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2011年3月31日 (木)

内部統制改訂意見書の公表(経営管理の視点から)

3月30日、金融庁HPにて内部統制改訂意見書(正確には「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」という長い名称)が公表されております。これまでの意見書とはどこが違うのか?というのは(当ブログでも過去に何度がご紹介したとおりでありまして)冒頭の「経緯」をお読みいただければ、おおよそおわかりになるかとは思います。ちなみに、この改正意見書が適用されるのは平成23年4月1日以降に開始される事業年度からであります。改訂意見書による監査実務指針の公表もこれから、というになります。ただ、現行の意見書を基準として内部統制の有効性を評価したり、監査するにあたりましても、(その評価範囲において)震災の影響を受ける上場会社もあるのではないでしょうか。

内部統制報告制度の今後の課題については、私はモニタリング重視の制度運用にあると考えております。コンプライアンス・リスクの管理に似たところがあると思います。とくに開示規制(財務報告の信頼性確保)という面からみた場合、担当者も監査人も、J-SOXはすでに2年以上の実務経験を経ているわけですから、どこの上場会社さんも、それなりに熟練されてきたことを重視すべきだと思います。たとえばリスク管理を「作業確実実行能力」「異常(不備)早期発見力」「異常影響度判定能力(トレーサビリティ)」に分けるとするならば、これまでは職務分掌や職務牽制、手順の明確化など、「作業確実実行力」を向上させることが大きな課題だったのでありますが、これを追求しすぎるあまり「費用対効果」に疑問が付されることになったわけであります。せっかく現場の内部統制担当者や監査人が実力をつけてきたのですから、これからは「リスクは変動するのだから、ある程度の不備が生じてもやむをえない、問題は不備をどうやって早期に発見するか、不幸にして早期に発見できなかった場合にも、不備の影響範囲をどうやって確定するか」といったモニタリングを重視することで、効果的かつ効率的な制度運用を図るべきだと考えます。

なお、ここで申し上げる「不備」というのは、内部統制報告制度ですから、不正や誤謬(ミス)そのものを指すわけではありません。不正や誤謬が財務報告の重大な虚偽記載につながるリスク要因のことを指しております。そういった不備の存在を早期に発見できる体制があれば、現場の柔軟な対応を許容することが可能となり、経営管理の面からみても効果的な内部統制を構築することが可能になるのではないか、と考えております。COSOモニタリングガイダンスでは、多くの参考事例が公表されておりますが、いかにして不備を早期に発見できるか・・・・といったあたりについてのヒントが多く記載されております。日常的なモニタリングによって発見できる場合もあれば、独立的な立場(内部監査や監査役監査)でのモニタリングによって発見できる場合もあると思います。またモニタリングがしっかりしていること自体が、作業確実実行力を向上させることにも寄与するはずです。

ある程度、内部統制報告制度に慣れてきた時期においては、「マニュアルによる、あてはめの内部統制」から「自社の身の丈に合った創意工夫による内部統制」へと移行すべきではないかと思います。ディスクロージャーのための内部統制と経営管理のための内部統制の関連性を考える時期にきているはずです。このたびの震災では、BCPの一環として、個々の企業の垣根を越えて、業界団体での互助の精神が求められるものと思いますが、たとえそうであったとしましても、経営管理の視点からみた内部統制がしっかりしている企業と、そうでない企業とでは、事業継続力回復までのスピードに大きな差が生じるように思います。

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2011年3月30日 (水)

震災による定時株主総会の延期と「定款違反」(法務省の見解)

先週土曜日に「震災による定時株主総会の延期と定款違反」なるエントリーをアップして、「震災によって決算日から3か月以内に定時株主総会が開催できなくなった場合、会社法違反にならない点はよいとしても、定款違反はどうなるのだろうか?」との疑問を呈しておりましたところ、本日(3月29日)法務省から、「法務省意見」が出されたようであります。

定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて

東北地方太平洋沖地震の影響により,定款所定の時期に定時株主総会を開催することができない状況となっている株式会社があると考えられます。
特定の時期に定時株主総会を開催すべき旨の定款の定めについては,通常,天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合にまで形式的・画一的に適用してその時期に定時株主総会を開催しなければならないものとする趣旨ではないと考えるのが,合理的な意思解釈であると思われます。
したがって,東北地方太平洋沖地震の影響により,定款所定の時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,会社法第296条第1項に従い,事業年度の終了後一定の時期に定時株主総会を開催すれば足り,その時期が定款所定の時期よりも後になったとしても,定款に違反することにはならないと解されます。

前のエントリーでJFKさんがコメントされているとおり、「なにか株主総会の冒頭で株主の了解くらいはとっておく必要があるのでは」とのご意見もありそうですから、法務省の公式見解によって、とりあえずお困りの株式会社の監査役の方々には(スッキリできて)良かったですね。(まぁ、会社としては「配当権利落ち」の問題は残りますが・・・)

ただ、「特定の時期に定時株主総会を開催すべき旨の定款の定めについては,通常,天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合にまで形式的・画一的に適用してその時期に定時株主総会を開催しなければならないものとする趣旨ではないと考えるのが,合理的な意思解釈である」という理由(つまり定款違反にはならない、ということ)についてはどうなんでしょうかね?たとえば民法上は双務契約の帰趨につきまして、天変地変については契約の合理的な解釈の問題とはせずに危険負担の法理によって処理します。(一方の債務が天変地変によって履行困難となった場合には、もう一方の債務はどうなるか、という問題は、当事者間で明らかな合意がない限り、法律のルールによって処理します)会社法上の定款も会社と株主との基本的な契約であるとみるならば、天変地変を「契約の合理的解釈」の問題と捉えることは民法の趣旨と矛盾することにはならないのでしょうかね?逆に、なかには「強行突破」して総会を開催した会社もあるようですし、そのような会社においては「合理的な意思に反して株主総会をやりました」ということになるのでしょうか?ここで「合理的な意思解釈」という言葉を持ち出すのは少し乱暴な気もするのですが。。。

