イマドキのMBO事情への「独立役員」としての危惧感
東証の斉藤社長さんの定例会見(22日付け)でのご意見(MBOは株主を愚弄したものだ)は様々なところで反響を呼んでおりますが、ロイターのニュースが最も正確に会見の様子を伝えているように思いました(株主への説明回避が目的のMBO、投資家を愚弄)。斉藤社長さんも、決してMBOそのものが悪いと言っておられるわけではなく、MBO決議にいたるまでの投資家への説明や、手続き上に不正がないか、MBOのプライシングに不正がないかは、当然チェックしないといけないという点を強調しておられるのではないかと思います。
大株主と仲が悪くなったうえに、米国系ファンドから同業他社が一気に10%の株を取得して業務提携を迫り、またその大株主と同業他社が今後の役員構成について協議する、といったパルコ社(東証1部)のような事例をみますと、株主を気にせずに長期的視野で経営をしたい、と考えるMBO趣向の企業の気持ちもなんとなく理解できそうな気がいたします。しかし忘れてはならないのは、あの粉飾決算で話題となりましたシニアコミュニケーション社の第三者委員会報告書の内容であります。シニア社は、粉飾決算を永久に閉じ込めるために、MBOを真剣に検討し、最終的には支援者が現れなかったために断念した、ということでありました。ちなみに、第三者委員会報告書の内容を復元すれば、
(7) MBO
平成21年1月ころ、リーマンショックに端を発した経済不況に伴い株式市場が低迷しており、特に、マザーズ市場を含む新興市場への影響は甚大で、当社(シニアコミュニケーション社)株価も大きく下落していた。M氏(同社財務担当取締役)は、このような環境下、多くの上場会社が、MBOやM&Aを検討しているということを多数の証券会社、M&Aサポート会社、経営コンサルティング会社などから聞くに及び、かつ、実際にいくつか具体的な提案を受けていた。M氏は、架空計上の隠蔽のための一つの手法としてMBOを実施すべきであると考え、Y氏(同社社長)に相談したところ、同氏もこれを了承した。そこで、M氏は、MBOを実行すべく、M&Aサポート会社と契約し、資金調達を試みたが、資金調達環境が厳しい折、MBOに必要なローンが組成できないということでその実行を断念せざるを得なかった。
(8) 長期営業債権
M氏は、ソフトウェアの架空計上による入金填補を進め、かつ、MBOの検討を進めていた。しかし・・・・・
ということでありました。私もけっしてMBO自体が悪いものばかりだとは申しませんが、ここのところ証券会社さんやVCさんがMBOを上場会社に勧めておられるケースもあり、また金融機関も投資ファンドに資金提供できる体制が整っていることから、こういったシニア社のように、企業の不正が発覚しないようにするため非上場化を図る、というケースもなかには存在するのではないか、と思います。「そんな会社に融資する金融機関なんて、あるわけがない」と考えてしまいそうですが、それは後出しジャンケン的発想であり、これまでの粉飾事案がそうであったように、事業の将来性判断には厳格な金融機関であっても、過去の粉飾発見については審査能力に乏しいわけですから、実際に経営者らが組織する組合へ融資をするところが出てきてもおかしくないと思います。
※※※※※ ※※※※※
ところで、MBOにおけるTOB価格のことで、以前から疑問に思っていることがございます。私は(何度も申し上げますが)M&Aにそれほど詳しくない法律家ですので、素人的発想かもしれませんが、MBOによって強制的に排除される一般株主は、なにゆえ一株あたり時価純資産価格よりも低いTOB価格を適正価格として、これに応じなければならないのか、ということであります。MBO手続により、当該会社の一般株主は強制的に排除されてしまうわけでありますが、その株主は、会社がその時点で清算してしまったら得られる経済的価値よりも低いTOB価格を合理的な価格とみて、これに応じなければならないのでしょうか?私のように独立役員の立場からいいますと、会社が(ファンドによって)時価純資産価格よりも低いTOB価格による買付提案を受けた場合に、どのような合理的な理由もしくは株主に説明のつく理由で、MBOを行うこと、および買付希望者の提案価格が適正であることについて賛同するのでしょうか?