと、トヨタ自動車の元顧問弁護士(米国)が、トヨタ・リコール問題に関連して同社が情報を隠ぺいしていたと公表していた件で、米国の裁判所は、元顧問弁護士側に対して、約2億円の賠償命令、および持ち出し資料の返還命令を発した、と報じられております。(なお、裁判官の判断ではなく、裁判所から回付されていた調停事件における調停人の判断のようであります)調停人はトヨタ側の主張を全面的に認容したようでして、おそらく顧問弁護士が合理的な根拠に基づかずに情報隠ぺいの事実を公表したことに対しての判断かと思われます。

今回の事件とは直接関係ないかもしれませんが、たとえば(日本において)顧問弁護士や企業内弁護士など、自己の職務に関して企業の違法行為や不正を発見してしまった場合、当該弁護士は企業内においてどのように対応すべきなのか、つまり守秘義務との関係はどうなるのでしょうか。(弁護士法23条の「守秘義務」は、その職務に関して知った場合を規定しています。弁護士資格を有する社外監査役や社外取締役のケースでも、ひょっとすると社外役員として不正を知ってしまった場合に、それが弁護士としての「職務に関して」と解釈されることもあるかもしれません。)現職の場合も問題となりえますが、顧問契約解消後や企業内弁護士の退職後などにも問題となりそうであります。

まず社内で上司や経営トップに不正を報告し、その是正を求めることは、やってもよいというよりも、やらねばならない弁護士法上の義務だと思われます。これは弁護士服務基本規定51条に(組織内弁護士に対する規程ですが)明記されております。たとえば企業内弁護士が担当する職務について、社内で違法行為の存在を知った場合には、これを上司等に報告し、適切な対応を求めることが義務とされております。顧問弁護士の場合も、その顧問先企業の違法行為を知った場合には、その是正に努めなければならないものとされております。判例上でも、これは弁護士倫理の問題ではなく、法的義務であるとされております(東京地裁昭和62年10月15日判決・判例タイムス658号149頁)。使用人たる地位や顧問契約の存在など、かなり厳しい現実があるかもしれませんが、これは弁護士たる地位にある以上は心得ておかねばならないところです。厳密に考えますと、社員の不正を会社の上司に報告することは、会社自身の顧問弁護士にとってみれば「第三者への報告」にあたるのではないか・・・とも考えられますが、あまりそこまで踏み込んで考えることは不要かと思われます。

さて、次に社内や法律事務取扱のなかで、不正や違法行為を知ってしまった社内弁護士や顧問弁護士は、その不正を是正するために内部告発(公益通報)を行うことも考えられますが、その場合第三者に不正事実に関する情報を提供することは弁護士法23条の「守秘義務」違反にはならないのでしょうか?たとえば会計士さんの場合には、春日電機さんや日本風力開発さんの事例で問題となりましたように、監査法人の守秘義務が解除されるための法の定めが必要であります。このような明確な法の規定が存在しないままに、職務上知りえた不正(不正がおこなわれようとしている状況も含む)について、第三者に情報を提供する行為については刑法134条1項の秘密漏示罪に該当するのではないか、とも思われます。

しかし、弁護士としての職責を考えますと、刑事事件でもないかぎりは、社内の不正を発見した者は、その是正のために必要があると認められる限り、内部告発や公益通報に出ることも違法とはいえないのではないかと思われます。刑法134条1項も「正当な理由」ある場合には犯罪が成立しないことになっておりますし、また弁護士法23条には除外事由こそ明記されていないものの、そういった正当理由ある場合には守秘義務が解除される、ということが「解釈として」読み込まれるべきである、と一般には理解されているからであります(条解弁護士法 171頁)。
もちろん、不正や違法行為の該当性(法律解釈や事実認定など)に問題があれば、今回の米国トヨタ事例のように、むやみに公表することは控えなければなりませんが、たとえば社内調査や内部通報により、違法行為の存在が明らかなケースにおきましては、弁護士資格を有する社員や顧問弁護士にとって、これを知った場合に非常に悩ましいことになるのではないか、と思われます。

1月 7, 2011 企業秘密漏洩のリスクマネジメント |

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コメント

たまたま、このサイトに漂着しました。
今回のテーマ内容に関連して、質問させていただきたいです。
・会社の不祥事を、顧問弁護士や社外監査役(大学教授)に直訴することはできるのでしょうか?
・顧問弁護士から暴言を受けた場合、弁護士会へ懲戒処分を申し立てるしか救済手段はないように思いますが、時効ってあるのでしょうか?

投稿: JN | 2017年3月15日 (水) 20時51分

JNさんが社員なのか、社外の方なのかわかりませんのであくまでも一般論としての回答です。
社内不祥事を社外役員や顧問弁護士に通報することは禁止されていることはなく、むしろ今の風潮からすれば通報すべきではないでしょうか。ヘルプラインによって直訴すべき窓口ではなくても、それは歓迎されることと思います。
なお、懲戒請求については懲戒対象事実が発生してから3年以内に請求しなければ審議にかけられないので、これを時効と呼ぶかどうかはさておき、留意しておく必要があります。

投稿: toshi | 2017年3月15日 (水) 22時05分

社外取締役や社外監査役に通報するルート(経営者やヘルプライン以外)はコーポレートガバナンスコード等でも推奨はされている(義務ではないかもしれませんが)と思います。
顧問弁護士の場合は、会社側に与するのではないか?という一般的な感覚のようなものがあるので、通報する側の心持ちのハードルは高いのでは?と3月1日の東京弁護士会のシンポジウムでも意見がありました。
JNさんの質問の中に「顧問弁護士から暴言を受けた場合」とあるのも、上記のような感覚からのものだと考えます。

投稿: 試行錯誤者 | 2017年3月16日 (木) 09時34分

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