むしろ私が前回のエントリーで申し上げたような理由(「超法規的な許容事由」とみるか、定款の法的性質、つまり利害関係人の権利を不当に侵害しない範囲での例外的取扱いを許容する条項が含まれている)のほうが「有事対応」という意味においては乱暴ではない、と思うのですが・・・・・、いかがなものでしょうか。。。

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2011年3月28日 (月)

福岡魚市場株主代表訴訟判決と取締役の子会社不正調査義務(その2)

先日(福岡魚市場株主代表訴訟判決と取締役の子会社不正調査義務)のエントリーをアップいたしましたが、その続編であります。この判決では親会社取締役の善管注意義務違反の内容として「監視義務違反」(不作為による任務懈怠)が認定されているわけですが、親会社の他の取締役の違法行為を是正できなかった、ということではなく、子会社の取締役の不正を見抜けなかったという点において興味深いものがございます(被告3名は、いずれも親会社の取締役であり、かつ不正があった子会社の非常勤役員)。つまり子会社不正を早期に発見できなかったことに関する任務懈怠と、不正の兆候を知りながら十分な調査をしなかったことに関する任務懈怠の双方が問題になっているものです。

取締役と監査役では少し異なるかもしれませんが、平成11年の釧路市民生協組合債事件高裁判決や平成21年の大原町農協事件最高裁判決における「監査見逃し責任」の論理が、子会社不正を見逃してしまった親会社取締役の法的責任にも妥当することを、本判決は示しているようであります。会計や法律の専門家ではない会社役員は、会計専門家のように「粉飾決算」を発見したり、法律専門家のように不正行為を発見することまで求められるわけではなく、不正の疑い、つまり「異常な兆候」を発見すれば足りるわけでして、その「異常な兆候」が監査役や親会社取締役に見える範囲でどのような外形が存在するのか、その異常な兆候を知った場合の調査のレベルとはどのような事実を指すのか・・・・・という点を、この代表訴訟判決はかなり具体的に示しているところが参考になります。

子会社の経営トップが不正に関与している場合など、子会社独自の不正調査に期待が持てないケースがありますが、こういったケースにおいて不正調査の第一次責任者は親会社取締役であり、親会社監査役は、そういった親会社取締役の職務執行を監視検証する形で子会社不正に対応することになります。企業集団内部統制のような不正の未然防止ではなく、すでに不正が発生した疑いのある状況を前提とした状況(有事対応が必要となる状況)での監査役の業務監査の在り方にも参考となる判決ではないかと思われます。いずれにせよ、社内調査委員会による調査内容についても、きちんと取締役が精査しておかなければ「調査委員会の報告を安易に信用してしまっており、不正調査としては不十分」と判断される可能性があります。不正の兆候が発見された場合、(たとえ不正の発見が困難であったとしても)どの程度の調査を尽くせば善管注意義務違反にはならないのか、こういった判決を通じて議論する必要がありそうです。

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2011年3月26日 (土)

震災による定時株主総会の延期と「定款違反」

読売新聞ニュースによって知りましたが、法務省が昨日(3月25日)「定時株主総会の開催時期について」と題するお知らせを公表されております。

東北地方太平洋沖地震の影響により,当初予定した時期に定時株主総会を開催することができない状況となっている株式会社があると考えられますので,会社法の関連規定について,以下のとおりお知らせします。・・・・・

とのこと。金融商品取引法や商業登記法の関連規定との関係で、6月に定時株主総会が開催できなくても(3月決算の場合)会社法上違法ではない、と説明する意義はあるとしても、定款には「基準日は3月31日とする」「当社は毎年6月に定時株主総会を開催する」と定めているところも多いわけでして、定時株主総会の延期と「取締役会決議の定款違反」との関係はどうなるのでしょうかね?(^^;

会社法上、「延期の決定」というのは株主総会による機関行為ですから(会社法317条)、開催前に取締役会が「延期」を決めることはできるのでしょうか?ちょっと無理っぽいですね。いったん開催しておいて「延会」という処置をとるのも現実的でないし。。。

会社に損害が生じない以上は株主による差止請求の対象になるとは思えないのですが、監査役の立場からしますと、取締役の意思決定が「法令定款違反」に該当しないのかどうか、監査する必要があるものですから。。。まぁ、株主総会を開催したくても議決権の書面行使や電子投票も含めて物理上困難な場面が予想されますし、社内における準備もできないといことですから、会社法違反行為に該当しないのであれば「特別事情」とみるべきかもしれません。また、そもそも定款では実務慣行として「通例」を定めたものであり、例外的取り扱いを一切許容しないものではない条項も含まれていると考え、開催時期を延期することが株主の権利行使の面からも適切な事情があれば開催時期の変更も許容される(定款違反にはあたらない)とみるのか。 いえ、ふと思ったもので・・・・・・

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2011年3月25日 (金)

「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」初版公開と出版社のCSR

(3月26日未明 追記あり)

ろぼっと軽じKさんから教えていただきましたが、新日本法規さんが、本日「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」の初版をテキストデータにて開示されました。(ご教示ありがとうございます)法律関連の出版社によるCSR(企業の社会的責任)として、この英断に頭の下がる思いです。被災者の皆様、そしてマスコミの皆様、どうかご活用いただければ、と。原発問題や津波による家屋消失、災害保険の実務など、同様に考えてよいものかどうか、疑問もあろうかとは思いますが、解決の方向性を知るうえにおきまして、我々弁護士も法律相談の手引きとして貴重なものであります。

「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」(平成18年度版)

なお、これは平成18年度発行のものであり、最新版は現在関東弁護士連合会において、急ピッチで編集が進められているようですので、あくまでも平成18年度版としてご参照ください。被災者の方々にも、避難所におられる方から、自宅で不便を強いられておられる方など、さまざまかと思います。それぞれのお立場で活用できるのではないでしょうか。

(追記)