もちろん、一株あたり純資産額よりもTOB価格が高いものであれば、これまでのMBO事案同様に、価格の合理性判断の問題になるのでしょうが、最近のMBO事案のなかで、このように一株あたり時価純資産価格よりも低いTOB価格が出現したものですから、はたしてこれって裁判所において「公正な価格」とはみなされないのではないか、と疑問を抱いた次第であります。今の時点で「TOB価格は適正である」と主張する根拠が説明できなければ、後日、価格決定申立事件で、より高い金額が「公正価格」と判定された際に、TOB価格に賛同した役員の注意義務違反・忠実義務違反が指摘される可能性は極めて高いのではないでしょうか。
そもそも会社法では、残余財産分配請求権は、自益権の根幹をなすものであり、いわば普通株式の基本的要素であります。にもかかわらず、非支配株主から支配株主に、MBOを境にして富の変動が生じるような結果になるのは、いったいどういった理屈で適法だとされるのでしょうかね?たとえば幻冬舎さんに対するTKHDさんの公開買付届出書(添付書類-株価算定書サマリー)をみましても、純粋にDCF+プレミアムによって株価算定したことだけがサマリーとして記載されているだけでして、一株当たりの純資産価格(2月15日の日経クイックニュースや、会計士さん方のブログなどを読みますと、おそらくDCF算定価格+プレミアムよりも10万円以上高い)を考慮した節もないようであります。一般株主が「少数株主」であるがゆえに被る損害は、「このまま上場企業でいてほしいけれども、多数株主が非公開化することに合意、ということなので、その結果を甘んじて受ける」ということでありまして、富の変動まで甘んじて受けなければならないものではないと思います。また、株式買取請求権の行使の場面であれば、「残るか残らないかは自己責任」ともいえそうですが、MBOは全部取得条項付種類株式の取得によって強制的に一般株主が排除される場面ですから、株主としては「事業継続を前提とした計算」を問題とすることなく、純粋に清算価値との経済的価値の比較が許容される場面かと思われます。私が幻冬舎の独立役員だったら、このあたりをどのように一般株主に説明してよいのか、ちょっと未だに思案にくれているところであります。また、それ以前の問題として、社内の取締役からどのような説明を受ければ、独立役員として満足できるのでしょうか?
もしこのあたり、専門家的意見ではなく、一般の株主にも、また「公正価格」を判断する裁判官にも理解できるような説得的理由をご存知の方がいらっしゃいましたら、どうかご教示いただければ幸いです。
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コメント
一般的な株価形成を見れば、IPOで高く売った株式を
創業者が数年で安く買戻して差益を抜く投資戦略として
MPOが定着していくのかな?と危惧しないでもありませんね
投稿: ポリティーク | 2011年2月24日 (木) 07時28分
「ベンチャー法務の部屋」に掲載されています。
投稿: エリック | 2011年2月24日 (木) 08時37分
そもそも株価PBRが1倍割れで平気でいられる経営陣や株式市場に問題があって(株主が甘やかしているのか、経営者が努力不足かデフレを放置する経済政策か、産業再編が進みにくい制度が問題なのか経営者にインセンティブが出ない制度に問題なのか)、1倍割れでMBOするのが全て悪いとは思えません。
株主還元をこれまでサボっていた可能性は十分にありますが。
また、一般株主というものをどのようにとらえるのか皆目曖昧ではないでしょうか?そもそもPBR1倍割れで買っているような株主に遠慮する必要はあるのでしょうか?
市場に鈍感な人もいれば、会社の業績やIRを通じてうまく取引できる人も一方ではいます。
株式取引はリスクの高い取引であると言うのは前提です。それが納得できない人は投資信託などで済ませていると言うのが概ね言えます(その場合はプロが運用)。
MBOの価格決定のプロセスの不透明さを議論するのと上場子会社の完全子会社化の価格決定のプロセスと両方一緒に議論できないのはなぜでしょうか?(広告主足る大企業に遠慮しているのでしょうか?)。
問題の根っこは同じではないでしょうか?
