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2011年1月20日 (木)

闘うコンプライアンス(しまむらvs加茂市)その3

おかげさまで当ブログの人気シリーズ(?)となりました「ファストファッションしまむらvs加茂市」の闘うコンプライアンスシリーズでありますが、1月17日、18日と読売、朝日で新たな動きが報じられました。いずれの記事も(条例違反により)しまむら社を被告発人とする刑事告発を受理した県警は、そもそも加茂市の条例に無理がある、として立件には消極意見を付記して「しまむら社」を書類送検する方針、とのことであります(読売新聞ニュース朝日新聞ニュース)。

おもしろいのは、加茂市が地元で売り場面積を拡大して売上拡大を狙う「しまむら」社の計画を阻止しようと「売り場面積拡大を規制する」条例を制定し、これを無視して面積拡大を図った「しまむら」社を刑事告発するわけでありますが、県警はこの条例の内容を問題視して立件に消極的、とのことであります。報道では、もちろん加茂市の後出しじゃんけん的な条例制定、つまり手続きに問題があることも考慮しての判断とされておりますが、県警の消極判断では、条例の内容そのものに問題がある、との見解が主たる理由のようであります。

手続きの問題としては、一昨日「もこさん」からコメントをいただいておりますとおり、「余目町個室付き浴場最高裁判決」(刑事事件は昭和53年6月16日判決、民事事件は同年5月26日判決)が著名な先例とされているようで参考になります。刑事事件のほうだけご紹介いたしますと、A氏が個室付き公衆浴場(いわゆるソープランド)を作ろうとしたところ、山形県は急きょソープランド予定地の近くにある「無認可児童遊園」を「認可児童遊園」に格上げして、ソープランドの営業禁止区域にしてしまい、そのまま営業を開始したA氏について風営法違反で刑事告発した、という事案であります。(児童福祉施設から半径何メートル以内では風俗営業はできない、といった規制がもともとありますので、児童遊園を格上げされると営業規制の対象となります)最高裁は、そもそも児童遊園を認可対象施設に格上げすべき合理的な理由もないのに、A氏の営業直前にこれを認可する山形県の行為は、まさにA氏の営業を阻止することだけのための行政処分であり、行政権の濫用にあたり違法、したがってA氏は無罪、と判示しております。

たしかに本件とよく似た事例でありまして、特定の営業主体の事業を阻止することを目的とした行政の行動…という点からすれば、本件最高裁判決は加茂市にとって不利になるように思われます。ただ、上記の余目町個室付き浴場最高裁判決の事例は、山形県の認可処分の適法性が争われたものでして、条例という立法行為が争われたものではございません。上記最高裁判例に関する調査官解説も、「認可処分が適切とはいえないことから、今後は条例等によって対処すべきである」と述べておられますので、あながち加茂市としても「条例制定」によって対応しているのですから、決して法律的に無理であることを承知のうえで行動に出た、とも言えないように思われます。ただ、(その1)でも述べましたように、最近は「条例」といいましても、その制定経緯などから特定人の行動を規制することを目的とするようなものであれば「行政処分」性を認めることができる、という最高裁判決も出てきておりますので、そのあたりを重視しますと、やはり加茂市の対応は手続き的にも問題が残るようであります。

さて、まだまだしまむら社と加茂市の対決は続きそうでありますが、条例の中身自体が問題・・・とする県警の意見が付されているのであれば、今後は加茂市側としてはこの条例をどうするのでしょうか?手続き的な面で問題があったのであれば、すくなくとも「しまむら」社との間においては営業の自由を侵害するものとして違憲、つまり「適用違憲」として、(しまむら社との間では問題があるとしても)条例自体の有効性、適法性には問題なし、と考えることもできそうですが、中身が問題だとすれば、条例自体の存在が違憲のおそれがあり、条例の改廃も検討しなければならないかもしれません。加茂市としても、決して「しまむら」社が憎いわけではなく、地域の経済を守るための対応であります。地域経済の保護、営業の自由、法律と条例の関係など、いろいろな問題のバランスをとりながら、最終的にはどのような決着をみるのか、私自身は企業コンプライアンスの視点から、今後も注目をしていきたいと思います。

1月 20, 2011 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

エントリーの更新お疲れさまです。いつも大変勉強になります。
さて、本論とは全く関係ないのですが、文中に”「児童遊園」を「児童福祉
施設」に格上げ云々”という記載があります。
現時点での理解では「児童遊園」=「児童福祉施設」だと思うのですが、当時
の児童福祉法では違ったのでしょうか?

投稿: skydog | 2011年1月22日 (土) 08時10分

skydogさん、コメントありがとうございます。
ご指摘を受けまして、再度判決文を確認いたしましたところ、ご指摘のとおり、児童遊園≒児童福祉施設でございました。
要は無認可の児童遊園を認可対象の児童遊園に格上げする、という趣旨なので、そのように本文も改めました。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2011年1月23日 (日) 19時52分

toshi先生、ありがとうございました。
判決文を見ると、この個室付き浴場は廃業までの6ヵ月間に延べ70名の
男性客の利用があったという事ですから(2日に1名)、裁判には勝った
けれども商売には負けたということでしょうか?
「しまむら」さんも法律論では勝っても商売で負けては意味がありません。
それは、この増床が地域住民の支持を得ているかどうかに掛かっていると
思います。
まことにコンプライアンスの本質は(国広先生の受け売りですが)、法令
遵守ではなく、「企業に対する社会的要請を正確に把握してこれに応じた
行動を確保すること」なのだと思います。シンドイですね。

投稿: skydog | 2011年1月23日 (日) 22時20分

こんにちは。いつも興味深く読ませていただいてます。
しまむらの件、不起訴になったようですね。
2本目の記事には条例全文が掲載されています。
toshi先生のご意見をお伺いしたいところです。

新潟地検が大型店規制条例の違反を認めず
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20110401/546742/

条例違反の売り場拡大で量販店を書類送検
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20110329/546673/

投稿: toryu | 2011年4月 6日 (水) 09時41分

toryuさん、情報ありがとうございます。
そうだったんですか。
いま執務中なので、また夜にでもじっくり検討させてください。

昨日の東京弁護士さんの情報もそうですが、日本中がたいへんな状況のなかで、関心事件は動いているのですね。

投稿: toshi | 2011年4月 6日 (水) 09時51分

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