新日本法規さんと同じく、商事法務さんの「地震に伴う法律問題Q&A」(平成7年版)がPDF化され、同社HP上にて公開されております。こちらも、すでにご紹介させていただいたとおり、(少し内容は古いですが)たいへん震災関連の法律問題の解決のため有益な情報が詰まっております。このたびの震災復興に向けての各社のご尽力には、たいへん敬服いたします。

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2011年3月23日 (水)

郵便不正事件「証拠改竄-特捜検事の犯罪」を読んで

厚労省元局長村木氏の捜査にあたり、大阪地検特捜部主任検事によるフロッピーディスクの改ざんが行われたことが朝日新聞の報道によって明らかにされ、現在も検察の再起を賭けた検証が行われていることはご承知のとおりであります。そして、このほど朝日新聞出版社より、司法担当、裁判担当の3人の記者が検察最大の不祥事を世に公表するに至った経緯を克明に綴った「証拠改竄(特捜検事の犯罪)」(朝日新聞取材班 1400円税別)が発売されました。

Kaizan_p1 事件をスクープした記者の方から本書をいただき、この連休中、精読いたしました(どうもありがとうございます)。本書では、これまで報道されていなかったさまざまな内情が掲載されておりますが、これは実際に本書をお読みになっていただければ、と思います。ここでは、読後感想文として印象に残ったことだけを記しておきます。

村木裁判における裁判官の判決内容も含め、検察の在り方に大いに疑問が呈されているのはデータ改ざん事件よりも、むしろ「組織としての」検察の勝手なストーリーと自白の強要という「でっちあげ捜査」についてでありますが、やはりこのデータ改ざんという信じがたい事件が明るみに出たことが最大の引き金になっていることは間違いありません。しかし、当該記者が検察最大の不祥事をスクープできた背景には、いくつかのポイントがあったことが理解できます。

まずひとつめはなんといっても検察関係者である「その人」からの情報提供であります。「一度しか言わない」と言って、FDのデータが(元主任検事によって)改ざんされた事実が「その人」から記者に伝えられるわけでありますが、なぜ「その人」は朝日新聞社のこの記者だけに真実を伝えたのでしょうか。当該記者によれば、それは内部告発というものではなく、ひょっとすると記者の執拗な説得に根負けした結果だったのかもしれない、と述懐しておられます。

しかし私は、

「その人」はきっと当該記者なら、自分の供述だけで記事を書くような人間ではなく、きちんと供述の裏付けを入手したうえで記事を書くのではないか、といった信頼があったからではないか・・・・・

と考えました。これだけITの進んだ現代社会においてでさえ、本当に重要な情報というのは、やはりアナログ、つまり泥臭い人間の信頼関係の上でしか伝えられない、という現実をみたような気がいたします。(実際に、どこの調査機関がFDの改ざんの事実を科学的に解明したのか、その調査機関の社名も、本書には実名で掲載されております)

ふたつめは、上村被告人(係長)の弁護人との信頼関係であります。FDの原本は上村被告人のもとに存在していたのでありますが、鑑定を行うためには、これを弁護人から借り受けなければならないわけでして、当該記者の真摯な要請に応じる形で、このFDの鑑定に応じることになりました。本書を読んで、私はこの上村弁護人の(職業上当然の)疑心暗鬼が非常に理解できるところであしまして、「もし私が上村被告人の弁護人だったら、果たしてこの記者にFDを渡していただろうか・・・・・・」と本書を読みながら自問自答しておりました。もし私が弁護人だったら、この検察庁最大の不祥事は世に出ていなかったかもしれない、と少し恥じるところもあります(正直なところ)。当該弁護人が大阪弁護士会の刑事弁護委員会副委員長たる地位にあり、当該記者の真摯な姿勢に共感したところが大きかったのではないか・・・・と推測し、これは本件の大きなポイントだったのではないかと思われます。

そして三つめは、当該記者がデータ改ざんの事実を知ってから40日間、朝日新聞社という巨大な組織のなかで、たった3人の記者だけが事件報道のための裏付けを温めていったという事実に驚きました。スクープの裏には、社内でも「保秘」を貫くという厳格さが必要であり、その裏腹としての「ストレス」も本書には如実に表現されております。3名の記者のうち2名は、朝日新聞へ途中入社組でありますが、この3名の信頼関係による「保秘」を貫いた姿勢も大きなポイントだと認識いたしました。

関係者に対する真摯な姿勢によって得られる真実の証言、そしてこれを裏付ける証拠の入手、そしてなによりも上司と部下との信頼関係、こうやって書いて気が付いたのですが、本書では3人の記者の姿を通して、本来の検察庁のあるべき姿を映し出していたのではないでしょうか。これはあくまでも私の読後感想であります。ぜひ多くの方々に、本書を実際にお読みいただき、また様々な印象をお持ちいただければ、と。

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2011年3月22日 (火)

福岡魚市場株主代表訴訟判決と取締役の子会社不正調査義務

東日本大震災関連の話題が続きましたが、ひさしぶりに当ブログらしいエントリーを書かせていただきます。といいましても備忘録程度でありますが、株式会社福岡魚市場の取締役3名が、株主代表訴訟において18億円ほどの損害賠償を命ぜられたそうであります。(朝日新聞の「法と経済のジャーナル」で知りました。ちなみに西日本新聞ニュースはこちらです。恥ずかしながら、これまで全く気付いておりませんでした)すでに最高裁のHPより、判決全文が閲覧可能であります。

同社の100%子会社であるF社が「グルグル回し取引」(架空循環取引の一種)を平成11年ころから行い、不良在庫が異常に積みあがっていたにもかかわらず、親会社取締役(F社の非常勤取締役や非常勤監査役も兼務)ら3名は、十分な調査もせずに15億円ほどの貸付債権を放棄し、また新たに3億円を融資して、これも焦げ付いたため、結局同社に18億円ほどの損害が発生した、被告3名はグルグル回し取引を早期に発見していれば、このような損害は発生しなかった、というのが原告側の主張のようであります。被告側は、このような架空取引は相手方のある不正行為であるため、なかなか不正を発見することができなかった、よって善管注意義務、忠実義務違反の事実はないと反論しておりました。判決は、取締役らは従来から不良在庫の存在を認識していたこと、あるいは公認会計士より子会社の在庫について確認の必要性を指摘されていたことなどから、親会社取締役らは不正の疑惑解明のための作為義務は存在した、と認定されております。