今のようにMBOが盛んになる前に100%子会社化が流行りました。なぜ製紙会社がコーラのボトラーを100%TOBするのにあんな安い金額だったのか理解に苦しむとかいろんな例があります。私も持ち株が不当に安い金額でTOBにあったと思いますが、その時は親会社を称賛する記事があふれていました(アジアで頑張る生理用品会社のペット用品子会社)。
価格の透明性と説明責任という大枠で考えるべき問題であるように思います。一方で、上場したくない会社をいつまでも上場させておく必要もないと思います。
投稿: katsu | 2011年2月24日 (木) 09時06分
仰る趣旨、まことに尤もと思います。しかし、B/Sに記載されている純資産は、会社を清算した場合の資産処分によって実現される残余財産を下回る場合がしばしばありうることには留意する必要があるでしょう。また、業績が不振で将来的にも資産を食い潰していくと予想される場合でも、雇用、取引先等への使命などから直ちに廃業・清算をできない、しないことが上場企業の場合は大部分でしょう。そのような場合は、株価も純資産を下回る水準となるわけです。従って、株価は上述のようなケースも含め、様々な要素を反映して成立していると考えられ、それを基準の一つとしてTOB価格の妥当性を判断することは公正性を備えるものと言えると思います。
投稿: O.S. | 2011年2月24日 (木) 09時32分
そうでしたか、森先生も本件についてお書きになっていたのですね。
以前、本問題で森先生とは少しだけ話をしたことがありました。
さっそくそちらを拝見したいと思います。
情報ありがとうございます>エリックさん
投稿: toshi | 2011年2月24日 (木) 10時49分
ポリティークさん、katsuさん、OSさん、非常に有益なご意見、まことにありがとうございます。参考にさせていただきたいと思います。
なお、OSさんのご意見は私も考えたことがあるのですが、DCFで算出される価格枠も(レンジとしてですが)、一応正しいということを前提で株価が算定される(合理性がある)とされるわけですから、純資産価格も、それが専門家によって算出されるかぎりは「一応正しい」という前提で話を進める必要があるのではないでしょうか?その理屈は、これからも株主でとどまることが可能な人たち(たとえば株式買取請求権を持つ人たち)には通用するとしても、強制的に退出を余儀なくされる人たちにとっては、TOB価格と純資産価格以外には比較すべき材料を持ち合わせていないわけで、「純資産価格はいい加減なもんだから」では到底通用する話ではないと思うのです。
このあたりはいかがなもんでしょうかね?
投稿: toshi | 2011年2月24日 (木) 11時11分
株価算定を生業とするものです。
評価手法として、ストックを考慮する時価純資産法等で評価を行うかは、当該企業の事業継続性を考慮し、事業継続が前提である場合は、ストックを利用した評価は選択しないことが多い傾向です。
(結果、TOB・株式交換の算定書では純資産法は利用していないケースが多数)
投資家が何を見て投資しているかは色々考えがあるかもしれませんが、上場会社であれば、清算配当ではなく、将来収益を考慮して投資しているのではないでしょうか。
市場株価やDCFでの算定結果がPBR1倍を切っている一方で、その銘柄がMBO(親子上場での親会社によるTOB含む)であれば純資産価格に引きずられるべきだとすると、評価手法の考え方にも影響がありますし、なぜPBR1倍以上の銘柄において純資産価格を基準としないか説明する必要も出てくるかと思われます。
投稿: k.o. | 2011年2月24日 (木) 13時25分
「純資産」の数値は会計のルールによって計算されている数字に過ぎず、全ての資産が時価評価されているわけでは決してなく、まして専門家の専門的査定によるものではありません。専門家は会計のルールに従って計算されていることの確認のお墨付きを与えるに過ぎません。従って、「純資産」が企業価値を表した「一応正しい」数字との前提は成り立たないと思います。確かに、強制的に退出を余儀なくされる株主からすると、将来に対する期待権を剥奪されるわけですから、それなりの退出料を請求したいでしょうが、それは株価に対するプレミアムの形で請求する、プレミアム額はDCFも踏まえて算出される、と言うことが合理的と言えるでしょう。
