« 例外的取扱いが招く企業不祥事の教訓的事例 | トップページ | 監査役監査とコンプライアンスの接点について考える »

2011年2月12日 (土)

大相撲八百長疑惑の調査にリーニエンシーは通用するか?

大相撲八百長疑惑事件につきまして、調査委員会の調査もいわゆる「全件調査」(疑惑のある力士だけでなく、疑惑のない力士も含めてすべての十両以上の力士を調査する)の段階に入りましたが、力士たちの協力を得ることが困難で、調査は難航している、といったニュースが報じられております(産経新聞ニュースはこちら)。相撲協会や相撲部屋の組織としての構造的な問題を指摘するのではなく、実際に八百長相撲を過去に行った力士への処分を前提としての調査でありますから、力士たちが調査に非協力的なのは当然のことでありまして、むしろ

「過去の何名かの力士の不正を暴いて処分すれば、構造問題に突っ込まれることも回避できて、それで相撲協会の自浄能力も示すことができるから一件落着」

ということを幹部の方々が目論んでおられるのであれば、結局「正直者が馬鹿をみる世界」ということになりそうであります。調査委員会に強制捜査権限がない以上、いまのままでは調査が難航するのは当然だと思われます。いままでも「八百長ってあるよね」といった雰囲気が漂っていた相撲界において、メールが出てきた力士だけが処分の対象となる、という不公平感のなかでの全件調査はうまくいかないでしょう。力士の方々も、自身や家族の生活がかかっているのでありまして、正直に申告して処分されるくらいなら隠すほうに賭けるのは当然でしょうし、自身の行為を正当化する根拠がありますので「誠実性という名の倫理」が通用する話ではないと思います。

私はむしろ八百長疑惑問題につきまして、だれがやったのか、つまり処分を目的とした調査ではなく、原因究明と再発防止策の提言を目的とした調査を行うべきではないかと思います。相撲協会が存続することがおおむね前提のお話だと思いますので、今後は八百長疑惑が発生しないような組織に生まれ変わるためにはどうすべきなのか、組織や部屋制度の在り方にまでさかのぼって改善策を実行することが、もっともファンの信頼を回復する早道になるのではないかと。何名かの力士を処分することは、それなりに一般予防的な効果はあるでしょうけれど、結局何も組織は変わることはないわけでして、再び八百長相撲が適宜行われることは確実だと思われます。(絶対に八百長はなくなりませんよね)むしろ、八百長相撲は必ず起きることを前提として、①その発生頻度を下げるためにはどうすべきか(予防機能)、②八百長の発生を早期に発見するためにはどうすべきか(発見機能)、③発見した際の文科省への報告・届出や国民への公表に関する判断含め、これに協会としてどう対応すべきか(危機管理)に分けて検討すべきでして、そのための判断資料として、今回の調査結果を活用すべきではないかと考えます。つまり、

「大相撲で八百長は起こしてはいけない」(大相撲の品質管理)から

「大相撲で八百長は許さない」(相撲協会の経営管理)へ

発想を転換する必要があると思います。前者の場合、八百長相撲が再び発生すれば、組織上げて隠ぺいに走るでしょうが、このデジタルフォレンジックが発達した時代、到底隠しきれるわけがないので、今度こそ組織の廃止に関わることになってしまうでしょう。相撲協会は経営管理の一環として「八百長を許さない大相撲」をめざし、だからこそ今後の八百長相撲については、力士たちに厳しい処分を課すことができるのだと思います。

八百長疑惑に関する調査手法については、以下は私の提言です。無責任に思われるものもあるかもしれませんが、「手詰まり状態にある」のであれば、一度検討してみることも有益かもしれません。不謹慎な点がございましたら、どうかご海容ください。

1相撲協会として、過去の八百長事件については、力士の処分をしないことを前提として、調査委員会からの指示に対しては全面的に協力するよう指導する、あるいは(相撲協会と力士の間に労使関係にあるならば)調査への協力義務を課す。そのうえで、調査委員としては、力士が誠実に協力しないことについては処分対象として検討するか、もしくは協力しない力士の対応自身をとらえて「灰色認定」をする(つまり、調査に協力的でないことを力士に不利に援用して、限りなく八百長相撲を行った可能性が高いことを報告する)