またきちんと判決全文を読んだうえで整理をしたいと思っておりますが、子会社における不正会計問題が頻繁に発覚する昨今、親会社取締役の不正調査に関する法的責任を論じた貴重な判決ではないかと思われます(まだ、ざっと目を通しただけですが)。具体的には公認会計士から「不正在庫」の調査等を指摘された時点(まさにこれが子会社不正に関する「異常な兆候」への取締役のアクセスの時点)以降の親会社取締役の作為義務(善管注意義務違反の根拠)の内容が注目されるところです。ライブドア株主損害賠償請求訴訟の第一審判決において、監査役の監査見逃し責任が認められる根拠も、会計士からの粉飾の疑惑を監査役が知った時点でありました。

そういえば福岡魚市場さんは、平成8年ころにも代表者の有価証券投資による多大な損害に関する取締役の法的責任を問う裁判がありました。しかしこのたびの代表訴訟では、取締役らが不正に関与していたから、というのではなく、監視義務を怠っていた、ということで損害賠償が認められておりますので、(同社は上場会社ではございませんが)おそらく今後の子会社調査に関する損害賠償請求訴訟等にも影響を及ぼす可能性がありそうです。

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2011年3月18日 (金)

関西企業のBCP(事業継続計画)は役に立っているのか?

いよいよ「買占め」が我が街、堺市にも到来(お米がない・・・)。

(3月20日追記:買占めなのか、物資輸送が不十分なのか、ちょっと判明しづらくなっていますね)

そういえば2年ほど前、パンデミック対策として、関西の大手企業さんはどこもBCP(事業継続計画)の推進に躍起になっていたように記憶しております(関連エントリーはこちら)。当時は大手損保系のリスク・コンサルティング会社さんのご指導のもと、各企業において地震対策のBCPも積極的に策定されておりましたが、果たしてこのたび、これが大手企業さんにとって役立っているのでしょうか。

昨日、本日と、数社のBCP担当役員の方々とお話しする機会がございました。会社の利益を越えて、我が国の国力維持のためのCSRとして推進している、とのお話は共通しておりましたが、実際のところでは想定外の事象が発生しているため、効果のほどは「?」といったところではないか、との印象を持ちました。

たしかに社員の安否確認、生産拠点の分散化、サプライチェーンによるBCP推進、輸送ルートの分散化あたりは奏功している企業さんもあるようです。しかし自社で生産できても、停電によって部品製造会社の製造がストップしている、また輸送ルートを確保できたとしても、そこに走らせるトラックのガソリンが調達できない、といった想定外の事象に直面し、結局のところ生産がストップしている企業は多いのではないでしょうか。

このたびの震災は、関西企業には無縁のようにお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、実情はかなり厳しいようであります。計画停電や原発事故からは、たしかに距離がありますが、自粛ムードと買占め騒動、そしてなによりも経済の停滞は確実に街中に波及してきております。(ちなみに関西電力さんの場合、原子力への依存度は48%ということですから、東電さんのような事態が発生した場合、もっとスゴイことになるのでは?などと危惧しております。)さて、皆様方の会社におかれましては、BCPは今のところ、お役に立っているのでしょうか?

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2011年3月15日 (火)

関西在住の弁護士の「つぶやき・・・・・」

まだ余震や原発事故による二次災害、三次災害のおそれもあるため、あまり震災関係の話題には触れたくはないのでありますが、気絶しそうな株価暴落を目の当たりにしますと、こんな私でも何かのお役に立てないかと、逡巡しております。

Dscn1035_320 しかし、親族への物資輸送と赤十字募金くらいしか思い当らず、思案にくれております。思い起こせば、阪神淡路の震災で、私が担当しておりました「罹災借地借家法」関連の最後の仕事が終わったのが平成17年、つまり震災後10年経過した時でした。こういった日本の復興のために法律家がお役に立てるとすれば、もうすこし先になるのでしょうか。おそらく「青空法律相談」が開始され、特別法による土地整理、紛争解決が図られるときが来るでしょうが、そういったときに住民の紛争をできるだけ早期に解決し、復興へ一致団結して邁進できるよう、専門家が支援することが必要だと思います。左の写真は近畿弁護士連合会、大阪弁護士会等が平成7年当時発行した「地震に伴う法律問題Q&A」であります(右は商事法務さんが平成7年当時に出版されたもの)。とくに左のQ&Aは罹災借地借家法を勉強するため、当時ボロボロになるまで使いました。もちろん今回の震災でもお役に立つものであればどなたかに寄贈させていただく予定です。

ps なお福岡の弁護士の方から以下のとおりコメントをいただきましたので、引用させていただきます。(なるほど、15年も経過しますと、情報から疎くなってしまいました)

「地震に伴う法律問題Q&A」はその後の地震や立法を織り込んで「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」に改訂されたと記憶しています。
 後者が新しいですけれども、すでにAMAZONでは売り切れになっています。
 編集者の関弁連は緊急避難として著作財産権の行使を停止して、弁護士に限定して全ページコピーを許容するか、もしくは、至急出版社に増刷申し入れを講じるべきだと思います。」(引用終わり)

Dscn1033_320 阪神淡路大震災後の紛争処理は、多くの大阪弁護士会、兵庫県弁護士会の会員がまじめに取り組みました。法律相談、調停、和解そして判決と、そのときのノウハウはきっと、今後の復興にも役立つものと思います。早期復興に向けて、法律面でサポートする・・・そういった要請があるまで、分相応に当時の資料などを整理して静かに見守ることが、いま自分に必要とされる役割なのではないか、と。

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2011年3月11日 (金)