投稿: O.S. | 2011年2月24日 (木) 14時47分
純資産は、これまで会社が上げてきた収益等を総合したもの。純資産については減損未了の資産があったとしても、会計上の収益を積み上げたものであり、かなり信憑性の高いものです。
一方で、DCFは未来に得られるキャッシュフローを予想したもので非常に怪しげです。
未来に賭けて投資している人もいれば、現時点での資産的評価を見て投資している人もいます。評価者がDCFによる方法こそが合理的だと思っても、一種の信念、思想に過ぎません。それに、DCFは予想に過ぎないので評価が不安定です。
また、割り引く資本コストに確立した水準があるとも思われません。下値に安定性のある低PBR株の投資家は資産として投資してるので、資本コストも安いはずです。
とすると、一株純資産も評価の一部としていく方向が正しいだろうと思われます。株価、一株純資産、DCFを組み合わせて、一株純資産よりは下回るが、株価水準に100ー200%以上の上乗せをして別の株に乗り換えてくださいと追い出すのは一応アリだと思います。
投稿: ターナー | 2011年2月24日 (木) 17時48分
期待権と言う立場で考えれば、株価は相場全体が良くなれば一株純資産程度までは株価が戻るとしても不思議ではないと思います。一株純資産程度まで戻るであろうと考える期待権が合理的なものであるのは明らかで、公正な立場に立てば、純資産割れの会社の期待権は相対的に大きく見積もることになるでしょう。
非公開化してくる企業は、純資産を大きく割れている価格で買い付け出来ると考えて話に乗ってくるわけです。評価会社や証券会社としてもその様な企業以外に営業しても大抵不発に終わるわけで、自己の利益のために、又は潜在的意識として純資産は評価に使うべきではないとの説に惹かれるのではないでしょうか?
あえて、非公開化して株主を排除する以上、一株純資産を十分に加味すべきであり、できないなら始めから非公開化などしないのがマトモな経営者の判断だと思います。
投稿: ターナー | 2011年2月24日 (木) 22時40分
であれば、独立取締役として、PBR>1以下の企業には、普段から再三再四その旨を助言すべきではないでしょうか?買収提案されてから騒いでいては意味がないはずです。
MBOの提案があってもなかっても、解散価値以下しか評価されていない現状に危機意識がないことにも大きな問題ではないでしょうか?
なぜ、事態が起こってから議論するのか疑問です。2部上場企業の平均PBR>1が放置されている現状は独立取締役は何を考えるべきなのでしょうか? 監視している経営者は明らかに実力不足と言い切れるのでしょうか?混乱している資本市場の中で?
私は先人がご指摘されているよう、会計上の純資産価値にそんなに意味がないと思っています(デフレ、含み損の有無など現状は反映されにくい)。
その会社の取締役として就任しながら適正株価がわからない、ということもおかしな話ではないでしょうか?独立取締役は普段から株主目線の立場でいるからこそ、価値があるのではないでしょうか?
経営者が自社株買いする動機は前提に適正株価を(自分なりに)把握しているからではないでしょうか?
また、何度も申し上げますが上場子会社のTOBも同じリスクをはらんでいます。
一般株主の解釈の幅が広すぎるように思います。
投稿: katsu | 2011年2月25日 (金) 10時23分
仮に、時価純資産なる数値があるとしても、本当に会社を清算したときの株主への配当などというのは、PBR等で示されるようなものは出ないと思います。在庫はいったいいくらで捌けるのでしょうか?
JREITでは、不動産しかないので、解散請求等が議論されていますが、事業会社で清算して株主還元というのは、そもそも想定すること自体が変ではないでしょうか。
建前としては、情報開示が十分になされた市場で取引されている現状の株価を「公正」な価格を基準にするしかないのでは?