2十両以上の力士全員を対象として、リーニエンシー(自主申告による処分減免制度)を適用する。たとえば、相撲協会に対して八百長を行ったことを申告した力士については、先着10名までは処分をしないことにする。もちろんこれは相撲協会が「八百長は絶対に許さない」というコミットメントを発することを条件とするものですが、八百長相撲には相手があるものですから、「ひょっとしてあいつが先にしゃべっちゃったら、自分は処分されるかも・・・」といった不安が該当力士の心の中に芽生えてくると思います。したがって、これは結構有効性のある調査手続きになるのではないか、と思われますがいかがなものでしょうか。

3調査委員会に「内部通報窓口」を設置する。もちろん、匿名性を確保したうえで過去の八百長疑惑に関する通報を受け付ける、というものであります。あまり昔までさかのぼることができないと思いますので、たとえば過去3年分の取組みについて・・・という限定をつけるのが現実的かな、と。(ひょっとしたらすでにこの手法は採用されているかもしれませんね)とりわけ現在は現役力士を対象とした調査が行われているそうでありますが、こういった内部通報窓口へは、すでに廃業した元力士の方々の意見などを受け付けたほうが実効性が高まるように思えます。また通報窓口にかかわらず、廃業された方々に対して、過去にどのような八百長疑惑があったのか、詳細にヒアリングしてみるほうが調査の実効性が上がるかもしれません。

2月 12, 2011 独立第三者委員会 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/50843784

この記事へのトラックバック一覧です: 大相撲八百長疑惑の調査にリーニエンシーは通用するか?:

コメント

大相撲八百長疑惑には、調査をする場合に、困難な点が多いと思います。

野球賭博とは異なり、八百長には対戦相手と共犯関係にならねばならない。調査をして、ある力士が八百長を告白したとして、その八百長が行われた対戦の相手力士が否定することもあり得る。あるいは、申し出は受け、表面では一応応諾したが、実際の土俵上では、真剣勝負をした八百長を否定することもあり得る。何が、本当か、藪の中で終わらざるを得ない面が相当多いと思う。仮に、八百長があったとして、正直に告白した力士のみを処分し、その対戦相手は処分なしもありうるのか?真実を見誤った場合の危険性もあり得る。

相撲協会は、格好の良い建前論を述べているが、その後の展開まで検討した上で、対応しているのか疑問に思います。最も、企業の場合も、同様な愚作・愚行為をしている場合が、あると思いますが。

投稿: ある経営コンサルタント | 2011年2月12日 (土) 10時12分

山口先生が提案されていることは、いわゆるドーピング検査と同じで、
他のスポーツの世界では当然のことですよね。

力士も協会も、今後永遠に「可能な限り(合理的な範囲で)」
自分の身の潔白さを証明し続けなくてはいけない、と。

投稿: 機野 | 2011年2月13日 (日) 22時48分

コンサルタントさん、機野さん、ご意見ありがとうございます。他のスポーツと大相撲と同じ視線でみるべきかどうかは、実は私はまだ迷っています。「国技」という点がひっかかっておりまして。。。

ところで本日のニュースでは、予想通り、調査委員会内に内部通報窓口が設置されるそうですね。

投稿: toshi | 2011年2月15日 (火) 09時46分

本題とは直接関係ありませんが、すもうは国技ではありません。
私も誤解してましたが、日本には特定された国技はないようです。

八百長問題は100年近く前に、力士間で問題になったことがあ
ったそうですが、双葉山が浄化グループに属さなかったことから
陋習が途絶えなかった、と云うニュースを先日見ました。

国技でなくてよかったかも知れませんね。
失礼致しました。。

PS:監査役協会の講座に参加させて頂きます。

投稿: 小口 昌夫 | 2011年2月15日 (火) 16時36分

小口さん、こんにちは。講演にお越しとのこと、また宜しくお願いいたします。

私も深くは存じ上げませんが、たしかに国家が指定していないという意味では「国技」ではありませんね。しかし、「国技とは、国民に伝統的に広く親しまれている競技をいう」という説もあり、その意味では「国技」なのかもしれません。要は「国技」の定義によるもののように思いますね。ただ、現在問題となっている公益法人認定の関係でいえば、小口さんのおっしゃるとおり、国が指定しているかどうか、という明確な意味で使った方が議論がしやすいのかもしれません。
ご指摘、どうもありがとうございました。

投稿: toshi | 2011年2月15日 (火) 16時52分

コメントを書く