法定監査を受けていない大会社と会社法上の内部統制

以前のエントリー(例外的取扱いが招く企業不祥事の教訓)でも触れておりますが、バイオテクノロジー企業である林原社の不正会計問題で、同社が会計監査人の法定監査(会社法監査)を受けていないことをメインバンクさんが確認していなかったことが話題になっておりました。おそらくこの件を契機として、日本公認会計士協会さんが調査されたようですが、同協会は、会社法で監査が義務付けられている大会社のうち、約500社が法定監査を受けていない可能性がある、との調査結果を公表されたようであります(産経ニュースはこちら)。ご承知のとおり、会社法では資本金5億円以上または負債200億円以上の会社(いわゆる大会社)については、たとえ非公開会社であっても会計監査人(監査法人や公認会計士)の監査を受けなければならない、とされております(会社法328条)。上記の調査は国税庁の資料と協会の内部資料を突き合わせて算出されたものでありますから、負債200億円以上、という点についてはきちんと判明はされていないものと思います。したがいまして、9日の朝日新聞で報じられていたように、1000社程度は法定監査を受けていない大会社があるかもしれません。

会社法は(大会社の場合)会計監査人を設置しなければならない、と規定しているので、選任せずにそのまま放置すれば法令違反となり100万円以下の過料という罰則が適用されます(会計監査人の選任懈怠-会社法976条22号)。たしかに「制裁が科されるとしても過料100万円以下なんだから、いろいろと指摘されるまで監査人は置かないでおこう」と考えておられる会社もあると思います。しかし会社法上の大会社は、会計監査人の設置義務だけではなく、内部統制の基本方針を決定する義務があります(たとえば取締役会設置会社の場合、会社法362条5項)。これは事業報告へ記載しなければならない事項ですから、会計監査人を置かずに放置している大会社の場合、事業報告への「基本方針」の不記載もしくは虚偽記載も問題となるのではないかと(会社法976条7号)。また代表者および業務担当取締役には、おそらく計算関係書類の適正性を確保するための内部統制構築義務も存在しているものと思われます。会計監査人による監査を受ける体制を具備していない、というのは、この計算関係書類の適正性を確保するための基本的な体制整備に不備があるものと考えられますので、これは各取締役、監査役の任務懈怠になる可能性も高いのではないかと考えます。とりわけ子会社たる大会社にこのような問題が残っているとすれば、親会社の役員についても内部統制構築義務違反が問われるケースも出てくると思いますので要注意であります。

日本公認会計士協会さんがこういった調査結果を公表する背景には、法定監査の要請が広がることで、会計士の職域が拡大し、ひいては業務対策になることが挙げられるものかと思います。しかしこれまで会社法監査を行ってこなかった企業の監査は、ちょっとコワイ気もいたします。なかには、銀行の財務制限条項にひっかからないために、もしくは官公庁の指名からはずされないために、相当に無理して計算書類を作成している会社もあるのではないかと。確信犯的に会計監査人を置かなかった企業や、そもそもコンプライアンス意識が乏しくて、会計監査が必要だとは思っていなかった、という企業もあろうかと。そう考えますと、これまで会社法監査が必要であるにもかかわらず、これを長い間放置していた大会社の会計監査を行うことはずいぶん勇気がいるのではないでしょうか。実際、会社法監査ではありませんが、法定監査において会計監査人の監査見逃し責任が認められた裁判例も過去にありますし(たとえば日本コッパーズ事件第一審、東北文化学園大学事件地裁、高裁判決等)、監査人の法的責任は否定されたものの、キムラヤ粉飾事件判決なども監査人の注意義務違反の有無が大きな争点となりましたので、会計士としての職業的懐疑心をもって臨まなければ監査リスクが高いと思いますね。大会社といいましても、先日の林原社のように、「会計監査人が登記事項だとは知らなかった」というのが現実であるならば、金融機関の決算書に対する審査体制にも疑問が出てきますし、会計士さんたちもあまりこれに依拠できないように思います。

ところで、キムラヤ事件では銀行から派遣された会計士とキムラヤ経営陣とのバトルがありましたが、有価証券報告書提出会社以外の大会社において、会計監査が義務付けられているとしても、会計士さんはどういった切り札をもって被監査対象会社に対する優越的地位を確保するのでしょうかね?上場会社の場合には意見を表明できない、とすれば監理対象になってしまいますし、財務報告が義務化されている会社であれば有価証券報告書を提出できない、という事態にも陥ってしまうことになります。しかし会社法上の大会社については、そのような「脅し」が効かないのでしょうか?監査役が会計監査人を解任する、といった事案が昨年2件ほどありましたので、ちょっと気になりましたがよくわかりません。(すいません、勉強不足でこのあたりはあまり自信がないもので。。。しかしそう考えますと、なおさら会計監査は結構きつい作業になるのではないかと思うのでありますが)

会計士協会さんは、こういった問題は不正経理などにもつながる可能性があるため、対策について関係省庁と協議する予定とのことであります。こういった事例を通じて、金商法上の内部統制報告制度だけでなく、会社法上の財務報告内部統制(上場会社ではないので、計算書類等内部統制といったほうが適切か?)についても関心が高まればいいですね。

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2011年3月 9日 (水)

性悪説で考える「インサイダーは蜜の味」

金融審議会が1年3か月ぶりに再開され、インサイダー取引の一部見直しが議論されているそうであります(時事通信ニュースはこちら)。純粋持株会社の資本政策が過度に規制されないよう「重要事実」の要件該当性を単体ではなく、連結ベースで判断する、といったことも対象となる、とのこと。

「インサイダー取引規制」と一口にいいますが、コンプライアンスの視点からいいますと、カテゴリーが3つに分かれるのではないでしょうか。そもそもインサイダー規制は境界線がはっきりしないものですし、刑事罰もあれば課徴金規制もある世界。そこで、ひとつめは「絶対にインサイダーに踏み込まないセーフゾーンはどこか?」を探る一群。「うっかりインサイダーはもうこりごり」ということで、従業員持株会における運用事例や先の純粋持株会社の例もそうですが、適用除外や軽微基準、ガイドラインの策定などによってあらかじめ法令順守のための線引きを専門家集団によってルール化する作業ですね。当局の方、学者、実務家など金商法に詳しい著名な方々の登場が期待される場面であります。ソフトローが活躍する場面ともいえそうです。