投稿: ベン | 2011年2月25日 (金) 10時34分
皆さま、多数のご意見ありがとうございます。
katsuさんの、「独立役員なら、そんな状況になるまで何をしていたのか」という意見もかなり厳しいけど、ごもっともかと。
時価純資産なる数値が、清算したときの残余財産分配金とは(実際には)異なるということは、私もよく理解しております。ただ、強制的に退出を余議なくされる株主にとっては、株価もプレミアムもあまり関係ないのではないか、もしくは時価純資産なる数値は実際とは違うといいつつ、継続企業を前提とした数値とは何ら関係がなくなってしまった一般株主に、DCF算定およびプレミアムの適正性は信用しろ、と言える正当性はどこにあるのでしょうか?
もし時価純資産が正しいものでないという前提に立つならば、(企業の継続とは無縁の人たちである一般株主にとって)DCFも同様にあてにならない、ということで価格決定申立事件(つまり、すでに売買契約は強制的に成立していて、その価格だけが問題になっている非訟事件)で「公正なる価格」の根拠たりうるのか、そこがとても知りたいところです。
投稿: toshi | 2011年2月25日 (金) 11時16分
ちょっと補足しますと、もちろん時価純資産価格を越えるTOB価格まですべて問題だ、と述べているわけではございません。それは公正価格算定にあたり、純資産価格も考慮した、と役員としては説明がつきそうだ、と思っています。
ただ、なんとも純資産価格割れの状況だと、上記のように悩んでしまうわけです。合理的な説明ができないものかと・・・
なお、メールでも実務に携わっておられる方々より専門的な観点から有益なご意見をいただいております。なんらかの形でサマリーだけでも、私のほうで公表させていただければ、と。(どうもありがとうございました。この場をかりて御礼申し上げます。)
投稿: toshi | 2011年2月25日 (金) 11時33分
上場株式と非上場株式をごった煮にして議論するのは生産的ではありません。市場の株価に役員が文句を付けるなどあり得ない話です(IRを頑張っていることが前提ですがね)。
いかに資産があろうとも上場株式の株価は市場で決まったものが全てです。
PBRといいますが、ただの指標であり、投資判断の道具にすぎません。絶対視するべきものでもありません。
投稿: JFK | 2011年2月26日 (土) 01時21分
PBRを無視する立場に立つとしても、あえて株主を追い出すのに、会社が持つ資産価値を無視してまで追い出すことを肯認しうる相当理由が必要なのだと思います。
資産価値を度外視して追い出されるリスクがあれば、資産持ちではあるが将来的にはそれほど見通しの明るくない会社には全く値がつかなくなり、一方で明るい未来を演出できる会社は実力を超えて評価されるでしょうけれど、株価が企業価値を適切に表しているとの前提が危うくなりますね。
上場株式の株価は市場で決まったものが全てですが、無理に追い出す局面で、資産価値を無視して一律のプレミアムとして30%程度を基準にすることは全く相当ではないと言うことです。PBR1倍割れでの排除の場面では、大幅なプレミアムが資産価値を下回る水準での排除を肯定しうるほど高く付いているかどうかが判断基準になろうかと思いますけどね。
投稿: ターナー | 2011年2月26日 (土) 18時22分
より効率的な市場であれば、PBRが低い会社は、アクティビストが株を買うなり、誰かが敵対的TOBでもして資本の効率的な活用(例えば配当)を提案することによって、PBRが低いまま放置されることはないのでしょうけど、アクティビストを裁判所認定の下、追い出すようなこの国の文化では、どうなのでしょうか。
大株主になれないような零細な投資家にとっては、非常に憂慮すべき状態だとは思いますが、社外取締役の役割からアクティビストを含む投資家の取り扱い方までいろいろと考えるべきところはありますね。
投稿: べん | 2011年2月26日 (土) 18時50分
TOB価格の妥当性とか個別論点を議論する前提に日頃から経営者と株式市場や株価への責任というものが、やや甘い今の制度が根っこにあるので、そこをシンプルに考える原則が欠如しているように思えます。