そしてもうひとつは「絶対にアウトになってしまうゾーンはどこか?」を探る一群。まさにインサイダーの確信犯的企業(もしくはその代表者)と規制当局とのせめぎ合いの世界。最近は規制当局も(4日ほど前に春日電機元代表者の方が再逮捕された例に代表されるように)証券市場の健全性確保のため、不公正ファイナンスや粉飾事件など、ほかの不正行為と「合わせ技」で摘発する例が増えているように思います。課徴金処分事案として摘発例が急増し、またバスケット条項(包括的規制条項)を適用する事例も出てきていることから、インサイダー規制の使い勝手がずいぶんと良くなっております。そこで「合わせ技」による規制の旨味が出てきている場面であります。村上ファンド事件など、犯則事件に発展するケースが多いので、インサイダー規制の限界がみえてくる解釈論なども展開されます。ここはハードローが活躍する場面かも。

最後に残るのが「蜜の味インサイダー」。組織ぐるみで一攫千金を狙う確信犯的なインサイダーではなく、ちょっとしたお小遣い稼ぎを目的とするインサイダー取引。圧倒的に数の上ではこれが多いことは間違いないですよね。規制当局も、すべてを捕捉することは不可能ですから、常に世間に警鐘を鳴らすべく、この手の事例の摘発を続ける必要がある、というものであります。私的には、この「蜜の味インサイダー」が一番オモシロイように感じています。

なぜオモシロイかといいますと、「インサイダー取引防止体制の構築」といいましても、このカテゴリーに登場する人たちには通用しないのではないか(笑)と思えるのであります。先日も、上場会社の元取締役の方が「うちの会社の株さあ、NTTに買われちゃうんだよね。ママ今のうちにウチの会社の株、買ってみなよ。前から欲しがってたヴィトンのバック持って海外旅行くらい行けちゃうよ」みたいなことをスナックのママさんに言ってしまったことで、当該ママさんは76万円の課徴金処分になってしまいました(注 会話の後半部分は私の創作です)。天下の証券取引等監視委員会が、まさかスナックのママのお小遣い稼ぎを調査対象としている、といったことはおそらく世間一般の人たちは予想もしていないでしょうし、「これくらいの金額で新聞ネタになるはずがない」と思っておられるのが通常の感覚ではないかと。

もちろん元取締役の方が注意すべきである、と教科書的には言えそうですが、不正調査を行う者の立場からすると、なんぼでも「正当化根拠」はみつかります。前も申し上げましたとおり、規制当局は「上場会社は一枚岩」ということを前提に「インサイダー防止体制を整備してください」と言われますが、TOBやMBO、事業提携など、M&Aに関する経営判断が行われる場面では、賛否を巡って派閥争いや労使紛争が起こります。儲け話ではなく、覇権争いのなかでインサイダー情報が駆け巡るわけでして、「俺の話で儲けるやつがいても、それどころじゃない」といったところがホンネだと思います。

また、取引先と現場担当者は「貸し借り」の世界であります。「あのね、ここだけの話だけどさ」ということで、インサイダー情報を取引先や同業他社に教えるのは、借りを返したり、貸しを作ったりするなかでの一コマであります。お金がないから、とりあえずウチの会社のおいしい情報で・・・という話はよく聞くところでありますし、「貸し借り」の世界が、一般的な内部統制の構築で防止できるか、というのはちょっと期待薄ではないかと。さらに、ある上場会社と販売代理店契約を締結している会社の社員など、上場会社の民事再生の噂を同業他社から聞きつけて、「債権回収できなくなるんだから、インサイダー情報で回収しておかないと」と思うのも不思議ではないかもしれません。ひょっとしたらこれはインサイダーかもしれないけれども、自分にはそれ以上に守るべき価値があるのだから・・・という、このあたりの勝手な正当化根拠が人間模様のなかで垣間見える。このあたりがとてもインサイダー規制の難しいところではないかと思うのであります。

さて、それでは「蜜の味インサイダー」をどのように防止すべきなのか、上場会社とは無関係な方々が摘発されても、そんなことは知ったことではない、ともいえそうでありますが、今の時代「インサイダー事案を発生させたのは情報管理がまずかったからでは」と言われるのがオチであります。ここ10日ほどの京大入試問題漏えい事件の様子をみても、これは明らかであります(同情すべき受験生だった→京大の監督責任、被害届提出への非難)。たしかに完全な防止策はむずかしいかもしれませんが、情報管理のミスを指摘されないためにはどうすべきか?そのあたりをまじめに考えてみたいと思います。(これは後日に続く・・・・)

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2011年3月 7日 (月)

決算書の50%は思い込みでできている(東洋経済新報社)

4492602054 さて本日はもう一冊、本のご紹介。当ブログにお越しの皆さま方にはお勧めといいますか、必読の一冊だと思います。さきほどご紹介した「架空循環取引」が書店に並んでいるのを確認に行った折、目にとまったのですが、思わず衝動買いをしてしまい、夢中になって半日で読んでしまいました。

決算書の50%は思い込みでできている(公認会計士 村井直志著 東洋経済新報社 1500円税別)

本のデザインはご覧の通り、ホンワカとしておりますが、中身は「会計トラップ(会計の罠)」をメインタイトルとしたもので、これがまた非常に会計素人にもわかりやすく「見積もりの罠」が解説されております。まさに会計は摩訶不思議な世界であります。以前に「会計士の先生方のご著書はホンネや私見があまり書かれてなくて、イマイチかも・・・」といった印象を抱いたことが何度かありましたが(もちろんそうでないご著書もありましたけど・・・)、本書では具体的な事例に対する村井先生の推論や私見がふんだんに記述されており、「摩訶不思議な部分」を堪能でき、これが非常におもしろい!著者はおそらくサービス精神旺盛な方なのではないか、と勝手に想像しております。(某事件の登場人物を存じ上げている身からしますと、よくぞここまで書いてくれた、と思えるところも出てまいります)