要するに「会社はだれのものか」、というシンプルな議論が非常に複雑怪奇に議論され、結局「皆のもの」というわけのわからない決着を見ているところを、もっと改善しなければ、いつまでたっても適正株価なんてのは見いだせないような気がします。
日頃から経営者は株価を最大限にする努力を最優先にしている、ということが投資家との信頼関係の上で、前提となっていれば、そう簡単にPBR<1で放置されることもないような気がします。
(とはいっても投資家心理も論理的ではございませんので、PBR<1の状態が解消されるとまでは言いきれませんが…)
提案株価が適正でも、提案者が不適正(スティールの提案とか)という理由で却下される例など、解釈が複雑すぎますね。
地域社会とかも含めた公器である、と言うことが正だとすれば、ディスカウントは筋が通っていることにもなってしまいますし、。
投稿: katsu | 2011年2月27日 (日) 14時42分
正直申し上げて、これほど多くのご意見をいただけるとは思っておりませんでした。何が正しいのか、という問題と、どう説明すべきなのか、という問題は若干異なるように思います(裁判でけりをつけるべきなのか、裁判に至るまでに、なるべく紛争を持ちこまないことを考えるべきなのか)そういった整理をするためにもたいへん有益なご意見をいただけたと思っています。
なお、katsuさんのブログの力作も参考にさせていただきます。
投稿: toshi | 2011年2月27日 (日) 22時17分
PBR1倍割れ銘柄の取得価格決定申立てについては、オープンループ札幌高裁決定が昨年秋に出てしまいましたので、これを受けて安心して手ごろな価格でMBOできるようになったのだと推察しています。
唯一の救いとしては、この会社は継続企業の前提に疑義があるというGC注記付きの会社ですので、GC注記のない会社にはこの判例が適用されないことを祈りたいです。
http://www.khk.co.jp/cont?id=2127
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○1 会社法172条1項により裁判所が決定すべき、全部取得条項付種類株式の取得価格について、取得日における当該株式の客観的な価値に加えて、強制的取得により失われる今後の株価の上昇に対する期待を評価した価額をも考慮した、取得日における公正な価格であるとされた事例
2 取得日における株式の客観的価値は株式買付けの提案があった日の直近1ヵ月間の株価の平均値であり、これに66%のプレミアムを付した公開買付けの価格が、公正な価格であるとされた事例
──オープンループ株式取得価格決定申立事件──
(札幌地決平成22・4・28)
<参考>抗告審決定(札幌高決平成22・9・16)
投稿: オープンループ | 2011年3月 6日 (日) 18時16分
オープンループさん、ご指摘ありがとうございます。金融・商事判例、事務所で確認いたします。私の勉強不足を補っていただき恐縮でございます。
投稿: toshi | 2011年3月 7日 (月) 01時11分
そもそも、B/S純資産が解散価値、という主張は、少なくとも解散時に従業員等への補償費の支払い等をすることを考慮すると、成り立たないですね。単に解散すると言っても、種々の出費(それも多額)が必要となることを考慮すべきですね。
また、自分が少数株主として株を持っていると考えた場合、2年も3年もずっと低い株価しかついていない株を、今プレミアム40%つけて買ってくれるのなら、例えそれがPBR1倍割れであろうと、嬉しいと思う人が多数ではないのかな、と思います。実際、私も数年間ずっと低い株価しか付いていない株を持っていましたが、MBOでもしてプレミアム付けて買ってくれないかな、とずっと思ってました。PBR1倍割れなんて気にしないですよ。だって、今売ればPBR1倍割れとかどころの話じゃない訳ですから。(現実に、MBOに応募する人が多数となって何の問題もなくほとんどのMBOが成立しているのは、そういうことだと思います。プレミアムが付かない、若しくは少なければ、例えスクイズアウト前提としても多くの株主は応募しないと思われます。)
投稿: unknown1 | 2011年4月15日 (金) 13時59分