当ブログで過去に取り上げた事例が出てくる、出てくる!(*^_^*)TBS・楽天、りそな国有化、NOVA、IHI、アーバンコーポレーション、そして非上場子会社の株式評価が問題とされた三洋電機社の「三洋減損ルール」をテーマとした「見積もりの罠」など、なるほど会計士の方からみたらこうなるのか・・・と感嘆しきりでございます。「引当金」や「減損会計」に関する会計トラップについてもやさしく解説されており、とくに真柄建設社の合法的架空資産(という語彙が正しいのかどうかは不明ですが・・・)に関する事例などを読みますと、なるほどこういった理由でMBOに走る会社もあるのではないか・・・と想像したりしておりました。(と、考えながら読み進めておりますと、最後のほうで会計トラップから脱出するための方策として、カルチャーコンビニエンスクラブ社の事例などを挙げて、MBOが紹介されておりました-笑)

もちろん、素人が読んでもわかりやすい、ということは、会計専門家の方々には若干物足りなかったり、解説のデフォルメが気になったりするのかもしれませんが、会計はあくまでも社会科学であり、主観的判断と客観的判断が半分ずつで出来ている・・・といったご解説は、私が以前からモヤモヤっと抱いていた会計観に非常に近いものでして、当ブログ管理人としましては共感度の高い本であります。(今後のブログネタにも参考にさせていただきます)ご興味のあります方は、ぜひご一読ください。

PS 「会計トラップ」という言葉は日常的に使われているのでしょうかね?あまり関係ありませんが、つい最近、(懇親会の席上ですが)某証券取引所の女性審査官の方から「先生、ハニートラップに注意してくださいネ!」と言われたことを思い出しました(笑)。ハニートラップかぁ・・・ひさしぶりに心地よい響きの言葉を耳にしました(^^;;

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架空循環取引-法務・会計・税務の実務対応

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(3月7日午前 追記あります)

昨年8月27日にリリースされましたメルシャン株式会社の不適切取引に関する第三者委員会報告書は、会計不正を早期に発見できなかった原因が詳述されており、今後の不正取引の未然防止のためにはたいへん有益なものだと思います。この報告書では、同社熊本工場における架空循環取引を追い詰める監査部長と常勤監査役の姿が記されておりますが、残念ながら架空取引のスキームに関する知見に乏しかったために、熊本工場責任者を追いきれなかったこと(同報告書18ページ)、そして不正行為の確証が得られなかったために取締役会で報告ができなかったこと(同42ページ)を重大な問題として指摘されております。

不正調査に携わる者の一人として、架空循環取引は、まことに発見することは困難であり、また民事・刑事責任追及のための確証を得ることも容易ではありません。したがって、一般企業の担当者や監査責任者が確証をもって架空取引を発見することもまた非常に困難を伴うものであります。しかしながら、架空取引の「異常な兆候」を知ること、またその兆候を合理的に疑わせるに足るだけの証拠にアクセスすることは可能なのでありまして、これはまさに、上で述べたとおり、他社事例などを丹念に検証し、取引の発端となった「機会」「動機・プレッシャーの存在」「正当化根拠の有無」などを推測することも有効な手段であります。また、こういった作業の結果、たとえ確証がなくても(異常な兆候を示す合理的な証拠さえあれば)担当者が「取締役会に報告する勇気」が付与されることにも大きな意義がございます(実はこれが一番大きい、と私自身は考えております)。

このような架空循環取引の未然防止、早期発見、そして事後処理の実務対応に向けて、CFE(公認不正検査士)の方々による「架空循環取引-法務・会計・税務の実務対応」(霞晴久 中西和幸 米澤勝 著 清文社 3,200円税別)が出版され、書店に並び始めました(大阪でも旭屋本店で確認しております)。それぞれ会計、法務、税務の専門家の方々による共著でありまして、皆様CFEの資格保有者であるとともに、東京の「不正早期発見研究会」の中心メンバーの方々であります。霞会計士はジーエスユアサ社の不正会計事件で第三者委員を務めた経験を有し、中西弁護士は商事法務の研修等でおなじみの企業法務を専門とする方であり、そして米澤税理士はIT関連企業ご出身、日本における不正調査業務の第一人者といっても過言ではございません。とくに後半部分は架空循環取引の原因究明や再発防止策の検討にあたり、事例検証から得られた知見が披露されており、ぜひ経理・総務・法務・内部監査等の方々にはお読みいただきたい一冊であります。

なお、僭越ながら私も巻頭で「推薦の言葉」を書かせていただいております。またお読みになった方々には忌憚のないご意見をお寄せいただければと。

追記:本日の日経朝刊法務インサイドでは偶然にも「特命会計士活躍-不祥事を調査・解明」なる記事が掲載されております。このなかでインタビュー記事に応じておられる会計士の方にもCFE資格をお持ちの方がいらっしゃいます。記事にありますように、特命会計士の活躍は「有事」になってからでないとむずかしいのが現実でありまして、「有事」になるまえの「気づき」こそ企業の「特命」ではないか、と。

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2011年3月 5日 (土)

京大ネット投稿事件から考える企業コンプライアンスへの教訓

それにしましても、この1週間の「京大入試漏洩事件」の展開は早かったですね。前のエントリーへのコメントでも書きましたが、私はそもそも京都大学がどのようにして入試問題漏えいの事実を知ったのか、という事実についてとても興味を抱きました。

5日未明の産経新聞ニュースを読んで、「なるほど」と思いました。(産経新聞ニュースはこちらです)どうも京大新聞の問題文検索が発端のような感じですね。この検索作業のなかで、関係者のどなたかが大学当局へ匿名通報し、その後ツイッターで火が付いた、という経過だったのでしょうね。ツイッターで話題になっている以上、京大としても(内部者によるものか、受験生によるものなのか確認作業を行う間もなく)早期に公表せざるをえなかったのではないか、と。私立の大学が合格発表後まで(また、人から指摘されるまで)「問題漏えい」に気がつかなかったにもかかわらず、なにゆえ京大だけが試験終了直後に気がついたのだろうか・・・・・と不思議に思っておりましたが、この「京大新聞社」の存在が大きかったのではないでしょうか。しかし、そう考えますと、グーグルやヤフーなど、検索エンジンの存在意義は大きいですね。問題漏えいの事実がこうやって早期に発見できてしまうのも、こういった検索エンジンの効果だと思います。

被疑者が逮捕され、普通の受験生の単独行為によるものだった、ということになると、今度は大学側への監督責任を問うマスコミや世間の声が大きくなりました。ここまで大きな騒ぎにして「被害者ヅラ」するな、という声が寄せられている、とのこと。しかし、上記のような入試問題漏えいの事実を大学側が知って公表に至った経過からするならば、京大は当初「内部者による試験前の段階における情報漏えい」を相当に疑っていたのではないでしょうかね。少なくとも受験生によるカンニング行為によるものなのか、試験準備段階による内部者の情報漏えい行為によるものなのか、そのあたりは不明だったのではないかと。現に毎日新聞の記者は、当初京都大学側に対して「内部者の犯行ではないか」と尋ねています。(大学側はこれを否定しておりましたが、明確に調査をしたわけではないと思われます)

また、かりにマスコミが当初予想していたとおりの展開になっていた場合、つまり入試問題の漏えいは、ひとりの受験生による単独行為ではなく、複数人の関与する組織的な不正であり、しかも愉快犯であったとしたら、「逮捕は行き過ぎ」「大学側の監督責任はどうなのか」といった批判は現在されていたのでしょうか。19歳の浪人生の単独行為、しかもセンター試験の成績が芳しくなく、「合格したかった」という動機、そして逮捕後の素直な供述、といった報道で、ずいぶんと不正行為者に対する処罰感情が、国民こぞって萎えてしまったことに起因していないでしょうか(いわゆる、後出しじゃんけんで大学側を批判していないでしょうか)。

このあたりを検証することは、企業の社会的信用の毀損という「企業コンプライアンス」の本質を考えるにあたって、たいへん教訓となるものだと思いますが。もし京大新聞社による問題文検索の作業がなかったならば、果たして今回の騒動はなかったのではないか、他の3大学は、本当に指摘を受けるまで「入試問題の漏えい」の事実を知らなかったのだろうか、など色々と疑問は残っておりますが。。。

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2011年3月 4日 (金)

組織的資金流出事件と社外取締役、監査役らの法的責任

京大入試漏洩事件と偽計業務妨害罪に関するエントリーには多数のアクセスが続いている状況でございますが、私とは反対の有益なご意見もコメントでいただいておりますので、どうかそちらもご参照くださいませ。

さて、市場関係者の方々から、最近たいへんご関心の高い「企業不祥事発生時における第三者委員会制度」でございますが、3月1日fonfun社(JASDAQ)の不正会計事件に関する第三者委員会報告書(要旨)が公表され、同日、大証より監理銘柄に指定されました。(同2日には監査役会の発案によって経営監視委員会が発足する旨のリリースが出されております。)この第三者調査委員会の調査目的は、主に代表取締役を含む、経営陣による不正行為の実態解明および経営陣の法的責任の有無にあるようです。

第三者調査委員会の調査結果のお知らせ(3月1日付)

「経営監視委員会」発足のお知らせ(3月2日付)

fonfun社の経営状況や大株主との関係などは、とくに存じ上げているわけではございませんし、調査委員会の委員の皆様は、たいへんご高名な方々ばかりでありますので、とても私などが偉そうに意見を述べられる立場にはないことは承知のうえでありますが、素朴な疑問が生じましたので、あえて一言だけ読後の感想を述べさせていただきます。

当該調査委員会報告書では、売上約150億の上場会社において、6億ほどの資産が流出しており、社長を含めた3名の社内取締役が不正に加担していることが認定され、これを「組織ぐるみの不正行為」と断定しています。また原因として、同社の内部統制の欠如についても指摘があります。しかしながら同社の社外取締役、監査役らについてはその責任を追及することは困難である、と結論つけておられます。また会計監査人についても法的責任を追及することは困難とのことであります。

責任追及が困難とされる理由について、16名に及ぶヒアリングの結果と思われますので、現時点ではとくに意見を述べるつもりはございませんが、もし社外取締役や監査役の方々が社内取締役らの組織ぐるみの不正を見抜けなかったことについて「無理もない」とのことであれば、それではなぜ社外取締役や監査役の方々に内部統制構築義務違反や、内部統制に関する監査懈怠の責任追及はできないのでしょうか?

たとえ1億円以上の経費支出であっても、それは代表取締役の独断で執行されていたのが常態であり取締役会へ上程されることはなかったとのことでありますが、それ自体が上場会社として異常な状況にあり、とりわけ財務報告の信頼性確保のためのシステムの整備自体に明らかに問題があったのではないかと思うのでありますが、この点について社外取締役や監査役の方々が、これまで何等の指摘もしておられないとすれば、これは法的責任とは無関係なのでしょうか?

もし結論的に、責任追及が困難であるのならば、この点についての詳細な説明が必要であると考えます。そのような説明がないために、その後の「再発防止策」の内容も、なにゆえこのような防止策が効果的なのか、まったく記載内容からは理解できないと思われます。(本当は報告書全文を読むと理解でき、これは要旨なので理解できない、ということも考えられるのでありますが。)

名目的監査役に対して損害賠償責任が認められた判決例などもありますし、今回の事例はすでに会社法や金商法で内部統制に関する厳しい規制が施行された後の不正行為に関するものでありますので、せめて上記のあたりについての解説が最低限度必要なのではないでしょうか。たいへん影響力のある委員の方々が、こういった組織ぐるみの不正行為が発生しているにもかかわらず、監査・監督を行う立場の方々に責任追及が困難、と認定することは同種事案への先例的な意味合いが強いものと思います。ぜひとも、このあたりをどの程度委員の方々が考慮されたのか、是非知りたいところであります。

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